著者
三野 たまき 熊谷 哲
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

簡易被服圧測定器の開発:従来より丈夫な受圧部の測定器を開発した.血圧トランスデューサーはディスポーザブルで,圧媒体に水を選び,駆動電源は乾電池のハンディタイプの簡易被服圧測定器を組み上げた.全身の適正圧分布,圧迫が足部容積・皮膚温・血流量・呼吸運動に及ぼす影響を明らかにした.周応力発生時の"ちょうど良い"被服圧は,頸部・胸部・腹部では低く,下腿部・足首・前腕・手首・指等で高かった.
著者
廣安 知之 三木 光範
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

インタラクティブGA(interactive Genetic Algorithm : iGA)は,GAの評価部分を人間が評価することにより,人間の感性や嗜好といった数量化できない問題に対応することが可能である.本研究では,これまで単一目的のモデルとして定式化されてきたiGAに対して多目的モデルを提案し,多目的モデルに拡張する際の問題点の整理,検討,システム構築を行うことを目的とした.これにより,よりユーザーの嗜好に沿った解選択が可能となる.
著者
上野 卓郎 早川 武彦 高津 勝 内海 和雄 尾崎 正蜂 岡本 純也 藤田 和也
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

3年間の研究成果の概要を示せば、以下のようになる。第1に、1990年を前後して、情報化社会の成熟と共に多国籍化した「メディア・スポーツ・生産複合体」(media-sport production complex)が「国際スポーツ機構」と提携し、スポーツのメディアイベント化・メディアソフト化を大規模で進め、トランスナショナルな体験の機会を地球的な規模で提供するようになった。その過程で、スポーツは世界共通の言語であるとともに、夢や感動を生み出す「グローバルドリーム」として受け入れられていった。第2に、その影響力は、国民国家やインターナショナルな境界を超え、個人や社会集団に直接・間接に影響を及ぼすようになった。第3に、そのような「スポーツのグローバリゼーション」とローカルなスポーツ文化の関係は、一方向ではなく、双方向的であり、互いに孤立したものではなく、相互に影響し合っていることが明らかになった。第4に、ただしヘゲモニーは「生産複合体」と「国際スポーツ機構」の側にあり、その影響力の浸透によって、スポーツの商品化と公共性の矛盾は複合化・顕在化し、ローカルなスポーツ文化主体の衰弱という事態も起こっている。第5に、そこには葛藤や主体的な営みも存在する。従って、「スポーツのグローバリゼーションとローカリゼーション」研究は、文化の伝播や変容、一方向的な変化の過程としてだけでなく、生活世界の変容・再構成を視野に入れて考察する必要がある。最後に、「研究成果報告書」の構成を示しておく。(1)グローバリゼーション・文化・スポーツ、(2)グローバリゼーションとメディア・スポーツ、(3)スポーツインターナショナリズム、(4)グローバリゼーションとローカリティ、(5)グローバリゼーションと政策・運動。
著者
竹村 元秀 米原 典史 小林 真之 杉生 真一 森谷 正之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

神経損傷ラットの情報伝達機構が大きく変化することが、神経因性疼痛発現の基礎にあることが明らかになった。ぺプチド性C線維を介したシグナリングが侵害刺激をよりシャープに上位中枢に送るが、非ぺプチド性C線維のシグナリングがそのぺプチド性C線維を抑制するといった制御に関わっている可能性を示すデーターを得た
著者
宮本 雅子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

