著者
嵐 弘美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.38-49, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
6

<目的>中井(1989)の「身体-身体像-自我の三者関係からみた統合失調症の経過のモデル」に基づき、統合失調症者に対する身体ケア技術の意味を明らかにすることである。<方法>看護ケアの参加観察からデータを質的に分析した。<結果>研究対象者の身体-身体像-自我の三者関係の障害は、身体→自我→身体像の順に回復し、身体ケア技術は、障害の回復に先んじて、身体→自我→身体像の順にその焦点を移行させていた。また、身体ケア技術は、<精神及び身体の状態を観察・把握する><身体感覚の機能を代理し、回復を促す><自我を保護し、補足する><看護師の身体性を通して、空無化した身体の存在を保証する><身体像の修復を促す>という5つの技術から構成されており、特に<身体感覚の機能を代理し、回復を促す>技術の重要性が示唆された。<結論>結果から、身体ケア技術の意味は、身体-身体像-自我の三者関係に直接的に働きかけることによって、心身の分裂に橋を架け、統合失調症の回復に寄与するものであると捉えられた。
著者
星野 崇宏
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.491-499, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2

教育評価・心理測定では測定対象である特性に複数の下位特性がある場合がしばしばである。また, 特に入学試験などの何らかの決定を求められる場合は, 複数の下位特性をそのまま多次元として評価するのではなく, 測定者が設定した重みによる下位特性の線形結合という1次元の評価がなされることがある。本研究では相関のある複数の特性の線形結合についての評価を容易にするために, 項目反応理論を用いたテスト編集において重要な意味をもつテスト情報関数, 及び項目情報関数の提案を新たに行った。本研究で提案された情報関数は局外母数の積分消去により, 多次元の特性があってもテストを行う前に1次元で評価でき, 特性間の相関を考慮できるという点で複数の下位特性を有する特性の評価のためのテスト編集を可能にする。また本研究では, 異なる重みや相関係数の下での情報関数の比較のための方法が提案された。数値例によって重み付け, 相関係数を様々に変化させても導出できることが確認され, 本方法による多次元項目反応理論での項目選択法の有用性が示唆された。また, アメリカ国立教育統計センターの作成した幾何学と統計学についての項目プールから選択した項目群に対して本方法が適用された。
著者
内田 忠賢
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.365-373, 1985-08-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1
著者
荊木 聡
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.335, pp.53, 2017 (Released:2019-09-02)

道徳科では、ねらいへのアプローチ方法がより多面的・多角的で多様性に富む方向へ拡張される。タブーを排した柔軟で斬新な実践にスポットが当たるのは必定であるが、他面、60年間に亘る我が国の道徳教育に包蔵された豊かな叡知を継承・活用するという方向性も極めて重要である。そこで、まず「読み取り」の意味を再確認するとともに「価値の一般化」を再評価した。次に、具体的な教材を通して生徒の実態および議論する場の重要性を明確にした。さらに、それらを踏まえつつ、道徳的価値の自覚を促す視座「価値認識」・「自己認識」・「自己展望」を導入し、授業実践に臨んだ。アンケートの結果からは、中学生の「考え、議論する道徳」に対する「興味関心」や「必要性の実感」が向上するとともに、教師においては議論が停滞したときの対処法等に困難や不安を感じている情況が明らかとなった。
著者
金春 禅竹[作詞]
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1938-08
著者
竹内 里欧
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.745-759, 2005-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
47
被引用文献数
1

本稿では, 明治期から大正期の, 処世本, 礼儀作法書, 雑誌記事を資料に, 「西洋化」・「近代化」・「文明化」を象徴する人間像として機能した「紳士」という表象をめぐる言説を分析する.特に, 「紳士」を揶揄するレトリックや論じ方に注目し, その類型の整理を試みる.それにより, 近代日本において, 「西洋」, 「文明」の有していた力やそれへの対応について明らかにする.「紳士」をめぐる言説においては, 「真の紳士」に「似非紳士」を対置し, 「真の紳士」の視点から「似非紳士」を批判するレトリックが多くみられる.「西洋の真の紳士」という理念型から「日本の似非紳士」を揶揄する (=「『似非紳士』の構築」) のも, 「真の紳士」の対応物を「武士道」, 「江戸趣味」に見出すなど過去に理念型を求める (=「『真の紳士』の改編」) のも, どちらも, 現在の時空間ではないところにユートピアを設定しそこから批判することを通じて「現実」を構成するという論理構造を共有している.「真の紳士」という「理念」と「似非紳士」という「現実」を共に仮構するという理想的人間像への対応は, 抽象化された (それ故「武士道」などと等値可能になる) 「西洋」という目標に向かい邁進する日本の近代化の構造を反映している.それは, 近代化・西洋化の要請と, 「日本」のアイデンティティの連続性の創出・維持という, 当時の矛盾を含んだ2つの課題に対応する文化戦略であったことが透視される.
著者
渡辺 邦彦 岡本 拓夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度〜平成9年度の3年間の研究成果の概要は下記の通りである。研究目的は、自然電位の観測でノイズとされる電車の漏洩電流を信号源と考え、電車軌道から約3kmの北陸観測所で漏洩電流波形を基準とし、それより約15km離れた池田観測室での観測波形を比較し、それによって両観測点間の歪場の変動を電磁気的に解析するものである。特に、地殻ブロック境界の観測点は、広域応力場の状況変化を強く反映すると考えられるので、時間的変動を解析することで、地殻歪の変動を測定することができる。研究成果:1.温見断層に着目し、福井県の北陸観測所坑内と池田観測室で地電位差観測を実施した。2.経年変動を解析した。北陸観測所坑内の自然電位分布は、湿潤度に依存する傾向が見られた。池田観測室では、温見断層に直交する方向と平行な方向に長基線と短基線の電極を配置した。断層に平行方向は地盤の状態により不安定であるが直交方向は安定した年周変動も測定された。地震活動との関連は今後の課題である。3.北陸観測所と池田観測室とで1秒毎サンプリングによる漏洩電流観測を実施した。池田での波形は北陸観測所の数分の1に振幅が減衰するが、波形変形はそれほどなかった。FFTによると、解析限界を超える周波数成分変化は認められなかった。今後、時間的変動と高周波成分までの解析を充実する予定である。4.特定の成分にのみ現れる漏洩電流と思われる特徴的波形を認めた。伝播方向や変電所と電車の位置関係の特定が必要である。特に池田の場合、出現する成分が断層に直交する成分のみであることから、地殻ブロックに関わる可能性が有る。
著者
崔 煌 権藤 恭之 増井 幸恵 中川 威 安元 佐織 小野口 航 池邉 一典 神出 計 樺山 舞 石崎 達郎
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.5-14, 2021-04-20 (Released:2022-04-26)
参考文献数
38

