著者
斉藤 英俊 大塚 攻 河合 幸一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

1)スジエビ類および寄生種の遺伝属性: エビノコバンは、これまで沖縄県から山形県までの15県でエビノコバンを採集し、ミトコンドリア DNAの配列情報を明らかにして中国産エビノコバンのデータ(NCBLより引用)を加えて分子系統樹作成を行った。その結果、エビノコバンの分子系統樹は、本州~九州、沖縄および中国の3つのクレードに区分された。愛媛県のエビノコバン(宿主:チュウゴクスジエビ)は中国産個体に近い遺伝的属性を示したことから、チュウゴクスジエビの輸入にともないエビノコバンも中国から侵入している可能性が示唆された。2)寄生種がスジエビ類に及ぼす生態的影響:スジエビ類に対するエビノコバンの奇生生態の地域差を比較するため、前年度に引き続き野外調査をおこなった。その結果、宿主への寄生は東京都(利根川水系水路)では2018年7月(体長2mm)から2019年5月(体長12mm)までみられた。これに対して滋賀県(琵琶湖周辺河川) では2018年8月から2019年6月までみられた。また、エビノコバンの体長が比較的小型の時期にはスジエビ類よりも体サイズの小さいカワリヌマエビ類にも寄生する事例がみられた。なお、エビノコバンの室内飼育実験を試みたが、長期的なエビノコバンのエビ類への寄生状態を維持できなかった。これについては、次年度以降、野外調査データを利用してエビノコバンの寄生の有無と宿主であるエビ類の成長や肥満度の関係を解析することで明らかにできると考えている。3)スジエビ類および寄生種の流通状況:大阪府の釣具店において、スジエビ類を調査したところ、令和元年度はすべてスジエビであり、チュウゴクスジエビは流通していなかった。また、琵琶湖産スジエビに付随するエビノコバンを確認した。
著者
白根 靖大
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、院政期の貴族藤原頼長の日記である『台記』を史料学的な視座から研究し、中世古記録研究の進展に寄与することを目指すものである。『台記』は頼長の自筆本が現存せず、史料としては写本に頼らざるを得ない。その写本は近世に作成されたものが大半で、字句や記述に異同があるにもかかわらず、写本そのものの史料学的研究はほとんどない。そこで、本研究では、現存する諸写本の継承性などを精査して類型化・系統化を行い、各写本の特徴や活用するうえで踏まえるべき史料的性格を解明する。
著者
郭 基煥 曹 慶鎬 兪 キョン蘭
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、被災地に暮らす外国出身者が震災後にどのような状況に置かれていたのかをトータルに把握することである。調査で明らかになった主な点は、次の通りである。①多くの外国出身者が被災直後においては支援されつつも、支援する側に回っていたこと、②震災という共通の経験を持つことで地域に対する一体感が強まった考えられる事例が多数みられること。③その一方で被災地では、外国人が犯罪をしているという流言が広範に広がっていたこと。④流言を聞いた人のうちの8割以上の人がそれを信じたこと、⑤流言を信じるか信じないかという態度の差は地域や性別、収入、職業などとほとんど無関係であることである。
著者
倉恒 弘彦 西牧 真里 志水 彰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不登校児を対象に馬介在療法を実施、(1)自覚症状、(2)心理学的評価、(3)自律神経系評価、(4)睡眠、覚醒リズムの評価などによって科学的に効果を検討した。また、精神作業疲労負荷健常者における乗馬の疲労回復効果を検証するとともに、有酸素運動や馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)による疲労回復効果についても比較検討した。不登校児を対象に1回/週x5週間で実施した12名の馬介在療法の結果では、気分の落ち込み、イライラ感、不安感、緊張に明らかな改善がみられた(p<0.001)。心理評価では、以前に比較して表情が明るくなる、家庭での会話が増える、日常生活における行動量が増加するなどメンタルヘルスの向上が認められた。また、自律神経系評価では乗馬後は交感神経系の緊張が緩和していることが確認された。一方、5日間連続の馬介在療法に参加した3名の不登校児においても、初日の結果では乗馬後自律神経系の緊張が緩和される傾向がみられた。残念ながら、5日間連続して参加が可能であったのは1名のみであったが、睡眠に関して中途覚醒数が減少し睡眠効率の改善が認められた。疲労付加健常者の検討では、有酸素運動(散歩)群でも疲労度、活力、緊張、意欲の改善効果がみられたが、乗馬群は疲労度、気分の落ち込み、イライラ感、活力、不安感、緊張、意欲、体調において有意に改善がみられ、乗馬は有酸素運動以上の改善効果がみられることが判明した。また、馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)の検討では、活力、不安感、緊張の自覚症状は乗馬群のみで改善がみられたが(p<0.01)、気分の落ち込み、イライラ感、意欲の程度、体調はジョーバでも改善がみとめられ(p<0.01)、自宅から出ることが難しい不登校児に対する1つの方法になりえる可能性が考えられた。
