著者
松本 鈴子 中野 綾美 佐東 美緒
出版者
高知女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、母親が安心して育児ができ、次回の妊娠・出産へとつなげるために、心的外傷後ストレスを引き起こしている母親はどのような出産体験をしたのか明らかにし、出産後の母親の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を予防するための対応策を看護の視点から提案することを目的とした。その結果、出産後1か月時に心的外傷後体験が高く、PTSDハイリスクであった健常新生児の母親とNICU入院児の母親は『母体の生命の危険』『耐えがたい疼痛』『母体の健康状態の悪化』などの恐怖や苦痛体験をしていたことが明らかになった。PTSDローリスクであった健常新生児の母親は「陣痛を耐え、乗り越えたことが自信や充実感になった」「信頼できる看護者や医師、家族がそばにいる支援が安心感やよろこびにつながった」と、母親が自分なりに出産体験を肯定的に受け止めていた。また、NICU入院児の母親の中に「予想していた以上の看護や医師の説明、何かあれば相談できる医療従事者、家族の支え」によって安心感や意欲につながっていた。そして、出産後6か月時にPTSDであった母親は両群の割合には有意な差がなかったが、健常新生児の母親2.9%(n=174)、NICU入院児の母親3.6%(n=111)であった。心的外傷体験にならないように予防的ケアすること、そして、母親の反応をアセスメントし、心的外傷体験や心的外傷後ストレス症状出現の早期発見、継続したケアをすることが大切である。
著者
大山 七穂
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度は、マスメディア(新聞記事)に表出された社会規範に関するメディア・フレームが人々の規範意識に影響を及ぼすものと考え、新聞の内容分析を行った。「成人の日」の社説と、「人生案内」というコラムへの投書とそれに対する回答の分析を行ったが、「大人」を大人たらしめる規範の希薄化と、投書内容の個人化および問題解決の脱規範化を見出すことができた。平成13年度はそれを受けて、意識調査を実施した。調査の主な目的は、現在の人々がどのような規範意識をもっているのかその意識構造を明らかにして、そこから社会規範の変化を検討するとともに、メディア・フレームがどの程度影響を及ほすのか検証することである。調査対象は、神奈川県の一般成人男女1500名であり、443名からの回答を得た。規範意識には、変わった側面もあり、変わらない側面もあった。日本の伝統的な社会規範は予想していた以上に保持されていたが、家族をめぐる規範や性規範には大きな性差、年齢差がみられた。規範の曖昧化、希薄化については、一部の結果からそうした傾向を認めることができる。若年層の方が、全般的に判断の根拠が不明確で、その時その場の自己欲求に左右されやすく、一貫性に欠けていた。メディア・フレームについては、残念ながら明らかな影響を析出することはできなかった。ただし、家庭や学校で教えられたとする道徳内容が主として旧来の規範であるという結果をみると、変わりつつある社会規範の判断枠組はメディアが提供している可能性が大きいといえよう。
著者
田口 富久治
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

平成8年度は、研究課題についての史料の勉集をおこない執筆の準備に備えた。平成9年度は、戦後は本政治学史の執筆にとりかかり「戦後日本政治断章(一)」を執筆した。内容は第一章戦後日本政治学の方向づけと制度化、第一節戦後日本政治家の方向づけ(丸山兵男の「科学としての政治学」論文の役割)、第二節戦後日本政治学の制度化である。平成10年度には、戦後日本の政治学をリードしてきた丸山兵男研究の一部を「戦後日本政治と丸山兵男」と題して発表した。また「戦後日本政治学史断章(二)」として、第二章戦後政治学史への諸アプローチ(学史研究のサーグニイ)および第四章戦後政治学の百花斉政ー1920年代世代の登場ーと起して、戦後日本の政治学ルネッサンスの立役となった。1920年代生れの指導的政治学者、すなわち、福里敬一、京極純一、岡義直、永井陽之助、石里雄平の政治学の評価と分析を行った。この研究は、今後数年続行される予定である。
著者
渡部 周子
出版者
島根県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

