著者
森田 千里 吉沢 英造 小林 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.473-481, 1997-04-25

抄録:成人の椎間板は,栄養血管を有さず人体の中で最大の無血管組織であり,その栄養路は椎体終板および線維輪を介する拡散によるとされている.なかでも椎体終板を介する経路の障害が椎間板変性の原因として重要視される.この経路において椎間板の栄養に関与すると考えられる構造として,軟骨管(cartilage canal)とvascular budsが存在する.本研究では,椎間板栄養経路のメカニズムを知ることを目的として,幼若期の軟骨性椎体部分にみられる軟骨管と,その後椎体終板付近に出現するvascular budsの微細構造を生後2日齢と生後6カ月齢の家兎の椎体をそれぞれ組織学的に観察した.今回は,microan-giogram・光顕・走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡下に観察し比較・検討した,その結果,軟骨管とvascular budsの形態は類似していることが証明され,両者は椎間板の栄養路として重要な位置にあることが示唆された.また両者の血管は有窓型を呈し血管透過性が高く,活発な代謝が行われているという形態学的な根拠が得られた.そして軟骨管では軟骨膜から軟骨細胞が形成され,骨性終板内vascular buds基部では間葉系細胞から骨芽細胞様の細胞が形成され,線維輪側のvascular budsでは線維芽細胞様の細胞から膠原線維が産生されると考えられる新しい知見が得られた.
著者
藤森 立男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.35-43, 1980-10-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

本研究は, 魅力次元を明らかにし, 各魅力の主要次元における態度の類似性と話題の重要性が対人魅力におよぼす効果を検討した.実験Iは, 5~7日の間隔で実施され3セッションからなっていた. 第1セッションでは, 予備調査に基づき, 8つの重要な話題 (質問紙α) と8つの非重要な話題 (質問紙β) を態度尺度として選び, 70人の被験者に6ポイント・スケールで評定させた. 第2セッションでは, 被験者の半分は, 同じ8つの重要な話題に反応している5人の質問紙αを提示され, その後で26の魅力評価尺度にそれぞれの人の評定を求められた. 5人の反応は, 被験者の反応と0%, 25%, 50%, 75%, 100%の類似性に操作されていた. ここで言う類似性とは, 8項目に対して占める被験者と提示人物との類似反応の比率のことであった. 非類似反応は, 被験者の反応から3ポイントずれており, 類似反応は常に同じであった. 第3セッションでは, 被験者は, 8つの非重要な話題に反応している5人の質問紙βを提示され, それから, それぞれの人の評定を求められた. 残りの被験者は, 第2セッションでは, 5人の質問紙βを, 第3セッションでは, 5人の質問紙αを提示された.実験IIは, 実験Iとほぼ同じであったが次の2点が異なっていた. (1) 被験者は, 3人の反応 (0%, 50%, 100%の類似性) を提示された. (2) 非類似反応は, 1ポイントずれていた.主要結果は, 以下のとおりであった.1. 魅力評価尺度の相関行列をprincipal componentanalysisに掛け, 有意味な因子と考えられる4因子をvarimax法により直交回転させたところ, 親密, 交遊, 承認, 共同などの因子が見出された.2. 両実験において, Byrneによって提出された態度の類似性-魅力理論は, 十分に確証された. すなわち, 態度の類似性の効果は, 各魅力次元において非常に有意であり, 態度の類似性が高くなるにつれて, 他者に対する魅力も高くなる傾向が見出された. しかし, 項目の重要性の効果は, 全般的に見られなかった.
著者
森安 孝夫 オチル モリヤス タカオ Moriyasu Takao Ochir Ayudai Очир А.
出版者
中央ユーラシア学研究会

目次1 (本文Mongli1.pdf) : 略号・文献目録 / 調査行程表・行程図 / 行動記録(1996,1997,1998年度) / GPS計測値表
著者
室生団体研究グループ 八尾 昭 茅原 芳正 別所 孝範 鎌田 浩毅 山本 俊哉 渕上 芳孝 石井 久夫 森山 義博 西尾 明保 寺戸 真 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.97-108, 2008
参考文献数
52
被引用文献数
2

