著者
北村 紗衣
出版者
武蔵大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

SNSを利用した大規模な受容の調査については倫理的に問題があり、実施できないだろうという結論に達した。一方でSNSを用いてシェイクスピア劇の受容状況を調査する事例研究については、演劇においては上演中にリアルタイムでのツイートができないためツイッターハッシュタグのあり方が他のイベントと異なっていて活用がしづらい一方、うまくマーケティングツールとして利用している演劇祭や上演もあり、またツイッターを用いて活発に意見交換を行っている観客層も存在することがわかった。
著者
松井 求
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.30-57, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
194

分子系統学は生物学の基盤であり、我々は情報から生物学的知見を取り出す過程で、その恩恵を陰に陽に受けてきた。同時に、分子系統学は革新的な手法やソフトウェアの開発が新たな分野の開拓に直結する、アルゴリズム・ソフトウェア開発者の桧舞台でもある。例えば、1987年に登場した近隣結合法は大規模なTree of Lifeの構築を可能にした。また、MAFFTやIQ-TREEといった高速かつ高精度なソフトウェアは、BLASTが情報生物学の基盤技術であるのと同様に、進化学を下支えする必要不可欠なインフラとなっている。本総説では、まず分子系統学を構成する「標準手法」の理論と実装を解説する。さらに近年勃発した「標準手法」をめぐる論争をまとめ、最後に、現時点でできる最善の分子系統解析アプローチについて議論しながら、将来の生物情報学者、進化学者、アルゴリズム・ソフトウェア開発者をこの魅力的な分野へといざないたい。
著者
高木 淳 玉井 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.340-341, 2005-04-01

“原罪”とはアダムとイブに象徴される人間が生涯負わされる罪(sin)のことである.アダムとイブの冒した罪をじっくり考える暇もないほどめまぐるしく移り変わる今の世の中で,免疫学で呼ばれている“抗原原罪”という現象はワクチン研究者にとって大きな重荷になっている.この現象は最初に受けた強い印象がいつまでも記憶されるように,工夫を凝らして作った型の数々のワクチンをいく度接種しても産生される抗体の多くは最初に接種したワクチンの型に対するものである.事実この現象はインフルエンザウイルス,デングウイルス,マラリアなどで認められている.病原体に感染するとナイーブT細胞によって免疫応答が開始され,病原体の排除のためエフェクターT,B細胞(障害性T細胞,形質細胞)が活性化し,病原体が駆逐されると記憶T,B細胞に再度の病原体の感染防御を託し死滅する.同じ病原体が侵入すると記憶T,B細胞はナイーブT細胞の活性化を抑制し,ただちに免疫応答する.しかし,インフルエンザウイルスなど初感染時から変異した病原体が感染すると,記憶T,B細胞は最初に免疫応答するはずのナイーブT細胞の活性化を抑制するので,最初に感染したウイルスの記憶に基づいたエフェクターT,B細胞を活性化させる(図1).その結果,最初のウイルスに存在した共通のエピトープだけに抗体が産生され二度目以降に感染したウイルスの変異したエピトープには抗体はあまり産生されない(図2).最初の記憶は消えないのである.インフルエンザウイルスは毎年少しずつ姿を変えて出現するので,感染するとまず初感染時の免疫記憶がよみがえるため,変異ウイルスは生き延びて新たな流行が拡大するのである. 母の記憶 Rh陰性の母親がRh陽性の胎児を妊娠したとき,胎児赤血球は胎盤を通過して妊娠中,特にほとんどの場合出産時に母親の循環血中に入り抗Rh抗体が産生され,Rh陽性の児の赤血球は破壊される.この現象は新生児溶血性疾患(hemolytic disease of the newborn,HDN)と呼ばれている.これを防止するために,出産後三日以内にRh陰性の母親が子どもの赤血球に反応する前に母親に抗Rh免疫グロブリン(Rh immunoglobulin,RhIg)を投与する.また,頻度は高くないが妊娠期間中の母子間出血も起こるので,それを防ぐために妊娠28週目に投与される.しかし,多くの場合母親はRh抗原に対し記憶B細胞を産生する.記憶B細胞はたとえ残存する抗体があっても抑制されないので,次回の妊娠時に特異性の高い抗Rh抗体が産生(二次免疫応答)されて重いHDNを発症することがある(図3).
著者
吉永 敦史 吉田 宗一郎 中込 一彰 後藤 修一
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.5, pp.710-712, 2007-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
15

