著者
師岡 祐輔 國澤 洋介 高倉 保幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】我々は,改良フランケル分類(改F分類)Cの頸髄損傷者において,受傷後早期(1ヶ月以内)の移乗動作獲得には早期より座位能力がある程度保たれていることが重要であることを報告した。しかし,移乗動作に大きく影響を与える下肢運動スコアとの関連や具体的な予測指標についての検討は不十分であった。本研究では,改F分類Cの頸髄損傷者における受傷後早期の移乗動作獲得状況を検討し,目標設定に有益な下肢運動スコアと座位保持能力を含めた予測指標を明らかにすることとした。【方法】対象は2010年から2014年までに急性期病院で理学療法(PT)を実施した改F分類Cの頸髄損傷者31例とした。方法は,診療録の後方視的観察研究とした。移乗動作獲得の判定は機能的動作尺度(0-4点の5段階評価)を用い,2点以上(見守りから自立)を獲得群,2点未満(全介助から一部介助)を非獲得群とした。下肢運動麻痺は,ASIA機能障害評価の下肢運動スコア(LEMS),座位能力(座位G)は,ISMWSF鷹野改変(0-5点の6段階評価)を用い,それぞれPT開始時に評価を行った。統計学的解析は,受傷後4週の移乗動作獲得可否におけるLEMSのカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。また移乗動作獲得可否とLEMSのカットオフ値に基づいた群分けによるクロス集計表,さらに我々の研究を参考にLEMSのカットオフ値に加え座位Gに基づいた群分けによるクロス集計表を作成した。【結果】受傷後4週では,移乗動作獲得群は7例,介助群は24例であり,移乗動作獲得率は22.6%であった。4週後の移乗動作獲得可否におけるLEMSのROC曲線は曲線下面積0.80と高い予測能を示した(p<0.05)。移乗動作獲得を検出するLEMSのカットオフ値は27点であった。移乗動作獲得可否とLEMSの関係は,LEMSが27点以上で移乗動作獲得群は6例,介助群は7例であり,27点未満で獲得群は1例,介助群は17例であり,陽性的中率は46.2%,陰性的中率は94.4%であった。27点以上かつ座位G1で獲得群は5例,介助群は2例であり,27点未満で獲得群は2例,介助群は22例であり,陽性的中率は71.4%,陰性的中率は91.6%であった。【結論】先行研究では半年や一年などの長期的な移乗動作獲得についての検討は散見されるが,受傷後早期における移乗動作獲得に必要な具体的な指標は明らかとなっていない。今回の結果から,PT開始時から評価可能なLEMSのカットオフ値27点を用い,受傷後4週時点において移乗動作獲得が困難とされる例の予測に役立てることができ,獲得動作を視野に入れたPT介入の工夫の必要性が示唆された。また,LEMS27点かつ短時間の座位保持可能(座位G1)を指標とすることで,獲得可能となる例の予測する指標としての有用性が示唆された。
著者
坂本 謙司 森 麻美 中原 努 石井 邦雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.1, pp.22-26, 2011-01-01
参考文献数
84

網膜色素変性症は中途失明の3大原因の1つであり,本邦では緑内障,糖尿病網膜症に続いて中途失明原因の第3位を占めている.網膜色素変性症の原因は遺伝子の変異であり,常染色体劣性遺伝型を示すことが多い.網膜色素変性症の患者においては,網膜の視細胞および色素上皮細胞の広範な変性が認められ,自覚症状としては,初期には夜盲と視野狭窄が,症状が進行し40歳を過ぎた頃から社会的失明(矯正視力約0.1以下)に至る.しかし,本症の進行には個人差が大きく,中には生涯良好な視力を保つ患者も存在する.現在,人工網膜,網膜再生,遺伝子治療および視細胞保護治療などに関する研究が進められているが,本症の治療法は全く確立されていない.本総説では,代表的な網膜色素変性症の原因遺伝子と,それらに対応する動物モデルを概説し,さらにそれらの動物モデルを用いて得られた新たな治療法の開発の現状について紹介する.
著者
久保 ゆき子 高島 康裕 中武 繁寿 梶谷 洋司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.881-888, 2000-04-15
参考文献数
10
被引用文献数
8

