著者
江藤 茂博
出版者
二松学舎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1) 小説が映像化されて映画やテレビドラマとして提供されている現実をデータとして把握した。(2) 具体的な言語表現による作品の映像化に関する分析を行った。(3) 小説の映像化作品も含めた日本の映画やテレビドラマの世界的な広がりを違法コピー市場を中心に調査した。
著者
藤本 一勇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

『存在と出来事』と『世界の諸論理』を研究対象とし、両者の連続性と差異を研究した。『存在と出来事』では数学的存在論の領域に議論が限定されており、たとえその限定作業が後の拡張に必要不可欠なものだったとはいえ、バディウの究極目標である主体化や出来事性にまでは届いていなかった。世界における出来事と主体化の論理を展開する『世界の諸論理』こそ、バディウが真に目指していた地点だということを解明した。
著者
小松 香織
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、オスマン帝国において海洋活動にたずさわった人々のパーソナルヒストリーを、人事関係等の史料を分析することにより集積し、近代オスマン帝国の社会構造を見直そうと試みたものである。結果、オスマン帝国末期に海事に関わった人々の出自 (民族、宗教、出身地、社会階層等)、キャリアパターンについて、一定の法則性を見出し、海事における黒海沿岸出身者の重要性が明らかとなった。
著者
小沢 修司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

戦後「福祉国家」の枠組みを根本的に転換しようとする最低所得保障としてのシチズン・インカム(以下、ベーシック・インカムの呼び名を使う)構想は、第一に、資力調査に伴うスティグマや「失業と貧困の罠」から社会保障給付を解き放つこと、第二に、性別分業にもとづく核家族モデルから人々を解き放ち、個の自立にもとづく家族、ネットワーク形成を含むさまざまな社会的共同組織の形成を促す基礎を提供すること、第三に、労働市場の二重構造化が進み、不安定度が強まる労働賃金への依存から人々の生活を解き放つと同時に、「完全雇用」と結びついた現行の社会保険制度の限界を乗り越えた普遍的なセイフティネットを国民に提供すること、第四に、国家による社会保障給付という「国家福祉」と税控除による「財政福祉」とに分断されている現行の税-社会保障システムを統合し合理化することなど、今後の新しい「福祉国家」なり人間福祉の実現を図る福祉社会を展望しようとする際に検討されるべき有力な構想となりうるものである。また、失業の増大、ホームレスの増加など社会的排除の強まりに対抗する福祉政策の展開として世界的に注目されてきているワークフェア的所得保障政策と、ベーシック・インカム構想の交差状況に着目しながら、所得保障と就労支援政策の両方が必要であること、しかしながら所得保障の条件に就労(アンペイドワークや社会貢献活動など広い意味の労働であれ)を義務づけることは、資力調査の代わりの地位にいわば「労働調査」を据えることになり、家事労働やボランティア活動の本質を損なう結果になることを論じた。さらに、ベーシック・インカム保障は労働時間の大幅な短縮とワークシェアリングがともに進められることが必要であり、そのことによって過剰な消費主義が是正され所得と労働の人間化も進むものであることを論じた。
著者
坂田 桐子 淵上 克義 高口 央 前田 和寛 迫田 裕子 川口 司寛
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,フォロワーの自己概念が個人的自己・関係的自己・集合的自己のどのレベルにあるかによって,選好されるリーダーシップや有効なリーダーシップ行動が異なることを実証的に明らかにした。また,変革型リーダーシップ,リーダー・メンバー交換関係,リーダーの懲罰行動,自己犠牲行動という多様なリーダーシップ行動に焦点を当てることによって,フォロワーの自己概念を変化させるリーダーシップのあり方を示した。
著者
谷川 道子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