高齢社会における室内色彩計画のための資料を得ることを目的とし、調査研究を進めた。まず、高齢者と若齢者が持つ高齢者の居室に望まれるイメージについては、それほど大差ないものであることがわかった。よって、空間設計を行う際のイメージ設定に関しては、設計者の年齢による配慮は特には必要でないことが明らかとなった。色彩のイメージは高齢者と若齢者で異なる部分が見られた。そこで、室内に配色した場合の空間のイメージについて捉えた。ソファの色彩と壁面の色彩から受ける印象評価については、明度の高いB系を基調としたインテリアが高齢者に好まれている。しかし、若齢者には好まれないため望ましい配色とはいえないが、利用者の大部分が高齢者のみとなる施設などにはこの色は利用できると考えられる。また、ソファ茶色・からしのYR系でYR系の壁の場合、若齢者・高齢者ともに価値因子に対する評価が高く、多くの人が出入りする空間では、有効な配色であると考えられる。さらに、高齢者が、好ましいと判断する基本的なイメージは、「配色が良い」「明るい」「落ち着く」「バランスがよい」「色が好き」などであることがわかった。また、「明るい」と「落ち着く」というイメージが強く結びついている。具体的な内容としては、「同系色の組み合わせ」「ソファと床の色」「壁とソファの色」「ソファの色」「壁と床の色」としており、特にソファの色に注目していることがわかる。若齢者も基準としているイメージは大きくは変わらないが、「落ち着く」と「暖かい」というイメージが大きく結びついている。具体的な内容としては、高齢者が具体的な部位の色彩に注目しているのに対し、若齢者は全体的な色の「統一感」「同系色の組み合わせ」などによって好ましさを判断している。以上から、高齢者と若齢者では、室内色彩空間のとらえ方が異なることが把握できた。
著者
山崎 晴雄 鈴木 毅彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

海成段丘上に位置する孤立した短い活断層の成因を検討するため、日本各地の当該断層について、断層地形の特徴、運動様式、地質構造、地震活動等を考察した。その結果、1.沖合に存在する大規模な逆断層のバックスラストと、2.海岸沿いの基盤地質構造が、遠方の大地震や過去の環境条件の変化による応力集中によって再活動したもの、の2タイプの断層があることが判った。何れも起震断層として活動する可能性は考えにくい。
著者
三浦 均也 前田 健一 窪内 篤 菅野 高弘 大塚 夏彦
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、港湾地域における岸壁等の施設の耐震性能を高度化することであり、地震時における地震時土圧の特性を明らかにし、より合理的で経済的な地震時土圧の評価法および耐震設計法を開発することである。この目的を達成するために、北海道釧路港で実施していた「実大重力式岸壁の地震時挙動観測」で得られるデータの収集、分析・評価を進め、地盤の液状化に関連した岸壁の被害メカニズムを明らかにするとともに耐震設計の提案を行った。研究成果の概要および特徴は以下の通りである。「研究の独創性」 阪神淡路大震災で生じた港湾施設の甚大な被害に対して、これまでの耐震設計の枠組みの中で設計地震衝撃力を増大させ構造物が長大化させる考え方が主流であった。しかし、本研究ではこれまでの震度法にとらわれない。構造物の振動特性と液状化対策の効果を適切に反映できる独創的な地震時土圧評価法および耐震設計法を提案し、その検証を観測結果に基づいて検証することができた。「研究の実用化の可能性」 2003年十勝沖地震における観測結果を解析することによって、地震時における岸壁の挙動メカニズムが明らかになり、提案していた地震時土圧の評価法も検証することができた。現在をこの評価法を取り入れた耐震設計法の開発を終え、1年以内に行われる港湾構造物の耐震設計法の改訂という形で研究の成果が実用化されることになった。また、試験岸壁の建設時や建設後長期間に渡る観測においても岸壁挙動の重要な知見が得られ、これらは岸壁の施工管理や維持管理において今後実用化される予定である。「研究の達成度」 当初予定していた現地観測と耐震設計法の開発を予定通り達成することができた。2004年9月26日には十勝沖地震が発生し試験岸壁は震度5強の衝撃力を受けた。試験岸壁の背後地盤は液状化し、岸壁には地震時特有の変形が生じ機能が深刻な損傷を受けた。地震衝撃力による液状化を伴う岸壁の被害を観測によって捕らえることに成功したため、観測結果の解析と耐震設計法の検証は説得力を持って予定通り達成することができた。「研究の学問的発展への貢献度」 このような実大岸壁の背後地盤の液状化を伴う地震時挙動を得たのは世界的にも初めてである。地震時挙動の観測によって得られたデータは、2005年1月17日から1年間インターネットで世界の研究者に公開している。このデータを用いた研究成果を持ち寄り2005年9月には国際会議を開催する予定であり、この分野の学問的発展に大きく寄与するものと期待している。また、このような前例のない観測を通じて観測方法や試験方法についても重要な知見を得ることができた。
著者
佐藤 卓己 佐藤 八寿子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

