著者
藤尾 慎一郎
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.185, pp.155-182, 2014-02-28

弥生文化は,鉄器が水田稲作の開始と同時に現れ,しかも青銅器に先んじて使われる世界で唯一の先史文化と考えられてきた。しかし弥生長期編年のもとでの鉄器は,水田稲作の開始から約600年遅れて現れ,青銅器とほぼ同時に使われるようになったと考えられる。本稿では,このような鉄の動向が弥生文化像に与える影響,すなわち鉄からみた弥生文化像=鉄史観の変化ついて考察した。従来,前期の鉄器は,木製容器の細部加工などの用途に限って使われていたために,弥生社会に本質的な影響を及ぼす存在とは考えられていなかったので,弥生文化当初の600年間,鉄器がなかったとはいっても実質的な違いはない。むしろ大きな影響が出るのは,鉄器の材料となる鉄素材の故地問題と,弥生人の鉄器製作に関してである。これまで弥生文化の鉄器は,水田稲作の開始と同時に燕系の鋳造鉄器(可鍛鋳鉄)と楚系の鍛造鉄器(錬鉄)という2系統の鉄器が併存していたと考えられ,かつ弥生人は前期後半から鋳鉄の脱炭処理や鍛鉄の鍛冶加工など,高度な技術を駆使して鉄器を作ったと考えてきた。しかし弥生長期編年のもとでは,まず前4世紀前葉に燕系の鋳造鉄器が出現し,前3世紀になって朝鮮半島系の鍛造鉄器が登場して両者は併存,さらに前漢の成立前には早くも中国東北系の鋳鉄脱炭鋼が出現するものの,次第に朝鮮半島系の錬鉄が主流になっていくことになる。また弥生人の鉄器製作は,可鍛鋳鉄を石器製作の要領で研いだり擦ったりして刃を着けた小鉄器を作ることから始まる。鍛鉄の鍛冶加工は前3世紀以降にようやく朝鮮半島系錬鉄を素材に始まり,鋳鉄の脱炭処理が始まるのは弥生後期以降となる。したがって鋳鉄・鍛鉄という2系統の鉄を対象に高度な技術を駆使して,早くから弥生独自の鉄器を作っていたというイメージから,鋳鉄の破片を対象に火を使わない石器製作技術を駆使した在来の技術で小鉄器を作り,やがて鍛鉄を対象に鍛冶を行うという弥生像への転換が必要であろう。
著者
藤尾 慎一郎
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
no.68, pp.215-251, 1996-03

本稿は,ブリテン新石器時代の葬制研究を紹介したものである。ブリテン新石器研究は,近代考古学がはじまって以来,巨石建造物(メガリス)を研究対象にしてきた。巨石建造物が新石器時代の編年をおこなう際の指標として位置づけられてきたこともあるが,何よりもそこからみつかる大量のバラバラになった人骨が人々の関心をひきつけてきたからである。人骨がみつかるために,巨石建造物はしごく当然に墓と考えられ,なぜ,このような状況で大量の骨がみつかるのか,を考えた葬制研究が,ブリテン新石器研究の中心だったのである。1950年代までは,大量の人骨が,バラバラになった状態で建造物内につくられた石室内におかれるようになった原因をめぐり研究がすすんだが,'60年代のいわゆるプロセス期になると,このような行為には生の世界の社会組織や構成原理が反映しており,巨石建造物はモニュメント(巨石記念物)と認識されるようになる。'80年代のポスト・プロセス期になると,一転してそのような行為に,生の世界の社会組織や構成原理は反映されないとしてプロセス学派は批判され,行為自身や石室構造にこめられた象徴性の解明をめぐる研究がおこなわれる。そして現在,新石器前期は儀礼を再優先していた時代との認識と,儀礼行為自身が人々の表現戦略であったと考えられるにいたっている。縄文時代の葬墓制研究は,ここ20年ほど,親族研究・社会組織の解明を中心に進展してきた。最近わかってきたモニュメントでおこなわれていた祭りと,墓でおこなわれた死者儀礼とはどのような関係にあるのか。今後,どういう方向に向かおうとしているのか。再葬・合葬主体のブリテン前期新石期時代と一次葬・個人墓主体の縄文時代という枠組みをこえて考える。
著者
植田 隼平 野村 泰伸 清野 健 藤田 壌 西田 直樹 藤尾 宜範 林 洋行 田口 晶彦 川瀬 善一郎 真田 知世 金井 博幸
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.S126, 2018

