著者
大西 領
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

定常等方性乱流場を実現するための効率的な強制法と、その強制法を組み込んだ大規模並列二相乱流シミュレーション法の開発を行った。実際にスーパコンピュータをも使った大規模並列計算を実行し、テイラーマイクロスケール基準乱流レイノルズ数Re_λが340という高いレイノルズ数における慣性粒子の衝突頻度データを得ることに成功した。得られたデータを使って既往の衝突頻度予測モデルの検証を行った結果、既往モデルは高レイノルズ数の時に乱流衝突頻度を過小評価することを明らかにした。
著者
新飯田 宏
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究では、まず不当廉売における不当性の評価基準として、(イ)資源配分の効率性、(ロ)企業行動の戦略的効果の2つの観点から理論的にアプローチすることを意図し、簡単な寡占モデルによって競争政策に適用可能なルールの導出を検討した。その結果、次の点が明らかとなった。(【i】)資源配分の最適性を保証するように、限界費用に価格を等しくするように価格を値下げしても、それが一時的な値下げである限り、何ら社会的厚生を増大させることはない。したがって、特定の廉価販売を単純な短期の価格・費用の関係から、不当廉売に関する判断基準を作成することは不可能である。(【ii】)不当廉売の問題で重要なのは、その廉売が相手企業の戦略行動を予想した長期にわたる動態的プロセスであり、戦略的最適化の問題である。そこで廉売を潜在的参入者の参入阻止と、相手企業のシェア拡大阻止を狙う行動としてみたとき、不当廉売の判断基準として、(1)価格は限界費用以下ではならない(限界費用ルール)、(2)価格は総平均費用以下ではならない(平均費用ルール)、(3)新規参入の後、既存の企業は参入前の産出量以上に生産してはならない(生産量制約ルール)の三つを理論的に検討した結果、社会厚生最大の観点からは、産出量制約ルール>限界費用ルール>平均費用ルールの順で望ましいことがを明らかとなった。しかし、不当廉売を行っている企業が周辺企業に印象づけている"評判"という"情報"としての機能を考慮すると、競争政策として比較的コストを少なく不当廉売規制を行うとすれば、何が望ましい政策かが次に問題となる。現実の不当廉売問題と上記の理論的な結果を併せ考慮すると、「すべての廉価販売をまず自由に認め、その上で資源配分の効率性を高めるように、原則として相当期間、廉売商品について元の価格以上に戻ることを認めない条件を付するのがよい」というのが結論である。
著者
近藤 勝直
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、道路審議会(旧)の答申をふまえ,高度情報化時代に対応した都市高速道路における料金体系の再構築をめざして研究したものである。利用者の負担の公平に配慮しつつ、利用者の便をはかり、かつ料金収入の確保のため、料金体系の弾力的運用方法について提案する。現行の料金体系は2車種・均一料金制(入路前払い)であり、これは、料金ブースでの料金収受時間の短縮と出路ブース建設費の節約がその背景にある。しかし、実行段階に入ったETCを前提とすると、車種判別の自動化はもちろん、入口出口はノンストップであり、料金収受の必要はなく、後納方式なり前納方式なりで、走行距離、利用区間、時間帯、交通量(需要)などに応じた課金が可能となる。今回検討したのは、とくに対距離料金制の導入であり、短距離では現行より値下げし、長距離では値上げとなる。この新しい料金体系が交通量におよぼす効果をシミュレートし、渋滞や環境、そして料金収入などに与える影響を評価した。考え方としては、新制度で料金収入が増加することは利用者の理解を得にくいので、料金収入一定の条件下でのありうべき料金水準について検討することがねらいとなった。現在までの試算では、短距離の値下げは短距離トリップを増加させる。これによって、容量的に問題となる路線・区間ができる。一方、長距離の値上げによっては広域的な高速道路を必要とするトリップ(とくに物流トラック)に影響し、これが一般道路に転換するようだと環境上は好ましくない。かように、現行制度を改変すると、課金の合理性は確保できるが、一方で各種の新しい問題も発生する。また、現在試行されている「環境ロードプライシング」についても検討を加えた。これも、なかなか悩ましい問題であり、具体的には、阪神高速道路神戸線(環境問題あり)と同湾岸線(環境問題なし)の2路線間で料金格差によって、問題の神戸線から湾岸線に交通量を誘導しようとするものである。