著者
松沢 哲郎 杉山 幸丸 藤田 和生 友永 雅己
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、アイ・アキラと名づけられた「言語」習得訓練を受けてきた2頭のチンパンジーと、未経験の若いチンパンジー4頭の計6頭のチンパンジーを主たる対象として、チンパンジーのもつ認知機能を「シンボル操作」の階層構造という視点から捉え、ヒトとの比較において理解することを目的とした。シンボルの操作は、まさにヒトをヒトたらしめているきわめてヒトに特異な能力だからである。シンボル操作のトピックスとしては、ストループ効果(視覚シンボルのもつ言語的意味と知覚的見えのあいだの相互作用)について検討した。人工言語習得の研究を継続してきたアイ17歳、アキラ17歳と、さまざまな見本合わせ課題の経験をもつ4頭のチンパンジー(ペンデ-サ16歳、クロエ13歳、ポポ11歳、パン10歳)を主たる対象として、ヒト幼児からおとなまでを対象とした比較研究により、以下に述べるシンボル操作の階層性を実験的に分析した。シンボル操作を検討する汎用の実験装置は、コンピューター本体に、ハイパータッチとよばれる新しいタッチパネルシステムと画像処理装置を組みあわせた刺激提示・反応記録装置をもちいた。そのために必要なインターフェスについては自作した。シンボル操作と概括する上述の高次認知機能をひきだす場面は、具体的には見本合わせ場面(同一見本合わせ、象徴見本合わせ、構成見本合わせ、遅延見本合わせなど、およびそれらの複合課題)である。10色を色名図形文字と色名漢字の両方で表現できるようにチンパンジーを訓練し、ストループ干渉の予備実験をおこなった。
著者
田中 厚吏 石﨑 直彦 宮地 隆史 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.34-43, 2023-04-30 (Released:2023-09-10)
参考文献数
25

【目的】神経筋疾患患者の嚥下造影検査を後方視的に調査し,ゼリー・とろみ付き液体における物性の差異による誤嚥や咽頭残留との関連を調査した. 【方法】対象者は,嚥下造影検査(VF)を実施した神経筋疾患患者で診療録から後方視的に調査した.調査項目は基本情報としてVF 実施時点の年齢,身長,体重,BMI,摂食状況,食事形態を調査した.VF 側面像から固さ5,000 N/m2 および8,500 N/m2 の異なるゼリー,薄いとろみ(粘度116.6 mPa・s)および中間のとろみ(粘度276.8 mPa・s)の検査食を用い,誤嚥の有無,咽頭残留の有無を調査した.統計解析は,検査食の誤嚥・咽頭残留の比較にはχ2検定,Fisher の正確確率検定を用いた.また,誤嚥・咽頭残留の有無における年齢・BMI の比較にはt 検定を用いた. 【結果】期間中にVF を実施した65 名(男性:28 名,女性:37 名)を解析対象とした.誤嚥は検査食間で有意な差は認めなかった.喉頭蓋谷残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ薄いとろみのほうが有意に少なく(p<0.05),ゼリー8,500 N/m2 では,中間のとろみおよび薄いとろみのほうが有意に残留が少なかった(p<0.05,p<0.01).梨状窩残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ,薄いとろみのほうが有意に少なかったが(p<0.05),その他の物性間で差はみられなかった. 【結論】神経筋疾患患者における食品物性の違いによる誤嚥・咽頭残留との関連を調査した結果,咽頭残留の観点からは薄いとろみ程度の液体が適切である可能性が示唆された.
著者
水越 厚史 北條 祥子 黒岩 義之 東 賢一 中間 千香子 奥村 二郎
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.28-36, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
42

環境過敏症は,健常人では問題にならない僅かなレベルの化学物質への曝露や物理的影響などの環境因子により,全身の様々な症状が生じる病態である.その病因や症候の底流となる機序を解明し,予防や発症,治療法に関する環境・医学的対策情報を得ることが急務と考える.そのためには,問診票により患者から訴えの実態を把握し,その発症や症状発現の誘因となりそうな環境因子を明らかにする必要がある.本報では,環境過敏症の疫学調査のために世界的に使われてきた国際共通問診票の特徴を整理し,疫学調査に必要な質問項目について検討した.国際共通問診票の特徴は,様々な種類の環境因子や症状発現について網羅的に質問している点にある.近年の環境の変遷速度を考慮すると,新たな環境因子を継続的に探索できる問診票の出現が望まれる.調査結果をフィードバックし,問診票をアップデートしつつ,環境過敏症の課題解決に向けて努力していきたい.
著者
埴原 和郎 増田 哲男 田中 武史
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.107-112, 1975 (Released:2008-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
6 7

