著者
村田 拓也 松岡 達 成田 和巳
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、エストロジェンの心血管系の調節におけるオキシトシン(OT)およびビタミンD(VD)の役割を明らかにすることである。マウス心房筋由来細胞において、VDレセプター(VDR)の発現を抑制すると、Caトランジエントの異常が観察され、心機能に関わる数種類の遺伝子の発現が減少した。ラットの発情前期において、血圧は低下し、大動脈のOTレセプター(OTR)のmRNA発現が増加した。さらに、卵巣摘出した雌ラット右心房のVDRのmRNA発現が、エストロジェン投与により抑制された。以上のことから、エストロジェンの心血管作用において、OT作用とVD作用が補完的に働いている可能性が示唆された。
著者
渡邊 健
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

抗ウイルス薬、特に新たな抗インフルエンザウイルス薬開発の基となる化合物(シード化合物)を発見することを目的とした研究を行った。培養細胞と生きたウイルスを用いて様々な天然物や化合物の抗ウイルス活性を測定した。その結果核外輸送系を標的としたものに限らず、食品や植物の抽出液等、様々な天然物より様々な作用機序を持つ抗インフルエンザウイルス化合物を見出す事ができた。これらの化合物は新規抗ウイルス薬開発のシードとして今後が期待される。
著者
田村 直良 後藤 敏行 島田 広
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1.データベースについて:プロトタイプを構築した。同一楽譜の異なる点訳に対応でき、五線譜から点字楽譜への変換機構も自動的に呼び出せる。ホームページ等により公開していく予定である。2.点字楽譜ビューア(統合環境)について:点字楽譜の構成要素ごとの色分けや点字プリンタへの出力機能を持つ。点訳作業の検証工程や、晴眼者の点字楽譜習得、視覚障害者教育での利用も可能である。3.点字楽譜XMLの仕様策定について:Contrapunctusプロジェクト(2006~2009)でBMMLと呼ばれるXMLが公開され、これを採用する。
著者
森重 健一郎 竹中 基記 上田 陽子 鈴木 紀子 森 美奈子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

卵巣がん細胞株TOV21, KOC-7CでRAS変異が確認され、OVISEでは確認されなかった。RAS変異のある細胞では、フェロトーシス誘導剤エラスチンを添加したところ、WST-1アッセイにより細胞死が誘導されていることがわかった。鉄のキレート剤であるDFO添加により、その細胞死が解除されたたため、エラスチン添加による細胞死は鉄依存性細胞死=フェロトーシスであることが考えられる。一方、RAS変異のない細胞株ではフェロトーシスは誘導されなかった。RAS変異のある卵巣がん細胞株でさらに検討したところ、エラスチン添加時に細胞内ROS量は上昇、GSH量は低下しており、その結果として細胞死が引き起こされていることが予想された。一方、RAS変異のない細胞ではエラスチン添加時にはROS量の若干の上昇が見られたが、元々の細胞内ROS量が高いためフェロトーシスに抵抗性があると考えられる。フェロトーシス誘導剤はいくつか報告されているが、その中でもアルテスネートは抗マラリア薬であるため、臨床応用が速やかに行える利点がある。現在、我々はアルテスネートを用いて上記同様の実験を行っている最中であるが、エラスチンとは効果が異なる点も見られ、同じフェロトーシスでも異なるメカニズムで作用していることが考えられる。引き続き検討していきたい。またフェロトーシス誘導時には膜の脂質酸化が引き起こされることが知られているため、脂質酸化マーカーであるBODIPYを用いたイメージング実験を試みているところである。
著者
荒堀 仁美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ダウン症候群では成長障害を高頻度に合併するが、その機序は不明である。本研究ではダウン症候群児の疾患特異的ヒトiPS細胞を樹立し、軟骨細胞系へと分化誘導を行いその解析を行うことによって、成長障害の原因を明らかにする。出生前に診断されたダウン症新生児の臍帯血をもとにセンダイウイルスを感染させダウン症iPS細胞を作成、さらに軟骨細胞へと分化誘導することができた。一方で、トリソミー症候群の患者から得た皮膚線維芽細胞ではいずれも酸化ストレスの増大と細胞早期老化現象が認められ、染色体トリソミーがもたらすRNA/タンパク合成亢進により酸化ストレスが増大していることが引き金となっていることが示唆された。
著者
槇原 博史 四方 賢一 国富 三絵 土山 芳徳 四方 賢一 山地 浩明 林 佳子 槙野 博史
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

