著者
川田 邦夫 小林 武彦 船木 實 酒井 英男 広岡 公夫
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

南極氷床などに見られる火山灰を含む汚れ層は、しっかりした自然残留磁化をもっていることが知られており、その磁化の獲得機構を明らかにしようとするのが、この研究である。このため一方で、雪粒子に磁性をもつ岩石粉末を混ぜ、低温室に保持しながら地球磁場による磁化獲得の過程を時間毎に磁化測定と顕微鏡観察を行って調ベ、他方、北アルプス立山にある比較的古い氷体を残す雪渓の雪氷試料について自然磁化獲得の実際を調ベた。実験室の研究では自然雪や人工的にふるい分けした雪などに各種磁性物質の粉末を混入したものを初期試料とし、約-20℃、-10℃、-2℃等の条件下で保持したものを調ベたが、磁性粒子を含む雪氷の磁場方向への磁化獲得の機構は雪氷の変態に伴って磁性粒子がある時期に向きの自由度を持ち、その過程で磁場方向に向いた状態で定着するものという結果を得た。乾雪の場合、雪粒子の結合が丈夫になっていく過程では焼結によって変態が進行するが、最初無方位に弱く付着していた磁性粒子は水分子の表面拡散や昇華による結合部への移動に伴い、雪粒から離れて向きを変える機会を得、外部磁場による力を受けた状態で再付着したり、結合部のくびれた部分などに集まり気味に固定される。このことは少し厚めに製作したアニリン固定法による雪氷試料の薄片観察により確認できた。湿雪の場合、ざらめゆきへの変態となるが、雪粒子表面にある水膜によって磁性粒子は容易に自由度を得る。そして凍結・融解のくり返される中で雪粒同士の結合部のくびれや凹部に強く集合した状態で磁場方向に配向気味に固定されることがわかった。野外の雪渓で採取された試料は中緯度にある氷河や雪渓で見られる湿雪の変態によって氷化に至ったものと考えられる。現段階で詳細な結論までには至っていないが、汚れ層の部位に磁化の集中化が現われていて、氷体の流動に関わる知見を得る可能性をもつ。
著者
和田 直也
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.前年度得られた成果を、本年度ソウルで開催された国際生態学会で口頭発表した。2.本年度は、周北極植物チョウノスケソウの開花結実繁殖様式を調べる予定であったが、調査地における開花個体数が例年に比較して非常に少なかったため、当初の調査予定を変更し、チョウノスケソウを除くバラ科高山植物の花粉発芽の温度依存性を明らかにすることを第一の目的とした。次に、少数ながら採取できたチョウノスケソウの種子を用い、同科雪田植物のチングルマの種子と比較することで、両種の発芽特性と温度依存性を明らかにすることを第二の目的とした。富山県立山山地で採取したサンプルを実験室内の恒温器で培養・栽培し、以下に示す結果を得た。3-1.周北極植物ではないが、チョウノスケソウと同所的に生育しているバラ科の風衝地高山植物、ミヤマダイコンソウおよびミヤマキンバイと同科雪田植物であるチングルマについて、花粉発芽の温度依存性を調査した。その結果、花粉の発芽率および花粉管の伸長量ともに、風衝地植物であるミヤマダイコンソウは最適温度がともに低く10℃〜15℃であった。それに対し、同科雪田植物であるチングルマは、前年の結果と同様に最適温度が20℃であることが確かめられた。風衝地にも雪田地にも生育しているミヤマキンバイでは、前記両種の中間的なパフォーマンスを示した。これらのことから、風衝地に生育している植物は周北極植物に限らず、花粉の発芽と花粉管伸長の最適温度が雪田植物よりも低く、開花時の低温環境に適応している可能性が示唆された。3-2.周北極植物・風衝地植物であるチョウノスケソウは、低温湿潤処理を行わなくとも種子が発芽することが分かった。チングルマは低温湿潤処理を行わなければほとんど発芽しなかった。また種子の最適発芽温度はチョウノスケソウの方が5℃低かった。30℃以上の高温環境では、チングルマの種子の方が耐性が高かった。以上のことより、花粉および種子の発芽ともに、風衝地植物はより低温環境に雪田植物はより高温環境に適応していることが示唆された。従って、温暖化がそれぞれの種の繁殖成功に及ぼす影響も異なることが予想された。
著者
盛永 審一郎 加藤 尚武 秋葉 悦子 磯部 哲 今井 道夫 香川 知晶 忽那 敬三 蔵田 伸雄 小出 泰士 児玉 聡 小林 真紀 坂井 昭宏 品川 哲彦 松田 純 山内 廣隆 山本 達 飯田 亘之 水野 俊誠
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1)20世紀に外延的に同値された神学的-哲学的概念としての「尊厳」と政治的概念としての「権利」は内包的に同一ではないということ。また、「価値」は比較考量可能であるのに対し、「尊厳」は比較考量不可であるということ。2)倫理的に中立であるとされたiPS細胞研究も結局は共犯可能性を逃れ得ないこと、学際的学問としてのバイオエシックスは、生命技術を押し進める装置でしかなかったということ。3)20世紀末に登場した「身体の倫理」と「生-資本主義」の精神の間には何らかの選択的親和関係があるということ。
著者
金兼 弘和
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国上海市の復旦大学小児科学のDr. Xiaochuan Wangと韓国太田市の忠南大学微生物学のDr. Eun-Kyeong Joを研究協力者として、本研究を行った。以前に復旦大学においてフローサイトメトリーならびに遺伝子解析によるX連鎖無γグロブリン血症(XLA)の診断の技術指導を行い、すでにXLAの遺伝子解析については報告済みであるが、その後診断された症例数も増えている。またJeffery Modell Foundationからの基金も得て、中国における先天性免疫不全症(PID)のレファランスラボとして整備されつつある。また以前に私たちが同定したXLAの責任遺伝子BTKの非翻訳領域であるイントロン1の点変異例(IVS1-5G→T)の解析を忠南大学で以前に同定された同様の症例と比較検討して、レポーターアッセイを行い、活性が低下していることを報告した(Pediatr Int, in press)。PIDは疾患によっては多様な臨床表現型を有したり、非典型的表現型を有したりするものが少なからず存在することもあれば、複数の原因遺伝子により同様な臨床表現型をとることもあり、遺伝子診断による確定診断の重要性が増している。しかしPIDの原因遺伝子は100以上が知られ、網羅的遺伝子解析が必要と思われるが、大変な労力を要する。そこで理化学研究所免疫アレルギーセンター(RCAT)とかずさDNA研究所の協力で、PIDの既知遺伝子を網羅的に遺伝子解析するシステムを立ち上げた。これまでのわが国のPIDのデータベースは紙媒体によるものであったが、RCAI内にWeb入力にヨルデータベース(PIDJ)を立ち上げた。さらにPIDの責任遺伝子と他の分子との相互作用ならびにPIDの候補遺伝子検索に有用なデータベース(RAPID)についても立ち上げた。今後はこれらのデータベースをアジア全体の患者を対象となるものに広げ、欧米のデータベースとリンクさせ、アジアはもちろんのこと世界に発信できるものとしたい。
著者
赤尾 光昭 今中 常雄
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

