著者
森 哲彦
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-18, 2007-06-23

カント著書『純粋理性批判』を解読するに際し、カント哲学前批判期をどう取り扱うかについて、二つの問題が見られる。その際、まずカントのどの著作から取り扱うべきか、これが第一の問題である。さてカントは1781年のヘルツ宛の手紙で、批判期の『純粋理性批判』にあっては「(1770年著作)『可感界と可想界』という標題のもとで私たちが一緒に論究した....研究の成果を含む」とする。また1783年のガルヴェ宛の手紙や同年のメンデルスゾーン宛の手紙でも『純粋理性批判』について「少なくとも12年間に渡る反省の所産」であるとする。このことから『純粋理性批判』解明のための有効な方途として、前批判期を狭義には1770年著作『可感界と可想界』をもって始めるとする論者もある。 しかし広義に考えれば『純粋理性批判』で、認識対象でなく方法が重視される点は、早くもカントの1747年処女作『活力測定考』に見られるところである。また神の存在証明の問題も1755年著作『天界自然史論』に伺える。このことから本論では、広義の観点から解明する。この広義の立場を取るものに、例えば、カッシーラー(1918)、シュルツ(1965)、カウルバッハ(1969)、浜田義文(1967)、高橋昭二(1969)の諸研究がある。次に1755年著作『形而上学的認識の第一原理の新解明』は、大半が矛盾律、同一律、決定根拠律という形式論理学を論述するものであり、『純粋理性批判』の内容に直接的に関連しないためか、従来論評されることは少ない。例えば、カッシーラーやカウルバッハは、他のカントの著作に比してこの著作を簡単に取り扱う。これが第二の問題である。 しかしこの著作はカントの最初の形而上学の可能性を論究したものであるゆえ、本論では他の著作を同様に取り上げる。なおヤスパース(1957)は、カント哲学前批判期の諸著作のうち、この著作から論評している。
著者
曹 蓮 杉森 伸吉 高 史明
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究
巻号頁・発行日
2018
被引用文献数
1

<p>In this study, we investigated cultural differences in multisensory perception of emotion between Chinese and Japanese participants, focusing on mutual interference of visual and auditory emotional information. In this experiment, the face-voice pairs were consisted of congruent or incongruent emotions (e.g., a happy (an angry) face with a happy (an angry) voice in congruent pairs, and a happy (an angry) face with an angry (a happy) voice in incongruent pairs). Participants were asked to judge the emotion of targets focusing on either face or voice while ignoring the other modality's information. In the voice-focus condition, the effect of to-be-ignored facial information was smaller in Japanese than Chinese participants, only when the participant and the target belonged to the same cultures (in-group). This indicated that Japanese people were more likely to be based on the voice information in multisensory perception of emotion of in-group. Our study illuminated that although both Japanese and Chinese people belonged to the Eastern culture, there were cultural differences in perceiving emotion from visual and auditory cues.</p>
著者
小野原 彩香 谷岡 健資 土山 玄 大森 崇 オノハラ アヤカ タニオカ ケンスケ ツチヤマ ゲン オオモリ タカシ Onohara Ayaka Tanioka Kensuke Tsuchiyama Gen Omori Takashi
出版者
同志社大学文化情報学会
雑誌
文化情報学 (ISSN:18808603)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 2013-03

研究論文本報告では、統計教育大学間連携ネットワーク連携校6校で行われている統計関連科目のシラバスを分析し、文化情報学部における統計教育の時間数の多さと内容の多様性が明らかとなった。また、文化情報学部にて開講されているデータサイエンス科目を受講する学生に対し、授業評価アンケートを行った結果、グループ活動の重要さと理系・文系出身者での授業に対する印象の違いが明らかとなり、今後の授業作りに示唆を与える結果となった。In this research, we analyzed syllabuses of subjects about statistics which had been taught in six universities which belong to the organization about statistics education. In result from analyses, it was revealed that Faculty of Culture and Information Science has most statistics classes and various contents in six universities. On the other hand, we surveyed assessments of data science's classes by their students, and we got suggestions about the direction of class through facts that is importance of group work and the difference of idea between the arts students and sciences students.
著者
森岡 正博
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.2, pp.p125-137, 1990-03

