著者
渡部 明彦 森井 章裕 小川 良平
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

血管内皮細胞に超音波照射することによってヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が発現増強することを見出した。プロモーターアッセイおよびマイクロアレイ解析により、酸化ストレスによるNrf/StREシグナル経路が関与していると考えられた。またラット陰茎に照射した場合においてもHO-1発現が確認できた。HO-1は抗炎症作用、抗酸化作用、血管拡張作用、血管修復作用など様々な作用を有しており、HO-1を発現誘導する超音波照射は勃起不全治療への臨床応用が期待できるものと考える。
著者
松山 政夫 對馬 勝年
出版者
富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

東北地方太平洋沖地震による巨大津波によって福島第一原子力発電所は壊滅的な打撃を受けると共に周辺地域に甚大な放射能被害をもたらした。現在、原子力発電所内には大量の汚染水が保管されており、その減容化処理が課題となっている。本研究では、汚染水の新規減容化方法として製氷化技術の適用性を検討した。所定濃度の非放射性セシウム水溶液を用いて製氷化試験を行ったところ、生成した氷中のセシウム濃度は元の水溶液中の濃度より1/200以下に低減していた。ストロンチウムやイットリウム水溶液においても同様の低減化は確認できた。また、海水が混入した水溶液でも同様の減容化現象が確認でき、製氷化技術の有効性が確認できた。
著者
野平 慎二
出版者
富山大学
雑誌
富山大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13483188)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-11, 2005-12

In this paper,the characteristics of the public consciousness which should be formed in regards to moral education in schools and the practical method of its formation are argued with the help of the moral development theory of J. Habermas and L. Kohlberg.It is concluded that the formation of the civil public's consciousness,Whose characteristics are,for example,diversity and social association,should be aimed for,and the discourse approach based on Habermas'theory is the most optimal approach to reach this aim.
著者
林 京子 林 利光 李 貞範
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間の研究期間中に、300種類を超える合成化合物、植物及び藻類に由来する天然物質を対象にして、抗ヒトコロナウイルス(HCoV)活性試験を実施した。その結果、藻類由来酸性多糖体の中に、きわめて高い阻害活性を示す物質を見い出した。また、幾つかの低分子物質についても高い活性を示すものが存在した。これらの物質について抗HCoV作用標的を解明するため、種々の条件下で検定を行い、以下の結果を得た。1)吸着阻害効果:ウイルスの感染・増殖の初期段階である宿主細胞レセプターとウイルスとの吸着に対する阻害効果を評価した。高い抗HCoV活性を示したラムナン硫酸、デキストラン硫酸、ジギトキシン、ジゴキシン、ブファリンなどはいずれも、ウイルス増殖阻害効果を示す濃度範囲では、HCoVと宿主細胞との吸着を阻害しなかった。2)侵入阻害効果:宿主細胞に吸着したウイルスは、短時間のうちに細胞内へ侵入する。この段階に対する阻害効果を検討したところ、上記1)に挙げた物質はいずれも、侵入阻害作用を示した。ラムナン硫酸は最も強力な抗HCoV活性を示したが、その主たる作用標的が侵入段階であることを特定できた。3)殺ウイルス活性:直接的にウイルスを不活化させる効果(=殺ウイルス活性)は、HCoVの増殖の場である呼吸器において、外部から入る病原体の感染力を消失させうると期待できる。そこで、この活性を検討したところ、phenoxazinesの一種に強力な殺HCoV作用を確認できた。現在、そのメカニズムを検討中である。4)ウイルス蛋白合成阻害効果:HCoVのモノクローナル抗体を利用して、イムノブロット法によってウイルス特異的蛋白を検出した。これまでに、ラムナン硫酸が、ウイルス感染時に存在すれば、濃度依存的にHCoV蛋白合成を阻害することが明らかになっている。
著者
西村 充 酒井 英徳 浅井 貴浩 北村 岩雄 村井 忠邦 池田 長康
出版者
富山大学
雑誌
富山大学工学部紀要 (ISSN:03871339)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-8, 1998-02