前年度に引き続き、近代日本の「「かわいい」の生成」について、人文社会科学(またこれに影響を与えた自然科学)や芸術の動向と、総合的に捉えることを試みた。文献資料や図像資料の調査や情報収集、整理、解釈という方法に基づく。本年度は、「かわいい」ということを明確に把握するために、これと対比される「かわいくない」ことについても分析を進めた。具体的には、少女雑誌での投稿文化の発展、少女雑誌における編集者と読者の関係性、少女雑誌読者の芸術志向(文学志向)、女子教育の動向と少女雑誌に与えた影響、これらの観点から調査を試みた。加えて、アクチュアルな意義を問うために、コンテンポラリー文化の動向についても目を配った。成果発表としては、次の実績を上げることができる。女子学研究会(2017年9月16日、於甲南女子大学)にて、「自著紹介 渡部周子『つくられた「少女」―「懲罰」としての病と死』(日本評論社、2017年)」と題して、口頭報告を行った。この発表は、本研究計画に先立つ、科学研究費による研究課題「明治期女子教育の制度化に際する西洋科学思想の影響に関する研究」の成果としてまとめた、自著の紹介を軸としている。ただし、発表の中で、この研究成果と、進行中の研究課題である「かわいい」の生成が、どのように結びついているのか、現在はどのような問題に取り組んでいるのか、「かわいい」と「少女」との関連から考察することで示してもいる。コンテンポラリー文化の動向(現代日本のアニメが描く「少女」観等)との比較、相対化、またアクチュアルな意義を、この発表で問うこともできた。
著者
島田 義也 西村 まゆみ 柿沼 志津子
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

胎児・小児期における放射線被ばくの影響評価とその防護対策は、緊急の課題である。そこで本研究では、マウスを用いて寿命短縮に対する被ばく時年齢の影響や、被ばく後の変異蓄積および発生したがんにおける遺伝子変異頻度の違いを解析した。その結果、新生児は最も感受性が高く胎児後期は低いこと、被ばく時年齢時によって遺伝子の変異頻度が変化する可能性が示され、今後の解析の手がかりが得られた。
著者
呑海 沙織 溝上 智惠子 赤澤 久弥 羅 秋芬 陳 佳琛
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は,学習支援空間における学生アシスタントの意義を明らかにし,その育成プログラムについて検討することである。北米の大学図書館では1990年代頃より,ラーニング・コモンズ等の新しいタイプの学習支援空間が普及している。その構成要素は,①施設・設備,②資料,③人的支援に大別することができる。本研究では,人的支援の中でも学生アシスタントに焦点をあて,高等教育機関を対象とする質問紙調査および先進的な学習支援空間の現地調査を実施することによって,学習支援空間および学生アシスタントの実態を明らかにするとともに,学習支援における意義について考察し,育成プログラムについて検討を行った。
著者
深山 晶子 椋平 淳 辻本 智子 村尾 純子 MOORE Ashley FRITZ Erik MCCARTHY Tanya FISCHER Danielle WORTH Alexander
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、「模擬国際会議(Mock International Conference: 以下MICと省略)開催」というProject-Based Learningの実践を通じて、各学生の専門分野における英語での発表のスキルを高めることが主目的であったが、MIC参加学生には、図書館のラーニング・コモンズをMICの準備学習の場にすることを求め、ラーニング・コモンズの積極的利用を促すことも副次的効果として狙った。成果は、MICの運営手順以外に、教材・教育方法・PBL教員・運営学生育成方法を含むPBL型のEnglish for Academic Purposesの教授法として、教育パッケージ化した。
著者
前杢 英明 越後 智雄 宍倉 正展 宍倉 正展 行谷 佑一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,海溝型巨大地震の発生モデルに関して,陸上の地形・地質学的データから新たな検討を加えることを目的としたものである。紀伊半島南部を中心に、隆起地形や津波漂礫の分布調査を行い、津波のモデリングや^<14>C年代測定などの分析を通して、南海トラフ・メガスラストの各セグメント間の連動型地震ではなく、海溝陸側斜面に発達する海底活断層と海溝型巨大地震との連動型が発生した可能性を指摘することができた。
著者
白鳥 義彦 岡山 茂 大前 敦巳 中村 征樹 藤本 一勇 隠岐 さや香 上垣 豊
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

