著者
佐藤 園 平田 美智子 河原 浩子
出版者
岡山大学教育学部
雑誌
岡山大学教育学部研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.138, no.1, pp.19-32, 2008-06-25

本報は,第7報で明らかにした岡山南高等学校「家庭総合」で試みられた"保育学習のまとめとして,学校のみで1日間実施された自分の誕生時の体重とは無関係なFBP"の課題(① FBPの位置づけ,② FBの体重,⑨質問項目,④ディスカッションのテーマと進め方,⑤ FBPによる人間関係理解の意味)を検討することを目的とした。そのため,課題②③④を第 7報と先行研究の結果から設定し直し,同校の商業科「家庭総合」で FBP実践を行った。その結果,①自分の誕生時の体重の FBを用いた方が,生徒の獲得認識,特に「自己認識」が高くなった。また,今回用いた⑨質問項目と④ディスカッションのテーマと進め方により,前回よりも,カテゴリー別の生徒の獲得認識が高くなり,最終的に生徒は「これから家族や保育についてもっと学ぶ必要がある」ことを認識していたことから,① FBPは保育学習の導入として位置づける方が適切であることが示唆された。しかし,課題⑤に関しては,心理学的手法を用いて FBPによる生徒の獲得認識を更に検討していかなければならないことが,今後の課題として把握された。
著者
平田 勇人 新田 克己
雑誌
第81回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.77-78, 2019-02-28

判例は法律解析のための重要な知識源である。判例には双方の主張と論理展開、裁判官の判断理由と結論が示されている。判例は多くの情報を含んだ情報源にも拘らず、その利用方法が十分に開拓されていなかった。その数少ない例である米国の判例に基づく論争システムにHYPOやCATOがあるが、判例主義の国では妥当しても、日本のように法令に基づくルールベースの国においては妥当ではない。そこで過去の判例で使われた法的判断の価値観の要素(法的トポス)を抽出し、法的トポス間の関係を整理した。ファクタに基づく判例の記述に、新たに法的トポスの概念を導入して、判例の解析を行い、判決予測の可能性を調べることを目的とする。
著者
平田 温 田川 皓一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.189-194, 1985-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

内頚動脈の閉塞あるいは狭窄が拍動性耳鳴の原因となることは比較的知られていない.著者らは拍動性耳鳴を訴える2症例を経験し, 1例で同側の内頚動脈の狭窄を, 他の1例で対側の内頚動脈の閉塞を確認した症例1は56歳の女性で右の拍動性耳鳴を訴え, 右の頚部および眼窩に血管雑音を聴取した.血管造影で右内頚動脈の壁不整と狭窄を認めた.右の耳管狭窄が検出され通気で耳鳴は減少した.症例2は50歳の男性で左の拍動性耳鳴と左片麻痺を主訴とし, 右内頚動脈起始部および右中大脳動脈の閉塞と, 左内頚動脈よりの側副血行が認められた.左頚部に血管雑音を聴取し運動負荷で血管雑音と耳鳴は増強し安静で減少した.これらはそれぞれ血管内腔の不整および血流増加により血管雑音・耳鳴を生じたと考えられる.拍動性耳鳴の発現機序およびその修飾因子について考察を加え, 報告した.
著者
美川 英二 平田 育夫
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.940, pp.78-80, 1998-05-11

問 横河電機と言えば、昔から家族主義の温情的な会社として知られてきましたが、美川さんは早くから年俸制や実力本位の人事を導入したりと、厳しいことを進めているようです。 答 いや全体としては温情主義なんですよ。雇用はきちっと守る。給料や賞与もメーカーとしては日本で最も高いクラスのものを払っています。しかし、甘いだけではデレーッとしてしまう。
著者
後藤 光亀 平田 強 牛尼 修央 佐藤 敦久
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
環境工学研究論文集 (ISSN:13415115)
巻号頁・発行日
no.31, pp.181-188, 1994

The cross flow type ultrafiltration was carried out to evaluate the relation between flux and coagulation state using the results of zeta potential, flux reduction ratio, volumetric sedimentation ratio, the turbidity reduction ratio in Jar test. The concentration of kaolin suspension used in this study was 1000 mg/l. The ion concentration of the raw water was controlled by changing mixing ratio of distilled water and tap water, or with adding NaCl and CaCl<SUB>2</SUB> solution. As the dispersion state of kaolin suspension was good, the flux of ultrafiltration hardly decreased because of the large negative charge of suspended solid and shearing force under cross flow. If the dispersion state of kaolin suspension was not good, the flux of ultrafiltration was getting small by destabilization of dispersion state. This small change of coagulation state gives large influence on the flux. On the other hand, the cation or coagulant dosage makes coagulated flocs and the resulted large floc and shearing force under cross flow obstructs the cake formation on membrane.
著者
平田 佐智子 小松 孝徳 中村 聡史 秋田 喜美 澤井 大樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.113, no.185, pp.1-6, 2013-08-16