H16〜18年度は2005(H17)年度の「日本におけるドイツ年」を挟んで、本研究テーマとそれに不可欠の関連に立つ舞台芸術の実践現場とのかかわりにおいて、かなりの実績と貢献をしたと思う。・ドイツや日本の劇団のドイツ関連上演の手伝いもだが、ドイツ文化センターの後援で現代を映し出す戯曲を一挙に三十作品、論創社より『ドイツ現代戯曲選30』シリーズとして順次刊行する企画に編集委員として携わり、若い世代を中心に翻訳チームを組んで2005年12月から刊行開始、07年3月までに27冊を刊行。拙訳のノーベル賞受賞作家E.イエリネクの『汝、気にすることなかれ』やハイナー・ミュラーの『指令』も解題つきで出版。・このドイツ演劇を広める好機に、2005年10月の日本独文学会京都秋季研究発表会での新国立劇場監督の栗山民也氏を迎えてのシンポジウム「演劇のパラダイム転換と新しいタイプの戯曲テクスト」を始め、多くのシンポジウムやドラマ・リーディング、シアター・トークなども企画・開催し、研究会を母体として「ドイツ演劇プロジェクト2005」も立ち上げた。夏には本科研費でベルリーナー・アンサンブルでの「ブレヒト没後50年祭」も訪れ、研究成果もいろいろに出た。・2005年の新国立劇場での演出栗山民也や主演大竹しのぶのブレヒト『母・肝っ玉』の台本も翻訳。・さらに2冊の研究書を刊行。単著が『ドイツ現代戯曲選30』シリーズヘの道案内という意味も込めて、論創社より12月にこれまでの論考をまとめて再編集した『ドイツ現代演劇の構図』。共著としては、3月にべりかん社より、早稲田大学での演劇COE講座の「演劇論講座」をもとに、岡室美奈子編で内野儀、宇野邦一、大橋洋一、桑野隆、谷川道子共著の『知の劇場、演劇の知』も刊行。いずれも好評で、書評も数多く出た!・勤務先の東京外国語大学の学園祭での語劇の活動が「生きた言語修得のための26言語・語劇支援」として平成16-19年度文部科学省特色ある教育プログラム(特色GP)に採され、その中心的な委員として学生たちの課外活動としての語劇を支援するさまざまな事業を行ってきた。最終19年度には、総括と今後への布石として、新規の授業「舞台芸術に触れる」の開設と、野田秀樹や宮城聡などを招いての一連の特別講演会、語劇百年の歴史的成果と今後活動と教育に対する理論的寄与とを考察した『語劇-ことば、教育、演劇』(仮題)を刊行することも計画中。この科研費とは直接の関係はないが、私の専門やテーマ、人脈、経験とも大きく関連する活動である。以上、本科研費の研究成果は十分に出して貢献したと自己評価している。
著者
中居 賢司
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

致死的不整脈の発症に関わる1)心筋の再分極現象(Tp -e dispersion, T-wave current alternans)、2)心室遅延電位や心房細動波のスペクトラムを一元的に解析しうる次世代多チャネル高増幅・高分解能心電計のためのソフトウエア開発を行い、臨床での有用性を検証した。また、3.11の巨大津波・大震災の経験を踏まえ、災害時あるいは遠隔診療の可能なプロトタイプ高分解能心電計を試作して、臨床的有用性を検証した。
著者
山本 洋子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

アルミニウム(Al)イオンは、酸性土壌における主要な作物育成阻害因子と考えられており、土壌の酸性化に伴って溶出し、植物根の伸長阻害や壊死等を引き起こす。しかし、その分子機構はまだ明らかにはなっていない。本研究では、Al障害の一つとして脂質過酸化に着目し、Al毒性やAl耐性との関わりを、植物根と植物培養細胞を用いて解析した。タバコ培養細胞の系では、AlはFe-依存性の脂質過酸化を促進し、それが引き金となって、動物系で報告されているアポトーシス様の細胞死に至ることを明らかにした。さらに、このようなAl毒性に対して耐性を示す細胞株の解析から、Caffeoyl putoresineが脂質過酸化耐性に関わっていることと、動物系で主要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ様の活性が植物細胞にも存在することを見いだした。