著者
木村 富士男 甲斐 憲次
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

雷雨がどこでいつ発生するか正確に予報することは,数値予報をもってしても難しい.気象レーダは現状をとらえる有効な手段であるが,雨粒からのエコーをとらえているため,降水が発生してからでないと観測できない.雲や降水になる前の水蒸気の動態をとらえることが,雷雨をはじめとするメソ擾乱のメカニズム解明と予報のための重要な鍵の一つになっている.本報告では山岳や海陸のコントラストによる熱的局地循環による水蒸気輸送と降水頻度の関係を,野外観測,既存データの解析,数値モデルにより解明しようとしたものである.この研究がスタートした時期にGPSによる可降水量の観測が気象学的解析に耐えうる十分な精度を持っていることが明らかになり,本研究でもこれらのデータを積極的に活用した.この結果,関東地域における夏の一般場が弱く,総観規模の擾乱が弱いときの局所的な降水には以下の特徴があることが示された.1. 内陸では午後から夜に降水頻度が最大となるような日変化を持っている.2. 降水頻度の分布は地形とよい対応が見られる.3. 特に起伏との対応が良く,海陸のコントラストの影響を上回る.4. 山岳地では午後になると降水頻度が高まり,その後次第に平野部に降水頻度の大きな領域が広がる.これらの結果から,夏の関東周辺の山岳地に発生する対流性降水と局地循環による水蒸気輸送は極めて深い関係があることが明確となり,局地循環の活動とそれによる水蒸気輸送を的確に把握することが夏の雷雨を予報する上で重要であることが明らかになった.今後,陸上ではGPS,海上ではSSM/1による可降水量の常時監視ができるようになると,局地循環による水蒸気輸送ばかりでなく,降水に関する短時間予報の精度が大幅に向上する可能性がある.
著者
西山 浩司
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

夏季に頻繁に現れる気団性積乱雲と大規模場(前線、台風に伴う場)の中で局地的に形成される強雨ゾーンの発生には必ず空気の収束場の存在が指摘されている。さらに、収束場の強度が持続される場合には積乱雲がある特定の領域に次々と形成され豪雨となるような事例が多い。そこで本研究では、様々なパターンの積乱雲を解析し、豪雨災害につながるような積乱雲の発生機構及び勢力維持機構を探求することを目的とした。本研究では観測手段として既存の観測システム(九州大学農学部気象レーダーと福岡都市域に設置した10数台の雨量計による降雨観測)を中心に,気象庁のアメダスシステム等も利用して、狭い領域(20km×20km)で局地風系を観測した。この観測結果から積乱雲発生以前に先行現象としての空気の収束場が実際に存在したかどうかを調べた。総合的に解析した結果、予想されたように積乱雲の発生の1、2時間前から収束場が形成されていたことが明らかになった。さらに,降水システムが既に存在する場でも収束場が長時間持続し、降雨も持続する傾向も明らかになった。このように収束場が降雨の発生、維持に寄与していることは間違いないが,大気の不安定場の存在も無視できない。高層データとアメダスを用いた解析では夏型の雷雲の発生のプロセスは次のようになると考えられる。まず日射の影響で下層の混合層が徐々に発達し、下層から不安定化する。この不安定化した気層に向かって海風が侵入して収束場を形成する。その結果,収束場の領域で雷雨が発生することがわかった。
著者
神田 学 森脇 亮
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

