著者
鈴木 雄志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

研究計画通り、研究指導を頼んだパリ第4大学ギュイヨー教授の指導を受けながら、フランス、パリでの資料・文献収集を引き続き行った。研究対象となる18・19世紀の文献、特に近年になっても校訂版やファクシミリ版さえ出版されず、日本の図書館にも所蔵されてない作品を、パリの国立図書館等で調査し、必要に応じて収集した。また、パリやフランス各地の学会にも参加し、最先端の研究に触れることで有意義に研究を進めることができた。研究実績としては、調査した内容の一部を、日本国内のフランス文学会にて二度発表した。詩と造形芸術との関連、造形芸術における官能性と詩におけるその表現を示した発表内容に関し、学会誌の査読委員会から執筆依頼を受け、提出した論文が現在審査中である。来年度にかけて、今年度の研究成果を学会や論文誌等で発表するために、現在論文準備を進めている。資料調査のために海外で研究を進めることで、日本におけるフランス文学研究が遅れている領域について書かれた研究に多く触れることができた。特に当研究者が取り組んでいる18世紀リベルタン文学と19世紀文学の関わりは、間にフランス革命という大きな断絶が存在しているために、従来フランスでも研究が遅れている領域であった。しかし、近年多くの研究者たちが革命期の文学についての論文を多く発表し、革命という断絶を繋ぐ文学史の流れを再構築しようとしている。その流れに沿ったところに位置づけられる本研究によって、フランス文学研究全体が近年行っている文学史、そして文学の意義の再検討する研究活動の一端をになう成果を挙げることができた。
著者
中野 里美
出版者
中部大学
雑誌
現代教育学部紀要 (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.67-80, 2009-03

J・S・Bach (1685〜1750)が、オルガニストとして活躍し、数々のオルガン曲を生み出したワイマール時代を経た後の任地:ケーテンにおいての約5年間は、彼の芸術家としての生涯の中でも、特に大きな転機を迎えることとなる。現在われわれが親しむ器楽曲の大部分は、このケーテン時代(1717〜1723)、いわゆる「クラヴィーア音楽の黄金時代」に書かれている。この「3声シンフォニア」もまた、その時期の所産である。「練習曲」にも関わらず、練習曲を超えた素晴らしい芸術作品として、また今日のピアノ学習者たちにとっての不可欠な教材として、必ずと言って良いほど使用されている。2つの曲集「2声インヴェンション」と「3声シンフォニア」は、同時期に書かれた「平均律曲集」と同じく、一曲も同じ調性のものを持たない。違うのは「平均律曲集」のように、24の全ての調を網羅せず、共に15曲から構成されている点である。その調性は(C、c、D、d、Es、E、e、F、f、G、g、A、a、B、h)で、第1番より第15番に向けて、比較的易しい調から、徐々に調号(bや#)が増えていくように配置されている。通常、ピアノ学習者達は「2声インヴェンション」を学び、ポリフォニーに親しんだ後、「3声シンフォニア」へと移っていく。しかし移行した途端、声部の増加に困惑し、各声部の弾き分けに困難を覚える。音を必死に追いかけるだけの平面的な演奏で精一杯となってしまい、ひいてはこの「3声シンフォニア」をきっかけに、J・S・Bachの作品の演奏を苦手に思ってしまうケースも少なくない。この作品集を通じて、今回は「完全4度音程」及び「完全4度音程で構成される音階」においての解釈と、その演奏における表現法に焦点を絞って、立体的なポリフォニー音楽の演奏への手掛かりについて考えてみた。
著者
桶谷 弘美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.120-128, 2011-01-31

音楽を学ぶ者の前に立ちはだかる大きな障壁は、音楽理論を正確に把握することである。難解な専門用語が簡単に理解できないからだ。コード-・ネームや音程や音階あるいは五度圏等の解説には、通常専門用語を用いて説明が施されるが、これがスタート早々に躓きになってしまう。そこで、これらの専門用語をすべて数字に置き換えてみることにした。端的に言えば、半音ずつ数えていく方法で、習得困難な専門用語を理解させる試みである。例えば、長3度は5、短3度は4として、その数字から長3度とか短3度という用語を頭に入れさせるのである。また、五度圏の説明で、♯或いは♭が完全5度ずつ移動するというところを、8の移動に変えるだけで成り立つことを納得させることができる。この小論は、音楽を学ぶ者や初心者に刺激と学習意欲を燃やす動機と効果をもたらす指導法として論じたものである。この数字の代替理論は、筆者の独創によるものである。ゲームを楽しむような仕方で学べることが救いであり、本来の専門用語に徐々に慣れ親しむようになることが特筆すべき点である。
著者
冨江 英俊
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
no.39, pp.203-211, 1999