一方、エンドウ幼植物を用いた解析では、Alによって脂質過酸化が促進されるが、培養細胞の系や人工膜の系と異なり、Fe-非依存性の脂質過酸化が促進されること、脂質過酸化の促進は初期応答反応であること、Alの集積とともに直ちに見られる根伸長阻害の原因ではないものの、Alを集積した根がAlの非存在下で再び増殖を開始するのを妨げる障害の一つであることを明らかにした。以上、Alによる脂質過酸化の促進は、培養細胞のみならず根においても、Al障害機構の一つであることが明らかになった。今後、その促進機構や耐性機構の解析が必要である。その際、本研究で行った様に、タバコ培養細胞を用いてAl耐性株を分離し、障害や耐性機構の詳細を分子レベルで解析すると共に、その情報を手がかりに根での現象を解析していくことは、大変有意義であると思われる。
著者
松本 靖彦
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究補助金を用いて遂行した資料(史料)調査に基づき、研究代表者はチャールズ・ディケンズの想像力の特質を、彼が作家として成功する前に習得した速記とのアナロジーを鍵として分析した。その結果得られた発見を作品論や作家論の形で論考にまとめ、そのいくつかを学会での口頭発表や学術誌掲載の論文として発表することができた。また研究過程で得られた知見を活かした翻訳作品も発表することができた。本研究によってディケンズならびにヴィクトリア朝文化研究に独自の貢献ができたものと思われる。
著者
徳永 亜希雄
出版者
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、特別支援教育におけるICF(国際生活機能分類)及びICF-CY(同児童版、但し、タイトルは申請時の筆者仮訳の「児童青年期版」を使用)活用のための研修パッケージとして、(1)ICF及びICF-CYに関する基本的な知識と活用動向等に関する講義形式パッケージ、及び(2)ICF及びICF-CYの概念図を模した図(以下、「ICF関連図」)作成を通した子どもの実態整理と指導・支援の検討を行う演習形式パッケージについてそれぞれ開発・実証を行うことを通して、研修パッケージの在り方について検討した。本研究を通して以下の点が明らかになった。(1)研修パッケージの使いやすさ等は、ICFを既に知っていたかどうかに左右され、ICFを既に知っている人ほど分類項目を用いたコーディングを難しいと感じる傾向にあり、そのことはICF及びICF-CYの概念的枠組みを用いた取組がこれまで中心的であったことが背景として考えられること。(2)子どもの理解と指導・支援の検討のために「ICF関連図」作成演習が有効であり、「ICF関連図」作成演習では、仮想事例だけでなく、実際事例に取り組んだほうが作成手順の分かりやすさや具体的な作成作業の分かりやすさ等が増し、より実際の活用に寄与できると考えられること。(3)ICF及びICF-CY活用が寄与できる特別支援教育での課題について検討し、特別支援教育という文脈での活用という観点からの知見について研修内容として盛り込む必要があること。(4)参加者のICF及びICF-CYへの認知度やニーズに合わせた複数のパッケージを開発する必要があること。(5)活用にあたっては、ICF及びICF-CY並びにその活用に関する知識について幅広い理解啓発が必要であること。そのための手立てとして、主にICF 及びICF-CY についてほとんど知らない人たち向けの「よくある質問と答え(FAQ)」のような基礎的な内容を知らせるもの必要性と、活用経験者向けの事例検討を交えた研修内容の必要性があること。前者に対応して作成したものは当研究所のWebサイトにアップし、後者に対応したものは「ICF関連図」作成手順として整理し、当研究所の研修事業等で活した。(6)本研究期間では開発に至らなかったが、i)自主研修を支援するWebツール、ii)研修、特に演習のコーディネートの仕方についての検討の必要性が考えられること。
著者
太田 憲
出版者
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々が日常行う運動の運動スキルがどのような原理に基づいてプランニングされているのかを,ヒトによる心理物理実験と最適化モデルとの比較によって明らかにした.本研究では特に,どのように体性感覚(皮膚感覚と深部感覚)の情報を利用して適切なプランを立てているのかに注目し,腕の運動の軌道計画が手先や筋の力覚情報に基づいてなされていたことを明らかにした.
