著者
福山 欣司
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

日本産のカエル類に対する酸性雨の影響について調べるために、数種のカエルについて飼育実験を行った。今回は特に卵期と幼生期における影響について、アオガエル科のカジカガエル(Buergeria buergeri)、モリアオガエル(Rhacophorus arboreus)、シュレ-ゲルアオガエル(R. schlegelii)の3種を重点的に調査した。B. buergeriについては野外で採取した1ペアを実験室で産卵させて得た受精卵を実験に供した。R. arboreusとR. schlegeliiについては、野外に産みつけられている1卵塊を採取し、それを実験に供した。受精卵に対する酸の影響を調べるためにB. buergeriの受精卵をpHを3.0〜6.0に調整した飼育水にそれぞれ30卵ずつ入れ、20℃で孵化率を調べた。同じ実験をニホンアマガエル(Hyla japonica)とダルマガエル(Rana porosa brevipoda)についても行い、種間比較をした。その結果、pH3.5以下では3種とも孵化率0%となりB. buergeriでは4.0でも孵化率0%であった。これらより高いpHではいずれも場合も孵化率100%であった。幼生に対する酸の影響を調べるために、pHを3.0〜6.0に調整した飼育水に孵化直後の幼生(B. buergeri、 R. arboreus、およびR. schlegelii)を30匹または20匹ずつ入れ、20℃で飼育し、幼生の生存率と成長速度を調べた。その結果、B. buergeriでは、pHが低くなるにつれて生残率が低下する傾向があったが、他の2種については差は見られなかった。また3種ともpH5.0以下ではコントロールと比較して上陸時の体長が有意に小さかった。以上の結果から、オタマジャクシが流水で成長するB. buergeriは、他の種と比較して酸性に対する耐性がやや低いと考えられる。また、今回実験した3種すべてにおいてpH5.0を下回するような酸性条件では、卵や幼生にダメ-ジを与える可能性があると考えられる。
著者
Yoji Morita Shigeyoshi Miyagawa
出版者
The ISCIE Symposium on Stochastic Systems Theory and Its Applications
雑誌
Proceedings of the ISCIE International Symposium on Stochastic Systems Theory and its Applications (ISSN:21884730)
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.84-89, 2014-05-05 (Released:2018-05-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

This paper investigates the effect of “quantitative easing monetary policy (QEMP)” which the Bank of Japan (BOJ) adopted from March 2001 through June 2006, by changing operating target for money market from interest rate to the monetary base that is defined as the sum of “Cash” and “Reserves at the BOJ”. The paper confirms that the monetary policy has contributed to the recovery of the prolonged deflation. First we estimate vector autoregressive (VAR) model, which consists of the reserves, stock, exchange rate and real GDP. Next we decompose money stock into transaction money and precautionary money to evaluate the transmission mechanism of the effect of reserves on the real economy by taking into account the financial anxiety. We have found a quantitative easing shock firstly increase transaction money and then raise output and price, which dispel the anxiety. We also confirm that a liquidity trap did not exist during the period of quantitative easing monetary policy.
著者
藤井 美穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.183-195, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

