著者
松野 将宏
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

仙台市の事例研究による、プロスポーツを通じた地域活性化メカニズムを分析、考察した。結論として、第一に、プロスポーツクラブ・球団の存続と発展は、地域における多様なステイクホルダーの支持と参加、さらには、ガバナンス構造の確立が決定的要因であることが考察された。第二に、プロスポーツが地域活性化に貢献するためには、プロスポーツクラブ・球団を支援するネットワーク組織としての実践共同体(コミュニティ・オブ・プラクティス)の生成と発展が、地域における学習活動の促進に寄与していること、特に仙台市の事例では、官民共同支援組織がその機能を果たしていることが明らかにされた。
著者
木内 久美子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は特にベケットとジョイスとの関係に焦点をあてて「言語の起源」としての「幼児期」の形象を分析した。四・五月には昨年に引き続き文献学的調査をおこなった。特に「幼児」の形象に焦点を絞り、一九二〇年代前半から三〇年代後半にかけて書かれた両者の草稿・ノート・書簡・著作を比較検討した。その結果、両者がマウトナーの著作『言語批判に寄せて』とヴィーコの『新しい学問』に影響を受けていることが明らかにされた。六月から九月にかけてはマウトナー・ベケット・ジョイスの関係の解明に取り組んだ。文献学的作業によって「隠喩・擬人化批判」が三者に共通する問題意識として取り出された。マウトナーを参照することによって、ジョイスの『フィネガンズウェイク』言語の中心課題が「擬人化批判」として明確化され、それを「直接的言語」と評したベケットの意図も照射されることとなった。その研究成果の一部は七月に行われた日本サミュエル・ベケット研究会例会にて発表された。年度の後半ではヴィーコ『新しい学問』を読解し、ベケットとジョイスに共通する「隠喩・擬人化批判」がヴィーコの「幼児」や「子供」の形象に媒介されていることを解明した。ヴィーコは既知の隠喩を未知の対象に適用しようとする隠喩使用を「幼児」や「子供」の形象に代表させている。その能力は未発達であるため認識を獲得できず、むしろ認識に失敗する。これを出発点にしてジョイスとベケットのヴィーコ受容を比較分析し、二者の差異を解明した。この研究経過は第四回表象文化論研究集会において発表された。以て「幼児」形象の分析を介して、ベケット的なエクリチュールに向かう自伝文学の系譜の起源にヴィーコ的な幼児言語(認識の失敗)とマウトナー的な言語批判(行為としての言語使用)が見出されることとなった。
著者
西永 頌 HUO C. GE P. NIE Y. 成塚 重弥 田中 雅明 NIE Yuxin GE Peiwen HUO Chongru HUO C GE P NIE Y
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成7年度から平成9年度の3年間にわたり、中国科学院物理研究所と東京大学工学系研究科との共同研究により、微小重力下で化合物半導体GaSbの融液成長に関する研究を行った。本研究においては、平成4年において、中国の回収型衛星を用いて融液成長法により成長させた結晶を評価する研究より開始した。評価法としては、化学エッチングによる転位の評価および、空間分解フォトルミネッセンス法によるTe不純物分布の測定を行った。前者の結果から、転位は種結晶から宇宙で成長した結晶部分に移る所で一度は増加するが、次第に減少し、ついには0になることがわかった。宇宙では融液柱および成長結晶は浮遊しており、管壁に接しないので歪みが発生しない。このため非常に高品質の結晶が成長したことが判明した。次に空間分解フォトルミネッセンス法によりTeの分布を調べた所、宇宙で融液が浮遊し、自由表面が出ていたにもかかわらず、不純物分布は拡散支配となっていることが判明した。このことは、宇宙ではマランゴニ対流が発生しなかったことを意味しており、非常に興味深い結果が得られた。次に同じく日中の共同研究によりNASAのGASプログラムを利用し、スペースシャトルにおいてGaSbの融液成長を行う計画を立てた。そのため中国側では電気炉を作製し、日本側はGaSbの結晶を加工整形し石英アンプル管に封入する作業を行った。中国側では、6分割電気炉を設計試作し、これに一定の温度勾配をつけ、この分布を上下に変化させることによりGaSbの結晶を融解・固化するようプログラムを作製した。日本側ではTeをドープした直径10mm長さ10cmのGaSbを石英管に真空封入し中国側に渡し、中国側でこれ等をGAS容器にセットしNASAに送った。実験は二度程延期となったが、平成10年1月末スペースシャトルSTS-89号で行われ、現在GAS容器は中国に搬送中である。この間、実験を行う上での打ち合わせを中国、日本と各3回行い準備を進めるとともに、中国回収衛星で行った融液成長実験の解析および討論を行った。