Winter lightning in Hokuriku area called one shot lightning has different features from summer lightning. The thundercloud in winter is very low in its height and very wide in extend area and it has very large energy in comparison with that of the summer one. The object of this study is to examine the position and its extent area from acoustic thunder sound and is also to know numbers of branches within lightning discharge from the wave from of the acoustic signal. Two simple models for total discharge area and for the discharge detail figures are presented. The measured signal of thunder is compared with the results from the simple model.冬の日本海側でも特に,北陸地方で雪の激しく降っている時等に発生する自然現象に「プリおこし」とか「雪雷」と呼ばれる冬季特有の雷がある。最近は停電事故の大半が落雷に起因するので電力会社に於いては,高度情報化社会での信頼性を維持する上で,雷対策は極めて重要な課題である。特に,この冬季の雷は次のような特徴がある。すなわち,1 ) 空の視覚的な状況等からは全く発生が予測できない。2 ) 一発雷と呼ばれ昼夜関係なく突然落雷する。3 ) 落雷時のエネギーが非常に大きく夏の雷の数百倍にも達する。4 ) 夏に比べ雷雲の位置が非常に低い。5 ) 雷雲は地平方向に広い範囲で分布するなどである。このため現在も莫大な被害を被っている。現在,これらの雷放電の研究はカメラを使った光学的方法や,電磁波による測定等が行われてはいるが,発生位置や時間は未だに不明確である。しかも同時に複数の放電が発生することも多く,相当困難である。しかし,冬季雷における特徴のりとめを逆に利用した当研究は,雷の放電範囲とその形や場所等が簡単な装置で確実に特定できる可能性がある。また,そのデータから雷の大きさや放電の間欠性,地理的特徴等との関連性の解析を進めることで,巨大なエネルギーを放出する冬季雷の構造解明にも役立つものと考えている。この論文前半は雷鳴の測定波形の多点観測により,放電範囲を大局的に把援する方法の研究を説明し,後半では測定波形の形状より詳細な放電路の推定可能性について述べる。
著者
前川 要 千田 嘉博 高橋 浩二 村越 潔 酒井 英男 モリス マーティン 宇野 隆夫
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究成果の慨要を下記の3つに分けて記す。(1)遺跡の年代われわれの唐川城跡における3年間の測量・発掘調査の最大の成果は、中世城館ではなく古代環壕集落であることを明らかにしたことである。いままで、中世城館として考えられ、環境集落の研究史では全く採り上げられなかった。それは、第1次調査における土塁の盛り土から出土した土師器碗破片と土塁の上から検出された鍛冶炉跡SX02の埋土基底部から出土した土師器甕口縁部より明らかとなった。遺跡の存続年代は、従来の土器編年観から10世紀半ばから11世紀初頭頃で、年代的には、50年から60年ほどの期間である。(2)規模・機能と集住唐川城跡については、従来略測図のみ公表されていたが、今回トラバース測量を実施して正確な測量図を作成した。その結果、面積が約8万2千m^2、浅い空堀状の遺構,2条の空堀跡と外土塁、竪穴住居跡あるいは鉄生産関連遺構と考えられる窪みを多数確認した。これらのことから、唐川城跡は,二条の空堀と浅い空堀状の遺構によって,北から3つの郭で構成され、そして中心の郭が最も大きく高いことが判明した。また城城内に竪穴住居跡,鍛冶関連遺構が41箇所存在することを確認した。また、小鍛治の関連と想定される小型の窪みは16箇所以上存在する。第2次発掘調査では、2軒の住居跡を検出したが、いずれも新旧2時期存在した。そのことから、41箇所の2倍程度、つまりすくなくとも百軒弱の集落であることが推定できる。井戸は、井戸は北側郭と南側郭に各1基確認した。どちらの井戸も上端幅約10m,深さ約2.5mを測る。第1次調査では、南側郭の井戸を半分断ち割りしたが、湧水層が確認できず溜井戸の可能性がある。また、井戸周辺に竪穴住居跡あるいは,鍛冶関連遺構と推察する円形の窪みを確認した。鉄生産の際の水を溜める遺構の可能性がある。(3)手工業生産今回の大きな成果の一つは、精錬炉が盛り土をした階段状遺構の頂上から2碁見つかったことである。付章の深澤・赤沼論文によると、鯵ヶ沢町杢沢遺跡と同様の竪型炉であり、関連性が考えられる。従来、環壕集落からは、小鍛冶炉を検出した例はあるが、精錬炉を検出したのは初めてである。北側井戸周辺では直径約2m前後の窪みが約7箇存在しており鉄滓が地表面採集できる。さらに南側井戸東側平坦面にも10基以上の窪みがあり、ここでも鉄滓が地面採集できる。これらのことは、少なくとも北郭と南廓では、精錬と小鍛冶を一連の工程で、土木工事を含めて、大規模かつ組織的に行っていたことを示している。また、内面漆塗りの土師器甕が出土したことは、漆容器として使用された可能性がうかがわれ、漆生産工房があったことを推測させる。
著者
藤本 武
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