切歯のシャベル型についてはHRDLICKA(1920)が最初に記載していらい,とくにモンゴロイドに高い頻度で現われ,人種特徴を示す形質として注目されてきた。この形質に関する遺伝学的研究も多く,強い遺伝子支配をうけていることは多くの研究者が一致する点である。しかしその遺伝様式については,常染色体性単純優性遺伝説,劣性遺伝説,複対立遺伝子説,polygene説などがあり,研究者の意見はまちまちである。従来,多くの研究者はHRDLICKAの分類にしたがって,シャベル型を発達の程度に応じていくつかのカテゴリーにわけ,これを非連続形質であるかのようにとりあつかってきた。しかし実際には,シャベル型の程度は連続的に変化するものであり,量的形質を非連続形質として分析しようとしたところに無理があったものと思われる。私ども(HANIHARA et al.,1970)は,さきにDAHLBERG and MIKKELSEN (1947)が試みたように,切歯舌側面窩の深さを計測したところ,この形質はほとんど完全に正規分布曲線に一致して連続的に変化することを知った。また同時に,肉眼によるシャベル型の分類がこの計測値の大小ときわめてよく一致することから,舌側面窩の深さをもってシャベル型の発達の程度を代表させることが可能であることがたしかめられー。てのような点から,従来非連続形質としてシャベル型を分類し,その資料から遺伝様式を分析しようとした試みは,理論的に無理であったといえる。今回の研究はこのような観点から,上顎中切歯の舌側面窩の深さを資料として遺伝学的分析を試みたものである。したがって研究の中心はシャベル型の遺伝様式よりも,家族内における遺伝率(heritability)の推定におかれた。まず日本人の一般集団におけるこの計測の平均値は,男性•女性ともに約1mmであり(男女合計の平均値は1.00mm),この値はPima Indian の 1.2mmよりは浅いが,米白人の0.42mmならびに米黒人の0.49mmよりははるかに深く,モンゴロイドの特徴をよく現わしている。また日本人双生児での値もほぼ同様である(Table1)。注目すべきことは,一卵性双生児間の相関係数がきわめて高く,二卵性双生児間ではやや低くなるが,なお高度に有意である点である。このことは,従来いわれていたように,シャベル型に対する遺伝子支配がきわめて強いことを示している。家族内の比較のための資料は日本人41家族よりえられたが,親と子との相関は,母•娘の組合せを除いてきわあて高く,遺伝性の強いことを示している。父•息子,母•息子および父•娘の組合せでは,遺伝率はいずれも0.8をこえる。田中克己(1960)によると,日本人集団では智能の遺伝率は約0.5,身長のそれは0.52-0.67であるというが,これらの形質に比較して,シャベル型の遺伝率はきわめて高いといえる。また試みに,両親間の相関係数を計算すると0に近いので,今回推定した遺伝率の信頼性は高いと考えられる。母•娘間の遺伝率が低い理由はよくわからないが,兄弟間に比して異性同胞間ならびに姉妹間の相関係数がやや低いことと関係しているかもしれない。しかしこの形質が性染色体上の遺伝子に連関をもっているかどうかという問題については,さらに資料を加え,詳細に分析する必要がある。
著者
原 百合恵
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

2型糖尿病治療薬のメトホルミンは、AMPK(AMP-activated protein kinase)の活性化により肝臓での糖新生を抑制し血糖値を低下させるが、効果が十分に得られない場合も多い。申請者は、クエン酸摂取はメトホルミンの効果とは逆に肝臓での糖新生を亢進させ血糖値を上昇させることを明らかにしてきた。クエン酸とメトホルミンは拮抗的な作用を持つことから、クエン酸摂取がメトホルミンの効果を減弱させる可能性がある。本研究では、糖尿病モデルマウスを用いて、クエン酸摂取がAMPK活性化を抑制しメトホルミンの作用を減弱させるか検証し、メトホルミンと相互作用する食品成分を提示することを目的とする。
著者
沼崎 光浩 宮崎 玲 高原 英明
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.119, no.11, pp.1345-1352, 1999-11-01 (Released:2008-12-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