申請者らは漢方方剤が経口服用されることに着目し、著明な配糖体成分の経口投与後のラット体内動態、薬効発現について検討を行ってきた。ポリフェノール配糖体であるバイカリンはユニークな動態を示し、特に腸管での代謝、排出がその動態に大きく関わっていた。現在、強力な抗酸化作用で注目されているポリフェノール類のバイオアベイラビリティーは極端に低く、in vivoでの効果には疑義がある。そこで、ポリフェノール類の動態に及ぼす消化管の寄与について検討することを目的としている。代表的ポリフェノールであるエピカテキン及びケルセチン、さらにlithospermate Bについて検討し、いずれも腸管から吸収されにくいことを明らかにした。特に、lithospermate Bはわずかに吸収されたものも速やかに肝臓でメチル化され胆汁中に排出されるため、血中にはほとんど検出されなかった。バイカリンのユニークな動態の腸管代謝として、配糖体であるバイカリンは腸管上皮細胞への取り込みも僅かであるが、アグリコンであるバイカレインは腸管上皮細胞には取り込まれる。しかし、取り込まれたバイカレインは速やかにバイカリンへと抱合され、血液側ではなく管空側へ排出されるため、やはり難吸収性であった。この腸管上皮細胞からのバイカリン排出は、自然発症MRP2欠損ラットEisai hyperbilirubinemic ratの空腸反転腸管において有意に低く、さらにバイカレイン経口投与後の本ラット血中バイカリンのAUC値が通常ラットより5倍高く、バイカリン排出にMRP2が関与することが示唆された。また、ヒト腸管薬物動態in vitroモデル系であるヒト結腸癌由来Caco-2細胞においても、バイカリンの取り込みはわずかであるが、バイカレインは速やかに取り込まれた。この際も、取り込まれたバイカレインは速やかにバイカリンへと抱合され、バイカリンは主に頂側膜側に排出された。その排出はMRP2選択的阻害剤で抑制され、Caco-2細胞においてもバイカリン排出にMRP2が関わっていることが明らかとなり、ヒト腸管においてもラット同様のユニークなバイカリン動態が推測された。ヒトにおいてもラット同様、ポリフェノール類の腸管における吸収、代謝、排出がバイオアベイラビリティーに大きく関わっていることが示唆された。
著者
橋本 征也 田口 雅登 能澤 孝 藤木 明 萱野 勇一郎
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

