著者
森 晃 水谷 正一 後藤 章
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.23-35, 2013-09-30 (Released:2013-11-29)
参考文献数
45
被引用文献数
1

近年,ナマズの繁殖場である水田水域の生息環境は悪化し,その個体数は全国的に減少している.ナマズの保全のためには複数の生息地に及ぶ生活史を把握する必要があるが,生態に関する知見は少ないのが現状である.そこで,ナマズの河川における行動生態情報を収集するため,超音波テレメトリーを適用し,小河川において追跡調査を実施した.まず,発信機の装着が魚体に及ぼす影響を室内水槽において検討した.ナマズ成魚 6 尾にダミーを装着し 5 週間観察した結果,体重の減少は見られたが,ダミーの脱落および死亡した個体は見られなかった.また,装着個体を用いて人工産卵を試みたところ,正常に産卵し孵化仔魚の生産に成功した.これらの結果から,発信機装着による生存や繁殖に及ぼす影響は少なく,ナマズに対する装着法として,適用可能であると考えられた.次に水田地帯を流れる谷川において追跡調査を実施した.谷川において捕獲した 5 尾のナマズ成魚に発信機を装着したのちに放流し,複数の受信機を各所に設置し,受信範囲内の装着個体の行動を約 1 年間モニタリングした.結果として 5 個体のうち 3 個体は 100 日以上モニタリングすることができた.次に,受信データを解析したところ,装着個体の行動パターンに季節変化が生じた.秋季にかけて 2 尾の装着個体の信号は,夜間に多く受信され昼間はほとんど受信されない規則的なパターンを示した.これは,日中は巣内で休息し,夜間に巣外で行動していたという夜行性活動パターンであると考えられた.一方,冬季にかけて 3 尾の装着個体の信号は昼夜同程度受信されるパターンを示した.このことから,冬季には昼夜活動を維持していたと考えられた.今回の研究により,ナマズの行動生態の情報を収集することができたが,手法による限界も判明した.今後は電波テレメトリーを併用することによりナマズの保全の際に必要な基礎的な行動生態情報を収集することが必要である.
著者
西森 秀稔
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.716-722, 2014-06-15

量子アニーリングは,組合せ最適化問題を量子効果を利用して解くための汎用の解法である.シミュレーテッド・アニーリングにおける熱ゆらぎによる状態探索を量子ゆらぎで置き換えたものであり,シミュレーテッド・アニーリングに比べて一定の効率向上が見られることが知られている.カナダのベンチャー企業D-Wave社が開発してすでに発売・稼働しているD-Wave Oneおよびその後継機種D-WaveTwoは量子アニーリングをハードウェアレベルで実現した装置であり,初の商用量子計算機というキャッチフレーズにより注目を集めている.本稿では,量子アニーリングの基礎理論を概説したあと,D-WaveTwoがそれをどうやってハード的に実現しているか,実際に量子力学に従って動作しているのか,本当に速いのか,今後の注目点はどこにあるのかなどについて現時点での知見を紹介する.
著者
石川 達也 戸瀨 太貴 阿部 真比古 岩尾 豊紀 森田 晃央 前川 行幸 倉島 彰
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.16-00085, (Released:2017-06-27)
参考文献数
33
被引用文献数
7

2010年からガンガゼ類除去による藻場再生が行われている三重県早田浦に10調査地点を設け,1999年,2004年,2014年の計3回,海藻植生を素潜りによって広域的に調査した。湾奥部は,1999年にはガンガゼ類が優占する磯焼け域であったが,ガンガゼ類除去後の2014年には磯焼けから藻場の再生が認められ,ホンダワラ類や小型海藻の種数が大きく増加した。一方,湾口部では調査期間を通して藻場ガラモ場や一年生コンブ目藻場が維持され,海藻種数に大きな変化は見られなかった。
著者
井上 孝 森本 健弘
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.479-492, 1991