腎組織へのマクロファージの浸潤は、白血球表面に発現する細胞接着分子が糸球体と間質の小静脈の内皮細胞に発現するICAM-1やセレクチンなどの細胞接着分子と結合することによっておこる。本研究では、糸球体腎炎や糖尿病性腎症の腎組織における細胞接着分子発現のメカニズムを明らかにするとともに、これらの細胞接着分子の結合を阻害してマクロファージの浸潤を抑制する新しい腎疾患治療法(抗接着分子療法)の開発を目指した。本研究の結果、1)糸球体腎炎および糖尿病性腎症患者の腎組織にはICAM-1、E-セレクチン、P-セレクチンが糸球体と間質に発現し、マクロファージやリンパ球の浸潤を誘導していることを示した。2)糸球体過剰濾過により糸球体内皮細胞にICAM-1の発現が誘導され、マクロファージの浸潤を誘導することを示した。3)尿細管上皮細胞に存在するL-selectinのリガンドが尿細管障害にともなって間質の小静脈壁に移動し、マクロファージに発現するL-selectinと結合することによって間質へのマクロファージの浸潤を誘導するというユニークなメカニズムを明らかにした。さらに、このL-セレクチンのリガンドの一つがsulfatideであることを示した。4)L-およびP-セレクチンのリガンドであるsulfatideを投与することにより、腎間質への単核球浸潤と組織障害が抑制できることを示した。5)prostaglandin I2がICAM-1の発現を抑制することによってラットの半月体形成性腎炎に対する治療効果を示すことを示した。これらの結果より、ICAM-1やP-およびL-selectinが腎組織へのマクロファージとリンパ球の浸潤に重要な役割を果たしており、接着分子の結合を阻害することによって糸球体および間質への単核球の浸潤を抑制できることが明らかになるとともに、腎疾患に対する抗接着分子療法の臨床応用の可能性が示された。
著者
大塚 毅 出原 賢治 田中 洋輔 山岡 邦宏 新納 宏昭 中島 衡
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. IL-10とIL-4は単球・マクロファージさらには好中球を標的として多彩な向炎症性物質産生を抑制し抗炎症作用を発揮することを明らかにした。とくに、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性とプロスタノイド産生を観察し、両サイトカインの作用機構を細胞内シグナル伝達の系を通して明らかにした。2. 単球・マクロファージならびに好中球の活性化におけるMAPキナーゼ(MAPK)の同定と機能発現への関与(1) LPSによる活性化にて、MAPK中のERK2とP38MAPKのリン酸化ならびにキナーゼ活性が上昇した。(2) サイトカインとプロスタノイド産生においてこれらのMAPKの活性化が関与していることが判明した。(3) IL-10とIL-4によるMAPK活性化への異なる制御機構が判明した。3. ヒト単球に対するLPS刺激時にはSTAT5が活性化され、GM-CSF遺伝子発現などの関連している。IL-10はSTAT5を抑制することによって、COX-2遺伝子発現を制御している可能性がある。4. RA患者の好中球における機能変化(1) RA患者において末梢血ならびに関節液中の好中球からのサイトカインならびにプロスタノイド産生が健常人に比べて増強していることが判明した。(2) その機能発現にMAPK経路の関与が示唆された。5. IL-10等のサイトカインのシグナル伝達系が疾患発症の感受性に影響する可能性を今後検索していくために、RT-PCR-RFLPによる多型解析を行い、実験系を確立した。現在、自己免疫疾患を中心に解析し興味ある結果が得られてきた。
著者
二文字屋 脩 才田 春夫 伊藤 雄馬
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、タイ北部で唯一の狩猟採集民と知られるムラブリを対象に、ムラブリの文化的特質を学際的なアプローチから明らかにすることで、今日の東南アジア山地研究(ゾミア論)の学問的空白を補うとともに、「森のゾミア」論を構築することである。この目的を達成するため、初年度は、2018年6月に富山国際大学にて共同研究者全員で本研究課題の内容と方向性を改めて相互に確認するとともに、それぞれの研究課題と研究調査スケジュールについて検討を行った。また、DropBoxを用いて本科研用のストレージを作成し、円滑な情報共有を行えるようにした。タイ北部ナーン県での現地調査は各研究者がそれぞれ実施し、自身の研究課題に沿った研究調査を行なった。人類学班は、遊動と社会性の関係について調査を行い、言語班はムラブリ語の方言差と語派内の特異性について調査を行なった。農学班はムラブリが利用する森の植物性資源について生態学的・栄養学的観点から調査を行うとともに、食用や医療用に用いられてきた有用資源の利用と効果の検証を行った。なお、これらの調査は、被調査者の同意を得て行われた。だが初年度は資料収集がメインだったこともあり、論文や学会発表を通じた成果の発表、そしてフィールドで得られた知見の理論化に十分な時間を割くことができなかったと考える。だが各自2回ほどの現地調査を行ったことで、予想もしていなかった新たな資料などを得ることが出来、調査の成果は十分にあったと考えている。なお、2019年3月には、フィールドにて共同研究者全員が集まり、初年度の成果を共有するとともに、2年目の予定について話し合った。
著者
松井 英則
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

