著者
藤田 剛 東 淳樹 片山 直樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、里山の生物多様性を広域にわたり保全する方策として、里山の象徴種猛禽サシバの生息地保全に農地の栽培体系がどう貢献しているか、気候帯の違う複数地域での解明を目的とした。その結果、サシバ分布北限にあたる北東北では、田植え時期は温暖な関東よりわずかに遅い程度で、サシバはため池の多い農地で繁殖していること、カエル類はため池周辺で高密度に分布していることが明らかになった。サシバ分布南西部にあたる九州中北部では二毛作が盛んで田植え時期が関東より1か月遅く、主な餌生物のカエル類がほとんど生息していなかった。そして、バッタ類の生息する草地がサシバの重要な生息地として機能していることが明らかになった。
著者
永田 晋治
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の実験対象であるフタホシコオロギの共食いでは、触角を介し被捕食者の体表の脂溶性成分を認識することが分かった。実際に、体表をヘキサンで拭うと被捕食者になる。体表の脂溶性成分のGCMS分析では、主に13種の炭化水素を同定した。化学構造から推察される生合成酵素群をRNA-sequencingにより探索し、その遺伝子群をRNAiにてノックダウンすると、同種異種の認識に変化が認められる。フタホシコオロギの「共食い」行動では、フタホシコオロギで固有の体表脂質成分の変化が捕食者と被捕食者の関係性に導かれることが分かった。
著者
山口 和夫 及川 亘 宮崎 勝美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

元和9年(1623)の徳川秀忠・家光父子上洛と将軍職交代とが同時代社会へ与えた影響を究明するため、史料調査・収集・整理・検討を重ねた。父子上洛を迎え将軍宣下もあった京都等の公家・寺家・社家の諸記録、父子に供奉した大名上杉家の日記・帳簿、各種系譜史料等を分析した結果、沿道と洛中洛外地域社会で展開された儀礼や交流、上洛に動員された上杉家中の費用負担、公家・地下官人・大名・旗本等の人事につき、広範な事例を把握・提示することができた。また、将軍秀忠から同家光への大名命名(一字書出発給)主体の移動、朝幕藩相互間の伝達回路につき、事例を解明・蓄積した。大名の官位が、江戸幕府により決定され、将軍参内行列供奉の資格・序列として機能することも検出した。
著者
武多 昭道 山本 由弦 山崎 勝也 池田 大輔 冨田 孝幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

超新星残骸(かに星雲など)の天然加速器から飛来する宇宙線(高エネルギーの陽子、原子核)は、地球の大気に衝突して、ミューオンなどの素粒子をつくる。この素粒子を使って、地中の断層の透視を行う。ボーリング調査で得られた断層姿勢や物性調査と比較することで、断層が地表付近でどの程度デコボコしているのかを調べ、断層のデコボコ具合が地震や津波にどのような影響を及ぼすのかを評価する。
著者
成田 悠輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

