著者
高橋 英彦
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 = Japanese journal of biological psychiatry (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.51-54, 2011-03-25
参考文献数
4

自己と他者の所有物の高低と自己と他者との関係性の遠近というパラメータを調節することで,妬みの強さを調節し,f MRI 実験を行った。妬みの感情のもう 1 つの側面として,妬みの対象が不幸に見舞われると,私たちは他人の不幸は蜜の味ともいわれる非道徳な感情を抱くことがあり,この点についても併せて検討した。その結果,妬みと前部帯状回の背側部の活動が関係することがわかった。前部帯状回の背側部は身体的な痛みにも関わる部位で,社会的な痛みといえる妬みも同様な部位が賦活されたことは興味深い。また,妬みの対象に不幸が起こると,報酬系である腹側線条体の賦活を認め,文字通り他人の不幸は蜜の味であるかのような反応を認めた。
著者
高橋 敏
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.1-19, 2004-03-01

人々は生命の危機に曝らされ、生活共同体の存亡の局面に立たされたときどのような行動に走るのであろうか。もとより、本来生命を保護し、共同体を行政の一環として支配する体制が人々の不安を解消し得ない非日常の時空においてである。本稿は安政五年(一八五八)突如人々を襲ったコレラの脅威に人々がどのように立ち向かったのか、いやいかにしてこの災厄から逃れようとしたのかを、克明に実証しようとしたものである。安政五年は黒船という「異」の襲来と嘉永末年から安政初年にかけて連続して天地を揺がし、地を震わせた大地震・大津波の恐怖の未だ覚めやらぬ時であった。そこにコレラが襲いかかった。即死病といわれ次々と感染しては大量死に至る惨状は医療行為によって対応することは困難となり、ありとあらゆる神・仏、流行神、呪術を動員して、これに当たることとなった。本稿は、人々の動向を駿河国駿東郡下香貫村(現沼津市下香貫)と深良村(現裾野市深良)で検証する。この二つの事例を取り上げたのはもちろん動向を記録した史料に恵まれたこともあるが、共通して京都吉田大元宮の勧請によってコレラの災厄を除こうしたことに注目したからである。何故に吉田神社の勧請に走ったのか。村共同体の意志決定の過程、吉田神社の神道支配の流れに着目しつつ、コレラの非日常の時空に置かれた人々の不安とそれに立ち向かう人々のエネルギーを掘り起こしたい。吉田神社の勧請は京都往復の路銀はもちろん祈祷料、鎮札などの宗教儀礼に金がかかる。下香貫村、深良村両村とも莫大な金銭の喜捨を村人に求め、最高級の七両二分の祈祷(小箱)をお願いし、帰村後は吉田宮まで造営し、コレラはじめ災厄除けの宮を勧請している。
著者
田中 輝和 田中 恭子 高原 二郎 藤岡 譲 田村 敬博 山ノ井 康弘 北条 聰子 高橋 敏也 三木 茂裕 中村 之信
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Japanese Journal of Antibiotics (ISSN:03682781)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.790-797, 1994-06-25 (Released:2013-05-17)
参考文献数
13

MRSAとその複数菌感染症に対し, Arbekacin (ABK), Fosfomycin (FOM) 投与30分後に Ceftazidime (CAZ) を投与する時間差併用療法を設定し, 基礎的, 臨床的検討を行い以下の成績を得た。臨床分離のMRSA 1727及びPseudomonas aeruginosa KIに対し, 1/4~1/8MICのABK, FOM, CAZの同時及び時間差処理を行い, 殺菌効果を比較したところ, 時間差処理群により優れた相乗的殺菌効果が認められた。両菌による複数菌感染にマクロファージを用いた系では, 三薬剤の時間差併用により, マクロファージによる著しい殺菌効果の増強が認められた。MRSA感染症を呈した15症例に対する臨床的検討では, 有効率は80.0%であった。MRSAに対する除菌率は60.0%であった。ABK, FOM, CAZを用いた時間差併用療法は, MRSAを含む複数菌感染症に対し, 非常に有効な治療法であると考えられる。
著者
高橋 浩晃 前田 宜浩 笠原 稔
出版者
北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門(地球物理学)
雑誌
北海道大学地球物理学研究報告 (ISSN:04393503)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.399-410, 2009-03-15