従来のテレビ論やテレビ史の大半は娯楽文化論か政治報道論であり、教育・教育とテレビの関係は「子どもとメディア暴力」や「メディア・リテラシー」に集中していた。本研究では「教養のメディア」としてテレビ放送の意義を再検討することをめざした。『テレビ的教養-一億総博知化の系譜』(NTT出版・2008年)などにおいて、NHK、民間放送、放送大学など諸組織ごとに分かれた既存の個別研究を統合する放送メディア教育研究の新しい枠組みを提示した。
著者
粒来 香 米澤 彰純 濱名 篤 矢野 眞和 吉田 香奈
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

現在、高等教育においては大学評価が重要な意味を持ちつつあるが、本研究では家計による市場型評価に焦点をあてた。大学の教育サービスの需要者である家計は、教育内容と価値について情報を求める。わが国の大学教育費の多くは、とりわけ私立大学では親(保護者)によって負担されていることから、保護者を家計の代表者と考えることができよう。以上をふまえ、本研究では保護者を対象とした面接調査および質問紙調査を中心とし、1)大学教育に対する満足のありかたとその規定要因、2)家計による費用負担の実態、3)大学に対する期待と教育費負担に対する考え方、の3点を明らかにすることを、主要な課題として設定した。1.大学教育に対する保護者の満足度は、「満足」+「やや満足」の合計で77.3%と、全体的にみて非常に高い。2.入学時に考慮していた教育内容やサービスに対する満足度が高いだけでなく、入学時にはほとんど考慮されていなかった「同窓会組織の充実」や「卒業生の社会的活躍」などに対する満足度が大きく高まっている。入学から卒業にいたる期間に、保護者は大学の評価すべき側面を新たに発見しており、そのことが高い評価に結びついていると考えられる。3.親子間のコミュニケーションが高いほど、また大学から提供されるさまざまな情報を利用しているほど、保護者の大学評価は高くなる傾向がある。4.年収700万円未満の家庭では、教育費が家計の20%以上を占める比率が85%にのぼる。教育費の調達に特別な方策を要しなかった家庭は6%で、ほとんどの家庭で「教育目的以外の預貯金や蓄え」を取り崩している。5.重い負担にもかかわらず、多くの保護者は教育費を「子どもへのプレゼント」として認識している。
著者
箕田 雅彦
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度は、高分子材料を常圧常温下で擬似体液(SBF)中へ浸漬するというバイオミネラリゼーションに倣った手法により、キチン/アパタイト粒状ハイブリッドを創製した。市販の多孔性キチン粒状ゲルをSi(OEt)_4を用いるゾル-ゲル反応によりカルシウムシリケート化してSBFへ浸漬することでハイブリッドを得た。さらに、CH_3Si(OEt)_3含有ゾルを用いて同様に処理することで、ハイブリッド表面無機層を改質した。また、バイオミネラリゼーションに倣ったPP、PET材料とアパタイトとのハイブリッド化についても検討した。高分子基板をTi(OiPr)_4を用いるゾル-ゲル法でチタニアコートし、沸騰水中で3時間保持してチタニア層の結晶構造変換を行ったのちSBFへ浸漬することで、アパタイトとのハイブリッドを得た。既報の希塩酸加熱処理法に比してより穏和な熱水処理法が、チタニア層の結晶構造変換に有効であることを明らかにした。平成18年度は、有機/無機界面強度の増大によるハイブリッドの力学的特性の向上をねらいとして、高分子の表面修飾反応を検討した。PET基板をアルカリ前処理して3-イソシアナートプロピルトリエトシキシラン(IPTS)と反応させることで表面にIPTS残基を導入した。続いて、Ti(OiPr)_4を用いるゾル-ゲル法によるチタニアコーティングと熱水処理を行った後SBFに浸漬することで、試料表面にアパタイトを形成させることができた。さらに、粘着テープによる剥離面をXPS解析した結果、IPTS処理無しの試料に比して、基板表面をIPTS処理したハイブリッド試料では剥離強度の増大が認められた。また、ハイブリッド形成時のチタニア層とのネットワーク形成ならびに投錨効果による有機/無機界面強度の増大をねらいとして、PET基板表面へ-si(OMe)_3側鎖を有するグラフトポリマー鎖を導入する手法を開発した。
著者
小林 保子 高橋 泉
出版者
東京福祉大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、重症心身障害児(以下、重症児)とその家族が、地域でより豊かにQuality Of Life(以下、QOL)の高い生活が享受できるよう(1)主たる養育・介助者である母親、(2)きょうだい、(3)家族を地域で支援する事業実践の視点から、先行する諸外国の訪問調査から得られた知見も踏まえ検証し、地域における重症児の「家族支援」の必要性とサービス内容のあり方について方向性を示した。
著者
西山 伸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