医薬品を適正に使用するためには、薬物動態特性と個体間変動機構を明らかにし、患者個々に投与設計を行う事が必要である。しかし、一人の患者から速度論的解析に耐えるほど数多くの血中薬物濃度データを得ることは多くの場合困難であることに加え、市販後に一施設で行う臨床薬物動態試験では、対象患者が多くても数十人に限られるため、従来の薬物速度論的解析法は適用が困難である。本研究では、症例数および採血点数が少ない探索的な臨床試験データの解析法として、最近申請者らが考案した三段階の解析法が有用であることを検証するとともに、臨床試験のデザインとデータ解析の発展を目指した。
著者
松田 恒平 高橋 明義 安東 宏徳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

哺乳類における最近の知見によれば、摂食行動は、脳の視床下部で発現する多数の脳ペプチドによって促進的あるいは抑制的に制御されていることが判明してきた。しかしながら、摂食行動の複雑な調節を司る神経機構の進化の過程における変遷については、殆ど判っていない。本研究は、キンギョにおける摂食行動の制御機構を明らかにすること、および得られた知見と他の動物における制御機構とを比較検討して、摂食行動の脳制御機構の進化の変遷を考察することを目的とした。キンギョの摂食行動が生殖や情動に関わる脳ペプチドの影響も強く受けながら制御されることを見出した。哺乳類や鳥類の機構と大きく異なる機構の存在も見出され、摂食調節の脳制御機構が進化的に変遷してきた可能性が示唆された。
著者
小堀 孝之 野瀬 正照 三船 温尚 武笠 朗 清水 克朗 横田 勝 戸津 圭之介
出版者
富山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

江戸末期の武生大仏は胎内に入って調査でき分鋳技法が多用されたことが解明できた。その他の江戸大仏は胎内に入れないことから、外部調査だけでは組み立て法が分鋳か鋳接か断定できず報告書作成が滞った。そのため、平成19年度は内部観察用ファイバースコープを隙間から挿入し、九品寺大仏、瀧泉寺大日如来像の胎内調査を行った。前者は分鋳と鋳接、後者は鋳接で組み上げたことが判明した。また、吉祥寺大仏は垂下した裳先の裏面観察によりその鋳接の具体が解明できた。次に、江戸中期の大型大仏の法華経寺大仏胎内へ入って調査を行った。偶然にも雨天直後に胎内に入り、接合部分から胎内への雨水の染み込みが見られるものの、冬期であっても陽光を受け短時間で乾燥することが分かった。また、蓮台との隙間から風が内部に入り乾燥を速めていた。目視観察ではあるが、青銅内部にまで及ぶ深刻な腐食の進行は無いと判断できた。今年度、背中の扉から胎内へ入れたもの2体、扉から頭を入れられたもの2体(観音寺大仏、芳全寺大仏)、ファイバー観察したもの2体、隙間から覗いたもの2体(駒形大仏、御代の大仏)で、これらによって分鋳、鋳接の外面痕跡が明らかになった。これらの内部観察と結果の援用によって、組み立て法がおおむね確定できるものに、分鋳と鋳接が1体(九品寺大仏)、分鋳が1体(観音寺大仏)、主に分鋳でパーツを作り鋳接で組み上げたものが1体(武生大仏)、鋳接が14体(瀧泉寺大日如来、天王寺大仏、宝龍寺大仏、西迎寺阿弥陀如来、駒形大仏、品川寺地蔵菩薩座像、円福寺大仏、法華経寺大仏、吉祥寺大仏、宇都宮大仏、芳全寺阿弥陀如来、光明寺不動明王、御代の大仏、鎌ヶ谷大仏)であった。胎内調査では内部に及ぶ腐食が認められるものはなかった。首の固定に不安なものがあり、調査によって複数通りの固定方法が解明しており、それを基に今後の修理を的確に行うことができると考えている。
著者
兼村 晋哉
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