これも計算上も実績上も神戸線の料金弾性値が低く、したがって期待通りの転換がすすまない。神戸線の利用者が値上げについて来る。かえって増収にもなってしまうのである。この原因は上記2路線が真に代替ルートを形成していないことと、環境問題地域前後での車両の入退出が多く、トリップのODを再度精査する必要がある。これらを明らかにした上で、実行のある環境政策としての料金政策による交通誘導をはかる必要があるとの結論を得た。(詳細は印刷した報告書を参照のこと)今後は、さらに車種区分についても考察を加えたい。これは車種ごとに行動パターンやルート選択行動が異なるためである。環境問題が大型車のPM排出にあるとするならば、これに限定した施策が展開されなければならない。そのためには車種ごとの検討が必要である。
著者
菊池 眞夫 高垣 美智子 倉内 伸幸 南雲 不二男 丸山 敦史 丸山 敦史
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

サブサハラにおける「低投入環境保全型」農業モデルを提唱するため、ウガンダにおいて農家調査、栽培試験、パピルス湿地開田試験、関連2次資料収集を行った。これら基礎データの分析により、陸稲作・水稲作の普及により稲作生産を飛躍的に拡大するポテンシャルは極めて大きく、サブサハラにおいて、環境に負荷を与えることなく「緑の革命」を達成する条件は整っており、それを達成することが農村の貧困解消にも貢献することが明らかとなった。
著者
豊原 憲子 山本 聡 長谷 範子 土居 悟 岡田 正幸
出版者
大阪府環境農林水産総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

難治性小児気管支喘息による入院児童に対し、種まき-栽培-収穫-摂食の行程を中心とした園芸プログラムを実施した結果、活動による呼吸機能の低下は認められず、栽培体験と児童個人への管理責任の設定と栽培した植物を自宅家族に持ち帰ることが植物へのこだわりを高めて自主的行動を誘導した。このプログラムにより一症例で顕著なストレス軽減が認められ、病棟内での行動の改善と退院につながるなど、プログラムによる精神的安定と退院の時期に関連性があった。プログラムを提供する庭園内での児童の行動解析から、下草が繁茂して見通しの悪い植生が行動の制限要因となった。
著者
新津 洋司郎 佐藤 康史 瀧本 理修 加藤 淳二
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

組織線維症は現在全く治療法のない病態である。その責任細胞は星細胞であり、組織が傷害を受けると、それが活性化しコラーゲンを分泌するようになる。この分泌過程にはコラーゲンに特異的なシャペロン蛋白HSP47が補助的に関与する。本研究ではsiRNAHSP47を用いる事により活性化星細胞からのコラーゲン分泌を抑制する事を意図し、ラット肝星細胞での効果を検討したところ、明確に抑制効果が確認された。次いで星細胞がVitamin A(VA)を取り込み貯蔵するという性質を利用して、liposomeにVAを結合させその中に、siRNAHSP47(ラットではsiRNAgp46)を含ませてComplexを作製し、3種類(DMN,CCL4,DBL)の肝硬変ラットモデルでその抗線維活性を調べたところ、いづれのモデルにおいても明確な効果が見られた。また致死的なDMN モデルでは100%の生存率も確保できた。さらに同様な抗線維効果はDBTC膵炎ラットモデルに於いても確認された。本治療効果の機序としてはsiRNAHSP47によりコラーゲン分泌が抑制されると同時に組織中のコラゲナーゼ(一部は活性化星細胞からも分泌される)により既沈着のコラーゲンが分解される事によると考えられる。以上により本研究での開発された臓器線維症の治療法は、今後臨床への展開が多いに期待されるところである。
著者
津田 健治 寺内 正己
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

われわれが独自に開発してきた収束電子回折法による結晶構造解析法をベースとして, 試料のナノメーター領域から静電ポテンシャル分布を求める手法を新たに開発することに成功した. この方法をLiNbO_3等の強誘電体に適用して静電ポテンシャルを決定して強誘電分極を検出した. また, この方法を応用して強相関電子系物質の3d電子軌道の秩序の可視化にも成功した.