鳥肌胃炎の患者から分離した難培養性のヘリコバクター・ハイルマニイ(H. suis SNTW101株)の全塩基配列を解明した。ゲノム解析からH. suis特異的な外膜蛋白質遺伝子を発見し、hsvA遺伝子と命名した(全長約9 kb)。HsvA蛋白質に対する血清抗体を標的とするペプチドELISA法を開発した。一方、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)によるリノール酸の飽和化代謝の中間体である水酸化不飽和脂肪酸(10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸;HYA)のヘリコバクターやカンピロバクターに特異的なメナキノン生合成経路(フタロシン経路)を標的とする阻害活性を明らかにした。
著者
保科 克行 重松 邦広 岡本 宏之 宮田 哲郎 大島 まり 山本 創太 山本 晃太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

われわれは大動脈瘤の破裂しやすさをモデルを用いて検討してきた。嚢状瘤は破裂リスクが高いとされるがその定義はされていない。瘤を仮想楕円にあてはめて、「横長」のもの、またフィレット半径(大動脈と瘤のつなぎ目に当てる円)の小さい縦長のものは、頂点において応力が高く破裂しやすく、嚢状瘤の定義の一部としてよいのではないかという結論になった。これは胸部大動脈瘤において拡張速度の検討が行われたがはっきりとした臨床上の裏づけができなかった。今回、腹部大動脈瘤の破裂症例を集積し、コントロール群とマッチングを行って検討した。破裂群は、瘤が横長であること、またフィレット半径が小さいことにおいて、有意に差があった。
著者
早川 清雄 成 英瀾
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年、生活習慣病とその基盤病態として『慢性炎症』が注目されている。申請者は、活性化されたマクロファージでは脂質代謝と炎症シグナルとが密接に連携して制御されていること、炎症刺激後に増加する脂質合成はカスパーゼ依存的であることを見いだした。炎症応答に伴うカスパーゼの活性化は従来よく知られた細胞死のシグナルとなるだけでなく、 脂質合成の亢進を介して炎症の慢性化を防ぐ生存シグナルとしても機能している可能性が高い。本研究ではカスパーゼを介する脂質代謝制御の観点から炎症慢性化の分子メカニズムを明らかにすることを目指す。
著者
伊藤 宗成 河越 しほ
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、日本初の技術である人工多能性幹細胞(iPSC)を用いて、先天性表皮水疱症の遺伝子・細胞治療の確立を目指した。先天性表皮水疱症は、生まれつきⅦ型コラーゲンの遺伝子変異により、表皮と真皮の接着が脆弱であり、僅かな外力で水疱を来たし、瘢痕形成を生じる疾患である。我々は、患者血液細胞からiPSCを樹立し、最新の遺伝子改変システム(CRISPR/CAS9)を用いて、iPSC内の遺伝子変異の修復を試みた。また今回の手法では、遺伝子変異の修復に必要なvector作製の際に、Transposonの原理も応用することで、元の遺伝子に傷跡を残さないような工夫を施し、実現しうる手法かどうか、検証した。