症例は62歳, 男性. 1998年交通事故によりC3-4レベルの頚髄損傷となり両上下肢麻痺, 膀胱直腸障害が出現したが, 手術とリハビリテーションによって現在では歩行可能となっている. また排尿状態については術後尿閉がみられたが, 次第に改善し自排尿可能となっていたとのことであった. 2001年排尿障害を自覚し, 尿の排出ができなくなったため自己導尿目的にネギを尿道に挿入したが抜去できなくなったため当科受診となった. 鉗子による異物の除去はできず, 経尿道的に異物の除去を行った. 尿道カテーテルの歴史について調べてみると, 金属製のものや自験例のようなねぎなどが用いられていた時代もあった.
著者
原戸 喜代里 大場 修
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.74, no.646, pp.2709-2715, 2009-12-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
23

After the Showa enthronement, the buildings used for the ceremony were granted to places all over Japan. Upon research of receivers it is found the buildings which still exist are mainly in religious facilities.This paper shows the analysis of how these buildings in religious facilities were converted.Through the process of conversion, features and meaning of granted buildings are shown here.
著者
前川 直哉
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.5-23, 2007-11-30 (Released:2015-07-14)
参考文献数
39
被引用文献数
1

This paper elucidates historical changes in the images of homoeroticism between male students in the Meiji Era and examines the factors behind this change.During the Meiji Era, intellectuals subscribed to a morality that prohibited homosexuality. However, some male students, known as kouha (solid students), shared common values that placed a positive value on homoeroticism between male students. They loathed falling victim to womenʼs charms, and aspired to develop ideal relations between themselves and other elite male students.In the 1900s, the number of girls attending school increased markedly, and the presence of female students increased. These women came to be seen as suitable love or marriage partners for male students. In modern Japan,the emergence of female students helped to form the ideology of romantic love and a new positive image composed of love, marriage, and family.These changes brought about by the emergence of female students had an impact on the images of homoeroticism between male students. After the 1900s, a form of homoeroticism called “love between men” became popular among the nampa (soft students), and the kouha students lost their monopoly on homoeroticism. However, “love between men” was just a substitute for love between men and women. On the other hand,the kouha students strengthened their belief that they should avoid falling in love, as they thought it was too feminine. Therefore, they called close relations between men “friendships between men,” avoiding the use of the word “love.” In this way, homoeroticism between male students was separated into “love between men,” as an imitation, and “friendship between men.” Homoeroticism between male students was transformed into a form adapted to heterosexism.
著者
阿部 壽 菅野 喜貞 千釜 章
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.513-525, 1990-12-24 (Released:2010-03-11)
参考文献数
21
被引用文献数
4 23

It is known that great Sanriku tsunamis sometimes hit the Sendai Plain in the north part of the Honshu Island in Japan. Among those great tsunamis, the field investigation had been rarely carried out about the tsunami of July 13th, 869 (11th year of the Jogan Era) because of the lack of the materials of old documents. We carried out the field investigation of the height of this tsunami in the Sendai Plain on the basis of the archaeological view and the sedimentologic examination. The former method is based on the archaeologist's judgement whether historic relics have the trace buried by the running water or not. We estimated the inundated area from the result of the survey for the 8 points in the Sendai Plain. In the latter method, we dipped the test pit and observed the soil layer of the side wall minutely to find the sand layer being supposed to be carried by the tsunami from the dune. Moreover to analyze the character of the sand layer, we made the physical examination, the chemical analysis and the measurement of the age by 14C method. From the results of these investigations, the height of the Sanriku Jogan 11 earthquake-tsunami (A. D. 869) is estimated as 2.5-3m at the point 3km from the coastline in the Sendai Plain. Finally we checked it with the social and geographic circumstances at that time, and we got the result that the estimated height is not inconsistent with the record of this tsunami.
著者
渡辺 浩 江頭 憲治郎 碓井 光明 塩川 伸明 西川 洋一 城山 英明 大村 敦志 中谷 和弘 長谷部 恭男
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2001