より高い変換効率を持つセラミックス焼結体を作製することを目的としてCuOを添加したAgSbO_3をはじめとするナノ粒子の金属を分散させた半導体焼結体について調べた。まず、AgSbO_3系が高い熱電変換特性を示す理由を解明すべく、焼結体中の銀の粒径や分布の状態を調べるため、焼結時間の異なる試料を作製し、熱電特性とその中の銀の微粒子の関係について調べ、作製方法に関して、(a)か焼条件の影響と、(b)原料粉末作製法の影響について検討した。また、CuO以外に、ZnO, CoO, Fe_2O_3, PdO, WO_3を添加した系についても評価した。また、金属ナノ微粒子を半導体に分散させた系として、LaCoO_3中へのCa_3Co_4O_9についても実験を行った。以上の結果、次のような知見を得た。(1)AgSbO_3焼粘体作成の際の合成条件やか焼条件の検討より、この系の熱電変換効率が微細に析出している銀粒子のサイズや分布状態に影響を受けることを見出した。(2)AgSbO_3にZnO, CoO, Fe_2O_3あるいはPdOを添加すると電気伝導度が向上しゼーベック係数の絶対値が減少することを見出し、これらの酸化物の添加によりキャリアが増加したことを示した。(3)La_2NiO_4にFe_2O_3を添加することで、LaNiO_3を析出させることは成功したが、キャリア濃度が低下し、性能の向上を得られることは難しかった。(4)AgSbO_3の状態密度計算により、伝導を担っている軌道はアンチモンの5s軌道であり、この軌道の改良が、高い熱電変換効率をもたらすと考えられる。
著者
河合 千恵子 佐々木 正宏
出版者
(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

死別体験者が死別の悲嘆をいつ、どのように克服しているのかについて明らかにするために、配偶者と死別した男女276名を対象に2000年と2002年の2回にわたり縦断調査を実施してきた。それに加えて今回は3回目の調査を実施し、135名の対象者(男性55人、女性80人)から調査協力を得た。1.死別の悲しみから既に立ち直ったかどうかを対象者に尋ねた回答では、「すっかり立ち直った」と回答した者は調査を重ねるごとに増加し、第3回調査では6割を越えていた。対象者の意識の面では、回復には死別からの経過期間の要因が大きく影響していた。2.配偶者と死別後の心理的適応について、有配偶者をコントロール群として比較するため、2000年に調査を実施した1,893人のパネルに追跡調査を実施した。今回は1,169名に協力が得られ、そのうち配偶者と同居していた715名をコントロール群として用いた。より高齢の死別群は5年間に精神的健康度について得点の変化が認められず、また有配偶群より、精神的健康度が一貫して悪かった。有配偶群は2005年に精神的健康度にかなりの低下がみられたが、それでもなお死別群より得点は良好であった。死別群は5年を経て意識面では顕著な回復を示したが、精神的健康面では限界があることがうかがわれた。3.第3回調査で、現在の生活に困難を感じている傾向が伺われた男性21名に、死別から現在までの適応過程についてインタビューを行い、質的な検討を行った。立ち直りについては、多くは立ち直ったと考えていたが、立ち直れていないとはっきり自覚している人もいた。立ち直りがあきらめや現実の受容であると考える人が多かったが、それは死別後の生活の確立であると考える人もいた。立ち直りに役立ったことについては、強い精神を強調する人もいたが、泣くことの意味を述べる人もいた。配偶者を亡くした男性の心境は多様であり、立ち直りの過程も単一ではないと言える。
著者
東海 正 塩出 大輔 内田 圭一
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