著者
久保田 佳枝
出版者
実践女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、米国にて開発されたサイコロジカル・キャピタル(PsyCap)尺度の日本語版尺度を作成し、作成した日本語版およびオリジナルの英語版PsyCap尺度を用いて日米における質問紙調査および統計的分析を通して、①国際比較可能な日本語版尺度の確立および②世界で初となる日本人従業員のPsyCapと職場関連要因との関係性の解明を目指すことである。2018年度の目的は、代表者が前年度までに作成し収集してきた日本語版尺度をさらに改良し、日米における調査を行った後、項目反応理論に基づき分析を行い、日本語版尺度を完成させることであった。しかしながら2017年度末にそれまでの分析結果から研究手続を変更した。その変更に伴い、2018年度は、その後の研究手順の見直し等を行うことに時間を要したため、申請時に計画した通りに米国人を調査対象とした英語オリジナル版を用いた質問紙調査まで至らなかった。研究手続の変更については、以下の通りである。2017年度の日本語版尺度の分析結果をもとに、さらなる分析を行い、尺度に微修正を加えた。そのため、2017年度末に再度日本人従業員を対象に修正版日本語版尺度を用いた調査を実施した。2018年度にその信頼性と妥当性の検証等に関する分析を行った。2019年度は、2018年度に同時に実施する予定であった米国人を対象としたオリジナル英語版を用いた調査を実施し、2017年度末に収集した日本人データとともに項目反応理論による分析を行う予定である。PsyCapと職場関連要因との関係性の解明については、予定通り行う見通しである。
著者
一丸 禎子 Patrick Rebollar Mare Thierry 松村 剛 アヴォカ エリック PERRONCEL Morvan ソルデ ヤン メロ ジャン=ドミニク ツィンビディ ミリアム ハフマイヤー ステファン ベルナール ミシェル
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

東大コレクション『マザリナード集成』電子化の次の段階として、資料体のデジタル化により可能になる新しい研究環境を考察し、実際に応用した。マザリナード研究の分野で日本は世界に先駆けてデジタル化と研究用プラットフォームの公開を実現しているが(マザリナード・プロジェクト)、さらに次の点でより鮮明にそれを可視化することに成功した。①資料体の非物質化によって閲覧利用の利便性と引き換えに失われる情報を展覧会等のオリジナルの展示によって補い(『マザリナード集成』展)、②二つの国際シンポジウムを組織・運営し、マザリナード研究自体を活性化(フランス)、電子コーパスの利用に特化した成果発表(東京)を行った。
著者
米村 典子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