The purpose of this paper is to clarify the change of the vocational courses in high school education. In the 1950's and the 1960's some prefectures in rural areas multiplied vocational courses in order to develop the community. However. after 1972. the ratio of vocational courses decreased. On the other hand. academic courses increased because many students wanted to go on to academic courses. Metropolitan areas, where the influence of the second baby boom was markedly. set up many academic courses. Nowadays many prefectures reduce the distinction between the vocational courses and the academic courses. As a result, the function of the selection in high school education weakens. This function must be important.
著者
天池 寿 栗岡 英明 秋岡 清一 藤野 光廣 谷向 茂厚 飴野 弘之 安田 達行 西本 知二 池田 栄人 武藤 文隆 橋本 京三 大内 孝雄 田中 貫一 原田 善弘 伊志嶺 玄公
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.2017-2021, 1991-07-01
被引用文献数
5

65歳,男性.左上腹部痛・腫瘤触知を主訴に来院.入院精査の結果胃平滑筋肉腫と診断され,1988年6月29日にリンパ節郭清を伴った胃全摘・膵尾部脾合併切除を施行した.同年10月左側腹壁に境界不明瞭な腫瘤を認め,再発治療目的でAdriamycin,Cisplatin,Etoposide併用療法(EAP療法)を2クール施行した.その治療効果は著明で,触診上および腹部computed tomography(CT)検査上complete response(CR)の状態となり,現在再発の兆候なく健在である.EAP療法は,切除不能の進行胃癌患者に対して高い奏効率を認めると報告された強力なcombination chemotherapyである.一般に胃平滑筋肉腫に化学療法が奏効したという報告は少ないので,われわれの経験した有効例を今後への展望を期待し報告した.副作用としては高度の骨髄抑制,悪心・嘔吐,脱毛が認められたが,いずれも回復可能であった.
著者
山岸 みどり
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、高大連携の期待と現実のズレに注目し、日本における高大連携の事例を収集し、質的および数量的分析を行った。成功事例の特徴、実施体制やプログラム内容の実態などの分析結果から、「高大連携」を促進する要因と阻外する要因を明確にすることができた。日本の高大連携活動の大半は、高校と大学が対等に共通の問題の解決に取り組む「共働」ではなく、それぞれの必要に基づく「協力」関係であることが明らかになった。高大連携活動についての組織間関係論的な視点からの考察は、今後の日本の高大連携を有効に機能させるための組織・運営や環境条件など明らかにするために重要であることが示唆された。
著者
小口 武彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.95-102, 1989-02-05

スピン1/2の反強磁性ハイゼンベルグ(Heisenberg)モデルの基底状態に対し, 1973年に P.W. Anderson が新しい概念を盛りこんだ Resonating Valence Bond (RVB)の理論を提案した. 筆者はこの論文に非常に魅せられたが, RVB理論を勝手に解釈して研究を進めた結果は芳しいものではなかった. そのため, その後はRVB理論に対し疑念を持っていた. しかし, ごく最近になって, 再びRVBを考え直してみたところ, その素晴らしい本当の姿が見え始めてきた.
著者
池田 隆介
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.598-605, 2010-08-05
参考文献数
63

銅酸化物高温超伝導体(HTC)の発見以来,電子相関の強い超伝導物質が続々と見出され,基礎研究の対象となる磁場下の超伝導現象も多岐にわたるようになってきた.HTCの現象を通して磁場下の超伝導相図の理解が一新されたのに加え,近年対象となる系では常磁性効果や磁気的揺らぎ等の強い電子相関に起因する側面が重要な役割を果たし,磁場下の超伝導状態,つまり渦糸状態の現象のバラエティーは豊富になりつつある.しかし一方で,超伝導理論の基礎が変更をうけるわけではない.本稿では,磁場下の超伝導渦糸状態に関する理解の現状を概説する.
著者
平山 英夫 佐波 俊哉 波戸 芳仁
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
pp.J12.043, (Released:2013-06-27)
参考文献数
4
被引用文献数
4 6

Gamma-ray pulse-height distributions from widely distributed Cs-134 and Cs-137 calculated using the EGS5 Monte Carlo code with the transformation of a system consisting of a plane isotropic source and a unit sphere detector into a system consisting of a point isotropic source and a plane detector were compared with measured ones. Results agree well in terms of both spectrum shape and absolute value. Spectra at a height of 1 m from widely distributed I-131, Cs-134 and Cs-137 were studied by EGS5 calculation. It was clarified that the contribution of scattered gamma rays is dominant within the total gamma-ray flux. The contributions of the scattered gamma rays to ambient dose equivalents and effective dose were also studied.
著者
岩田 美保
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.39-42, 2005-02-28