今日のアフリカは解決の困難なさまざまな問題に直面しているとされる。ただしその状況は地域や社会によって決して一様ではなく個々に精細な把握が必要である。本研究課題は社会の持続性という観点からエチオピア西南部の少数民族諸社会を対象に、主食作物の加工調理法の検討や、牧畜民と農耕民の間で発生してきた紛争の比較分析、そして半世紀以上にわたって進行してきたフロンティア地域における集落放棄の考察などを行った。
著者
若林 理恵子 澤田 愛子
出版者
富山大学
雑誌
富山医科薬科大学看護学会誌 (ISSN:13441434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.41-54, 2004-09

看護師と家族が聞いた「臨死患者のことば」の主なものを明らかにし,その内容を分析するために,インタビュー調査を行った.インタビュー内容をnarrative researchの手法で分析した結果,看護師が聞いた「臨死患者のことば」の内容は,【間近に迫った死の意識】【あきらめ】【人生の振り返り】【家族関係への後悔】【家族を遺す不安】【感謝】【心身の苦痛】【死の迎え方の希望】【死後の世界】【墓参りへの希望】【神への祈り】の11のカテゴリーに分類できた.また,家族が聞いた「臨死患者のことば」の内容は,【家族を遺す不安】【配偶者への愛】【感謝】【家族への励まし】【心身の苦痛】【あきらめ】【怒り】【死後の世界】【自然との触れ合い】の9のカテゴリーに分類できた.本研究より,「臨死患者のことば」には,重要なメッセージや要望が内包されていることが明らかになった.看護支援として,看護師は「臨死患者のことば」の重要性を深く認識し,家族へも患者の「ことば」に傾注するように指導する必要がある.そして,看護師と家族が患者の「ことば」を共有し,「ことば」に具体的な要望が含まれている場合は,両者が協力して患者の要望をできる限り満たすことが重要である.
著者
入江 識元
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.159-170, 2001

ヘンリー・ジェイムズの中編『ねじの回転』は視覚や聴覚が形成する認識と記憶の構造についてすばらしいモデリングを提供する。実際『ねじの回転』ほど主人公の認識のメカニズムが複雑な作品も珍しいし、これらは全て作家ジェイムズが仕組んだプロットであるが、こうした「語りの多重性」が語りの歪みと曖昧性を生み、幽霊の出現を読者に納得させる。この作品の視点について考察する場合、まず女家庭教師の視点の曖昧性に注目するだろう。伝統的なイギリスの教養を身につけた彼女にとって、上流階級の豪邸やそれを取り巻く美しい自然は、彼女の想像力を掻き立たせるに十分な素材であったし、理性的な教養人たる彼女は、その後次々に出現する幽霊を理性的な証明により合理化する。そしてこの物語の信憑性は全てこの女家庭教師のロマンス熱に浮かされた「眼差し」に委ねられている。彼女は相手の見せる表情から疑念を持ち、想像を増幅させるに至る。この作品はラカンやカント、ハイデガーなどが提示した強迫神経症や純粋理性や時間的存在といった哲学的問題とも絡めて論じることができる。この作品はそうした問題について解決の糸口を与えていることは間違いない。
著者
齋藤 滋 塩崎 有宏 中村 隆文
出版者
富山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

胎児・胎盤は母体にとり異物であるが、免疫学的胎児許容機構が働き、胎児は拒絶されない。この機構が破錠すると母体免疫細胞は胎児を攻撃し流産が起こると推定されるが、これまでにヒトでは母体免疫細胞が直接胎児組織を攻撃した証拠を得ることができていなかった。そこで、本研究では細胞傷害性T細胞(CTL)や活性化NK細胞の細胞傷害に関与する顆粒内蛋白であるPerforin (P)、GranzymeB (GrB)、Granulysin (GL)の発現を流産検体で検討したところ、流産例の胎盤付着部(着床部)においてGL陽性のリンパ球が有意に増加していた。一方、P、GrB陽性細胞数には差を認めなかった。Flow cytometryにてGL陽性細胞はCD16^-CD56^<bright>NK細胞であることが判明した。脱落膜CD16^-CD56^<bright>NK細胞を分離後、IL-2で活性化させヒト絨毛外トロホブラスト(EVT)細胞株を共培養させたところ、12時間後にGLはEVT細胞の細胞質に発現し、24時間後にGLはEVT細胞の核に移行し、その後、EVT細胞はアポトーシスに陥った。この反応は細胞接触を必要とし、Pの発現も必要であることを確認した。GL発現ベクターにGFPを連合させたベクターをEVT細胞に発現させても同様の現象が認められた。GFP遺伝子をタンデムに2分子連合したベクターを用い単純拡散で核膜を移行できなくしても、GLは核に移行したことからGLは能動的に核内に移送され、その後アポトーシスを引き起こすことが判明した。次に免疫組織学的に流産胎盤の核にGLが発現していないかを検討したところ、流産例のEVTでは正常妊娠例に比し核内GL陽性細胞数が有意に多かった。また、核内GL陽性EVT細胞はTUNEL陽性でアポトーシスに陥っていた。今回の成績はヒト流産症例において宿主免疫担当細胞(NK細胞)がEVTを攻撃してアポトーシスを引き起こすことを初めて証明したものである。今後、妊娠高血圧腎症の胎盤や癌組織での応用が期待される。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