中新世の室生火砕流堆積物は近畿地方,紀伊半島中央部に分布し,その面積は1.9×10^2km^2に達する.室生火砕流堆積物は基底相と主部相に区分できる.基底相は層厚50m未満で異質岩片を含む溶結した火砕流堆積物と火山豆石を含む降下火山灰,火砕サージ堆積物で構成される.主部相はさらに下部にはさまれる層厚30m未満の斜方輝石を含むデイサイト質火山礫凝灰岩と上部の層厚400mを超える膨大な黒雲母流紋岩質火山礫凝灰岩に分けられる.主部相の基質はほとんどが溶結した結晶凝灰岩である.基底相には中礫大未満のチャート,砂岩,頁岩などの岩片が含まれており,室生火砕流堆積物を供給した地域の基盤岩を構成していた.室生火砕流堆積物は以前から中期中新世の熊野・大峯酸性岩類など大規模な珪長質火成岩が分布する南方から供給されたと推定されていた.異質岩片のチャートにペルム紀〜ジュラ紀の放散虫化石が含まれ,その給源火山の一部は秩父帯にあった可能性がある.秩父帯では半円形の断裂に沿って火砕岩岩脈群が貫入する大台コールドロンが存在しており,膨大な火砕流を噴出したことが推定される.
著者
森 義信
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.129-148, 2007

紀元前2世紀末、北欧のゲルマン系譜族が南下し、ローマを脅かす動きを示したことは書誌学的に証明できる。より良い居住地を獲得するための第一次の南下と移動は、ローマ人に撃退され、ゲルマン人は所期の目的を果たせず、都市や農村を略奪して北へ戻っている。ただし、この際に捕えられたゲルマン人は小グループに分けられて北ガリアに屯田兵として入植させられた。この時期の北欧は,温暖化による海面上昇の時代にあり,北海沿岸の集落では防潮のため,さかんに盛り土がなされている。ゲルマン系諸族は、第二次移動期において、ローマ帝国の国境域や領内での土地占取に成功した。4世紀末のアルデンヌ高地、5世紀前半のボーデン潮周辺地域では,長期にわたる低温化と悪天候が生じていたと推定される。ボーデン湖畔のアレマン人は越境を開始し、北海沿岸の二つの集落の住民も離村し、この集落は廃村となっている。西ローマ帝国は、ゲルマン系譜族の移動によって,476年に終焉を迎えた。文書証拠のない時代の民族移動を跡付けることは、歴史家にとっては困難を極める。本稿は、ゲルマン民族の移動という歴史現象を,気象学上のデータとつきあわせ,前者の原因を気象変動に求めてみるという、一つの試論である。
著者
丸山 誠太 若林 哲宇 森 達哉
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.2, 2017-10-16

静電容量方式のタッチパネルに能動的に干渉を行い,ユーザの意図しないタッチイベントを引き起こす攻撃手法を提案する.提案する攻撃手法は二つ存在する.第一の手法は,攻撃回路からタッチパネルに対して特定周波数の交流電流が印加されるように外部から電界を加えることでタッチイベントを引き起こす.第二の手法は,攻撃回路とタッチパネル間の静電容量を任意に変化させることでタッチイベントを引き起こす.それぞれの手法を実装し,複数台のスマートフォンを利用して評価を行った結果,本攻撃が実用的であることが明らかになった.
著者
細谷 和範 森元 純一 野口 司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.213-223, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
20