標準模型を超えたテラスケール新物理学模型と拡張ヒッグス模型の様々な様相に関する理論的研究と、LHC実験や線形加速器実験での現象論を研究した
著者
住吉 太幹 松井 三枝 川崎 康弘 田仲 耕大 倉知 正佳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

非定型抗精神病薬(AAPD)の統合失調症患者における認知機能各領域に対する効果の検討を行った。結果として、olanzapine(OLZ)あるいはperospirone単剤投与による治療を行った患者群では、注意機能やQOLを表す諸指標が改善した。5-HT_<1A>受容体への作用を示すziprasidone(AAPD)ならびにOLZの統合失調症患者における記憶の体制化に対する効果を検討した。方法として、語流暢性課題のひとつであるカテゴリー流暢性課題より得られる動物名から、多次元尺度法(Multidimensional Scaling, MDS)法により、長期意味記憶の体制化の度合いをcognitive mapへ変換することにより可視化し、各薬物による治療への切替えによる変化を検討した。結果として、各薬物による治療前には、MDS法による動物名の産出される順番に意味的なまとまりは認められなかった。一方、治療6週間後には、「野生性vs.家畜性」という意味的なまとまりが出現し、対象とした患者のQOLが有意に改善されることが見出された。OLZによる治療を受けた統合失調症患者における事象関連電位P300成分の変化を、Low Resolution Electromagnetic Tomography(LORETA)法を用いて解析した。その結果、健常者に認めるような側頭葉におけるP300発生源電流密度の左>右の側性が、OLZ投与前には認められなかったのが、治療後には明らかとなった。また、これらの患者において、言語学習記憶、QOLおよび精神病症状が治療後に改善した。以上の結果は、AAPDによる記憶機能の改善に、電気生理学的神経活動の脳画像的な変化が関与していることを初めて示すものである。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

現代社会におけるストレスや疲労の蓄積の実態を把握し、それらを解消する重要な手がかりや指標ともなる睡眠や生活行動について研究を進め、健康な暮らしの実現をはかる一助としたいと考えた。そこで研究計画に従い、1993年は現代人の睡眠と生活に関する実態調査、1994年は一夜断眠により生活リズムを乱した時の心身への影響を分析する実験を行った。そして1995年は効果的な睡眠を得るための睡眠環境と生活行動を検討したいと考え、応用実験と学生7名の睡眠日誌の分析を行った。研究の成果の概要はつぎのとおりである。1.睡眠調査の結果(1)1982年と1993年の調査の比較から、現代人は睡眠時間が短縮し、夜更かしの朝寝坊タイプが増加していた。(2)女性の社会進出により生活リズムの性差は少ないが、女性の方がやや睡眠時間は短く不満を感じていた。(3)精神的疲労が睡眠の質を低下させていた。(4)高齢者介護の担当者の疲労や睡眠に関する不満は大きく、特に介護者の高齢化とともに夜間の介護負担と自分の中途覚醒が夜間睡眠を妨げていた。2.断眠実験の結果(1)一夜断眠後の睡眠は質も量も最も良くなる傾向が認められたが、被験者9名中2名は寝つきが悪くなり睡眠も浅くなった。(2)断眠の疲労は断眠直後に現れるタイプが5名、一夜睡眠後に現れるタイプが4名であった。(3)断眠の疲労は3夜後に回復した被験者が5名、3夜後も疲労が残っていた者が4名であった。3.睡眠環境と生活行動(1)睡眠評価が最も良くなった環境温度は20〜24℃で、30℃以上になると著しく低下した。(2)騒音や香りが睡眠や覚醒レベルに与える影響は個人差や慣れの違いが大きかった。(3)入浴は入眠前1〜3時間前が寝つきに効果的であった。(4)学生の場合、日中の活動量が少ない方が睡眠評価は良かった。(5)コーヒーは確実に覚醒レベルを高め、アルコールは覚醒レベルを低下させた。(6)精神的疲労、特に心配事が睡眠評価を低下させた。
著者
広岡 公夫 時枝 克安 前川 要 宇野 隆夫 酒井 英男
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

