著者
柴田 勲 小野 雅章 森 正史
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.655-658, 2001-06-25
被引用文献数
17

豚流行性下痢(PED)ウイルスに対する高度免疫牛初乳(HCC)の予防効果を子豚を用いた実験感染で検討した.実験1では,中和抗体価512倍のHCCおよび非免疫牛初乳(UCC)を各4頭の2日齢豚に経口投与後,10LD_<50>のPEDウイルスを経口攻撃した.牛初乳は4時間間隔で1日3回投与した.HCC投与グループの半数は下痢を呈した後回復し,全ての豚は生存した.一方,UCC投与豚は全て下痢を示し3頭が死亡した.実験2では,抗体価512,128および32倍のHCCおよびUCCを投与した2日齢豚を同様に経口攻撃した.攻撃後の生存率はそれぞれ100,75,50および0%であった.実験3では512倍のHCCおよびUCCを投与した1日齢豚を攻撃後24,48および72時間後に剖検して病理学的に小腸を調べた.HCC投与豚は臨床症状を示さず,また,小腸上皮細胞内にPEDウイルス抗原が検出されず絨毛の長さも正常であった.一方,UCC投与豚では小腸絨毛の萎縮と上皮細胞内にPEDウイルス抗原が感染後24時間目から認められた.以上の成績から,HCCの豚への経口投与はPEDウイルス感染の予防に効果があり,致死率を下げることが示された.
著者
平尾 秀博 井上 知紀 星 克一郎 小林 正行 島村 俊介 清水 美希 田中 綾 高島 一昭 森 有一 野一色 泰晴 山根 義久
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.357-362, 2005-04-25
被引用文献数
2

新型の弁付き導管を犬大動脈弁を用いて作成した.生体代替弁はグルタールアルデヒドとエポキシ化合物(Denacol-EX313/810)により固定した.超極細ポリエステル繊維製人工血管(直径10mm, 全長20mm)を使用した.犬4頭に左心室-大動脈間弁付き導管(AAVC)移植術と大動脈バンディングを行いバイパス群とした.もう4頭にはAAVC移植術は行わず大動脈パンディングのみを行いコントロール群とした.心臓カテーテル検査と心血管造影検査を術後2週間, 6カ月に行い, 血行動態を評価した.左室収縮期圧, 左室拡張終期圧, 左室-大動脈間圧較差それぞれにおいて2群間に有意な差(p<0.01)がみられた.左室心血管造影検査でバイパス群の全頭において弁付き導管の開存が確認された.心臓エコー検査を術前, 術後2, 4, 6カ月に行った.コントロール群では圧負荷による心筋の求心性肥大がみられ, 一方バイパス群では左室の遠心性肥大がみられ, AAVCにより左室圧負荷の軽減が維持されていることが示唆された.
著者
李 振泰 塔 娜 渡来 仁 柿谷 均 小沼 操 趙 丹丹 保田 立二
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.169-174, 1997-03-25
被引用文献数
3

陽性荷電リポソームが, ウシ白血病ウイルス(BLV)感染細胞への毒素遺伝子の導入に応用可能かどうかを調べた. 陽性荷電リポソームは, N-(α-trimethylammonioacetyl)-didodecyl-D-glutamate chloride(TMAG), dioleoyl phosphatidylethanolamine(DOPE), dilauroyl phosphatidylcholine(DLPC)(モル比1 : 2 : 2)から作製し, 遺伝子を封入させた. ルシフェラーゼアッセイにより, 陽性荷電リポソーム(TMAGリポソーム)によるBLV感染細胞(FLK/BLV細胞)への遺伝子導入効率を調べたところ, TMAGリポソームの遺伝子導入効率は, ホスファチジルセリン(PS)から作製されたリポソームに比べ高い導入効率を示した. さらに, ルシファラーゼ遺伝子とともにプロモーター活性を持つBLVのLTRの下流にジフテリア毒素遺伝子を挿入したプラスミドDNA(pLTR-DT)をTMAGリポソームによりFLK/BLV細胞にco-transfectionし, ルシフェラーゼ遺伝子によるルシフェラーゼ活性が, TMAGリポソームにより導入されたpLTR-DTにより, どの程度阻止されるかを調べることにより, pLTR-DT封入TMAGリポソームの, BLV感染細胞に対する殺傷効果を検討した. その結果, ルシフェラーゼ活性は, pLTR-DTを導入することによりdose-dependentに抑制された. また, pLTR-DTをFLK/BLV細胞に複数回導入すると, FLK/BLV細胞の増殖が顕著に抑制された. さらに, pLTR-DT封入TMAGリポソームを血清あるいは核酸分解酵素と反応させたところ, TMAGリポソームに封入された毒素遺伝子は分解されなかった. これらのことから, 陽性荷電(TMAG)リポソームはBLV感染細胞への遺伝子導入法として優れており, 毒素遺伝子封入陽性荷電リポソームによる, BLV感染細胞の遺伝子治療の可能性が示唆された.
著者
佐藤 宏 稲葉 孝志 井濱 康 神谷 晴夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.1023-1026, 1999-09-25
参考文献数
16
被引用文献数
6 31