人間の知的な営みの本質には、ここではない「もうひとつの世界」、この私ではない「もうひとりの私」を空想し、反芻する性向がある。スタニスワフ・レムとタルコフスキーの『ソラリス』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の作品世界は、この「もうひとつの世界・もうひとりの私」へと向かう想像力によって、形成されている。そして、その想像力の根底にあるものは、「死」へのまなざしであり、「救済」の希求である。人が「もうひとつの」なにかへと超越しようとするのは、そこに死と救済がたちあらわれてくるからなのだ。
著者
久保 博尚 長瀬 通昭 板谷 芳樹 大森 丈治 吉岡 勝
出版者
The Japan Institute of Marine Engineering
雑誌
日本舶用機関学会誌 (ISSN:03883051)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.263-270, 1987
被引用文献数
1

Various attentions have been paid to improvement of propeller efficiency. Among these devices, the free rotating propeller (vane wheel) to be fitted additionally behind conventional main propeller is the most attractive one. However the design method, blade strength, etc. of the free rotating propeller are not specified.<BR>The authors designed the free rotating propeller for the ship by applying the momentum theory and the blade element theory that are used for designing the hydraulic machineries. In this report, the design accuracy is compared with full-scale measurements and as the results, the following conclusions are obtained.<BR>(1) The calculated revolutions and energy saving rate of the free rotating propeller show a similarity to those of measurements.<BR>(2) Measured energy saving rate is 6-8.5% at same speed condition.<BR>(3) The mean blade stress is 2.6kgf/mm<SUP>2</SUP> {25 MPa} and the fluctuation of blade stress for a rotation is 8.8kgf/mm<SUP>2</SUP> {86 MPa} in peak-to-peak value.<BR>(4) The pressure fluctuation caused by main propeller is reduced by 20% at the blade frequency components.
著者
佐々木 厚 吉村 正久 鈴木 誠一 森山 厳與 金浜 耕基
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.187-194, 2013
被引用文献数
2

赤色電球形蛍光ランプによる暗期中断時間と光強度がスプレーギクの開花と花房の形状に及ぼす影響について,秋ギク'ゴールドストックダークリネカー'および夏秋ギク'コイアローム'を用いて調べた.光源として,市販の白熱電球(対照光源,75 W)および660 nmの波長をピークにもち,赤色光を多く含む赤色電球形蛍光ランプ(21 W,試作品)を用いた.その結果,いずれの品種とも,商品価値の高い整った花房の形状を示す花芽分化抑制可能な光合成有効光量子束密度(PPFD)の下限値は,同じ暗期中断時間で比較すると,赤色電球形蛍光ランプを使用した場合に白熱電球を使用した場合より低かった.秋ギク品種では,赤色電球形蛍光ランプを使用して1時間の暗期中断を行った場合,花芽分化抑制可能なPPFDの下限値が示されたが,白熱電球を使用した場合では示されなかった.さらに,いずれの品種においても,赤色電球形蛍光ランプを使用した場合の花芽分化抑制可能なPPFDの下限値と,これに対応する暗期中断時間の積の値がほぼ一定になったことから,花芽分化抑制可能なPPFDの下限値と暗期中断時間は反比例の関係にあり,ブンセン-ロスコーの相反則が成り立っていると考えられた.<br>
著者
高田 京比子 三成 美保 小浜 正子 田端 泰子 栗原 麻子 山辺 規子 長志 珠絵 河村 貞枝 福長 進 森 紀子 山本 秀行 京楽 真帆子 持田 ひろみ
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アメリカ文学におけるますキュリニティー研究の成果を摂取しながら、日本史・東洋史、西洋史における母 - 息子関係の比較研究を行った。2006年度に3回、2007年度に5回、2008年度に1回の研究会と合宿発表会を持ち、それぞれの研究成果を発表して討論を行った。2008年には「家長権をめぐる<母>機能の比較史」というタイトルで比較家族史学会に於いてミニシンポジウムを行った。
著者
森 肇
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.D8-D12, 1968

