著者
横内 颯太 橋本 雄一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

1.研究の目的と方法 地理学分野において,日本のスキー観光の動向は呉羽(2009)などで明らかにされており,バブル経済崩壊以降におけるスキー客の減少や観光産業の衰退が述べられている。しかし,この時期に北海道ニセコ地域は,外国人観光客を取り込むことで活性化を図り,近年ではICTを活用して国際的観光地としてのブランド化を進めている。そこで本研究は,ニセコ町におけるスキーリゾート開発におけるICT活用の実態を明らかにし,その課題を検討する。そのために,まずニセコ町におけるICT導入の経緯,次にスキーリゾートに関する具体的なICT活用を明らかにし,最後に,当該地域のICT活用の課題について述べる。 2.ニセコ町国際ICTリゾートタウン化構想 近年のニセコ町では,年間140万人を超える観光客があるが,北海道経済産業局(2009年)「北海道経済産業局北海道の観光産業のグローバル化促進調査事業報告書」で指摘されたように,情報入手に関する満足度が低い。そこで,2012年から「ニセコ町国際ICTリゾートタウン化構想」として,情報入手を容易にし,地域を活性化のための共通基盤となるICT整備が進められた。なお,この事業の一環である「冬季Wi-Fi実証実験」は,ビッグデータをスキーリゾート開発に活用しようという稀な実験である。 3.冬季Wi-Fi実証実験 「冬季Wi-Fi実証実験」(2013年1月~3月)では,道の駅や観光案内所,またスキー場周辺の宿泊施設など,観光の拠点となる場所の公衆無線LANに加え,スキー場を中心としたWi-Fi が整備された。さらに,スキー場利用客のためのスマートフォン用アプリも試験的に導入され,これによってスキー場利用のルール,施設位置,走行ログ,雪崩情報などを確認できるようになった。なお,このアプリは情報をサーバに蓄積してビッグデータを作成するため,これを解析することで,国・地域別利用者の嗜好を考慮した高度なサービスを行えるようにする狙いがあった。 4.ニセコ町におけるICT活用の課題 ニセコ町における上記取り組みには,システム間情報連携に関する技術面での課題や,無料公衆無線LAN設置に関する制度面での課題が確認された。 今後,このICT活用の取り組みは,リゾート開発だけではなく,ニセコ町が2014年から進めている「ICT街づくり推進事業」において続けられる予定である。特に,ビックデータ活用については行政保有データと複合的に連携させて「ニセコスマートコミュニティ共通ICT基盤」を構築することで,除排雪や防災などでの活用が期待されている。これらの動きを含めて,観光関係だけでなく,まちづくり全体での自治体によるICT活用を明らかにすることが,本研究の課題である。
著者
塩崎 大輔 橋本 雄一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.研究目的</b><b></b> <br>日本の積雪寒冷地における代表的な地域開発としてスキーリゾート開発があげられるが、バブル期以降のスキー観光の停滞、衰退が著しいことが指摘されている(呉羽,2009)。こうした状況の中、北海道ニセコ地域では外国人観光客の取り込みを図り、特に北海道ニセコひらふ地区においては外国人向けコンドミニアムの建築など開発が盛んな地域として注目され、小澤ほか(2011)や呉羽(2014)など多くの知見が得られてきた。しかし、これまでのニセコ地域を対象とする研究では、特に開発が盛んであるひらふ地区に着目した研究が多く、ニセコ地域全体の開発に関する蓄積は少ない。そこで本研究は建築計画概要書データを用いてニセコ地域における開発の変化を明らかにすることを目的とする。 <br> <b>2</b><b>.研究方法及び資料</b><b></b> <br>本研究の対象地域は北海道虻田郡倶知安町及びニセコ町である。本研究を行うにあたって、倶知安町及びニセコ町の建築確認申請概要書に記載されている新規建築計画680件の建築確認申請概要書をデータベース化する。このデータベースを用いて新規建築の件数及び面積から開発行動の経年変化を分析し、ニセコ地域全域の開発の実態を明らかにする。次にニセコ地域における新規建築の分布変化をみることにより、ニセコ地域における開発の動向を分析する。最後にこれらの分析結果を総合し、本研究は積雪寒冷地におけるリゾート地域における開発の時系列変化を考察する。 <br> <b>3</b><b>.研究結果</b><b></b> <br>(1)ニセコ地域の新規建築の件数及び面積の時系列変化をみることにより、地方地域の開発行動が景気の影響を受けて変化していることが明らかとなった。2006年以降、ニセコ地域全域の新規建築確認申請件数は119件から174件まで増加した。しかし2009年には107件と2006年の件数を下回った。これはリーマンショック後の世界的な金融危機の影響が表れていると考えられる。 <br>(2)2006年から2010年までのニセコ地域の新規建築物の分布変化をみると、2006年には倶知安町ひらふ地区に開発が集中しており、2008年には樺山地区が新たに開発されるなど開発エリアの拡大がみられた(図1)。また2009年にニセコ町字曽我に大規模な開発計画が存在したが、未だ着工はされていない。ニセコ町アンヌプリスキー場周辺では温泉資源が有効活用されており、より高付加価値を求めた企業がニセコ町において開発計画を立てたが、景気の悪化に伴い計画が中断したと考えられる。 <br>(3)新規建築の建築主に着目してみると、日本以外では特にオーストラリアと中国香港の建築主が多く、そのほとんどがひらふ地区で開発を行うという動向が明らかとなった。またひらふ地区では企業と個人の双方が開発を進めていたが、樺山地区やニセコ町では企業による開発が目立った。これはヒラフ地区がすでに開発され土地も細分化されており、企業がより大きい開発地の一括取得を目指した結果であると考えられる。
著者
川村 壮 橋本 雄一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.72, 2010 (Released:2010-11-22)