3 0 0 0 OA 理科会粋

出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第5帙, 1882
著者
小林 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本年度はまず、すでに我々が提案していた線形論理に基づく並列計算の枠組であるACLを高階に拡張したHACLを提案し、その意味論・型システム等を与え、静的に型づけされた(HACLで書かれた)並列プログラムが実行時に型エラーを起こさない等の基本的な性質を証明した。また、それに基づいたインタプリタの処理系を作成して、HACLの特徴の一つである(多相型をもった)高階プロセスが非常に有効であることをプログラミングを通して確認した。さらに、HACLの上に、インヘリタンスをはじめとする種々の機能を備えた並列オブジェクト指向言語を実現でき、かつそのようにして実現された並列オブジェクト指向言語で書かれたプログラムがHACLの型システムをとおして型推論・型チェックが行なえることを示した。その副産物として、型推論をとおして並列オブジェクトのメソッドのディスパッチが定数コストで行なえるようにコンパイルできることも示した。これらの結果に基づいて実際に、並列オブジェクト指向言語のプログラムからHACLへのトランスレータのプロトタイプも作成した。また、HACLを含めた非同期通信に基づく並列言語の効率のよい実現のために、エフェクト解析の手法を応用した並列プログラムの通信に関する解析を行なう方法を提案し、HACLを通した定式化・基本的な性質の証明・解析システムのプロトタイプの実装を行なった。将来的にはこの静的解析システムをコンパイラに組み込み、並列プログラムの最適化コンパイルに役立てる予定である。上記理論的側面の研究と並行してHACLに基づいた処理系の実装を進めており、現在シングルCPUのワークステーション用のコンパイラのプロトタイプがほぼ完成した状況である。
著者
林 譲 横山 伊徳 加藤 友康 保谷 徹 久留島 典子 山家 浩樹 石川 徹也 井上 聡 榎原 雅治 遠藤 基郎 大内 英範 尾上 陽介 金子 拓 木村 直樹 小宮 木代良 近藤 成一 末柄 豊 藤原 重雄 松澤 克行 山田 太造 赤石 美奈 黒田 日出男 高橋 典幸 石川 寛夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008-05-12

東京大学史料編纂所が60年間にわたって収集・蓄積した採訪史料マイクロフィルムをデジタル化し、ボーンデジタルによる収集の仕様を確立し、一点目録情報などのメタデータを付与したデジタルデータを格納するアーカイヴハブ(デジタル画像史料収蔵庫)を構築し公開した。あわせて、デジタル画像史料群に基づく先端的プロジェクト・歴史オントロジー構築の研究を推進し、研究成果を公開した。
著者
大沼 保昭 MALKSOO Lauri
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

日本が国際社会に参加を開始した当時のロシアの国際法的及び外交的な基本的立場の定式化を行った、私と同国人であるエストニア生まれの国際法学者のフリードリッヒ・マルテンス(1845-1909>への関心から私の研究は始まった。日本滞在中、マルテンスの対象とした19世紀後半のロシアの国際法的外交的立場の単なる記述から、ヨーロッパ中心主義的国際法の受容態度の日露両国の比較考察という新たな視角を獲得することができた。この結果、「18世紀より20世紀にいたるロシアの国際法学史」に関する研究の草稿を完成させることができた。結論的には日露両国のヨーロッパ中心主義的な国際法秩序への参加には、従来考えられてきた以上に類似性と相違性がともに存在することが判明した。まず両国はヨーロッパ中心主義的国際法理論のコピーに努めたが、これは同時に西欧に対する自国の周辺性を両国がともに受諾したことを意味する。しかし第一次大戦後(及びロシアでは社会主義革命後)、西欧列強の偽善の一つに過ぎないとして、両国の国際法理論は従来の国際法の普遍性主張に対して懐疑的な方向へと向かっていった。ところが1945年以降、敗戦国日本は普遍主義的、西欧中心的な主流的立場に回帰したが、主要戦勝国であったロシアは1991年のソ連邦崩壊まで反西欧的国際法理論を採用してきた。だが今日では、異なる文明は異なる国際法観を有するので、国際法に関して文際的(文明間の対話の)観点が不可欠である旨主張する大沼保昭教授と類似の主張を行う論者がロシアにおいても存在するに至っている。共産主義イデオロギーが敗退した今日のロシアは、今後、1917年以前の西欧中心主義的な主流的国際法思考に回帰するのか、それとも「人権」等の西欧的概念に対抗しつつ独自の文明観に立つアプローチを展開するのかが最大の問題であるといえる。
著者
片桐 俊彦
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