当研究室では1996年から子ども達の基本的生活習慣と日中の生活の質に焦点を当て、唾眠研究を続けている。平成15〜17年度の研究は、睡眠・覚醒リズムの乱れが、子ども達の集中力や情緒の安定性に及ぼす影響力について検証し、生活の改善を図りたいと考えた。そのためには、子ども達、保護者および教員が、基本的生活習慣や生活リズムを整え、望ましい時間帯に睡眠をとることの重要性を科学的に理解することが先決である。そして、子ども達が成長とともに生活の自己管理ができるように周囲から教育支援できるプログラムの作成を目的とした。この3年間の研究の成果はつぎのとおりである。1.2003年実施の富山県における小学校から高校までの養護教諭を対象とした調査で、子ども達の生活が、明らかに夜型化し、睡眠不足になっている傾向が認められた。2.同調査分析の結果、養護教諭が懸念する最近の児童・生徒の心身状況は、「情緒不安定」「精神発達が幼稚」「生活リズムの乱れ」「体調が悪い」「疲れている」の項目であった。3.大学生を対象として、睡眠習慣と心身の健康状態の関連をシミュレーション実験により検証したところ、就寝時刻、起床時刻ともに遅く、睡眠時間が短い学生ほど、昼間の疲労の自覚症状訴え数が多く、反射神経の活動性を調べる「落下反応検査」の5回測定した成績の標準偏差が大きく、作業が不安定であることが判明した。4.しかし、室内環境に、副交感神経優位にする効果のある香気成分セドロールを噴霧することによって、自覚症状訴え数が減少し、作業成績の標準偏差も小さくなり、安定することもわかった。このセドロールの効果は小学生の計算作業や図形認識でも作業量が増え、誤答数と標準偏差は減少するという同様の傾向が認められた。最後に3年間の研究の成果をプレゼンテーションにまとめ、学校現場や地域の研修活動等、3年間で107件に活用し、睡眠のとり方による生活の質(QOL)向上について理解を促した。
著者
藤井 雅文
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、電磁気学および電子物理化学を基礎とする新しい原理による短期地震予測法を確立することを目標としている。地震の直前には地殻の岩盤に圧力が加わることにより、応力誘起された大量の電荷が岩石内部から放出される。そしてこれらが地表面に出現し滞留することで上空の電波によって励起されプラズマ振動する。これがさらに上空の電波伝搬に影響を与え、通常の状況では生じ得ない遠方への超長距離伝搬が引き起こされることが明らかになっている。特に地殻活動に伴う電磁気現象を理論と実験観測の両面から考察し、地震の前に地殻に作用する応力の変動を精密な電波観測により広範囲に検知し、その観測精度を向上することにより地震の短期予測を実現することを目指している。高感度低雑音の観測装置を用いて電磁波の観測を実施している。これまでに規模の大きな地震の数日前から前日にかけて、異常な電波伝搬現象を観測している。特に2022年3月16日の福島沖M7.4の地震の直前に非常に明瞭な電磁波異常を観測した。この観測結果により、これまでの異常現象が地殻活動に由来するものであることを示すことが可能となり、地震前兆時に異常信号が観測可能かどうかの論争に終止符を打てる可能性が高まっている。また、我々は地震予測の適中率と地震発生の予測率を評価しており、近年はそれぞれ90%近い値を得ている。さらに、観測データを深層学習により解析し異常信号から地震の発生を予測する研究を実施しており、高い精度で予測できる結果を得ている。これらの結果をすでにまとめて科学技術誌に投稿し、現在審査結果を待っている。
著者
鳥養 祐二
出版者
富山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