1997-1998年の冬季に, 本邦東北地方北西部に生息する60頭の野生肉食類について寄生虫学的検討を行った. これらは, 青森・秋田両県下で捕獲ないしは交通事故死したホンドキッネ7頭, ホンドタヌキ20頭, ホンドテン29頭, ホンドイタチ2頭, 二ホンイイズナおよび二ホンアナグマ各1頭であった. キツネおよびタヌキでは, 回虫(それぞれToxocara canisおよびT. tanuki), 鉤虫(Ancylostoma kusimaenseおよびArthrostoma miyazakiense), Molineus sp.が高率に回収された. テンでは, 胃のAonchothecaputorii, 膵管のConcinnumten, 小腸のMo1ineus sp.とEuryhelmis costaricerlsisが高率に寄生していた. 従来から分布の知られていた寄生虫種に加えて, この地方あるいは本邦での分布が知られていなかった次のような寄生嬬虫種が確認された. すなわち, キツネからのTaenia polyacantha,タヌキからのPygidiopsis summa, テンからのEucoleus aerophilus, A. putorii, Soboliphyme baturiniである.
著者
淺野 玄 的場 洋平 池田 透 鈴木 正嗣 浅川 満彦 大泰司 紀之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.s・ix, 369-373, 2003-03-25
被引用文献数
6 28

1999-2000年に北海道で捕獲されたメスのアライグマ(Procyon lolor)242個体について,胎盤痕または胎子を分析して繁殖学的特性を調査した.捕獲個体の齢構成は,0歳69個体(29%), 1歳71個体(29%)および2歳以上102個体(42%)であった.1歳の平均妊娠率は66%で,2歳以上の平均妊娠率96%と比べて有意に低値であった.一腹産子数は1頭から7頭で,平均産子数は1歳で3.6頭,2歳以上では3.9頭であった.平均産子数には1歳と2歳以上とで有意差は認められなかった.北海道の移入アライグマの繁殖期は,2月が交配のピークで3月から5月が出産期であると推定された.しかし,7月に2頭の妊娠個体が確認されたことから,夏期にも繁殖することが明らかとなった.北海道のアライグマの繁殖ポテンシャルは北米における報告と同程度であり,個体数増加の主要因であると考えられた.夏期の箱罠捕獲における0歳獣の捕獲圧は,1歳以上の個体と比較して相対的に低いことが示唆された.移入アライグマの個体数を減少させるためには,個体数が多い0歳獣の捕獲圧を高める必要があり,効率的な捕獲方法の検討が求められる.
著者
山田 学 中村 菊保 西道(坂中) 寿子 朝岡 愛 山川 稔 鮫島 俊哉 本部 真樹 廣田 好和
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.137-142, 2004-02-25
被引用文献数
3 16