This study examined how population density and agricultural land productivity in a metropolitan area varied spatially by discussing the case of the Kanto district. A mathematical model was presented for describing the relationship of these two values. Population density values were calculated from grid-cell data of the population census of 1980. Values of agricultural land productivity were represented by agricultural income per hectare estimated from grid-cell data of the agricultural census of 1980. Figure 3 shows distribution of these values.We attempted to find the complicated spatial patterns of these values by analyzing the covariation of them in two aspects: the covariation with distance from the city center (Fig. 4) and with azimuth angle in distance belts (Fig. 5).The facts that we found are summarized as follows:The covariation with distance showed a tendency to correlate positively in the inside range of 35km and showed a tendency to correlate negatively in the outside range of 35km, except the non-agricultural city core and the mountainous area beyond 95km.The variation with azimuth angle, both of density and of productivity, consisted of long waves and short waves. The long waves of density and productivity showed similar curves. By contrast, the short waves of them showed inverse curves. This inverse relationship was weaker in the outside range of 35km than the inside.A mathematical model was then presented on the basis of these facts. This model consists of the following two parts:1) The covariation with distanceThe following formulation describes the covariation of population density fP and agricultural land productivity fA with distance. Equation (1) shows the productivity fA (r, p) at a place where distance from the edge of the city center is r and deviation of density is p. Variables fA (r, p), gA (r), and hA (p) in (1) correspond to curves FA, G, and H in Figure 6 respectively. The variable gA (r) is a component declining exponentially with distance r; gA (r)>0 and (d/dr) gA (r)<0 for r>0. The variable hA (r) is a component increasing with decreasing deviation p; (d/dp) hA (p)<0; hA (p)≈0 at p=0. Let fP(r) be the population density at distance r and fP be the mean value of fP(r) with respect to overall r, we get p=fP(r)-fP and (d/dr)fP(r)<0. Thus hA (p) becomes a function of r and (d/dr)hA(p(r)) becomes positive. Let r0 be a constant distance, the relationship between gA (r) and hA (p) is given by inequalities (2) and (3).2) The covariation with azimuth angleThe following formulation describes the covariation of population density up and agricultural land productivity uA, with azimuth angle in a specific distance belt Both uP and uA are standardized values with respect to overall angle in the distance belt. The density uP(θ) at angle θ can be written in equation (4). Variables uP(θ) and vP(θ) in (4) correspond to curves UP and VP in Figure 7 respectively. The variable vP(θ) is a component representing long periodic variation; vP(θ+λ1)=vP(θ) for a constant λ1(>0)
著者
本村 猛能 森山 潤 山本 利一 角 和博 工藤 雄司
出版者
日本教育情報学会
雑誌
年会論文集
巻号頁・発行日
no.29, pp.310-311, 2013-11-09

本研究は諸外国の中学校,高等学校学習過程における生徒の「自己評価による意識調査」の診断を通して,情報教育の体系化とその学習内容を検討することを目的とする。対象国は,日本と中国,韓国,他の調査により比較検討した。このとき,文科相の評価の観点と併せてブルームの「認知・精神運動・情意」領域の評価の観点とペレグリーノの評価理論も取り入れた。その結果,情報教育の体系化についての認知度や「情報の科学的理解」について韓国が最も有意に高く,イメージは技能習得から知識へと推移している。我が国の情報教育のカリキュラムは,生徒の発達段階に応じた基礎的・基本的な知識の習得をはかる教授法と実習(技能)を取り入れたカリキュラムを検討する必要性があることが示唆された
著者
箕輪 はるか 北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 二宮 和彦 稲井 優希 大槻 勤 木野 康志 小荒井 一真 齊藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 高宮 幸一 竹内 幸生 土井 妙子 上杉 正樹 遠藤 暁 奥村 真吾 小野 貴大 小野崎 晴佳 勝見 尚也 神田 晃充 グエン タットタン 久保 謙哉 金野 俊太郎 鈴木 杏菜 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 髙橋 賢臣 竹中 聡汰 張 子見 中井 泉 中村 駿介 南部 明弘 西山 雄大 西山 純平 福田 大輔 藤井 健悟 藤田 将史 宮澤 直希 村野井 友 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 山守 航平 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【はじめに】日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした研究グループにより、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の陸域での大規模な調査が2011年6月に実施された。事故より5年が経過した2016年、その調査結果をふまえ放射性物質の移行過程の解明および現在の汚染状況の把握を目的として本研究プロジェクトを実施した。2016年6月から9月にかけて、のべ9日間176名により、帰還困難区域を中心とする福島第一原子力発電所近傍105箇所において、空間線量率の測定および土壌の採取を行った。プロジェクトの概要については別の講演にて報告するが、本講演では福島県双葉郡大熊町・双葉町の土壌中の放射性セシウム134Csおよび137Csのインベントリ、土壌深部への移行、134Cs/137Cs濃度比、また空間線量率との相関についての評価を報告する。【試料と測定】2016年6・7月に福島県双葉郡大熊町・双葉町の帰還困難区域内で未除染の公共施設36地点から深さ5 cm表層土壌を各地点5試料ずつ採取した。試料は深さ0-2.5 cmと2.5-5 cmの二つに分割し、乾燥処理後U8容器に充填し、Ge半導体検出器を用いてγ線スペクトルを測定し、放射性物質を定量した。【結果と考察】137Csのインベントリを航空機による空間線量率の地図に重ねたプロットを図1に示す。最大濃度はインベントリで137Csが68400kBq/m2、比放射能で1180kBq/kg・dryであった。インベントリは空間線量率との明確な相関がみられた。深部土壌(深さ2.5-5.0 cm)放射能/浅部土壌(深さ0-2.5 cm)放射能の比はおおむね1以下で表層の値の高い試料が多かったが、試料ごとの差が大きかった。また原子力発電所より北北西方向に134Cs/137Cs濃度比が0.87-0.93と明確に低い値を持つ地点が存在した。
著者
杉森 順子
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.93, 2015 (Released:2015-06-11)