研究課題として設定した、①「大衆化」と「卓越化」との二律背反の相克、②高等教育の「自由化」政策の影響、③リベラル・アーツと教養教育、という3つのテーマを軸に日仏両国の比較研究を進めた。日本およびフランスのいずれの国においても、さまざまな「改革」の動きの一方で、ともすれば見過ごされているようにも見受けられるのは、「改革」を通じてどのような高等教育を目指すのか、あるいはまた、その新たな高等教育を通じてどのような社会を目指すのか、といった本質的、理念的な問いである。研究代表者および研究分担者は、こうした根本的な問いを共有しながら、それぞれの具体的な研究テーマに取り組んで研究を進めた。
著者
児玉 靖司 鈴木 啓司 渡邊 正己
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

放射線被曝後の生存細胞に、遅延性に染色体異常が誘導されることが知られている。本研究は、放射線による遅延型染色体異常の形成に、テロメア不安定化が関与するという仮説について検証するものである。まず、ヒト正常細胞を用いて、放射線誘発遅延型染色体異常に対する酸素濃度の影響を調べた。通常20%の酸素分圧を、1/10の2%に低下させることにより、放射線による遅延型染色体異常は、約65%減少することが明らかになった。このことは、放射線被曝後の酸素ストレスが遅延型染色体異常形成に関与していることを示している。次に、scidマウス細胞にみられるDNA二重鎖切断の修復欠損が、放射線誘発遅延型染色体異常にどの様な影響を及ぼすかについて調べた。その結果、scid突然変異は、自然発生および放射線誘発遅延型染色体異常の頻度を増加させることが明らかになった。この結果は、scidマウス細胞で欠損している非相同末端結合修復が、自然発生および放射線誘発遺伝的不安定性を抑制していることを示唆している。次に、テロメア不安定化について、テロメアFISH法により調べたところ、放射線照射によりテロメア不安定化が促進され、テロメア構造が残存した状態で2つの染色体が融合する染色体異常が増加することが分かった。さらに、scidマウス細胞で欠損しているDNA依存的プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)が、テロメアの安定維持に寄与していることが示唆された。以上の結果を踏まえて、放射線による遅延型染色体異常の誘発メカニズムについて、次のモデルを提唱する。すなわち、放射線被曝した細胞にテロメア不安定化が誘発され、テロメア融合(fusion)-架橋形成(bridge)-染色体切断(breakage)と続く一連のFBBサイクルが誘起されることにより、遺伝的不安定性が持続的に生じ、遅延型染色体異常が形成される。
著者
白鳥 成彦 田島 悠史 田尻 慎太郎
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は日々変化し蓄積していく学生データと大学における教学データを確率的に関連付けたモデルを構築し、大学生の退学を防止する為に行う教育サービスの意思決定を支援することである。平成29年度は平成28年度に作成した学生モデルの再構築と教学サービスとの統合、さらに学会等における成果の発表を行った。(1)学生モデルの再構築では平成28年度に行った一次成果の報告におけるフィードバックを経て学生モデルの再構築を行った。具体的には中退に関連する変数を2群:入学時の変数と入学後の変数に分け、その統合によって学生の状態を推測していくモデルにした。結果としてマクロ的な変数のみで動的な動きを表現できなかった前年度のモデルに対して、学期ごとの動きを表現することができるようになり、より中退までの具体的な動きを扱うことができるようになった。次に(2)学生モデルを用いて教学サービスとの統合を行った。具体的には作成した学生モデルを教職員に公開し、その学生ごとに適した形の教学サービスはどのようなものかを考えるワークショップを5回行った。学生モデルから出される中退・卒業までのパターンごとに適切な教学サービスにどのようなものがあるのかを導出した。学生パターンごとに教員が行うサービス、職員が行うサービス、カウンセラーが行うサービスに分け、それぞれのタイプごとにいつ、どのサービスを行うことが適切なのかを導出した。最後に(3)以上の学生モデル、教学サービスの統合部分を学会発表論文としてまとめ、発表を行った。
著者
柳澤 有吾
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「テロとの戦い」や「人道的介入」も視野に入れつつ、現代における「正義の戦争」の可能性と現実性に関して原理的・哲学的考察とその歴史的な裏づけを図ることを目指すものである。中でも「非戦闘員保護の原則」に注目して、それが極限状況の中でどこまで維持できるのか、また維持できないときにそれはどう扱われるべきなのかに焦点を合わせて考察を進めてきた。今回はとくに、ドイツで憲法裁判所にまで持ち込まれることになった「航空安全法」をめぐる議論を集中的に検討した。ハイジャックされてテロリストの武器となった旅客機の撃墜命令を防衛大臣は出せることになっているが、それは正当な行為なのか不正なのか、正当防衛なのか緊急避難なのか、実行者あるいは命令者は免責されればよいのか、それともやはり正当化は欠かせないのか等々、疑問が次々と沸き起こる。これは、きわめて政治的な問題であると同時に、「人間の尊厳」や基本権としての「生命権」のもつ意味と限界が問われた事例であり、戦争倫理の観点からも重要な問題が提出されていることが確認された。「非戦闘員保護」の問題の射程は広い。研究期間内に参画することとなったS.G.ポスト編『生命倫理学事典』の翻訳作業を通して、戦闘員であると同時に非戦闘員でもある軍医務官のディレンマという側面からこの問題にアプローチする可能性とともに、生命倫理学における「戦争」の位置についても考えることができた。さらに、新たに浮上してきた課題として、戦争(倫理)をその表象ないし記憶という側面から捉え直す作業もまたひとつの重要な問題領域をなすと思われる。そこで報告集にはミュンスター「彫刻プロジェクト」における作品のいくつかを分析・検討した論文を収録した。
著者
鳥居 朋子 杉本 和弘 岡田 有司 野田 文香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

