著者
野原 淳 小林 淳二 稲津 明広 八木 邦公 野口 徹
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールよりもHDLの組成変化が冠動脈疾患発症に係わる可能性がある.本研究はHDL組成異常としてHDLトリグリセライド(TG)/HDLリン脂質(PL)比の上昇が種々の動脈硬化リスクと有意の相関が見られることを明らかにした. 同比率は特に糖尿病や慢性腎疾患との相関が強くHDL機能低下と関連する可能性がある.本邦ではコレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症が高頻度であるが,血中CETP蛋白量はHDL-TG/PLと正相関を示し,CETP欠損症ではHDL-TG/PL比は有意に低値であった.
著者
山西 輝也 大熊 一正 杉原 一臣
出版者
福井工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,次世代を担うICT人材を育成するために,ロボカップサッカーの競技部門の一つであるMixed Realityシミュレーションリーグで用いられたマイクロロボットを小・中・高校生向けの教材として利用し,学校間の垣根を越えた協調学習を通じて協働作業の大切さを理解させるような体験授業の考案を目的として実施された。この結果,ロボットシステムの整備とサッカーエージェントの開発が行われ,小学生でもグラフィカル・ユーザ・インターフェースを利用することにより,ロボット動作のプログラムが生成できる環境が整備された。
著者
伊藤 孝恵
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

国際結婚夫婦のコミュニケーション態度に関する質問紙調査を、国際結婚夫婦並びに日本人同士夫婦に対し実施した。その目的は、日本における国際結婚夫婦のコミュニケーションに対する認識の特徴、特に外国人妻の認識の特徴を明らかにし、これに家族社会学の見地を加え、国際結婚夫婦における「多言語共生」「対等で互いの違いを認め合う夫婦間コミュニケーション」を目指すことにある。具体的には、国際結婚夫婦のコミュニケーション態度に対する認識の特徴を、日本人同士の夫婦と比して明らかにし、コミュニケーション態度とコミュニケーションに対する印象・情動との関連性を探る。質問紙は、日本語版のほか、英語版、中国語版、韓国語版、ポルトガル語版、スペイン語版、タイ語版を作成し、対象者が回答しやすいよう配慮した。質問紙は、山梨県を中心にその周辺の市で配布した。回収されたデータは、入力・集計した。今後、分析を進め、論文としてまとめる予定である。
著者
山本 盤男
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

連邦国家インドで財政赤字削減と消費課税改革を目的に導入が目指されている財・サービス税(GST)の課税形態について、中央GSTと州GSTの詳細な制度設計を提示できたが、導入は中央と州政府間の同意が成立していないため遅れている。中央と州政府間の財源配分を中心とする連邦財政システムの改革は、第13次財政委員会の勧告が現状維持的であったため、第14次財政委員会が担うことになった。財政整理での公共支出改革の重要性が増した。
著者
前川 佳遠理 大久保 由里 北岡 タマ子 田中 輝 ライデルマイヤ マーガレット フェルフーフェン ポール 戸塚 順子 内海 愛子 ランゲン ヨハン・ファン
出版者
国文学研究資料館
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

国内外の史料所蔵機関のウェブサイトやカタログの収集に加え訪問調査を行い、個人・全国の戦友会・団体の事務局に質問票を郵送し、アンケートの集計を行った。個人・戦友会・団体の活動履歴や所蔵資料を国際文書館評議会ICAの国際標準「団体,個人,家に関する記録史料オーソリティ・レコード:ISAAR (CPF) Ver.2」に準拠して作成し公開準備を行った。本課題を機に戦友会事務局資料を中心に寄贈が進み、順次公開の予定である。国外ではインドネシア及び在オランダを中心に東南アジアの戦中・戦後の資料所在情報を調査し、特に俘虜銘々票の原本や原爆被害者調査委員会の原本資料のデジタル化・データベース化を通じた共有化モデルのプロジェクトに発展した。
著者
高津 浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