We investigate the characteristics of great earthquakes occurring in the central Kuril Islands on 1915, 1918, 2006 and 2007. Comparisons of seismic intensity distributions, tsunami data and waveforms of above four events were made. Though magnitudes of these earthquakes were almost the same, only the 1915 event did not generate observable tsunami. This fact may be due to deep focal depth of this earthquake. Similarities of seismic intensity distributions between the 1915, 1971 and 2008 deep-focus earthquakes also imply that the 1915 event was the deep-focus event in the northeastern Okhotsk Sea. Waveform properties of the 1915 and 2008 events supports above hypothesis. We conclude, therefore, that the 1915 earthquake was not the event in the central Kuril Island but in the Okhotsk Sea with deep depth. Large tsunami and widespread felt area of the 1918 earthquake show that this event was a typical shallow-dipping thrust event on plate boundary as indicated by previous studies.
著者
高橋敬視著
出版者
立命館出版部
巻号頁・発行日
1944
著者
井上 陽子 大友 麻子 高橋 千果 森屋 宏美 大貫 優子 谷口 泰史 和泉 俊一郎 秦野 伸二
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.98-113, 2017 (Released:2018-10-29)
参考文献数
27

現代社会では,犯罪捜査や事故などの犠牲者の身元確認や親子鑑定などの個人のもつ遺伝の情報が活用されることが多くなってきている.また,インターネット上には個人の「遺伝子検査」を行うサイトが掲載されている.このような社会環境の中で,高校生が「遺伝子」についてより深い理解を得るために学習機会を持つことはきわめて重要と思われるが,設備や試薬などの経費の面で高校において体験的な授業実践を行うことは容易ではない.そこで,筆者らは,授業内容は高校側が立案し,設備や試薬は大学側が負担するという高大連携によって「遺伝子」を扱う実験を開発し,授業実践を行った.扱った「遺伝子」は広く動物界の生物に保存されている転写調節因子の一つであるSOX2遺伝子で,ヒトとゼブラフィッシュを実験材料とした.また,遺伝子解析因子の基本的な技術を体験する意味で,「DNAの抽出」,「PCRによる特定の遺伝子領域の増幅」,「塩基配列の異同を調べるための制限酵素処理」及び「アガロースゲル電気泳動」を含む内容とした.その結果,高大連携授業に参加した高校生は,それぞれの実験が持つ意味や結果の解釈について,実験前より実験後においてより深い理解を示し,対照実験の意義を理解するなど「科学的な探究能力」の育成について,効果があることが示された.
著者
石橋 正信 馬場 俊孝 高橋 成実 今井 健太郎
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.125-142, 2019 (Released:2020-02-29)
参考文献数
12

南海トラフの沈み込み帯において,M9クラス巨大地震とそれにともなう巨大津波の発生の可能性が内閣府により指摘されて久しい。この津波被害想定によると,地震域近傍の沿岸地域では地震発生から数分後に巨大な津波が到達してしまうため,津波防災に向けた行動計画の再構築や人的被害軽減のための迅速な対応策の検討が極めて重要になる。その対応策のひとつとして,高速かつ高精度な即時津波予測が有効と考えられる。本研究では,地震と津波観測に向けた稠密海底観測網(DONET)による沖合観測網を利用した即時津波予測システムを構築し,和歌山県沿岸6地域において実装を行い,その有効性の検討を行った。本システムにより,地震と津波の初動到達時間を即時評価できること,沿岸津波高や浸水域の即時予測が可能であることを示した。さらに,1944年昭和東南海地震の事例と内閣府のM9クラス巨大地震の波源シナリオを用いて本システムの予測精度を検証した。本システムで即時予測される沿岸津波高や浸水域面積はやや過大評価傾向にあるものの,おおむね安全側の予測結果となり,津波防災上有効なシステムであることを示した。
著者
徳野 治 藤原 美樹 中上 佳美 山之内 すみか 足立 昌代 池田 明子 北山 茂生 高橋 敏夫 加瀬 哲男 木下 承晧 熊谷 俊一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.525-533, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
15
被引用文献数
2 4

