著者
西田 究
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

USArray,F-net,IRIS,ORFEUSの広帯域地震計データの大量のデータを用いることにより、グローバルに伝播する実体波の抽出に成功した。今後速度構造の時間変化を研究する上でも重要な知見である。海底地震計の自己相関により、東北地方太平洋沖地震に伴うS波速度の低下およびその後の回復、また異方性の時間変化を検出した。浅部の堆積層内が地震時に強く揺すられた事により、これらの現象を説明することが出来る。防災科学研究所のV-net観測点(岩手山)の上下アレーデータを用いて相互相関解析をしたところ、地震にともなう速度の低下と、それに続く地震波速度の回復を検出した。
著者
稲場 純一
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

我々は、Cucumber mosaic virus (CMV)を改変したウイルスベクターであるA1ベクターに野生型ペチュニアV26系統のchalcone synthase (CHS)遺伝子のpromoter領域を挿入したA1-CHSproを用いて、CHS遺伝子を標的にTGSを誘導することが出来た。またA1-CHSproを用いて誘導されたTGSはこのウイルスベクターが存在しない、自殖後代個体においても維持されることが前年度の研究で明らかにした。これまでpotato virus X (PVX)ベクターなどを用いて内在性遺伝子に対するTGS誘導の試みがなされたが、成功事例は報告されていない。今回CMVベクターでは内在性遺伝子に対するTGS誘導を行うことが出来たことは特筆すべきことである。今年度は、なぜ「CMVベクターを用いて内在性遺伝子を標的としたTGSが誘導できたのか」という点に着目し研究を行った。すなわちCMVベクターが持つ2bタンパク質の役割がTGS誘導の促進に大きく関わっていると考えた。この仮説を証明するため、本研究ではプロトプラストassay systemを用いた。まずCHS promoter領域の配列に相同な二本鎖RNA(dsCHSpro)を作製した。dsCHSproと2bを同時に花弁から得られたプロトプラストに対し導入したところ、dsCHSproのみの対照に比べ、CHS mRNA量がより大きく減少し、大きなヒストン修飾の変化が観察された。つまり2bタンパク質はTGSを促進する能力を持つと考えられる。2bタンパク質は宿主細胞の核に局在する。またRNA silencingの引き金となるsmall interfering RNA (siRNA)と結合するという特徴をもつ。CMVベクターから発現する2bタンパク質がTGSを誘導するsiRNAと結合することによって宿主細胞の核への移行を促進することが明らかとなった。
著者
中西 祥彦
出版者
神戸常盤女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

ID(インストラクショナル・デザイン)でみる数学の授業の提案である。(y=距離、t=時間)本校3年家庭科生を対象に、1クラスを4班(数名)に分けて実施。お互いに役割分担をさせ、協力作業を進めながら、ICT活用のもと、「歩く」という共通体験を通して、「一次関数(y=○t+△)のグラフとその意味するところを理解させる」ことが本授業の大きな目的の一つである。<初めに現象ありき>で、体験学習を通した実験から始めて、同じような理解(○=(y-△)÷t)をえる。グラフの傾き=○から、<速さ>が<距離>÷<時間>という比の関係で、与えられることの理解に到達させる。しかしその過程が、通常と異なるのは、生徒たちが、机上に置かれた距離センサーに向かって、「歩いたり/退いたりする」行為をくりかえすことから始まるからである。そしていろいろな歩き方を工夫する中で、グラフのプロットと歩き方の意味づけ等の考察を通して、まさに自発的な行動や思考が生まれ、連続または不連続なグラフの動き方もみつけだしたりしながら、一定の結果をだしてくれたのでこちらもわくわくしてくる。(生徒の実験の様子はVTRに記録)それから、「共通」体験とか「共通」理解という、言葉「共通」の意味を一寸考えてみたい。一般的には、「共通」=「最大公約数」である。だから<殆ど100%に近い>という意味をもたすには、生徒全員が同じような気持ち体験が必要。それにはICTハイテク技術が、授業の流れの下支えをしているからこそ可能で、教師は思い通りのIDが実践できることになる。一歩ずつの生徒の動きは、グラフ電卓の小さな画面で、ほぼ直線のプロットに変換され、PCを経て、リアルタイムで目の前の大画面に投影されここで目が釘付けになる。このビジュアルな共通感覚がとても大切。これこそが持続可能な思考を引きだす泉のような原点だと思う。最後に、この授業から、生徒に教えられたことがある。ガニェ先生が書かれなかった、学ぼうとする生徒の側からのIDの視点の発見である。幸いなことに、次の課題までえられたことになる。
著者
板野 肯三 新城 靖 佐藤 聡 中井 央
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現在のWorld Wide Webは、クライアント・サーバ・モデルに基づき構築されている。この形態は、個人情報の繰り返し入力、サーバでの安全な保管、および、攻撃やクロスサイト・スクリプティング攻撃を防ぐことが簡単ではないという問題がある。これらの問題を解決するために、本研究では、現在のWorld Wide Webのアーキテクチャを再設計する。具体的には、本研究では、サービス提供者側から利用者側を呼び出す(コールバックする)という方法を用いる。本研究では、コールバックのプロトコルを設計し、それに基づき新たにWebサーバ、Webブラウザ、ルータ、個人情報バンクを実現し、提案手法を検証した。
著者
石井 由理 塩原 麻里
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