気象庁から提供されている緊急地震速報は遠方地域を緒言とする地震情報を他の地域に早期に知らせる事で各所到達するまでの時間を有効利用することで防災行動時間が稼げる。一方、直下型地震では被害が甚大になり、緊急地震速報を有効活用できないケースが多々ある。そこで、人的被害の回避を少しでも考える観点に立つと、特に生活空間レベルにおいて早期の緊急予報を出せる状況が望ましく、仮に緊急地震速報が得られなくともパソコンから情報を得られる事で対処すべき危険回避行動が可能となる。以上の事項を踏まえ、近年普及率の高い一般的なパソコンを用い、MEMS型加速度計を利用して、初期微動を感知した時点でパソコンからトリガー信号を発信、制御回路を経由して危険回避モデルへの信号伝達を行い、主要動到達までは地震予報装置としての活用(パソコン内での音声による警戒宣言・非常灯の点灯・モーターなどの振動)、また直下型地震が発生した場合は電気系統制御(電磁石などで机の上の物が飛ぶ等防御)を即を行うことを軸に、1台のパソコンで無人地震観測(地震観測データの蓄積と解析)と並行して、地震時に警報や危険回避動作を行うシステム開発(制御ソフト・危険回避モデル等の製作)を行った。実際にはパソコンとAD変換器を通じた加速度計からの地震波(初期微動)情報を得て、パソコン内での開発ソフトによる地震発生の警告音声出力を行うと同時に危険回避モデルに無線信号伝達し、制御回路を介して危険回避モデルを起動する。以上の事柄についてシステムを組み上げ、実際に動作確認を行い、目的通りの一連の動作が確認できた。今後目的を絞り、危険回避モデルを如何に有効的に利用するかの検討・研究を継続したい。この研究では汎用性があり社会にも貢献できる有用なシステム構築が達成でき、これを土台に更なる研究を重ね利便性を高めたい考えである。
著者
伊東 乾 大場 善次郎 藤原 毅夫 吉田 真 美馬 秀樹 松本 洋一郎 関村 直人 杉野 昇
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

3D可視化技術の技術教育応用を、以下の2点に整理して行った。1 立体視モニタなどの特殊な装置系を必要とするもの2 通常のネットワーク・コンピュータシステムでの教育情報の多次元表示1 については1-1 同一の情報を平面モニタと立体モニタで提示した際の、学習記憶、ならびに疲労については、どちらにも有為な差は見いだせなかった。1-2 「3D内視鏡」操作のように、現実に立体視を利用するシステムの学習については、装置系は決定的に重要 1-3 一般の技術/工学教育の実施に当たっては、幅広い普及などの観点からも情報の多次元表示(すなわち2)が有効 との結論にいたった。2については2-1 インテラクティブで可動性のある、平面モニタ上での情報構造の立体可視化システム(美馬エンジン)が、東京大学教養学部での情報教育で大きな効果を生み出した。2-2 次元の概念を、物理学における解析力学の「一般化座標」にならって拡大し、内部自由度の拡大と考えることで、平面(2D)モニタ上に教育情報の多次元表現を実現した。2-3 一般化された次元とは「色彩」「濃度」「網掛け」といった汎用性あるグラフィックの要素であり、これらをxml等のマークアップ言語で指定することで、工学教育における情報の効果的なオンデマンド多次元表現の一般的可能性があることを、「学習知識構造化」として試験実装することに成功した。
著者
金子 元久 矢野 眞和 小林 雅之 藤村 正司 小方 直幸 山本 清 濱中 淳子 阿曽沼 明裕 矢野 眞和 小林 雅之 濱中 淳子 小方 直幸 濱中 義隆 大多和 直樹 阿曽沼 明裕 両角 亜希子 佐藤 香 島 一則 橋本 鉱市 苑 復傑 藤墳 智一 藤原 正司 伊藤 彰浩 米澤 彰純 浦田 広朗 加藤 毅 吉川 裕美子 中村 高康 山本 清
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2005