1.二次元三角格子磁性体PdCrO2の単結晶育成方法の確立これまでPdCrO2の単結晶の育成報告は一例もなかったが、約1年間にわたる試行錯誤の結果、フラックス法を用いることで単結晶が育成できることを見出した。更に、育成環境の最適化を行い、おそらく初めてPdCrO2の単結晶育成方法の確立に成功した。この結果は磁化率や電気抵抗率の本質的物性の解明に繋がっただけでなく、以下で詳しく述べるように二次元三角格子磁性体で初めて非従来型の異常ホール効果を発見する礎となった。2.PdCrO2における非従来型異常ホール効果の発見育成したPdCrO2の単結晶を用いて、磁場を[001]方向に印加し、電流を[110]方向に流した時のホール抵抗の磁場・温度依存性を調べた。その結果、局在Crスピンが120度構造に反強磁性秩序化するTN=37.5Kより低温のT*=20Kから、ホール抵抗の磁場依存性に従来のホール効果では説明できない非線形性を見出した。更に、T*では磁化率や比熱にも異常があることや、同構造で同価数・非磁性のPdCoO2のホール効果には40K以下の低温で非線形性が現れないことを明らかにした。これらの結果より、PdCrO2のT*以下のホール効果がスピン構造の変化と密接に関係する可能性を浮き彫りにした。これは近年フラストレート磁性金属のホール効果で注目されている「スピン配置の幾何学性」を起源とする新奇なホール効果と関係する可能性がある。これまで二次元三角格子系では、理論的にはマクロにそのようなホール効果は出現しないことが指摘されてきたが、実験的には適当なモデル物質がなかった為、明らかにされてこなかった。従って、本研究によりモデル物質PdCrO2を探し出し、初めて実験的にホール効果を検証した点は重要である。特に、単純な場合の理論予測とは異なり、明確な非従来型の異常ホール効果を見出した点は意義が深い。二次元三角格子は幾何学的フラストレート格子の中でも最も基本的な構造を持つ為、本成果は今後フラストレート磁性金属の磁性と導電性の相関を研究する上でも重要な情報を提供することが期待される。
著者
高木 信二 小川 英治 永易 淳 岩壷 健太郎 江阪 太郎 廣瀬 健一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

グローバル危機を契機に、(特にアジア地域における)経済間の相互連関が注目されるようになった。また、危機の発生確率を軽減するために各国が採るべき政策や制度への関心が高まると同時に、危機への耐性を維持する観点から、資本管理政策が主権国家の政策手段として広く受け入れられるようになった。本研究の成果は多岐に及ぶが、その核心的部分は、(1)経済連関をはかる手法を開発したこと、(2)実証的に経済統合の性格を特定化したこと、(3)資本管理政策の有効性を検証したこと、(4)危機発生確率を低下させるための政策、制度を明らかにしたことにある。
著者
鈴木 雅明
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

この研究は、J.S.バッハの教会カンタータについて、資料批判、作品研究、対訳作成などの準備段階から実際の演奏に至るプロセスを吟味し、公開演奏とCD録音において統合する目的で始めたものである。当初18曲のカンタータを3つの群に分けて3年にわたる研究の対象としたが、第1群として分類した8曲のうち7曲(BWV45,102,17,19,36,27,47)について実際に公開演奏とCD録音が終了した現段階で、この研究は個人的な事情により終了せざるを得なくなった。ここまでの研究において、特筆するべき内容としては、BWV102の自筆総譜に書き込まれた演奏上の指示が作曲者によるものかどうか、という点について小林義武氏(研究協力者)に資料調査を委嘱し、その結果を演奏に反映させた。またBWV36について作品成立の複雑な経緯については、江端伸昭氏の助力を得て整理した。またRWV102、27、47のアリアにおけるオブリガート楽器の撰択については、その複雑な事情に鑑み、資料の検討および可能性のある楽器の試奏を経て、複数の可能性を録音して、音楽上の表現を比較できるようにした。また聖書の引照つき対訳は、藤原一弘氏の協力を得て作成した。批判的パート譜の作成については、ウェブ上で公開して同時にオリジナル資料を直ちに参照できるようなシステムを構築するには至らなかったが、原資料に見られる不統一な指示を既成のパート譜に書き入れて演奏に供した。将来的な出版については、演奏上の指示がかえって自由な演奏の妨げとなり得ることから、理想的な形態については今後の研究に待たざるを得ない。しかし、ここまでの研究を通じて、上記のカンタータの実際の演奏結果をCDで公表することができ、それによって、演奏上の問題点と表現の一例を示すことができた。そのことによって、我が国のJ.S.バッハ作品の受容に微力ながら貢献できたと考えている。
著者
戸谷 陽子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、演劇・舞台芸術の書物に加え、過去10年間ほどに加速した政治経済的・文化的基盤と文化システムの変化について論じる基本的な研究書、学術雑誌等の書誌を収集・通読し理論化する作業は引き続き行ったが、研究最終年度であることを意識し、これまでに収集した資料や研究成果を「グローバル化した文化システムにおけるアメリカ舞台芸術」(仮題)というテーマのもとに集約すべく、概観しつつ整理する作業に重点をおいた。その実績として、演劇史の流れに深く関わる総括的な論文を発表した。また、過去10年間に加速した、演劇における知識や情報のグローバル化が、実際の演劇作品制作の現場にどのような影響をもたらしているか、また、伝統と現代、国境を越えたコラボレーションなどの試みがグローバリゼーションにより、どのような変化を遂げたかなどについての調査を開始した。そこで、具体的には、まず、国際演劇祭で流通する規格化されたプロダクションの詳細について、製作の過程、マーケティング戦略の実情などを丹念に調べ、これと芸術という概念の関わりを考察した。また、近年活発化している、国境を越えた、複数の民族や文化の担い手のコラボレーションによる伝統へのアプローチと、それらを巡る学術的な言説の変遷について考察を進めた。このため、来日している国際演劇祭のプロデューサや芸術監督にインタヴューを行い、また積極的に演劇祭や学会などについての情報を収集した。この成果は来年度に米国で開かれる学会で発表するべく準備中である。
著者
斎藤 彰一
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究において,匿名通信における匿名性の向上と,携帯端末などの性能の低い計算機や家庭や移動端末等のネットワーク環境における匿名通信利用について研究を行った.さらに,新しい通信方式である送信者追跡困難通信を開発した.この新方式は,追跡困難性による利用者個人情報の保護と,匿名性の悪用を防止することが可能である.これらの研究成果は,個人情報を保護するネットワークを備えたネットワークインフラの構築に貢献できると考える.
著者
市野川 容孝 金 會恩 KIM Hoi-Eun
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