_I_ 目的と方法 本研究は,寒冷地に多く分布する軟弱地盤である泥炭地が開発されてきた歴史を持つ札幌市を対象とし,都市部における地質と土地利用の相関関係を明らかにし,都市開発における問題点を検討することを目的とする. 本研究で用いる地質情報に関しては,札幌地盤図(2006)を参考に,札幌市の地質を盛土,泥炭,粘土,シルト,砂,砂礫,粘土混じり砂礫,岩盤,火山灰質砂,火山灰の10種類に分類し,電子化された地質図を作成する. 土地利用情報に関しては,2000年及び2007年の都市計画基礎調査を用いて,建物密度(延床面積/建物面積)及び高層化指数(2007年建物密度-2000年建物密度)を算出する.なお,土地利用の種類は専用住宅(戸建住宅等),共同住宅(マンション等),専門商業施設,店舗施設,都市運営施設,工場施設の6種類を抽出し,それぞれ延床指数(任意の建物用途の延床面積/地区面積)及びその変化(2007年延床指数-2000年延床指数)を算出する. 以上のような地質情報と土地利用情報を空間的に結合させ,地質別の土地利用変化を明らかにする.最後に,この結果を用いて都市開発における問題点を検討する. _II_ 札幌市の地質 札幌市における代表的な軟弱地盤である泥炭地は主に豊平川の氾濫原である北東部に分布しており,地盤の不等沈下の影響が出ている地域もある.また,盛土は主に南東部に局所的に分布しているが,これは宅地造成等のために谷が埋め立てられた結果として形成されたものである.2003年の十勝沖地震の際には,札幌市においても盛土の分布域の一部で液状化現象が発生している. _III_ 地質別の土地利用変化の関係 地質情報と土地利用情報を空間的に結合させ,地質別の土地利用変化を分析した結果,建物密度と高層化指数は,いずれの年次においても砂礫や粘土の分布地域で高く,地質条件の良い中心部において建物の高層化・稠密化が進んでいると考えられる.しかし,高層化指数は泥炭と盛土でプラスの値を示しており,当該に地域において建物の高層化・緻密化が進行していることを表している. 次に,建物用途別の延床面積と地質の関係をみると,専用商業施設,専用住宅施設,共同住宅施設は砂礫や粘土の分布地域に立地する割合が高いものの,いずれも泥炭で延床面積が増加している.特に専用住宅と共同住宅が大きく増加しているが,これは地質などの自然条件以外の経済的な理由が建物立地に大きく影響しているためであると考えられる. _IV_ 結論 本研究は,寒冷地の都市内部における地質情報と土地利用情報とを統合して時空間分析を行い,両者の関係を明らかにした.その際,本研究は,寒冷地の特徴的な地質である泥炭に注目して分析を行った. その結果,泥炭が存在する地域には,専用住宅や都市運営施設が多く立地しているが,2000年以降には共同住宅の立地が進むといった動向がみられた.この結果には,近年札幌市においてマンション供給の飽和状態が指摘される中で,より安価なマンションの供給を行うため,土地取得の容易な地域での共同住宅開発が行われていることも影響していると考えられる. 泥炭地における共同住宅開発は,住環境維持のためのコストの肥大化,地震をはじめとする自然災害に対する脆弱性の増大などが伴う可能性がある.こうしたコストやリスクの増大を防ぐためには,地質情報などの自然条件に関する情報と,土地利用に関する情報を統合的に管理し,両者の関係について継続してモニタリングしていく必要がある.
著者
小風 尚樹 中村 覚 纓田 宗紀 山王 綾乃 小林 拓実 清原 和之 金 甫榮 福田 真人 山崎 翔平 槙野 翔 小川 潤 橋本 雄太 宮本 隆史 菊池 信彦 後藤 真 崎山 直樹 元 ナミ 加藤 諭
巻号頁・発行日
pp.1-57,

