著者
加納 慎一郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.127-133, 2009-10-25 (Released:2017-05-23)

脊椎損傷などによる重篤な四肢麻痺患者,あるいは筋萎縮性側索硬化症候群(ALS)患者などのように残存機能が著しく限られた患者に代替コミュニケーション手段を提供するための方法として,BCI(brain-computer interface)が昨今注目を集めている.これは,計測される脳活動から患者の意図を検出することで外部機器を制御する,いわば「思っただけで機器操作」を可能とするシステムである.我々は,運動のイメージによって感覚運動野から生じる脳波の帯域強度変化を検出するBCIである"Brain Switch"を提案した.本システムでは1チャネルの脳波を用い,β帯域の強度変化から運動イメージの有無を検出する.また,本システムのような運動イメージを用いたBCIでは,ターゲットとなる脳活動信号のS/N比や再現性の低さ,個体差を大きさなどが実用化に向けて問題になる.この問題を解決することでより情報検出精度を向上させ,また多くのユーザへのBCIシステムの適用を可能とするために,脳波や近赤外分光法(NIRS)から得られる情報のオンラインフィードバック訓練実験を行った.その結果,フィードバック訓練によって脳活動信号のS/N比が向上し,運動イメージによって得られる脳活動の体部位局在性が顕著になるという効果があることが示された.BCIシステムにおけるバイオフィードバックフィードバックは,BCIの精度向上に貢献するだけではなく,脳活動からの情報の読み出しという狭義のBCIから,脳と外部の双方向インターフェースを構築するための重要な鍵となると思われる.
著者
平賀 愛美 布施 淳子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1_97-1_107, 2007-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
40

本研究は,新卒看護師のリアリティショックの構成因子を明らかにし,その関連要因を検討した。対象は,東北地方の病床数500床以上の一般病院24施設に勤務する平成16年度新卒看護師408名とした。その結果,新卒看護師のリアリティショックの測定項目は62項目で,その構成因子として「職場の人間関係」,「看護実践能力」,「身体的要因」,「精神的要因」,「業務の多忙さと待遇」,「仕事のやりがい,楽しさ」,「業務への責任感」,「患者の死に関する対応」が抽出された。これらの因子は,KMO標本妥当性が0.92であり,累積因子寄与率は42.52%,Cronbachのα係数は0.67から0.92であり信頼性は確保された。また,新卒看護師は特に「精神的要因」,「看護実践能力」についてリアリティショックを感じていた。リアリティショックは,配属された病棟の種類,診療科の複雑さと離職願望とに影響を受けることが示唆された。
著者
岡原 祥子 角倉 弘行
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.556-561, 2018-07-15 (Released:2018-08-29)

