著者
石田 英実 星野 光雄 仲谷 英夫 国松 豊 中務 真人 沢田 順弘 ミィーブ リーキー 牧野内 猛 中野 良彦
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

人類起源の時と場所は長く謎に包まれていたが、人類学をはじめとして古生物学、分子生物学などにおける長足の進歩がその時と場を絞りこみ、中新世後期のアフリカがその最有力候補となっている。本調査の目的は、中新世ホミノイドの進化と人類起源の解明を意図している。具体的には、日本人研究者を中心とした本調査隊がこれまでに大量に発見しているケニアビテクス化石の産地、ナチョラ地域と、後期中新世ホミノイドであるサンブルピテクスの産出地、サンブル・ヒルズの両地域おける発掘調査を前年度に引き続いて行うことが中心であり、加えて連合王国、ベルギーの自然史博物館において化石解析のための比較資料の収集であった。今年度の調査、発掘の主な成果は、昨年と同様にナチョラ地域におけるホミノイド化石の発見と、サンブル・ヒルズでの長鼻類を含む哺乳動物化石の発見であった。ホミノイド発見の主な化石産地は、ナチョラ地域のBG-KおよびBG-13化石産地であった。前者からは昨年度に発見している同一個体に属する骨格標本に追加という形でさらに四肢・体幹骨化石が発見され、ケニアピテクスの体格復元上極めて貴重な化石標本となった。また、BG-K化石産地からは岩に埋もれた状態で下顎骨が発見され、その新鮮な咬合面からは詳細なマイクロウェアー観察が期待される。ケニアピテクス化石の解釈としては、ロコモーション様式は樹上四足歩行型、食性はマメ類や他の堅果が主体と推定される。系統的にはサンブルピテクスや現生の大型類人猿の共通祖先と考えられ、さらなる詳細は今後の発掘と分析にかかる。
著者
東城 幸治
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昆虫類の高次系統を考察するべく,比較発生学的アプローチによる研究を展開した。特に,カカトアルキ目昆虫類を中心とした研究を行った。前年度までに採取・確保したサンプルを基に,胚発生や卵形態に関する知見を蓄積させ,原始的有翅昆虫類(直翅系昆虫類や旧翅類昆虫類)における発生プロセスとの比較検討を実施した。系統解析において鍵となるような発生形質:胚発生における胚の陥入anatrepsis,胚反転katatrepsisといった胚運動blastokinesisのシステムに関しては,初年度および18年度より知見を深め,この他,卵形成や卵形態(特に卵門micropyleなどの微細構造)の比較から,カカトアルキ目とガロアムシ目の類縁性を議論してきた。典型的な短胚型発生をし,はじめは卵内に浅く陥入し,その後に平行的に卵内に潜り込み,卵中央に定位することなど,ガロアムシ目との共通性が強く認められた。一方で,胚反転前のステージでありながらも,胚体としては孵化直前のレベルに近いほどによく形態形成が進んでいること(遅延的な胚反転)など,他の昆虫類の胚発生には認められない,本目独自の形質も認められた。この特殊性は,長く厳しい乾季を凌ぐ上で重要な形質であると考えられると共に,カカトアルキ目の単系統性を示唆する重要な形質の一つと言える。これらの研究成果は,海外の研究グループによる頭部形態や精子形成,分子系統解析などの研究からの考察とも矛盾なく,本研究における成果の妥当性が示唆される。これらの知見を,20年度に開催される国際昆虫学会で発表する予定である。また,本研究の成果のうち,既に学術誌への公表の済んだ内容に関しては,出版社からの依頼により,19年11月に書籍として出版した。
著者
伴 雅雄
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.255-267, 1991-07-15
被引用文献数
4

Nasu volcanoes, the southern part of the volcanic front of Northeast Japan arc, comprises 10 small volcanic centers. Minamigassan is one of these centers and is located at the southern end of this volcanoes. A petrological model of magmatic proccess of Minamigassan volcano is presented based on the mineralogy and whole-rock chemistry. The eruption products of Minamigassan volcano can be divided into five units ; E-1, E-2, L-1, L-2, and L-3 units from lower to upper. The caldera collapse occured at the beginning of L-1 unit. The E-1 unit belongs to medium-K tholeiite, E-2 to low-K tholeiite, L-1 to medium-K calc-alkaline, L-2 to medium-K tholeiite, and L-3 to medium-K calc-alkaline categories, respectively. L-1 unit is petrologically similar to E-1 unit. Least squares subtraction calculation for major elements and Rayliegh fractionation model calculation for trace elements indicate that the chemical variation within E-1 and E-2 unit can be interpreted by fractional crystallization of phenocrystic minerals. On the other hand calc-alkaline suites, L-1 and L-3 units suffered magma mixing. These units formed by mixing between basic magma which resembles E-1 unit magma and felsic magma which is derived from early stage magma through crustal contamination or crustal melt. Distinct differences in LIL/HFS ratio among E-1 and E-2 units cannot be explained either by the difference in degrees of partial melting of a common source or by any fractional crystallization process. The difference between E-1 and E-2 units have been originated in chemical difference of source material.
