著者
近藤 一博
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生理的疲労は容易に回復するが、病的な精神疲労は、生活の質を大きく低下させ、治療的介入を必要とする。 このため、これら2つを区別することは重要であるが、有用な鑑別法はなかった。 我々は、ヒトヘルペスウイルス(HHV-)6およびHHV-7が、生理的疲労を定量化するためのバイオマーカーとして有用であり、生理的疲労と、病的精神疲労を引き起こすと考えられる閉塞性睡眠時無呼吸症候群、慢性疲労症候群、および大うつ病を区別できることを見出した。この方法は、疲労を評価し、疲労関連疾患を予防するための根本的に新しいアプローチを示唆している。
著者
坂井 千春
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

セシル・シャミナード(1857-1944、仏)は、自作の出版と演奏だけで経済的に自立した最初の女性職業作曲家である。ベル・エポックに大人気を博したが、死後長い間忘れられていた。しかし近年、再び演奏され始めているにもかかわらず、先行研究が非常に少ない。研究方法としては、まず散逸している彼女の全ピアノ曲を収集し、同時代の作曲家と比較検討する。次に彼女の自作自演録音など19世紀女性ヴィルトゥオーゾの演奏法を、研究者のピアニストとしての視点から詳細に分析する。そしてピアノ学習者たちの指針となるような解釈を提示した世界初の解説付シャミナードピアノ曲全集出版を目指し、録音や演奏会を通じて再評価を試みる。
著者
仲本 康一郎 岡本 雅史 加藤 祥
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、日常的な営為によって生み出される語りと、語りが生成する世界に一貫性を求める私たちの心の習慣をナラティブ・リアリティとしてとらえ、人が語ることでいかにしてリアリティを構築しているかを認知的観点から考察した。具体的には、(1)語りが物語標識によって構造化され、一貫性が生み出されていくこと、(2)単一の物語が複数の話者によって共話的に語られうること、(3)同一の物語が反復的に語られることで変容を受け、かつ同一性を保持することに着目し、語りの展開可能性と反復可能性、さらに複数の話者による共話可能性を架橋する潜在的な物語構造の多相的な分析を行った。
著者
武井 浩樹 藤田 智史 山本 清文 中谷 有香
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

小児期では味蕾は成熟しているが,味覚情報を脳内に伝える脳神経線維や中継核はまだ発達途上である。したがって味覚を生み出す大脳皮質味覚野においても同様に発達が完了していないと考えられる。神経回路の発達が完了する「臨界期」の存在が大脳皮質視覚野で報告されているが,味覚野では未解明のまままである。そこで,脳内のニューロン活動を経過観察できるレンズをマウスに埋入し,種々の味覚物質を摂取させた際のニューロン群の発達に伴う発動パターンを数週間にわたり覚醒下にて計測する。また、視覚野の「臨界期」に重要な役割を果たすとされるBDNFの拮抗薬を投与するなどして,味覚野の「臨界期」を推定する。
著者
坂部 裕美子
出版者
公益財団法人統計情報研究開発センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

歌舞伎および落語定席の戦後の興行データベースを集計し、上演演目や配役の構成を時系列的に比較した。歌舞伎は平成以降、上演演目に偏りが大きくなってきたこと、落語定席については、一部の落語家が何十年も恒常的に出演し続ける傍ら、年数回しか出演のない落語家が増加していることが確認された。しかし、これらの不均衡はどちらも近年解消される方向に進んでいる。これは、演者の世代交代の影響によるものが大きいと考えられる。
著者
李 省展 内海 愛子 上村 英明 齋藤 小百合 篠崎 美生子 駒込 武 内藤 寿子 内海 愛子 上村 英明 駒込 武 篠崎 美生子 内藤 寿子 李 泳釆 齊藤 小百合 姜 信子
出版者
恵泉女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、人々の日常にどのような形で「戦争」と「戦後」の「記憶」が根づき、継承されつつあるかを、アカデミズムや国民国家の枠を越えて採集、編集、分析し、偏狭なナショナリズム解消のために活かそうとしたもの。その成果は、各メンバーによって書籍・論文・口頭発表の形で公表されたほか、HP(http://www.postwar-memories.org/)でも公開されつつある。
著者
福武 慎太郎
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