交付申請書に記載した研究計画にほぼ沿った研究が進行している。この研究計画は「人々はそれぞれ異なった時点に生まれ死ぬため、社会的意思決定のための投票が行われる各時点で人々が持つ利害の規模は人それぞれに異なる。そのような状況を明示的に考慮した場合に動学的に望ましい投票制度は何か?」という問いを、世代重複モデル上の動学的投票制度の下で人々がプレイするゲームとして定式化・分析しようとするものである。今年度は人々のインセンティブや戦略的行動を捨象した場合に望ましいと考えられる投票制度を見つけるという予備的理論分析を予定している。この予備的理論分析はすでに終えつつあり、当初の研究計画通りの進捗であると考えている。また、当初の研究計画には含まれていなかった公立学校選択制の制度設計に関する新しい研究に着手し、論文"Promoting School Competition Through School Choice:A Market Design Approach"(小島武仁氏(Stanford大学助教授)、John William Hatfield氏(Stanford大学助教授)との共同研究)をまとめた。この研究は、公立学校選択制の制度選択が公立学校の自己改善インセンティブにもたらす影響を分析し、公立学校に自己改善による競争を促すような公立学校選択制の制度を提案するものである。この論文についてはすでに共著者の小島武仁氏が東京大学経済学部および公正取引委員会で招待講演を行っており、今年度中に英文国際学術誌に投稿する予定である。
著者
上野 千鶴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、高齢社会の地域福祉の担い手として注目をあつめている市民事業体が経営体として継続可能な条件をさぐることを目的としたものである。対象は九州地域の生協グリーンコープ連合が設立した、グリーンコープ福祉連帯基金傘下の福祉ワーカーズ・コレクテイブ(2001年12月現在で63団体)である。介護保険施行後、指定事業者として居宅家事・介護支援事業、ミニデイサービス事業等に参入した。第1次調査ではワーカーズ・コレクティブの団体および個人を対象に、定量および定性調査を実施した。その分析からあきらかになったことは、(1)経営コストは時間費用で200%と出て、企業体とくらべても競争力がある。(2)生協による創業期支援が果たした役割が大きい。(3)ワーカーの分極化(やりがい型とボランティア型)を射程に入れた労働編成が課題である。(4)経営研修を含む代表とワーカーの研修プログラムが必要である、などである。第2次調査では利用者とその家族を対象に、定量調査と定性調査の両方を実施した。ワーカーズ・コレクティプおよび代表の追跡調査およびケアマネージャー、地域の関連書団体のインタビュー調査もあわせて実施した。介護保険に対する評価は利用者・家族ともに満足度いが、利用率は約60%(全国平均49%)と抑制されており、その理由に需要と供給のミスマッチ(サービスのメニュー、時間帯、保険外利用等)が挙げられた。ワーカーズ・コレクティブの団体および個人にとっては、利用者数、ケア件数、ケア時間数共に急成長をみせ、ワーカー報酬、役員手当ともに増大し、経営的にも安定した。定性調査からは身体介護と家事支援の区別がつきにくい実態に対し、報酬格差が大きすぎる問題が指摘され、家事介護1本化への制度の手直しが求められる。周辺調査からは、ケアマネージャーの地位と報酬、権限と能力の低さが問題として浮かび上がってきた。以上の調査から、地域福祉の需要と供給の安定したサイクルを構築するために、市民事業体が果たす役割が大きく、かつその条件を介護保険が提供したことを確認することができた。865字
著者
橋本 英樹 近藤 克則 野口 晴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

健康・機能状態の社会的格差をライフコースの視点から検証する際、幼少期情報を想起情報に頼らざるを得ないことが多い。代理指標として脚長などの客観的マーカーの利用可能性を検討した。高齢者パネル調査(くらしと健康調査)を用いて脚長(幼少期の栄養状態の代理指標)と親職種、幼少期「生活困難度」との関係を見たが、有意な関係は認められなかった。一方、脚長は、学歴と収縮期血圧の関係を有意に媒介していた。社会経済的要因による社会的選択の影響を考慮し、同朋情報を用いてバイアス補正を検討したところ、同朋との到達学歴の一致・不一致により学歴と健康・生活習慣との関連性が異なっていた。社会的選択の影響を考慮する必要がある。

2 0 0 0 OA サステナ

著者
サステイナビリティ学連携研究機構
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.2010年, no.(特別), 2010-03-25
著者
田中 凌
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

本研究は、「言葉の使用には責任を取らなければならない」という規範の内実とその実装を明らかにすることを目指す。着目するのは、言葉の使用には「この使用の仕方が正しいものである」という暗黙裡の判断が常に伴い、話者はその判断に責任を負うという考えである。後期ウィトゲンシュタイン、また一部の解釈によればカントにもこうした考えが見出されるとされるが、本研究は現代の言語哲学・認識論・倫理学の枠組みを用いてそれを明晰化する。その上で、この種の責任の存在は「自分の言葉の意味を明示化する」能力を個々の話者に要請することを示し、当該の要請が経験的言語科学の視点から見てどの程度現実的なものであるかを明らかにする。
著者
宮本 英昭 石上 玄也 田中 宏幸 尾崎 正伸 日野 英逸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

