著者
森田 登代子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.32, pp.181-203, 2006-03-31

近世、京都の庶民階層は大嘗会、新嘗祭、即位儀礼の情報を町触れから逐一得ていた。天皇家祖先への神祭りである大嘗会では忌避されたが、公的な就任儀礼である天皇即位儀礼では庶民の拝見が許可された。入場券代わりの切手が男性一〇〇人女性二〇〇人に配られ、禁裏内、日華門近くで拝見した。即位儀礼を感涙にむせびながら厳粛に拝見する民衆もいれば、遊楽と見紛う行為も見られた。大嘗会や新嘗祭、譲位、即位儀礼、入内が布告されるたび、火の始末、鐘撞や芝居上演禁止など日常生活への拘束がともなったが、天皇に関する行事が庶民の関心を呼んだことは間違いがない。
著者
古村 和恵 宮下 光令 木澤 義之 川越 正平 秋月 伸哉 山岸 暁美 的場 元弘 鈴木 聡 木下 寛也 白髭 豊 森田 達也 江口 研二
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.237-245, 2011 (Released:2011-11-16)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

より良い緩和ケアを提供するために, がん患者やその家族の意見を収集することは重要である. 本研究の目的は, 「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」(OPTIM)の介入前に行われた, 進行がん患者と遺族を対象とした質問紙調査で得られた自由記述欄の内容を分析し, がん治療と緩和ケアに対する要望と良かった点を収集・分類することである. 全国4地域の進行がん患者1,493名, 遺族1,658名に調査票を送付し, 回収した調査票のうち, 自由記述欄に回答のあったがん患者271名, 遺族550名を対象とした. 本研究の結果から, がん患者と遺族は, 患者・医療者間のコミュニケーションの充実, 苦痛緩和の質の向上, 療養に関わる経済的負担の軽減, 緩和ケアに関する啓発活動の増加, 病院内外の連携システムの改善, などの要望を持っていることが明らかとなった. Palliat Care Res 2011; 6(2): 237-245
著者
古村 和恵 森田 達也 赤澤 輝和 三條 真紀子 恒藤 暁 志真 泰夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.142-148, 2012 (Released:2012-04-26)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

終末期がん患者はしばしば家族や医療者に対する負担感(self-perceived burden)を経験するといわれている. 負担感を和らげるためのケアが必要とされる一方で, どのようなケアが望ましいかを実証した研究はほとんどない. 本研究では, 終末期がん患者の感じている負担感の実態と, 患者の負担感を和らげるために必要なケアを調査するために, 28名のがん患者の遺族を対象に半構造化面接を行った. 内容分析の結果, 「がん患者の負担感の内容」(例: 下の世話をしてもらうのがつらい), 「がん患者が行っていた負担感に対するコーピング」(例: 家族の仕事や予定を優先するようにいう), 「家族の気持ちと対応」(例: 患者の遠慮は家族への思いやりの表れだと思った), 「患者の負担感に対して必要なケア」(例: ことさら何かを強調するのではなく, 自然な言葉がけをする)が抽出された. 収集された患者の負担感を和らげるためのケアの有用性の評価が今後の重要な課題である.
著者
森田 琢也 花岡 伸治 佐藤 澄 市橋 良夫 越智 薫 勝間田 敬弘
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.832-835, 2014-09-15 (Released:2014-10-03)
参考文献数
3

症例は多発性外骨腫のある12歳男児.外傷の既往なく胸痛発症後1ヵ月に血胸をきたし緊急手術を行った.開胸時壁側胸膜と臓側胸膜の双方から出血を認め,胸腔内に突出した第6肋骨の一部と肺中葉臓側胸膜の癒着の破綻が出血源と考えられた.手技は壁側胸膜の止血と肺部分切除術を行うにとどめ,胸腔内突出は軽度であったことから骨切りは行っていないが,術後1年3ヵ月の経過観察期間中,血胸の発症は認めていない.外骨腫による血胸の報告数自体が少ないこともあり術後再発や反対側発症の報告は見当たらず,手術時の適切な対応に関するコンセンサスも得られていない.呼吸器外科医は多発性外骨腫が外傷のない小児血胸の発生原因となることを知らねばならない.
著者
市原 香織 宮下 光令 福田 かおり 茅根 義和 清原 恵美 森田 達也 田村 恵子 葉山 有香 大石 ふみ子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.149-162, 2012 (Released:2012-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1