This paper describes improvement for wheel slip and re-adhesion control for electric locomotives with induction motor vector control. Compared with the conventional slip frequency method, the torque response is much improved by the vector control. By referring the re-adhesion process for the traditional rectifier controlled do-motor locomotives, suitable torque reduction to an induction motor is applied in accordance with the wheel slip speed. The test results by the series EH500 locomotive for Japan Freight Railway Company, show much improvement for the re-adhesion process especially when a steeper torque reduction ratio is applied.
著者
Thomas Ferrini Olivier Grandjouan Olivier Pourret Raul E. Martinez
出版者
GEOCHEMICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
GEOCHEMICAL JOURNAL (ISSN:00167002)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.51-58, 2021 (Released:2021-11-22)

Cyanobacteria induced biomineralization of atmospheric CO2 is a natural process leading to the formation of carbonates by spontaneous precipitation or through the presence of nucleation sites, under supersaturated conditions. As importance of basaltic rocks in the carbon cycle has already been highlighted, basaltic glass was chosen to test its ability to release cations needed for carbonate formation in presence of Synechococcus sp. cyanobacteria. Active cyanobacteria were expected to generate a local alkaline environment through photosynthetic metabolism. This process produces oxygen and hydroxide ions as waste products, raising the pH of the immediate cell surface vicinity and indirectly enhancing the carbonate CO32- concentration and providing the a degree of saturation that can lead to the formation of calcite CaCO3 or magnesite MgCO3. In the presence of active cells, the saturation index (SI) increased from -10.56 to -9.48 for calcite and from -13.6 to -12.5 for magnesite, however they remained negative due to the low Ca2+ and Mg2+ activities. Dead cells were expected to act as nucleation sites by the stepwise binding of carbonate with Ca2+ and Mg2+ on their surface. In the presence of inactive cells, SI values were closer to 0 but still negative due to the low pH and cation concentrations. Our results highlight that our current understanding of the carbon cycle suggests that Earth’s climate is stabilized by a negative feedback involving CO2 consumption and especially during chemical weathering of silicate minerals.
著者
松本 亮介 坪内 佑樹
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2020-CSEC-89, no.11, pp.1-6, 2020-05-07

単一の OS 環境に複数のテナントを配置し,リソースを共有するようなマルチテナント環境において,一般的に各テナント間での権限分離はプロセスのオーナやパーミッション情報を利用する.一方で,Web ホスティングサービスをはじめ,Web サービスにおいても,コンテナによって計算処理を担うプロセスの権限分離が普及している状況において,データ処理に関しては,複数の異なるオーナのプロセスがデータベースのようなミドルウェアをネットワークを介して通信し共有することで実現されるケースがある.そのようなシステム構成において,単一の OS 内でのプロセス間は権限分離されていても,ネットワークを介した分散システムと捉えたときには,OS 側の権限分離とは独立してユーザとパスワードによりミドルウェアの認証を行うことになる.すなわち,アプリケーションやシステムの脆弱性によって,特定のプロセスが他のオーナのプロセスのユーザとパスワードを取得できた場合,容易に通信先ミドルウェアの情報にアクセスできる.本研究では,Linux のプロセスのオーナ情報を TCP を介したミドルウェアの認証に付与し,特定のオーナからのみミドルウェアの認証を可能とする透過的な TCP を介した権限分離手法の設計について述べる.
著者
土井 勝美
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.8-15, 2014-02-28 (Released:2014-04-01)
参考文献数
23

Meniere's disease is characterized by intermittent episodes of vertigo lasting from minutes to hours, with fluctuating sensorineural hearing loss, tinnitus, and aural pressure. The primary histopathological correlate is endolymphatic hydrops. Several medical and surgical treatments have been offered to patients with Meniere's disease. It has been confirmed that no one effective treatment is available for these patients. According to the severity of the patients' symptoms, appropriate therapeutic strategies should be selected. If medical therapies including lifestyle change, diuretics, and local/systemic steroids have failed, then surgical approaches such as intratympanic gentamicin perfusion (GM), pressure pulse treatment with Meniett®, endolymphatic sac surgery (ESS) and vestibular neurectomy (VN) should be considered. Most reviews have reported relative good (80-100%) vertigo control rates with either GM, Meniett®, ESS, or VN, however, recurrence of vertigo has been noticed in certain cases. A combination of medical and surgical strategies should be recommended and the treatment algorithm for Meniere's disease indicated in “2011 Clinical practice guidelines for Meniere's disease” must be adopted.