<p>近年,国内の企業において従業員の健康を経営資源ととらえ,社員の健康維持や改善のための取組や投資を積極的に行う「健康経営」の重要性が認識されるようになった.少子高齢化の日本では,人手不足,後継者不足,年金制度維持のための定年引上げなどの影響により,労働人口の高齢化が急速に進むことが予想されるため,企業の維持・成長のための経営戦略として健康経営を実践する必要がある.我々は,労働者,特に生産現場労働者の健康管理への応用を目指し,ウェアラブル生体センサを用いた体調評価指標を開発した.我々のアプローチでは,ウェアラブル生体センサとして衣料型デバイスを用い,労働中の加速度と心拍数を同時に計測する.これまで,心拍変動を用いた自律神経機能の評価や,心拍数あるいは加速度センサを用いた運動強度の評価については多くの研究成果があるが,日常発生する体調不良を客観的に評価する方法については十分に確立していない.我々は,建設・運送会社約12社に協力いただき,2017年5月から9月の期間にて延べ約7000人の労働者の就業中の心拍数と加速度をモニタリングするとともに,就業前後の主観的体調に関するアンケートを実施した.これらのデータ分析に基づき,加速度と心拍数情報を組み合わせた新たな指標を構成し,この指標が労働者の主観的体調と相関することが見いだされた.講演では,生産現場における生体指標の有用性について議論する.</p>
著者
三枝 隆裕 藤尾 雄策
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.230-235, 1998
参考文献数
21

ケフィラン水溶液およびケフィランを無水コハク酸を用いアシル化して得たコハク化ケフィラン水溶液について、特性を比較した結果、ケフィランは低温保存またはエタノールの添加によりゲル化することが認められたが、コハク化ケフィランは、溶液状態での安定性に優れ、高濃度のアルコール類中で長期に渡り保存しても、透明性を保ちゲル化することのない特性を持っていることが確認された。また、コハク化ケフィラン水溶液には、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液と同等以上のヒト皮膚への高い保湿効果が認められた。現在、著者らは、コハク化ケフィランを化粧品原料として実際に利用している。さらに、コハク化ケフィランは、その溶液としての優れた安定性から食品、医薬品への工業的な利用が充分可能であると判断された。
著者
藤尾 孝
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン (ISSN:03743470)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.879-889, 1967
被引用文献数
1

カラーテレビジョンでは視覚のフレーム周期に対する時間積分効果や走査線間の面積積分効果が充分でないため, 画面上にあらわれる点状の輝度妨害や, 輝度信号の高域成分によるクロスカラー妨害が目立ち, これがカラー再生画像に妨害を与える.本文では, カラーテレビ信号の復調プロセスでカラー信号のライン相関を利用して輝度信号, 色信号を分離し, 相互干渉のない高画質のカラー画像を再生する方式とその検討, 試験結果について報告する.なお, 新しく開発したNTSC搬送色信号用の遅延線を用いて試験し, クロスカラー妨害を約20dB, そして搬送色信号による点状輝度妨害を除去した状態で水平解像度400本相当の高画質のカラー画像を再生した.
著者
岡井 治 多気 昌生 望月 篤子 西脇 仁一 森 卓二 藤尾 昇
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.271-278, 1979-10-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
21
被引用文献数
5 1

低周波音 (8~50Hz; 105dB) における人体の反応を評価した. 低周波音は, 直接外気に接する聴覚器, 前庭器, 呼吸器に作用するものと思われる. そこで, 低周波音に全身曝露して人体反応を調べ, 次の結果をえた.i) 低周波音に敏感な人は, 閾値が低くかった. もっとも, 多くの人では, 他の報告と同じ閾値をもっていた.ii) 閾値付近で脳波の振幅が減少した.iii) 心拍数, 呼吸数は減少傾向を示した. 肺循環脈波は振幅が増した.iv) 血圧および身体の動揺は一定の傾向を示さなかった.
著者
Sope Devi Rahmah 藤尾 光彦
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
電気関係学会九州支部連合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.79-80, 2017

<p>Electricity Prepaid is a new customer service of Indonesian national electric company PLN. In CRM, it is said that analyzing the customer's behavior is the most efficient way to enhance their satisfaction. In this research, we apply Fuzzy c-Means (FCM) algorithm to the house hold customer data of PLN to cluster the customer behavior. We employ XB index to validate the clustering result. As a result, we conclude that attributes of household customer are more accurate if they are clustered into 4 clusters, while in number of family member attribute is more accurate if clustered into 5 clusters.</p>
著者
荒井 智大 藤尾 淳 島岡 理 望月 泉 宮田 剛 臼田 昌広 井上 宰 村上 和重 手島 仁 中村 崇宣 中川 智彦 中西 渉
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.12-18, 2018
被引用文献数
1