本研究の目的は高齢者の社会参加と主観的幸福感の関連において,ソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである.地域在住高齢者のデータ(74〜78歳,N=624)を分析した結果,社会参加と主観的幸福感の関連は認められないが,4種類の社会参加のなか,地縁組織への参加は主観的幸福感と統計的に有意な関連があること,また,ソーシャル・キャピタルへの認識と近所の人の数を介した間接効果があることが確認された.この結果から,社会参加の種類によって主観的幸福感との関連が異なり,地縁組織への参加はソーシャル・キャピタルを介して主観的幸福感に影響を与えることが明らかになった.
著者
Keisei Kosaki Atsumu Yokota Koichiro Tanahashi Kanae Myoenzono Jiyeon Park Toru Yoshikawa Yasuko Yoshida Takayo Murase Seigo Akari Takashi Nakamura Seiji Maeda
出版者
SOCIETY FOR FREE RADICAL RESEARCH JAPAN
雑誌
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition (ISSN:09120009)
巻号頁・発行日
pp.21-118, (Released:2022-04-12)
参考文献数
30

Circulating xanthine oxidoreductase (XOR) activity may contribute to the pathogenesis of obesity-related adverse cardiometabolic profiles. This pilot study aimed to examine the cross-sectional associations between plasma XOR activity and cardiometabolic risk (CMR) markers in overweight and obese men. In 64 overweight and obese Japanese men (aged 31–63 years), plasma XOR activity and several CMR markers, such as homeostasis model assessment of insulin resistance (HOMA-IR), and clustered CMR score were measured in each participant. Clustered CMR score was constructed based on waist circumference, triglyceride, blood pressure, fasting plasma glucose, and high-density lipoprotein cholesterol. Plasma XOR activity in overweight and obese men was positively associated with the body mass index, waist circumference, visceral fat area, body fat mass, hemoglobin A1c, serum 8-hydroxy-2'-deoxyguanosine, HOMA-IR, and clustered CMR score and was inversely associated with handgrip strength and high-density lipoprotein cholesterol. Multiple linear regression analysis further demonstrated that the associations of plasma XOR activity with HOMA-IR and the clustered CMR score remained significant after adjustment for covariates including uric acid. Our data demonstrate that circulating XOR activity was independently associated, albeit modestly, with HOMA-IR and the clustered CMR score. These preliminary findings suggest that circulating XOR activity can potentially be one of the preventive targets and biomarkers of cardiometabolic disorders in over­weight and obese men.
著者
樋口 悠子 高橋 努 笹林 大樹 西山 志満子 鈴木 道雄
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.87-96, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
25

自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder; ASD) に統合失調症が併存する割合については様々な報告があるが、ASDでは統合失調症に類似した症状がみられることがあり、時に鑑別が困難な症例を経験する。われわれは神経発達症を背景に精神病発症リスク状態を経て統合失調症を発症した症例を経験したので報告する。症例は10代男性。乳幼児期に発達の遅れがみられ、4歳時に小児科でASD、注意欠陥多動症の特性を指摘され小学4年まで同小児科に通院した。小学5年時より、考えが人に見透かされている感じや盗聴されている感じなどが出現した。成績低下や不登校に加え、不潔恐怖や希死念慮もみられ、中学2年時に当院を受診し、精神病発症リスク状態の基準を満たした。間もなく自生思考や持続性の幻覚妄想が生じ、統合失調症と診断された。精神病症状の顕在化に先立ち測定したmismatch negativity (MMN)では、持続長MMN(duration MMN; dMMN) の振幅低下と周波数MMN (frequency MMN; fMMN)の潜時延長を認めた。各々統合失調症とASDの特徴を表しており、本患者の疾患素因の反映と考えられた。MMNは統合失調症の生物学的マーカーとして早期診断への応用が期待されているが、本症例の結果より、MMNがASD症例における統合失調症の併存リスク評価にも有用である可能性が示唆された。