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
西山 浩司 清野 聡子 石原 大樹 森山 聡之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.I_191-I_198, 2016
被引用文献数
1

2015年9月1日午前3時台,対馬海域で発生した突風の影響で漁船が転覆する死亡事故が起こった.しかし,夜間は目視ができず,突風の予測も難しい現状にある.そこで本研究では,対馬事例を含めて,2007~13年に前線活動に伴って陸上で確認された,西日本・東日本の突風事例(54事例)を対象に,気象レーダーの分析に基づいて,突風を取り巻く降水域の特徴を調べた.その結果,突風発生時間の緯度経度0.2度幅の狭い範囲で,80%以上の事例で強い降水強度の領域(80mm/h以上)を捉えた.また,緯度経度1度幅の範囲に拡大すると,発生1時間前に70%程度の事例で強い降水強度を捉えた.従って,前線活動に起因する突風の場合,発生1時間前までであれば,気象レーダーで強い降水強度の領域の接近を監視することで,夜間の突風被害から身を守ることが可能と考えられる.
著者
加藤 清 森下 悟 手嶌 孝弥 刈田 陽一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.495-501, 1988-09-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
5

高温空気雰囲気中における放射性核種の挙動を調べるために, 各放射性核種の水溶液を乾燥したものを電気炉で加熱し, 加熱温度に対する核種の揮発率の測定を行った。その結果, 塩化物の54Mn, 57Co, 59Feおよび95Zrについては, 400-1200℃では揮発しなかった。また, 塩化物の65Zn, 106Ru, 124Sb, 134CsおよびNa275SeO3では, 500℃, 400℃, 800℃, 400℃および200℃あたりから揮発し始めることが確認された。
著者
芳賀 高洋 我妻 潤子 臼井 洋子 大谷 卓史 工藤 紗貴子 鈴木 二正 高瀬 浩之 塚本 初恵 豊福 晋平 中駄 康博 西尾 琢郎 森棟 隆一 三輪 吉和 渡辺 光輝
出版者
日本デジタル教科書学会
巻号頁・発行日
pp.61-62, 2017 (Released:2017-10-02)
参考文献数
2

文化庁 文化審議会著作権分科会は2017年4月「文化審議会著作権分科会報告書」において「教育の情報化の推進等」を公表した。本ポスター発表では、こうした審議会等で討議される教育に関連した最新動向(権利制限の拡大案や公衆送信権に関わる補償金制度導入、学生からの著作権利用許諾料金の徴収、ライセンシング体制の整備ほか)の要点を解説し、著作者・著作権者と利用者(教員、児童生徒、保護者)との「対話」の促進のためのコミュニティの構築といった、今後求められる施策について提案する。
著者
井上 剛 森山 芳則
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

有効な治療薬が無い難治性てんかんに対して、ケトン食療法が有効であることが知られている。そこで本研究では、ケトン食による代謝変化(ケトン体の上昇、グルコースの減少)に着目し、その作用機序の解明と抗てんかん剤の同定を行った。ケトン体の化学構造を改変する事で、興奮性シナプス伝達を抑え、抗てんかん作用も示す化合物を見出した。さらに、ケトン食による神経抑制・抗てんかん作用の新規メカニズムも見出し、それに基づく抗てんかん剤も見出した。
著者
森田 恵美子 青山 宏樹 梶本 浩之
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.FcOF1111-FcOF1111, 2011