急性虫垂炎の発症については季節性変化を報告した論文がみられ,特に高気圧時の化膿性疾患の増加を指摘した報告もある.2012年1月1日から2014年12月31日までの3年間に,当院で手術を施行した急性虫垂炎450例について,診療録をもとに後方視的に発症時期を調べその季節性変動を検討した.対象の平均年齢は38.3歳で,男女比は1.5:1であった.手術症例は7-9月が11-12月に比べ有意に多かった(p<0.05).気候要因としては,気温が高いほど発症が多い傾向があるが,気圧には先行研究で示されたような化膿性疾患の増加との関連性は認められなかった.急性虫垂炎の病因は複合的であり更なる検証が必要だが,この季節性変動の情報が急性虫垂炎の発症機序解明に僅かながらも寄与する可能性があると考えられた.
著者
北條 怜子 柘植 一希 樋口 洋子 山初 仁志 加藤 正一 藤尾 拓也 岩崎 泰永 元木 悟
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.137-148, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
39
被引用文献数
6

ミニトマトは,リコピンなどの機能性成分を多く含み,日持ち性もよく,食味が優れることから需要が増えている.しかし,慣行栽培(以下,慣行) では,誘引やつる下ろしなどの作業に多くの労力を要することが問題となっており,栽培管理の省力化や軽作業化が図れる栽培技術の開発が望まれている.著者らは,露地のミニトマトの新栽培法として,慣行に比べて疎植にし,側枝をほとんど取り除かない栽培法を,2010年に開発した.その新栽培法は,ソバージュ栽培(以下,ソバージュ)と呼ばれ,全国的に普及し始めているものの,収量や品質,生育などについて慣行と比較検討した報告がない.そこで本研究では,露地夏秋どりミニトマトにおけるソバージュの栽培体系の確立を目指して,品種特性が異なるミニトマト2品種を用い,ソバージュと慣行を2年間にわたって比較検討した.その結果,ソバージュは慣行に比べて株当たりの総収量および可販果収量が多いことが明らかになった.また,単位面積当たりでも,ソバージュは株数が慣行に比べて6分の1程度であるにも関わらず,慣行と同等または同等以上の収量が見込めることが明らかになった.さらに,ソバージュは茎葉の繁茂による日焼け果の軽減効果も認められた.また,糖度は慣行と同等か低い傾向であったが,リコピン含量は慣行と同等か高まる傾向であった.
著者
元木 悟 柘植 一希 北條 怜子 甲村 浩之 諫山 俊之 藤尾 拓也 岩崎 泰永
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.269-279, 2019

<p>露地夏秋どりミニトマトのネット誘引無整枝栽培(ソバージュ栽培,以下, ソバージュ)の収量は,主枝1本仕立て栽培(以下,慣行)に比べて,株数が6分の1程度であるにも関わらず,慣行と同等以上の収量が見込める.また,ソバージュは収穫作業以外の作業時間を慣行に比べて有意に短縮できる.そこで本試験では,ソバージュを全国に普及させるため,温暖地の神奈川圃場に加え,ソバージュと同じミニトマトの夏秋どり栽培(ただし,ハウス雨除け夏秋どり栽培)が一般的である岩手および広島圃場おいて,3年間(岩手圃場は2年間),ソバージュと慣行の収量および品質を比較した.また,ソバージュの経済性を検討するため,ミニトマトの夏秋どり栽培の農業経営指標を参考に,各地域におけるソバージュの経済性評価を行った.その結果,露地夏秋どりミニトマトのソバージュにおける収量については,既報と同様,岩手および広島圃場においても単位面積当たりの収量は慣行と同等であり,株当たりの収量は慣行に比べて多かった.ソバージュの品質については,岩手圃場では既報と同様,ソバージュの糖度は慣行と同等か低い傾向であったものの,リコペン含量は栽培法および栽培年の間に一定の傾向が認められなかった.一方,広島圃場では,ソバージュの糖度およびリコペン含量は慣行と同等か高い傾向であった.ソバージュの経済性評価については,広島県の農業経営指標を参考に,本試験で実際に栽培した'ロッソナポリタン'の可販果収量の月別平均値を用い,既報の作業性の結果を参考に試算した結果,ソバージュの利益は10 a当たり86万~110万円,労働時間は333~568時間,1時間当たりの利益は1,933~2,661円であった.</p>
著者
藤尾 久美 井之口 豪 福田 有里子 黒木 俊介 古閑 紀雄 丹生 健一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.38-43, 2018-01-20 (Released:2018-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
4 6