著者
高橋 慎一
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ポスト福祉国家における生政治的状況における倫理的規制を設けることを試みるものである。とくにジェンダー・セクシュアリティの属性に基づいて行われる医療資源化、家族のケア労働の位置づけをめぐって考察を深めた。具体的な研究領域としては、1980年代から1990年代にかけての米国エイズ危機下で、同性愛者が担ったエイズ患者の社会運動が同性婚推進運動へと転換していく過程を分析した。それによって明らかになったのは、米国の医療・福祉・家族政策の構造転換である。同性パートナーの末期医療に関する代理決定権、子の監護権、病院訪問権、賃貸継続権をめぐって、法的に家族の地位が再編され、家族以外の共同形態が制度的非対称におかれていくにいたる構造的転換が解明された。くわえて、このような構造化により帰結される性的指向性および性自認による制度的区分には、トランスジェンダー、トランスセクシャル、性同一性障害などの運動による批判を検討した。これら批判の思想的背景となったゲイ・レズビアン研究、クィア研究では、血縁家族に限定されないオルタナティヴな共同性に正当性を与える是正要求が理論的に考察されている。この是正要求には二つの系列があり、同性愛者の社会的格下げが改善されることで権利獲得にいたるという社会変化のモデルと、物理的負担に着目して各人の必要に応じた負担の配分を構想する社会変化のモデルがある。この二つのモデルの区分が、社会的マイノリティによる社会構造の是正要求には不可欠であると分析した。本研究は、家族の加重なケア労働の是正要求は、社会的格下げと負担の分配という二つのアプローチによって可能になるのということを、事例研究と理論研究によって証左したものである。
著者
小山 裕
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.37-51, 2010-06-30

本稿の目的は,ニクラス・ルーマンが『制度としての基本権』(1965年)において最初に提示した機能分化社会という秩序表象が立つ共時的・通時的連関の解明にある.共時的な観点からは,ルーマンの機能分化社会理論が,公共性や公的秩序といった概念を手がかりとした,ドイツ的国家概念の批判という,同時代のドイツ連邦共和国の理論家の幾人かに共通して見られる試みの一ヴァージョンであったことが示される.ルーマンの機能分化概念は,かかる国家概念を支える19世紀ドイツの社会構造と見なされていた国家と社会の二元主義へのオルタナティヴであった.通時的な観点からは,機能分化社会という秩序表象がカール・シュミットの全面国家との比較から分析される.ルーマンは,シュミットのいう社会の自己組織化を,社会全体の政治化による自由なき全面国家の成立と見なし,それを批判するために機能分化を維持するためのメカニズムを探求した.政治システムの限界づけを志向するという点で,初期ルーマンの機能分化社会理論は,19世紀の市民的自由主義の自由主義的な再解釈であったと特徴づけることができる.