コーヒーチェリー栽培をおこなう東南アジア島嶼部の高地民の暮らしについて、1)コーヒーチェリー栽培導入の歴史的経緯と貨幣経済の浸透、2)贈与交換経済と貨幣経済の関係について、現地調査と文献調査に基づき考察した。東南アジアの高地社会では、植民地統治が本格化する20世紀初頭まで貨幣使用は限定的であり、少なくとも1980年代まで贈与経済が優勢であった。独立後の東ティモールでは、コーヒー・チェリー栽培の収益への経済的依存が高まっている一方、贈与経済は根強く、市場経済と贈与経済の並存が高地民の生活を圧迫していることが明らかになった。
著者
福島 亜理子 仁科 エミ
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音が深部脳活性を高め心身を賦活する現象(ハイパーソニック・エフェクト)の発現強度が、超高周波成分の周波数に応じて変化する現象について検討する上で、より適切な情報構造を有する異なる音源においても同様に観察されるかどうかを確認するために、先行研究とは異なる音源を開発し、脳波計測実験を行った。まず、超高周波成分が豊富に含まれることが多い熱帯雨林環境音に着目し、アフリカやボルネオの熱帯雨林で超高密度収録された数十に及ぶ音源アーカイブについて、録音状態や超高周波成分の含有状況を周波数分析を行って確認した。その結果、計画している分割帯域毎にほぼ同程度の信号強度を有する実験用音源に適すると判断された音源を見出し、超高密度編集機器を用いて、100kHzに及ぶ超高周波成分を豊富に含む音源を実現した。この音源によるハイパーソニック・エフェクト発現を確認するために、楽器音を用いた先行研究に準じて、48kHz以下の周波数成分と48kHz以上の周波数成分とに分割して呈示し、被験者の脳波α2成分から基幹脳活性化指標を算出し比較した。その結果、48kHz以下の成分のみを呈示した場合に比べ、48kHz以上の超高周波成分を合わせて呈示した場合に、基幹脳活性化指標が増加する傾向を見いだした(p=0.073)。このことは、先行研究において、48kHzより高い超高周波を用いた場合に、より低い成分を用いた場合に比較して基幹脳活性化指標が有意に増大したことと矛盾しない。こうして、異なる音源においても、少なくとも超高周波成分を48kHzを境に大きく分割した場合に、ポジティブな効果とネガティブな効果を検出しうることや、呈示時間を楽器音よりも長く設定した方が安定した結果が得られることなどが示され、次年度以降のより詳細な分析に向けた準備を整えることができた。
著者
池田 研介 高橋 公也 首藤 啓 石井 豊
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

系の多次元性はトンネル効果に根底的影響をおよぼす。特に系が非可積分系の場合にはカオス集合の存在による極めて複雑なトンネル現象がおこり<カオス的トンネル効果>とよばれる。この研究では古典力学をフルに複素領域に拡張した<半古典理論>を用いて、カオス的トンネル効果の基本機構が研究された。(1)カオス存在下でのトンネル効果があるクラスの量子写像に対して研究された。精力的な数値的研究によってトンネル効果に本質的に寄与する軌道はその形状からラピュータ鎖とよばれる極めて限られた集合に属す事が示された。このような集合の数学的意味が複素力学系理論の結果と数値的に得られた主張を組み合わせる事によって研究された。主要な結果はラピュータ鎖の閉包が前方ジュリア集合J^+と前方充填ジュリア集合K^+に挟まれるという主張である。他方J^+=K^+と推論され、これが正しければ、ラピュータ鎖の外枠がJ^+である事を意味する。動的障壁をトンネルした波動関数はJ^-の実成分に沿って形成される。これらの事実はトンネル波動関数の主要成分はカオス集合に稠密なサドルの複素化安定多様体-不安定多様体に嚮導されてトンネルする事を意味する。(2)あるクラスの障壁トンネル過程に焦点をあて、多次元障壁トンネル過程に特徴的な複雑なトンネル効果を支配する不変的機構が解明された。先ず複素半古典理論が強相互作用領域においても純量子論の波動行列を再現できる事が確認された。強相互作用領域ではトンネル成分には複雑な干渉フリンジが現れる。更に、複素安定-不安定多様体に嚮導された複素トンネル軌道がフリンジトンネル効果を支配するが示された。このような機構は古典的なインスタントン機構に代わる、全く新しい描像を提供する。数学的にはこの機構は軌道の多価性を保証する<動く特異点>の発散的な移動と密接に関係づけられる事が判明した。極めて異なる上記トンネル過程が複素化安定-不安定多様体を使った共通の機構に支配されるのは驚くに値する。多次元トンネルを特徴づけるこのような機構の発見はこのプロジェクトの目覚しい成果である。
著者
栗栖 由美子 松田 聡
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、17 世紀前半の初期バロック音楽の適切な歌唱法を、理論と実践の両面から具体的に解明したものである。理論面においては、ボヴィチェッリ、カッチーニ、プレトーリウスの理論的著述からの考察をもとに、声楽家のための手引書「初期バロック音楽の実践的歌唱法」を作成し、これを踏まえた演奏を通して、歴史的に的確な歌唱法を提示した。
著者
宮口 英樹 宮口 幸治 石附 智奈美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