建物群の密度・配置が大きい住宅街上の都市境界層において、計2年間にわたって運動量・熱・水蒸気・CO_2に関する詳細な乱流データを取得した。それをもとに運動量・熱・水蒸気・CO_2それぞれの乱流統計量(フラックス、分散、消散率)に関する相似関数を導き出し、それぞれの輸送メカニズムの違いを明らかにするため、時間周波数解析の一つであるウェーブレット解析を用いてその乱流構造や輸送形態について考察した。その結果、以下のことが明らかになった。1)ウェーブレット解析を行った結果、朝と昼では、乱流のスケール毎に各スカラーを輸送する特性が異なる。とくに朝方の不安定時は、大きなスケールの渦構造によって、熱に比べて水蒸気が効率的に輸送され、混合層上端からの乾燥空気の連行作用がこの現象の原因となっていると考えられる。2)スカラー間の相関係数を比較したところ、熱・水蒸気・CO_2の順で、輸送効率が落ちていく。ウェーブレット解析を用い輸送効率に寄与する渦スケールの特定を行った結果、サーマルやシアー不安定による組織渦が熱、水蒸気、CO_2それぞれの輸送を担っているが、これらの輸送イベントの各スカラーに対する効果は同一ではない。その原因として、熱がアクティブなスカラーであるのに対し、水蒸気、CO_2が受動的なスカラーであること、空問的な不均一性がこれらの差を助長していること、が理由として挙げられる。またフラックス測定によって得られた都市域の蒸発効率や熱物理係数を地域気象モデルに導入し、モデルの予測精度や、大気境界層高さやスカラー物質濃度の日変動がどのように変化するかについて定量的な評価を行った。
著者
大西 琢朗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、主に「証明論的意味論」の概念枠組についての批判的検討を行った。証明論的意味論とは、形式的証明体系を形成するシンタクティカルな推論規則から、論理定項にかんする合成的意味論を抽出することを目指す試みである。その意味論的探求は、フレーゲの「文脈原理」と「合成原理」の現代的実現と見ることができる。このような背景のもと、大西は次のような研究を行った。証明論的意味論は、これまで主に、ダメットやプラウィッツといった、構成主義的傾向をもつ論者によって発展させられてきた。そのため、その概念枠組は、直観主義論理に特有の性質が念頭に置かれるなど、明瞭性と一般性にかける面がある。そこで大西は、シークエント算の体系として定式化される、部分構造論理の研究を参照し、従来の証明論的意味論の概念枠組の明瞭化、一般化を試みた。特に注目したのが、「基本論理」という論理体系である。その構築過程で持ち出される意味論的考察と、証明論的意味論の議論を比較することで、証明論的意味論の枠組は、直観主義論理のみに適用可能なものではなく、適当な修正を加えれば、さまざまな論理に適用可能な一般的な枠組になりうることを明らかにした。ただし、その一般的な枠組の詳細な構築は、今後の課題として残った。
著者
小谷 汪之 関根 康正 麻田 豊 小西 正捷 山下 博司 石井 博
出版者
東京都立大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

現代インドにおける宗教対立(とくにヒンドゥーとムスリムの対立)はパキスタンとの関係の変化を伴いながら、南アジア世界をきわめて不安定にしている。小谷は歴史学の立場から、この問題を長期的な見通しで研究し、その成果をWestern India in Historicae Fansitionとして、インド、ニュー・デリーのマノーイル出版社から刊行した。又、2001年12月7-8日にニューデリーのJ.ネルー大学で開かれたUnderstanding Japanese Perspectreis on Fudia : An Inolo-Japanese DialogueというWorkshopで発表した。小西は長年の亘ってインドの民衆文化、とくに民画の研究をつづけてきたが、その成果を『インド:大地の民俗画』(未来社)として公刊した。インドの民衆の間に生きつづける伝統文化が時代の変化に対応して、日々新しいものをつけ加えていく姿がよく捉えられている。
著者
岡部 繁男
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