著者
野口 祐子 宗田 好史 野田 浩資 浅井 学 ラリー ウォーカー 青地 伯水 赤瀬 信吾 藤原 英城 長谷川 雅世 加藤 丈雄 加藤 丈雄 長谷川 雅世
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

10名のチームからなる本研究では、文学・歴史地理学・社会学・都市保存学の観点から、京都とヨーロッパ主要首都のイメージに関して、1)国民のアイデンティティを強化するための歴史的空間としてのみやこ、2)古都としての保存と近代的都市開発の理念の葛藤、3)美意識の変化とみやこの姿との影響関係を中心テーマとして共同研究をおこなった。2006年11月には公開シンポジウムを開催し、2008年度には研究成果報告書を作成して、近隣の研究機関と公共図書館に配付した。
著者
植木 朝子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中世前期の今様、および中世後期の小歌を取り上げて、同時代の絵画・意匠と比較検討し、それぞれの歌謡の持つ特質を明らかにした。また、意匠・文様の背景にある歌謡の詞章を丁寧に読み解くことで、当該の意匠・文様にどのような意味が込められているのかを考察した。
著者
菊池 吉晃
出版者
東京都立保健科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

多チャンネル脳磁界計測システムから計測される同時多発的な神経活動を高時間分解能で複数の発生源を推定できる解析システムを開発した。同システムを用いて、脳内作動記憶(working memory)に関する課題のうち、サルなど人間以外の動物を対象にしては困難なメンタルローテーション(mental rotation)の神経機構について検討した。2種類のメンタルローテーション課題を設定した。ひとつは手の線画を提示し、提示された手が被験者自身の右手であるか左手であるかを判断してもらう課題。もうひとつは、アルファベット文字を提示し、それが鏡像文字か否かの判断をさせる課題であった。いずれも、被験者の左視野に視覚刺激が提示された。両課題とも、刺激提示からおよそ100msec〜200msecにおいて視覚皮質(外側後頭皮質)や後頭-側頭皮質基底部、さらに下側頭皮質において神経活動が認められた。一方、時間的に遅い高次機能の活動部位には違いが認められた。手の心的回転課題では、刺激提示からおよそ200msec〜300msecにおいて右下頭頂小葉での活動が認められた。一方、アルファベット課題の時は、およそ300msecにおいて左上側頭領域の活動が認められた。さらに、両課題においてメンタルローテーションに深く関与すると思われる下頭頂小葉-運動前野の同時的神経活動が認められた。特に、手のメンタルローテーション課題では、運動前野の左半球優位性が観測された。それに対して、アルファベットのメンタルローテーションについてはこのような優位差はなかった。
著者
那谷 雅之 井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温多湿環境下ラットの心筋及び脳幹における遺伝子発現量を定量した。心筋では直腸温上昇と共にHSP70 発現量は増加する一方で、42℃-44℃上昇間に Bcl-2/Bax は減少、β-MHC は増加した。脳幹では、直腸温上昇に伴いHSP70 は増加する一方で、iNOSは低下した。Bcl-2/Bax は37℃から42℃までは明らかな変化を示さなかったが、42℃-44℃間では有意に低下した。過度の体温上昇は心臓・脳幹の形態学的・機能的障害を引き起こす可能性を示唆していると考えられた。
著者