麻酔科医は,手術室での麻酔を通して全身管理には長けているが,無痛分娩の安全性を担保するためには,それに加えて周産期医学の深い理解が不可欠である.また,一緒に働く産科医や助産師との円滑なコミュニケーションも重要なポイントとなる.わが国では無痛分娩はいまだ広く普及していないが,そのニーズは年々高まっている.本稿では無痛分娩の具体的な方法についても紹介するが,無痛分娩を実践する際には無痛分娩を実践している施設での産科麻酔の研修を済ませてから実施することが強く求められる.
著者
山際 清貴 小野 晋 島田 雅子 小関 博久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100328, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】学生という立場から専門職業人への移行は、生涯のなかでも大きなライフイベントのひとつであるといえる。入職後、速やかに環境に順応し職場適応することは、理学療法士としての人生を円滑にスタートするための重要な要素であると考えられる。なお、組織への新規参入者のほとんどが、この職場適応の過程においてリアリティショック(RS)に直面することが報告されている。今回我々は、新人PTが直面するRSの要因とサポート状況および克服手段について調査を行い、円滑な職場適応の一助となり得る方策を見出すことを目的として検討を行った。【方法】対象は、2012年3月にA専門学校を卒業した66名(男性38名、女性28名、平均年齢25.1歳)とした。上記の66名に対して、電子メールにて無記名式のアンケートを送信し回答を得た。アンケートの構成は、性別と年齢の基本属性の他に「RSの有無」「RSを受けた内容」「RSを受けた時期」「RSを受けた際のサポート源の有無」「サポート源の役職」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」についての7項目について調査した。このうち「RSを受けた内容」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」に関しては自由記載にて回答を求め、類似した内容をKJ法にてカテゴリー化した。RSの定義は「新卒の専門職者が数年間の専門教育を受け実際に職場で仕事を始めるようになって、予期しなかった苦痛や不快さを伴うしばしば耐えがたい現実の場面に合ったときに感じる困惑の状態」とした。依頼文と共にアンケートの前文に記載し、十分にRSの定義を理解してから回答するように促した。【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として、回答は任意であり、取得したデータの取り扱いについては個人を特定しないことを明記した。また、個人情報の取り扱いに関しては十分な注意を払うこと、アンケートの返信をもって研究への同意を得たとみなす旨を記載した。【結果】アンケートの返信数は25名(男性17名、女性8名、平均年齢24.2歳、回収率37.9%)であり、回答に不備のあるものはなかった。入職してから現在までに「RSを受けた」と自覚した者は13名(52.0%)であり、「サポートしてくれた人物の有無」に関しては、12名(92.3%)が「いた」と回答した。その内訳は、プリセプターが9名(69.2%)、同期のスタッフが9名(69.2%)、プリセプター以外の上司が7名(53.8%)、同級生が5名(38.5%)、家族が2名(15.4%)、その他が2名(15.4%)、患者が1名(7.7%)であった。なお、「RSを受けた時期」は、4月が3名(23.0%)、5月と6月がそれぞれ5名(38.5%)であり、7月以降に受けた者はいなかった。「RSを受けた内容」に関しては25件のコードを抽出し、サブカテゴリー「知識の量(5)」「治療の技術(5)」「評価の技術(4)」を大カテゴリー[PTとしての資質]とし、同様に「第三者との関わり(5)」「コミュニケーション(2)」を[対人技能]、「多忙(3)」「給与の安さ(1)」を[職場環境]と命名し分類した。同様に、「RSに対するサポートの手段」に関しては21件のコードを抽出し、サブカテゴリー「一緒に患者を担当(8)」「フィードバック(5)」を大カテゴリー[実技面のサポート]とし、同様に「傾聴(6)」「声掛け(2)」を[心理面のサポート]と命名し、「RSの克服手段」に関しては15件のコードを抽出し、サブカテゴリー「文献学習(3)」「先輩PTへの相談(4)」を大カテゴリー[前向きな克服手段]とし、同様に「発想の転換(4)」「気分転換(2)」を[内的な変容]と命名し分類した。【考察】新人PTは、日々の業務の中で自身の知識の乏しさや技術の未熟さに代表されるようなPTとしての資質面に限らず、第三者との関わりの難しさや多忙であることなどにも戸惑いを感じ、高いストレス環境の下で業務を遂行していることが示唆された。新人看護師のサポート源としては、同僚、先輩看護師、上司・友人、家族が重要な役割を占めると報告されている。本研究においてもほぼ同様の傾向を示しており、入職後3ヵ月までの期間において、新人PTは個別指導を担当するプリセプターからの日常業務の進め方や理学療法の実践に必要な知識や技術についてのサポートを受ける機会が最も多いことが示唆された。これらは、入職したばかりで不慣れな環境に置かれた新人医療者にとっては、職種を問わずプリセプターの存在が最も身近で重要な存在であることを意味している。すなわち、新人PTが円滑に職場適応を果たすためには、当事者の努力のみならずプリセプターを主とした周囲のスタッフの教育力や支援の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】RSの存在や要因が明確になり、RSによる精神的健康の低下や早期離職などの予防策を立てる一助となり得ることは、新人PTと施設の双方において有益であると考えられる。
著者
勝原 裕美子 ウィリアムソン 彰子 尾形 真実哉
出版者
一般社団法人 日本看護管理学会
雑誌
日本看護管理学会誌 (ISSN:13470140)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.30-37, 2005 (Released:2018-12-28)
参考文献数
15
被引用文献数
5