著者
石本 淳 大平 勝秀
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来型電子冷却システムの限界を打破するため, 本研究では, 超高熱流束冷却が可能な高機能性冷媒としてマイクロスラッシュ二相流利用型超高熱流束電子冷却システムを提案する.マイクロスラッシュ噴霧の有する超高熱流束効果に関し, PIA粒子計測・非定常冷却熱流束のデータベース化とCFD計算条件取り込みによる融合計算を用いた総合的アプローチを行った.その結果, マイクロスラッシュ噴霧は液体窒素噴霧と比較して, 1. 5倍程度の限界冷却熱流束を得ることが可能であり, 新型電子冷却法開発の基盤となる成果を得た.
著者
嶋本 利彦 MITCHELL Thomas Matthew MITCELL Thomas Matthew
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,断層帯の内部構造,力学的性質,浸透率のような水理学的性質に関する構造などを調べて,地震の発生過程および地下深部における流体移動の定量的な解析に必要な断層モデルを提示することである.南米チリのアタカマ断層では,断層帯の内部構造と断層帯に接する母岩中のダメージ分布をより詳細に解析して論文で報告した(Mitchell & Faulkner,2009)。この研究では,顕微鏡スケールの微小クラックから地質断層に至る5桁におよぶ規模で,ダメージ分布が定量的に解析された.その結果,ダメージの程度を示すクラック密度は断層コアからの距離のべき乗に比例して減少することが明らかになった.断層帯のダメージ分布がこのように詳細に調べられたのは初めてである.今後クラック密度と浸透率,弾性波速度などの関係を決めることによって,断層帯全体の浸透率・速度構造モデルを決める道が開けた.有馬-高槻構造線と米国カリフォルニアのサンアンドレアス断層では,衝撃粉砕岩の野外調査と変形組織の解析をおこなって,結果を国際会議で報告した(論文は現在執筆中).衝撃粉砕岩(pulverized rock)とは,著しく粉砕しているものの,母岩の組織(花崗岩の等粒状組織など)を残していて,通常の断層のような著しい変形をうけていない岩石のことである.最近命名されて何故そのような岩石が断層沿いに形成されるかが議論されている.本研究では,両断層とも,断層コアの両側で断層帯の幅が著しく違うこと,破砕物の粒径分布で共通性が認められることなどを見いだした.その他,蛇紋岩断層ガウジ',無水石膏とドロマイトからなる断層ガウジの高速摩擦実験を共同でおこない,断層は高速時に大きな強度低下を起こすこと,摩擦熱で層状鉱物からなる断層ガウジは脱水・脱ガス分解をして天然の組織とよく似た剪断組織が形成されることを見いだした(学会で発表).
著者
牧野 俊郎 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成19年度(初年度)は,室内の生活空間における伝導伝熱・対流伝熱・ふく射伝熱・相変化をともなう熱・ふく射・物質輸送(heat, radiation and mass transfer)現象を考察し,その現象をよりよく制御するための生活環境自律制御型の高熱伝導性・高吸湿性の室内壁ユニット(第一壁)の開発を行った.すなわち,まず,計10種の第一壁の試料を作製した.次に,測定装置を作製し,第一壁の(有効)熱伝導率・(全垂直)放射率・平衡(質量)含水率を測定した.