高塚 尚和 松木 孝澄 飯田 礼子 伊保 澄子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究補助金(平成17年度〜平成19年度)での研究成果は以下の通りである。1. 熱中症モデルマウスの作製とその病態解析まずマウスを用いて熱中症モデルを作製することができた。より高い環境下にマウスを暴露させると、マウスは熱中症を短時間で発症し、極めて短時間で死亡した。その際、TNF-α、IL-1β、MIP-2などのサイトカイン及びケモカインmRNAの発現は、より短時間で発現する傾向があったが、その発現の程度は、必ずしも温度とは相関しなかった。熱中症の死亡原因としては、高サイトカイン血症がその一つとして考えられているが、高温環境下においては、体温調節中枢の非可逆的変化及び高度の脱水等がより重要な役割を演じていると考えられた。なお、この研究結果については、現在投稿準中である。2. 短いDNA断片が、炎症性サイトカインを誘導するメカニズムの解析熱中症の重症化し、敗血症が引き起こされる過程において、細菌菌体そのものにより炎症が惹起されるのみではなく、細菌等が崩壊して形成された短鎖DNAによっても炎症が誘導され、その過程において重要な役割を演じているIFN-αの発現やスカベンジャーレセプターの機能をブロックすれば、熱中症の重症化を軽減できるのではと考えられた。3. 急性重症膵炎を合併した熱射病症例の臨床病理学的研究熱射病では、急性膵炎を合併することは一般的ではないが、炎天下での激しいスポーツを行うことは、熱射病を発症しやすくなるばかりではなく、腹部臓器への循環障害が引き起こされ、急性膵炎等の重篤な疾患が惹起される危険性が示唆された。この結果から、炎天下において激しいスポーツを行う際には、急速や水分補給を十分に行い、体調の変化に十分気をつける必要があると考えられた。
著者
高木 博志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

明治維新と京都文化の変容というテーマのもと、以下の諸点を明らかにした。(1)賀茂別雷神社所蔵の「日次記」(17世紀から20世紀まで)をはじめとする文書の分析を通じて、賀茂祭が、前近代の「宮中の儀-路頭の儀-社頭の儀」といった流れの「朝廷の祭」から、東京の皇居とは切れた「神社の祭」へと変容する過程を研究した。(2)近世の東山や嵐山、あるいは公家町の桜の名所が、由緒や物語とともにあったのが、近代のソメイヨシノの普及により、ナショナリズムと結びつけられて考えられ、また新たな名所が形成された。(3)近世の天皇のまわりには、陰陽師・猿回し・千寿万歳などの賤視された芸能者や宗教者の存在が、不可欠であった。そのことを正月の年中行事の言祝ぎや、天皇代替わり儀式の陰陽師の奉仕などから検証した。近代になってそうした雑種賤民は東京の皇居から排除され、天皇には近代の聖性が獲得される。またそれに照応して、京都御所、伊勢神宮・橿原神宮・賀茂社から全国の神社に至る神苑などの清浄な空間が連鎖して生みだされる。(4)古都京都と奈良の文化財保護政策の展開や、国風文化・天平文化といった「日本美術史」の成立について深めた。(5)近世の九門内の内裏空間は、人々の出入りが自由な開かれた場であり、公卿門(宜秋門)前は観光スポットであり、また京都御所の中にも、節分やお盆や即位式の時に、庶民が入り、年中行事をともに楽しむことがあった。今回、翻刻した『京都御所取調書』上下(明函193号)は、その研究の過程で出会った史料であり、近世の京都御所の場の使われ方・ありようをリアルに伝える。
著者
金城 尚美 加藤 清方
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「危ない表現」の使用意識を調べることを目的として、国内および海外で調査を実施した。調査は、相手を罵倒したりののしったりするような11の場面、例えば、列に割り込んだ人に対してどう言って反応するか等を4コマ漫画で視覚的に明示し、台詞を挿入する自由記述形式で行った。また各場面で発話者が男性または女性の場合の視点を設定した。さらに大人と子ども、上司と部下、夫婦等、上下等の人間関係の設定にも変化を持たせた。調査票は、日本語、タイ語、中国語(中国本土・台湾)、韓国語6種類を作成し、日本(東京・沖縄等)、韓国、(釜山・ソウル・光州)、タイ(バンコク)、台湾(台北・台南)、中国(大連)の各国でデータを収集した。その結果、日本語と比べて韓国語、中国語、タイ語のデータは、異なる社会・文化的背景により、卑下する対象となる用語の異なりの分布や使用環境及び用語の豊富さなどが顕著であることなどが明らかとなった。今後、データのサンプル数を増やし、日本語と各国語をそれぞれの社会・文化的背景とのつながりを詳細に記述し、あぶない用語の社会言語学的かつ語用論的分析をさらに深化させることが必要である。
