- 著者
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塩崎 大輔
橋本 雄一
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.301, 2020 (Released:2020-03-30)
1.研究目的 高度経済成長期以降,日本では大規模リゾート施設や大型保養地が各地で開発され,北海道や東北,本州内陸部といった積雪地域ではスキー場を中心としたスキーリゾート開発が進められた.しかしバブル経済の崩壊とともに,スキーリゾート地域は長らく低迷の時代を迎えた(呉羽,2017).しかし,2000年代後半から一部スキー場は外国人からの注目を集め,スキー場周辺の再開発が見られるようになった.北海道虻田郡倶知安町に位置するニセコグランヒラフスキー場もその一つである.グランヒラフスキー場が位置する倶知安町字山田はバブル経済とともに開発が活発化し,また開発エリアも泉郷や樺山といった隣接エリアにまで拡大していった.しかしバブル経済の崩壊とともに開発行為が停滞し,2000年代後半から外国人による開発が急拡大した(塩崎・橋本,2017).現在では6階以上の高層階を有する分譲型の建物が建築されているが,こうした不動産の実態は未だ不明である.そこで本研究は不動産登記情報をもとに,ニセコヒラフ地区における建物および不動産所有の実態を明らかにし,空間特性および課題を議論することを目的とする.2.研究対象地域及び研究方法 研究対象地域は北海道虻田郡倶知安町字山田,道道343号からグランヒラフスキー場にかけてのエリア(以後ヒラフ北部地区と称す)とする.本研究はまず,不動産の登記情報723件をデータベース化する.登記情報を収集するにあたっては,ZENRIN住宅地図の2017年度版に記載されているヒラフ北部地区の建物を対象とした.次に登記に記載されてある建物情報及び所有者情報から,不動産及び不動産所有の実態を明らかにする.さらに建物の立地及び建物情報,所有者情報からニセコヒラフ地区における現在の不動産及び不動産所有の空間特性を議論する.最後に当該地区の不動産と災害リスクについて考察し、これらの分析結果を総合し本研究はニセコエリアにおける地域開発を議論する。3.研究結果まず登記情報を集計した結果,ヒラフ北部地区の専有部種類は12種類登録されており,最も多いのが「居宅」で451件であった.次いで多いのが「ホテル」で114件であり,「物置」47件,「店舗」27件と続いた.建物毎に集計すると,建物内に50件以上の「居宅」を有する建物は4棟存在した.これらの建物は一般的な宿泊予約サイトにも掲載されており,「居宅」で登録された部屋が宿泊施設としても利用されている. 次に各専有部の所有者の変化を見ると,表題部に記載された所有者の所在が,倶知安町で236件と最も多かった.次に札幌市が213件と多く,東京都が85件,オーストラリアが85件,神奈川県が49件,マレーシアが4件であった.しかし売買などを経た最終的な所有者は,最も多いのが中華人民共和国で210件,次にオーストラリアが101件,シンガポールが82件とアジア圏の所有者が増加している一方で,倶知安町が32件,札幌市が19件と激減している.これにより北海道のディベロッパーがヒラフ北部地区を開発し,専有部をアジア圏の富裕層に販売している実態が明らかとなった. 各建物の立地時期を年代別に分けて表示すると,多くの建物が2010年代に開発されたものということが見てわかる(図1).また西側から南側にかけて沢が存在するが,この沢に沿う形で建物が並んでいる様子もわかる.もともとヒラフスキー場は沢に挟まれた狭矮な土地であり,地形的制約から開発が拡大しにくいため,飛び地的に泉郷や樺山エリアが開発されてきた.しかし近年ではこの沢付近でも開発が行われる傾向があり,そうして開発された建物を多くの外国人が所有する実態が明らかとなった. こうした地形は災害リスクも伴う.ヒラフ地区は沢地形のような急傾斜地が多いため,土砂災害エリアが設定されており,図1で示された多くの建物がこのエリア内に存在する.またこれらの建物には外国人オーナーはもちろん,宿泊施設としても多くの外国人が来る.こうした人たちに災害情報をどのように伝達するのか,また災害発生時にどのようにアプローチするべきなのかを検討する必要があると考えられる.