インフルエンザ迅速診断キットは,その初期診断と治療に有用であり多種市販されている.しかし検査結果の精度に関しては,各キット間の検出感度差も示唆される.今回8 社から販売されているキットの特性を明らかにすることを目的として,ワクチン株及び臨床分離株を用いて検出感度や性能等を比較検討した.供試したウイルス株は分離培養したA 型H1N1,A 型H3N2,B 型のワクチン株5 株,臨床株6 株を用いた.各ウイルス株原液を生理食塩水で10 倍段階希釈し,キット添付文書記載の用法に基づき測定を行い,陽性検出限界を求めた.これをさらに2 倍希釈系に調製して測定し,最小検出感度を比較した.各試料中のウイルスRNA コピー数をリアルタイムreverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)法にて測定した.同時に各キット添付の専用綿球と専用容器でのウイルス抽出効率の評価も実施した.各分離株に対する最小検出感度のウイルス抗原量平均値〔log10 コピー数/mL〕は,A 型H1N1 が5.68~7.02,A 型H3N2 が6.37~7.17,B 型が6.5~8.13 であり,一部のキット間で感度に有意差が認められ,ウイルス抽出効率についてもキット間に差が認められた.ウイルス検出感度はA 型に対して比較的高く,B 型には低い傾向が認められた.各キット間の検出感度差については,用いられている検出原理の違いや,あるいはそれぞれのウイルス抽出方法の違いによるものと推察される.
著者
高橋 英孝 山門 実 中館 俊夫
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.38-49, 2001-05-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
7
被引用文献数
3

QOL向上のためのED治療薬に対するニーズを知ることを目的に,人間ドックを受診した男性665人を対象として性機能に関する調査を実施した。回答者は474人(回収率71.3%)であり,年齢の記載がない者を除外した465人(平均年齢は54.7±9.9歳)を対象として解析した。ED治療薬を使用したいと回答した者は92人(20%),使用してもよいと回答した者と合わせると129人(28%)であり,人間ドックでの処方を希望する者は28%であった。日本男性人口に当てはめると,積極的希望者は733万人,消極的希望者を含めると1,025万人と推計された。
著者
野村 佳司 内藤 貴文 小野 晃 三上 重明 高橋 利郎 木曽 邦明
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.289-294, 2004-04-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
4

Recently, sake has come to be frequently sold in transparent refrigerators fluorescently lighted. In such cases, the sake is sometimes colored highly. This seems due to the effect of fluorescent light. We researched the effects of fluorescent light sake coloring. As for the relations between sake coloring and the six types of fluorescent lights, a three band fluorescent light (natural white) colored sake most highly, second was a fluorescent light (natural white), and a high color rendering fluorescent light coated with UV absorption film (natural white) colored sake least. We researched the effects of four color-films on sake coloring. A red film was most effective for preventing sake coloring. A blue film was least effective in preventing sake coloring. As a result of a multivariate analysis, light with a wavelength under 450 nm produced an effect on sake coloring.
著者
大島 堅一 上園 昌武 木村 啓二 歌川 学 稲田 義久 林 大祐 竹濱 朝美 安田 陽 高村 ゆかり 金森 絵里 高橋 洋
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.システム改革と市場設計に関する研究:電力システム改革の背景にあるエネルギー転換や世界的なエネルギー政策の構造改革について調査し、日本の状況との比較検討を行った。また、エネルギー転換の一環として世界的に盛り上がる国際連系線について、電力システム改革の観点から研究した。2.地域分散型エネルギーの普及、省エネルギーの促進政策研究:地域分散型エネルギーの普及については、特に欧州の国際連系線の潮流分析や市場取引状況について定量的評価を行なった。また国内の系統連系問題に関して主に不適切なリスク転嫁の観点から、参入障壁について分析を行った。 省エネルギーの促進政策の研究については、対策技術種類と可能性、対策の地域経済効果、技術普及の際の専門的知見活用法について検討した。3.新しいビジネスと電力会社の経営への影響に関する研究:電力の小売全面自由化の影響にいて整理・分析し、その研究成果の一部を「会計面からみた小売電気事業者の動向」として学会報告した。加えて2020年4月からの発送電分離と小売部門における規制料金の撤廃の電力会社の経営面に与える影響について制度面ならびに国際比較の観点から分析を行った。4.エネルギーコストに関する研究:昨年度の研究成果を踏まえて、風力発電事業者複数社等への追加ヒアリング調査を行い、疑問点の解決を図った。加えて、原子力のコストについて、現時点での新たな知見に基づく再計算と、電力システム改革下における原子力支援策についての分析を行った。5.経済的インパクトに関する研究: 2005年版福島県産業連関表を拡張し、再生可能エネルギー発電部門を明示化する作業を行い、拡張産業連関表の「雛形」を完成させた。これを福島県の実情を反映したものにするための準備作業として、風力、太陽光、小水力、バイオマス、地熱の業界団体・専門家に対してヒアリングを行った。
著者
板倉 弘重 高橋 二郎 北村 晃利
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.173-182, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
72
被引用文献数
6 3