2018年4月15日に開催された「2018 Spring Tokyo Digital History Symposium」のイベントレポート。シンポジウムは、歴史研究においてデジタル技術を駆使する際のいくつかの指針を提示すべく、歴史研究者・アーキビスト・エンジニアの学際的協働に基づくワークショップTokyo Digital Historyが主催した。 本シンポジウムでは、歴史研究が生み出されるまでの4つのプロセス、すなわち「情報の入手」「情報の分析」「情報の表現」「情報の公開」に着目し、それぞれに関連の深いデジタル技術や知識を提示した。さらに、それらを活用した具体的な歴史学的実践例を提供した。このシンポジウムおよびTokyo Digital Historyは、学際的協働を必要とする人文情報学プロジェクトの好例であるとともに、歴史研究の分野においては画期的な試みである。
著者
橋本 雄太
雑誌
じんもんこん2016論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.153-158, 2016-12-02

近年,機械処理の適用が困難な大量のデータに対して,不特定多数のボランティアの協力をインターネット上で募り,分類やタギング等のタスクを実施するクラウドソーシングの手法が人文学分野でも一般的になりつつある.一方で,日本語の歴史資料の翻刻に同手法を適用するためには,①現代人には解読困難なくずし字と,②多数のボランティアを長期的に従事させる適切な動機付けの設計の2点が課題となる.本研究では,人文学コンテンツの学習サービスと,クラウドソーシングシステムを統合することによって,ボランティアの学習意欲を動機づけに利用するとともに,タスク実施スキルの向上を図る手法を提案する.また実際に,くずし字の学習サービスと前近代災害資料の翻刻システムを統合したWebシステムを構築し,その有用性を評価する.
著者
橋本 雄
出版者
歴史教育者協議会
雑誌
歴史地理教育 (ISSN:02881535)
巻号頁・発行日
no.830, pp.20-27, 2015-02
著者
木之内 誠 平石 淑子 大久保 明男 橋本 雄一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近代百年を通じてロシア、中国、日本の諸勢力がせめぎあい、多元重層的な文化の場を形成した植民都市大連の過去、現在を景観のうちに透視し、ここに生きた人々の場所をめぐる集合的な記憶を都市文化の未来への展望につなぐ歴史地図を制作した。各種の旧地図などの歴史的な文献資料と、現地調査結果を総合して描かれた立体鳥瞰図的な多色表示による、五千分の一縮尺を基本とした二十枚ほどの区分図によって、この地図は構成される。建物の建造年代別の色分けや道路の起伏の表示など、現地を歩く利用者にとって使いやすい、直感的な了解をたすける可視化の手法を追及した。
著者
橋本 雄太
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. 人文科学とコンピュータ研究会報告
巻号頁・発行日
vol.2015, no.11, pp.1-4, 2015-05-09