数値計算とデータ解析により火星表面は水平方向に飛来するミュオンが地球上より多く存在し,ミュオグラフィが適用しやすいことを確かめた.ピンゴ状地形の内部氷コアをモデル観測シナリオとして,30日程度で観測可能となる超小型ミュオグラフィ装置を設計し,この原理実証モデルを開発した.地上の3地点で5週間に渡り実証試験を実施し,開発した装置が十分な精度で密度構造を計測可能なことを確かめた.3年と短い研究期間であったが,世界発の宇宙版ミュオグラフィ装置の原理実証機の作成と運用,さらに火星で運用するための移動手段の開発・運用に成功し,予定以上の大きな成果を得ることができた.
著者
小豆川 勝見 堀 まゆみ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

「なぜ放射性セシウムを高濃度・基準越えの魚が発生するのか」を淡水魚・海水魚の両面で解明するために,1.線量率が空白地帯になっている山間部における常時観測可能な線量計の設置,2.淡水魚・海水魚およびその環境(餌・堆積物)の年間を通じた連続採取・測定の実施,3.チェルノブイリ原発周辺の魚類との比較,という3点の観点から研究を遂行する.
著者
藤原 帰一 久保 文明 加藤 淳子 苅部 直 飯田 敬輔 平野 聡 川人 貞史 川出 良枝 田邊 國昭 金井 利之 城山 英明 谷口 将紀 塩川 伸明 高原 明生 大串 和雄 中山 洋平
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

