著者
伊藤 尚子 木下 康仁 金 永子 文 鐘聲
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、在日コリアン高齢者と韓国人高齢者の抑うつにかんする要因を明らかにすることである。研究初年度にあたる本年度は、研究の全体像を把握するため文献等資料収集を行った。その結果をまとめ現在、論文投稿の準備を行っている。文献収集に合わせて、収集した量的データから、研究に関する新しい知見を得ることを目的に、在日コリアン高齢者の抑うつ傾向の関連因子の再分析を行った。結果として、抑うつ傾向者が47.8%にみられた。抑うつ傾向者は、朝鮮半島で生まれ日本に移民した在日コリアン1世高齢者(65.6%)が、日本で生まれた在日コリアン2世高齢者(42.0%)に比較して有意に高く、年齢、性別、出生地、治療中の疾患と婚姻状況に関係なく、家族親戚と電話などの間接的なやり取りをする頻度、友人と直接会う頻度、友人と電話など間接的なやり取りをする頻度、外出頻度、また、趣味を楽しむ機会が少ない群ほど抑うつ傾向の割合が有意に高くなる傾向がみられた。在日コリアン高齢者の精神的健康の保持増進のためには、在日コリアン高齢者が家族友人と交流を持つ機会を作ることや、高齢者が近隣で社会活動を確保できる場所づくりが必要であることが示唆され、この結果は論文にて研究報告を行った。しかしながら、これらの傾向が、在日コリアン独自の結果なのかを明らかにするには、日本人高齢者、韓国人高齢者との比較をするなど再検討する必要がある。そのため、日本人高齢者との量的な調査データの比較を行いつつ、在日コリアン介護施設における参与観察、インタビュー等質的な調査も同時に行い、研究2年目には韓国にて質的、量的調査を行うため、関係機関と研究計画など調整を行っているところである。研究結果は随時学会等で発表を行う予定である
著者
金森 信夫 大澤 祐一 渡辺 和眞
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.739-744,a1, 1993-08-01 (Released:2011-08-11)

山王海農業水利事業で建設を進めていた葛丸ダムは, 平成2年度に完成したことから, 使用開始後のダムの安全管理および施設の維持管理に問題が発生しないよう, 平成3年2月から本貯水に先立ち試験湛水を行った。試験湛水中の観測は, 漏水量・間隙水圧・堤体および基礎の変形・土圧・浸透圧と浸透流量・監査廊の挙動・地震計の挙動の項目を実施しており, これら各項目について貯水位との相関性を明らかにし, 貯水に伴うダム堤体挙動の確認を行った結果を取りまとめたものである。上記の観測結果は, 試験前の推定値よりも極めて少なく, 葛丸ダムは安全な状態であることが確認できた。
著者
金原 俊輔 Shunsuke Kanahara 長崎ウエスレヤン大学現代社会学部福祉コミュニティ学科 Faculty of Contemporary Social Studies Nagasaki Wesleyan University
出版者
長崎ウエスレヤン大学
雑誌
長崎ウエスレヤン大学現代社会学部紀要 (ISSN:13481142)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.21-28,

行動療法は、インフォームド・コンセントを重んじ、実験を通して有効性が確認されたエビデンス・ベーストの技法を用い、クライエントが望む介入結果に至ることがめずらしくない、心理療法である。しかし、研究者や実践者たちにおけるこの療法への敬意は必ずしも高くはなく、とりわけ日本においてその傾向が強い。本論文は、文献などに見られる「行動療法は人間をネズミあつかいする」「クライエントの過去の経験を重視しない」「冷たい」といった諸批判を検討するものである。まず、行動療法の母体である行動心理学を解説する。続いて行動療法を概観し、特にその技法を詳述する。以上を通して行動療法の位置と性格を明らかにした後、これまで行動療法に与えられてきた19種類の典型的な批判を紹介して各批判に検討を加える。検討は「批判への回答」形式でおこなうが、その内容は、科学というアプローチに対する誤解の指摘、行動心理学と行動療法を混同していることの指摘、ヒューマニスティックという語の定義の再考、などから成り立っている。
著者
金子 立 宮崎 一興
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.1479-1488, 1993-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