平面配線領域上に指定された複数の点を相互に結ぶスタイナ木を別のスタイナ木へ変換するアルゴリズムFlipを提案する.これは,現スタイナ木の1枝をそれを含む面上のパスで迂回させる操作である.Flipは高速で働き,また任意のスタイナ木から任意のスタイナ木へ多項式回の適用で到達できることが証明できるので,VLSI配線における複雑な評価に対する有効なアルゴリズムになる.Flipは,2層HV配線領域のスタイナ木にも適用できるよう拡張される.例として採用した総配線長,クロストーク,スキュー,VIA数などの複合評価関数に対応する実験では,従来の構成的手法では達成できない特徴を有する結果を得ることができた.また,類似の手法であるrip-up and reroute手法との差異を付録で論ずる.Given a Steiner tree thatconnects designated terminals on a plane routing area, the Flip isdefind as a procedure that makes a current Steiner tree change itsconfiguration.It is to replace one of the edges of the Steiner treewith a detour on an adjacent face.Since the procedure runs quickly, and the reachability is proved, theidea can be a useful routing algorithm if it is implemeted bysimulated annealng.The idea is enhanced to the 2-layer HV routing.The performance of the algorithm was experimented for multipleobjectives.Some unique and satisfiable results were observed.The difference from the rip-up and reroute strategy is discussed in Appendix.
著者
川崎 ナナ 橋井 則貴 松石 紫 伊藤 さつき 原園 景 川西 徹
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.27, 2005

生体内のタンパク質には様々な糖鎖が結合している。この中のいくつかの糖鎖構造は、活性や疾患等と密接な関わりがあることが明らかとなってきた。しかし、それらの糖鎖の体内分布やその糖鎖が結合しているタンパク質は一部が明らかにされたにすぎない。我々は、生物活性や疾患等に関連する糖鎖の特異的検出、及び糖鎖結合タンパク質の同定を目的として、糖鎖及び糖ペプチド混合物の中から、任意の構造を有する糖鎖及び糖ペプチドを選択的に検出し、解析する方法を検討している。<BR> Galbeta1-4(Fucalpha1-3)GlcNAc (Le<SUP>x</SUP>)は、発生や接着等に関与している部分糖鎖構造で、特にシアル酸が結合したLe<SUP>x</SUP>は癌診断マーカーとして利用されている。しかし、Le<SUP>x</SUP>は抗体との反応性を利用して検出されているため、糖鎖全体の構造、及びLe<SUP>x</SUP>結合タンパク質等については不明な点が多い。MS/MSは糖鎖配列解析用ツールとして広く利用されているが、Le<SUP>x</SUP>には位置異性体Galbeta1-3(Fucalpha1-4)GlcNAc (Le<SUP>a</SUP>)が存在するため、MS/MSによるグリコシド結合の開裂だけではLe<SUP>x</SUP>を特定することは難しい。位置異性体が多く存在する糖鎖の特定には、多段階MS (MS<SUP>n</SUP>)によって生じた環開裂イオンが決め手になる場合がある。本研究では、Le<SUP>x</SUP>をモデル糖鎖とし、MS<SUP>n</SUP>によって生じたLe<SUP>x</SUP>特異的環開裂イオンを指標としてLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を選択的に検出する方法を検討した。<BR> はじめに、ESI-ITMS装置(LTQ-FT, Thermo Electron)を用いてピリジルアミノ化Le<SUP>x</SUP>を分析し、フルMS<SUP>1</SUP>、データ依存的MS<SUP>2</SUP>、MS<SUP>3</SUP>(前駆イオン:Gal1-4(Fuc1-3)GlcNAc)、及びMS<SUP>4</SUP>(前駆イオン:Gal1-4GlcNAc)の連続スキャンによってLe<SUP>x</SUP>特異的な環開裂イオンが検出されることを見出した。そこで、モデル組織マウス腎臓から切り出した糖鎖混合物をLC/ESI-ITMS装置を用いて連続スキャン分析し、複数のLe<SUP>x</SUP>結合糖鎖を検出すると同時に、その糖鎖構造を明らかにすることができた。<BR> 本連続スキャン分析は他の糖鎖の構造特異的検出にも応用可能であり、また、本分析法を糖ペプチド解析に応用することができれば、Le<SUP>x</SUP>結合タンパク質の特定につながるものと期待される。