本研究では中国山地を流れる吉井川において,かつて高瀬舟が補助動力として風を利用していたことを手がかりに,風力利用の可能性を調べた.はじめに高瀬舟に関する文献や資料の中から風力に関する情報を収集し,高瀬舟が帆走可能であった区間を調べたところ,中流域の和気町では帆走に適した風が得やすいものと推測された.続いて和気町周辺の風況観測を実施し,風況の特徴を整理するとともに,簡単な風系推定モデルを用いて風場を推算した.この結果,和気町では年間を通じて昼間に2m/s~3m/s程度の風が得られる他,和気町を流れる吉井川は平地からの風が流入しやすい地形条件を有していることが見いだされた.この地域の風速は概して小さく,風力発電には適さないが,過去に利用された自然エネルギーを学ぶ環境教育への活用が期待できる.
著者
中森 康浩 大澤 亨 二木 元典
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1-2, pp.21-24, 2017-06-20

[抄録] 今回,我々はオキシドールを浣腸し急性出血性大腸炎を発症した1例を経験した.症例は43歳男性.以前よりグリセリン浣腸を習慣的に使用していたが,今回誤ってオキシドールを浣腸し,その後より血便,腹痛,倦怠感を認めた.近医を受診し直腸炎の診断にて精査加療目的に当科紹介となる.大腸内視鏡にて直腸から連続する粘膜浮腫像,炎症像を認めた.CTでは直腸からS状結腸にかけて浮腫状の腫張及び周囲脂肪織の濃度上昇を認め,口側腸管との口径差を認めた.明かなfree air,腹水貯留は認められなかった.オキシドールの浣腸による急性出血性大腸炎の診断にて絶飲食,ステロイド注腸,点滴による保存的加療を開始した.発症4日目より飲水を開始.発症7日目の大腸内視鏡では炎症像が残存するも症状は消失しており,経口摂取開始後も症状再燃無く,発症14日目に退院となった.オキシドールは容易に入手できるが誤用により重篤な症状を呈するためその危険性を認識しておく必要があると考えられた.
著者
森田 浩之
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.37-48, 2012-03-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
14

本稿は、東日本大震災後にメディアに表れたスポーツにからむ「物語(ナラティブ)」を検証し、その功罪を検討する。 「未曾有の国難」に沈む日本と被災地を、スポーツとトップアスリートが元気づける──そうした動きと思想は、まずヨーロッパでプレイするサッカー選手3人が出演するACジャパンの公共CMにみられた。「日本の強さは団結力です」「日本がひとつのチームなんです」という選手たちのせりふは何げないものに聞こえるが、そこには日本のメディアスポーツが語りつづけてきた物語が詰まっていた。 メディアが大震災と最も強く結びつけた大ニュースが、「なでしこジャパン」の愛称で知られるサッカー日本女子代表のワールドカップ優勝だった。ひとつは国家的悲劇であり、もうひとつは国民的慶事と、対照的にみえるふたつの出来事が、メディアによって強く接合された。なでしこジャパンは被災地から「元気」をもらったとされ、なでしこが世界一になったことで被災地も「元気」をもらったとされた。それらの物語はどのメディアをとっても均質的、類型的であり、東北出身の選手や東京電力に勤務したことのある選手には特別な役回りを担わせていた。しかもメディアが意図したかどうかにかかわらず、「あきらめない心」や「粘り強さ」といったなでしこジャパンの特徴とされるものは、3.11後の「日本人」に求められる心性と重なっていた。 このような均一化された物語の過剰は、「絆」ということばが3.11後のキーワードになることに加担した。被災地との「絆」がつねにあるかのように語られることで、現実には存在する非・被災地との分断が覆い隠されるおそれもある。
著者
岡崎 真博 森島 信 松谷 宏紀
雑誌
第81回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.89-90, 2019-02-28