アスタキサンチンは,広く天然に存在する赤色のカロテノイドの一種であり,一重項酸素消去および抗脂質過酸化活性などの優れた抗酸化作用を有する.近年さまざまな生理活性が報告されるようになり,健康食品および化粧品素材として普及しつつ,予防医学の領域においても注目されている.本稿では,アスタキサンチンの由来,他のカロテノイドとの比較,化学的特長に触れつつ,抗脂質過酸化活性,抗炎症,血流改善,メタボリックシンドローム改善,眼精疲労改善,ピロリ菌抑制,脂質代謝改善,筋肉疲労改善,美肌効果,男性不妊症改善などの機能性,さらに体内動態および安全性についての細胞,動物試験,および臨床試験などの結果を取り上げ,補完代替医療素材としての可能性を紹介する.
著者
中川 慶子 野々下 知泰 高橋 浩爾
出版者
社団法人 日本フルードパワーシステム学会
雑誌
油圧と空気圧 (ISSN:02866900)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.425-432, 1994-05-15 (Released:2011-03-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

In the pipeline of a hydraulic system or a liquid transportation system, liquid column separation occurs when the pressure drops below the gas release pressure or saturated vapor pressure. When the cavity produced by the column separation collapses, an extraordinary high build-up of pressure, which is very harmful for the hydraulic system and the components, can occur. The behavior of the dissolved air contained in the liquid makes this even more complicated. To predict the duration of the separation and the peak pressure caused by the collapse, a simple one-dimensional model is proposed, in which gas-liquid surfaces are taken and the effect of released air is taken into account using a homogeneous mixture approximation and the method of characteristics. With regards to the first pressure peak, the calculated results agree well with the experimental ones.
著者
高橋 道宏 多喜田 保志 市川 宏伸 榎本 哲郎 岡田 俊 齊藤 万比古 澤田 将幸 丹羽 真一 根來 秀樹 松本 英夫 田中 康雄
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.23-34, 2011-01-15

抄録 海外で広く使用され,30項目の質問から構成されるConners成人期ADHD評価尺度screening version(CAARS®-SV)の日本語版を作成し,成人期ADHD患者18名および健康被験者21名を対象に信頼性・妥当性を検討した。各要約スコアの級内相関係数の点推定値はいずれも0.90以上であり,また因子分析の結果,ADHDの主症状である不注意と多動性-衝動性を表す因子構造が特定された。内部一貫性,健康成人との判別能力ともに良好であり,他のADHD評価尺度CGI-ADHD-SおよびADHD RS-Ⅳ-Jとの高い相関が認められた。以上により,CAARS-SV日本語版の信頼性および妥当性が確認された。
著者
高橋 敏
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.149-164, 2003-10