この研究ではヌタウナギ類が乱獲に陥るメカニズムを明らかにした。東京湾や相模湾で採集査したヌタウナギ標本について生殖腺を調べることで,雌雄ともに成熟全長を35cm以上と,産卵期は9月頃と推定した。体長組成の年齢群を判別して求めた全長35cmまでの成長曲線より,成熟全長35cmまでに4年以上要し,これに卵の発達に必要な1年を加えて初産年齢を5歳と推定した。さらに,一回産卵数20~50個と隔年産卵も含めて,こうした低い増殖能力が漁業による乱獲に陥りやすい理由である。
著者
山下 龍一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、環境法政策を他の政策・組織との融合システムととらえ直し、新たな環境法理論、環境組織法体系を提言しようとするものである。まず、循環型社会法制や原子力法制を、環境政策と産業政策の融合という観点からとらえなおすことを通じて、政策の転換を市民や産業界が受容するためには複数の法政策の融合が必要であることが明らかになった。次に、環境法政策を組織の融合という観点からとらえなおすことを通じて、環境保護の主体として、中央省庁、地方自治体、産業界、市民のパートナーシップが強調されており、現行法制も各主体の役割分担の考え方を基本としているが、これに対し、市民や地方自治体の役割をより重視し、これらを真の主体とする新たな環境法政策を構築すべきではないかと考えるにいたっている。さらに、あらゆる政策が環境保護に配慮しなければならないという考えを発展させると、ドイツにおける環境国家論に結びつく可能性があることが明らかになった。環境法政策を重視しすぎると市民の自由を過度に制約してしまう環境独裁の危険があるし、他方、現行の統治構造では将来世代の環境利益を十分に配慮できないという問題も指摘されている。これに対し、環境法政策への市民の参加の拡大によって、現在の市民の権利・自由を守ると共に、将来世代の利益への考慮も強めていこうとする考えが一部で主張されていることが注目される。
著者
多和田 眞一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

沖縄語の通時的研究は、その共時的研究に比して、遅れていると言わざるをえないという認識の下に、(音韻史に関して)その基盤構築・整備のための研究を進めてきた。その目標の八割ぐらいは実現できた。ハングル資料・漢字資料に関してはほぼ達成できたが、いくつかの仮名資料及びアルファベット資料に関しては、後日を期すものが生じた。作業は継続し、相応のまとめをする予定である。ハングル資料「語音翻訳」「漂海録」に関しては、影印・翻刻を初め、本文・語彙索引及び分析にいたるまで、今回の研究で最終的なものが示せた。漢字資料に関しては、『琉球譯』の分析が保留となったが、本文の検討と語彙索引の作成によってある程度の成果が得られた。その他の漢字資料「中山伝信録」「琉球入学見聞録」等については、ほぼ完成したものが得られた。仮名資料に関しては、辞令文書・碑文記を中心に研究の骨格となるものが示せた。が、本文入力は終了しながら語彙索引作成・分析にまで到れなかったものが、いくつか存在する。その最たるものが『沖縄對話』(1880)である。進行中の語彙索引が完成すれば、研究の進展に寄与すること大である。アルファベット資料に関して言えば、「クリフォード琉球語彙」を基に研究の基盤が整備された。「チェンバレン琉球語彙」と称して収録した「チヤンバレーン氏増訂琉球会話」の語彙索引は、有効な資料となろう。『ベッテルハイム琉球語文典』から抜粋した「ベッテルハイム琉球語彙」の語彙索引も今後作成されるので、合わせて利用すれば相当の効果が得られる。報告書(1)・(2)を基に、前述の保留資料も整備して、『沖縄語の歴史(音声・音韻)』としてまとめる構想を持っている。研究の更なる発展を目指す。
著者
佐々木 和也 清水 裕子
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