著者
須田 努
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

後期水戸学、会沢正志斎の思想との関連、横井小楠との相違から吉田松陰の独自の行動原理を解明した。解収集した史料分析を行い、吉田松陰が征韓論を形成するに至る経過を考察した。この成果は、成均館大学校におけるシンポジウムで報告を行い、「横井小楠と吉田松陰」(趙景達他編『東アジアの知識人』1、有志舎、2013年)としてまとめた。一九世紀、ペリー来航によって形成された危機意識は、富国強兵の論理へと行き着いたことの意味とその後の影響について考察した。征韓論に関わる対馬藩の動向に関しては、史料収集を行ったが、成果の公表には至っていない。今後はこの問題を解決したい。
著者
MA Bruce Yong 川嵜 敏祐 野中 元裕
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

樹状細胞C型レクチンDC-SIGNの新規リガンドに関する研究これまで我々は、DC-SIGNが結腸がん細胞株SW1116を認識すること、認識にはSW1116細胞上の糖タンパク質であるcarcinoembryonic antigen(CEA)が関与していることを既に明らかにしている(Nonaka M, et al., J.Immunol.2008, 180 : 3347-3356.)。しかしながら、結腸がん細胞上の他のDC-SIGNリガンドに関する検討は行われていない。1. 樹状細胞C型レクチンDC-SIGNの新規リガンドの同定本研究は、MoDC(Monocyte-derived dendritic cells)と結腸がん細胞株COLO205を共培養すると細胞同士の接着が起こること、この細胞間相互作用にはDC-SIGNが関与することを明らかにした。次に質量分析法により、DC-SIGNのリガンド糖タンパク質としてMac-2 binding protein(Mac-2BP)を新たに同定した。またMac-2BPには結腸がん関連ルイス式糖鎖抗原が発現していること、特にルイス糖鎖のa1-3,4-フコースがDC-SIGNとの結合に重要であることを、種々のグリコシダーゼを用いた実験により明らかにした。2. DC-SIGNの新規リガンドを介するがん細胞の免疫監視からの逃避に関わる糖鎖シグナルの解析本研究は、MoDCとCOLO205細胞の共培養条件において、MoDCの成熟マーカーであるCD83、CD86の発現が抑制されることを明らかにした。このことは、DC-SIGNを介した結腸がん細胞の認識が、がん細胞による免疫機構からの逃避を助けることを示唆するものである。本研究は、免疫系における糖鎖の重要性を示すだけでなく、がん細胞の免疫逃避メカニズムの新たなモデルを提唱するものであり、DC-SIGNを介する細胞内シグナル経路を標的とした新しい薬の開発に繋がると考えている。
著者
和泉 司
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

主として1926年に始まった文学懸賞である『サンデー毎日』大衆文芸の調査のため、『サンデー毎日』及び競合誌であった『週刊朝日』や同時代の文芸誌、特に大衆文芸誌、文芸同人誌の資料収集を行った。『サンデー毎日』については、国立国会図書館、東京・日本近代文学館に加え、大阪市立大学図書館所蔵のバックナンバーを利用させていただいた。また、1940年に『サンデー毎日』大衆文芸の当選を足がかりに文壇に登場した作家である長崎謙二郎と田村さえに関する調査も進めた。両者は同期当選をきっかけに知り合い、後に夫婦となっているが、両者の家族と連絡を取ることができ、私蔵されていた多くの関連資料を分けていただいた。その多くは現在散逸しているか、あるいは作家間の私信であり、当選作家のその後の文学活動を理解する上で大変貴重な資料である。加えて、1940年代に少女小説家・戯曲作家として活発に活動した作家・田郷虎雄の日記翻刻も着手した。この日記も、田郷の家族から預かったものであり、1940年から45年までの、文学懸賞当選作家の戦時下での文学活動が詳細に描き込まれており、その公開は今後の日本文学・文化研究に大きく資するものになると考えている。他に、『文藝首都』研究会に参加することで、同人誌である『文藝首都』の誕生経緯と、同誌が多くの新進作家を輩出し、その作家達が次々に文学賞を受賞していく過程において、同人誌運営と文学活動・文学賞の関わりを明確にまとめ始めている。