生命の危機にさらされたとき人々はどのようにこれに立ち向かうのか。日本歴史上人々は天変地異の大災害や即死病といわれる伝染病の大流行に直面した。文明の進歩、医学の革新等、人々の生命に関する恐怖感は遠のいたと一見思われがちの現代であるが、二〇〇三年のSARSの大騒動は未だ伝染病の脅威が身近に存在することを思い知らしめてくれた。本稿は安政五年(一八五八)突如大流行したコレラによって引き起こされた危機的状況、パニック状態を刻明に実証しようとしたものである。人々は即死病といって恐れられたコレラが襲って来る危機的状況のなかでどのようにこれに対拠したのか、本稿は駿河国富士郎大宮町(現富士宮市)を具体例として取り上げる。偶々大宮町の一町人が克明に記録した袖日記を解読することから始める。長崎寄港の米艦乗組員から上陸したコレラ菌は東へ東へ移動し次々と不可思議な病いを伝染させ、未曾有の多量死を現実のものとした。コレラに対するさまざまな医療行為が試みられるが、一方で多種多様、多彩な情報を生み出し、妄想をまき散らしていく。まさに、現実の秩序がくつがえる如く、人々を安心立命させていた精神(心)の枠組が崩壊し、人々はありあらゆる禦ぎ鎮魂の呪術を動員し救いを求めていく。コレラ伝染の時間的経過と空間的ひろがりに対応して人々の動きは活発化し、非日常の異常に自らを置く方策を腐心していく。コレラの根源を旧来の迷信の狐の仕業、くだ狐と見なして狐を払うため山犬、狼を設定し、三峯山の御犬を借りようとする動きやこの地域に特に根強い影響力を有する日蓮宗の七面山信仰がコレラを抑える霊力をもつとして登場する。極限状況の人々の動向にこそ時代と社会の精神構造があらわにされるのである。
著者
木村 俊哉 高橋 政浩 若松 義男 長谷川 恵一 山西 伸宏 長田 敦
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-22, 2004-10

ロケットエンジン動的シミュレータ(Rocket Engine Dynamic Simulator : REDS)とは、ロケットエンジンの始動、停止、不具合発生時等のエンジンシステム全体の過渡特性を、コンピュータを使って模擬し評価する能力を持った計算ツールである。REDS では、ロケットエンジンの配管系を有限個の配管要素の連結(管路系)としてモデル化し、この管路系に対しボリューム・ジャンクション法と呼ばれる手法を用いて質量、運動量、エネルギーの保存方程式を時間発展的に解くことによって管路内(エンジン内)における、燃料、酸化剤、燃焼ガスの流動を計算する。ターボポンプ、バルブ、オリフィス等の流体機器はボリューム要素やジャンクション要素にそれらの対応する作動特性を持たせることで動作を模擬する。燃料や酸化剤の物性については、ロケットエンジンの特殊な作動範囲に適応するよう別途外部で開発された物性計算コード(GASP 等)を利用するが、そのためのインターフェースを備える。燃焼ガスの物性計算については、熱・化学平衡を仮定した物性計算を行い、未燃混合ガスから燃焼状態、燃焼状態から未燃混合状態への移行計算も行う。ターボポンプの運動は、ポンプやタービンの特性を考慮したポンプ動力項、タービン動力項を加速項とする運動方程式を流れの方程式と連立して時間発展的に解くことによって求める。未予冷区間においては、配管要素と流体との間の熱交換を、熱伝導方程式を解くことによって求め、再生冷却ジャケットにおいては、燃焼ガスから壁、壁から冷却剤への熱伝達を考慮する。燃焼室、ノズル内においては、燃焼ガス流れの分布から熱流束の分布を考慮する。今回のバージョンでは、2 段燃焼サイクルを採用した我が国の主力ロケットLE-7A 及びLE-7 の始動、停止過程時における動特性を模擬することを目的にエンジンモデルを構築し、実機エンジン燃焼試験の結果と比較することでシミュレータの検証を行った。但し、ボリューム要素の組み合わせは任意であり、エキスパンダーサイクルなどの新しいエンジンシステムに対しても適用が容易に出来る。計算の高速化のために2CPU 以上用いた並列処理への対応を行い、ネットワークで接続した複数のPC(PC クラスタ)を用いた並列計算も可能である。
著者
今井 雅子 高橋 礼恵 戸田 智美 三沢 岳志 源栄 克則
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.34-40, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