射精不能者に対して, さまざまな人工的精液採取法が行われているが, Brindley 法とパルス電流を用いるように改良した Seager 改良法による電気射精を, 脊髄損傷40例, 直腸癌根治術後の射精不能例1例に対して行い, その有用性を検討した. Seager 改良法では, 刺激に際して患者に与える電気エネルギーを減じるため, 正弦交流にかえ両極性のパルス電流を用いた. Brindley 法では18例中11例から精子を回収し, Seager 改良法では29例中24例から精子を回収した. 直腸癌根治術後の射精不能例1例も Seager 改良法により精子を回収することができた.電気射精の副作用としては, 自律神経過反射と疼痛がみられた. 自律神経過反射は, 刺激の中止により速やかに消失し, この点でネオスチグミンのくも膜下腔注入法より安全な方法と考えられた.脊髄損傷例の精液所見では, 受傷後経過期間とともに回収できた総精子数は減少する傾向がみられ, 運動率は慢性期のみならず, 受傷後1ヵ月以内の急性期の症例においても低下がみられた. したがって, 脊髄損傷における精巣, 精巣上体等の障害はかなり早期からおこる可能性が示唆された.
著者
小熊 進之介 金子 誠也 加納 光樹
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.65-73, 2022-04-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
44

2011年4月から2012年3月に涸沼の塩性湿地の湿地内部のクリークと湿地前縁において小型地曳網による定量採集を行い,絶滅危惧種ジュズカケハゼの仔稚魚の季節的な出現と食性を調べた。調査期間中に採集された本種は,仔稚魚を中心とした計1,425個体(体長5-55 mm)であった。本種の仔稚魚は4月から6月にかけて主にクリークで出現した後,クリーク内で徐々に成長し,12月には最小成熟サイズ(体長42 mm)に達した。一方,調査期間中に湿地前縁では仔稚魚は極めて稀にしか出現せず,成魚は全く出現しなかった。クリーク内での仔稚魚の主要な餌は,成長に伴ってカラヌス・キクロプス類からユスリカ類幼虫やアミ類へと変化した。したがって,本種は初期生活史を通して塩性湿地クリーク内に留まり,そこが本種の餌転換の場としても機能している可能性が示唆された。
著者
平川 周作 中島 淳 松木 昌也 古賀 敬興 秦 弘一郎 柏原 学 古閑 豊和 石間 妙子 宮脇 崇 金子 洋平 志水 信弘 松本 源生 石橋 融子
出版者
一般社団法人 日本環境化学会
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.125-132, 2020 (Released:2020-09-18)
参考文献数
28
被引用文献数
1

In this study, we examined a fish survey method using environmental DNA (eDNA) metabarcoding in a river, and the relationship between the fish survey results and water quality detected in eDNA was analyzed. eDNA surveys and fishing surveys were conducted in summer and winter, targeting three sites on three rivers in Fukuoka prefecture. Our comparison of riffles and pools and our examination of the appropriate places to collect eDNA samples revealed that the detected fish species were not completely consistent between the two kinds of surveys and there was no ecological features common to detected fish species. Therefore, sampling at multiple locations is expected to reduce detectable fish dropouts. More fish species were detected in the eDNA survey than in the collection survey at all times. However, the results also suggested that the DNA of fish species living upstream may remain at sampling site, and benthic fish species tend to be difficult to detect by eDNA surveys. In addition, the influence of water quality on the characteristics of the survey site were analyzed, since marine species were detected in some river eDNA surveys. The results suggested that domestic drainage is likely to affect the characteristics in winter, when the amount of water is small, and the change in concentration of linear alkylbenzene sulfonic acid and its salts and the change of the ratio of chloride ions may be used as an index of domestic drainage.
著者
城戸 佐登子 林谷 秀樹 岩崎 浩司 Alexandre Tomomitsu OKATANI 金子 賢一 小川 益男
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.77-87, 2001-12-20 (Released:2010-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

