著者
荒木 不次男 大屋 夏生
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,放射線治療患者のQOLの向上を目指して,画像誘導放射線治療(IGRT)による位置決めX線CBCTの被ばく線量評価及び線量と画質の最適化を図るために,以下の事項を明らかにした. (1) kV-CBCTの簡便な吸収線量計測法を開発し,線量と画質の最適化を行った.(2) kV-CBCTの患者体内の線量分布をMonte Carlo simulation及び放射線治療計画装置から算出し,治療線量とCBCT線量の加算から直腸や水晶体等のリスク臓器の被ばく線量を線量体積ヒストグラム(DVH)から定量的に評価した.(3) kV-CBCT,MV-CBCT,MV-FBCTの被ばく線量を算出した.
著者
黒岩 厚
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

Hoxa11とHoxa13は、それぞれ軛脚と自脚の固有な骨形態形成を制御する最上位遺伝子である。転写因子として機能するこれらHoxの標的遺伝子を、ChIP-Seqとマイクロアレイを組み合わせて網羅的に同定した。その結果、Hoxa11とHoxa13に共通する軟骨分化の制御に関わる標的遺伝子が同定された。これらの標的遺伝子は、四肢骨形成に関わる他のホメオドメイン転写因子の標的でもあることが判明し、四肢骨形態形成の転写調節ネットワークの実態が明らかになった。またHoxa13は、これらに加えて肢芽間充織の増殖に関わる遺伝子の発現制御を通じて四肢類の自脚に共通した形態形成を制御することが明らかになった。
著者
鈴木 健
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

海藻は陸上植物と違う環境に生息するため、その構成成分は特有な栄養・生理機能を持つことが期待されるが、海藻食物繊維に関する研究はこれまでにあまり行われてこなかった。そこで本研究では海藻に含まれる食物繊維の栄養機能を明らかにすることを目的とし、脂質の消化吸収やコレステロールの代謝に深く関わっている胆汁酸に注目することとした。肝臓では一次胆汁酸(コール酸、ケノデオキシコール酸)が合成されるが、腸内細菌により変化を受け二次胆汁酸(デオキシコール酸など)となり、小腸から吸収されて肝臓に戻り、腸肝循環と呼ばれている。脂質の消化吸収には水不溶性の脂質を乳化する胆汁酸が必要で、腸肝循環による吸収を食物繊維が阻害することによりコレステロールの代謝が改良されると考えられている。本研究ではワカメ、コンブ、ヒジキ、ノリなどの海藻を試料とし、胆汁酸との結合を調べた。コール酸との結合では、pHの上昇にともない結合率の低下がみられた。またコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸との結合の実験では、水溶姓食物繊維は不溶性食物繊維に比べると、いずれの胆汁酸の吸着も全般的に大きかった。一方、食物繊維の摂取過剰による問題点も指摘され、ビタミンや無機質の利用率の低下も考えられる。無機質との吸着として亜鉛を用いたが、不溶性食物繊維についてはワカメで多く、スサビノリで低く、一方、水溶姓食物繊維についてはコンブで高かった。食物繊維の測定には酵素重量法が用いられているが、これらをほとんど含まない海藻においては測定に要する時間を考慮した改良法が必要でこれらについて検討を加えた。
著者
工藤 慎一 長谷川 英祐 小汐 千春
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は, 雄が抱卵する多足類ヒラタヤスデを対象とし, 配偶システムと繁殖行動の進化を理解することを目的とした。雄は, 菌類の感染から卵を保護していた。野外では, 体節幅の広い雄ほど繁殖に成功し抱卵数も多かった。これは, 体節幅の広い雄ほど雌に配偶者として選ばれ, 抱卵しながら複数の雌と配偶した結果であると考えられた。これらの結果は, 性選択が雄による子の保護の進化に重要な役割を果たすことを示唆している。
著者
沼崎 誠 天野 陽一 高林 久美子 石井 国雄 麻生 奈央子 佐々木 香織 長田 眞由子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ステレオタイプと偏見の機能-特にシステム正当化機能-と自己ステレオタイプ化に注目して,ジェンダー・システムの再生産過程における,ジェンダー・ステレオタイプと性役割的偏見の役割について実証的研究を行った.システム正当化機能に関しては現システムへの脅威や死すべき運命や異性愛が顕現化した状況で,自我正当化機能に関しては自尊心への脅威状況で,集団正当化機能に関しては特定の自己表象が活性化した状況で,ステレオタイプ化や偏見が強まることを見いだした.ジェンダー・システムを再生産の観点からこれら結果について考察した.
著者
BOLT Timothy 田宮 菜奈子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