米国及び豪州の事例分析の結果、大学マネジメントにおける上級管理職とIRの機能的連携の特徴として、1.重層的な組織構造の枠組の中、時には組織横断的なタスクフォースを結成することにより様々な階層の管理職が職責に応じたリーダーシップを柔軟に発揮していること、2.かかるリーダーシップにおいては、IR組織が提供する客観性の高いデータや情報を、学内の対話を促進するトリガーとして活用していることが解明された。
著者
下村 明子 田中 秀樹 守田 嘉男 張 暁春 三宅 靖子 西田 千夏 島田 友子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

障がい児の平均睡眠時間は8.61時間で健常児より約1時間以上短く,睡眠不足,昼夜逆転も多い。発達障がい児の養育者の平均睡眠時間は平日6.52時間で健常児の養育者より短く,睡眠不足は全体の52.7%,中途覚醒1回以上は80%前後で親子共に良好な睡眠状態ではない。両者の養育者のニーズの違いも明らかで,発達障がい児の養育者は親亡き後の生活保障,子どもの自立,障がいへの理解や支援を強く望んでいる。マットレス下設置センサーのデータから,発達障がい児の入眠困難,昼夜逆転,中途覚醒など健常児との違いが明確に示され,養育者の睡眠に対する意識を高めた。
著者
森澤 和子 平林 直樹 長澤 啓行
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、看護師に事前に提示する翌月分の勤務表を種々の制約条件を考慮して自動的に作成する静的スケジューリング機能に加えて,勤務予定の当日になってやむをえず出勤できない看護師が発生してしまった場合に提示済みの勤務割当をできるだけ変更することなく欠勤を補うための代替人員を選定し,かつその日以降の勤務割当を必要に応じて修正する動的スケジューリングの機能も備えたナース・スケジューリングシステムの基幹アルゴリズムを開発した.
著者
溝田 武人
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