本研究は、1)日本の高等教育についての基礎的なデータを大規模調査によって蓄積し、その分析をおこない、2)それをもとに各国の高等教育との比較分析を行うとともに、3)その基礎にたって、日本の高等教育の課題を明らかにすること、を目的とした。とくに大規模調査については、(1)高校生調査(高校3年生4000人を、その後5年間にわたり追跡)、(2)大学生調査(127大学、約4万8千人の大学生について学習行動を調査)、(3)社会人調査(9千事業所、2万5千人に大学教育の経験、評価を調査)、(4)大学教員調査(回答者数約5千人)、(5)大学職員調査(回答者数、約6千人)、を行い、それをデータベース化した。
著者
本條 晴一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

聴覚系は外界の空気振動に反応する受動的なシステムではなく、状況に応じて反応の仕方を変える能動的なシステムである。前年度は、状況に応じて聴覚系がどのように反応の仕方を変化させるかを、聴覚末梢の有毛細胞をモデル化することによって調べた。そこで見出されたのは、ノイズなどで外界の状況が異なると聴覚系が作り出す音が、空気の振動周波数とは別に変化してしまうことであった。本年度は、状況に依存して知覚の形式が変わるということはどういうことか、外界の状況だけでなく学習の履歴によって知覚の形式はどのように変わるのかに注目して研究を進めた。置かれた状況=コンテキストに注目して学習について検討したG・ベイトソンの理論と、情動的身体反応が何かを決断する際にバイアスとして働いていると主張しているA・ダマシオの理論を見なおし、両者の理論を修正し一般化した。その結果、受け取ったメッセージがどのような意味を持つのかを判断する基準になるコンテキスト・マーカーはベイトソンの言うようなコンテキストレベルのメッセージではなく情動反応を通じて創発するものであること、情動反応はダマシオの言うようなバイアスとしてではなくコンテキストを捉えるものであることを見出し、学習の理論の基礎付けをすることができた。合わせて統合失調症の理由を解き明かしたベイトソンのダブルバインド理論を修正して一般化を行い、様々な精神疾患の原因ともなるハラスメントの理論に到達した。複雑系研究において創発現象についての関心は高い。ところが創発自体と創発を前提とする学習を停止させる機構についての研究は行われてこなかった。本研究ではハラスメントが学習の停止を導くものであるという見地から理論化を行った。このことにより、創発を伴う生命現象への研究が進展することが期待できる上、様々な日常的/社会的現象に対して科学的なアプローチをすることが可能となった。
著者
齋藤 俊浩
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的東京大学秩父演習林を含む埼玉県西部の奥秩父地域においては、1990年代からシカの個体数が増加していると推定され、過度の採食による下層植生の衰退など、森林植生に及ぼす影響は深刻である。森林の植生変化は、その森林の生態系の上に成立している自然の音環境にも影響を及ぼしている可能性があり、本研究においては、シカの個体数増加が森林生態系へ及すインパクトを、音環境を指標として捉えることを目的としている。研究方法森林のタイプ、標高別に調査地を4ヶ所設置した(調査1〜4)。調査地1、2、3では、5月〜8月にほぼ週に1回(調査地4は、月に1回)のペースで定点録音を行い、調査地1、2では、同じく週に1回、ウグイスのさえずり録音を行った。定点録音は、ステレオマイク、さえずり録音は、モノラルマイクを用い、記録媒体は、主にメモリーレコーダーを用いた。録音データは、コンピューターに取込みソナグラムを作成し、また、聞取りによって音源を確定した。これらの音声データは、これまでに構築してきたデータと比較するとともに、さえずり録音による音声データについては、さえずりの頻度や構造を比較した。研究成果本調査の録音データから、鳥類のさえずり、風の音、セミやバッタといった昆虫の発する音といった森林の音環境の構成に大きな変化はみられなかった。下層植生が衰退している調査地1、2、3においては、ウグイスの個体数の減少が示唆され、特に調査地2では、ウグイスのさえずりが確認できなくなっていた。下層植生の変化が少ない調査地4においては、ウグイスは個体数をこれまでと同様に維持していると考えられ、さえずり頻度にも変化はみられなかった。シカの個体数増加による下層植生の衰退により、営巣場所などを下層植生に依存しているウグイスが、個体数を減少させたという間接効果の可能性があり、ウグイスのさえずりという本調査地域の音環境の主要な音源に大きく影響していると考えられる。
著者