2009年11月末に来日以来、金氏は、日本帝国にとって最も重要な(他者)であった朝鮮人を、植民時時代の人類学者たちがどのように位置づけたかに関する研究に力を注ぎ、その研究成果を精力的に発表してきました。金氏がドイツの歴史研究者たちと企画した討論「Asia,Germany,and Transnational Turn」は、イギリスの重要な学術誌であるGerman Historyの2010年12月号に記載されました。この論文で金氏は、ドイツ史を世界史的な視点から再評価する必要性を力説しつつ、中国にのみ関心を集中されている最近のドイツ人研究者たちが、19世紀末のドイツ-アジア関係で最も重要な位置を占めていた「ドイツ-日本」間の複雑な多面的な交流を見落としていると指摘しました。また、金氏は、さらに二つの学術論文を仕上げ、国内外の学会で発表しました。金氏が昨年10月にサンフランシスコで開催されたドイツの学会にて発表した論文「Measuring Asianncss : Erwin Baelz's Anthropological Expeditions in Fin-de-Siecle Korea」は、日本の近代医学の父といわれるE・ベルツが1899年、1902年、1903年の3回にわたっておこなった朝鮮人種研究に関する、初の本格的な学術研究です。この論文では金氏は、アジアの諸人種間の階層とその相互関連性を強調したベルツの人種研究が、その後の人種に関する言説に非常に大きな影響を与えたことを実証しています。この論文は加筆修正の上、2011年に出版予定のM.Richl&V.Fuechtner eds.German-Asian Cultural Studiesの1章として刊行される予定です(その他の研究発表については、下記「11.研究発表」を参照のこと)。
著者
内山 靖
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

薄暗い視覚環境下では、 明所と比較して姿勢調節機構が低下しており、むしろ閉眼時よりも姿勢調節の緻密さが低下していた。また、視認性が低下しているにもかかわらず、明所と類似した歩行戦略を選択していることが明らかとなった。本研究から、薄暗い環境では姿勢調節にかかわる情報処理過程が複雑であるために機能不全が顕在化しやすく、これらの点から臨床評価指標を開発することの妥当性が示唆された。
著者
古屋 秀隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