【目的】Liverpool Care Pathway (LCP)は, 看取りのクリニカルパスである. LCP日本語版のパイロットスタディを実施し, LCPを看取りのケアに用いる意義と導入可能性を検討する. 【方法】緩和ケア病棟入院患者を対象にLCPを使用し, ケアの目標達成状況を評価した. 対象施設の看護師に, LCPの有用性に関する質問紙調査を行った. 【結果】LCPに示されたケアの目標は, 80%以上の患者・家族において達成されていた. 対象看護師の65%以上が, 看取りの時期の確認, ケアの見直し, 継続的で一貫したケアの促進, 看護師の教育においてLCPを有用だと評価した. 【結論】LCPは緩和ケア病棟での看取りのケアと合致し, 看取りのケアの指標を示したクリニカルパスとして導入可能であることが示された. 看護師の評価では, LCPが看取りのケアの充実や教育における意義をもつことが示唆された.
著者
坂口 幸弘 宮下 光令 森田 達也 恒藤 暁 志真 泰夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.203-210, 2013 (Released:2013-07-23)
参考文献数
29
被引用文献数
13 3

【目的】ホスピス・緩和ケア病棟で家族を亡くした遺族の複雑性悲嘆および抑うつ, 希死念慮の出現率と関連因子について明らかにする. 【方法】全国の緩和ケア病棟100施設を利用した遺族に対して自記式郵送質問紙調査を実施し, 438名(67.1%)からの有効回答を分析対象とした. おもな調査項目は, Inventory of Traumatic Grief (ITG), CES-D短縮版, Care Evaluation Scale (CES), Good Death Inventory (GDI)である. 【結果】複雑性悲嘆と評定された者は2.3%であった. 回答者の43.8%が臨床的に抑うつ状態にあると評定され, 11.9%に希死念慮が認められた. 重回帰分析の結果, ITGと, CESおよびGDIとの有意な関係性が示された. 【結論】緩和ケアや患者のQOLに対する遺族の評価が, 死別後の適応過程に影響を及ぼすことが示唆される.
著者
加藤 和子 駒込 乃莉子 峯木 眞知子 森田 幸雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.23, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】米は、世界の二大食糧作物で、日本のみならずアジア諸国でも食べられている。近年、米の入手方法も多様化し、家庭における保存状況も様々である。米を安心で安全に喫食するための一助として、日本およびアジアの米の細菌汚染状況を調査した。【方法】日本の家庭米35(精白米29、無洗米6)、自家米14、市販米11の計60検体、および韓国6、タイ7、フィリピン8検体の市販米、計21検体について一般生菌、大腸菌群、大腸菌、食中毒菌(ウェルシュ菌、バチルス属菌)を定量検査した。大腸菌群、大腸菌、食中毒菌の同定は食品衛生検査指針に準じた。【結果および考察】生米の一般生菌の検出状況は、平均菌数(対数値/g)はタイ米が2.45±0.09と低く、日本の市販米は3.88±0.11と高かった。タイ米、フィリピン米は日本の家庭米である精白米・無洗米・自家米・市販米および韓国米の検体に比べて、一般生菌数は有意に低かった。大腸菌は韓国米1検体のみ検出された。大腸菌群は日本の無洗米1検体が3.82と高く、タイ米・フィリピン米からは検出されなかった。ウェルシュ菌は、いずれの検体からも検出されなかった。バチルス属菌の検出では、日本の無洗米6検体中2検体から検出され、陽性検体の平均菌数(対数値/g)は4.06±0.16と高く、タイ米(7検体中3検体が陽性)は2.54±0.14と低かった。日本の家庭米の精白米1検体、タイ米2検体、フィリピン米1検体の加熱検体から平均菌数(対数値/g)約2のバチルス属菌が検出された。陽性検体数は少ないものの加熱して喫食する米飯ではバチルス属菌による危害を防止することが必要であると思われた。
著者
森田 淳子 向後 千春
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.2, pp.32-39, 2022-06-27 (Released:2022-06-27)