本研究の目的は,新人看護師のリアリティ・ショックの実態を明らかにし,その類似性に着目して類型化を試みることである.データ収集時期は,就職直前の3月と,就職後2~3か月の時点との二時点で,同一対象者に個別面接調査を実施した.面接内容は許可を得て録音した後,記述データに変換し,組織参入前後における認知のズレから生じる否定的な感情を拾って整理した.その結果,リアリティ・ショックには7つの型があることがわかった.それらは,「医療専門職のイメージと実際とのギャップ」「看護・医療への期待と現実の看護・医療とのギャップ」「組織に所属することへの漠然とした考えと現実の所属感とのギャップ」「大学教育での学びと臨床実践で求められている実践方法とのギャップ」「予想される臨床指導と現実の指導とのギャップ」「覚悟している仕事とそれ以上にきびしい仕事とのギャップ」「自己イメージと現実の自分とのギャップ」であった.結果から,就職後の仕事内容が予測されているにもかかわらず,看護師にリアリティ・ショックが起きるのは,学生から看護師への移行期に組織社会化と専門職への社会化の双方が求められるためであること,程度の差こそあれ看護師なら誰にでもリアリティ・ショックが起きうることを前提としたうえで新人研修等の計画を立てる必要があることなどが示唆された.
著者
野崎 有以
出版者
一般社団法人 日本家政学会家政学原論部会
雑誌
家政学原論研究 (ISSN:24335312)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.2-10, 2012-08-20 (Released:2017-04-07)
参考文献数
24

The purpose of this paper is to examine transitions in the history of Japanese home economics. During World War II, the concept of seikatsu kagaku (the study of concrete measures to improve daily life) was propagated by the government and certain scholars as a means of improving the people's harsh wartime life. As a result, home economics became a more practically oriented and popular subject. However, after the war, particularly in the period of rapid economic growth from the 1950s to the 1970s, interest in the subject declined. This paper traces the rise and fall of home economics in Japan, focusing particularly on the relationship between seikatsu kagaku and wartime home economics, and the process by which the status of home economics declined in the postwar period.
著者
山﨑 正啓 三浦 千明 西村 友秀 矢作 満 山﨑 裕司
出版者
行動リハビリテーション研究会
雑誌
行動リハビリテーション (ISSN:21866449)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.26-28, 2018-03-31 (Released:2023-05-29)
参考文献数
7

看取り目的で入院した重度認知症患者の暴言・拒食行動に対して応用行動分析学的介入を行った.介入前,言語聴覚療法中の平均暴言回数は29回,摂食行動は全く見られなかった.介入では,分化強化の技法を用いた.つまり,患者の暴言は消去し,適切な行動が生起した際には,称賛や身体接触などの強化刺激を付与した.拒食に対しては,食事時の環境調整と摂取した際に注目・称賛などの強化刺激を付与した.その結果,暴言は減少し,フォローアップ期にはほぼ消失した.食事は,徐々に食事摂取量が増加し,フォローアップ期には全量摂取が可能となった.今回の応用行動分析学的介入は,認知症患者の暴言,拒食行動を減少させるうえで有効に機能したものと考えられた.
著者
雨宮 吉政
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.47-53, 1956-10-20 (Released:2011-03-18)
被引用文献数
1
著者
董 仕 大原 健一 谷口 順彦
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.201-206, 1997-03-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
12 12

The eggs of a Ginbuna Carassius langsdorfii (all female triploids) were inseminated by the sperms of a common carp Cyprinus carpio. A part of the eggs was treated by heat shock: 40°C for 1.0min at 5min after fertilization.The average of erythrocytic major diameter of offsprings from non-treated eggs was 17.4μm (17.1-17.7μm). The patterns of glucosephosphate isomerase (GPI), RAPD-PCR (random primer: OPA-04, 09, 15), and DNA fingerprinting (restriction endonuclease: Hae III; probe: YNZ 22) in the offsprings were identical with maternal fish.The average of erythrocytic major diameter of offsprings from treated eggs was 20.6μm (20.3-20.9μm). The patterns of GPI, RAPD-PCR, and DNA fingerprinting in the offsprings were composed of all bands of maternal fish and partial bands of paternal fish.Therefore, the results obtained in this study suggest that the offsprings from non-treated eggs were triploid clones, and the offsprings from treated eggs might be tetraploid composed of genome from both parents.
著者
間田 康史 海野 徹也 荒井 克俊
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.217-221, 2001-03-15 (Released:2008-02-01)
参考文献数
33
被引用文献数
8 6