目 的 本研究では,生殖補助医療(以下ART)によって双胎妊娠した女性が不妊治療期から出産後6か月頃までに母親となっていくプロセスを明らかにした。方 法 研究デザインは,ライフストーリー法である。研究参加者はARTによって双胎妊娠し,妊娠8か月以降に胎児に先天的な奇形や異常がない。加えて,妊娠8か月の時点で母親に合併症がなく,今後の妊娠・出産経過が順調であると推測できた妊婦4名である。データ収集は,半構成的面接と参加観察法によって行った。面接や参加観察は,①産科外来通院中,②出産後の産褥入院中,③子どもの1か月健診時頃,④子どもの3か月健診時頃⑤子どもの6か月頃の5時点で縦断的に実施した。結 果 本研究では,子どもをもつことで夫と家族になる夢を叶えたAさんのライフストーリー,子どものために強い母親になろうとするBさんのライフストーリー,子どもを失った苦しみから立ち直ろうとするCさんのライフストーリー,母親となったことをなかなか実感できないDさんのライフストーリーが記述された。考 察 本研究の参加者の全員は,妊娠期に母親となることを否認するが,出産後に妊娠期から母親の準備をしていたかのように物語を書き替えることで,妊娠期に胎児と過ごした時間を取り戻していた。また,不妊治療中に自尊心が傷つき辛かった体験を想起して現状を「良かった」と意味づけていた。研究参加者は,未解決な過去を肯定的に意味づけることで過去を受容して母親としての人生を歩もうとする物語を語った。 しかし,その裏で,出産後も拭いとることができない不妊というスティグマによる傷ついた物語が母親となる物語に影を落としていた。ART後に双胎妊娠した女性の母親となっていく物語は,不妊治療期から育児期へと続く語りによって書き直されていくが,その根底には,不妊による傷ついた物語が継続していたと考えられた。不妊治療期から育児期までの女性の体験を理解し,個々の女性の体験に即して継続的に支援する必要性が示唆された。
著者
林 芙俊
出版者
日本農業市場学会
雑誌
農業市場研究 (ISSN:1341934X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.54-65, 2017 (Released:2022-12-09)
参考文献数
8

This paper clarifies the reason that distribution of sake-brewing rice through networks outside of sake brewers associations is increasing. For this purpose, the cases of such direct contract between farmer and sake brewery in Akita were investigated. Such direct deals have the benefit of being able to provide increased rice sales with higher prices for farmers, and the sake brewery gain the advantage of being able to purchase high quality rice. Under such direct contracts, sake breweries try to maintain the quality of sake rice by overseeing the cultivation process. For farmers, it became clear that direct contracts have an additional merit in that they do not have to bear the risk of yield fluctuation.
著者
安藤 里沙 片岡 宙門 五十嵐 冬華 今泉 翠 推名 浅香 小舘 英明 古田 祐 田沼 史恵
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.31-36, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
26

サイトメガロウイルス(以下CMV)による母子感染はTORCH症候群の中で最も頻度が高く,CMV未感染妊婦の1〜2%が妊娠中に初感染を起こし,その30〜50%に胎児感染を生じるとされている.CMV未感染妊婦に感染予防に関する情報提供を行うことで感染を軽減できた報告があり,実際に情報提供が感染予防に有効か検証した. 当院で4年間に分娩した2,568例を対象とした.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定して未感染妊婦を抽出し,感染予防の啓発を行った.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定できた症例は1,283例で,IgG陰性例は380例(29.6%)であった.そのうち,妊娠後期にIgGが陽転化したのは2例(0.5%)であった.本研究でも,感染予防の啓発を受けた妊婦の妊娠中初感染率は従来の報告に比べ低率であった.
著者
杉原 毅彦 沖山 奈緒子 渡部 直人 鈴木 美穂子 宮坂 信之 上阪 等
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第36回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.160, 2008 (Released:2008-10-06)

【目的】我々は、新規多発性筋炎(PM)モデルマウスであるC蛋白誘導筋炎(CIM)を確立し、IL-1欠損マウスでは筋炎の発症が抑制されることを示した。そこで、IL-1がPMの治療標的分子として有用であることを検討する。【方法】組換えヒト骨格筋C蛋白フラグメントをC57BL/6マウスに1回免疫し、CIMを誘導した。CIM筋肉中におけるIL-1の発現をリアルタイムPCR法と免疫染色法により検討した。IL-1レセプターアンタゴニスト (IL-1Ra)及び抗IL-1レセプター抗体 (IL-1RAb)で筋炎に対する治療効果を検討した。CIMマウスリンパ球のフラグメントに対する反応性を、フラグメントをパルスした抗原提示細胞で刺激した時の3Hサイミジン取り込みを測定して検討した。【結果】IL-1は免疫して7日目の発症早期からCIM筋肉中で発現が認められた。IL-1Raを免疫と同時に投与したところ、発症抑制効果を認めた。免疫して7日目からIL-1Ra及びIL-1RAbを投与したところ、両者とも用量依存性に組織学的スコアの改善を認めた。IL-1RAbのほうが、より少ない投与量、投与回数で治療効果を得られた。その治療効果の機序についてT細胞の増殖反応を検討したところ、抗原特異的T細胞のプライミングの阻害ではなかった。【結論】今後、IL-1を標的とした治療はPMの新規治療法として期待される。
著者
竹田 憲生 亀山 達也
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.88, no.910, pp.22-00095, 2022 (Released:2022-06-25)
参考文献数
14