著者
K・H Feuerherd 中野 加都子
出版者
神戸山手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

人間が何を重視するか、何を好むかといった問題は、それぞれの国の文化や自然的な条件、歴史によるものである。日独のライフスタイルを比較した結果、日本では便利さを追いかけることが目立つ。例えば、日本にある自動販売機の総数は世界一であり、自動販売機による消費電力は、出力110万キロワットの原発1基の年間発電量の8割に相当する。日独が比較される場合に必ず引き合いに出される例が容器包装ごみの問題である。ドイツでは、デュアルシステムという民間が主体となって行う容器包装ゴミのリサイクルシステムを整備したため、ゴミ問題は解決できたということが非難されている。しかし、日本では、家庭の主婦は夕食のために毎日のように買い物に行き、主食以外に何種類もの料理を準備する。内容も和食、洋食、中華など様々なものが取り入れられる。食材の調達方法も街の市場、スーパーマーケット、24時間営業のコンビニエンスストアから通信販売まで多様である。おまけに翌日配達の宅配便の普及や冷凍技術、真空包装の急速な進展のおかげで、日本のすみずみから産地直送の食材を手に入れることもできる。したがって、日々の消耗品に関わるごみが多く排出され、そのことが日本の環境問題を特徴づけている。ドイツでは消耗品が大量に排出されるようなライフスタイルを受け入れておらず、そのことがドイツの環境との接し方を特徴づけている。故に、日本とドイツとの決定的な違いは「出口」ではなく、「入口」である。しかし、一度獲得した便利さを失った時の不自由さは耐えがたい。ドイツから学ぶことは、「出口」対策としてのリサイクル方法や法律より、「入口」で一人一人が自分にとって必要かどうかを冷静に判断し、不必要なことを拒否できる主体性である。これは、日本での循環型社会形成推進基本法で明確にされたリデュースを最も優先する基本的考え方と非常にマッチすることが、この研究で明らかになった。
著者
森尾 吉成
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では, 農作業者の行動に合わせて必要な支援を提供するシステムとして, 1)屋内外に関係なく作業者の追跡を容易にする専用作業服の開発, 2)作業者の抽出, 姿勢角の検出, 絶対位置の検出を行う画像処理システムの開発, 3)確率モデルに学習させた作業行動の認識システムの開発, 4)作業に有用な情報や作業動作のリズムを, 映像や音声の形式でタイミング良く提供するシステム, の4つのシステムを開発した.
著者
福間 眞澄
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

パルス静電応力(PEA:Pulsed Electro-Acoustic)法は,誘電体中の電荷分布を測定する技術であり絶縁材料の信頼性評価等に広く利用されている。高分子絶縁材料中の空間電荷は三次元に分布し,かつ過渡的に変化するため多次元かつ短時間間隔で測定可能な測定装置の開発も望まれている。これまで複数の圧電素子(センサ)を用いた短時間間隔で測定可能な2次元空間電荷分布装置が開発されている。しかしながら,従来の装置は複数のセンサ信号を同時に測定記録するためにセンサ数のA/D変換器(ADC)が必要で装置コストが掛るなどの問題があった。本研究ではこの問題点を改善するために短時間で複数のセンサ信号を切替え平均化し記録する空間電荷分布測定装置を試作した。
著者
桑原 規子
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、昭和初期から占領期にかけて行われた日本近代版画の海外紹介の実態を把握するとともに、日本の近代版画が国際的にどのような評価を得たのかを明らかにするという目的のもと、次の二つのテーマに沿って調査研究を行った。以下、得られた成果についてテーマ別に記述する。1.「昭和戦前期の海外日本版画展覧会に関する研究」については、1934年から1937年にかけて欧米各地で開催された日本現代版画農覧会について調査し、出品目録-覧を作成するとともに、展覧会の詳細な内容とその反響についで研究した。その結果、展覧会の全体像が明らかになると同時に、海外へと進出する際に日本の創作版画が、浮世絵版画との歴史的連続性を打ち出すことによって国際的評価を獲得しようとしたことが判明した。実際、1934年のパリ展では大きな注目を集めた。とはいえ、国内的には創作版画がマイナー・アートと見なされていたことに変わりはなく、依然として高い評価を得ることはできなかった。