非行少年の社会復帰プログラムでは、先行研究から認知行動療法やSSTの効果が検証されているが、一方でいくら指導しても深まらない少年たちの存在にも苦慮させられている。その中には、視覚認知、聴覚認知、ワーキングメモリなど様々な認知機能に問題をもっているケースも多く、矯正教育の成果を上げるためには、ある程度の知的機能を保つことが課題となる。本研究は、少年院内だけでなく境界知能者の生活自立活動能力の向上、就労支援を目指した認知トレーニングのシステム作りを目的とし、認知機能向上に加え、社会生活支援にあたっている専門家を対象に聞き取り調査を行い、プログラムを改良・充実することを目指している。
著者
豊原 容子
出版者
華頂短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

マイタケ中に存在する血栓溶解酵素が経口摂取により、生体へ取り込まれ有効な効果をもたらすのかどうかについて検討を行うことを目的として実験を進めてきた。精製法について検討した結果、強陽イオン交換担体であるSource担体Sを用いたイオン交換カラムクロマトグラフィーをpH6.0で行なうことにより、より効率よく精製できることが判明した。この方法によりマウス投与に用いる本酵素の精製を進めるとともに、ポリクロナール抗体作製用のサンプルを調製した.ラビットにてポリクロナール抗体を作製し、本抗体について、ウエスタンブロット、免疫染色に用いることができることを確認した。また、イオン交換カラムクロマトグラフィー後の精製物を用い、本酵素のアミノ酸シークエンスを行ったところ,電気泳動にて2本のバンドがみられていたが、いずれも同じシークエンスであることが確認され、糖鎖などの変化によるものであると考えられた。また本酵素はJ.Biol.Chem.,272(48),30032-30039(1997)に報告されているメタロエンドペプチターゼと同一の酵素であることが明らかとなった。生体への効果をみるために、飲料水に本酵素を加え摂取させるという方法を以前から試してきたが、摂取量を正確に把握できないことから、ゾンデによる経口投与法に変え摂取させる実験を行った。6週令マウス♂C57BL/6CrSlc(n=7)に毎日200μg投与した。このマウスについて5日目に頚椎脱臼によりサクリファイ後、心臓採血し血漿についてザイモグラフィーを行ったところ体内でのマイタケの本酵素の明らかな痕跡は認められなかった。さらに投与する量や投与期間などを検討し実験を継続する予定である。
著者
松尾 清 杠 俊介 伴 緑也 常川 主裕 安永 能周 柳澤 大輔 西岡 宏 大畑 えりか
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