著者
田辺 信介 國頭 恭 岩田 久人 本田 克久 中田 晴彦
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、野生の高等動物に蓄積している内分泌かく乱物質の汚染と影響を地球的視点で解明し、化学物質の安全な利用と生態系保全のための指針を提示することを目的とした。まず、アジアの先進国および途上国で捕獲した野生の留鳥について有機塩素化合物および有機スズ化合物の汚染実態を調べたところ、PCB等の工業用材料として利用された化学物質は先進国および旧社会主義国で汚染が顕在化しているのに対し、DDTやHCH(ヘキサクロロシクロヘキサン)などの有機塩素系農薬は途上国で著しい汚染が確認された。また、アジア地域を飛翔する渡り鳥は、越冬地や繁殖地で地域固有の汚染暴露を受けることが判明し、南方地域で汚染を受け体内に蓄積した有害物質の影響が、北方地域で営まれる繁殖活動時に現れること、すなわち内分泌かく乱物質の影響は汚染の発生源のみならず遠隔地つまり汚染とは無縁な場所でも発現することが示唆された。さらに、アザラシやカワウを対象に、ダイオキシン類の汚染と影響を検証したところ、毒性の閾値を越えるきわめて高濃度の蓄積がみられ、そのリスクは高いと推察された。CdやHgなどの毒性元素は、陸域に比べ海洋の高等動物で高濃度蓄積がみられ、その細胞内分布や解毒機能の種特異性が示唆された。ところで、鰭脚類や鯨類ではCYP酵素の活性や血中性ホルモン濃度と有機塩素化合物濃度との間に相関関係がみられた。アザラシやカワウの場合、毒性の強いダイオキシン類異性体ほど肝臓に集積しやすい傾向がみられ、AhR関与の毒性に対し本種は敏感であることが示唆された。さらにリンパ球の生育阻害は30-40ng/gの血中ブチルスズ化合物濃度で起こることが明らかとなり、一部の沿岸性鯨類ではこの閾値を超える汚染が認められた。以上の結果を総合すると、生物蓄積性内分泌かく乱物質による野生生物のリスクは水棲哺乳類および魚食性鳥類で高いと推察された。
著者
箸本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、地方都市の中心市街地活性化が直面する諸問題のうち、(1)郊外型SCへの行政の対応、(2)ホームページを用いた情報発信、(3)タウンマネジメントをめぐるセクタ間の対立を検討した。(1)については、群馬県太田市と栃木県佐野市を対象とした分析を行い、消費の流失を阻止すると同時に、税収と雇用の確保するため、大規模モールの進出を自治体が事実上「誘致」している点を指摘した。(2)については、大阪市42商店街の34サイトを分析し、買回り品を中心とする商店街が広域情報発信や電子商取引機能を重視するのに対して、最寄り品を中心とする近隣型商店街は地域情報の発信機能を重視すること、自治体のIT対応補助金が導入時期を規定していることなどを明らかにした。(3)については、広島県呉市で実態調査を行い、専任のTMを常駐させることが、新規創業者の定着に大きな効果を持つこと、既得権者である旧来の商業者との調整を図る機関が必要であること等を指摘した。
著者
平野 俊夫 村上 正晃 山下 晋 石原 克彦
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2003

サイトカインは、免疫応答、急性期反応、造血、炎症性反応に重要な役割を果たしている生理活性分子である。我々が作成した、シグナル特異的な変異を導入したgp130を発現しているノックインマウスは関節リウマチ様自己免疫疾患を自然に発症する。このマウスに見られるT細胞や樹状細胞の免疫学的機能異常のメカニズムを明らかにすることにより、逆にサイトカインシグナルによる正常の免疫応答の制御機構の一端を明らかにする。さらに、踏み込んでサイトカインのシグナル異常によって生じる自己免疫疾患に普遍的な機構を明らかにすることを目的とした。以下の2つの概念を証明することができた。1. サイトカイン刺激による非免疫系組織の活性化が別のサイトカインを介してCD4+T細胞の活性化を引き起こして自己免疫につながる。2. 非免疫系細胞にはIL-17とIL-6の刺激を引き金とするIL-6の正のフィードバックループが正常状態でも存在して生体のIL-6量を制御している。F759マウスではIL-6刺激後正常状態ならば働くはずのSOCS3による負のフィードバックループが働かずにIL-6の正のフィードバックループが暴走し、過剰なIL-6発現が自己免疫性の関節炎を引き起こす。さらに、本研究の過程で発見された亜鉛シグナルの存在を証明して免疫反応との関連を研究して成果を出すことができた。