1995年2月~1995年6月の5ヶ月間に, 関東地方1都6県の51動物病院で, ならびに1997年10月~1998年3月の6ケ月間に, 関西, 中国地方を中心にする1都2府10県の25動物病院で, カルテから選んだ15歳以上の犬および猫 (以下, 長寿犬または長寿猫とする) と, 1994年4月~1995年3月の1年間ならびに1997年12月~1998年10月の11ケ月間に, それぞれ上記の51と25動物病院に来院し, 5~9歳で死亡した犬および猫 (以下, 対照犬または対照猫) について, 性, 年齢などの宿主要因や食事や散歩などの飼育状況などについてアンケート調査を行い, 各項目についてオッズ比を算出し, 長寿に関連する要因の抽出を試み, 以下の成績を得た。1) 長寿群と対照群との間で, 犬では, 品種, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 散歩の頻度, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 猫では, 性別, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 両群問に有意差が認められた。2) 各項目ごとに長寿に関与するオッズ比を算出すると, 犬では「雑種」, 「毎年予防接種をした」, 「毎日散歩をした」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ3.36, 2.40, 3.21, 2.44, 2.46および3.75で有意に高く, 「室外で飼っていた」が0.25で有意に低かった。猫では「雌」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ5.16, 2.32, 2.34および2.00で有意に高く, 「室内外で自由に飼っていた」が0.41で有意に低かった。3) 以上の結果より, 長寿に関与する項目として抽出されたものは, 犬猫ともに飼育者が飼育動物に対して行っている適切な健康管理や飼育管理の項目がほとんどであり, 長寿な動物は飼育者から飼育や健康管理に手をかけられたものであることが明らかとなった。得られた成績は, 今後のコンパニオンアニマルの飼育や健康管理を考える上で貴重な基礎知見になるものと考えられる。
著者
柳 燁佳 金 明哲
出版者
日本分類学会
雑誌
データ分析の理論と応用 (ISSN:21864195)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 2020-08-01 (Released:2020-10-06)
参考文献数
19

菊池寛には代筆疑惑を持つ作品がいくつか存在し,連載小説「受難華」がそのなかの1 つである.本研究の目的は,「受難華」の真の著者を明らかにすることである.「受難華」の代筆疑惑は川端康成の証言によって発覚した.川端によれば,「受難華」は横光利一の代筆であるが,他に代筆説を支持する証拠がないため,「受難華」の代筆問題が未だに解決されていない. 本稿では,計量文体学のアプローチで「受難華」の代筆問題を検証した.具体的に,菊池寛と横光利一のそれぞれ32 作品と「受難華」の22 回分の連載(全集では69 節からなるが,ごく短い節もあるため,連載時の回単位で分割した)から集計した読点の打ち方,形態素の品詞タグのbigram と文節パターンの特徴量データに対して,階層的クラスター分析,主成分分析,そしてランダムフォレスト,サポートベクターマシンをはじめとする7 つの分類器を用いて統合的に著者判別を行った.その結果,「受難華」の各回は菊池寛の作品だという結論に至った.
著者
金子 和哉 伊與 田英輝 沙川 貴大
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.361-369, 2018-06-05 (Released:2019-02-05)
参考文献数
41