中生動物ニハイチュウについて、分類、系統、およびニハイチュウと宿主との関係(共進化)について調べた。(1)分類 カリフォルニア湾産Octpus hubbsorum、オーストラリア沿岸産Sepioteuthis australis とSepioloidea lineolata、および日本沿岸産クモダコとウスベニコウイカの腎嚢を検索し、10種の未記載種のニハイチュウ類を発見した。そのうち3種のニハイチュウ類を記載した。(2) ニハイチュウの細胞分化:細胞の分化が起きているかどうか16遺伝子の遺伝子の発現パターンよって調べた。(3)ミトコンドリアゲノムの解析ニハイチュウとプラコゾアのミトコンドリアゲノムの構造を調べた。ニハイチュウ類では、一般にミトコンドリア遺伝子がそれぞれミニサークルを形成していることを明らかにした。(4)共進化ニハイチュウと頭足類について、ミトコンドリアCOI遺伝子と18SrDNAの塩基配列を用い、それぞれの種間の系統関係を調べた。その結果、共進化している種もみられる一方、ホストスイッチングした種もみられ、厳密な共進化はみられなかった。
著者
古荘 匡義
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成20,21年度の研究では、中期ミシェル・アンリの実践および世界の概念を、平成20年度は前期思想との関係において、平成21年度は晩年のいわゆる「キリスト教の哲学」との関係において考察した。平成22年度は、二年間の研究をさらに掘り下げるべく、彼の「キリスト教の哲学」そのものの構造を解明し、その上でアンリの他者論、共同体論を検討した。三年間の研究を通じて、彼の思索全体における倫理概念の意義を通時的に解明できた。晩年のアンリにとって、倫理とはまずもって「キリスト教の倫理」である。それは、神の〈掟〉を守り、キリストの生と同一化して行為することであり、神の絶対的〈生〉のうちで生きることである。よって、他者関係とは、絶対的〈生〉のうちでの純粋に情感的な体験において他者と共に生きることであり、これこそが倫理的なのである。しかしアンリの倫理は、単にユートピア的な他者との合一ではない。アンリは他方で、固着した律法を守る行為の非倫理性や、表象や対象が媒介することによる他者関係の失敗についても考察している。この他者関係の「失敗」それ自体がもう一つの他者関係である。この「失敗」は純粋に情感的な他者関係に基礎づけられて成立しつつも、純粋に情感的な他者関係に影響を与える。アンリの哲学は、二つの他者関係の絡み合いによって倫理を表現する。このような表現を可能にするのが、「キリスト教の哲学」の行為遂行性である。この哲学は聖書解釈ではなく、聖書によって促された哲学的思索である。つまり、聖書のうちに絶対的な〈真理〉がある、とまず宣言し、この〈真理〉を哲学的に解明しようとする。このような思索は、それ自身が情感的な実践である。この思索が読者に向けて語られるとき、不可避的な誤解に晒されつつも、情感的に受容され得る。この行為遂行性こそが、純粋に情感的な事柄を言語で表現するという行為を可能にしている。
著者
但馬 亨
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の主たる研究の目的は、以下2つの課題の実行であった。すなわち、国際的にこれまでの研究内容を発表することと、前年度から継続して貴重資料群のデータベース作成に一定の目途を立てることである。第一の課題については、2009年7月から8月にかけてハンガリーの首都ブダペストで行われた、科学史関連では最大である国際学会において18世紀半ばの弾道学的諸問題の理論的および実験的側面についての分析結果を発表し、2010年1月には京都大学理学部において同大学の名誉教授である上野健爾氏主催の数学史国際シンポジュームで曲線概念と関数概念の混交する17世紀末から18世紀前半における無限小解析学について、国際的な近代数学史研究の権威である、ベルリン工科大学のEberhard Knobloch教授と議論を行った。また、第二の課題の画像データベースの作成については、本年もパリのフランス国立図書館を中心として、貴重書の収集に努めた。その結果、パリ王立科学アカデミーの構成員である数学者Etienne Bezoutによる応用力学についての教育的著作やBenjamin Robins, Leonhard Eulerの砲術書の新フランス語訳等のデジタルデータ化を行った。ハードウェアレベルからの画像処理専用のコンピューターの構築についても前年から継続し、諸図形の形状をデジタル人力する専用ソフトを導入しデータベースを作成した。
著者
塩塚 秀一郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