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1904年11月18日, 1904-11-18

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1901年06月19日, 1901-06-19

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1902年06月28日, 1902-06-28
著者
倉本 哲男
出版者
日本教育経営学会
雑誌
日本教育経営学会紀要 (ISSN:02872870)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.63-77, 2003-05-30 (Released:2017-07-06)

Most "Curriculum development" focuses on content & instruction levels of Curriculum, in USA. There has not been enough study of how to manage the curriculum system. Therefore, this study is focusing on the "curriculum management" Cycle theory by F. English. The author of "Curriculum Management Audit" with AASA (American Association of School Administration) & NCAC (National Curriculum Audit Center), F. English is well-known for his theories regarding curriculum management. First of all, the definition & nature of "Curriculum Management Audit" is discussed. Second of all, the total curriculum management concept integrates two areas which are: 1. how to develop curriculum contents & instruction and 2. how to operate curriculum systems. Typical practice is analyzed to observe this concept. To define the integrated concept, I have worked with Larry Fletch who is the coordinator of Cooperation for National Service. Finally, this study has implications for Japanese curriculum management study as well.
著者
池永 均 向山 公人 大島 伸介 山田 正
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.628, pp.77-96, 1999
被引用文献数
1

塩淡二成層を有する汽水湖沼の長期的な界面変動予測手法の開発を目的に, 集中定数型の数値予測モデルを提案した. それを用いて, 1975年以降における網走湖の界面変動のシミュレーションを行い, モデルの適用性と塩水化の機構について検討した. 網走湖の界面変動は, 上流河川からの流入とそれに伴う湖内塩水の流出形態に依存する. 界面水位がピークを示す1987年を境に, それ以前は連行現象に起因する塩水流出成分が卓越するのに対し, それ以降では吸い上げによる流出形態が支配的となる. ここではそれぞれの流出形態を同時に考慮した塩水流出モデルを界面変動予測モデル組み立てることにより, 網走湖における過去20年間の塩淡境界の変動を実用上の精度で再現できることを明らかにした.
著者
丸山 祐丞 近田 彰治 矢内 利政
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.641-651, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

The purpose of this study was to test the hypothesis that the position of the center of buoyancy (CB) relative to the center of mass (CM) lay more caudally when the abdominal breathing technique is used, as compared with the chest breathing technique. Ten healthy men who practiced the abdominal and chest breathing techniques participated. The position of the CB, CM, and the distance between them (CB-CM distance) were determined as time-series data during inhalation with each breathing technique, and the changes in the positions and distance due to inhalation were compared between the two techniques. The results showed that both the CB and CM translated due to the inhalation and that the amount and direction of the translations differed between the two techniques (p<0.01). The increase in the CB-CM distance was significantly smaller (p<0.01) with abdominal breathing (1.11 cm) than with chest breathing (1.21 cm). For both breathing techniques, the CB was located more cranially to the CM, regardless of the amount of inhalation. These data demonstrate clearly that the position of the CB relative to the CM lies more caudally with the abdominal breathing technique than with chest breathing, thus supporting our hypothesis. These results indicate that breathing technique influences the magnitude of the moment of buoyant force around the CM and the swimmer's ability to float horizontally on the water surface.
著者
北澤 武 永井 正洋 加藤 浩 赤堀 侃司
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.35-42, 2008
被引用文献数
1

