著者
山本 いずみ
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、明治期の新文体の創造期における、翻訳文学が文章語に与えた影響について、ミステリー小説という極めて大衆的な分野から見ることにある。そのために、以下のようなことを行った。平成15年度:E.A.Poe原作"The Black Cat"の明治期の翻訳(広い意味での)を集め、原文に沿う形で切り分け、Excelの一覧表とする作業を中心に研究を進めた。用いた資料は、饗庭篁村「西洋怪談黒猫」(明治20年11月『読売新聞』)から平塚らいてう「黒猫」(明治44年12月『青鞜』)までの6作品であった。また、明治期の翻訳という観点からShakespeare原作"Hamulet"の翻訳6本を取り上げて比較検討し、「それぞれのハムレット」(名古屋工業大学紀要第55巻)としてまとめた。平成16年度:榎本破笠「蔦紅葉」(原作は"The Murders in The Rue Morgue"明治25年11〜12月『やまと新聞』)を中心に研究を進め、前年度の"The Black Cat"に関する考察を「独白する者-"I"の変遷-」としてまとめ、名古屋言語研究会で発表した。また、明治期の翻訳語という観点から「情報」という言葉の変遷を論文「情報通」(『人間社会論集IV技術社会のバックグラウンド』vol.4所収)としてまとめた。平成17年度:伝統的な和文脈「私…われ/わが…」および漢文脈「余…われ/わが…」が新しい書き言葉「私…自分/自身…」へと移り変わる様相を「日本の『黒猫』における一人称代名詞の変遷について-Edgar Allan Poe原作"The Black Cat"-」(『児童文学翻訳作品総覧アメリカ・ギリシャ・アラブ編』所収)をまとめる一方で、『現代語で読む「松陰中納言物語」付本文』(和泉書院)を著わし、和文脈の中においてどのように会話文が成立しているかについても検討した。以上より、使用された人称代名詞の変化と文体の密接な関係を利用することで、文体変化の一端を明らかにすることができた。また、研究の過程で、独白文と会話文で用いる人称代名詞が異なることに興味を惹かれた。今後は、この点を掘り下げ、会話文の独立と新しい書き言葉成立の関係を明らかにして行きたいと考えている。
著者
嶋田 義仁 坂田 隆 鷹木 恵子 池谷 和信 今村 薫 大野 旭 ブレンサイン ホルジギン 縄田 浩志 ウスビ サコ 星野 仏方 平田 昌弘 児玉 香菜子 石山 俊 中村 亮 中川原 育子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

家畜文化を有したアフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明が人類文明発展の中心にあった。家畜は蛋白資源生産(肉、乳、毛、皮)に止まらない。化石エネルギー使用以前人類が利用しうる最大の自然パワーであった。移動・運搬手段として長距離交易と都市文明を可能にし、政治軍事手段としては巨大帝国形成を可能にした。これにより、旧大陸内陸部にグローバルな乾燥地文明が形成された。しかしこの文明は内的に多様であり、4類型にわけられ。①ウマ卓越北方冷涼草原、②ラクダ卓越熱帯砂漠、③小型家畜中心山地オアシス、④ウシ中心熱帯サヴァンナ、である。しかし海洋中心の西洋近代文明、化石燃料時代の到来とともに、乾燥地文明は衰退する。
著者
Kumiko NAKANO Haruka KUBO Shigenobu MATSUMURA Tsukasa SAITO Tohru FUSHIKI
出版者
(社)日本農芸化学会
雑誌
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry (ISSN:09168451)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.1166-1170, 2013-06-23 (Released:2013-06-23)
参考文献数
24
被引用文献数
6

The present study explored the possibility that aroma components generated by the oxidation of olive oil may enhance the palatability of olive oil. Using a mouse behavioral model, we found that olive oil oxidized at room temperature for 3 weeks after opening the package, and heated olive oil were both significantly preferred over non-oxidized olive oil. Furthermore, this preference was enhanced with an additive of oxidized refined olive oil flavoring preparation at a certain concentration. These results suggest that the aroma of oxidized fat might be present in most fats, and might act as a signal that makes possible the detection of fats or fatty acid sources.
著者
Chen George Tai-Jen
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.959-983, 1994-12-25