ここ数年の急激な普及によって,スマートフォンやタブレットなどの高機能モバイルデバイスは多くの人間にとって 「もっとも身近なコンピューター」 となった.これに伴って,デジタルアーカイブで公開されている歴史資料を,スマートフォンやタブレット上で閲覧するための環境を求める声が強くなっている.一方で,現在稼働しているデジタルアーカイブの大多数はデスクトップ PC 上での利用を想定して設計されており,そこで公開されている資料をモバイルデバイス上で快適に閲覧する上では様々な技術的障壁が存在する.筆者は,国立国会図書館の運営する 『近代デジタルライブラリー』 の閲覧用モバイル・アプリケーション 『近デジリーダー』 を開発・公開しており,こうした技術的問題の解決に取り組んできた.本稿では,『近デジリーダー』 の主要機能と使用技術を紹介するとともに,モバイルデバイス上で歴史資料画像を閲覧する環境を構築するために筆者が利用した諸技術について解説する.
著者
林 晋 橋本 雄太 加納 靖之 久木田 水生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

古文書のWEBを実現するにおいて、最も重要なことは古文書の翻刻、つまり、古文書のテキストを文字列にすることである。それにより、古文書のテキストの検索、リンクづけなど、WEBと呼ぶにふさわしい文書の集合体を作成することができる。その実現法の一つとして、市民のボランティア参加による翻刻方法、クラウド翻刻(Crowd transcription)が知られており、英国などでの成功例が知られている。しかし、日本の古文書に対しては、成功例がなかったが、地震関係の古文書を対象にして、ボランティアが崩し字の読みを学習できるようにした、「みんなで翻刻」システムを開発し、これを初めて成功させた。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
三宅 晶子 橋本 雄一
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

【烟台大学・魯東大学研究者受け入れと共同研究】(2017年1月~8月)李文哲准教授(烟台大学)・朴銀姫講師(魯東大学)を千葉大学大学院人文公共学府に「外国人研究者」として受け入れ、共同研究と打ち合わせを行った。【中国研究調査】(2017年9月3日―9月11日)青島:ドイツ統治期・日本統治期建築群調査(ドイツ水兵クラブ、徳華銀行旧址、山東鉄道公司旧址、旧モルトケ砲台、旧青山中学校、青島福音堂、天主教堂、聖保羅教堂、青島徳国総督楼旧跡博物館等)烟台:招遠芸術センターにおける抗日戦争期の資料展示、東砲台調査、魯東大学・烟台大学との打ち合わせ 大連:日本・ロシア統治期建築調査(ダーリニー市役所旧址、旧満鉄本社、大連賓館、大連図書館、旧西本願寺、旧東本願寺、旧日本人住宅街等)【徳島県調査】(2017年11月23日-26日)鳴門市:坂東俘虜収容所跡、ドイツ館、ドイツ村、香川豊彦記念館 徳島市:ドイツ兵慰霊碑、松江豊寿旧居調査、資料収集:『Die Baracke』CD-ROM,『青島戦ドイツ兵俘虜収容所研究』等。シンポジウムの準備、発表内容の打ち合わせを行った。ドイツが模範的植民都市として建設した青島を調査し、1914年第1次世界大戦での日独戦敗北後ドイツ兵が俘虜として収容された鳴門市坂東俘虜収容所跡を調査することによって、ドイツ兵俘虜たちが、狭い収容所敷地内において、かつての青島の地域の名を命名し、都市を模した活動を行うことによって、都市共同体を作り出そうとしていたことが分かった。また、ドイツ兵の慰霊という想起は、そのつどの日本のドイツとの政治的関係、敗戦体験が深く関わっていることが分かった。
著者
服部 英雄 井上 聡 細井 浩志 橋本 雄 柳 哲雄 櫻木 晋一 金谷 匡人 竹田 和夫 土居 聡朋 楠瀬 慶太
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

時間法や航海技術を非文字知(民衆知・暗黙知)の視点で調査・分析した。時間には季節(日の出・日の入り)に無関係の絶対時間(定時法)と季節によって変わる相対時間(不定時法)とがある。不定時法が自然発生的で多用された。航海技術については、地形や潮流を知悉した航海術や漁撈法を調査・分析した。中世紀行文に記された港津発着の時間を手がかりに、当日の潮流、潮力、人力、風力を分析した。