サッカーボールがほぼ無回転で飛翔する場合にしばしば観察されている不規則な軌道変化の不思議を扱ったものである。ボール後方の渦を可視化撮影し、変動する揚力・横力を測定し、お互いの対応関係を明らかにした。サッカーボールの無回転発射装置を作成し、激しい変化の様子を観察できるようになった。
著者
伊東 正博 中島 正洋
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究期間中、チェルノブイリ組織バンクに5021例の組織登録が完了した。ヨード環境の異なる本邦とチェルノブイリ周辺地域の被曝歴のない成人の甲状腺乳頭癌症例を用いて病理組織学的検討を行った。チェルノブイリ症例では小児、成人とも充実性成分を有する症例が多くみられ、ヨード環境や遺伝的背景の差が形態形成に差をもたらすこと、放射線感受性を考える上で環境因子が重要であることを報告した。また福島原発事故関連の若年症例では、大部分の症例が古典的乳頭癌形態を呈し、BRAF点突然変異が多く、ret/PTC変異を主とするチェルノブイリ症例とは腫瘍形態、遺伝子変異が大きく異なることを明らかにした。
著者
照沼 かほる
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、アメリカにおいて19世紀からさまざまな形で展開される「少女・女性の成功物語」を、ゴシック的要素と結びつけることで、「プリンセス(願望の)物語」と位置づけ、それを用いることで、アメリカの映像作品に描かれる「プリンセス」と、一見それとは対照的とみなされてきた「戦う女性」が、ともにゴシックの呪縛を帯びた、共通の矛盾・問題点をはらんでいること、またそれが広くアメリカ文化に浸透しつづけている女性像の問題と結びついていることを、アメリカの映像作品の分析を通して、論じるものである。
著者
勝山 貴之
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

16世紀の英国は, 強大なカトリック勢力と対峙するなか,地中海における交易路の開拓に腐心していた。エリザベスに残された唯一の道は,北アフリカや東地中海のイスラム教国と通商条約を結ぶことであった。しかし,オスマン帝国をはじめとする異教国との同盟に対して, 英国人たちは不安を抱かずにはおれなかった。彼らは,異教の文化によって,自国の文化が浸食されてしまうのではないかと恐れたのである。異教の「他者」と接触した英国人の精神的葛藤は,劇の中にどのような形で描かれたのか。東洋での異文化体験を綴った旅行記を手掛かりに,「他者」との遭遇を描いた劇の分析を試み,『シェイクスピアと異教国への旅』としてまとめた。
著者
三浦 伸夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.17末から19世紀前半までの英国の数学愛好者は総称してphilomathとよばれるが、その総数は2-3万人であり、イングランドはもちろん、スコットランドやアイルランドにまで及ぶ。これは同時期のフランス、ドイツ、イタリアには見られない現象である。2.普及した原因はいくつかあげられる。英国では18世紀になると印刷公刊が制度的に容易になり多くの数学書が公刊され、また行商人が各地でそれを販売し、巡回講義が頻繁に行われそこで販売されたこと。海外進出に伴い航海術が盛んになり、そのための実用数学が広く要請されたこと。北部への開墾が進み、軍事的にも正確な測量術が要求されたこと。産業、商業が展開し、さまざまな計測法の実用書の需要が増大したこと。それらの実用数学を教える学校が設立され、そのための教科書が数多く印刷され、それが相乗効果になって数学愛好者が増えたこと。女性に娯楽としての数学という発想が普及し、女性にも数学が普及したこと、など。3.彼らは独自の社会的ネットワークを構成し、ハバーマスのいう公共圏が数学界にも適用できる。その中心はThe Ladies Diaryという雑誌であった。The Ladies Diaryに関しては、その価格、普及の度合いなど詳細な研究成果を研究成果報告書に記載。そのほかの雑誌には、The Palladium, The Stockton Beeなどがある。4.数学愛好者の数学は、ニュートン流の数学ではなく、もっぱら実用数学であった。5.実用数学のための数学器具がさまざま考案された。このことはフランスでも同じであるが、フランスの器具が豪華、大型、真鍮製で銘が彫られているのに対して、英国のものは小型、木製や象牙製で無名のものが多い。英国では実用器具として大衆に普及したことがわかる。