ほかの感覚器と同様, 嗅覚も加齢性変化を来すことが知られている. しかし, 本邦では年齢を考慮した嗅覚機能の基準が報告されていない. 本研究では嗅覚同定能力研究用カードキットであるオープンエッセンス (Open Essence: OE) を用い, 嗅覚の加齢性変化の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】50歳以上の健常ボランティア50名と50歳未満の健常ボランティア43名に対し OE を施行し, 各嗅素別の正答率について検討を行った.【結果】50歳以上の群では男女とも年齢とともに OE の正答率の低下を認めた. 各嗅素別では50歳未満と50歳以上の2群間で墨汁, メントール, みかん, ばら, 練乳, にんにくの正答率に有意差を認めた. 12嗅素の組み合わせの中で, メントール, みかん, 練乳の3嗅素の組み合わせで50歳以上の嗅覚障害を検出する感度が0.860と最も高くなり, 感度+特異度が1.767となった. この3つの嗅素を組み合わせた検査が加齢性変化を考慮した嗅覚機能のスクリーニングとして有用であると考えられた.
著者
藤尾 和樹 山本 厚之 西川 進
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.101, no.7, pp.372-377, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

Seizure tests were carried out on Ni-Cr-Mo abrasion resistant cast irons containing different amounts of graphite and eutectic carbides. Specimens were prepared with changing Cr and Ni contents based on 2.3% C-1.5% Si- 0.6 Mn- 1.8 Mo iron. Surfaces of the test pieces were finished with mechanical grinding or electro-spark machining up to roughness of Ra:0.30 ~ 0.35. Seizure properties were evaluated with using a high peripheral speed wear tester. Higher load was applied for evaluating seizure property, while lower load was applied for friction coefficient. Weight loss was also measured after testing. Surfaces of the specimen after seizure test were observed with SEM. The specimens with higher amounts of graphite showed lower friction at the early stage of seizure tests. When the testing load was increased, seizure was significantly occurred on the specimen with graphite. The effect of graphite for lubrication was also diminished in the case of wear tests under lower load except the early stage of testing. The electro-spark machining for surface finishing lead to exfoliation of graphite from the surface resulting in increase in friction coefficient. The specimen with higher amount of carbides showed superior wear properties.
著者
竹島 雄介 岩崎 由希子 岡村 僚久 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.12-20, 2017 (Released:2017-05-23)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

細胞の代謝制御の重要性は,癌細胞においてエネルギー産生を解糖系に依存する現象がWarburg効果として報告されたことに始まる.近年,免疫担当細胞における代謝の制御が細胞の分化や機能において鍵となるという知見が蓄積されつつあり,免疫担当細胞が休止状態から活性化状態に入る際には,酸化的リン酸化に依っていたエネルギー産生から,解糖系に依存したエネルギー産生へと大きな代謝状態の変化を要することが明らかとなっている.特にT細胞においては,ナイーブT細胞からエフェクターT細胞への分化過程における代謝制御の研究がより詳細に解明されており,免疫代謝の分野では最も研究が進んだ分野となっているが,B細胞や骨髄球系の細胞においても特徴的な代謝制御が明らかにされつつある.現在,全身性エリテマトーデスを始めとする自己免疫疾患において,免疫担当細胞における代謝変調は慢性的な免疫系の活性化の結果としてばかりでなく,疾患の引き金としても極めて重要であると考えられている.本稿では,全身性エリテマトーデスにおける代謝制御について,T細胞およびB細胞を中心に概説し,病態と如何に関わっているか,更には将来的な治療ターゲットの可能性について考察する.
著者
藤尾 圭志
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.11, pp.2338-2343, 2018-11-10 (Released:2019-11-10)
参考文献数
10

医学の進歩により,従来単一の「疾患」とされてきた集団を,治療反応性や予後により層別化することの重要性が明らかとなった.まさに最近の技術的進歩は,次世代シークエンス,マスサイトメトリー等による,ヒトのゲノム,遺伝子発現,免疫担当細胞サブセットの網羅的解析を現実のものとしている.自己免疫疾患を含むcommon diseaseの疾患予後予測については,頻度が高いが,影響の小さい遺伝子多型の情報のみでは現在のところ不十分である.そこで,ゲノム情報に遺伝子発現データ等さまざまなレベルのデータを統合した解析を行う試みが進められている.従来,不均一性の高いヒト疾患検体の解析にはさまざまなハードルがあったが,近年の技術的進歩により,ヒト検体自体の解析が急速に広がりつつある.特に,海外では国家プロジェクトとして,大規模な産学連携プロジェクトが進行中であり,日本においても限られた独自の優れたリソースを戦略的に使うことが重要と考えられる.
著者
春成 秀爾 小林 謙一 坂本 稔 今村 峯雄 尾嵜 大真 藤尾 慎一郎 西本 豊弘
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.133-176, 2011-03-31