学士課程のオンデマンド授業に関して,先行研究の2種類の対話型ビデオを発展した形式での収録(講師,聞き手のTAと受講生の参加)を試みた.講師単独のビデオと比較しどちらが好まれるかについてアンケート調査を実施したところ(N=168,回収率70%),「講師単独によるビデオ」が5%に対して,「受講生とTAを交えたビデオ(今回の形式)」を好む回答が86%であった.また,講師がレクチャーで画面共有する資料について,スライドとマップのどちらかを好むかについての回答は「スライドの提示」が19%対して,「マップの提示(今回の形式)」が64%であった.
著者
森田 次朗
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.13, pp.127-136, 2005-12-25
著者
森田 隼史 池上 敦子 菊地 丞 山口 拓真 中山 利宏 大倉 元宏
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:13498940)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-22, 2011 (Released:2017-06-27)
参考文献数
13

鉄道運賃は,基本的に乗車距離が長くなればなるほど高くなるように設定されているが,同じ距離でも,会社によって,さらには同じ会社内でも地域や路線によって異なる料金が設定されている.さらに,乗車区間によっては割引ルールや特定の運賃が設定されていることなどから,最短経路の運賃が最安になるわけではない.運賃計算では,利用者の乗車経路が明確でない場合,乗車可能経路の中から最も安い運賃となる経路を利用したとみなし,その運賃を採用するルールが設定されている.そのため,与えられた2駅間の正しい運賃を計算するためには,その2駅間の乗車可能経路の運賃を全て,もしくはその1部を列挙して判断する必要があると考えられてきた.これに対し,我々は2008年,複数の鉄道会社を含む鉄道ネットワークにおける最安運賃経路探索用ネットワークFarenetと探索アルゴリズムを提案し,これを利用した自動改札機用運賃計算エンジンの実用にいたった.本論文では,Farenet構築の基盤となった1会社内の運賃計算,具体的には,首都圏エリアで利用可能であるICカード乗車券Suica/PASMOの適用範囲に含まれるJR東日本510駅の全2駅間(129,795組)に対して行った運賃計算について報告する.4つの対キロ運賃表と複数の運賃計算ルールが存在するこの運賃計算において,異なる地域・路線を考慮した部分ネットワークとダイクストラ法を利用することにより,多くの経路を列挙する従来の運賃計算方法において数時間要していた計算を,約1秒で処理することに成功した.論文の最後では,アルゴリズムの効率を示すとともに,対象ネットワークが持つ運賃計算上の特徴についても報告する.
著者
仲沢 弘明 池田 弘人 一ノ橋 紘平 上田 敬博 大須賀 章倫 海田 賢彦 木村 中 櫻井 裕之 島田 賢一 成松 英智 西村 剛三 橋本 一郎 藤岡 正樹 松村 一 森岡 康祐 森田 尚樹 占部 義隆 所司 慶太 副島 一孝
出版者
一般社団法人 日本熱傷学会
雑誌
熱傷 (ISSN:0285113X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-11, 2022-03-15 (Released:2022-03-15)
参考文献数
12