これまでにカブトムシ(Allomyrina dichotoma)の生産する免疫関連蛋白質を分離精製し,その精製した蛋白質の部分配列が抗微生物作用を持つことを明らかにし,さらにこの抗微生物蛋白質から得られた改変ペプチドは薬剤針性病原菌に対しても抗菌作用を持つことを示唆した.そこで,新たに精製された2種類の昆虫の抗微生物蛋白質由来の改変ペプチド(RLYLRIGRR-NH_2 : ペプチドA ; RLRLRIGRR-NH_2 : ペプチドB)の薬剤耐性大腸菌への効果を,マウスを用いて病理学的に検討した.ペプチドA接種群では,死亡率,解剖所見,組織所見ともに,ペプチド未接種群との有意な差は認められなかった.一方,ペプチドB接種群では,ペプチド未接種群と比べて,死亡率は低下し,解剖所見,組織所見においても病変は著しく軽度に認められた.ペプチドA,B共にマウスに対して組織毒性を示さなかった.ペプチドBは薬剤耐性細菌に対して有効であることが実験動物を用いた試験においても示唆された.
著者
Jung Eun-Yong Lee Beom-Jun Yun Young Won KANG Jong-Koo BAEK In-Jeoung MIN-YON Jung LEE Yoon-Bok SOHN Heon-Soo LEE Jae-Yong KIM Kang-Sung YU Wook-Joon DO Jae Cheul KIM Young Cheul NAM Sang-Yoon
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1347-1354, 2004-11-25
被引用文献数
1 16

大豆由来イソフラボンであるゲニステインは栄養補助食品としてその効果が認められているが,同時にエストロゲン様作用が雄性生殖器の発達に及ぼす影響も懸念されている.そこで,本研究では,この点を明らかにする為に,妊娠および授乳期に大豆ベースの餌を食べさせた母親から生まれた21日齢のマウスに,ゲニステイン(2.5mg/kg/day)およびエストラジオール(7.5μg/kg/day)を5週間投与した.実験期間中,マウスはカゼインベースのAIN-76で飼育を行った.ゲニステイン投与とコントロール群(コーンオイル投与)との間に精子数や精子運動能に関して違いは見られなかった.エストラジオール投与群では前立腺重量や精巣上体精子数が,コントロール群に比べて顕著に減少していた.セレン依存性ペルオキシダーゼ・スーパーファミリーのひとつであるphospholipid hydroperoxide glutathione peroxidase (PHGPx)はゲニステインおよびエストラジオール投与群で,コントロールに比べて有意に増加していた.エストラジオール投与は精子変性やアポトーシス増加,精巣上体の変性や前立腺のhyperplasiaを引き起こしていたが,ゲニステイン投与マウスでは,これらに関し異常は見られなかった.従って,成長期のゲニステインの日常的な摂取は,生殖器の発達や機能には影響を与えないことが示唆された.
著者
橋本 道子 和 秀雄 阪口 雅弘 井上 栄 宮沢 博 渡辺 美香 三関 三乃 安枝 浩 新田 裕史
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.597-598, 1994-06-15
被引用文献数
2

ネコを飼育している家庭の布団からのネコ主要アレルゲン(Fel d I)除去を家庭用洗濯機を用いて行った. 洗濯の前後に布団から綿の一部を集め, その綿からネコアレルゲンを抽出した. その抽出液中のFel d I量をサンドイチELISA法で測定することにより, 除去率を評価した. 洗濯後の布団のFel d I量は95%以上減少した. 布団洗いはネコアレルゲンを除去するのに効果的な方法であることがわかった.
著者
井上 智 谷川 力 川口 潤二 飯田 孝 森田 千春
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.461-463, 1992-06-15
被引用文献数
3

関東地区6か所において家ネズミの捕獲を行ないリステリアの分離を行った. 捕獲ネズミ245匹のうち池袋の110匹と横浜の9匹がクマネズミ(Rattus rattus)であり, 他の126匹はドブネズミ(Rattus norvegicus)であった. リステリア属は鹿島と池袋の各捕獲総ネズミから77.8%と24.5%という高い値で分離されたが, 千葉, 船橋, 横浜, 沼津では0.0-7.3%という低い値であった. このうち, リステリアモノサイトゲネス(Listeria monocutogenes)は, 池袋で1O.9%という高い値で分離されたが, その他の場所では殆ど分離されず, 鹿島と沼津でそれぞれ1匹のネズミから分離されたのみであった. 家ネズミからのリステリア分離は, 地区によって非常に異なる値を示し, 特に都心のビルに生息するネズミのみからL.monocytogenesが高い値で分離されたことは大変興味深い成績であった. 今後, この分離率の違いについて, ネズミの生息環境や捕獲ネズミの種差に関して検討が必要と考えられた.
著者
甲野 雄次 新井 啓五 泉対 博 松川 俊一 糸原 重美
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.117-125, 1986-02-15
被引用文献数
1