著者
志村 賢男 長沼 信之
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

従来、土地持ち労働者は農地のもつ所得補充、生活保障機能に注目されて資本にとって好都合な労働者類型として捉えられてきた。しかし、そうした評価は今や充分ではない。今日の労働者の再階層化現象の中で捉えることが必要である。その理由の1つは、階級分解の国際化の進展によるものである。地場産業や伝統的製造業における労働者の不安定就労者化は、産業、生産的業務の輸出によってもたらされたとみるべきである。労働者の再階層化現象もこうした日本の工業制度の国際的拡張の中に位置づけられる必要がある。第2は、戦後日本の社会構造的特徴とみなされてきた「階層システムの欠除」の動揺に関わる。近年、中小零細企業労働者を中心に階層化の進展がみられ、それを強調する見解も多いが「階層社会」への逆転を一面的に強調するのには、やゝ問題がある。とくに、こうした再階層化の中で土地持ち労働者がもっとも生活不安を擁する階層として析出しているかといえば、決してそうではない。彼らが、とくに福祉社会の谷間にあるとはいえない。むしろ土地持ち労働者にとって問題なのは、その平準化が農政の側面的支持に深く依存していた点にこそある。この政策費用は、現在の福祉社会補強の中心となっている「企業福祉」の場合と違って、労働生産性の向上によって報われることが少ない。それ故に農政=財政側からその支柱が漸次、撤去されてゆく可能性はあり、その意味で近い将来「平準化」した階層から転落する可能性がないとはいえない。とはいえ、より基本的問題は、現在まで東南アジア諸国を巻き込んで成立してきた日本の工業化制度がどこまで持続しうるかにある。土地持ち労働者も製造過程の熟練、半熟練的労働者と運命を共にする存在を見た方がよい。
著者
中島 秀之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告知能と複雑系(ICS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.67, pp.71-79, 1994-07-21

我々は"新ソフトウェア構造化モデル"プロジェクトにおいて,柔軟に協調的動作を行なうプログラムを構築する方法論を研究している.本論文ではこれらを満たすプログラミング像として,有機的プログラミングの考え方を提案し,その上のマルチ・エージェントシステムの実現に関して述べる.We are developing a new software methodology for building large, complicated systems out of simple units. The emphasis is on the architecture (called cooperative architecture) which is used to combine the units, rather than on the intelligence of individual units. We named the methodology "organic programming" after the flexibility of organic systems such as plants and animals. This paper describes how to implement "agents" and communication among agents on Gaea.