オノマトペ(擬音語・擬態語)は表現力豊かな言葉であるとされており、その性質や応用可能性について明らかにされつつある。本研究は、オノマトペが言語コミュニケーションにおいて果たす役割を検討するため、地域によってオノマトペの使用頻度が異なるのか、またどのような人に対して用いられるのか、どのような伝達内容に対して用いられるのか、を調べるため全国規模の調査を行った。結果として、主観的な使用頻度には地域差は無いものの、オノマトペの地域差に対する根強い信念が存在すること、またオノマトペが親密性の高い間柄で用いられる点や、触覚や視覚情報を伝達する際に最も多く使用されることがわかった。
著者
斉藤 孝信 平田 明裕 内堀 諒太
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.2-41, 2021

現在は人々の約7割が、テレビを所有し、かつ、ネット機器も使っている。テレビ(リアルタイム)は約8割の人が毎日のように利用している。YouTubeは「週に3~4日ぐらい」以下の頻度で利用する人が多いが、男若年層(16~29歳)では約7割が毎日のように使う。ニュース視聴時、30代以上はテレビや新聞などをよく利用する。若年層はテレビやLINEをよく使い、男若年層はYouTube、女若年層はTwitterもよく用いる。娯楽視聴時にも中・高年層は従来のメディアをよく利用し、若年層ではほとんどがYouTubeを使う。意識面では、「世の中の出来事を知る」点において、テレビの評価が他メディアを引き離している。「癒し・くつろぎ」などの点では評価が様々なメディアに分散し、男若年層はYouTubeを、女若年層はSNSを高く評価している。テレビやネット動画の視聴時の行動や意識について、「別のことをしながら視聴する」「内容を話題にする」といった行為は、テレビに関しては女性のほうが男性よりも行っているが、ネット動画に関しては男女差がない。視聴するために「時間をやりくり」したり、視聴によって「時間や曜日を意識」したりするのはテレビ視聴時に多いが、若年層ではネット動画視聴時でも約3割が行っている。特定のコンテンツを「待ち遠しく思う」「繰り返し見る」ことは、中・高年層ではテレビ番組に偏っているが、若年層ではテレビ番組でもネット動画でも半数以上が『ある』と答えた。若年層はジャンルによって視聴メディアを使い分け、「天気予報」「政治・経済・社会」などはテレビ(リアルタイム)で、「音楽」「ゲーム配信・実況」などはYouTubeで、「芸能人・アイドル」などはテレビ(リアルタイム)とYouTubeの2つでよく見る。
著者
平田 貴美子 茶珍 和雄 岩田 隆
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.566-573, 1987
被引用文献数
8

(1)ヒユ,キンサイ,ツルムラサキ,ヨウサイ,サイシン及びパクチョイを厚さ0.03mmの低密度ポリエチレン袋(26cm×38cm)に密封し,1℃,6℃,20℃と30℃に貯蔵して品質の変化を調べた.20℃と30℃区では,いずれの野菜においても品質低下の要因となったのは主に葉の黄化であったが,緑色保持期間が比較的長かったのはツルムラサキとパクチョイであった.ヨウサイ及びヒユでは1℃と6℃区で低温障害の褐変が発生し,ツルムラサキでは1℃で葉にpittingと軟化という低温障害の症状が認められた.他の野菜では低温ほどよく鮮度が保たれた.<BR>(2)ヒユ,キンサイ及びパクチョイは貯蔵温度が低いほどアスコルビン酸(ASA)含量をよく保持していた.低温障害を生じたツルムラサキとヨウサイは低温区でのASA含量の減少が速やかであったが,ヒユではよく保持されていた.またツルムラサキは30℃においてもASAの減少が非常にゆるやかであった.<BR>(3)貯蔵中のクロロフィル含量を調べたところ,キンサイでは各温度区の間に明らかな差が認められなかったが,その他の種類では低温に貯蔵したものほどよく保持されていた.<BR>(4)遊離アミノ酸含量は,貯蔵温度が高いほど増加する傾向にあった.<BR>(5)総フェノール含量は,ヨウサイの低温区とキンサイの全温度区で,貯蔵中いったん増加した後減少した.その他の葉菜類においてはほぼ一定であった.
著者
平田 雅博
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本におけるイギリス史の研究史は、国内史それも事実上イングランド中心であり、民族的にはアングロサクソン民族中心、人種的には白人中心にイギリスの歴史が叙述されてきたが、植民地を含んだ帝国史、ケルト地域(ウェールズ、スコットランド、アイルランド)なり、ケルト民族、非白人を含んだ枠組みがなかなか提示されてこなかった。近年、帝国史の枠組みの提示によって、強固だった国内史の狭い枠組みもようやく本格的に再検討されつつあるし、ケルト周辺を含み込んだ枠組みの提示によってイングランド中心の枠組みも克服されつつある。しかし、残された「非白人」を包摂した枠組みの提示はいまだ不十分でしかない。本研究は、研究代表者が従来から取り組んでいる「帝国史」の枠組みを設定した上で、「非白人」の観点を取り入れて、一次史料によって、イギリスにおける黒人史研究に取り組んできたことの成果である。研究全体としては、在英黒人の存在や実態を扱った面と在英黒人をめぐる意識の問題として人種差別主義の歴史を扱った面に分けた。前者では、時期的は一八世紀末を限定しながらも、空間的にはイギリス国内にとどまることなく、アメリカとアフリカを含めた分析をしている。後者では複雑きわまりない人種差別主義の歴史を捉えるの有効な「長期的展望」を取り入れて、黒人に対する意識の歴史的変遷を検討した。17世紀から20世紀まで、人種の悪魔学、プランター利害に立つ人種差別主義、疑似科学的人種差別主義、二〇世紀の「文化のレイシズム」と区分して、順次検討した。
著者
西村 和久 平田 耕造 白水 智子 竹森 利和
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.187-196, 1993-12-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
29
被引用文献数
1