羊を用いて牛白血病ウイルス (BLV) の感染防御実験を実施した。Triton X-100により不活化した100倍濃縮BLV培養液をフロインド完全アジュバントとともに8頭の羊に2週間隔で3回筋肉内接種した。最終免疫から2週後, すなわちgp抗体価が1:32〜1:256に達した時に, 4頭の免疫羊に50μlのBLV感染羊血液を皮内接種したが感染は成立しなかった。この4頭を含めた8頭の免疫羊の抗体価が1:1〜1:8に低下した時, 同一方法で再び攻撃接種を行った。その結果, すべての羊は抗体価の著明な上昇を示し, 同時にBLVも分離された。BLV感染羊の血清から分離した種々の量の免疫グロブリンを, 健康羊に腹腔内接種した後攻撃接種を行った結果, 1:64の抗体価を持った個体では感染防御が成立した。実験に用いたすべての羊につき感染防御の成立と液性抗体価の関係を調べた結果, 1:64以上の抗体価を持つすべての羊および1:32の抗体価を持つ羊の半数で感染防御が成立したが, 1:16以下の抗体価を持つ個体では1頭が感染防御を示したにすぎなかった。
著者
岡野 司 村瀬 哲磨 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1371-1376, 2004-11-25
参考文献数
36
被引用文献数
2 24

ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)は,日本国内におけるいくつかの地域では絶滅が危惧されており,精液の採取と凍結保存は,遺伝資源の保存手段として重要である.本研究では,野生ニホンツキノワグマより精液を採取してその性状を調べるともに凍結保存した.4頭の野生ニホンツキノワグマから,捕接地点である山中において,電気刺激射精法を用いて精液を採取した.4頭全てにおいて,運動性を持った精子を含む精液が得られた.精液量,総精子数,精子運動率,精子生存率および精子奇形率(範囲(平均))は,それぞれ0.65-2.20(1.51)ml,99-1082(490)×10^6,5-100(31)%,42-97(66)%および20-87(53)%であった.3頭の精液を,卵黄-トリス-クエン酸-グルコース液で希釈し,液体窒素中で凍結保存した.すべての場合において,凍結融解後に運動精子がみられた.本研究から,電気刺激射精法は,野生ニホンツキノワグマから精液を採取するために有用な方法であり,この方法で採取した精液の凍結融解後に少なくとも運動性のある精子が得られることが示された.
著者
筒井 敏彦 和田 美帆 安西 みづ穂 堀 達也
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.s・ix, 397-399, 2003-03-25
被引用文献数
4 64

猫の精巣上体尾部精子の凍結精液による人工授精を実施した.雄猫10頭の精巣上体から精子を遊出した.精子活力および精子生存率は,それぞれ平均67%, 82.5%で,回収精子数は平均11.6×10^7であった.凍結融解後の精子活力は平均24.0 %であった.雌猫11頭の片側子宮角内に精子数5×10^7を受精した枯果, 3/11, 27.3%の受胎率であった.これは,猫の精巣上体精子の凍結精液による最初の受胎例であった.
著者
小田切 敬子 浜野 政章 吉川 泰弘
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.595-601, 1999-06-25

リスザルは神経研究や認知科学において最もよく利用されてきた実験用霊長類の1種である.従って,リスザルの習性や行動を詳細に知ることは,中枢神経系の退行や,機能障害を判定するのに有効である.本研究では,リスザルがウズラのゆで卵を取ってから食べるまでの一連の摂食行動(Eating series: ES)について観察し,連鎖の解析をした.実験1では72匹のリスザルの,のべ378回のESについて解析した結果,3通りの統計学的に有意な推移パターンが見られた.実験2では,8匹のリスザルを無作為に選びだし,各個体につき31〜36回のESについて解析した.その結果,リスザルはウズラの卵を押すまたはこするという動作を示すPr/Ruグループとそうでないno-Pr/Ruグループとに分けられた.また,Pr/Ruグループの中でも,常にこの動作を示す個体とそうでない個体とがいた.このことからリスザルは実験室内で各個体に特徴的なESを獲得し,発達させてきたことが推察された.
著者
林谷 秀樹 近江 佳郎 小川 益男 福富 和夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.905-908, 1989-10-15