開瞼してミュラー筋機械受容器伸展で誘発される三叉神経固有感覚は、青斑核を刺激し腹内側前頭前野を活性化し手掌汗腺を発汗させ、生理学的覚醒を調節し、かつ眼瞼痙攣を起こすことを報告した。腱膜性眼瞼下垂の患者の中で、眼瞼痙攣と不眠のある患者50名(平均50.6歳)で、ミュラー筋機械受容器伸展を減弱する手術を行い、術前、術後2週、6ヶ月にアテネ不眠尺度(AIS)の変化を評価した。眼瞼痙攣が改善するだけでなく、AISスコアは術前9.1±4.0、術後2週で4.2±3.8、半年で4.1±3.3と、術後2週で有意に(P<0.001)改善された。三叉神経固有感覚の過剰な誘発が眼瞼痙攣と睡眠障害の原因と考えられた。
著者
大和谷 厚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

脳内ヒスタミン神経系のいくつかの生理機能は,他の神経系の神経終末上にプレシナプティックヘテロレセプターとして存在するH3-受容体を介してそれらの神経系の活動性が調節されて発現するという作業仮説を証明するため実験を開始した.まず,脳微小透析法と多種目神経化学分析装置を用い,H3-受容体リガンドの脳内神経伝達物質動態への作用を検討し,セロトニン神経系の代謝回転が影響を受けることを明らかにした.その経過にH3-受容体の遮断薬として最も一般的に用いられているチオペラミドが,H3-受容体遮断以外の作用をもつことを見い出し,まずその機構を明らかにすることにした.そして,チオペラミドはカルシウム非依存性にGABA遊離を直接促進させることから,GABAトランスポーターに対する阻害作用によるものと結論づけた.これまで、チオペラミドはヒスタミンH3受容体遮断薬の標準薬として多くの研究に用いられ、その薬理作用は脳内のヒスタミン遊離を増加した結果として説明され、脳内ヒスタミンの生理的意義を探るため用いられてきたが,この結果から,これまでの報告されているチオペラミドの中枢薬理作用がヒスタミンH3受容体遮断によるものだけでなく、GABA遊離の関与も考える必要があり,全てのデータについて再検討する必要があると考えられた。また,H3-受容体リガンドの治療薬としての可能性を深る目的で,麻酔深度におよぼす影響および動揺病の予防効果について動物実験を行った.H3-受容体遮断薬により脳内ヒスタミン遊離を増強させたときの麻酔深度への影響を調べたが,チオペラミドの場合,所期の効果が観察できなかった.これは,前述のチオペラミドのGABA遊離促進効果によりマスクされたものと結論づけ,より特異性の高い薬物で再検討することとした.動揺病予防については,H3-遮断薬の投与が有効であることが分かった.
著者
高井 啓介
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は、研究内容を以下の3点に集中して実施した。(1)「降霊術」と「腹話術」および「魔女」が描かれた図像の分析およびその分析の論文化の作業。(2)現代的エンターテインメントとしての「腹話術」の歴史に関連する資料の収集およびその分析と論文化の作業。(3)旧約聖書テキストおよびその解釈についての文献学的研究の成果をまとめる形での最終的な論文執筆作業および学会発表での成果の発表の準備。以下が本年度の成果である。(1)については、古代末期以降西洋近代以前に至るまでの図像をほぼ網羅的に収集し、その分析を進め、テキストと図像との関係性の特徴を明らかにした。(2)については、「降霊術」と降霊術師のダイモーンに関する言説が脱神話化されることにより、現代的なエンターテインメントとしての「腹話術」および腹話術師が成立していく道筋を確認することができた。(3)については、「降霊術師」の登場する旧約聖書テキストおよびその解釈をダイモーンという観点からまとめなおす作業を行った結果、論文執筆および学会発表に向けてのおおよその見通しを得ることができた。
著者
カーン カレク 北島 道夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

私どもは,これまでおよそ10年間にわたる検討から,子宮内膜症の発生および増殖・進展に関する新たな病態のひとつとしてbacterial contamination hypothesis細菌混入仮説」を提唱し発表した.子宮内膜症では非内膜症に比較して,月経血中への大腸菌混入が強く,結果として月経血中や腹水中でのエンドトキシン濃度が亢進していることが認められた.Defensinなどの抗菌性ペプチドや分泌型白血球プロテアーゼ阻害物質(secretory leukocyte protease inhibitor, SLPI)は,動物および植物に種横断的に広く存在する宿主生得免疫のメディエーターである.