著者
田中創 西上智彦 山下浩史 今井亮太 吉本隆昌 牛田享宏
雑誌
日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会
巻号頁・発行日
2020-11-20

末梢器官から脊髄後角へ伝達された痛みの情報は,脳の広範な領域へ伝えられる.その中でも,体性感覚野は痛みの強度,部位,性質を同定する役割を担っている.特に,体性感覚野は痛みの部位を同定する機能を果たしているため,痛みの慢性化により体性感覚野の体部位再現が不明瞭になると,「どこが痛いのか正確に分からない」,「痛みのある部分が実際よりも腫れたように感じる」という訴えが聞かれることがある(Maihofner, 2010).このように,末梢からの侵害刺激によって身体知覚異常が生じることが明らかにされており,慢性疼痛患者の評価において身体知覚は重要な概念である.慢性疼痛患者の身体知覚を客観的に評価する指標には,2点識別覚(Two point discrimination: TPD)がある.TPDは皮膚上の2点を同時に刺激し,2点と感じられる最小の距離を識別する感覚であり,体性感覚野や下頭頂葉の可塑性を反映する評価とされている(Flor, 2000, Akatsuka, 2008).慢性腰痛症例において,腰部の輪郭が拡大していると感じる群ではTPDが有意に低下することを明らかにした(Nishigami, 2015).また,成人脳性麻痺者を対象とした調査において,見かけ上の姿勢異常よりも主観的な身体知覚やTPDの低下が慢性腰痛に関与することを明らかにした(Yamashita, Nishigami, 2019).さらに,我々は超音波を用いて変形性膝関節症(膝OA)患者の膝腫脹を評価し,自覚的腫脹との乖離がある膝OA患者では,安静時痛・運動時痛が強く,TPDの低下を認めることを明らかにした.このように,身体知覚が痛みに影響する一方で,痛みの慢性化には運動恐怖が影響する.運動恐怖とは,痛みによる恐怖心から行動を回避することであり,例えば慢性腰痛患者が腰を曲げることを怖いと感じることなどがそれに当たる.このような運動恐怖を評価する指標としては,これまでFear Avoidance Beliefs QuestionnaireやTampa Scale for Kinesiophobiaが用いられてきた.しかし,これらの評価は自記式質問紙であり,痛みに関連した運動恐怖を客観化する指標にはなり得ない.そのような背景から,近年では痛みに関連した運動恐怖を運動学的異常として捉える運動躊躇という概念が提唱され,運動方向を切り変える時間(Reciprocal Innervation Time: RIT)として表される(Imai, 2018).橈骨遠位端骨折術後患者において,術後早期の運動躊躇が1ヵ月後の運動機能に悪影響を及ぼすことが明らかにされている(Imai, 2020).また,我々はSingle hop test時に運動恐怖を感じている前十字靭帯再建術後患者では,膝屈伸運動中のRITが遅延し,それには位置覚の異常が影響することを調査している.これらより,痛みや身体機能には身体知覚や運動恐怖が密接に関与しており,それらを客観的に定量化することが重要である.今後は,定量化した因子に対して介入することで,慢性疼痛の予防や身体機能の改善につなげていくことが課題である.
著者
吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.93-105, 1987-07-20 (Released:2017-08-10)