壊死組織を除去する手法はデブリードマンと呼ばれ, 深達性熱傷に対して必要な治療法の一つである.最も一般的に行われるデブリードマンは外科的デブリードマンであり, 近年では超早期手術の有用性が報告され広く実施されている.しかしながら, 手術時の術中管理や出血量管理が必要であり, 正常組織への侵襲が不可避であるため患者負担が大きい.一方, 諸外国で承認されている化学的壊死組織除去剤であるKMW-1は熱傷部位に塗布し, 4時間後に除去することで低侵襲かつ壊死組織のみを選択的に除去できることが海外臨床試験にて報告されている. われわれは, 深達性Ⅱ度またはⅢ度熱傷を有する日本人患者におけるKMW-1の有効性を確認し, 安全性を検討するために第3相臨床試験を行った. 主要評価項目である壊死組織が完全除去された患者の割合は88.6%(31/35例, 95%信頼区間[74.05, 95.46])であった.また, 壊死組織除去面積割合の平均値は患者あたりで96.2%, 対象創あたりで97.1%であった.さらに, 壊死組織が完全除去されるまでの期間の中央値は登録時点からが1日, 受傷時点からが3日であった.有害事象の発現割合は85.7%(30/35例), 副作用の発現割合は20.0%(7/35例)であったが, 副作用はいずれも軽度または中程度であった.KMW-1の減量や投与中断, 投与中止を必要とする有害事象は報告されなかった. これらの結果から, 日本人の深達性Ⅱ度またはⅢ度熱傷においても, KMW-1の塗布によって早期に選択的な壊死組織の除去が可能であり, 安全性に問題がないことが確認された.KMW-1は外科的デブリードマンによる超早期手術に代わる治療法となりうると考えられる.
著者
山口 夏美 西尾 進 門田 宗之 森田 沙瑛 湯浅 麻美 松本 力三 平田 有紀奈 山尾 雅美 楠瀬 賢也 山田 博胤 佐田 政隆
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.590-596, 2022-12-01 (Released:2022-11-22)
参考文献数
20

症例は,60代女性.幼少期に心雑音を指摘され,21歳時に当院で膜様部型心室中隔欠損症と診断されていたが,その後は医療機関を受診していなかった.今回,発熱および咳嗽を主訴に近医を受診し,血液検査で細菌感染が疑われ,抗生剤が処方された.心拡大とNT-proBNPが高値であったことから精査のため前医を紹介受診したところ,経胸壁心エコー図検査で肺動脈弁に長径30 mm程度の可動性を有する心筋と等輝度の異常構造物を認め,重症の肺動脈弁逆流を呈していた.感染性心内膜炎の診断で同日に前医に入院し,抗生剤が開始された.その後,外科的治療検討のため当院へ紹介となった.同日施行された経胸壁心エコー図検査では肺動脈弁に付着する巨大な疣腫と重症の肺動脈弁逆流を認めた.また,心室中隔膜様部に既知の心室中隔欠損を認めた.さらに右室内に異常筋束を認め,右室二腔症と診断された.前医の血液培養からStaphylococcus warneriが検出された.血行動態は安定しており,明らかな塞栓症は起こしていなかったため抗生剤による加療が優先された.その後,待機的に肺動脈弁置換術,心室中隔欠損閉鎖術,右室流出路心筋切除術が施行された.右心系の感染性心内膜炎の割合は感染性心内膜炎全体の5~10%程度とされており,左心系に比べ少ない.今回,先天性心疾患に合併した肺動脈弁位感染性心内膜炎の1例を経験したので報告する.
著者
森田 朗
出版者
北海道大学公共政策大学院
雑誌
年報 公共政策学 (ISSN:18819818)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-61, 2022-03-31

In Japan, the public policy graduate school system as a professional graduate school was established in 2004. This graduate school system was created in conjunction with administrative, civil service system, and legal education reform. Many issues were considered during the process, such as the mission of the graduate school, educational content, and school organisation. Participating in this process, I think that in the turmoil of administrative and university reform, we were able to launch a public policy graduate school, which is nothing more than a small boat with hope, and I assume that it has been sailing smoothly since.
著者
内藤 明美 森田 達也 神谷 浩平 鈴木 尚樹 田上 恵太 本成 登貴和 高橋 秀徳 中西 絵里香 中島 信久
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.255-260, 2021 (Released:2021-08-24)
参考文献数
20