A practical structural health monitoring has been proposed for evaluating the structural health of a whole mechanical asset by using digital twin with data collected during the operation of the asset. Digital twin can be utilized to predict the remaining useful life by estimating the variation of the physical quantity that dominates the life, even though any records of failure do no exist. However, a mechanical asset includes huge number of local hot spots where structural health should be evaluated, and accordingly, huge man-hours are required to integrate a monitoring system that evaluates the health at all the hot spots by using digital twin. A hierarchical structural health monitoring has been therefore developed to overcome this drawback. In the first stage of the health monitoring, the overview of the mechanical damage of the components included in a asset is evaluated according to a metric, D factor, that defines the cumulative damage of the components, and the assets having relatively large damage are extracted. The extracted assets are then evaluated in detail in the second stage; that is, structural health is checked at the local hot spots. The monitoring system that employs digital twin and the hierarchical health monitoring was applied to the health management of wind turbines. As the result of evaluating the structural health of the main components of wind turbines, about a hundred wind turbines can be prioritized according to the D factor. In this first stage, a surrogate model based on a machine learning was utilized for evaluating the overview of the damage with low computational cost; the approximation error of the D factor was less than 3 % by using the surrogate model. It can be therefore concluded that this practical structural health monitoring is useful for the decision making of fleet health management of mechanical assets.
著者
岡本 優子 樋口 まち子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.6-14, 2018 (Released:2019-12-20)
参考文献数
31

目的:在日フィリピン人女性の肥満に関連する食事・運動・睡眠・ストレス対処の行動とその認識について明らかにする.方法:滞日年数5年以上で40歳以上の在日フィリピン人女性10人に半構造化面接を実施し,帰納的記述的に分析した.結果:在日フィリピン人女性は,日々の生活で【肥満関連疾患予防や健康維持のために食習慣が変容】し,【肥満関連疾患予防とともに健康維持のための運動習慣の獲得】をし,【健康であるための良眠の確保】や【日々のストレスをやり過ごす工夫】による肥満予防のための行動を認識していた.一方で,在日フィリピン人女性は,【回避できない肥満になりやすい食習慣】や【生活に運動を取り入れることが困難である要因】により運動できないこと,【肥満をもたらす睡眠行動】や,【ストレス対処としての食事】の摂取による肥満予防に反する行動も認識していた.考察:在日フィリピン人女性の肥満予防に関する相反する行動と認識は,彼女たちがフィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜつつ,試行錯誤を繰り返しながら,日本での生活を遂行するなかでもたらされたと考えられる.結論:在日フィリピン人女性の食事・運動・睡眠・ストレス対処における肥満予防に関する行動と認識が相反するのは,フィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜて生活していることによるものであると理解したうえで肥満予防対策を構築する必要性が示唆された.
著者
鈴木 昭 吉田 美香子 八木 茜 岩下 あいり 山田 亜由子 中村 朋美 渡部 茂
出版者
日本小児口腔外科学会
雑誌
小児口腔外科 (ISSN:09175261)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-181, 2010-12-25 (Released:2014-07-18)
参考文献数
19

We report the case of an eight-year-old girl who had dysplasia of the teeth, suspected to be induced by chemotherapy. The patient was born at full term by normal delivery, and was diagnosed to have neuroblastoma (stage IV-S) by ultrasonography. Tumor resection was performed 15 days after birth, and chemotherapy was performed for 12 months after that. She has had a good prognosis since then.   The examination of the oral cavity revealed morphological abnormalities of the crowns of the right and left upper central incisors. X-ray showed findings of morphological abnormalities of the four central incisors and deficiencies in tooth germs of the right and left lower lateral incisors.   The dysplasia of the teeth in this patient was considered to be caused by chemotherapy, because the period of chemotherapy doses coincided with the formation period of those teeth.
著者
村井 綾
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.949-952, 2022-06-20 (Released:2022-07-02)
参考文献数
10