体脂肪率の違いにより体幹部と末梢部の皮膚温挙動が異なるか否かを検討するために, 16名の被験者を体脂肪率により2群 (L群: 10.7±0.6%, O群: 19, 4±6.3%) に分類し, 環境温22, 28, 34℃に90分間暴露中の皮膚温, 皮膚血流量, 体重減少量, 温冷感を測定した.その結果, 体幹部の皮膚温は環境温22, 28, 34℃においてL群に比較してO群の方が有意に低かった.また, 手部皮膚温は環境温22, 28℃においてL群に比較してO群の方が有意に高く, 足部皮膚温は環境温28℃においてL群に比較してO群の方が有意に高かった.体脂肪率の増加とともに体幹部の皮膚温は低くなり, 逆に末梢部の皮膚温は高くなることが認められた.これらの結果から, 皮下脂肪により物理的に抑制された体幹部からの熱放散量は, 末梢部からの熱放散量を生理学的な血流調節反応により促進することで, 全身の熱バランスを維持していることが示唆された.
著者
平田 孝 渡辺 直哉 石谷 孝佑
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.685-689, 1986
被引用文献数
1

二重包装した焼きのりと味付けのりの水分変化を予測する手法について検討した.まず,焼きのり,味付けのりの水分収着等温線を作成し,経験式に当てはめた.各種の包装形態に適用できるように一般化した数学モデルと水分収着等温線の経験式を用いて,二重包装した焼きのり,味付けのりの水分変化をシミュレートした.開発した数学モデルによって計算された予測値は実測値と良く一致した.コンピューターシミュレーションは乾燥食品の防湿包装設計に有益であると考えられた.
著者
山内 拓真 根本 さくら 長野 恭介 中村 祥吾 斉藤 勇璃 宇田 朗子 村井 源 迎山 和司 田柳 恵美子 平田 圭二
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回 (2020)
巻号頁・発行日
pp.4C2GS1304, 2020 (Released:2020-06-19)