ミクロな運動を記述するニュートンの運動方程式やシュレーディンガー方程式は,時間反転に関して対称である.一方,マクロな現象を記述する熱力学は,熱平衡状態への緩和や熱力学第二法則に代表される不可逆性をもつ.一見すると,可逆なミクロの力学と不可逆な熱力学は矛盾している.このミクロとマクロの整合性の問題は,19世紀にはボルツマンが議論し,20世紀初頭にはフォン・ノイマンが量子力学に基づき研究をしたが,解決には至らなかった難問である.近年,冷却原子などの実験系で理想的な孤立量子系が実現されるようになり,不可逆性の起源をめぐる問題が再び注目を集めている.理論と実験の両面から,シュレーディンガー方程式に従った時間発展で,量子純粋状態でさえも,熱平衡状態へ緩和(熱平衡化)することが明らかになってきた.理論的にも,従来の統計力学を使わず,量子力学だけから熱平衡化を理解する試みがなされている.とくに,「量子多体系において,全てのエネルギー固有状態が熱平衡状態を表す」という固有状態熱化仮説(Eigenstate Thermalization Hypothesis, ETH)が,熱平衡化を説明する機構として有力視されている.ETHは,数値計算で多くの非可積分系において確認されているが,数学的な証明はない.一方で我々は,一般の並進対称な局所相互作用する量子多体系において,「(全てとは限らない)ほとんどのエネルギー固有状態が熱平衡状態を表す」という弱い形のETHを証明した.また,以上とは異なる研究の流れの中で,第二法則の基礎についても大きな進展があった.とくに重要なのは,「ゆらぎの定理」の発見である.ゆらぎの定理は,エントロピー生成のゆらぎを考慮することで,第二法則を不等式ではなく等式の形で表現したものだ.第二法則は,ゆらぎの定理から自然に導かれる.しかし,孤立量子系の熱平衡化の研究とは異なり,ゆらぎの定理は統計力学を基にしている.とくに熱浴の初期状態として,通常のカノニカル分布を仮定しているため,冷却原子などの緩和過程には適用できない.というのも,熱浴の初期状態は一般にカノニカル分布とは限らないからだ.では,これら二つの研究の流れを統合し,熱浴の初期状態が量子純粋状態のときにも,第二法則とゆらぎの定理を示すことができるだろうか.我々はこの問題に取り組み,熱浴の初期状態がエネルギー固有状態の場合にも,第二法則とゆらぎの定理が短い時間の間では成り立つことを数学的に証明した.証明の鍵となるのは,ETHに加えて,量子多体系の相互作用の局所性である.相互作用が局所的な量子多体系では,情報の伝搬速度に上限が存在することが,リープ・ロビンソン限界(Lieb-Robinson bound)として厳密に示されている.これを利用して,我々は熱浴がカノニカル分布ではないことの影響を厳密に評価した.我々の結果は量子力学と熱力学第二法則を直接的に結び付けるシナリオを明らかにしたと言え,量子多体系の非平衡ダイナミクスのより深い理解につながることが期待される.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.38-53, 2010 (Released:2010-04-16)
参考文献数
72
被引用文献数
24 9

本研究の目的は, 日本語話者の発達性読み書き障害児における視覚情報処理過程を体系的に評価し発達性読み書き障害の背景となる認知障害構造を明らかにすることである. 対象は日本語話者の発達性読み書き障害児20名と定型発達児59名である. 視機能, 視知覚, 視覚認知機能および視覚性記憶機能を測定, 評価した. 本研究の結果から, 視機能の問題は読み書きの正確性に大きな影響を与えないのではないかと思われた. 線分の傾き知覚と視覚性記憶機能は本研究で対象とした発達性読み書き障害児全例で低下していた. 視知覚と関連のあるvisual magnocellular systemとvisual parvocellular systemを検討した結果, 双方の視覚経路で機能低下を認める発達性読み書き障害児が20名中8名いた. 日本語圏の発達性読み書き障害児は海外での報告とは異なり2つの視覚経路の問題を併せもつことが多いのではないかと思われた.
著者
木村 将士 山口 真明 大森 健策 山崎 和哉 金子 誠也 加納 光樹
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.87-95, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
19