佐々木 悠介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度に引き続き、写真言説の中でとりわけ重要と思われる、カルティエ=ブレッソン受容文脈の変遷について、研究・調査を行った。昨年度、新型インフルエンザ流行と、海外での資料開示状況が思わしくなかったために見合わせていた出張を積極的に行った。まず六月にニューヨーク近代美術館のアーカイヴへの出張を行った。これはアメリカにおけるカルティエ=ブレッソン受容の状況を掘りこす意味で重要な調査であり、一部、公開審査を停止している資料があったものの、二十世紀後半の状況について、調査を行うことできた。また、八月には国際比較文学会(ICLA)の大会(於韓国ソウル、中央大学校)に参加し、研究発表を行った。これは、前述ニューヨーク出張の成果を踏まえたものである。またこの研究発表に関連して、国際比較文学会のProceedings(研究発表記録集)も英文原稿を投稿し(本年一月)、掲載可否の査読を待っているところである。なお、本研究に関連して博士論文の執筆中であるため、これ以外の途中段階の研究報告は行わなかった。本研究の二年間の採用年度の間に、次々と新しい題材が見つかり、研究対象の範囲を拡げてきたが、写真関連の一次資料(写真集ど)および二次資料(研究文献)は、国内の所蔵が極めて少なく、基本的な文献でも国内の図書館に全く所蔵されていない物も少ななかった。また、これらについて海外の図書館から複写取り寄せを試みたが、いずれも新しい時代の題材であるために,複写許可がりない物がほとんどであった。したがって、必要最低限のものは独自に購入せざるを得ず、本年度も昨年度に引き続き、洋文献購入特別研究員奨励費の多くを使った。その結果、本研究に関わる題材の、海外における研究状況の概略が明らかになったほか、従来の真研究の通説とは違った構図も徐々に発掘でき、現在執筆中の博士論文にも大きな前進が見られた。
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1)意味システム論としてのコミュニケーションシステム論を、特に従来の社会学での制度概念とのつながりと複数の分野への応用しやすさに注目して、理論的に再構築した。2) 1)の成果を都市の生成に適用することで、都市の自己生成の形態を、自己産出的な意味システム論の視点から明らかにした。
著者
内田 隆三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、(1)探偵小説のテクストの成立において、大都市のセンセーショナルな消費文化と膨大な群衆の出現という社会性の場の変化が本質的な媒介要因としてはたらいたことを見出し、探偵小説登場の歴史的な過程を明らかにした。(2)探偵小説のテクストの基本構造を分析し、探偵と犯人(殺人者)という二人の登場人物のあいだに構造的な類似性と同時に奇妙な差異からなる「双数性」(duality)の関係を見いだし、テクスト分析のツールとして概念化した。この「双数性」の構造は、探偵と犯人の同型性と同時に非対称性を担保するものであり、探偵小説のテクストを構成する基本的な要素として機能している。このようなパースペクティヴから探偵小説の歴史を見ると、ふたつの重要な「転回点」があることがわかる。第一の転回点は1920〜30年代の探偵小説の本格化・形式化の時期に当っており、第二の転回点は1980年代の異常犯罪を描いた作品群が人気を得るとともにはじまる。第一の時期は高度な消費社会が成立しはじめたときで、近代的な主体の意識が自我=アイデンティティの不安の念に駆られ、それが探偵雄小説の形式化をもたらしたが、その不安な空洞を埋めるために、人間的な動機の理解に焦点を置くコナン・ドイルの『緋色の研究』型の言説が補填された。第二の時期には人間的な動機の実定性や有効性が消去され、犯人を異様なモンスターとして同定する科学的捜査の微視的な過程に焦点を置く新しいタイプの言説が生み出されるようになった。このように、本研究による重要な貢献は、探偵小説のテクストの構造的変化と消費社会の論理との相関関係を歴史的に明らかにし、また、これまでの探偵小説の研究や解釈にはみられなかった独自の系譜学的な展望を与えたことにある。
著者
荒井 良雄 箸本 健二 長沼 佐枝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,条件不利地域における地理的デジタル・デバイドに対する地方自治体等による政策的対応とそれを利用した地域振興策の実状を調査・把握しようとした.その結果, 1)条件不利地域においてもブロードバンド環境は整備されてきているが,いまだに未整備地区が残存していること, 2)山間地域等では地上波デジタルテレビ放送移行への対応として整備されたケーブルテレビ網がブロードバンド整備にも有効であったこと, 3)情報システムを用いた地域振興では既存情報施設の十全な活用とソフト面での工夫が重要であること,等が判明した.