本研究では,投資ファンドとして先端技術を持つ投資先を選定するという設定のもと,社会課題を解決するための先端技術の中から,技術革新や市場拡大が期待される家庭用サービスロボットに着目し,技術動向分析および技術動向予測を行った。これらの情報と研究メンバーの想像する将来の生活から,ニーズはあるが,現在製品が普及していない家庭用調理ロボットを2030年製品化のターゲットとして選択した。この家庭用調理ロボットについて,理想とする将来像と現状の技術とのギャップから,把持技術,安全技術,味のデジタル化技術をキー技術として特定し,これらの技術において先端技術をもつベンチャーを探索し,最終的に2社を投資先として選定した。
著者
松澤 正 加藤 仁志 飯塚 直貴 久慈 晋也 高橋 宙来 田中 俊輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.271, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 臨床的にマッサージは,生体に与える影響として,血液リンパ循環の改善,筋緊張の抑制,筋弛緩障害の改善などがあるが,生体に与える生理学的影響に関する科学的な証明がされていないものが多いとされている(松澤ら,2008).先行研究として,3分間の高強度運動後のマッサージによる筋硬度の変化と持続効果に関する研究(小粥ら,2009)によると,筋硬度が急激に低下し,その後30分までは有意に低下したと報告されている.マッサージ前後における筋硬度に関する研究(肥田ら,2010)によると,マッサージ施行後に筋硬度は低下すると報告されている.しかし,この研究は,対象者が7名と少人数であり,またマッサージの手技が不明であったり,持続効果の検討は行われていないなど,不十分な面が考えられた.そこで,本研究では,マッサージ施行直前,直後,15分後の筋硬度を測定することで,マッサージによる筋硬度の変化とその効果の持続を検討することを目的とした. 【方法】 対象者は健常成人20名とした.対象候補者に対して,予め十分に説明し,書面による同意を得た上で本研究の対象者とした.対象者は,下腿を露出できる服装で治療ベッド上に背臥位で10分間安静にした.その後,腹臥位になり,筋硬度を測定したのち,左腓腹筋のマッサージ(軽擦法,揉捏法)を,軽擦法1分間,揉捏法5分間,軽擦法1分間の順で,計7分間施行した.筋硬度はマッサージ直後と15分後に測定した.測定部位は両側の腓腹筋内側頭とし,最大膨隆部にマークし,その部位の筋硬度を5回測定しその平均値を採用した.統計学的分析はマッサージの有無と時間の二要因の二元配置分散分析を用いて,マッサージによる筋硬度の変化を検討した.有意水準は5%とした. 【結果】 マッサージ側と非マッサージ側のマッサージ直前の筋硬度には有意差は認められなかった.二元配置分散分析の結果,マッサージ側と非マッサージ側に有意な変化パターンを示し,マッサージ側の腓腹筋内側頭の筋硬度がマッサージ後に有意に低下し,その効果は15分後まで持続した. 【考察】 揉捏法の手技は指掌を皮膚に密着し,筋肉をつかみ圧し搾るようにして動かす手技(網本,2008)であるため,筋ポンプ作用に近い効果が得られたと考える.この効果により静脈還流量が増加することで,心拍出量が増加し末梢血管の血流が改善したと考える.血流改善することでATPの生産が促進され,筋小胞体上のカルシウムポンプが働くことで,アクチンとミオシンの科学的結合が切れ,筋硬度が低下したと考える.また外力が加わることで,アクチンとミオシンが引き離され弛緩すると言っている(黒川ら,2008).このことから,マッサージにより外力が加わったことで筋硬度が低下したと考える.