考古地磁気学的研究は、主に遺跡に残されている焼土を伴う遺構から試料を得て、その熱残留磁化を測定して行われてきた。その結果、過去2,000年間の地球磁場の変動(考古地磁気永年変化)が相当な精度で明らかにされている。しかし、データが蓄積されてくるにしたがって、日本列島内でも、同一時代で地域的に地球磁場方位に無視できない差異が存在することが明らかになってきた。考古地磁気年代推定は、永年変化曲線を用いて行われるので、地域差が直接推定年代値に影響を与えることになる。これを避けるためには、地域差を補正した地域毎の永年変化曲線を作る必要がある。本計研究計画の年度中に、出来るだけ多くの地域でその地域の永年変化曲線をつくることを目指したが、最近データの増加が著しい北陸地方の中世(西暦500〜1550年)と、従来から古窯の考古地磁気データが多く、詳しい土器編年も行なわれている東海地方の中、近世(西暦900〜1700年)の補正永年変化曲線を得た。今まで測定例が殆どなかった、北海道の10・11世紀のデータや、青森県からも2例のみではあるが、須恵器窯のデータが得られたし、何よりも、相当数のデータが、韓国から得られたことは、東アジアの考古地磁気研究および、地磁気の地域差を考える上で大きな成果であった。また、考古地磁気年代推定法のよく焼けた焼土遺構であれば遺構の種類を問わないという特徴を有しており、その特徴を生かして、最近、鉄生産に深い関連を持つ炭焼窯が北陸地方で数多く発見され、調査されているが、それに考古地磁気測定を適用したところ、従来から予想されていた奈良・平安初期のもの、近世、近代のもの以外に、12〜13世紀の中世にも相当数の炭焼窯が存在することが明らかとなった。
著者
成行 泰裕 梅田 隆行 齊藤 慎司 鈴木 建 羽田 亨 成田 康人
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、太陽風中の非平衡な速度分布が磁気流体波によって生成される過程について、数値計算・理論解析を用いた議論を行った。その結果、(1)磁気流体波が存在する場合に現れる「見かけの」非平衡速度分布が磁気流体系の平衡状態に対応していること、(2)太陽コロナから伝搬する磁気流体波が伝搬過程で生じる急峻化の過程で非平衡な速度分布が生成されること、(3)非平衡な速度分布によって励起される短波長の波動によって低周波の磁気流体波の減衰が促進されること、などが明らかになった
著者
永井 節夫 高木 亮一 高木 亮一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