【背景】医療において文化的側面への配慮は重要である.本研究は沖縄・東北を例に首都圏と対比させ国内のがん医療・緩和ケアにおける地域差を調査した.【対象・方法】沖縄,東北,首都圏でがん医療に携わる医師を対象とした質問紙調査を行った.【結果】553名(沖縄187名,東北219名,首都圏147名)から回答を得た.地域差を比較したところ,沖縄では「最期の瞬間に家族全員が立ち会うことが大切」「治療方針について家族の年長者に相談する」「病院で亡くなると魂が戻らないため自宅で亡くなることを望む」などが有意に多く,東北では「特定の時期に入院を希望する」が有意に多かった.東北・沖縄では「がんを近所の人や親せきから隠す」「高齢患者が治療費を子・孫の生活費・教育費にあてるために治療を希望しない」が多かった.【結論】がん医療・緩和ケアのあり方には地域差があり地域での文化や風習を踏まえた医療やケアに気を配る必要がある.
著者
宮澤 一 内田 訓 大槻 穣治 森田 健 森田 良治 松山 優子 畑山 美佐子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】プロボクシングは両拳によって相手の顔面、腹部の急所を狙ってダメージを競い合うコンタクトスポーツであり、その競技特性上、外傷・障害は避けられず、時に生命に危険を及ぼすことさえ有り得る。平成7年より日本ボクシングコミッション(以下JBC)認定のプロボクシングジムから要請を受けサポート活動を開始し、平成10年からはチーフセコンド(試合中、一人だけリングに入ることが許され、選手に戦略や指示を与える係)およびカットマン(試合中、選手の受けた外傷の止血や応急処置を行う係)として試合に帯同する機会を得た。今回、日本タイトルマッチ5回を含む10年間の活動をまとめ、今後の課題を検討する。<BR>【対象】平成10年から平成19年の10年間で、JBC認定ジム所属のプロボクサー25名(18歳~35歳)による全156試合。<BR>【結果】156試合中97試合(62.2%)で129件の外傷・傷害が発生した。受傷機転からグループ分類すると頭部顔面の裂傷・外傷群56件(43.4%)、中手骨頭・手指打撲群53件(41.1%)、脳損傷・脳震盪群14件(10.9%)、その他障害は6件(4.6%)であった。対応としてはアイシング75件、テーピング58件、止血処置38件、医療機関に同行5件、徒手療法3件、その他3件であった。 <BR>【考察】打撃を顔面に受けることや頭部同士が接触することにより、頭部顔面の裂傷・腫脹などの外傷の発生は競技特性からも避けられず、最も多い結果であった。小さな裂傷であれば1分間のインターバルで止血処置をして試合再開となるが、危険と判断されるレベルに達した場合、試合は中止される。短時間での適切な止血処置能力や腫脹を軽減させる技術力向上も要求されるが、ダメージが大きい場合は選手の将来を考えて試合中止を申し出る判断も必要と考える。<BR>また打撃を与える拳のダメージも同様に多く、中手骨頭骨折で引退となったケースもあった。試合前に予防としてのバンデージを両拳に巻くことがルールで認められているが、これまでの伝統的な方法にPTの知識を生かして、より衝撃を軽減し、拳や関節を保護できるような方法を考案していきたい。<BR>また全体の約10%は脳自体のダメージと考えられるもので、試合直後に開頭手術を要した1件(現在は社会復帰)を含め医療機関に直行したケースは5件(うち救急車要請2件)であった。試合後の選手の状態には細心の注意を払い、状態悪化時の初期対応についてもスムーズに実施できるよう手順が確立されていることが必要とされる。近年、安全管理面から早めのストップが提唱されているものの実際に死亡事故も発生している。外傷障害に対する応急処置や知識の啓蒙だけでなく、練習過程から試合後のフォローまでの総合的なコンディショニング管理をとおして、PTの視点から出来ることを今後も模索していきたいと考える。 <BR><BR><BR>