本邦のホソバミドリヨトウは永らくヒマラヤのEuplexia literata(MOORE)に同定されてきたが,最近になって私は,これが真のliterataとは異なる種であること,またその所属もEuplexidia HAMPSON,1896に移さねばならないことに気付いた,本報では,我国のホソバミドリヨトウをはじめとして本属の4新種を記載したほか,従来Trachea-Euplexia群に置かれていた2種をこの属に移し,まタイ北部からliterataの1新亜種を記載した.本文にも記したように大陸の一部の種について同定上の問題が残っており,それらでは将来学名の変更が必要になるかもしれない.本報で扱った7種1亜種は以下の通り.Euplexidia noctuiformis HAMPSON, 1896[アッサム,タイ北部(未記録)] Euplexidia exotica sp. n.[台湾] 中部の阿里山山麓,十字路で得た1♂しか見ていない. Euplexidia pallidivirens sp.n.[台湾] 日本のホソバミドリヨトウと外観ではほとんど区別できない,台湾にも次種を産するので,同定には注意を要する. Euplexidia angusta sp. n.ホソバミドリヨトウ[日本,台湾] 本属中我国に産するものは本種である.前種よりもやや色調が濃く,前翅亜外縁の白色部がやや目立つほか,前翅も幾分幅狭く感ぜられるが,正確な同定には交尾器の検査が必要である.前3種に近縁であるが,本種では♂交尾器uncusの背面に剛毛の東を持たず,harpeも太いので,慣れれば解剖しなくても外部からの検鏡で同定できる.台湾では前種と混棲するほか,中国大陸にも分布するものと思われ,陳(1982)が図示した標本は本種のように判断される.Euplexidia literata literata(MOORE, 1882), comb. n.[シッキム,ネパールEuplexidia literata thailandica ssp. n.[タイ北部]Euplexidia illiterata sp. n.[ネパール]これら3つのタクサにはなお未解決の問題が残っている.すなわち,MOORE(1882)は外観のよく似た2種,Dianthoecia literataとD. venosaをともにシッキムから記載しており,これらの同定にはタイプとの比較が必要であるが,今回は成し得なかった.本報ではネパールからタイにかけて産するものをliterataに,またネパールで秋に得られているものを新種とし,venosaについては触れなかった.E. benecripta (PROUT,1928), stat. & comb. n.[スマトラ]本種はスマトラからliterataの亜種として記載されたものである。♂交尾器の構造は本属中特異であるが,♂交尾器vesicaや,♀交尾器の形状からEuplexidiaに属するものとした.以上のほか,ここでは扱わなかったが,ボルネオのTrachea albiguttata(WARREN, 1912)もHOLLOWAY(1976)に図示された♂交尾器の形からみて,本属に連なるものと思われる。しかし,BOURSIN(1964)によってネパールから2頭の♀で書かれた? Euplexidia violascensについては,交尾器も図示されず,また実見もしていないので除外した.
著者
阪本 州弘 若林 一郎 吉本 佐雅子 増井 秀久 勝野 眞吾
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.635-638, 1991
被引用文献数
4

柔道や空手など古武道では冬期に川原で寒稽古を行い筋力の増強に努めている。運動と寒冷刺激がテストステロンおよび他のホルモンレベルにいかに影響するかを19才の男子,32名について検討した。<br>自転車エルゴメータによる運動負荷(90watt)によりテストステロン(TS)濃度は20.8%上昇したが,黄体形成ホルモン(LH)はほとんど上昇しなかった。ノルアドレナリン(NA)のレベルは140.0%有意に上昇した。一方,冷水負荷ではTSは10.0%減少し,LHは22.1%上昇し,NAは23.8%減少した。個人で負荷によるホルモンレベルの変化量の関連性をみると運動負荷ではLHとTSとはr=0.40,またTSとNAとはr=0.48の有意の相関がある。冷水負荷ではTSとLHとではr=0.40,TSとNAとではr=0.43であった。<br>これらの結果は,運動はLHとNAの血清濃度の上昇によりTS濃度を上昇させる。しかし冷水負荷ではこの傾向が見出せなかった。
著者
塩澤 佑一朗 小板谷 貴典 向井 孝三 吉本 真也 吉信 淳
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学学術講演会要旨集
巻号頁・発行日
vol.33, 2013

銅表面におけるギ酸の分解反応は、二酸化炭素によるメタノール合成の素過程と関連しており重要な反応系である。本研究では、Cu(111)においてギ酸の解離によって生成したフォルメートを時間分解赤外反射吸収分光(TR-IRAS)を用いて研究した。測定結果から、ギ酸分子からモノデンテートフォルメートを経てバイデンテートフォルメートに至る配向変化のキネティクスが明らかになった。
著者
吉本英一著
出版者
桑文社
巻号頁・発行日
1939
著者
川井 祐美子 吉本 真純 坂田 佳成 天野 喜崇 金子 貴俊 宮本 梓
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-058, 2020 (Released:2020-01-01)