文化のグローバル化と混合における学校教育の役割を解明すべく、日本とタイの政策比較と質問紙調査を行った。日本の2世代間、日・タイ大学生間の比較から、明治以来の学校教育を通した音楽文化の近代化は、日本の全体の音楽文化に唱歌・童謡として根付いたが、個人の領域では西洋ポップスの影響が大きいこと。政府が積極的に介入しなかったタイでは、国、個人のいずれにおいても西洋ポップスの影響が大きいことが明らかとなった。
著者
平野 勝也
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度は,昨年度の,店舗単位でのイメージ分析の街路単位への拡張を行った.まず特徴的な街並みを含むように,東京を中心に実際の11街路19区間について調査を行い,実際の街並み写真及び地図等の基礎資料収集を行った.街路の景観特性は、店舗のパターン認識の集積であると捉え,店舗のイメージから,街路のイメージを説明する論理的枠組みの整理を行った.即ち,店舗パタンにはイメージの代表値があり,その代表値を昨年度の成果である店舗パタンごとに店舗イメージ平面の重心として算出し,これに基づき,実際の街並みのイメージ指標を,店舗軒数による重み付き平均及び分散を,街並みイメージ計量手法として提案した.これに基づき調査した19区間について,街並みイメージの計量を行った.一方,昨年度の店舗と同様,街並みイメージを,被験者に分類試験,SD法心理実験を行うことを通じて,街並みイメージの実験的把握を行った.その結果と,街並みイメージを計量手法による結果を比較検討を行ったところ,極めて良好に,双方が一致することが確認された.これは即ち,提案した街並みイメージ計量手法の有効性の証左であると考えられる.このことにより,概ね街路単位においても,店舗同様,店外論理記号猥雑さを演出し,店外直感記号がそれを補完している点,店外直感記号及び店内直感記号の多さが親近感を演出している点,論理記号の多さが疎外感を演出していること等が明らかとなった.
著者
SHOEMAKER Michael
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究のテーマは、カメラ画像を用いた深宇宙探査機の自律航法システムについての研究である。探査機に搭載されたカメラで得られる画像では、探査機の運動に伴い画像中の点が移動する。これをオプティカル・フローという。本研究では、無人小型航空機(MAV)の分野で最近注目されている自律視覚航法の手法を、宇宙探査機に適用することを考えた。自律視覚航法とは、ハエや蜂などの複眼をもつ生物の視覚を模倣した状態推定法である。このオプティカル・フローをワイド・フィールド・インテグレーション(WFI)と呼ばれる広域統合処理をすることで、未知の天体表面形状にも頑健(ロバスト)な状態推定が可能になる。しかもこの手法は、低解像度のカメラを用いることができ計算負荷も小さいために、質量や電源に制限がある小型探査機による宇宙探査ミッションに適している。WFIの計算手法を詳細に再検討した結果、積分計算を必要としない、従来の手法よりも簡単な数学的定式化を行った。提案手法は、計算負荷がより小さくなるが、数学的には従来の手法と等価であることを証明した。したがって提案した手法を用いることにより、従来のWFI手法と同程度の衝突防止や相対航法推定精度を得ることができる。また、小惑星探査機だけでなく、他の自律視覚航法システム(例:MAV)にも適用可能である。本研究では、表面形状が未知である小惑星への接近・ホバリングミッション・フェーズを考え、提案手法を適用した場合の数値シミュレーションを行った。その結果、表面の凹凸がわかっていなくても、小惑星に衝突することなく探査機をホバリングさせることができることを示した。さらに、小惑星に相対的な探査機の並進速度と角速度を推定できることを示した。
著者
池田 孝之 平良 博紀 小場 京子 崎山 正美
出版者
琉球大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1986