A Discrete Choice Experiment (DCE) among the public, older people and caregivers in Japan will be used to measure end-of-life care service feature and health outcome priorities. This includes the difficult trade-offs between direct health outcomes, Quality of Life (QoL) factors and other goals.
著者
濱田 季之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

世界最大規模で発生している魚毒食中毒であるシガテラの予防ならびに治療を目的として、薬用植物、海洋無脊椎動物、海藻からのシガテラ解毒物質の探索を行った。マレーシア産海綿から有機化学的手法を用いて分離・精製を行い、5種類のブロモピロール類縁体を単離した。沖縄産キダチトウガラシCapsicum frutescens L.から5種類のカプサイシン類縁体を単離した。6種類の合成物を加えた11種類のカプサイシン類縁体と一緒にシガテラ解毒活性試験を行い、構造活性相関を行った。さらに、紅藻由来のブロモインドール化合物について、構造活性相関研究を行った。
著者
白濱 正博
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

植物由来接着剤(以下バイオボンド)を用いて、骨に対する生体親和性を立証し、世界初の骨接合用の接着剤としての可能性を検証する研究を行った。接着剤としてバイオボンドは生体親和性に優れ、炎症反応はコントロールと全く変わらない結果であったが、親水性に乏しく血液や浸出液が骨とボンド間に侵入すると接着力が著しく低下し、骨折治療に耐えうる程の固定力は得られなかった。バイオボンド自体に親水基を付加する改良も加えたが、接着性自体も低下し実用化は難しいと考えられた。
著者
大野 眞男
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近代日本の国語政策をG.Thomasによる純化論の観点から類型化した上で、明治期の国語調査委員会及び文部省による標準語政策は第一次世界大戦前のヨーロッパの帝国的国家語を志向した改革的純化論に当たるものとして位置づけられること、大正・昭和期以降の柳田国男を中心とする民俗研究における国語観は第二次世界大戦後のヨーロッパ新興国家の国語観を意識した民俗的純化論であったこと、さらに、標準語教育が破綻した学校教育現場で地域方言を郷土を象徴する教材としてとらえるようになったことを明らかにし、これらの民俗的純化論の姿勢が戦後の民主的な共通語政策の前提となっていったことを歴史的に明らかにした。
著者
猪井 新一 板垣 信哉 マホニー ショーン 吉田 孝
出版者
奥羽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、日本人英語教師(JTE)及び英語指導助手(AET)が協同して行うテイームテイーチング(TT)の背後には「教師の役割」や「英語教授・学習」に関して相対立する考え方(信念)が存在するという前提に立ち、両者の考え方の類似点・相違点を探り、JETプログラムの改善に向けて文部省に提案を行うことである。平成11年度はTTに関するアンケート作成、配布及び回収、データ入力を行った。平成12年度はデータの量的分析及び理論的枠組みを用いての質的分析を行い、分析結果を国内外の学会で発表した。量的分析の結果からは「英語教授・学習」等に関わる数多くの項目に関して、JTEとAET間には相対立する考えが存在することが統計的に証明された。質的分析においては、JETプログラムの目的が伝達手段としての英語教育と、国際理解としての英語教育の間で揺れ動いていることが明らかにされた。TTの問題点を論じる際、JTE及びAETは実は同じ問題を異なる視点から捉えていたり、逆に異なる問題を同じ視点で認識している場合があり、そのために不必要な誤解が生じていることを明らかにした。以上のような分析からJETプログラムの改善に向けていくつかの提案を行った。1.TTの授業の打ち合わせを行うために、JTE側の時間的ゆとりが必要であること、AETはベーススクールを持つこと。2.JETプログラムは中学校・高校で国際理解教育というよりはコミュにケーション手段としての英語教育に力点をおくべきである。そのためにも、入学試験にリスニング等を採用すること、ワンショットレッスンを減らすことが必要である。3.JTEが効果的にTTを実施していくには研修および海外渡航経験が重要であり、そのための勤務上、財政上の支援が必要であること。4.同種の調査・研究では量的分析と同時に、一定の理論的枠組みに沿った質的分析が必要であること。
著者
公文 誠 FURUKAWA Tomonari
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

能動的に動作する耳介を持つロボットシステムを用いた音源定位法を検討した.音源方向の推定には,事前測定した音響データベースとの照合による方法を考え,不確かさを確率モデルを導入した推定手法を提案した.実際の能動耳介ロボットによる実験を通じて,提案手法がロバストな音源定位が可能であることが示された.また,ロボット動作に伴う騒音の影響を検証し,基本的な動作生成法について研究を行った.
著者
大谷 浩一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