【背景】先行研究において,足関節背屈運動に伴い遠位脛腓関節(以下,DTFJ)が離開することや足関節内反捻挫による不安定性がDTFJの離開と関係すると報告されているが,足関節背屈に伴うDTFJの離開距離については明らかになっていない.本研究の目的は,足関節の前方不安定性がDTFJ離開距離に与える影響を明らかにすることである.【方法】対象者は大学生30名(左右合計60肢)とした.評価項目は,足関節背屈可動域,背屈0°のDTFJ離開距離,最大背屈位のDTFJ離開距離,前方引き出しテスト(以下,ADT)とした.DTFJ離開距離の測定は超音波断層撮影装置(TOSHIBA社製Nemio XG SSA-580A)を使用した.計測後,最大背屈離開距離と0°離開距離の差(以下,開大距離)を算出した.統計処理は足関節背屈0°のDTFJ離開距離および最大背屈位のDTFJ離開距離と足関節背屈可動域との関係性についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】所属施設の倫理委員会にて承認を得た.参加者に十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】ADTは陰性48脚(以下,陽性群),陽性12脚(以下,陰性群)であった.陽性群,陰性群ともに背屈0°離開距離と開大距離の間に有意な負の相関を認めた(陰性群:r=-.34.p<.05,陽性群:r=-.73,p<.05).陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めた(陰性群:r=.47,p<.05)が,陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に相関を認めなかった.また両群とも開大距離と背屈可動域の間に有意な相関を認めなかった.【考察】陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めたが陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な相関を認めなかった.この要因として足関節前方不安定性による距腿関節のマルアライメントが背屈に伴うDTFJの開大に影響していると考えられる.よって陽性群においてDTFJ開大制限が生じていること示唆された.
著者
増田 啓子 東 珠実 鈴木 真由子 吉本 敏子 古寺 浩 田崎 裕美 村尾 勇之
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1105-1113, 2000-12-15

本研究はアメリカの家政系学部がスコッツデール会議(1993)における名称変更の決議をどのように受け止め, 家政学についてどのような問題意識をもっているかを明らかにする事を目的とする. アメリカ家政系学部の部科長を村象に1995年9月にアンケート調査を実施した結果, スコッツデール会議で採択された新しい名称「Family and Consumer Sciences(FCS)」については, 支持する回答が61.0%を占め, それに伴い学部名称をFCSに変更する動きがみられた. さらに1998年の追跡調査によると, FCSを用いている大学は20校から46校に増加し, Home Economicsは60校から28校に減少した. アメリカ家政学の名称変更をめぐる背景には, プロフェッションの認識とそのアイデンティティをめぐる様々な問題に対し, 名称変更によってその状況を改善しようとする動きが見られた.
著者
吉本 哲夫
出版者
The Surface Finishing Society of Japan
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.242-246, 1999-03-01 (Released:2009-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
7 4
著者
岡村 正嗣 森 一樹 志水 泰夫 内田 真樹 吉本 和徳 相良 亜木子 里 輝幸 中村 健
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.745-748, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
9

〔はじめに〕理学療法士が京都府DMAT(災害派遣医療チーム)に業務調整員の役割で参加した.DMATにおける理学療法士の支援活動の可能性について報告する.〔経過〕2015年に理学療法士が京都府DMAT養成研修会に参加し,隊員として登録された.同年,当院において大規模災害対応訓練を実施した.研修や訓練では,傷病者の情報を業務調整員がDMAT・災害対策本部・消防に伝達し,治療や医療搬送等が行われる場面を多く経験した.医学的知識を有した理学療法士が業務調整員を行うことにより,多職種間でのさらなる深い連携が可能であった.〔考察〕理学療法士は,重症患者の診療に関わる機会を有し,災害時に速やかに適切な対応を実施する能力があり,DMATに参画することが可能であると考えられた.
著者
山城 美琴 瀬古 千佳子 小谷 清子 和田 小依里 吉本 優子 東 あかね
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.102-111, 2020-06-01 (Released:2020-07-17)
参考文献数
34
被引用文献数
1