【目的】<BR>重症筋無力症(以下、MG)患者にとって、気候や入浴等による外気温の変化は、筋出力低下を引き起こす一要因であるものの、このような症状は一般的には知られていない。MGの簡易的な診断方法としてアイステストがある。これは閉眼した眼瞼の上に、袋に入れた氷を2分間置き、眼瞼下垂が2mm以上改善すれば陽性と判別する方法である。今回はこのアイステストをヒントに、寒冷刺激によってMG患者の疲労度が軽減するという仮説を立て、反復誘発筋電図テスト(Harvey-Masland test)を用いて漸減(waning)現象に着目し検証したので報告する。<BR>【方法】<BR>対象者は12年前にMGを発症し胸腺全摘出を施行した女性(年齢42歳)1名である。Osseman分類II-A、抗AchR抗体2200nmol/L、症状として日内変動による眼瞼下垂、複視、全身脱力感はあるが、就労を含む日常生活に支障はない状態である。今回の実験はHarvey-Masland testのプロトコールに従って実施した。はじめに、尺側手根屈筋に対して筋疲労を生じさせるため、誘発電位・筋電図検査装置(Nicolet社製Viking Quest S403)を用いて、尺骨神経に最大上刺激(10.2mV)にて周波数50Hzの頻度で電気刺激を5秒間与えた。2分間の休息を入れた後、3Hzおよび1Hzにて尺骨神経を肘関節部内側上顆の直下から刺激し、尺側手根屈筋の表面筋電図を導出した。実験条件は、反復神経刺激を与える前に氷嚢で尺側手根屈筋筋腹を20分間冷却した寒冷刺激および介入なしの2条件とした。また尺側手根屈筋筋腹部の表在温度も測定した。各条件において計測は7回実施し、導出された筋電図の初発に対する5発目の振幅の割合を算出し、平均漸減率を求めた。一元配置分散分析および多重比較にて統計学的検討を行った。<BR>【説明と同意】<BR>対象者に対して、ヘルシンキ宣言に従い事前に本研究の主旨を説明し、実験に参加する同意を得た。<BR>【結果】<BR>電気刺激によって誘発された筋電図の漸減率を比較したところ、介入なしの1Hzでは漸減率が92.8%、3Hzでは76.8%であった。寒冷刺激の漸減率は1Hzで99.2%、3Hzでは102.8%であった。介入なしでは1Hzに比べ3Hzの電気刺激の方が有意(P<0.01)に漸減率が高かった。3Hzの反復刺激においては、介入なしに比べ寒冷刺激の方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。また、介入なしの1Hzに比べ寒冷刺激の3Hzの方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。尺側手根屈筋筋腹部の表在温度は介入なしで31.2±0.4度、寒冷刺激で23.6±0.8度であり、両者で有意差が認められた(P<0.05)。<BR>【考察】<BR>今回の実験では、介入なしの条件下での1Hzの刺激では活動電位の漸減は見られなかったものの、3Hzの刺激では76.8%の漸減が認められwaning現象が確認された。Waning 現象とは、5Hz以下の刺激下で5発目の活動電位の振幅が初発の振幅の90%以下になる現象を示すが、Harvey-Maslandによると、健常者およびMGでは1Hzの刺激を与えても筋活動電位の振幅には減衰は起こりにくく、3Hzの刺激では健常者では減衰は全く起こらないか、せいぜい7%以下である一方、MG患者では顕著に出現するとしている。今回は、このHarvey-Maslandのテストのプロトコールに沿って実施したことで、介入なしでの3Hzの刺激のみにwaning現象が出現したと考えられ、今回の対象者がMG特有の波形を示すことが確認された。この対象者に寒冷刺激の条件下で3Hzの反復電気刺激を与えたところ、漸減率は102.8%でありwaning現象は認められなかった。この結果は寒冷刺激によって表在温度が23.6度まで下がったことで、アセチルコリン分解酵素であるコリンエステラーゼの作用が介入なしよりも抑制されたことが一要因ではないかと考える。以上のことより今回の実験では、MG患者に対しての寒冷刺激が神経筋接合部での疲労および筋出力低下を軽減させる一助となることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>現在MG患者の運動療法においては、疲労回避のための低負荷・高頻度の運動が推奨されている。しかし、MG患者が外気温もしくは自身の表在温度を配慮し運動を行った報告はほとんど見当たらない。寒冷刺激が実際のパフォーマンス後の筋出力低下、疲労度を軽減することが可能であれば、運動実施前の寒冷療法が有効な手段となりうるのではないかと考える。<BR>