著者
川島 高峰 三浦 小太郎 宋 允復 荒木 和博 加藤 博 海老原 智治
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

北朝鮮帰還事業の前史は朝鮮戦争前後に遡ることが確認できた。当初、北朝鮮残留邦人の帰還交渉として開始した日本側の申出を北朝鮮側が在日朝鮮人の帰国運動へ転換していく過程であった。それは当時国交のなかった東アジア社会主義圏との間での邦人帰還交渉の一連に位置づけられ、邦人拉致工作の前史としてみた場合、その原型はシベリア抑留をめぐる日ソ間交渉にあり、これが日中、日朝で類似した戦略構造で繰り返されたものであった。
著者
染谷 香理 鈴木 愛乃
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、これまで主観が反映されやすく曖昧であるが故に研究されてこなかった日本画の技法書に着目し、データベースを作成して一度に多量の情報を比較できるようにすることで、画家の経験や感性に基づく技法を正しく理解し継承することを目的としたものである。データベースには江戸中期から明治期に刊行された日本画の技法書を十数篇ほど登録し、技法別の検索とフリーワードによる検索を可能にした。また併せて江戸中期から後期の日本画技法書の翻刻集の編纂も行った。
著者
後藤 奈美 Sawler Jason Myles Sean
出版者
独立行政法人酒類総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の在来ブドウ品種‘甲州’は、東洋系Vitis viniferaとされていたが、異なる意見もあった。そこで‘甲州’の分類的位置づけを明らかにすることを目的に、DNA多型解析を行った。核DNAの一塩基多形(SNPs)解析の結果、‘甲州’の祖先はV. viniferaが70%強、東洋系野生種が30%弱であることが示唆された。また、母方から遺伝する葉緑体DNAの部分シーケンスは野生型で、中国の野生ブドウV. davidiiに最も近かった。以上の結果から、‘甲州’はV. viniferaの割合が高いが、母方の祖先にV. davidiiまたは近縁の野生種を持つ交雑品種であることが明らかになった。
著者
岩崎 務
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

古代ローマの詩人たちから、紀元前1世紀に活躍したカトゥッルス、ウェルギリウス、ホラティウスを取り上げ、その詩作品を「家郷喪失者」の観点から比較研究を行ない、以下のような考察を得た。カトゥッルスの恋愛詩、とくにレスビアとの恋を歌うものは、恋人との関係を、信義や義務に基づいた人間同士の正しい関係を表わす一連の言葉を用いて表現している点で独特であるが、そのような関係が実現する場所として「家」が強調されている。ウェルギリウスでは、最初の詩集『牧歌』において描かれる故郷の土地を追われる牧夫の慨嘆と悲しみに、家郷喪失の危機に面した詩人の経験が重ねられるし、その原因となった内乱は道徳的な退廃をもたらしていると見られている。『農耕詩』では、家郷がそのような混乱した世界が再生するための拠り所とされ、詩人は農耕民族であるローマ人の持つ本来の道徳的理想を示そうとしている。ホラティウスでは、初期の詩において、内乱によって自ら崩壊しようとするローマを去って、新しい故国となるべき理想郷を求めようと詩人が呼びかけるとき、詩人の被った家郷の土地没収と、共和派としての敗北が色濃く反映している。これらの詩人に共通して見られる倫理性は、彼らの出自、すなわち家郷と関連していると考えられる。カトゥッルスとウェルギリウスは、北イタリアのトランスパダナの、ホラティウスは南イタリアの地方都市出身であり、ワイズマンも指摘しているように、これらの田園都市では、ローマ人の古風な道徳観が中央以上に根強く存続しており、入植者の末裔である住民たちは新しい家郷の建設の中で伝統的な道徳を保持し、そのことに誇りを抱いてきた。このことが、あるいは恋愛に対しての、あるいは内戦に揺れる国の状況に対しての、あるいは自己の詩作活動に対しての、彼らの視点に大きく影響している。
著者
萩原 かおり 羽石 英里 河原 英紀 岸本 宏子 下倉 結衣 本多 清志
出版者