『人生 使用法』を特徴づける「空虚」は、作家の生い立ちにその起源を求めることができる。精神科医ポンタリスは、偽名のもとにペレックの症例を報告し、この患者がみせる場所への執拗なこだわりが、幼年期をしるしづける「空虚」を根源にもつことをあざやかにえぐりだしている。「ピエールの母親はガス室で亡くなっていた。ピエールが飽くことなく充たそうとした空っぽの部屋の数々、その背後にはこの部屋が隠されていたのだ。あらゆる名の背後に、名もなきものがあった。あらゆる形見の背後に、痕跡ひとつ遺さず亡くなった母親がいたのだ。」部屋を充たして増殖する「細部」と同じく、『人生 使用法』を充たしている「物語」もまた、そもそもの欠如をうめあわせるものであったようだ。自伝『Wあるいは子供の頃の思い出』の冒頭は次のように始まる。「ぼくには子どもの頃の想い出がない。十二歳ごろまでのぼくの物語は数行に収まってしまう。父を四歳で、母を六歳で亡くした。戦中はヴィラール=ド=ランスの寄宿舎を転々とした。一九四五年に父の姉とその夫がぼくを養子にした、というものだ。」作家の幼年期における物語の欠如が、のちのロマネスクの希求につながっているということは十分に考えられよう。この視点から考え直すと、「制約」は単なる技術的仕掛にはとどまらなくなる。物語を求める無意識の衝動に突き動かされるままになるのでは、同一の物語を繰り返してしまう危険性があるが、「制約」によって、ペレックの紡ぎ出す物語は、そうした生々しい刻印を覆い隠すことに成功しているのである。
著者
藤井 和佐 西村 雄郎 〓 理恵子 田中 里美 杉本 久未子 室井 研二 片岡 佳美 家中 茂 澁谷 美紀 佐藤 洋子 片岡 佳美 宮本 結佳 奥井 亜紗子 平井 順 黒宮 亜希子 大竹 晴佳 二階堂 裕子 中山 ちなみ 魁生 由美子 横田 尚俊 佐藤 洋子 難波 孝志 柏尾 珠紀 田村 雅夫 北村 光二 北川 博史 中谷 文美 高野 宏 小林 孝行 高野 宏 白石 絢也 周藤 辰也 塚本 遼平 町 聡志 佐々木 さつみ
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

研究課題に関する聞きとり調査、質問紙調査等から、地方社会における構造的格差を埋める可能性につながる主な条件として(1)地域住民の多様化の推進及び受容(2)生業基盤の維持(3)定住につながる「地域に対する誇り」が明らかとなった。過疎化・高齢化が、直線的に地域社会の衰退を招くわけではない。農林漁業といった生業基盤とムラ社会の開放性が住民に幸福感をもたらし、多様な生活者を地域社会に埋め込んでいくのである。
著者
秋永 優子 中村 修 下村 久美子 阿曽沼 樹 キ須海 圭子
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

高齢者訪問給食サービスの献立の改善を目的とし、まず、13自治体の担当者に聞取り調査を実施した。栄養基準については、設定している自治体の場合、エネルギーのみ、さらに数種の栄養素についてなど様々で、数値を示していない自治体の場合、高齢者福祉施設の食事を利用するなど3通りがみられた。福岡県内全自治体を対象に基礎調査を実施したところ、サービス実施上のねらいとして、ほとんどが栄養バランスのとれた食事提供をあげたが、献立や実物のチェックはほぼされていなかった。そこで、献立評価方法を検討し、「栄養・食品構成」「食材・生産」「料理の味」の観点からなる、日常的に手軽に実施可能なチェックシートを提案した。
著者
水野 猛
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

情報伝達基本機構である二成分情報伝達系(以下 TCS と略)は微生物に最も普遍的な環境シグナル検知・応答機構である。しかし、永い進化を経て植物においても環境シグナル検知・応答機構として重要な生理機能の制御に関わっていることが知られている。特に、サイトカイニンやエチレンなどの植物ホルモンに応答した情報伝達系や概日時計機構に必須の役割を担っている。本研究計画ではモデル植物シロイヌナズナだけでなく、モデルマメ科植物ミヤコグサや最初の陸上植物の子孫であるヒメツリガネゴケを対象として TCS による植物の高次機能統御における役割とその分子機構を包括的に理解することを目的とした。その結果、サイトカイニンの応答機構や概日時計機構に関して多くの新しい知見を得ることができた。これらの成果は30報近く学術論文として公表した。
著者
古屋 秀隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1)分類 イイダコ、スナダコ、コブシメ、テナガコウイカ、メンダコから10新種のニハイチュウを記載した他、ボウズイカとミズダコのニハイチュウの再記載を行なった。(2)系統関係ギャップ結合タンパクのイネキシンによるニハイチュウの系統解析を行なった結果、以前から考えられていた扁形動物との関連性はなく、軟体動物や環形動物との関連が深いことが明らかになった。(3)共進化 ニハイチュウと頭足類について、それぞれの種間の系統関係を調べた結果、共進化している種もみられる一方で、宿主を変えた種もみられ、いわゆる共進化はみられなかった。