本研究では、トヨタ産業技術記念館で行なわれた「未来へと続く夢」の事例から、博物館におけるプロジェクションマッピングが、展示物や空間と関連付けながら、どのようなコンセプトや背景により映像のデザインが行われたかを明らかにする。また、企画から上映までの運営や制作手法について述べる。このプロジェクションマッピングとは、投射(projection)と対応付け(mapping)を組み合わせた言葉で、立体物をスクリーンとしてその形状に合わせた映像を投影し、効果的な表現を行う技法である。投影された映像によって建築物や立体物が動く、光る、崩れる、曲がるなど空間錯視が生まれ、スペクタクルなイベントが行われたことで多くの興味を惹きつけた。認知度の高まりと共に、個人から大規模プロジェクトまで各地で多様な作品が制作されている。建物などに投影する中・大規模なプロジェクトでは、業務用高照度プロジェクタの導入と技術者、費用などが必要である。しかし、これらの情報は未だ十分とは言えない。ゆえに、本研究では企画から上映に至るまでの構築やデザイン手法について明らかにする。
著者
伊藤 康男 阿部 達哉 富岳 亮 小森 哲夫 荒木 信夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.103-107, 2010 (Released:2010-03-03)
参考文献数
11
被引用文献数
9 23

症例は19歳女性である.急性の異常行動と変動する意識障害で発症した.入院時妊娠17週で児の発育に問題はなかった.髄液検査で単核球優位の細胞数増多,抗NMDA受容体抗体陽性,頭部MRIで明らかな異常所見なく,非ヘルペス性辺縁系脳炎が考えられた.妊娠26週目より意識障害は徐々に改善し,妊娠37週で自然分娩した.骨盤MRIで卵巣奇形腫をみとめず,分娩後の抗NMDA受容体抗体が陰性化したことより,本症例の発症に妊娠との関連が示唆された.妊娠中に発症した抗NMDA受容体抗体陽性の非ヘルペス性辺縁系脳炎の報告例はまだなく,貴重な症例と考えたので報告する.
著者
森 明智
出版者
一般社団法人大学英語教育学会
雑誌
JACET中部支部紀要 (ISSN:18815375)
巻号頁・発行日
no.13, pp.111-128, 2015-12-25

This article presents the analysis of autobiographies narrated by learners of English in Japanese university. The focus of this research is on a sequential change of contents and each autobiography is analyzed based on two periods, which mean the period of junior high school (including elementary school), and that of senior high school. Using the approach of text mining, the difference between these two periods is clarified. That difference is discussed based on Vygotsky's concept development. From the results, this article presents some suggestions about English learning.
著者
藤森 宮子 NAKAMURA FUJIMORI Miyako
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.73-88, 2010-12

介護職の社会における立ち位置は、その国の福祉政策や労働政策、教育制度や雇用状況など、さまざまな要素が絡み合って成り立っている。日本では介護職の需要に対して、なり手が不足し離職率も高い。国家資格 介護福祉士取得者の約7割は実務経験3年以上が取得条件で受験し合格した。だが、2007(平成19)年度の法改正では、2012(平成24)年度からさらに6ヵ月以上(600時間以上)の研修も受験要件に加わる。ところが、現場の介護職や介護サービス事業者は長い研修は「実現不可能」だという。2010(平成22)年春に厚生労働省が実施したこのような調査結果から、受験要件の変更実施は延期される見込みである。なぜ、このような方針転換をせざるを得ないのか。働きながら学ぶ継続職業教育の公的政策が、日本では未発達だからである。そこで本稿では、前半では介護政策の大枠・介護職の国家資格などの日仏比較をする。後半ではフランスの介護職の人材育成方法を紹介する。具体的には、フランスの国家資格介護職の養成方法、労働法に規定された継続職業教育支援策、労働協約・取り決めによる研修計画とその財政措置などである。The social standing of nursing care workers in each country is determined by numerous factors, including national welfare and labour policy, education systems and the national employment situation. In Japan, the demand for nursing care workers far exceeds the number of people willing to take on such work and the turnover rate is high. With regards to the various eligibility criteria for the government-issued qualification as a certified care worker, just under seventy percent of people who obtained certification did so by having three years' nursing care work experience rather than specialist academic qualifications. However, a revision of the applicable law means that those seeking to become certified care workers will need a further training period of at least six months (at least 600 hours) in order to become qualified. Front-line nursing care workers and business owners say that long-term training is unfeasible because Japan's public policy regarding ongoing vocational training remains underdeveloped. This report provides qualifications of nursing care workers in Japan and France, and an overview of French methods of training and developing nursing care workers.
著者
佐々木 敏弘 崎山 一幸 弘田 泉生 藤田 篤志 山下 秀和 大森 英樹
出版者
パワーエレクトロニクス学会
雑誌
パワーエレクトロニクス研究会論文誌 (ISSN:09167269)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-34, 1998-10-01 (Released:2010-03-16)
参考文献数
2

Simulation technique is quite effective for the most optimized design of an induction-heated(IH) cooking appliance in which both electromagnetic field and thermal flow require to be controled. We developed the system of nonliner analysis for electromagnetic field and thermalfluid by finite element method. By this system it is possible to simulate the behavior of electromagnetic field which causes induced currents and the behavior of thermal fluid simultaneously. This paper presents the results of performance evaluation for the new IH rice cooker as one of the applications of this system.