本研究は,小学校理科教育を対象として運用しているeラーニングサイト「理科ネット」の電子掲示板「質問コーナー」に,用語間の関係の強さに着目した検索支援システム「PRIUM (Portfolio Retrieval for Investigating Useful Material)」を構築し,それを運用した効果について検証した.その結果,児童は電子掲示板に理科に関する質問を投稿する前に,自分が質問したい内容と同じ質問があるかどうか,PRIUMを使って調べるという情報探索行動を示すことが分かった.さらに,PRIUMを構築する前よりも,構築後の方が過去に投稿された質問と同じ質問をする割合が減少し,「質問コーナー」の利用頻度や質問の投稿数が増加するなどの効果があることが示唆された.
著者
千葉 篤彦 飯郷 雅之
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.時計遺伝子のcDNAクローニングを縮重プライマーを用いたPCR法により試み、イモリからPer2、アユからPer2,Per3,Clock, BmallをコードするcDNA断片の塩基配列決定に成功した。両生類や魚類の脳における時計遺伝子の発現部位やリズムを調べることは脳内概日時計の所在の検索に有力な手段となることが期待される。2.イモリでは毎日定時刻のメラトニン投与は行動の概日リズムだけでなく、松果体自身の概日リズムも同調させることが松果体光受容細胞のシナプスリボンの数の概日リズムを指標とした実験で明らかになった。3.イモリの血中メラトニン濃度は夜間に上昇するが最大でも100pg/ml以下とかなり低いレベルであること、また、眼あるいは松果体のどちらかを摘出した個体では血中メラトニンは顕著に減少し日周リズムが消失することがわかった。イモリのメラトニン受容体は視床下部、中脳など脳内に広く分布していた。4.アユとニジマスの血中メラトニン濃度は明暗条件下で暗期に高く明期に低い明瞭な日周リズムを示した。このリズムはアユでは恒暗条件下でも存続し概日リズムを示したが、ニジマスでは常に高値を示し、概日リズムは観察されなかった。恒明条件下では両種とも低値を示した。5.明暗サイクル下でイモリの頭蓋にアルミホイル片を貼って松果体を遮光し、その直後に明暗サイクルを逆転させた。その結果、シナプスリボンの数のリズムを指標とする松果体の時計の位相は大きく変化しなかったが、行動リズムは数日の移行期を経て新しい明暗サイクルに同調した。このことは明暗サイクル下では脳内概日時計が松果体を介さずに直接明暗サイクルに同調できることが示唆された。6.ニジマスの自発摂餌活動を指標として検討した結果,松果体除去はニジマス脳内概日時計に影響を与えないことが判明した。

1 0 0 0 積雪モデル

著者
山崎 剛 杉浦 幸之助
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.607-612, 2006-11-15
参考文献数
29
被引用文献数
3 2

吹雪モデルを含む積雪モデルの現状と課題について概観した.積雪モデルは大きく分けて,少ない入力から積雪を評価する簡便なモデルと,可能な限り複雑な物理過程を考慮して積雪の層構造をも再現する多層モデルに分類される.また,吹雪モデルは個々の雪粒子の運動力学に基づくモデル,吹雪を空間濃度で表現し乱流拡散理論に基づくモデルが構築されている.それぞれに関して日本で開発されたモデルを中心に,代表的なモデルを紹介した.また,積雪モデルの国際相互比較Snow MIPについても紹介した.今後の課題として,雪の移動・再配分を含めた積雪分布モデル,森林地帯の扱い,気候予測に使える凍土を含めた長期積分可能なモデル,組織的な取り組みの必要性を指摘した.
著者
山下 嗣太
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.21-37, 2018-06-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
42

二〇〇七年に都市人口が世界人口の半数を超えたことが大きく注目を集めたが、二十一世紀における都市人口増加の大部分はグローバル・サウスで生じるとされている。このような背景の下で、近年の都市論においてはグローバル・サウスの都市が盛んに論じられている。しかし、これらの議論の多くは西洋の都市をモデルとした従来の都市論の転用に基づいており、グローバル・サウスの都市はそれらの理論からの逸脱によって説明される。その結果、対象の都市の特定の側面がネガティブに表象され、さらには、理論の適用可能性の低い都市はそもそも議論から排除されてきた。 本稿では、既存の都市論におけるグローバル・サウスの都市の位置づけを概観することで、このような理論的制約を明らかにする。その上で、理論の生産様式に内包されているこれらのバイアス、すなわちグローバル・ノースとサウスという地理的な権力関係を乗り越えた、ポストコロニアル・アーバニズムの論点を提示する。具体的には、グローバル・サウスに特有だとされてきたインフォーマリティ概念の読み替え、都市のマテリアルな構成要素への注目、相関性に基づいた分析概念について論じる。これらを踏まえることで、他の都市において生産された理論を単に適用するのではなく、議論の対象である都市を理論生産の場として捉え、都市の多様性を包摂した議論を行うための要件を示す。その上で、都市生活者としての研究者の立ち位置を理論生産の出発点とする必要性を述べる。