近年、GPUなどのハードウェアを用いた処理の高速化、省電力化などが研究されている。また、扱われるデータ量が増え続けることが予想され、高速化、省電力化の需要はますます高まっている。本論文では複数のGPU(Graphics Processing Unit)をネットワーク経由で用いて、演算の高速化を行い、評価を行う。通常GPUは、マシンのPCIeに直接接続して使用することが多いが、大量のGPUを同時に使用する際や、複数のマシンで単一のGPUを使用する際にはネットワーク経由で使用する必要がある。本論文ではクライアントサーバモデルによる接続手法とPCIe over 10GbEによる接続手法の2つを使用し、特徴に合わせて割り当てを行う。
著者
柴田 尚武 森 和夫 関根 一郎 須山 弘文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1089-1094, 1988-11-01

抄録 22歳女性,1年前まで覚醒剤を常用していた。1年ぶりにメタンフェタミン(MAP)を静注後昏睡となり,くも膜下出血で死亡した。脳血管造影で右脳梁周動脈にextravasationを認め,血中に374μg/100gのMAPを検出した。剖検にて脳主幹動脈に中膜平滑筋壊死を主体とする病変が広範に観察され,程度は前大脳>中大脳>椎骨>後大脳>脳底動脈の順に強かった。中膜壊死部には炎症細胞浸潤や滲出物を認めず,ごく早期の病変と考えられた。その他,線維性内膜肥厚や中膜石灰化も存在した。MAPポリクロナール抗体を用いた免疫組織学的検索では,中膜の壊死周辺部で染色された。以上より,MAP中毒に頭蓋内出血を合併する成因としては,まず,脳主幹動脈中膜の急性壊死をおこして血管の脆弱化をきたし,さらにカテコールアミン遊離作用による急激な血圧上昇が加わって破裂をおこし,出血すると考えられる。
著者
森 広子 小林 章子 吉川 沙苗 山下 仁
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.137-142, 2009

目的:精油が循環器系に与える影響に注目し,血圧と脈拍に対する効果を評価した.<br> 方法:昇圧作用があるとされているローズマリーと,降圧作用があるとされている真正ラベンダーの 2 種類の精油を用いた.被験者 60 名を,ローズマリー群,真正ラベンダー群,およびコントロール群の 3 群に分け,2 分間の香り吸入前後に血圧・脈拍測定を行い,さらに香りに対する嗜好を 10 段階で評価し,香りの嗜好が血圧・脈拍に及ぼす影響も検討した.<br> 結果:ローズマリー吸入後に有意な脈拍上昇を認めた.また,ローズマリーの香りに否定的な感情をもった被験者群では,吸入後の拡張期血圧上昇傾向を認めた.一方,真正ラベンダーの香りに否定的な感情をもった被験者群では,吸入後の脈拍上昇傾向を認め,「肯定群」「否定群」間で収縮期血圧と脈拍における吸入前後の変化のパターンに有意差が見られた.<br> 結論:精油成分から想定される効果だけでなく,香りに対する好き嫌いが,生体反応に影響を与える事が示唆された.<br>
著者
森 洵太
出版者
大阪市立大学経営学会
雑誌
経営研究 = The business review (ISSN:04515986)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.57-70, 2019-05

Several changes in the International Accounting Standards Board(IASB) are evident since the 2008 financial crisis. For example, on the organizational front,the IASB built a mechanism with the involvement of numerous stakeholders(groups), while on the procedural front, its stance emphasizes due process. On the other hand, its retreat from insistence on the application of fair value accounting is evident. This study takes two legitimacies employed in previous EU-related research as its analytical perspective. Since the financial crisis, the IASB retreated from its original claims and is moving its central focus of standards development to coordination with various countries and groups. As the number of concerned groups expands, the IASB encountered prolonged standards development, with a resulting risk of reduced output in terms of its legitimacy. That is to say, the IASB may potentially fall into the same dilemma as the EU.
著者
水上 宏二 平田 祐子 森山 友幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.47-51, 2016 (Released:2016-03-31)
参考文献数
12