トリチウム水からトリチウムを効率よく回収するため,水素吸蔵合金電極を用いたトリチウムの回収法を提案し,検討を行った。平成12年度に吸蔵合金中に吸蔵された水素の同位体比測定装置を作成した。ガスの吸蔵反応において,重水素より軽水素の方が安定なPdを電極として使用すると,電解時間の経過とともに電極内部に軽水素が濃縮されるが,軽水素より重水素の方が安定なVを電極材料として使用すると,わずかではあるが,重水素が濃縮されることを見いだした。このような現象は今までに報告されていない。しかし,V電極は電解吸蔵の効率が悪く,濃縮率にばらつきが見られ,再現性に問題があった。そこで,Vの水素吸蔵量を増加させるためVにPdやPtを蒸着させたが。V単独では重水素の濃縮したのに対し,PdやPtを蒸着した場合、重水素の濃縮は見られなかった。次に,Vと同様に軽水素より重水素の方が安定なLaNi_5について検討した。電解時間1時間では重水素の比率が15%であったが,電解時間の増加とともに重水素の比率は増加し,電解時間10時間では40%に増加した。しかし,H/LaNi_5=4以上の水素を吸蔵させると,電極が壊れ,それ以上の水素を吸蔵させることはできなかった。水素吸蔵合金中での同位体濃縮挙動を説明するため,陰極上で軽水及び重水が電解され合金中に吸蔵される反応と,合金中からH_2, D_2, HDを放出する反応を仮定し,それぞれに反応速度定数を与え,反応を模擬した。Pd中では重水素の方が軽水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に吸蔵された重水素の比率が減少するという実験結果を再現することができる。反対に,VやLaNi_5では,軽水素の方が重水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に重水素の比率が高くなるという実験結果を再現することができる。この仮定が正しければ,電極を工夫し,更に水素を吸蔵させれば軽水素より重水素を濃縮できる可能性があることを示唆している。
著者
武部 真理子 服部 瑞樹
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

全身性炎症反応症候群(SIRS)に対するアスタキサンチンの効果を調べるために、5-FU誘導腸炎モデルマウスおよびヒト結腸癌細胞由来の細胞株であるCaco-2 、HCT116を用いた実験を行った。5-FU誘発性腸炎モデルにおいて、アスタキサンチンが炎症性サイトカインの発現を抑制する作用およびアポトーシスを抑制する作用があることが明らかになった。しかし、細胞実験においてはアスタキサンチンの炎症性サイトカイン発現抑制作用は顕著ではなく、抗酸化作用が主たる効果として確認された。腸炎モデルにおいて、アスタキサンチンの抗酸化作用が直接アポトーシスを抑制している可能性が示唆された。
著者
中川 洋吉 清家 彰敏
出版者
富山大学
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.319-344, 2000-11

20世紀は映像の世紀といわれた。また映像は政府によってマスコミュニケーションの道具として管理創造されてきた。さて,21世紀はこの映像がインターネットの場において個人,大衆に開放される世紀と考えられる。この開放される映像が創りあげる映像ビジネスは巨大な産業を形成する可能性がある。本研究は,この21世紀に創造される映像ビジネスの中核となる人材とその教育システムを問題とする。特に先進的モデルとしてフランスの映像教育をとりあげ,分析を行う。フランスには,映画学校として,我が国でも良く知られたイデック(IDHEC)があり,世界各国の映画学校の中でも,多くの著名監督を輩出したことで,その知名度は高い。第1期の卒業生に,アラン・レネ,他に,クロード・ソテ(4期),ロベール・アンリコ(7期)がおり,そして,ルイ・マルもイデック出身である。イデック同様にフランスには,国立の演劇,音楽,美術の高等専門学校が存在する。音楽,演劇はコンセルヴァトワール,美術はボ・ザールであり,映画は,映像一般専修校としてフェミス,撮影専門学校としてルイ・ルミエールがある。我が国で,国立の美術,音楽専門校として東京芸大がある。しかし,国立の映画学校は存在しない。更に,国立大学の中で,映画学部を有しているところは皆無である。フランスのフェミスは,1986年に創設された。フェミス「FEMIS」は,"Formation et Enseignement aux Metiers de I'Image et le Son "の略である。正式名称は,「視聴覚教育と人材育成」の意である。このフェミスに,1995, 99, 2000年と三回に渉り訪れ,聞き取り調査を行なった。その調査結果をベースに,フランスの映画学校(本質的には映画・映像学校)と,映像人材育成のモデルについて,考察する。
著者
鼓 みどり
出版者
富山大学
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.261-271, 2006-12-14