複素空間型内の実超曲面のリッチテンソル, 構造ヤコビ作用素, 構造テンソル場が等質実超曲面, 特に(A)型の等質実超曲面をどのように特徴付けるかという点に関して研究し一定の成果を得た. 具体的には, 構造ヤコビ作用素と構造テンソル場が可換であるものは(A)型の等質実超曲面とある種のホップ実超曲面を特徴づけることを複素空間型の次元が2, 3の場合も含めて証明した. また挟撃問題に関しても, (B)型の等質実超曲面を個別に特徴づける定理に対する新しい知見が得られ, 極小ではない場合も含めて研究に進展があったと考えている. (A)型の等質実超曲面のスカラー曲率に対する挟撃問題については, 極小の場合にLowsonが第2基本形式の長さの平方がc/2(n-1)以下ならば(A)型の等質実超曲面であることを証明した. 極小の場合等質実超曲面に対しては, (A)型の実超曲面と(B)型の実超曲面とは第2基本形式の長さの平方は異なる値を取り, (B)型から(E)型までは全て同じ値を取る. したがって第2基本形式の長さのみでは(B)から(E)型までを区別することは出来ない. ところが, 構造ベクトル場方向の主曲率に着目すると, それらは(B), (C), (D), (E)型で全て異なる値を取ることが分かる. そこで, 我々は複素空間型内の実超曲面におけるSimon stypeの公式を用いて, 第2基本形式の長さの平方がc/2(3n-1)以下で構造ベクトル場方向の主曲率の平方が(n-1)c以上である極小実超曲面は(B)型であることを証明した. 実超曲面が必ずしも極小でない場合に関しては, コンパクトで向き付け可能な時に奥村正文氏による挟撃定理がある. 奥村氏は矢野の積分公式を用いてこれを証明した. 我々は, 実超曲面におけるSimons typeの公式と, 発散定理を用いることによってその別証明を見出し, さらにその手法を用いて(B)型の実超曲面の特徴付けを与える奇, Kim, 中川氏の定理の別証明を見出すと共に, その挟撃数の意味を見出した.
著者
鼓 みどり
出版者
富山大学
雑誌
富山大学教育学部紀要 (ISSN:1344641X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.241-251, 2004-02-27

Who has the privilege to gaze? Who are subject for gaze? These questions are repeated not only in art history but also in visual culture studies. The visual power is strong in photographs and moving images where female bodies are exposure to Camera and male gaze. This paper analyzes a few video clips of Madonna to observe who rule its visual power first. Then it looks into a setting of peep show in Madonna's clip "Open Your Heart" in 1986 and Peter Weir film "Truman Show" in 1998 to reveal how Peeped gained power to watch. Finally it presents webcams, a broadcasting one's private life via internet. It looks similar to peep show or Truman Show, however this is a new type of expression since gazed cam girls / boys produce and distribute their image from their web site. We shall put these questions on gaze to webcams to see the possibility for new communication.
著者
横畑 泰志 金子 正美 横田 昌嗣 星野 仏方
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

航空写真(1978年)および高解像度人工衛星イコノス(2000年)、Quickbird(2004、2006年)およびALOS(2007年)の衛星画像を分析した。1978、2000、2006年の画像を用いて3次元立体化画像の観察と裸地面積の推定を行い、裸地の増加や崖崩れの発生などの状況を具体的に把握した。ALOS画像による植生指数値(NDVI)の分布の分析により、裸地化に至っていない森林にもヤギの影響が及んでいることが示され、場所ごとの違いが把握された。これらの結果とヤギによる変化のなかった時期に作成されていた植生図(新納・新城、1980)との比較照合によって、ヤギの影響を特に強く受けている植生区分が特定された。以上の研究成果は第55、56回日本生態学会、第31回日本土壌動物学会、第14回日本野生生物保護学会で発表され、論文などで公表されたほか、今後さらに学術論文として順次公表してゆく予定である。本研究の成果は、新聞、テレビなどのマスメディアでも繰り返し取り上げられ、関心を呼んだ。本研究の成果発表にともない、2008年3月に石垣市議会が政府に野生化ヤギの対策を要請している。
著者
白木 公康
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