1.壁面緑化省エネ効果実例実験の方法(1)実験対象は、屋上緑化収集事例より沖縄県読谷村の住宅とした。当地は始めは米軍家族用住宅として造られた屋根スラブのみの平屋コンクリート住宅約30戸の住宅地である。実験は、屋根スラブ上面に棚をこさえ緑をはわせた緑化住宅と屋根スラブのみの住宅を比較対象とした。(2)測定は、気温を中心に屋根緑ネット内,屋根上部空気層,屋根表面,天井内,室内,戸外で行なうと同時に、室内湿度,屋根面日射量,微風速も測定した。測定器具は、自記温度計(マルチロガー12CH,銅・コンスタンタン熱電対),自記湿度計ロビッチ自記日射計,風速型指示風速計を用いた。(3)期間は、残暑厳しい10月22〜25日の4日間の快晴日で、自動記録で終始継続的に行われた。2.壁面緑化のふく射熱緩和効果一日の最も大きな温度変化は、緑化なし屋根面で、19.9℃(6:17)〜43.0℃(14:4)と23℃の変動があるのに対し、緑化住宅屋根面では終日22℃(6:14)〜25.7℃(16:44)と大きな変動はなく安定している。特に、13時〜15時には、両邸の差は最大23℃と著しい。直ぐに日射を受ける屋根面と、緑を施した場合とではふく射熱の差が大で、緑による遮へい効果の高さがうかがえる。(2)室内温の日変化は、緑化なし住宅が23.3℃〜29.7℃で6℃の変動に対し、緑化住宅では24.3℃〜28.7℃と変動が小さい。両邸における室温の差は17時に最大3℃となる。(3)但し屋根面温度の著しい差がそのまま室内温に反映される訳ではなく、天井ふところによる緩和作用も大きいことが伺える。(4)緑なし住宅の室温や天井内温が緑化住宅のそれと同様な値となるのは21〜22時頃からであり、日中のふく射熱がかなり遅くまで蓄積されていることを如実に示す。
著者
五野井 郁夫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、国際社会での規範形成においてグローバルに連携した人々やNGO、すなわちトランスナショナルな市民社会(以下TCSと略す)が果たしている役割について、(1)国際政治理論と(2)TCSのキャンペーンにかんするフィールドワークを通じた事例研究の架橋から明らかにすることである。本年度もMake Poverty Historyキャンペーンの政治過程を把握すべく英仏各国の研究機関・NGOに調査をすることでTCSによるメディアを駆使したアドボカシーの手法を学び、一部を研究成果として発表した。海外査読誌発表では、第二次大戦後の国際経済体制の制度構想と実務家の実践において周縁化されていた地域の存在、途上国債務発生メカニズムの関連性を"Conceptual Relevance of "Embedded Liberalism" and its Critical Social Consequences", PAIS, Graduate Working Papers Number 03/06で明らかにした。海外学会では、米国ISA研究大会の査読を通過した報告要旨において、戦後日本の社会運動と現在のグローバル公共圏へのリンクについて論じた。国内実績では、現在日本の若い世代で旧来とは異なる市民意識が醸成されつつあり、それらを基底としたポスト新しい社会運動的方向への移行を「ホワイトバンドの国際政治学-トランスナショナルな市民社会による国際規範形成と途上国重債務救済をめぐって-」『創文』491号でひろく江湖に問うた。また、日本国際政治学会と日本社会思想史学会で報告を2本行った。これら研究調査から得られたTCSによる規範形成の理論と実践にかんする知見の一部を、査読誌『相関社会科学』に「世界秩序構想としてのコスモポリタン・デモクラシー」として発表した。さらに国際政治学会院生研究会を組織するとともに、TCSの可能性とグローバル規範の動態についても、青山学院大学と筑波大学のシンポジウム等で報告と討論を行い、国際関係論と政治思想史の欧米を代表する政治哲学者と国際関係論研究者の翻訳をし、うち一冊が出版された。
著者
森川 英明 高寺 政行 鮑 力民 後藤 康夫 佐古井 智紀
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

