著者
山本 由喜子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ネギ属野菜類のうちタマネギやネギは、共に日常的に頻繁に食される身近な食品であるが、その生理効果についてはあまり報告がない。そこで平成15年度はタマネギ、平成16年度はネギについて、血圧上昇抑制効果、抗酸化効果、体内脂質蓄積防御効果などを検討した。【平成15年度】タマネギの血圧上昇抑制効果および抗酸化効果に対する加熱の影響を、NO合成酵素阻害剤(L-NAME)誘発高圧ラットを用いて検討した。タマネギ試料は生、あるいは60分間沸騰加熱したものを凍結乾燥して粉末にしたものを用いた。その結果、L-NAME誘発高血圧ラットに対して、生タマネギの血圧上昇抑制効果は100℃60分間加熱することにより消失した。また生タマネギによる血中TBAR上昇抑制作用も加熱により見られなくなり、さらに尿中NO代謝物排泄の減少や血管NOS活性の低下抑制も見られなくなった。自然発症高血圧ラット(SHR)を用いた実験においても、生タマネギの効果は加熱調理により見られなくなることが示された。【平成16年度】正常ラットに高脂肪高蔗糖食を投与した場合の血中および肝臓脂質上昇ならびに血圧上昇に及ぼす影響を、青ネギおよび白ネギについて比較検討した。その結果、高脂肪高蔗糖食に5%青ネギを添加することにより2、4週目の血圧上昇は有意に抑制されたが、白ネギ添加では有意な抑制効果は認められなかった。血管スーパーオキシド生成能は高脂肪高蔗糖食投与で亢進し、青ネギにより抑制された。白ネギによる抑制効は弱く有意ではなかった。体内の脂質に対しては、青ネギによる影響が強く、血漿・肝臓コレステロールとTGの上昇を抑制した。白ネギでは血中コレステロールおよびTGに有意な影響は見られなかったが、肝臓におけるそれらの上昇を抑制した。これらの結果、白ネギよりも青ネギにより強い生活性を見出した。
著者
今井 知正 村田 純一 黒住 真 門脇 俊介 信原 幸弘 野矢 茂樹 宮本 久雄 山本 巍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

自然主義をめぐる哲学的思考の歴史的遺産を再検討したうえで、現代の哲学的自然主義をめぐる論争状況を直接に主題化し、根本的な論点について、各研究者がそれぞれの立場から検証作業を行なった。その結果、現代的な自然主義と反自然主義の対立を一挙に解消することはできないとしても、いくつかの重要な成果が得られた。(1)認識論的自然主義はアプリオリな知識を説明し得ないとされてきたが、暗黙的概念了解と想像による概念連結を根拠として、自然主義的立場においてもそうした知識が説明可能であるという見解が得られた。(2)色彩概念は長らく物理的説明に委ねられ哲学的アプローチに乏しかったが、現象学やウィトゲンシュタインの知見を参照することで、色彩概念が自然主義的還元を許さない多次元性をもつことが示された。(3)自然主義批判の立場はまた、哲学の基礎付け主義や強い意味での正当化要求と、極端な自然主義や懐疑論が裏腹の関係にあり、それらのいずれもが、人間の実践的世界における自由や合理性、真理や正・不正の経験の「内在性」に基づくことを示すことによっても展開できる。(4)ウィトゲンシュタインの後期哲学にも、通常の自然主義とは異なる、人間の「自然誌的」過程における実践に意味や規範の前提を求める「超越論的自然主義」が見られる。(5)日本思想史における「倫理」の位置づけ、現代世界における「公共哲学」の可能性などを問う中で、自然主義の限界を明らかにする作業も行なった。
著者
中川 聖一 秋葉 友良 山本 一公 土屋 雅稔
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