本研究は,一組の児童3人きょうだいの縦断的家庭観察データにおける夕食場面の自然な会話のうち,他者(自己含む)に関する因果性についての会話や発話に着目し,それを手がかりとして児童期における子どもの他者理解について検討を行った。今回のデータ(2003年7月および11月/Sが小学5年次)におけるSの夕食場面における因果性についての発話は,他者に関する発話では一貫した友人の人格特性などを客観視,評価する内容の言及がみられてくることが特徴としてみられた。また,他者に関する発話と比較して,特に自己に関する発話の増加がこの時期に顕著にみられたことが特徴的であった。すなわち,小学校4年次から5年次にかる時期にそれ以前からみられていた他者への言及に加え,自己への言及がみられること,それにより同時期には自他理解が複雑に絡み合い助長されるであろうことが示唆された。
著者
保田 孝一
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1992年ペテルブルグのロシア海軍資料館で、1861年の対馬事件に関するロシア側の一次史料を発見した。それに基づいて、当時幕府の非公式の顧問だった有名なフォン・シ-ボルトが、この事件と東禅寺事件を解決するためにどのような役割を果たしたかを明らかにすることができた。その中心資料は、1861年にシ-ボルトが横浜と江戸から、ロシア東洋艦隊提督リハチヨフに宛てた5通の手紙である。これらの手紙を読むとシ-ボルトが、ロシア側からも、幕府からも尊敬されていたことが分かる。しかしシ-ボルトが親日的、親露的立場から事件を解決しようとして日露両国へ行った提言は、事件を解決するために直接の効果をもたらしはしなかった。明治時代の日露関係は、今想像するよりもずっと友好的であった。両国の皇室外交は、日露戦争の前にも後にも活発で、両国の皇族や重臣は相互に友好訪問をくり返していた。たとえば日露戦争の前に訪露した皇族には、有栖川宮熾仁・威仁両親王・小松宮彰仁親王・閑院宮載仁親王らがいる。ロシアからはアレクセイ大公、アレクサンドル・ミハイロヴィチ大公、キリル・ヴラディーミロヴィチ大公らが訪日している。訪露した最大の政治家は伊藤博文であった。かれは生涯に3回ロシアを訪れている。かれの持論は、日露戦争を避けるために満韓を交換するという提案である。つまり韓国は日本の、満州はロシアの影響下におくというのである。伊藤のこの提案は、日露戦争後に日露協商として実を結んだ。
著者
シーコラ ヤン
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.18, pp.83-94, 1998-09-30

徳川時代は、ヨーロッパで経済学が独立した学問として登場してきた思想的な激動期に対応している。西洋の思想のある分野――とりわけ自然科学思想――は日本学者に研究され普及してきたが、しかし西洋の政治・経済思想が日本に紹介されることは多かれ少なかれ制約されていた。一方、同時に日本の経済・社会がますます複雑になり、貨幣経済が進展していくにつれて、ヨーロッパの経済学者が考察を深めていったのとよく似た経済現象が形成されていた。
著者
伏屋 雄紀
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.537-597, 2008-07-20

ビスマス研究の歴史は古く,固体物理のそれとほぼ重なる.これまでにいくつもの重要な発見がビスマスから発信され,固体物理の重要事項として幅広い分野に適用されている.一方最近では,グラフェンやα-ET塩などの新物質を含めて,固体中ディラック電子という観点からの研究が新たに発展しつつある.磁場によってバンド間を行き来する電子の運動,反磁性電流とホール電流の知られざる関係,特異なホール係数のふるまい,などが明らかになってきた.本稿では,ビスマス研究のこれまでを振り返り,最近の展開を紹介する.
著者
大橋 洋士
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.748-777, 2008-03-20

2004年にフェルミ原子気体^<40>K、^6Liで相次いで観測された超流動では、フェッシュバッハ共鳴と呼ばれる機構により、クーパー対形成に必要な引力相互作用を自在に制御することができる。この画期的な特徴を活かして実現されたのがBCS-BECクロスオーバーであり、そこでは相互作用を強くするにつれ、金属超伝導で実現するBCS状態から、超流動転移温度以上で形成された分子ボソンのボーズアインシュタイン凝縮(BEC)への連続的な移行が起こっている。これにより、従来別々に研究されできたフェルミ粒子系超流動(超伝導や液体^3He)とボーズ粒子系超流動(液体^4Heや希薄ボーズ原子ガス)を統一的に扱うことが可能になった。強結合領域で実現する超流動転移温度はフェルミ縮退温度の20%程度にまで達しており、これは金属超伝導の場合に換算すると室温をはるかに超える"超"高温超伝導の実現に匹敵している。また、ここで実現している超流動現象の物理的構造は金属超伝導のそれと本質的に同じであり、この系の研究は高温超伝導研究にも大いに資するところがあると考えられている。この講義では、BCS-BECクロスオーバーという極めて興味深い現象について、粒子の統計性、ボーズ凝縮、BCS理論といった基本的な話題から出発して詳しく解説する。併せて最新の話題についても触れ、現在爆発的勢いで研究が進むフェルミ原子ガス超流動研究の面白さを伝えたいと考えている。