1981年6月から1982年5月までの1年間に関東地方で死亡し, 動物霊園に埋葬された猫3936頭の死亡データを用いて, Chiangの生命表作成法に従って, 猫の生命表を作成した. これは家庭飼育猫について作成された最初の生命表と思われる. 生命表から算出された猫の平均余命は, 0歳で4.2歳, 1歳で5.0歳, 4歳で5.4歳, 5歳で5.3歳, 10歳で3.5歳, 15歳で2.2歳で, 最高死亡年齢は22歳であった. 猫の死亡確率は犬に比べ, 0歳から5歳にわたる幅広い年齢で著しく高かったが, 6歳以上においてはほぼ等しく, 犬と同様にGomperzの法則に従うように思われた. このように調査時点では猫の死亡確率の基本パターンは犬のものと著しく異なっていたが, 今後0〜5歳の低年齢における死亡確率が減少した場合には, 両者のパターンは近似すると思われた. 1歳の平均余命(e_1)は, 品種間(雑種, 純血種に大別)では差が見られなかったが, 地域間ではA地域(人口密度1万人以上)はB地域(1万人未満)に比べ有意に長かった. このことから, 犬の場合と同様, B地域ではA地域に比べ猫の平均余命を短くするような要因がより強く作用していることがうかがわれた.
著者
辻本 早織 越久田 健 越久田 活子 宇根 有美 野村 靖夫 代田 欣二
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.329-331, 2005-03-25
被引用文献数
2

腹部膨満を示し高窒素血症を呈した3か月齢の雌の三毛猫を剖検し, 右側腎臓腹側に尿臭を持つ黄色透明液体を容れる巨大な腎周囲嚢胞(8.5×6.0×4.5cm)を認めた.嚢胞内腔は不規則に拡張した腎盂と腎実質を貫く小孔で連絡していた.嚢胞は上皮に内張りされ, 壁は膠原線維と平滑筋で構成されており, 腎盂や尿管壁の構造に類似していた.嚢胞に接する腎実質間質には, リンパ系細胞の浸潤を認めた.嚢胞は発生異常による腎盂憩室と考えられた.
著者
中尾 敏彦 ガメール アブシイ 大沢 健司 中田 健 森好 政晴 河田 啓一郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.791-794, 1997-09-25
参考文献数
10

乳牛の難産および胎盤停滞例 (異常例) の胎子娩出後の子宮修復における内因性のPGF_<2α>の関与の有無を明らかにするとともに, 活性持続型のPGF_<2α>類似体であるフェンプロスタレンの投与が子宮修復と繁殖成績の向上に有効かどうかを明らかにするために試験を行なった. 異常例では分娩正常例に比べ血中PGF_<2α>代謝産物 (PGFM) 濃度の著しい上昇が認められたが, 高濃度の持続期間は短かった. 異常例ではPGFMの高濃度持続日数と子宮修復日数との間に明らかな相関は認められなかったが, 正常例では, PGFM高濃度持続期間が長いもののほうが短いものよりも子宮修復日数が短かった (P<0.01). フェンプロスタレンを異常例では胎子娩出後7-10日, 分娩後子宮内膜炎例では14-28日に投与することにより, 子宮修復と卵巣機能の回復が促され, 繁殖成績が向上することがわかった. このように, 異常例においては短期間に大量のPGF_<2α>が分泌されるものの, これは子宮修復にはあまり関与しておらず, 外因性のPGF_<2α>の投与がこれらの例の子宮修復の促進と繁殖成績の向上に有効であることが示唆された.
著者
花見 正幸 松本 浩良 野村 靖夫 高橋 令冶
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.699-702, 1996-07-25

イソプロテレノール(ISP), ヒドララジン(HYD), カフェイン(CAF), シクロホスファミド(CYC)とアドリアマイシン(ADR)をLD_<50>または1/10 LD_<50>でラットに一回静脈内投与し, 1 hrと4 hr後の心筋病変の病理組織学的評価を行った. ISP群でLD_<50>投与1 hr及び4 hr後と1/10 LD_<50>投与4 hr後に, HYD, CAFとCYC群でLD_<50>投与4 hr後に, 心筋線維の均質で強い好酸性化, 過収縮帯形成と断裂からなる病変を認めた. 病変は, ISP, HYDとCAF群で左心室壁内側1/3と左心室乳頭筋, CYC群では左右心室心筋全域に分布していた. ADR群では心筋病変は誘発されなかった.