音声認識の高精度化と音声認識結果の整形化、音声ドキュメントからの検索語の高速・高精度検索法の研究を行った。音声認識の高精度化に関しては、従来のHMMを越える新しい音声認識モデルを提案し、その有効性を示した。音声認識結果の整形に関しては、話し言葉音声の音声認識結果からの書き言葉への整形のための確率モデルを提案し、その有効性を示した。音声ドキュメントからの検索語の高速検出に関しては、音節のnグラムインデックスに基づく手法を提案し、その有効性を示した。
著者
山本 博 渡邉 琢夫
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、細胞膜上にヘム蛋白性酸素感受性イオンチャンネルを持つPC12細胞を用い、その細胞膜画分のヘム蛋白をプロファイリングすることにより、新規酸素感受性分子(酸素センサー)を同定することである。平成14年度中の研究により、Lithium Dodecyl Sulfate (LDS)を用いた低温下ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(LDS-PAGE)と、ヘム分子団のペルオキシダーゼ様活性に基づきヘム蛋白を特異的に検出するルミノール化学発光反応を組み合わせた、高感度ヘム蛋白検出法を確立した。平成15年度の研究は当初計画通りに遂行され、以下の成果を得た。1.PC12細胞の粗精製細胞膜画分蛋白を低温下LDS-PAGEにより分離後、ルミノール化学発光反応液中でインキュベートしフルオログラフィーをとることにより、粗精製細胞膜画分に含まれるヘム蛋白のバンドを同定した。さらに、同一試料を並行して泳動したレーンをクマジーブリリアントブルーで染色することによって得られた全蛋白の染色バンドと、フルオログラム上のヘム蛋白のバンドの位置を比較することにより、ヘム蛋白を含むと推定される蛋白のバンドを同定した。2.1.によって同定された蛋白のバンドを切り出し、そこに含まれる蛋白を、液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー法によって同定した。その結果、約50種の蛋白が同定された。3.現在、2.によって同定された蛋白の中から、構造や推定される機能などに基づいてヘム蛋白である可能性の高いものを抽出し、ヘムとの結合性を検討中である。すでに、ソーレーバンド(蛋白とヘムとの結合により見られる波長400nm付近の特異的吸収帯)などにより、ヘムとの安定した結合が確認されている蛋白もある。今後、これらの新規ヘム蛋白の機能の解析を進めていく予定である。
著者
青木 哲夫 山本 唯人
出版者
公益財団法人政治経済研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

東京都公園緑地課作成「都内殉難者霊名簿」のデータベース化を完了した(31,318件)。東京空襲の犠牲者についての氏名・年齢・住所・遭難地・仮埋葬地などをふくむ本データベースは、今後の東京空襲の被害の実態、被災者の行動などの研究にとって貴重な資料となる。関連して、同名簿の用紙・書式・加除訂正など態様の特徴を洗い出した。これらは同名簿の作成のもととなった空襲犠牲者の改葬および慰霊事業の研究の基礎資料となる。
著者
山本虎一 編
出版者
帰一社
巻号頁・発行日
1901
著者
林 幹治 坂 翁介 北村 泰一 湯元 清文 田中 義人 國分 征 山本 達人
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(A)
巻号頁・発行日
1990

グローバル地球変動磁場観測システムの開発を行なった。リングコアーによるフラックスゲート磁力計に組み合せるディジタルデータロガーのタイプ、設置地域の違いによる次の3タイプがある;モデルA(オーロラ帯など高緯度用、委託観測による1カ月週間毎のテープ交換)、モデルC(中緯度を中心とした日本周辺用、委託観測による3週間毎のテープ交換)、モデルE(赤道地域でのデータ取得のために半無人記録装置、一部フラッシュメモリーカードの導入)。記録感度とサンプリングレイトはA、C、Eモデル各々について、125pT-1Hz,50pT-1Hz,7.5pT-3秒とした。開発の仕上げとして、各地でのフィールド観測を実施した。想定した問題が実地観測では予想以上の複雑さで現れた。電源関係(停電対策,蓄電池充電,データ取得の停止と再開),機器温度環境(過剰対応),機器の操作ミス(合理的な操作性)など,各モデルとも,半年以上の期間に渡り,問題への対応を現地との連携で(主にプログラムROMの改良交換)進めた結果,不可抗力と思われる(落電,盗難,重機器による地下埋設部の破損)を除けば,安定にデータが取得することのできる水準に達した。遠隔地データ取得の将来を目指した実験として,静止衛星(ひまわり)を利用して北海道(女満別)よりの磁場データの取得実験を開始した(郵政省通信総合研究所,運輸省気象庁地磁気観測所の関係者の協力を得る)。観測データは,貴重な高時間分解能データとして超高層物理研究に各分担者が利用するとともに一部は学術情報ネットワーク上に公開され,国内外の研究者の利用に供されている。
著者
山本 哲也
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
年次大会講演資料集
巻号頁・発行日
vol.2009, no.9, pp.190-191, 2009-09-12