要涸沼川とその支川の飯田川において,特定外来生物コクチバスの生息状況調査を行った.涸沼川における採集調査では,2019 年と2020 年の各年の6 月から9 月に,飯田川合流点より下流側の7 地点で仔魚や成魚を含む計228 個体(体長6.3–295mm)が採集された.そのうち1 地点では 2019 年6 月に産卵床で仔魚およびそれらを保護する親魚が採集された.したがって,コクチバスは涸沼川水系で再生産し分布を拡大しつつあると考えられた.
著者
岩田 力 磯谷 正敏 原田 徹 金岡 祐次 亀井 桂太郎 前田 敦行 高山 祐一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.773-776, 2013-05-31
参考文献数
17

要旨:経肛門的直腸異物は,精神障害や性的嗜好あるいは事故により肛門から異物が挿入され,抜去不能となったものである。瓶類,玩具や缶の蓋などの報告例は多いが,石膏による直腸異物の本邦報告例はない。今回,われわれは石膏を経肛門的に注入し,全身麻酔下にS状結腸に切開を加え異物を摘出した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は32歳男性,既往歴は特になし。10年以上前より自慰行為にて肛門より液体状の石膏を注入していた。2011年6月に液体状の石膏500mLを注入,排出困難のために当院救急外来受診した。血液検査では炎症反応の高値を,腹部CTでは直腸からS状結腸におよぶ高吸収体を認めた。石膏注入後約15時間後に全身麻酔下に経肛門的に摘出を試みたが不可能であり,開腹手術へと移行した。開腹して腹腔内よりS状結腸の異物を肛門側に押し出そうとしたが押し出せず,S状結腸に切開を加え18×6×6cmの石膏を摘出した。直腸粘膜の損傷を認めたために低位前方切除術を施行した。術後経過は良好で第11病日に退院した。
著者
金澤 由佳
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.135-147, 2018-03

『犯罪白書』には精神障害者による犯罪という項目がある。そして、「刑法」「医療」「福祉」を中心にこれまでに多くの学際的な研究が『犯罪白書』を引用し、精神障害者の犯罪率は一般刑法犯に比べて低いこと、一方で特定の罪種についてはより高い犯罪率を示すことなどを指摘してきた。精神障害者による犯罪は『犯罪白書』が刊行された当初より、継続して語られてきた重要項目の1つであるが、時代をさかのぼって『犯罪白書』をみるならば、刊行当初は「精神障害」という用語が示す定義自体もあいまいであり、一般刑法犯に占める精神障害者の比率やその罪種別の割合も示されていなかった。そこで、本研究では、『犯罪白書』における精神障害者の定義や精神障害者による犯罪率の変遷について着目し、全57冊の『犯罪白書』を概観した。『犯罪白書』を引用する場合は、本研究で明らかになった『犯罪白書』における定義や特徴を念頭におき、誤解や偏見を招かないよう留意する必要性があると思われた。
著者
金子 周平 山下 諒 泉 祐介 平本 淳
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.249-252, 2022-11-20 (Released:2022-11-21)
参考文献数
9

Vaccines are considered as one of the effective tools for tackling the COVID-19 pandemic. At the same time, however, information regarding the adverse effects of the vaccines must be collected and analyzed carefully. We encountered the case of an 87-year-old woman who was suspected as having drug-induced lung injury as a side effect of the BNT162b2 COVID-19 vaccine (Pfizer/BioNTech). Four days after the second vaccination, the patient developed fever, dyspnea, and cough. Computed tomography showed ground-glass opacities in both lung fields, and the pneumonia improved rapidly with steroid treatment. Since there was no other potential cause than the vaccine, the condition was strongly suspected as drug-induced lung injury caused by the vaccine. The results of a drug-induced lymphocyte stimulation test also supported this diagnosis. While the COVID-19 vaccine is reported to exert high efficacy, the frequency of lung injury caused by the vaccine remains unknown. Therefore, it is necessary to pay attention to the physical condition of persons after COVID-19 vaccination.