西洋絵画はしばしば「開かれた窓」に例えられてきたが,窓の向こうの表象の世界と我々の世界との,窓枠=額縁=フレームを間に挟んでの関係は,19世紀後半に大きく変わった.本研究の目的は,その変化の現れを画面の縁という「場」に見いだし,新印象派の画家ジョルジュ・スーラの作品の表象を取り巻く点描で描かれた帯=「ボーダー」と点描を施したオリジナルの額縁=「フレーム」との関係を契機として考察することである.スーラの「ボーダー」は,窓のような「現実の開口部」を示唆していない.それは抽象的な帯に見え,表象を取り囲んでその限界を定めているという意味では内側にある表象にとり一種の「フレーム」である.他方,「フレーム」に施された点描と同質の点から構成されているという意味ではその外側を取り囲む「フレーム」の自己反復とも解釈できる.本研究では,この「ボーダー」の二重性が徐々に形成されていった過程を解明することで,ドガやカイユボットの「新しい絵画」に従来とは異なる角度からスーラの芸術をつなぐ可能性を示し,この画家をモダニズム絵画の歴史の中に新たに位置づけることができた.
著者
中沢 洋三
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

FLT3/ITD遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病(AML)患者の生命予後は不良である。FLT3/ITD遺伝子変異AML細胞株(MV4-11)はGM-CSF受容体(GMR)を高発現する。そこで、GMRと特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を構築し、GMR CARを発現する遺伝子改変T細胞を樹立した。GMR CAR-T細胞とMV4-11細胞を1:5の比で混合し5日間培養したところ、GMR CAR-T細胞はMV4-11細胞の98%を死滅させた。GMR CAR-T療法はFLT3/ITD遺伝子変異陽性AMLの治療に有用である可能性が示唆された。
著者
畠中 利治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題の主題である、競合と協調の作用の両立は、進化計算における重要な概念であるExploitationとExplorationのバランスの実現にとって重要な役割を担うことは、直観的には理解されるが、それらが内在するシステムの挙動は複雑であり、さまざまなパターンを示すことが数理的には調べられている。本課題では、その数理科学的な知見から、進化計算の探索過程をモデル化することを狙っており、具体的には、関数最適化に望ましい挙動を示す数理モデルを与えるとともに、そのモデルに基づく進化計算のインスタンスの提案を行ってきた。その概念を利用した群知能モデルについても研究を行い、昨年度からは、必要とする機能から最適化法を構築するアプロ―チを検討している。今年度は、前年度に発表した一般化群知能モデルの拡張を行った。具体的には、エージェントのランダム要素として、個々のエージェントがランダムウォークする機能を付加し、その状況でのモデルの性質をブラックボックス関数最適化の基本ベンチマーク問題を用いて調査した。この結果は、計測自動制御学会のAnnual Conference で発表した。このモデルは、競合(反発)と協調(走化)をベースにしており、ブラックボックス関数最適化における探査と探索のバランスを実現するものとなっている。また、代表的な群知能モデルの粒子群最適化(Particle Swarm Optimization, PSO)とホタルのアルゴリズム(Firefly Algorithm, FA)の特性を併せ持つことで、探索性能を改善するHybrid Swarm の検討を進めている。両者の探索メカニズムに関する理解から、ハイブリッド型のモデルを提案し、複雑な景観をもつブラックボックス関数の最適化問題のベンチマーク問題における性能調査を行い、ACMが主催する進化計算に関する国際会議GECCO2018で発表した。
著者
内藤 悦雄 黒田 泰弘
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