2,「占領期におけるアメリカ人コレクターの研究」については、占領期日本に駐留したアメリカ人コレクターと創作版画家との交流を考察することにより、終戦後、日本の創作版画が急激に国際的評価を得ていった背景に、アメリカ人コレクター(ハートネットやスタットラーなど)の果たした役割が大きいことを明らかにした。彼らが出版や展覧会を通して行った海外における啓蒙普及活動が、日本近代版画の国際的評価向上に寄与すると同時に、国内的評価をも押し上げたと結論付けられる。本研究で得たこれらの成果は今後、日本近代版画史を構築する上で重要な視点となると同時に、日本版画が国際社会の中で果たした文化的役割、日本版画が内包する芸術的、文化的特質を再考する上で稗益するものと考える。
著者
三井 和男
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

種々の形態創生の問題を数学的に整理し,セルオートマトンをこれらの問題に対する最適化の数理モデルとして提案することができた。その結果として非線型最適化問題の解析法としてのセルオートマトンの近傍則の開発と幾つかの問題への応用を行うことができた。さらにここで開発された「ニューロンモデル」と呼ぶ近傍則を拡張し,周期外力のような時間的に変動する外力下の形状決定問題に有効性も明らかとなった。また,固有振動数あるいは固有振動モードを制御する問題の形状決定問題,さらには特別な機能を有する構造形態の設計問題等さまざまな問題への可能性を検討できた。以上を箇条書きにまとめると以下に示すとおりである。1)形態創生問題の数理モデル発見的手法によって解析することを前提として最小重量問題,最大剛性問題,固有振動数制御問題などを整理し,数理モデルを確立した。2)形態創生問題のセルオートマトンセルオートマトンの持つ自己組織化の性質を用いて,効率的に解析する手法を開発した。3)動的外力下の形態創生問題への適用ニューロンモデルによる近傍即を用いて動的外力下の形態創生問題を解析し,その適用性と有効性を示すことができた。4)動的境界条件下の形態創生問題への適用ニューロンモデルによる近傍即を用いて動的境界条件下の形態創生問題を解析し,その適用性と有効性を示すことができた。5)慣性を考慮する形態創生問題への適用加速度運動を伴う構造物の最適形状を求める問題への適用が可能であるあることがわかった。6)振動問題への応用固有振動数制御問題への近傍側の拡張を検討し,これらの問題へ適用可能性を検討した。
著者
新原 寿志
出版者
明治国際医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

開業鍼灸院を対象としたアンケート調査の結果から、安全対策について十分に周知徹底されているとは言えないこと、開業鍼灸師の(社)日本鍼灸師会や(社)全日本鍼灸学会への所属率は低いことから、卒後教育を効率的に実施することは困難であることが示唆された。鍼灸師の養成機関を対象としたアンケート調査では、安全教育において指導内容に差があることが示唆された。これらの結果から、鍼灸の安全性に関する卒後教育および学校教育の質の向上に向けた新たな取組みが必要であると考えられた。
著者
稲垣 恭子 竹内 洋 佐藤 卓己 植村 和秀 福間 良明 井上 義和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1920〜30年代におけるアカデミズムとジャーナリズムを中心とする「知識人的公共圏」について、2ヶ月に1度のペースで研究会を開催し、それぞれのテーマについて報告した。そのなかで各自の研究成果の土台をつくると同時に、共同研究としての共通の方向性と知見を集約していった。その成果は『日本主義的教養の時代』(柏書房2006年)として刊行している。また、本研究グループと京都大学社会学環との共同開催による公開シンポジウム、および各自の研究論文、著書として発表している。シンポジウム、各自の著書は以下の通りである*公開シンポジウム「大学批判の古層-『日本主義的教養の時代』から」(平成17年6月21日京都大学時計台記念館)竹内洋『大学という病-東大紛擾と教授群像』中公文庫2007年佐藤卓己『テレビ的教養-一億総博知化への系譜』NTT出版2008年稲垣恭子『女学校と女学生』中公新書2007年佐藤八寿子『ミッション・スクール』中公新書2006年福間良明『殉国と反逆-「特攻」の語りの戦後吏』青弓社2007年植村和秀『「日本」への問いをめぐる闘争-京都学派と原理日本社』柏書房2007年石田あゆう『ミッチーブーム』文春新書2006年井上義和他(解題)『日本主義的学生思想運動資料集成I雑誌篇(全9巻)』柏書房2007
著者
石田 あゆう
出版者