アスパラガスの半促成長期どり栽培において若茎調製残渣(以下,若茎残渣)の糖度と貯蔵根糖度との関係性を検討し,以下の知見を得た.春芽収穫期間中の若茎残渣糖度は,収穫始めは高く,収穫が進むにつれて漸次低下する傾向が認められ,定植後7~9年では3年および5年と比べて顕著に高く推移した.この株の生育年数による若茎残渣糖度の水準の違いは,夏秋芽でも同様な傾向がみられた.若茎残渣糖度の経時変動は,貯蔵根に蓄積された糖の濃度を推定できる貯蔵根糖度の変動と似通った.両糖度間には,春芽収穫期間が相関係数r = 0.9166の高い正の相関が,夏秋芽収穫期間ではr = 0.6963の正の相関が認められた.これらのことから,若茎残渣糖度をもって貯蔵養分の蓄積状況を推定できることが示唆される.
著者
森永 康子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.97-104, 1994-03-25 (Released:2016-12-02)

Gender differences in work values were examined among Japanese college students. Factor analyses indicated that work values formed slightly different factors between genders, suggesting that men and women perceived work values differently. In comparison to men, women attached greater importance to various aspects of work values (i.e., intellectual stimulation, family, social contribution, and comfortable work environment). Men placed higher values on achievement than women did. The relationships between attitudes toward women's roles and work values were also investigated. Gender role attitudes did not strongly relate to women's values on achievement. Intellectual stimulation was valued higher by women of liberal attitudes than those of traditional attitudes. Men showed significant relationships between gender role attitudes and some aspects of work values. Men of traditional attitudes attached higher importance to achievement and comfortable work environment, and lower importance to family, than those of liberal attitudes. These results were discussed in relation to career aspirations and vocational behavior.
著者
大森 信徳
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
人文論集 (ISSN:04414225)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.79-87, 2021-02-20
著者
森田 明雄 小西 茂毅 中村 順行 清水 絹恵 横田 博実
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-9, 2004 (Released:2004-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

日本で育成された緑茶用品種の中から29品種を選び,それぞれ一番茶生育期前(3月1日)の成葉と摘採適期の一番茶新芽を採取し,全窒素,全遊離アミノ酸,テアニン,タンニン,カフェイン,ビタミンC含量を近赤外分光法により測定した.その結果,一番茶では,育成年と茶の滋味に関係する全窒素,遊離アミノ酸並びにテアニン含量との間に正の相関が認められた.つまり,育成年が新しい品種ほどそれらの窒素成分含量が高かった.しかし,同じ窒素化合物でも,苦味成分であるカフェイン含量には育成年の新旧に応じた差はなく,また渋味成分であるタンニン含量は反対に育成年との間に負の相関が認められた.一方,一番茶生育期前に採取した成葉でも,一番茶と同様に育成年と全窒素,遊離アミノ酸,テアニン含量との間に正の相関が認められ,育成年の新しい品種ほどこれらの窒素成分含量が高かった.しかし,成葉においては,育成年とタンニン含量との間に有意な相関はみられなかった.また,一番茶と一番茶生育前の成葉の全遊離アミノ酸含量同士の間に正の相関が示された. 次に,上述の煎茶用品種の中から1960年以降に育成された10品種を選び,一番茶摘採前期,後期,終期に相当する5月4日,14日,17日の3回,一心五葉芽の一心三葉部分のみを採取し,全窒素含量と可溶性窒素(全遊離アミノ酸に相当)含量を分析した.その結果,いずれの収穫日においても,摘採適期に収穫した場合と同様に,育成年と全窒素並びに可溶性窒素含量との間に高い正の相関を示した. これらの結果から,チャの育種では,近年の栽培等の技術の進展を背景に,滋味成分である窒素成分含量が高く,渋味成分であるタンニン含量の少ない茶葉をもつ個体が選抜されたことが示された.また,摘採適期に収穫した一番茶以外でも,一番茶生育期前の成葉または摘採期前期から終期までの新芽の一心三葉部分のみを試料に用いた成分分析値も,チャの成分育種の効率化に有効な資料として活用できることが示された.