The new nuclear inspection system established by the Nuclear and Industrial Safety Agency (NISA) came into force in January 2009. The NISA focused on the maintenance program to set up the new system. The new inspection system require the report of the maintenance plan to the NISA, safety verification of the plan by the NISA, collection of deterioration data of facilities, reflection of the data on self check, and online monitor of concerned equipment. Utilities have reported approximately 30 of their maintenance plans to the NISA. The NISA carries the periodic inspections after it check those maintenance clans.
著者
永田 裕保 山本 照子 岩崎 万喜子 反橋 由佳 田中 栄二 川上 正良 高田 健治 作田 守
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.598-605, 1994-10
被引用文献数
19

1978年4月から1992年3月までの過去15年間に大阪大学歯学部附属病院矯正科で治療を開始した, 口唇裂口蓋裂を除く矯正患者4, 628名(男子1, 622名, 女子3, 006名)を対象とし, 統計的観察を行い以下の結果を得た.1.大部分の患者は半径20 km以内から来院しており, 大阪府下居住者であった.2.男女比は男子 : 女子=1 : 1.9であり年度による大きな変動はなかったが, 9歳以降年齢が高くなるにつれて女子の割合が上昇した.3.治療開始時の年齢は7∿12歳が大半を占めた.近年13歳以上の割合が増加を示した.咬合発育段階では, IIIB期が最も多かった.4.各種不正咬合の分布状態は, 男子では反対咬合の割合が最も高かった.一方, 女子では, 叢生の割合が最も高かった.男女ともに年々反対咬合の割合が低下し, 叢生の割合が上昇した.5.Angle分類については, 男女ともにAngle I級が最も多く, 骨格性分類では, 男子で骨格性3級, 女子で骨格性1級が最も多かった.咬合発育段階別の骨格性分類では, 骨格性2級はIIC期からIIIA期にかけて増加を示し, 骨格性3級はIIC期とIVC期に多かった.IIIC期からIVC期におけるAngleの分類と骨格性分類との関係について, 男女ともAngle I級では骨格性1級, Angle II級では骨格性2級, Angle III級では骨格性3級が多く認められた.
著者
川俣 眞人 山本 幹雄 板橋 秀一 大村 浩 田中 和世
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.392, pp.9-14, 2000-10-19

ホルマント型音声合成方式において、ホルマント振幅の項に声帯振動の影響による効果を表すための非線形項を導入することによって音質が改善されることは既に報告した。非線形項は音質改善の他に音声の自然性や個人性にも影響を与えることが予想される。今回はその非線形関数を10話者、5母音別に新たな関数モデルを導入していくつかのパタンとして類型化することを試みた。その結果このモデルの妥当性を確認することができた
著者
河野 隆志 鈴木 由里子 山本 憲男 志和 新一 石橋 聡
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MVE, マルチメディア・仮想環境基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.184, pp.1-8, 1999-07-16
被引用文献数
6

ネットワーク上にコミュニケーションの環境を作る試みはインターネット上を中心に盛んに行われている。本論文では遠隔地にいる人々が会話や行動を共にできる通信環境を目指して、等身大の映像を投影し、没入できる多面ディスプレイを表示装置とするクライアントと手軽に携帯ができるPCベースのクライアントを共有空間で結ぶことによる新しいサービスを提案し、そのためのプラットフォームとして試作したシステムについて述べる。本システムにより多数の人が仮想空間を共有し、ユーザのお辞儀、挙手、手を振るという基本的なジェスチャを認識し、ユーザの分身の動作という形で相手に伝達し、音声・映像を使ったコミュニケーションが可能になった。
著者
山本 和生
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