奈良県桜井市箸墓古墳・東田大塚・矢塚・纏向石塚および纏向遺跡群・大福遺跡・上ノ庄遺跡で出土した木材・種実・土器付着物を対象に,加速器質量分析法による炭素14年代測定を行い,それらを年輪年代が判明している日本産樹木の炭素14年代にもとづいて較正して得た古墳出現期の年代について考察した結果について報告する。その目的は,最古古墳,弥生墳丘墓および集落跡ならびに併行する時期の出土試料の炭素14年代に基づいて,これらの遺跡の年代を調べ,統合することで弥生後期から古墳時代にかけての年代を推定することである。基本的には桜井市纏向遺跡群などの測定結果を,日本産樹木年輪の炭素14年代に基づいた較正曲線と照合することによって個々の試料の年代を推定したが,その際に出土状況からみた遺構との関係(纏向石塚・東田大塚・箸墓古墳の築造中,直後,後)による先後関係によって検討を行った。そして土器型式および古墳の築造過程の年代を推定した。その結果,古墳出現期の箸墓古墳が築造された直後の年代を西暦240~260年と判断した。
著者
庄田 宏文 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.46-50, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
15

Immunoglobulin Binding Protein (BiP)は熱ショック蛋白(HSP)70ファミリーに属するタンパク質で,生理的にはストレス応答蛋白として滑面小胞体に発現し,蛋白のfoldingを行うシャペロン蛋白である.BiPに対する自己免疫応答の報告は,関節リウマチ,全身性エリテマトーデスなどでみられ,主に血清抗BiP抗体が上昇するとの報告がある.我々のグループからは,新たにシトルリン化BiPに対する自己抗体が関節リウマチで出現することを報告した.抗シトルリン化蛋白抗体は関節リウマチの発症機序に密接な関与が推定されており,BiPに対する自己免疫応答の重要性が示唆される.また関節リウマチにおいては,BiPを認識するT細胞の報告もある.一方でBiPそのものには制御性活性があることが知られている.マウスモデルにおいてはBiPを認識するT細胞がIL-4, IL-10を産生し関節炎を抑制することや,BiPで刺激された樹状細胞は制御性活性を持つことが知られている.このようにBiPに対する免疫系の応答は多様であり,そのバランスが崩れることで自己免疫寛容が破綻することが,自己免疫疾患発症に繋がりうると考えられている.

1 0 0 0 OA III.RS3PE症候群

著者
藤尾 圭志
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.10, pp.2131-2135, 2017-10-10 (Released:2018-10-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群は,両手,両足の圧痕性浮腫を最も特徴的な症状とし,突然発症の多関節炎,高齢者,リウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陰性,骨レントゲン上骨びらんを認めない,といった臨床的特徴を呈する疾患である.高齢発症のRF陰性の関節炎を呈する患者の鑑別疾患の1つとして常に挙げられる疾患であるが,明確な分類基準が存在しないために除外診断が中心となる.また,明確なリウマチ性疾患にRS3PE症状が併存した場合には,リウマチ性疾患にRS3PE症状が合併したとする立場もある.本稿では,RS3PE症候群について現況での知見を紹介する.
著者
藤尾 慎一郎
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.3-29, 2004-02

古墳時代の倭と加耶の交流を語る上でもっとも重要な問題の一つである鉄が,弥生時代の両地域間においても重要であったことは,この地が倭で用いられる鉄資源の供給地であったことからも明らかである。本稿は,鉄を媒介とした交流を考えるうえで弥生時代にさかのぼる重要な四つの問題を取り上げた。まず弥生時代の鉄器の原料であった鉄素材にはどのようなものがあったのかという,鉄素材の種類の問題。第2に鉄素材はどのようにして弥生社会にもたらされたのかという舶載・国産の問題。第3に鉄素材を加工し鉄器を作った施設,すなわち鍛冶炉の問題。第4に鉄器製作技術である。現在,弥生時代の鉄素材にはいくつかの種類があり,鉄素材ごとに由来,処理する鍛冶炉の構造,鉄器製作工程が異なることが明らかにされている。なかでもとくに注目されるのが,後期以降の西日本で類例が増えている板状鉄製品である。その化学成分から,韓半島東南部で作られた可能性が指摘されている板状鉄製品は,のちの加耶地域の鉄素材の前身となりうるものとして注目される。以前より論争のある板状鉄斧鉄素材説をめぐる議論が膠着状態におちいるなかで,これらと板状鉄素材との関係について検討した結果,興味深い事実が判明した。