嗅細胞はターンオーバーする特異な細胞であり, 損傷があっても回復可能な細胞である. よって嗅覚障害を生じても, 自然軽快する症例や嗅覚障害の原因治療により軽快する症例がある. 鼻腔から入る嗅素は嗅上皮にある嗅細胞の嗅覚受容体に結合する. 同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞の軸索は束になり, 一次中枢である嗅球に嗅覚情報を伝える. 嗅球で2次ニューロンに乗り換えて, 嗅皮質や海馬, 眼窩前頭皮質などの嗅覚中枢に伝達される. 感覚神経の情報伝達には神経細胞の存在だけでなく, 正しい神経回路の形成が必要である. 胎生期には嗅球上に軸索ガイダンス因子が発現し, 嗅球マップと呼ばれる神経回路が形成され, 生涯維持される. しかし, 一度に多量の嗅細胞が障害されると, 再生した嗅細胞は嗅球上の正しい神経回路が形成できなくなることがある. 嗅細胞の減少や神経回路の形成異常により嗅覚情報が正しく伝達されず嗅覚障害が難治化, もしくは質的変化を来すと考えられる. 現在, 嗅覚障害の治療には嗅細胞再生を促進する当帰芍薬散やステロイドなどの抗炎症薬投与などが行われているが, 満足いく嗅覚レベルに達しない症例も存在する. ドイツで始まった嗅覚刺激療法は嗅上皮で NGF や BDNF などの神経栄養因子や成長因子が増えるという報告があり, 臨床だけでなく基礎的研究も盛んに行われている. 嗅覚障害モデルマウスを用いて嗅細胞の重度の障害によって破綻した嗅球マップの回復に寄与する因子を検討している. 軸索切断後の軸索損傷が遅れる遺伝子変異マウスを用いた実験や臨床的に効果的な嗅覚刺激療法の嗅細胞への効果を検討する実験を行った. Wallerian 変性の遅れは軸索切断後の嗅覚地図の保存に寄与しなかった. 嗅覚刺激療法は嗅細胞の回復を促進した. 嗅覚再生の研究は嗅覚障害に対してだけでなく, 感覚神経細胞そのものの再生過程や複雑な神経回路の形成の解明につながる重要性を持つといえる.
著者
澤瀬 隆 熱田 充 柴田 恭明 馬場 友巳
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々はリン酸カルシウムを貝殻の成分として有するミドリシャミセンガイの貝殻-貝柱間の強固な接着機構に着目し,バイオミメティックス技術を応用することで,生体材料であるチタンに同様の軟組織との結合能を付与することを目的として研究を開始した.平成17年度においてはチタン表面へのアパタイト/ラミニンの析出及びラミニン含有アパタイトコーティングディスクを用いたin vitroにおける細胞培養に関する研究を行い,その結果は昨年の報告書に記載した通りである.引き続き本年度はファイブロネクチンコーティングディスクにより線維芽細胞を用いたin vitroでの検討,ならびに同様の処理・コーティングを行ったスクリューインプラントを用い,ラット口蓋粘膜への埋入実験を行い,in vivoでの検討も加えた.その結果接着タンパクであるファイブロネクチンの存在により線維芽細胞の有意なケモタキシスが観察され,またインプラントに直行する線維の走行を可能とした.しかしながらバイオミメティックスという本題に振り返ると,貝殻-貝柱間において観察された,貝殻内面再表層と貝柱筋線維を繋ぐような10-15μm程度の膜様構造を再現することは困難であった.この膜様構造は,興味深いことに歯根表面と歯槽骨とを繋ぐ歯根膜と類似の構造を呈し,独立した組織を連結するためには,この2層構造が鍵となるのではないかとの仮説に至っている.今後,発展の一途をたどる再生医療とのコラボレートも視野に入れ,本研究を一層深めることが必要である.