Where can we find …Where can we find exoticism in this age of globalization? Can you stand for a wired ethnic stereotype of yourself? Actually there are plenty of ethnic stereotypes in films,video clips,TV programs,CM and so on. This paper discusses on different cultural images in recent films and video clips. Firstly we look on exotic images in video clips from 80's(Duran Duran,Clash,Men at Work,Petshop Boys) to 90's (Madonna,U2) and recent (Beck). Secondly we analyze absurdity,daydream and nightmare in video clips (Massive Attack,Tricky,Sonic Youth,Chemical Brothers,Petshop Boys,Square Pusher,Bjork and Madonna). Thirdly we observe Japanese images in Sofia Coppola's film <<Lost in Translation>> (2003) and Peter Greenaway's film <<8 1/2 Women>> (1999). We find a kind of Japonisme images in these clips and films. However they can convey a new view on ourselves.20世紀は「映像の世紀」と呼ばれ、映画やテレビ、ビデオそして最近ではインターネット上で世界のさまざまな地域の風土や、そこで生活する人々の姿を見ることが出来ると信じられている。モニタは珍しい風景、耳慣れない音声、或いは人々の胸中をも再生する。異文化の中に身を置かずに異文化を体験することは、娯楽として消費されている。しかしながら私たちはステレオタイプに依存しながら、異文化を受容している。日々眺めるイメージがその地域を想起させる細部を示すと、またかと思いつつも落ち着いた気分になる。機会があれば現地を訪れ、ステレオタイプを実体験して満足する。また自身の文化をとらえるときも、その姿に伝統的な型をあてはめがちである。伝統的類型はしばしば実生活とはかけ離れているが、私たちはそのことをあまり問題とは思わないだろう。しかし私たちはどのような類型として表象されているのであろうか。メディアに登場する類型は、たとえ諷刺を意図していなくても共感しがたいものであることが多い。時代錯誤であったり、アジア諸国の文化を適当に混ぜていたり、その理由はさまざまであろう。ただし報道ネットワークが発達した現在、たとえば海外テレビCMにごく普通の日本人家族が登場するなど、奇をてらったイメージばかりが作られているわけではない。また視点を変えれば、私たちが何も疑問に思わずに受け入れている外国のイメージも、同じように当該地域の人々にとって違和感があるかもしれない。異文化をあらわす類型は、報道やドキュメンタリーよりも、娯楽性の強い映像、すなわち映画やビデオクリップ、CMに登場する頻度が高い。本稿ではビデオクリップを中心に、異文化表象が担っている役割を検討する。
著者
渡辺 志朗
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究計画の最終年度においては、防己黄耆湯がマウスの肝臓内と腸管内の胆汁酸構成ならびに肝臓と糞便中の脂質濃度に及ぼす影響を評価した。基礎飼料ならびにそれに防己黄耆湯の乾燥エキス粉末を2.0%(重量)となるように添加した飼料を、雄性C57BL/6マウスに5週間に渡って自由摂取させた。防己黄耆湯を与えたマウスの飼育の最終日に排泄された糞便中のαムリコール酸の濃度が高くなり、またデオキシコール酸の濃度は低かった。ただし肝臓中の胆汁酸濃度に対しては、防己黄耆湯の影響はみられなかった。糞便中の胆汁酸構成に及ぼす防己黄耆湯の影響から、腸管内の胆汁酸の疎水性の低下が生じていると判断できた。またムリコール酸はFXRのアンタゴニストであり、デオキシコール酸がFXRのアゴニストであることから、防己黄耆湯の投与は腸管のFXR活性の低下を来しているとも推測できた。一方、防己黄耆湯を与えることで、マウスの糞便中のコレステロール濃度が高くなることもわかった。さらに防己黄耆湯は、肝臓中のコレステロールエステルとトリグリセリドの濃度を低下させることも判明した。肝臓中のコレステロール濃度は、防己黄耆湯を与えることで、低下する傾向を示した。上述のような防己黄耆湯による腸管内の胆汁酸の物理化学的ならびに生物学的な活性変動が、糞便へのコレステロール排泄の増加や、肝臓の脂質濃度低下の要因であると推測できた。以上のことから、本研究において防己黄耆湯が腸管内胆汁酸の代謝変動を介した新規の脂質代謝制御効果の機構の存在を示唆した。