健常人を対象にし、幼少時期に受けた両親からの養育的要因が、人格特徴・対人関係敏感性に与える影響について検討した。健常日本人を対象に、幼少時期に受けた養育環境、人格特徴全般、対人関係敏感性をそれぞれParental Bonding Instrument(PBI)、Temperament Character Inventory (TCI)、Interpersonal Sensitivity Measure(IPSM)を用いて評価した。本研究より、幼少時期に両親から受けた非機能的な養育的要因は、性特異性を持って、うつ病と関連する人格特徴および対人関係敏感性に影響を与えることが示された。
著者
鈴木 泰博 鈴木 理絵子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

時間変化する触覚を,五線譜を用い圧力の強弱と長さを記述する「触譜」を提案した.触譜によりマッサージ熟練者のスキルを分析し合成法を抽出し,生体応答計測により合成法の検証を行い確証を得た.触譜から振動触覚への変換法を構築し頒布することを可能とし,生体応答計測により変換法の検証を行い確証を得た.音声や時系列データの大きさを圧力とみなすことで触譜への変換を可能とし,様々なデータから触感や触質などを抽出することを可能とした.音楽から抽出した触覚によりマッサージを行う機器を構築し,効果の検証を行い肌年齢の若年化,低次脳機能障害の改善を確認した.
著者
伊藤 芳明
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は地域食材の糖代謝調節機能に及ぼす健康機能性を明らかにすることを目的として行なった。その結果、本わさび根茎に含まれるisothiocyanate 類の一つに糖尿病モデル動物で血糖上昇緩和効果があることを新規に見いだした。またヤマブドウは岩手県など冷涼な地域で栽培されるが、ジュースなどの加工時に生じる未利用資源である搾り粕や果皮などに存在するオレアノール酸に3T3-L1 脂肪細胞の分化抑制や蓄積脂質の分解効果のあることを明らかにし、糖尿病の背景要因となる肥満の抑制効果が期待できる可能性を見いだした。
著者
青山 薫 大久保 香 要 友紀子 櫨畑 敦子 濱中 洋平 宮階 真紀 宮田 良 八木 香澄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2005年風営法改正いらいの繁華街「クリーンアップ」(取り締まり強化)が進み、調査の要であるアウトリーチやピアエデュケーションに積極的に反応する人は、風営法届け出事業の中でも条件の良い店舗で働く人に偏っていることが明らかになった。合法性産業の二極化が進み、「クリーンでない」店舗等で働く人の脆弱性が高まったと言える。不法就労の外国人についても、外界と接触を避ける傾向が強まり脆弱性が高まっていた。各国当事者団体とWHO等一部国連機関の、性労働者の脆弱性を高める性取引犯罪化は避けるべきとの主張に照らしても、性労働者の権利と安全を守るためには、取り締まり強化を避けるべきであると本研究は結論した。
著者
寺島 正二郎
出版者
新潟工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

頸椎損傷者などは上肢も不自由なため,電動車椅子の操作にも不自由が伴う.そこで,「舌運動」を利用し,口腔部に設置したリモコンやジョイスティックを用いて,福祉機器の操作を行う「口腔・舌運動による総合型操作装置ItoAS」の開発を行っている.24年度は,口唇で咥えて使用する「口唇ジョイスティック」,25年度はジョイスティック型口腔内リモコン5号機を開発し,26年度は小型化を目指して6号機を製作した.システムの有効性を確認するために,6号機を用いて市販の電動車椅子で簡易コースを走行する試験を行った.当リモコンを舌で操作した所要時間は指と比較して約20%の増加に留り,本システムの有効性が示された.
著者
舘岡 康雄
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012

世の中の現象が空間的には拡大し、時間的には短縮したことにより、複雑で不確実な時代がやってきた。このような時代には、「させる・させられる」ことを交換する管理を中心としたマネジメントから「してもらう・してあげる」ことを交換するSHIEN(支援)を中心とするマネジメントの合理性が高まる。新たな時代に必要な能力を「してもらう能力」と提唱し、その能力の要諦を明らかにすると共に、旧来組織を新しい時代にふさわしい組織に変える研修手法を確立した。
著者
星乃 治彦
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近代ドイツを事例に、軍隊宮廷内における「男性」性の歴史的構築過程および「同性愛の歴史的機能」の分析を進めた結果、ヘテロ・セクシュアルによって解釈されてきたと考えられる歴史を別の観点から考察することの重要性が明らかとなった。また、who's Who in Gay and Lesbian History,London,2001の翻訳作業を進めるなかで、古代、中世、近世、近代、現代といった時代による特質を抽出した。さらに、クィア学会や性同一性障害学会等との交流を通じて、歴史学のみならず社会学や臨床心理学、精神医学などセクシュアリティに関する隣接学問からの知見を得ることで、そもそも「同性愛」「同性愛者」が問題なのではなく、それを作り上げていく社会や政治を解明することの必要性も浮き彫りになった。こうした作業をもとに、歴史の中で「性」=関係性(あるいは差別の体系)がいかにして作り上げられたのかを、西洋史全体の中に位置づけることが可能となった。
著者
田所 勇樹
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