単純ヘルペスウイルスの母子感染例から、母子のウイルスの温度感受性と細胞トロピズムに差異を見出したので、その解析を行い、遺伝子変異を見出した。母子のそれぞれの株のクローンについても、同一の変異を認め、トロピズムと遺伝子変異の一致を認めた。このように、母子間で変異を生じていることから、母のウイルスが変異することで、感染が可能となる、すなわち、母子感染の障壁があると考えられた。
著者
川村 隆一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題はエルニーニョ南方振動(ENSO)現象がどのようなメカニズムで夏季アジアモンスーンの変動に影響を与えるのかを解明することを主たる目的としている。本研究課題の成果は以下の二つの項目にまとめられる。1.ENSO赤道対称・非対称インパクトとアジアモンスーン循環南アジア夏季モンスーン変動とENSOを関係づけるプロセスとして、ENSO発達期の赤道対称インパクトと衰退期の赤道非対称インパクトが存在することが観測・モデルの解析から見出された。1970年代後半以降、長周期ENSOが頻繁に出現し春季に終息しないで持続傾向になったことで、冬季から春季にかけてインド洋にENSOシグナルが伝わり、海面水温と積雲対流活動の赤道非対称構造を生成するのを容易にさせた。このような非対称構造が維持されるためには、風-蒸発-海面水温(WES)フィードバックが重要な働きをしていると考えられる。この赤道非対称インパクトは中央アジア地域の陸面水文過程も関係する間接的なインパクトで、モンスーン循環へ与える影響はモンスーン前期(6-7月)において有意である。別の解析結果から、二年周期的なENSOが発達する8月から11月にかけて、熱帯インド洋上の対流圏下層循環と降水量偏差に顕著な赤道対称構造がみられることがわかった。これはインド洋から西部太平洋へ東進するウォーカー循環偏差の一部をなすものであり、このようなインパクト(空間構造から赤道対称インパクトと呼ぶ)の実態は、準二年周期的なENSOの大気海洋結合システムが熱帯インド洋から太平洋へ発達しながら東進する過程において形成される、赤道対称構造であると解釈できる。赤道対称インパクトはむしろモンスーン後期(8-9月)に顕著である。準二年周期的なENSOの発達期にみられる赤道対称インパクトが1970年代後半以前の強いENSO-モンスーン関係をもたらしていると考えられる。2.日本を含む東アジア夏季の天候に影響を与える力学プロセス日本の夏季天候との関係に注目すると、赤道対称インパクトが明瞭であった1960年代から70年代中頃までの期間では、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化は不明瞭で典型的なPJパターンもあまり卓越しなかった。その結果、日本の夏季気温変動の振幅は小さく比較的安定した夏が続いた。逆に1970年代後半から90年代にかけての長周期ENSOの卓越により、ENSO衰退期の赤道非対称インパクトが顕在化し、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化とPJパターンの励起が頻繁にみられるようになった。これにより日本の夏季気温変動の振幅は大きくなり不安定な夏が続いたと解釈できる。最近では1999年から2001年まで3年連続で猛暑の年が続いたが、春季から夏季のインド洋・西太平洋の大気・海洋の状態はKawamura et al.(2001b)の模式図と非常に類似しており、赤道非対称インパクトの卓越と関連してフィリピン付近で積雲対流活動が活発化した、まさに典型例であると言える。
著者
酒井 富夫
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、米国と北東アジアにおける飼料穀物について、供給及び需要主体としてのアグリビジネスの経営行動に焦点をあて,その安定的な需給構造のあり方を展望したものである。中国の自給率の動向は、北東アジアのみならず世界の需給関係に影響を及ぼす。自給率は、内外価格差、国内価格水準、国内の需給関係等と関連し、国内の需給関係は、供給と需要の動向及び農業政策に左右される。国内では、WTO加盟に対応し、国際競争力を高めるべく、農産物国内流通の市場機構を整備し、集荷・流通段階の競争構造が急速に形成されつつある。中国の消費地である南部の飼料穀物は、大連を経由して主に中国東北地方から移入している。しかし、消費地におけるアグリビジネスは、極めて市場対応的に行動しており、内外価格差次第では、調達先を海外へとシフトし輸入が増える可能性は十分ある。米国では、アグリビジネスの寡占化・多国籍化が進み、価格高騰時に大量の穀物を輸入するなどで国内市場価格を調整している。その結果、米国の生産農場の面積規模は大きいが、農業者の所得水準は決して高いものではなく、中堅的な家族経営階層が激減しつつある。中国でも、今後のアグリビジネスの成長によって、同様の事態が想定される。中国が、国内価格の調整のために、海外市場を活用するようになると、輸入依存の日本や韓国への影響は大きい。その場合、中国の飼料穀物生産艇家や日本や韓国の畜産農家にどのような影響を与えるのか、今後、さらに注日していく必要がある。農業構造の不安定化は、自給率の低下につながるのである。