1981-86年の5-6月における客観解析データ、可視および赤外雲画像、雲頂温度を用いて、アジアモンスーン域での、大規模な大気循環を研究した。流線関数、速度ポテンシャル、風の発散成分、対流インデックスと水蒸気場を解析した。これらの要素の半月平均の分布を示し、華南および台湾における梅雨入り前(5月1-15日)から梅雨明け後(6月16-30日)にいたる、大規模循環場の変化の特徴を明らかにした。さらに対流活動が活発・不活発な季節と前線を選び出し、大規模循環場の年々変動と季節の中での変動を検討した。得られた結果は以下のようにまとめられる。(1)華南および台湾における梅雨は、5月16-31日に南シナ海での夏の南西モンスーンの開始と同時に始まる。(2)深い対流域、ITCZ、および亜熱帯高気圧の北上は、華南および台湾での梅雨明け後(6月16-30日)に、梅雨前線帯が楊子江および日本付近で、準定常的な位置をとるのと同時に起こる。同時に北東インドからビルマにかけての地域で、下層の低気圧が上層の高気圧を伴う、準バロトピックなモンスーン循環システムが形成される。(3)活発な梅雨季は、北方の(傾圧的な)システムの南下と、梅雨地域での水蒸気収束が特徴的である。不活発な梅雨季ではその逆の状況となる。(4)活発と不活発な梅雨前線とでは、主に下層の循環が異なっている。活発な梅雨前線はベンガル湾および熱帯西太平洋起源の南西モンスーンを伴う一方、不活発な梅雨前線は、太平洋高気圧からの南東風または東風を伴っている。高い水蒸気量、強い水蒸気流束とその収束が、活発な前線に伴ってみられる。(5)活発な前線がより頻繁に出現する時は、活発な梅雨季となり、不活発な前線が多い時は、不活発な梅雨季となる。
著者
牧野 俊郎
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2007

本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成20年度は,まず,室温の表面の全半球放射率測定器の開発を行った.その結果,(壁システムを構成する)第一壁や人体・衣服の全半球放射率を正確かつ簡便に測定できるようになった.次いで,一定の温湿度に調整し準断熱・断物質の環境実験槽の密閉空間にその温湿度の壁システムを設置して,初期の定常状態を実現し,壁システムの水冷銅管に一定の温度の水を流して壁システムを始動し,次の定常状態に至るまでの非定常過程で,環境実験槽内の湿り空気の温度・湿度の変化・第一壁の表面温度・含水量の変化を測定した.その結果,本研究の要点の上記の(1)と(2)が構想どおり実現できることを実験的に示した.
著者
大石 憲一 北川 恵美子 森田 学 渡邊 達夫 松浦 孝正 伊藤 基一郎
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.57-62, 2001-01-30
参考文献数
23
被引用文献数
13

岡山県歯科医師会会員および準会員1,046名を対象に,平成10年7月6日から19日までの2週間,郵便調査法による抜歯の理由調査を行った。回収率は38.1%(399名)で,以下の結果を得た。1. 抜歯総数は4,594本であった。回答者1人あたりの週平均抜歯本数は5.76本であった。2. 理由別にみた割合は,歯周病によるものが46.1%,う蝕によるものが42.1%であった。3. 抜歯された患者の平均喪失年齢は,う蝕によるものが53.3歳,歯周病によるものが58.8歳であった。また歯種別では,第三大臼歯を除くと,上顎第一小臼歯,上顎第二大臼歯,下顎第二大臼歯の順で平均喪失年齢が低かった。4. 年齢層別の抜歯理由は,45歳までの年齢層では,う蝕による抜歯の割合が男女とも第1位であった。しかし,46歳以上の中・高年齢層では,歯周病による抜歯の割合がう蝕による抜歯の割合とほぼ同じか,それを上回った。5. 昭和61年度の調査と比較して,う蝕から歯周病への抜歯の主な理由の変遷,抜歯された患者の平均年齢の上昇,および歯科医師1人あたりの抜歯本数の減少がみられた。
著者
岡田 努
出版者
金沢大学人間社会研究域人間科学系
雑誌
金沢大学人間科学系研究紀要 (ISSN:18835368)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-34, 2012-03-31