昭和音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ミュージカル俳優は声を酷使することが多いが、未だ彼らの喉の健康を守る効果的な発声・訓練法が確立されているとは言い難い。本研究では、歌手の多くが体感している「喉・胸が開く」という感覚を手掛りに手技を用いての発声実験、アンケート、聴覚印象評価、MRI動画の撮像を行うことで、健康的な発声法を構築するための方法を探った。その結果、体感・評価スコア・音圧レベルの好変化、声帯位置の下制が観察される等「喉・胸が開く」という感覚に対する科学的根拠を得ることができたと考えられる。またそのMRI動画を用いての視覚による発声への影響についても良い結果が得られ、健康的な発声法訓練のための道筋を見つけることができた。
著者
数馬 広二
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、「江戸時代関東農村における剣術流派の存在形態に関する基礎的な研究」である。17世紀初頭に関東(上野国(こうづけ)・下総国(しもうさ)・上総国(かずさ)・安房国(あわ)・常陸国(ひたち)・相模国(さがみ)・下野国(しもつけ)・武蔵国(むさし))に存在した剣術流派は、江戸時代、帰農した中世武士によって農村で武芸が伝承された、と考えられている。この仮説において、(1)馬庭念流(まにわねんりゅう)(群馬県)(2)新当流(しんとうりゅう)(茨城県)(3)新影流(しんかげりゅう)(群馬県)(4)外他流(とだりゅう)(千葉県)をとりあげ、分布と内容を明らかにすることを目的とし、以下の点が判明した。1.上野国で馬庭念流を中興した友松氏宗(ともまつうじむね) (偽庵(ぎあん))は彦根藩で「未来記念流」を指導した。友松の弟子、永居新五左衞門が、柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)と未来記念流(みらいきねんりゅう)の2流を併せた「江武知明流正法兵法」を創始しているので、友松が念流(ねんりゅう)を彦根藩と上州農村へそれぞれ伝えた。技法においても「犬之巻」「象之巻」「虎之巻」などの内容が両者で共通する。2.下総国、常陸国に興った新当流、神道流は16世紀に関東の上野国農村にも普及していた。今回調査した新当流文書は岐阜県大垣市立図書館・桜井家文書、山口県防府市毛利博物館蔵文書であった。3.常陸国の新当流の真壁氏幹(まかべうじも)と(暗夜軒(あんやけん)・1550-1622)は真壁(まかべ)城の城主であったとともに鹿島神宮(かしまじんぐう)の「鹿島大使」役を務めた。このことから関東農村のみならず関西方面へも鹿島信仰を弘めることも視野に入れ、新当流を普及したことが考えられる。4.上総国安房国に普及した外他流は、伊藤一刀斎が(いとういっとうさい)、1580年(天正8)頃、外他(とだ)一刀斎景久(かげひさ)と名乗り、南総里見家家臣の宇部壱岐守弘政(うべいきかみひろまさ)、石田新兵衛(いしだしんべえ)、御子神助四郎(みこがみすけしろう)、古藤田勘解由(ことうだかげゆ)などへ指南した。その内容を文書にみると、「五点」「殺人刀(せつにんとう)、活人剣(かつにんけん)」「卍(まんじ)」など、一刀流との共通術語が確認される。また、神前儀式や神饌などが記されていた点できわめて中世的な兵法を表していた。また武器絵図には、里見家の水軍が水上戦で用いた武器(熊手、長刀、突く棒、さす又など)も描かれている。5.近江国堅田(おうみかただ)(滋賀県大津市堅田)は、外他流を創始した伊藤一刀齋の出身地という説がある。その堅田で居初(いそめ)家は1100年続く琵琶湖船頭頭の家。ここで外他流の祖流、冨田流文書(寛永年間)が所蔵されており、堅田水軍と伊藤一刀斎そして関東の里見(さとみ)水軍への伝播へ結びつく可能性もでてきた。6.幕末期上総国・下総国・安房国など現在の千葉県農村で普及した不二心流(ふじしんりゅう)開祖・中村一心斎(なかむらいっしんさい)(中村八平)の江戸における動向を伺うことができた。すなわち、関東における農村と江戸の剣術流派をつなげたのは江戸で活動していた剣術家たちであった。7.江戸幕末期、関東農村にもひろがった、「しない打ち込み試合稽古法」導入の理由の一つとして、外国船の着船によることが、弘前(ひろさき)藩文書(文久2年「御自筆の写」)に読み取ることができた。
著者
相原 剣
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