リーマン面のモジュライ空間とは,閉リーマン面,つまりコンパクトな複素1次元多様体を双正則同型により同一視した空間である.モジュライ空間は,複素解析学,微分位相幾何学,代数幾何学,物理学など様々な分野において,重要な研究対象とされてきた.本研究の目的は,リーマン面のモジュライ空間の局所的な構造を定量的に理解することにある.また,モジュライ空間に対して自然に定まるヴェイユ・ピーターソン体積は,多くの研究者によって解析されてきた.この体積の満たす漸化式の拡張として位相的漸化式が定まり,物理学者を中心に研究されている.本研究では,曲面の複素構造に依存して定まる周期,調和体積の解析的不変量と位相的漸化式を結びつけることにより,モジュライ空間の局所的な構造の定量的な理解を試みる.本年度は,昨年度に導出した,ある超楕円曲線,対称性の高いリーマン面の一つ,の点付き調和体積と拡大ジョンソン準同型の具体的な値をわかりやすく整理した.これらの結果をまとめた論文が専門誌に採択された.また,数理物理学で扱われる場の理論の離散化の一つとして,非線形シグマ模型を用いて離散リーマン面上のエネルギーを共同研究により導出した.より連続理論に近い離散リーマン面が近年定義され,我々はその定義を用いている.招待講演を含む各種研究集会において,点付き調和体積と拡大ジョンソン準同型に関する講演を行った.研究集会「リーマン面に関連する位相幾何学」,および,論文の精読とオリジナルの講演を組み合わせた研究集会「モジュライ空間と双曲幾何の進展」を共同開催した.
著者
岩崎 弥生 荻野 雅 野崎 章子 松岡 純子 水信 早紀子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

リカバリーは、病気から生じた障害をもっていたとしても、満足でき希望に満ち社会貢献できる生活を送る方法として認識されている。リカバリー志向のアプローチは、当事者と医療従事者のパートナーシップを基軸に、精神障害をもつ当事者の癒しと安寧をもたらす代替的なサービスとして注目されている。本研究は、精神障害をもつ人のリカバリーの概念を、精神障害をもつ当事者の視点から明らかにして、リカバリーを促す看護援助プログラムの開発・評価することを目標とした。平成16年度は、地域で暮らす精神障害者を対象に、当事者の視点からリカバリーの概念を明らかにすることを目標として、質的調査を実施した。地域で生活する精神障害者47名(男性35名、女性12名)から、面接インタビューを用いた研究への参加同意を書面で得た。質的分析の結果、当事者が考えるリカバリーとして、「傷を抱えながら新しい自分に成長する」および「社会通念にとらわれない自分らしい生き方をする」という二つのカテゴリーが析出された。また、リカバリーに関連する要因として、(1)「無理」に挑戦する、(2)自分でも病気を知り管理する、(3)地域の資源を組み合わせて普通の生活に近づける、(4)病気や障害をもって生きるには保障と周囲からの信頼が要る、(5)人並みに生きたいと思うと苦しい、といった五つのカテゴリーが析出されたが、これら五つのカテゴリーのうち、最初の二つのカテゴリーは障害をもつ個人としての側面におけるリカバリーを示し、最後の三つは社会的に周縁化された人々の自信と能力を削ぐ社会的システムの特徴を示唆した。結果から、精神疾患・精神障害に対する社会的な価値の転換の必要が示唆された。平成17年度は、前年度の研究成果を踏まえて精神障害者のリカバリーを促す看護援助を開発し、その有用性を検討した。リカバリーを促す看護援助プログラムは、「回復の希望」、「自分の擁護」、「わがままの発揮」、「新しい自分の構築」を促すことを目的とした四つのセッションから成り、小グループで話し合う形態で進めた。地域で暮らす精神障害者8名(男性6名、女性2名)から、書面で研究への参加同意を得た。プログラムでの話し合いの内容は録音し、観察の内容はフィールドノートに記録した。小グループでのディスカッションは、対象者が相互に新しい対処方法について学び、お互いの強みを発見し、病気の経験を人生の中に再統合することを促した。援助過程の中で浮上してきた対象者のリカバリー(回復)の中心的なテーマは、病気や障害の管理についてではなく自分の生き方に関してであり、リカバリーが全人的な過程であり、精神医療システムの範囲では捉えきれないことを示唆した。リカバリーを促すには、本人の脆弱性や障害されている部分に働きかけるのではなく、人生という観点からリカバリーを捉える全人的なアプローチの必要が示唆された。