酵母CAN1遺伝子について突然変異を見ると,haploidの場合は1x10^<-6>の頻度で,diploid hetrozygousな場合は,1x10^<-4>の頻度となる。従って,diploidでは,DNA複製に依存した間違いによって突然変異が生じ,diploidの場合は,組み換えや染色体喪失などdynamicな染色体の再構成がその原因であることが分かった。次に,染色体喪失生成機構を知るために,DNA損傷性の突然変異は誘発しないが,発がん性を持つ化学物質を用いてその作用機構を調べた。用いたのは,o-phenylphenol(OPP)等の代謝物について,酵母でaneuploidyを強く誘発することが分かった。OPPの代謝物で酵母を処理した場合,1)塩基置換などの突然変異は誘発しない。2)aneuploidyの頻度は10^<-3>のオーダーとなる。3)酵母β-tublinと結合し解離作用を阻害する。4)FACS観察では,細胞周期をG_2/Mで止める。4)蛍光顕微鏡の観察では,M期後半で細胞周期を止める。OPPによる細胞分裂阻害をすり抜けた細胞は,ある確率で染色体喪失を生じる。CINは次の突然変異やCINを促すことで,更に次の変化を促し,発がんに至る。従来発がん機構の説明として,がん抑制遺伝子やprotooncogeneの突然変異が蓄積してがんが生じるという説(がん突然変異説)がある。現実のがんを見るとがん突然変異説で説明できない場合が大変多い。その一つとして.DNA損傷は作らない化学物資による発がんがある。本研究で,そのような化学物資の代表として,OPPを取り上げ,naeuploidyによって,その作用を及ぼすことを明らかにした。がんaneuploidy説の開幕である。
著者
山本 寛 岩田 展幸 高橋 博樹 早川 建
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

フラーレン結晶、特に液液界面析出C60及びそのヨウ素添加物に数GPaの高圧力を印加した後、波長500nm程度の自由電子レーザ(FEL)を照射した。それらはほぼ単相に近いC60ポリマーへと変化した。また、半導体単層カーボンナノチューブ(SWNT)膜の化学気相成長時、共鳴吸収波長のFEL照射を行うことによって、部分的に制御されたカイラルベクトルを持つ半導体SWNTsを選択的に成長させることに成功した。
著者
徳永 幹雄 山中 寛 山本 勝昭 高柳 茂美 橋本 公雄 秦泉寺 尚 岡村 豊太郎 佐々本 稔
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

13名の共同研究者によって、運動・スポーツの短期的・長期的効果について総合的研究を行い、次のような結果を得た。1.感情に及ぼす効果1)婦人のテニス活動での感情は、激しい運動中に最も高まり、その時の感情は乳酸とはマイナス相関、ACTHやベータ・エンドルフィンではプラス相関がみられた。しかし、運動後はその相関は低くなった。2)快的自己ペース走による気分の高揚は運動後少なくとも30分継続した。3)バドミントンの体育授業での感情は授業内容によって異なった。2.心理的能力に及ぼす効果1)国体選手は経験年数や大会参加経験によって心理的競技能力が高められていることが明らかにされた。2)体育系クラブ経験者は、日常生活の心理的対処能力が優れていた。3.生きがい・健康度に及ぼす効果1)世界ベテランズ陸上競技大会の参加選手は、「生きがい」意識レベルが高く、幸福な老年期を迎えていることが推察された。2)身体的活動量が多い高齢者は、精神的健康度も高かった。3)降圧を目的とした高齢者のテニス教室は「生きがい」にも影響した。4.自己効力感・自己概念に及ぼす効果1)体操の授業で学習者の構えが、自己効力感に影響を与えた。2)児童の水泳プログラムで水泳効力感が高まった。3)体育学部学生の自己概念は4年間で有意に変化した。5.精神の安定・集中に及ぼす効果1)大学生や予備校生のストレス症状は運動歴や態度と相関が高かった。2)寒暑耐性と運動経験年数に相関がみられた。3)身体運動が精神的作業能力に良い影響をもたらすことが示唆された。
著者
周 維統 井上 喜正 伊藤 敏男 山本 禎紀
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.39-46, 1997-12-08
被引用文献数
2