著者
和田 雄二 塚原 保徳 山内 智央
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

ゼオライト細孔中へ機能を待った物質を導入することにより、それら個々の機能とは異なった新規の機能を創製するナノハイブリッドゼオライトは、光化学、光触媒、発光材料などの観点から注目されている。そこで我々は、溶液中とゼオライト細孔内における4-acetylbiphenylの光物性について、共存する金属イオンの効果の観点から系統的に調べた。4-acetylbiphenylのBlue発光は、単独溶液系やゼオライト細孔内に導入しただけでは発現しないことが明らかとなった。また、4-acetylbiphenylは共存金属イオンによってその光物性を変え、ゼオライト細孔内で特定の金属イオン(Gd(III))と共存した場合のみ、Blue発光(蛍光)とりん光を同時に室温において与えた。4-acetylbiphenylの光物性を詳細に検討することで、複雑なRGB発光機構の解析を行うことができ、なおやつこの系の発光色制御、しいては光を操るナノハイブリッド系の構築に結び付けたいと考える。さらに、ホスト材料して2次元制限空間を有する層状ケイ酸塩を用いて、構造と4-acetylbiphenyl発光挙動について検討したところ、層状ケイ酸塩のケイ酸骨格構造の変化が発光スペクトルに影響していることが分かった。また、層状ケイ酸塩に導入した4-acetylbiphenylは、室温下・空気雰囲気下でりん光発光を示した。
著者
萩原 守
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

清代モンゴルの法制史は、ヨーロッパやモンゴル国でのモンゴル文文書主体の文献学的文書研究と日本や中国での漢文法典主体の法制史研究とがすれ違いに終わっており、筆者は双方をつなぐ研究をしたい。例えば文書書式の唯一の研究者ノロブサンボー氏も、清代モンゴルの文書書式を13世紀以来のモンゴル固有の伝統的書式とし、諸外国、特に中国からの影響を無視している。しかし実際には、清代のモンゴル文公文書書式は、13世紀の文書とも16〜17世紀初めの文書とも全く共通せず、モンゴルの伝統を受け継いだだけの物とは認めがたい。清代モンゴルの公文書書式としては、冒頭で発送者、次いで宛先が明示され、その後文書の最終用件が提示された後、ようやく本題部分が始まる。文中では多くの文書が何重にも直接引用された後結論が述べられる。文書の末尾にも定型文言があり、最後に発送年月日が記される。文中では拾頭・平田・閾字等が見られ、口供を記録した別紙が最後に添付されることもある。犯人や証人の口供や甘結の後には、しばしば指紋の押捺等の画押が取られる。さらに法律条文は直接引用され、文書の端々に定型化した特定の細かい言い回しが多数見られる。以上のいずれの書式も、むしろ清代の中国本土での漢文文言とことごとく共通している。従って清代モンゴルの裁判文書を初めとする公文書書式は、モンゴル伝来の書式というより、満州文文書を介して中国本土から導入されたと考えるべきである。そのことは、「必要的覆審制度」や「州県自理の案」の存在、「検尿をsirqaci(?作)が『洗冤録』を用いて行う点」等々、裁判制度面におけるモンゴルと中国本土との共通性からも確認でき、文書書式と制度とが一括して導入された可能性が高い。その導入時期の問題はいまだ不明なので、次の課題となろう。
著者
滝口 昇
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、マウスのにおい識別ルールの解明をさらに進め、バイオプロセスへの適用をおこなうために、昨年度の結果をふまえた上で以下の内容を実施した。(1)難易度の高い課題において見られる個体差を解析するために、Y字迷路に適用可能なビデオイメージング解析法を構築した。この方法により各種行動パラメータに基づいた個体差のクラスタ解析が可能となり、個体差とアテンションとの関係を検討する基盤を確立することが出来た。(2)脳内の各部位における情報の伝達量が、学習によりどのように変容しているのかをMAPK(ERK1/2)のリン酸化を指標にDotBlqttingを用いて調べた。その結果、複合臭刺激に対してにおい情報の入ロである嗅球では情報伝達量が増大しているのに対し、嗅皮質に伝達される段階もしくは嗅皮質において不必要な情報が削減されていた。この結果は、嗅球から嗅皮質への情報の伝達過程においてアテンションが存在する事を示唆している。(3)また、嗅球および嗅皮質前方部の活動についてより詳細に調べるため、神経可塑性関連遺伝子であるc-fosにより発現するタンパク質を免疫染色により解析した。単一におい物質に対する学習前後での嗅球糸球体の反応パターン変化を調べたところ、パターンの変化が単純な簡略化ではないことが明かとなった。(4)におい識別情報処理系のモデル化と新規プロセス制御系構築のために、マウス嗅覚情報処理系の物理的構造に基づいたコンピュータモデルの検討をおこなった。まなにおい識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用のため、pH、温度、DO、撹拝速度をモニターする制御系への組み込みを試みた。このようなデータの結果をふまえ、今後は、個体差について行動解析だけではなく、飼育環境やグループ内の順位等を手がかりに解析するとともに、アテンション形成との関連性についても解析していく。またにおい識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用についてさらに検討を進めたい。