先天性高乳酸血症は有機酸代謝異常症の中で最も頻度の高い疾患であり、本症の確定診断のためにはピルビン酸代謝関連酵素活性の測定が不可欠である。先天性高乳酸血症の自験例および酵素診断を依頼された他施設例の中で、ビタミンB_1、大量投与により臨床症状の改善と血中および髄液中の乳酸値の低下をきたした13症例の培養細胞について、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)活性の詳細な検討を行った。すなわち反応液中のTPP濃度を一般に用いられる高濃度から組織内の生理的濃度まで変化させてPDHC活性を測定した。そのTPP濃度とPDHC活性との曲線によりPDHCのTPPに対する親和性の低下、すなわちビタミンB_1、反応性の有無を判定した。その結果13例中7例をビタミンB_1反応性PDHC異常症と診断しえた。ビタミンB_1反応性PDHC異常症例はビタミンB_1反応性高乳酸血症例の半数を占めており、本症の頻度が高いことが判明した。さらにそのうち3例の遺伝子解析を行い、3例ともE_1α遺伝子のアミノ酸置換を伴う点変異であった。すなわち2例はエクソン3の変異であり、1例は44番目のヒスチジンがアルギニンに、他の1例は88番目のグリシンがセリンにアミノ酸置換していた。3例目はエクソン8の263番目のアルギニンがグリシンに変異していた。これらの変異に対してはPCRと制限酵素を用いた遺伝子診断が可能であった。これらの方法により、2例は突然変異であり、また1例は母親由来の変異遺伝子によることが判明した。PDHCのTPPに対する親和性が正常であったビタミンB_1反応性高乳酸血症の6例では、PDHCと同様にTPPを補酵素とするαケトグルタール酸脱水素酵素複合体および分岐鎖ケト酸脱水素酵素複合体の異常である可能性があり、今後これらの検討が必要である。
著者
長岡 朋人 安部 みき子 澤藤 匠 森田 航 川久保 善智
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

目的:本研究では、日本人の死亡年齢構成の時代変化と気候変動の関係を探った。中世終わりから江戸時代にかけて小氷期による寒冷化が世界中で起き、ヨーロッパでは低身長化に見られるように健康状態が悪化したという。本研究では、弥生時代から江戸時代にかけて、古人骨の死亡年齢構成を復元することで、気候変動の影響が強かった中世から江戸時代の健康状態の変化を追跡した。方法:指標としたのは仙腸関節にある腸骨耳状面であり、若年個体では滑らかであるが高齢になると骨棘や孔が多く現れる。バックベリーらの腸骨耳状面に基づく死亡年齢の推定方法は、腸骨耳状面の溝、テクスチャー、骨棘、孔から1~7の7段階(数字が小さいほど骨が若い状態である)に分類し、その後年齢に対応させるという手順をとる。弥生時代、鎌倉・室町時代、江戸時代の古人骨を資料に、腸骨耳状面段階の構成を直接比較した結果:本研究では、弥生時代から江戸時代にかけての死亡年齢構成を復元し、時代による健康状態の変化を調査した。その結果、中世において短命のピークを迎え、江戸時代にかけて徐々に回復する傾向が明らかになった。考察:死亡年齢構成の時代推移と寒冷化の傾向は一致しなかった。その理由として、都市の衛生環境の改善や農耕技術の発展が挙げられる。しかし、その結果は気候変動が日本人の健康状態に影響を与えていないわけではない。江戸時代前期はストレスマーカー(クリブラ・オルビタリア)の頻度が最も高く低身長を特徴とする。死亡年齢構成と寒冷化が一致しない理由としては、むしろ自然災害や戦乱などにより、人骨の死亡年齢構成が若齢化したことが想定できる。
著者
高谷 智裕 荒川 修 鈴木 重則 望岡 典隆
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

2015年に遠州灘で採取された17個体の自然交雑フグにつき、ミトコンドリアDNA解析および形態的特徴から両親種を推定し、それらの部位別毒性を求めた。17個体全てがマフグとトラフグの交雑種で、15個体に毒性がみられた。卵巣および肝臓で高い毒力が検出され,12個体の皮に弱毒が検出された。また,母親種がトラフグの個体に比べてマフグの方が高い毒性を示し,毒蓄積能が母親種の影響を強く受けることが推測された。人工交雑マトラへのTTX投与試験の結果、主として皮への蓄積がみられた。両親種であるマフグとトラフグの場合、TTX蓄積率は経月的に上昇し、両種ともに皮への蓄積割合が高かった。