本論文では,与えられたゲームシーンに対し自動的にBGMを選曲するシステムについて述べる.本システムは,RPG自動生成システムの一部として機能することが想定されており,自動生成されたゲームシナリオが入力されると,各ゲームシーンの感情状態に合致したBGMをデータベースから選択する.まず,既存RPGにおける各シーンにユーザが感情状態をタグ付けして訓練データを作成する.各シーンに付与されているBGMの音響特徴量を算出し,ニューラルネットワークを用いて,その音響特徴量と各シーンの感情状態の対応関係を学習する.シーンの感情状態を表す指標にはHevnerが定義した音楽心理カテゴリを用いた.予めBGM候補となる楽曲群データベースを用意し,それらの音響特徴量を算出しておく.ゲームシナリオで指定されたシーンの感情状態がニューラルネットワークに入力されると,対応する音響特徴量が得られ,音響特徴量の類似した楽曲がBGM候補群の中から選択される.現在,RPG自動生成システムに組み込んで全体動作を確認しており,被験者実験の準備を進めている.
著者
堤本 広大 土井 剛彦 三栖 翔吾 小松 稔 壬生 彰 小野 玲 大澤 千絵 春名 未夏 平田 総一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF1001, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】地域高齢者の転倒予防は介護予防の観点から重要視されており、高齢者の転倒リスクアセスメントは数多く存在する。Timed Up & Go(以下TUG)や5 Chair Stands(以下5CS)、Trail Making Test(以下TMT)等では、身体機能や認知機能が維持された高齢者を対象に行うと有用である。しかし、要介護者のように多様な機能低下がみられる高齢者の場合、転倒要因はさらに多様化し、どのような評価方法が転倒リスクアセスメントとして適しているかは未だ明らかになっていない。我々が考案したMultiple-Step-Test(以下MST)は、転倒に関わる因子である運動機能、認知機能を二重課題条件下で実施することが可能である。立ち上がり動作など重心の上下移動が困難な対象者でも、遂行可能なステップ動作のみで行え、どのような施設でも行える省スペース性を持ち合わせる。また、高齢者がテスト自体を楽しむことができるゲーム性を有した新しい転倒リスク評価法である。以前、我々はMSTと過去の転倒経験の関連性、および検査に再現性を有していることを報告したが、今回、同施設にて、1年間前向きに転倒発生調査を行ったデータを利用し、運動機能評価であるTUG、5CS、および認知機能検査であるTMTと比較し、MSTの転倒リスク評価法としての有用性を検討することを目的とした。【方法】本研究は、デイサービス施設を利用する地域在住女性高齢者95名( 83.8 ± 6.6歳)の中から、MSTが杖使用でも実行できない者、および認知機能障害の著しいもの (MMSE:16以下)を除外した59名( 83.1 ± 6.4歳)を対象とした。また、MST計測後、全対象者における1年間の転倒発生を前向きに調査した。MSTの設定として、フープ(直径140cm)と同心半円(直径240cm)を4本のテープで3等分し、各区画には、数字(1~3)を記載したナンバーボードを設置した。MSTのルールは、合図ともにテスト開始し、数字の順にフープ内から全区画内への跨ぎ動作を行うことである。区画内へ接地した後、毎回フープ内に戻るように指示し、3のナンバーボードからフープ内に戻った時点で終了とし、所要時間を計測した。開始前は対象者には後方を向かせ、ナンバーボードをランダムに設置し、各対象者2回計測を行い、所要時間の短いデータを採用した。統計解析は、MST、TUG、5CS、TMT-A、TMT-Bそれぞれの所要時間に関して、Wilcoxonの順位和検定にて転倒群と非転倒群の群間比較を行った。転倒予測能を検討するため、ROC解析によりROC曲線下面積(AUC)を算出した。【説明と同意】本研究は神戸大学医学倫理委員会の承認を得た後に実施し、対象者より、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。【結果】対象者は転倒群14名 (24%)と非転倒群45名 (76%)に分かれた。転倒群と非転倒群における年齢、性別、BMIにおける対象者特性に有意な差は認められなかった。全対象者が各転倒リスク評価に要した所要時間の中央値(四分位)は、MSTは21.8( 17.7 &#8211; 31.1 )、TUGは15.0( 13.1 &#8211; 19.5 )、5CSは14.8( 12.5 &#8211; 19.3 )、TMT-Aは160.0(110.8 &#8211; 240.0 )、TMT-Bは205.7( 160.0 &#8211; 288.0 )であった。転倒群と非転倒群で比較すると、MST、およびTUGにのみの群間に有意な差が認められた( p < 0.05 )。群間に有意な差が認められたMST、およびTUGについてROC解析を行うと、MSTのAUCが 0.72、感度が0.86、特異度が0.61で、TUGのAUCが0.71、感度が0.86、特異度が0.55であった。【考察】本研究の対象者に関しては、転倒リスク評価としてMST、およびTUGは高い転倒リスク予測能を有していることが示唆された。5CSやTMTのように、身体機能や認知機能を単独で評価するアセスメントと比較すると、MST、およびTUGは、ステップ動作や方向転換など複合的な運動を必要とするテストであるため、転倒リスクの高い高齢者と低い高齢者との身体能力差が表出しやすかった可能性が考えられる。また、MSTに関しては、数字を順に追い捜すという認知機能も必要なため、TUGと比較して、より特異度が高かったのではないかと考えられる。TUGとは異なり、MSTはゲーム性を有したDual-taskという側面を有しているため、今後、転倒リスクの評価だけではなく、高齢者に対する転倒予防の介入法としても有用である可能性を検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、高齢者の転倒リスク評価の一つとして、身体機能と認知機能の両方を同時に必要とするMSTの有用性が示されたと考えられる。