著者
宇津宮 孝一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

生産現場では,バーチャルリアリティ(VR)技術を用いて,設計・製作対象の共有や3次元的操作,臨場感のある3次元表示.模擬実験等を通じて,現場と同じ感覚で「もの」を創造できる,情報通信技術に基づいた仮想作業場の提供が,新製品早期開発のために強く要請されている。一方,構想設計段階で人間の両手が「もの」を表現・制作する過程は重要である。高精度センシング機能や触覚機能をもつ電子グローブ装置を用いて,手本来の表現能力を生かし,非専門家でも「体感経験」しながら「もの」の制作ができる人間指向インタフェースが求められている。本研究課題では,仮想環境でVRの空間インタフェース技術を用いて,もの造りを現実と同等に試行でき,その結果が実生産に直結できる協創型仮想ワークベンチの構成法に焦点を当てて,次の研究を実施した。(1) 実仮想統合設計生産モデルとその構成法遠隔地の人々が,高速ネットワークやVRの技術を用いて,現実には製作困難な製品などを仮想環境内で協同で創造し,実生産に継ぎ目なく移行できる実仮想設計生産モデルとその構成法について,打上げ花火の設計・製造過程を題材として取り上げ,VRを基盤にして研究を行った。(2) 3次元仮想造形用感覚機能統合型インタフェースの実現法人間が両手で行うのと同様な方法で,両手電子グローブを用いて仮想物体の造形と3次元物体の形状入力を直観的操作で行うための手法とその実現法について,主としてジェスチャインタフェースの研究を行った。(3) 協創型仮想環境の構築法両手ジェスチャインタフェースや象形的手振りを用いた大型画面上の3次元仮想環境を構築した。そして,現実世界では困難な作業を複数の人間が協同してやっていくことが可能な協創的な環境を試作し,幾つかの題材を用いて,試作した環境の有効性や効果について考察した。
著者
喜多村 祐里 眞下 節 武田 雅俊
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「痛み」の生物学的意義は、生体を侵害刺激から守るための「警告信号」であると考えられる。損傷や炎症の生じた部位の修復機構を促しながら、治癒までの期間、外界の刺激から遠ざけて効率的にかばうといった行動は「痛み」のおかげで誘発される。しかし、「痛み」が持続し慢性化することによって、脳の中の扁桃帯や前帯状回といった情動に関与する神経回路が活動し続けると、負の情動が形成されることになる。この負の情動は、「気分が落ち込む」「根気・集中力がなくなった」などの抑うつ感や、「よく眠れない」「目覚めがよくない」といった睡眠障害を引き起こし、やがて個人の社会的・生活機能をも低下させることにつながる。近年、「痛み」の研究は脳科学の進展とともにその歩みを早め、疼痛コントロールの重要性については、臨床家はもとより一般にも広く知られるようになった。本研究は、慢性疼痛における「痛み」、すなわち個人の主観的感覚に対して、「どのような治療的アプローチが考えられるのか」を模索する中で、プラセボ効果やカウンセリングといった心理的・認知行動学的アプローチの有効性について科学的根拠にもとづいた知見を得る目的で行われた。近赤外分光法(NIRS)やストレス関連物質であるコルチゾルおよびクロモグラニンの測定、また質問紙形式とVAS;visual analogue scaleによる痛みの主観的・客観的評価をさまざまな角度から行った。わずか2年間で得られた知見は、動物実験の結果や健常人による心理実験にもとづくものではあるが、このような基礎的研究を礎に大学内には「疼痛研究センター」が設立され、実際の臨床の場においてもこれらの知見が生かされるような体制が整いつつあることに、改めて大きな意義を感じている。