皇居上道灌濠より得た三倍体と四倍体のギンブナを養成し, 各々より成熟卵を得た。これらの卵をキンギョ精子で受精し, その子孫について, 細胞核DNA量, 性別, DNAフィンガープリント像を調べた。その結果, 三倍体と四倍体の子孫は, 各々三倍体雌と四倍体雌であり, 子孫はいずれも母親と同一のDNAフィンガープリント像を示した。以上の結果は, 皇居の三倍体, 四倍体ギンブナはいずれも, 非還元卵を産み, 雌性発生によりクローンとして繁殖していることを結論した。
著者
小林 弘 中野 和枝 中村 守純
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.31-37, 1977-01-25 (Released:2008-02-29)
参考文献数
8
被引用文献数
20 24

The ginbunas (Carassius auratus langsdorfii) captured in the Kanto district were exclusively females, and the majority of them showed the triploid chromosome number of 156. A few individuals, however, contained 206 instead of 156 chromosomes in the same district. In this connection, we re-examined the chromosomes of ginbunas collected from Chiba prefecture, using scale epithelial cell cultures and have been able to demonstrate a consistent karyotype in ginbunas with 206 chromosomes; they consisted of 22 pairs of metacentrics, 41 pairs of submetacentrics and 40 pairs of acrocentrics. Consequently, these female ginbunas appeared to represent the 4n lineage. In order to find out th productive system of the 4n ginbuna, a cross breeding between a female ginbuna (4n) and a male kinbuna (2n) collected from Kasumigaura was made in a series of this study. The development of the cross-bred eggs was normal, and the larvae grew up normaly. All the grown up offsprings were females and similar to the maternal ginbun in their body shape. Chromosome preparations in the offsprings were made from short term lymphocyte cultures obtained from renal tissues. The results of chromosome counts in 6 offsprings examined revealed the modal chromosome number of 206. Comparing the karyotypes of the offsprings with that of the maternal 4n ginbuna, we could not find out any difference among their chromosome constitutions, so far as the morphological analysis is concerned. Based on the present findings, the most likely explanation would be that the production of the 4n offsprings by a hybrid cross, 4n ginbuna×2n kinbuna, might have arisen by gynogenesis, as has already been pointed out for the production of 3n ginbunas by the authors.
著者
董 仕 谷口 順彦
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.891-896, 1996-11-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
18
被引用文献数
10 10

The eggs of Ginbuna Carassius langsdorfii (all female triploids) were inseminated by the sperm of a Gengoroubuna Carassius cuvieri and a commom carp Cyprinus carpio respectively. DNA extracted from blood of parents and offsprings were amplified using 20 random primers and separated by electrophoresis (RAPD-PCR). Isozymes of muscle and liver of parents and offsprings were assayed by the horizontal starch gel electrophoresis. Distinct differences by maternal fish were observed in the patterns of both RAPD-PCR (17 primers) and isozymes (CK, EST, GPI, PGM), but those of offsprings produced by crossing with Gengoroubuna and common carp respectively were the same completely within the maternal fish. Therefore, the results obtained in this study verified that the offsprings from Ginbuna were clonal genetically, being the same with maternal fish throughout the genome.
著者
真玉 修司
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0230323a, (Released:2023-08-22)
参考文献数
28

日本のトラック運送は、運送需要の低迷や低収益、トラックドライバーの高齢化や長時間・低賃金労働による低待遇のため持続性の危機にあると言われている。本研究では、トラック運送の危機を受けて、運送サプライチェーン関与者が、課題解決の本命とされるデジタル情報の活用をどのような観点で推進しているかを、インタビューを含む調査で明らかにする。調査の結果、デジタル情報活用推進は、危機に瀕しているトラック運送事業者の為というよりは発荷主・着荷主の運送効率化の為の活用推進となっていることが分かった。その背景には、運送を委託する荷主とトラック運送事業者間、及び運送を受け持つトラック運送事業者間の取引関係があることを明らかにした。