日本で多発する刃物による傷害(事件)に対応するため,軽量で快適な防刃被服について検討を行った.研究は,防刃性能の工学的評価法の確立,高性能ナノ材料および複合層構造による貫通遮断機構の開発,防刃被服の温熱環境評価と改善法の検討,被服構成学に基づく防刃被服の評価・構造設計,の4つの側面から行った.その結果,防刃材料の開発に必要な物理量による評価手法を構築すると共に,防刃用繊維材料,防刃衣服の冷却機構などの提案が可能となった.
著者
三井 慶治
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、あらゆる生物が生きてゆく上で必須な細胞内イオン環境(特に細胞内pHとNa^+濃度)の制御機構を、その中枢に位置するイオン輸送蛋白質(Na^+/H^+交換輸送蛋白質)のイオン輸送メカニズムや制御メカニズムを分子レベルで明らかにすることである。平成19年度は、出芽酵母Na^+/H^+交換輸送蛋白質に結合し、その活性を制御しうる蛋白質分子を探索した。その方法としてNa^+/H^+交換輸送蛋白質の細胞質ドメインをベイトとしたYeast Two-Hybrid法による探索を試みた。Yeast Two-Hybrid法により内膜型Na^+/H^+交換輸送蛋白質の細胞質ドメインに結合する因子を出芽酵母cDNAライブラリーから探索した。その結果、陽性クローンとして複数のクローンが単離できた。そのなかで、非常に強い相互作用が予測されるクローンからMTH1遺伝子が同定された。また、大腸菌において発現させ精製した内膜型Na^+/H^+交換輸送蛋白質の細胞質ドメインとMTH1蛋白質が直接相互作用することを確認した。これらのことから、出芽酵母に内膜型Na^+/H^+交換輸送蛋白質と相互作用しうる因子が存在し、これらの因子が内膜型Na^+/H^+交換輸送蛋白質の機能を制御していることが示唆された。
著者
深澤 安博
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

1910年代~1920年代にスペイン人青年男性をスペイン軍の兵士にさせえた1912年兵役法の内容と意義、徴兵の実態、モロッコでの植民地軍の創設、モロッコ植民地「平定」後の「原住民」統治、植民地モロッコの一大軍事基地化、アフリカ派軍人たちが「平定」後にも独自の軍人社会を維持しつづけ軍内で最有力の勢力となったこと、以上のことを明らかにした。総じて、スペイン内戦が「アフリカからやってきた戦争」であることの意味を解明した。
著者
神津 武男
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「浄瑠璃本じょうるりぼん」とは、「人形浄瑠璃にんぎょうじょうるり」の台本・脚本をさす。中でも本研究課題が研究対象とする、最後に興った流派「義太夫節ぎだゆうぶし」の浄瑠璃本は、単に演劇台本であるに留まらず、読み物としてひろく流通した。江戸時代の文学書(出板物)で日本全国に現存・伝来するものは、浄瑠璃本に限られる。膨大な点数の残る浄瑠璃本を基礎資料として、近世後期人形浄瑠璃史の欠を補う。
著者
森脇 広 奥野 充 大平 明夫
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

南九州の鹿児島湾を構成する姶良カルデラ周辺の臨海平野には完新世海成段丘が分布する.これらの段丘面の編年と高度分布,さらに,露頭調査とボーリング掘削によって得られた構成堆積物の古環境的解析を行い,旧海水準の高度分布を明らかにし,姶良カルデラを中心とした鹿児島湾周辺の第四紀地殻変動を検討した.編年の方法は,テフラと^<14> C年代による.その結果,これまで示唆されてきた姶良カルデラを中心とした完新世の曲隆がさらに確かなものとなった.これは,姶良カルデラの火山活動と関連していると考えられ,桜島火山などの将来の噴火を評価する基礎資料として活用できると考える.
著者
金子 えつこ
出版者
四国学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

プーシキン(1799-1837)の文体をロシア語近代語の成立という観点から分析している申請者は、プーシキンの散文におけるガリシズム、すなわちロシア語へのフランス語の影響について研究し、またプーシキンの散文における韻律性についても分析した上で、それらの散文における動詞の割合の高さ、完了体の含有率の高さ、一文の短縮傾向などにより生じる文体の「軽さ」についての理論化を試みてきた。その結果、存在がほぼ自明であるにもかかわらず定義のし難い「軽さ」というプーシキンの文体特性について分析する必要を見出した。そのため、近代文学言語の成立期における言語変化という潮流を視野に入れつつ、具体的な言語現象を同時代人カラムジンの文体と比較照合すことによってこれを精密に解析することを目指した。つまり、「文体特徴」はあくまで比較概念であるため、カラムジンをいわば物差しとして、両者の比較を通じて共通項としてガリシズムが出てくるか来ないかを明確にし、軽快さの根源にある言語特性を析出するということであった。カラムジンは、プーシキンと結果的に方向性は異なったが、プーシキン同様ロシア文章語の改革を目指した。彼の『あわれなリーザ』『ロシア人旅行者の手紙』における動詞〓の機能動詞化は著しく、「軽さ」を伴う独自の用法を持つことが確認された。また機能動詞とともに用いられやすい語彙、すなわち、単語のコロケーションについても分析した結果、西欧からの翻訳借入語や西欧文化の影響下で多用されるようになった思想感情表出に関わる語彙との距離に特徴が指摘された。この用法は統語レベルのガリシズムの一つとしても位置づけられるため、avoirおよびその熟語との相関も検討し、同様に〓の分析においてフランス語のfaireおよびその熟語との相関も検討した。「軽さ」という概念は近代語成立期の研究に関する新しい鍵となることが確認された。
著者
渡辺 文彦
出版者
日本歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