今年度は、国家と社会、国際化と法、科学技術の発展と法の観点から第2期のまとめを行った。国家と社会に関しては、1.規範定立・執行における社会集団の役割(経済団体による法形成と執行、ドイツ医療保険法におけるFestbetragsfestsetzung制度、トランスナショナル社会運動)、2.市場と国家(政府業務の民間開放と法制度、株式会社・証券市場・市民社会、会社支配市場規制、ボーダレス化時代における租税制度)、3.ボーダレス時代における社会保障・安全確保・司法制度(社会保障法と憲法、警察行政における計画、関係性における暴力とその対応、司法の独立性)、4.国家財産法における公法と私法(政府業務の民間開放、韓国の国家財産法と法政策的課題)をまとめた。国際化と法に関しては、1.境界とは何か(生権力と国家、国境はなぜそしていかに引かれるべきか)、2.境界の変動および意味変容(国際法における境界の位相、国家の統合分裂とシティズンシップ)、3.変容する国際社会と法・政治の対応(パレスチナ問題と国際法、開発・エイズ・人権、経済連携協定、法整備支援)、4.人の国際移動と法・政治の対応(国際移住の法と法政策、民法における外国人問題、国際化と地方自治)をまとめた。科学技術の発展と法に関しては、1.科学技術と生命観(歴史的視座、動物観と法制度設計)、2.科学技術と制度(学問と法システム、リスク評価と法システム、予防原則)、3.科学技術と刑事法(現代型刑罰法規と罪刑法定主義、科学技術の進歩と刑法-過失責任)、4.科学技術と民事法(証券取引の電子化、無体化・電子化と占有概念、5.科学技術と国際法(非国家主体に対する軍備管理、国際環境法における科学技術と対話プロセス)を取りまとめた。なお、とりまとめの過程で2006年1月に国際シンポジウムを開催した。また、第1期の成果5巻も無事出版した。
著者
加藤 秀一
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.298-313, 2004-12-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
11

ロングフル・ライフ (wrongful life, 以下WL) 訴訟とは, 重篤な障害を負って生まれた当人が, 自分は生まれないほうが良かったのに, 医師が親に避妊あるいは中絶の決断をするための根拠となる情報を与えなかったために生まれてしまったとして, 自分の生きるに値しない生をもたらした医師に賠償責任を要求する訴訟である.そこでは自己の生そのものが損害とみなされる.しかしWL訴訟は論理的に無意味な要求である.なぜならそれは, すでに出生し存在している者が, 現実に自分が甘受している状態と自分が存在しなかった状態とを比較した上で, 後者のほうがより望ましいということを主張する発話行為であるが, 自分が存在しない状態を自分が経験することは不可能であり, したがってそのような比較を当事者視点から行なうことは遂行的矛盾をもたらすからである.それにもかかわらずWL訴訟の事例は増えつつあり, 原告勝訴の事例も出ている.それだけでなく, WL訴訟と同型の論理, すなわち存在者があたかも非在者であるかのように語る〈非在者の語り=騙り〉は, 裁判以外のさまざまな文化現象の中に見てとることができる.そのような〈騙り〉は, 死の概念を一面化し, 死者を生者の政治に利用することで, 新たな死を召喚する行為である.