危機管理の政策決定と、それが政治社会にもたらす効果について、多角的な実地調査とデータ収集を行うとともに、三つの理論的視点、すなわちセキュリタイゼーション研究、危機管理研究、そして平和構築から分析を進めた。本作業の国際的パートナーがオレ・ウィーバー、イークワン・ヘン、そして、ジョンアイケンベリーであり、この三名を含む内外の研究者と共に2015年1月30日に大規模な国際研究集会を東京にて開催し研究成果の報告を行った。本会議においては理論研究とより具体的国際動向の分析を行う研究者との間の連絡に注意し、実務家との意見交換にも留意した。
著者
満渕 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は心臓の拍動による血液循環エネルギーの一部をファラデーの電磁誘導の法則により電力に変換し、これを電力源として用いようというものである。生理食塩水を用いた実験結果では、永久磁石を用いると、流れが層流の場合には、電極の分極や電気二重層の影響により電磁誘導素子の起電力の発生が抑制されるが、拍動流では、流路に装着した1つの電磁誘導素子によって数mV 程度の起電力を得ることが可能で、また、複数の素子による起電力を直列に接続する事によって(得られる起電力は必ずしも個々の素子に生じる起電力を単純加算した値とはならないが)総起電力を増幅しうることが示され、提案したシステムの可能性が示されたと考える。
著者
藤原 帰一 城山 英明 ヘン イークァン ORSI ROBERTO 和田 毅 錦田 愛子 華井 和代 HUSSAIN NAZIA 中溝 和弥 竹中 千春 清水 展 杉山 昌広
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、水資源を焦点に、グローバル・サウスの地域・国々の事例を取り上げ、気候変動による自然の衝撃が社会と政治にどのようなストレスをもたらすか、また、いかなる過程を経て社会の不安定化、資源獲得競争、国家の動揺、武力紛争、難民・移民などの現象を引き起こす原因となるのかを問い、気候変動政治のメカニズムを解明する。同時に、自然の脅威を前に国際社会、国家、草の根社会がいかなる緩和と適応を行うかを考察し、気候変動レジリアンスの仮説を提示する。さらに、気候変動安全保障を中核とする新しい安全保障論と、国連持続可能な開発目標(SDGs)とを連携させたグローバル・ガバナンス論を論じ、政策的検討を試みる。
著者
安藤 規泰 村山 裕哉
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,平衡感覚を喪失したスズメガに慣性センサを搭載し,得られた情報をもとに筋肉に電気刺激を行い飛行の安定性を回復させることを目指した。主要な成果として,1)スズメガに搭載可能な40 mgの慣性センサユニットを開発し,6軸の加速度・角速度情報を自由飛行下で高速に計測することに成功した,2)慣性センサ・コントローラ・電気刺激からなる飛行制御回路を試作し,ピッチ角速度に応じて腹部の屈曲を制御することに成功した,3)触角切除により平衡感覚を喪失しても,スズメガは安定なホバリング飛行が可能であることを示した,4)平衡感覚の情報が頭部の運動を介して視野の安定に寄与していることを示した,が挙げられる。
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は特に、(1)本研究プロジェクトの学術的成果をふまえて、社会学の従来の方法論と統計的因果推論などの最新の分析手法との連続性と非連続性を明確にして、因果推論の方法を社会学のなかに適切に位置づける、(2)それらをふまえて「量対質」の対立をこえた安定的な因果分析の枠組みを構築する、の二つを主な課題にして研究を進めた。特に研究成果を狭い範囲の専門家だけでなく、隣接諸分野の研究者や大学院生や学生なども読者層となる媒体に成果の一部や、それらをふまえたより実践的な考察を掲載することができ、より一般的な形での成果の発信・還元を進めることができた。佐藤俊樹「コトバの知と数量の知 百年のウロボロス」(『現代思想』20年9月号)では、マックス・ウェーバーの比較宗教社会学をとりあげて、それが適合的因果の方法論に厳密にしたがっており、それゆえ彼の社会学的研究全体もこの方法論を軸に体系的に整理できることを述べた。佐藤俊樹「知識と社会の過去と美来」(『図書』860,862,864号)では、新型コロナ感染症のパンデミックへの対応を主な事例にして、現代の社会と社会科学がどのような状況にあるのかを素描した。今回のパンデミックは大規模感染症がもつ確率的な事象という面に対して、社会が反省的な対応を迫られた最初の事例である。偽陽性と偽陰性が第二種の過誤と第一種の過誤の問題であるように、「知る」ということは科学的には確率的な推論であるが、社会の側ではそれを受け入れられない。そのずれは社会科学の内部にもその成立以来、ずっとありつづけおり、ウェーバーの方法論はそのずれへの反省的対処の最初の試みの一つにあたることを示した。
著者
仲田 泰祐 藤井 大輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2022-04-27

「感染症対策と経済活動の両立を考えるためのモデル研究・コロナ禍における政策の事後検証・コロナ危機の中長期的な社会・経済影響」の3本柱で研究を行う。コロナ危機のようなPandemicは公衆衛生の危機であると同時に社会的・経済危機である。「感染症対策と社会・経済活動をどのように両立させていくか」という問いに答えためのフレームワークが、コロナ危機前には存在しなかった。上記した3つの柱を軸に研究を行うことで、次のPandemicが来る前にこの問いに対して少しでも多くの知見を提供したい。
著者
仲田 泰祐 藤井 大輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

「感染症対策と経済活動の両立を考えるためのモデル研究・コロナ禍における政策の事後検証・コロナ危機の中長期的な社会・経済影響」の3本柱で研究を行う。コロナ危機のようなPandemicは公衆衛生の危機であると同時に社会的・経済危機である。「感染症対策と社会・経済活動をどのように両立させていくか」という問いに答えためのフレームワークが、コロナ危機前には存在しなかった。上記した3つの柱を軸に研究を行うことで、次のPandemicが来る前にこの問いに対して少しでも多くの知見を提供したい。