伝統染織の手仕事を取り入れた幼児教育の可能性を探る一方で,それら開発教材の感性評価指標の模索を試みた。結果として,衣生活文化の視点から伝統染織プログラムを多数実践し,現場型で改良を重ね,主観的には多くの成果を上げることができた。しかしながら,それらを客観的に評価する感性指標を十分に考究するには至らなかった。今回は,歩行解析を用いた足の評価を試み,日常の保育形態による足の発達が異なることを見出せたことから,保育内容の設定の重要性を示唆することができた。
著者
沼崎 一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、日本人男性とフィリピン人女性との国際結婚家庭を研究対象として、異なる文化を持つ夫婦が、それぞれの生まれ育った文化を持寄り、組み合わせて、どのような新しい日常生活文化(食生活、年中行事、親族関係など)を生み出しているのか、それをどのように子供たちに伝えているか、さらに、どのような影響を地域社会に与えているといった問題について、「モザイク文化」という視点から記述分析することである。本研究では、仙台在住のフィリピン人妻の会の女性たちが中心となって、仙台七夕祭「動く七夕」パレードに参加して演じている「フィリピン・ダンス」に注目し、これは、それ自体が複数の異なる文化要素を組み合わせた「モザイク文化」であると同時に、一つの新たなモザイク片として、仙台七夕祭を「モザイク化」し、さらに仙台と故郷とを結ぶフィリピン人親族ネットワーク文化をも「モザイク化」していることが明らかとなった。仙台という枠組のなかだけで考えるならば、「フィリピン・ダンス」は、フィリピン人妻たちにとってフィリピン人アイデンティティーの確認とフィリピン文化の呈示という目的のエスニシティの表出と捕らえることもできよう。しかし、それは一面的な把握に留まる。なぜならば、フィリピンと仙台とを結ぶ親族ネットワークの文脈においては、「同じ」ものが、国際結婚家庭というアイデンティティーの表示や日本文化の呈示という目的の二文化性・多文化性の表出でもあるからだ。「同じ」モザイク片が、異なる次元では、異なる意味を持ち、異なる役割を果たしているのである。
著者
浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

最近,西日本を中心にハコフグ科魚類の喫食による食中毒が頻発している。本食中毒の症状はパリトキシン(Palytoxin: PTX)中毒の症状に酷似しており、食品衛生学上、大きな問題となっている。そこでPTXの起源生物であるOstreopsis属渦鞭毛藻の分布を調査するとともに、その培養株の毒産生能を調べた。宮崎県、徳島県、長崎県、高知県沿岸より大型海藻(約200g)を採取し、20-100μm画分の付着生物等を採取した。付着生物は、光学顕微鏡を用いて観察し、Ostreopsis属の有無を調べた。宮崎県および長崎県産Ostreopsis属の天然の単一株については、ESM培地を用い、培養温度20℃、光強度を40μmol photon/m^2/s^1、明暗周期を12時間明/12時間暗の条件下で培養を行った。次に、得られた培養藻体から調製した試験液をマウス毒性試験および溶血活性試験に供した。宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属の培養藻体からマウス毒性(いずれも1.0×10^<-4>MU/cell)が検出された。さらに、Ostreopsis属の培養藻体はマウスおよびヒト赤血球に対して遅延性の溶血活性を引き起こすとともに、後者の活性は、g-ストロファンチンによりほぼ完全に抑制された。これら培養株の毒の性状は、既報のPTX様物質と類似しており、宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属はPTX様物質産生能を有していることが確認された。各試料から予備精製した有毒成分を今回確立したPTX分析用LC/MSシステムで分析したところ、いずれもPTX類似物質であることが明らかとなった。また、食中毒を引き起こしたハコフグ科魚類とPTX様物質の産生能を持つOstreopsis属は同地域に存在しており、ハコフグ科魚類は,Ostreopsis属渦鞭毛藻を起源生物として食物連鎖により、PTX様物質を蓄積する可能性が示唆された。
著者
白武 義治 甲斐 諭 宮崎 卓朗 細野 賢治
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は次の諸課題を分析した。1.地域経済の担い手である中小規模食品製造業の存在構造2.伝統手延素麺製造業の展開条件-島原そうめん長崎県南高来郡手延素麺製造業を事例に-3.地域経済に寄与する焼酎製造業の展開条件-鹿児島県芋焼酎産業を事例に-4.韓国キムチ輸入後の日本におけるキムチ市場の動向と野菜漬物産業の構造変化5.地域農業再生と活性化に果たす農産物直売所一長崎県における農産物直売所を事例に-(補論)1.キムチ貿易と韓・日両国の野菜漬物産業の構造変化2.キムチ輸入量増加と日本野菜漬物産業の市場対応3.鹿児島県焼酎産業の成長要因と持続的発展条件-内発的発展論の視点から-これらの研究は中小食品製造業がアジア諸国の地域農業発展に寄与したことを明らかにした。