【目的】学童期からの循環器病予防のために,小学6年生を対象に果物摂取の増加をめざしたクラスター割付比較対照試験を実施し,果物の摂取に関する自記式質問調査(以下,果物調査)と尿中ナトリウム/カリウム(以下,尿中Na/K)比で評価すること。【方法】地域の保健,教育担当者と大学が連携して食育プログラムを企画した。2017年7月に京都府船井郡京丹波町の小学校全5校の6年生104人(介入群:男子21人,女子27人 対照群:男子31人,女子25人)を,食育を行う介入群2校(48人)と対照群3校(56人)に割り付けた。介入群には45分の食育を各校1回実施した。果物調査は,食育前後,尿中Na/K比測定は食育2か月後に実施した。【結果】食育前の介入群と対照群の比較では,男子の行動変容段階の分布以外は有意差を認めなかった。食育後の介入群と対照群の比較では,果物摂取の週4日以上が,男子31.6%,11.8%(p<0.001),女子26.9%,0.0%(p=0.018),行動変容段階の維持期が,男子20.0%,6.3%(p=0.012),女子7.7%,0.0%であった(p=0.031)。尿中Na/K比は男女とも群間差がなかった。【結論】影響評価の果物摂取頻度と行動変容段階は改善したが,成果評価の尿中Na/K比には差を認めなかった。今後,食育内容の充実が望まれる。
著者
吉本 昌郎 信田 聡
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.91-139, 2001

トドマツ水食いについて,製材途中,製材後の供試木について観察をおこなった。水食い材は節,樹脂条,入り皮など,なんらかの欠点とともに現れることが多かった。これから,石井ら17)の指摘しているように,水食い材では節,樹脂条,入り皮など,なんらかの欠点がもとで無機塩類や有機酸が集積し浸透圧が上昇することで含水率が高くなっているということが考えられた。特に,樹脂条が節に近い年輪界に多く生じ,そのような個所で水食い材の発生が顕著であった。このことから,風や雪,択伐の際に枝にかかる応力により年輪の夏材部と春材部の間に沿って破壊によるずれが生じ,そのような個所に樹脂条が形成される際に無機塩類や有機酸の集積がおこり,浸透圧が上昇するのではないかと推測した。トドマツの気乾試験体,生材試験体についてJIS Z 2101-1994に準拠した,曲げ試験を行い,曲げ強さ,曲げ比例限度,曲げヤング係数が水食いの存非により影響を受けるか否かについて調べた。結果は気乾試験体では曲げ強さ,曲げ比例限度,曲げヤング係数といった値は非水食い試験体の方が大きい傾向があったが,統計的な差は存在しなかった。生材試験体では曲げ強さ,曲げ比例限度,曲げヤング係数といった値は全体的に著しく減少しており,水食い試験体と非水食い試験体の比較では気乾試験体とは逆に,水食い試験体の方が大きい傾向があった。しかし,これにも統計的な差は存在しなかった。トドマツの気乾試験体,生材試験体についてJIS Z 2101-1994に従った,縦圧縮試験を行い縦圧縮強さが水食いの存非により影響を受けるか否かについて調べた。結果は,統計的に有意な差は存在しなかった。トドマツの気乾試験体,生材試験体についてJIS Z 2101-1994に従った,せん断試験を行いせん断強さが水食いの存非により影響を受けるか否かについて調べた。結果は,統計的に有意な差は存在しなかった。水食い材,非水食い試験体の間に強度の有意差が存在しなかったということは,水食い材であっても,乾燥に十分気をつければ,非水食い材と同様の使用が可能であることを示唆している。現在の状況では水食い材は製材用とはならず,パルプ用としてチップとなるのが普通である。一部の製材工場では水食い材からでも構造用材ではないが,建築用材として土留め板などを採材しているところもあるが,あくまで一部の工場でしかない。今回,水食い材は,非水食い材に比べ,強度の低下が存在しないか,存在したとしても小さいものであることがわかった。したがって水食い材は構造用材などとして有効な利用を目指すことができる。