桃山学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、昭和30年代に起きた、女性たちを取り巻く雑誌メディアの変容について考察した。1941年、戦時の用紙統制から女性雑誌の統廃合が起き、その際形成された女性雑誌の出版体制は戦後に引き継がれた。新雑誌の創刊もあったが、女性雑誌では、戦前から続く婦入雑誌の人気は変わらず、女性雑誌の中枢を担っていた。つまり昭和45年以後の「新しい」タイプの女性誌『anan』『non-no』創刊までは、長らく四大婦人雑誌の時代として語られるのが通説であった。だが、昭和45年=1970年代以前と以後とで比較してしまうと、昭和30年代のBG(OL)を中心とする「若い女性」のための新雑誌の登場現象を見逃してしまう。それは、テレビが普及した時代でもあり、「テレビ雑誌」と呼ばれるビジュアル重視の女性誌が新しく考えられるようになった時代であった。雑誌のビジュアル重視の傾向は、「若い女性」たちを読者として意識することでより高まる。女性誌メディアは、「若さ」を意識してその情報内容のみならず形式的にも変化を遂げ、昭和20年代とは一線を画す新しい雑誌となっていった。その影響は、とくにファッション情報をめぐって顕著であり、女性の生活の一部としての「洋裁」が、ジャーナリズムへと組み込まれていくことになった。女性向け雑誌メディアの歴史では、昭和30年代はこれまであまり注目されていなかった。しかし、1970年代以降の新女性誌の傾向として指摘されるビジュアル化は、すでに昭和30年代に進んでいたのみならず、女性向け雑誌の世界が「若い女性」を想定するようになったことで、より「見た目」を重視する感性のメディアとなっていったことは、女性が牽引する公共圏を考える上で、大きな変化の時代であったといえるだろう。
著者
須藤 直人
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

植民地宗主国からではない、太平洋の島々から見た太平洋世界の表象における、日本文化のかかわりと意義を明らかにした。南洋群島ミクロネシアを訪れた中島敦は島の人々の世界観を問題とし、ハワイの日系人作家達はローカルな世界観を描くハワイ文学の中心にいる。南太平洋を代表する作家であるサモア出身のアルバート・ウェントやハワイ作家達は日本文化に注目する。こうした新しい表象を試みる作家達は、白人と黒人の問の恋愛・結婚・混血に関する伝統的な物語を様々に書き換えており、本研究はその系譜と意義を示した。
著者
松柳 研一 MICHEL NIcolas Lucien Jean MICHEL Nicolas Lucien Jean
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ヒルベルト空間を複素エネルギー面に拡張し、共鳴状態をGamow基底を用いて記述するGamow-HFB理論の定式化、その数値計算プログラムの開発、典型的な現象への適用を行った.中性子ドリップ線近傍のNi84-Ni90に対する適用では、通常の予想と異なり、ドリップ線に近づく従って対相関が増大するという大変興味深い結果を得ている。これは弱束縛状態、共鳴状態おとび散乱状態にたたがる中性子ペアーのコヒーレントな運動の結果であり、ドリップ線近傍の不安定核でユニークな特徴をもった対相関が生じることを示唆している。更に、散乱の境界条件を厳密に考慮して解いたGamow-HFB理論による結果とBox境界条件のより連続状態を離散化してHFB方程式を解いた結果とを比較し、両者が非常に良く一致することも示した。これは実座標空間を格子に切りBox境界条件の下で連続状態を離散化してHFB方程式を解くアプローチを正当化するものである。この研究の過程でHFB方程式の新しい有用な解法を見つけた。これはPoschl-Teller-Ginocchio(PTG)ポテンシャルと呼ばれる固有関数を解析的に求めることのできる基底を用いてHFB準粒子波動関数を展開する方法である。この方法は変形ポテンシャルへの拡張も容易なので、変形した弱束縛原子核に対する非常に有用な方法になると期待される。Gamow-HFB理論のもう一つの魅力は準粒子の逃散幅も計算できることである。ドリップ近傍の不安定核では低いエネルギーの準粒子状態でも連続エネルギー状態となる.したがって、これらの準粒子励起のコヒーレントな重ね合わせによって形成される低い集団励起状態も連続状態になり逃散幅をもつ。今年度開発したGamow-HFB平均場基底を用いて、ドリップする限界に近い不安定核に特有なソフト集団モードが出現する可能性をself-cinsistent準粒子RPA計算のよって計算する準備を進めている。