全体的に申請時より深化した研究課題を文献学的な精緻さをもって遂行していく為、広範な調査と整理・分析を進めていった。特に、ヴァイマル期及びナチ時代の同性愛シーン・関連状況について、ベルリンのノレンドルフ地区、パンコウ地区など解放運動の拠点の実態分析、当時の旅行ガイドの精査を、広範な資料を基に進めていった。焦点化した作詞家ブルーノ・バルツについては、ベルリンのブルーノ・バルツ・アーカイブとの連携を保ち乍ら、その作品・思想・人脈等に関して更なる掘り下げを行った。マグヌス・ヒルシュフェルトやフリードリッヒ・ラッヅワイト、アドルフ・ブラント等の個人史にとどまらず、都市文化としてベルリンの同性愛解放運動全体を俯瞰的に捉え直すべく研究を遂行した。ラッズワイトによって1924年に発行された世界初のレズビアン雑誌Die Freundinに関して、ベルリンのゲイ博物館の研究員との意見交換を行い乍ら、ヴァルドフ等の女性同性愛シュラーガー分析を行った。同性愛文化研究叢書であるBibliothek rosa Winkelの成果を土台としながら、マイノリティの領域からメジャーな領域へと移行する文化動態のなかに現れるホモフォビア(同性愛嫌悪)の表象に焦点をあてた文献調査も広範に行い、当時の同性愛に関する禁忌の実態とポップ・カルチャーへの表出をデータ化し整理していく作業を進めた。また、収容所で作成された歌集に着目し、そこでの改作・替え歌を分析し、強制収容所に於ける娯楽音楽の有り様を明らかにする作業を行った。収容所環境下でのポップ・カルチャーの実態を解き明かす作業に関しては、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)との相互的な協力関係を基に調査・研究を進めた。
著者
天野 晶夫 永井 良三 長谷川 昭
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 糖尿病における運動時赤血球酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性に注目し、糖尿病において運動耐容能と糖化ヘモグロビンが逆相関することを見出した。さらに、糖尿病ではP50(ヘモグロビンが50%酸素と飽和したときの酸素分圧で、酸素解離シフトを反映)の変化量は少なかった。即ち、運動時酸素解離曲線の右方へのシフトが抑制され、運動耐容能低下をもたらすことが明らかになった。2. 糖尿病における運動時乳酸アシドーシスに対する赤血球酸素運搬能の適応不全嫌気性代謝閾値(AT)以上の運動で発生する乳酸アシドーシスは活動骨格筋でのhypoxiaを代償するためにヘモグロビン酸素解離を促進させるという適応現象を惹起するが、酸素高親和性の糖化ヘモグロビンが高値である糖尿病においてこの現象が生じるか検討した。糖尿病では一定の運動量に対する乳酸値の上昇が大であるにもかかわらず、P50の変化は少なかった。即ち、乳酸アシドーシスによる酸素解離の促進という適応は起こらなかった。この適応不全が運動耐容能の低下の一因と推測された。3. 糖尿病における運動時骨格筋の酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性により、運動時の活動骨格筋でも酸素運搬障害が生じるかを明らかにするために、酸素化、脱酸素化ヘモグロビン、組織酸素飽和度の絶対値表示が可能となった新しい近赤外線モニターを用いて検討した。糖尿病では運動時の組織酸素飽和度(SdO2)の低下が軽度で、酸素利用率((SpO2-SdO2)/SpO2)SpO2:パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度)の増加も少なかった。即ち、糖尿病ではヘモグロビン酸素高親和性により運動時骨格筋でも酸素利用能の低下が起こり、運動耐容能低下につながることが明らかになった。
著者
松浪 勝義 大塚 英昭 杉本 幸子 山野 喜
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マダガスカルはゴンドワナ大陸の遺産などと言われ動植物固有種の宝庫である。これまでにビンカアルカロイドなどの臨床抗がん剤がマダガスカル原産の植物から単離され実用化されてきた。しかし、いまだ化学的解析が十分でない植物が多数あり、また、産業やインフラなどの近代化などにより貴重な植物資源が失われつつある。本研究課題では現地のマダガスカル人研究者との共同研究により多数の植物抽出物を入手し、抗がん剤や、原虫、ウイルス感染症に関する治療薬候補の探索を目的に化学的解析を行った。その結果、活性を見出した植物から、活性本体の精製および化学構造の解明に成功し、医薬品シード化合物として有用な知見を得た。
著者
黒田 誠 大場 邦弘 濱田 洋通 関塚 剛史
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

川崎病患者28人について、入院時・半年後(充分な回復期)の2ポイントで便を採取し、次世代シークエンサーによるメタゲノム解析の結果、入院急性期ではStreptococcus 属に顕著な検出率を認め、回復後の遠隔期では Ruminococcus属の増加が顕著であった。 (Front Microbiol. 2015 Aug 11;6:824.) 川崎病を4回再燃発症した患児の便からも同様に Streptococcus spp. が有意に検出され、上記成果と関連した結果が示唆された。(JMM Case Rep. 2016 Feb 1;3(1):e005019.)