本研究は,青年の友人関係に関して,友人から傷つけられることを回避する傾向及び友人を傷つけることを回避する傾向に特化した尺度(傷つけ合い回避尺度)を作成し,その信頼性と妥当性を検討したものである.234 名の高校生と227 名の大学生に対して,友人関係,配慮・熟慮,被受容感,被拒絶感,自尊感情に関する各尺度についての質問紙調査が実施された.その結果,友人関係については,新たに作成された36 項目の尺度項目から「傷つけられ回避」「距離確保」「礼儀」「傷つけ回避」と命名しうる4因子が得られ,高い内的一貫性が認められた.また「配慮・熟慮」との間で関連する下位尺度に高い相関が見られたことから併存的妥当性も確認された.さらに構成概念妥当性の確認のため,先行研究(岡田,2011)と同様のモデルでの共分散構造分析を行った結果,十分な適合度が得られ,岡田(2011)と同様に,「友人から傷つけられることを回避する」ことが,「友人から傷つけることを回避する心性」を経て,「被拒絶感」を抑制し,結果的に自尊感情を維持させる構造が示された.This study develops the "friendship scale" focusing on adolescents that measures two features: "being careful not to be hurt by their friends" and "being careful not to hurt their friends." A survey that measured friendship, concern for others/discreteness, sense of acceptance, sense of rejection,and self-esteem was administered to 234 senior high school students and 227 college students. Survey results showed that the 36 items of the friendship scale conformed to a 4-factor structure with high internal consistency. Concurrent validity was indicated by high correlation with the"concern for others/discreteness" scale. A structural equation modeling analysis was employed to test the construct validity. The results suggest that the tendency of "being careful not to be hurt by their friends" inhibited the "sense of rejection" in the subjects through "being careful not to hurttheir friends," and ultimately improved their self-esteem according to the model of Okada (2011).
著者
西 智弘 森 雅紀 松本 禎久 佐藤 恭子 上元 洵子 宮本 信吾 三浦 智史 厨 芽衣子 中野 貴美子 佐藤 一樹 下井 辰徳 田上 恵太 江角 悠太 坂井 大介 古川 孝広 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.184-191, 2013 (Released:2013-07-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【背景】わが国における緩和ケアの需要は年々高まり, 緩和ケア医の養成は重要な課題である. しかし, 緩和ケア医を目指す若手医師が, 教育研修体制やキャリア構築などに対して, どのような満たされないニーズを抱えているかは明らかになっていない. 【目的】緩和ケア医を目指す若手医師が抱えるニーズを明らかにする. 【方法】卒後15年目までの医師を対象にグループディスカッションを中心としたフォーラムを行い「必要としているけれども十分に満たされていないことは?」などに対する意見をテーマ分析を用いて分析した. 【結果】40名の医師が参加した. 若手の抱えるニーズは, 「人手の確保」「研修プログラム・教育の質の担保」「ネットワークの充実」「緩和ケア医を続けていくことへの障害の除去」「専門医として成長する道筋の確立」であることが示された. 【結論】緩和ケア医を育成していくため, これら満たされないニーズの解決を議論していくべきである.
著者
Young Youl You Jin Gang Her Taesung Ko Sin Ho Chung Heesoo Kim
出版者
理学療法科学学会
雑誌
Journal of Physical Therapy Science (ISSN:09155287)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.571-575, 2012 (Released:2012-09-29)
参考文献数
27
被引用文献数
3 10

[Purpose] The purpose of this study was to compare a conventional one leg standing exercise and a device-using one leg standing exercise in order to improve hemiplegia patients gait and balance function. [Subject] The subjects of this study were 30 patients who were hospitalized with hemiplegia resulting from stroke. The final number of participants was 27, because three patients were discharged during the experiment. [Methods] The participants were divided randomly and equally into a conventional one-leg standing balance exercise group (control group) and a device-using one-leg standing balance exercise group (experimental group). In the experimental group, exercise consisted of a one-leg standing weight-bearing balance exercise in which ± 5° changes could be made for dynamic changes, while maintaining a hip flexion angle of 5° and a knee flexion angle of 10° during the stance phase. [Results] In the comparison of gait traits and velocity prior to and after the therapy in both the conservative group and the device-using group, all items significantly increased after 8 weeks of therapy. TUG and BBS of both groups also significantly increased. [Conclusion] This study demonstrated the effect of a treatment method using a one leg standing balance exercise on the gait cycle.