本研究では、高温下におけるブロイラーの体温調節性生理反応に及ぼす飼料摂取量の影響について検討した。供試鶏には、22℃下で高温暴露前の飼料摂取条件を0、25、50および75gとし、9時に給与し, 摂取後少なくとも2時間以上経過した14 : 00から17 : 00にかけて38℃の高温に暴露した。直腸温、脚部皮膚温、呼吸数および心拍数は、22℃に比べ38℃で有意に高く、高温暴露時間とともに上昇または増加した。22℃下(13 : 30)では、飼料摂取量の増加に伴う直腸温脚部皮膚温呼吸数および心拍数の上昇または増加が認められた。しかしながら、38℃感作によって、飼料摂取量に伴う熱産生量の増加も、また、直腸温、脚部皮膚温、呼吸数および心拍数の上昇または増加も認められなかった。生理反応の関係を見ると、熱産生量は直腸温の上昇に伴い増加し、呼吸数は直腸温約42.5℃で最高値に達した。これらの結果から、ブロイラーの体温調節性生理反応に及ぼす暴露前の飼料摂取量の影響は比較的短時間のうちに消失してしまうものと思われた。日本家畜管理学会誌、33(2) : 39-46.1997.1997年3月3日受付1997年7月22日受理
著者
山本 晃士 松下 正 小嶋 哲人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

肥満・糖尿病のモデルとして遺伝的肥満マウス(ob/obマウス)を用い、血栓傾向の分子メカニズムを検討した。肥満マウスでは、対照マウスと比較して血中PAI-1抗原量は数倍に上昇しており、組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加も認められた。もっとも顕著だったのは脂肪組織で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞等においてPAI-1 mRNAの発現が著明に増強していた。また肥満マウスでは外因系凝固の起始因子であるTFの発現も亢進していた。このTF mRNA発現増加も脂肪細胞自体によることがわかったが、脂肪組織内の血管を構成する細胞(血管外膜細胞)においても発現の増強が認められた。PAI-1に加えてTFの発現増加が、肥満個体における凝固亢進状態を増幅しているであろうと推測された。さらに、脂肪組織におけるPAI-1およびTFの発現を強力に誘導するTGF-βの発現自体も、肥満マウスの脂肪組織では週齢依存的に増加しており、血栓傾向を増悪させるTGF-βのメディエーターとしての役割は非常に重要であろうと考えられた。一方、肥満マウスに心因性ストレスを負荷し、線溶阻害因子PAI-1の発現と組織内微小血栓形成について解析を行った。肥満マウスおよび対照マウスを50ml用チューブ内に閉じ込めて拘束ストレスを負荷すると、肥満マウスではストレス負荷2時間後に早くも著明な血中PAI-1抗原量の上昇と組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加を認めた。特に、脂肪組織や心臓、腎臓におけるPAI-1 mRNA発現は対照マウスに比べて顕著に増加していた。この傾向は20時間という長時間ストレスでも同様であった。また、このPAI-1 mRNA発現は腎糸球体の内皮やメサンギウム細胞、心筋内微小血管内皮細胞、脂肪細胞等に一致して認められた。さらにストレス負荷後の肥満マウスでは腎糸球体微小血管内にフィブリン沈着を認めたが、対照マウスでは認めなかった。以上より、肥満およびインスリン抵抗性を有する個体ではストレス負荷によってPAI-1遺伝子発現が著明に亢進し、これが組織内微小血栓形成を促進するひとつの原因と考えられた。これらの研究成果は、肥満・糖尿病患者における血栓症発症の病因・病態を考える上で重要な知見と言える。
著者
楢崎 幸範 田上 四郎 山本 重一 濱村 研吾 力 寿雄 天野 光 大久保 彰人 安武 大輔
出版者
福岡県保健環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

北部九州の広域で観測される大気汚染について2010年~2012年の春期を中心に同位体化学を含む環境動態解析及び健康影響評価を実施した。西日本では大気環境が悪化し,春先から梅雨にかけて都市部以外でも空がかすむ現象が頻発した。汚染大気中には化学物質の他,黄砂や花粉が観察された。これらの複合大気汚染が原因で鼻炎の悪化,アレルギー疾患,呼吸器疾患等の増加が懸念された。なかでも,2010年5月20~21日には越境大気汚染物質によると思われる濃い霧に包まれ,視程が悪く鉄道や航空機等の交通機関に支障をきたした。この間,黒色炭素,硫酸塩,鉛,オゾン及びベンゼン等の人為起源成分が高濃度で検出された。この濃霧は1945年のロサンゼルスと同様なメカニズムで発生していたことを突き止めた。また,同時に大気汚染物質に曝された黒い黄砂の存在を明らかにした。