捩じり試験機を考案、製作し、インプラントとアバットメントとの連結部の形態の違いによる比例限界、最大ねじり強度と破壊形態の違いを試験し、その結果を国際学会に報告すると共にISOTC/106に日本より提案し、2009年にCD(SC8N240)として採択されたことは国際的にもインプラント治療に際し、またインプラントシステムの開発に取って非常の大きな意義があった。またインプラントとアバットメント連結部での荷重疲労試験は荷重方向とインプラント傾斜角度の違いによる疲労強度の関係を明らかにしたことも大きな意味をもった。
著者
福嶋 亮大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度の研究テーマは、20世紀前半において成立した中国の近代文学が、21世紀に入った今日の社会においていかに変容したかを探求するのに向けられた。もともと20世紀前半の段階で、胡適という学者が、過去の大衆文学の遺産を再利用するかたちで「白話文」で書くことを提唱し(文学革命)、その提唱が、それ以降の中国語の文体を大きく規定してきたことが知られている。しかし、21世紀に入ると、消費社会化が急速に進行するなかで、中国の外側の大衆文化が大量に押し寄せ、中国人の表現様式を大きく変えてしまった(グローバル化、あるいはポストモダン化)。そのなかで、従来の近代文学のある部分は生き残り、ある部分は衰退しつつある。今年度は、21世紀初頭の新しいタイプの中国文学を観察することによって、20世紀の時点で形成されていた文学性とは何だったかを照射することを心がけた。つまり、「中国近代文学成立期における白話の社会的位置」という研究テーマを、いわば搦め手から展開することを目指した。その問題意識の下で2本の論文を執筆するとともに、日本を含めた東アジアのサブカルチャーとネットカルチャーを主題とした著書を発表し、相応の評価を得ることができた。こうした脱領域的な研究アプローチは、世界的に見てもあまり例を見ない。グローバル化が進む社会の分析は、おそらく今後ますます重要性を増していくだろう。今年度はその分析のための礎石を築くことができたと思われる。
著者
小嶋 哲人 松下 正 高木 明 山本 晃士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

先天性プロテインS(PS)欠損症・異常症の遺伝子解析において、未解析の新たな症例検体については従来のPCRダイレクトシーケンス法を用いた遺伝子変異の同定を行った結果、新規変異を含めてその原因と思われるPROS1遺伝子変異を同定した。その中でPROS1遺伝子の蛋白翻訳領域には変異は見つからなかったものの、翻訳開始点より168bp上流のプロモーター領域に同定したC→T (c.-168C>T)の点突然変異のルシフェラーゼ・レポーター解析の結果、変異型では転写活性が20%まで低下し、先天性PS欠損症の原因と思われた。先天性PS欠損症症例で従来の各エクソンのPCRダイレクトシーケンス法にてPROS1遺伝子に変異の見つからなかった症例において、PROS1遺伝子の15個の各エクソン部に偽遺伝子と区別するPCRプライマーを設定し、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA) 法によってPROS1遺伝子欠失の同定解析を行ったところ、PROS1遺伝子の全欠失を示す症例を1例同定した。しかし、他の多くの症例では欠失を同定できず、遺伝子欠失の頻度はまれであると思われた。ヒトPSを産生するHepG2 細胞を用い、エストラディオール(E2)の添加による培養上清中のPS分泌量の変動についてELISA 解析を行ったところ、30%の発現低下を認めた。また、細胞内PS mRNAの変動についてReal Time PCRを用いて定量した結果、同様にE2 の添加によるmRNA発現低下を認めた。現在、PS遺伝子プロモータ領域をクローニングし、ルシフェラーゼ・レポーター解析による、HepG2細胞でのE2 によるPS遺伝子発現の制御動態解析を施行中である。