興奮性シナプスはシナプス後部側の細胞質構造として、樹状突起スパインとシナプス後肥厚部(PSD)を持つ。この二つの構造は興奮性シナプスの機能発現において重要である。生体内でのシナプス発達過程においてスパインとPSDがどのように形成され、また両者の形成過程にどのような関連があるのか、その詳細は明らかになっていない。本研究ではフィロポディアの形成、スパインの発達とPSDの動態を同時に個体内で観察することを目的とした。まず子宮内電気穿孔法を利用して蛍光蛋白質標識されたPSD分子を大脳皮質錐体細胞に発現させる系について検討し、PSD-95に比較して単一PSDからの蛍光シグナルが強いGFP-Homerlcをin vivo観察用の蛍光プローブとして選択した。GFP-Homer1cは培養細胞での分布と同様に細胞体と樹状突起に局在しクラスターを形成した。さらに成熟したマウス個体の大脳皮質ではGFP-Homer1cはスパインの頭部に局在した。以上の分布様式から、GFP-Homer1cはPSDの存在部位を示す蛍光プローブとして利用できることを確認した。次にGFP-Homer1c分子の大脳皮質錐体細胞の発達過程における変化を解析する目的で、GFP-Homer1c分子とDsRed分子を大脳皮質で発現させた幼弱なマウス(生後1-2週間)を対象として、両者の蛍光の同時励起を二光子顕微鏡により行った。大脳皮質浅層の6時間程度のタイムラプス画像を取得し、樹状突起から形成されるフィロポディア・スパイン構造を同定し、このような新規のフィロポディア・スパインにほぼ同時にGFP-Homer1c分子が集積することを確認した。PSDの集積のダイナミクスに関する結果は、我々が以前分散培養系で観察したスパインシナプス形成の時系列データに一致するものであり、個体レベルでもフィロポディアの樹状突起からの伸長が興奮性シナプス形成の初期段階であることが示された。
著者
鈴木 敏正 大沼 義彦 宮崎 隆 椎名 恒 木村 純 YOSHIHIKO Ohnuma シャナハン ピーター クィールド ジョン
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

いわゆる「第三の道」をめざしてヨーロッパ諸国の生涯学習政策は、社会的排除を克服し社会的結合を推進しようとし、とくに辺境地域におけるプロジェクトを強化している。本協同研究では、ヨーロッパと日本の辺境である北アイルランドと北海道を対象とした実証的研究をとおして、「社会的に排除された人々とともにある教育」としての「地域社会発展教育または地域づくり教育community development education」の実態と課題を明らかにした。第1に、現段階の日英両国における生涯学習政策の比較検討とイギリス・北アイルランドにおけるその展開、革新的な地域社会教育の国際的・歴史的発展と諸モデル、成人教育の資源としての「社会的資本social capital」の役割を明らかにし、新たなモデルとしての「エンパワーメントのための地域社会発展教育」を提起した。第2に、北アイルランドを中心として、アイルランド北西部で展開されている地域社会発展とそれにかかわる成人教育の実践分析をした。それは、地域社会とアルスター大学のパートナーシップ活動、コミュニティケア、「社会的経済」、女性グループ活動、内発的スポーツ、農村地域社会発展、ヨーロッパ11大学協同による地域活動家・関連諸専門職の教育訓練プロジェクト、の諸領域にわたる。第3に、上記と比較した北海道における地域調査研究であり、不安定就労者・失業者の統計的検討、労働者協同組合活動、市民演劇活動とくに対人関係職員・労働者に対するワークショップ、および市民活動としての環境保護運動の展開過程の分析、そして地域づくりにかかわる大学の役割の解明をした。
著者
堀 まどか
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

20世紀初頭の欧米における芸術の転換期において、日本の芸術芸能はいかに発信され、いかに受容されたのか。本研究の目的は、野口米次郎とその周辺の文化ネットワークの実証的な検証を通して、その一端を明らかにすることであった。日本の芸術芸能への関心は、20世紀転換期の「象徴主義」「神秘思想」「東洋」といった欧米知識人たちの関心空間の中にまさに胚胎し、ギリシアや古典、伝統回帰と表裏一体で形成されていくモダニズム芸術運動と連動した。本研究では、野口を軸に、ここに介在した日本文化人と英語圏文学者との間の交流、その結果生まれた芸術芸能の相互作用の実態と内実を解明し、この時期における日本と海外の芸術交流史に新たな視点を切り開いた。
著者
知念 まどか
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度までの研究から、prp13-1を含むいくつかのスプライシング変異株ではセントロメア領域のヘテロクロマチン形成に異常が見られ、スプライシング因子が分裂酵母のセントロメアのヘテロクロマチン形成に関与している可能性が示唆された。分裂酵母のセントロメア領域ではヘテロクロマチン形成にRNAi機構が関与していることが知られている。そのため、RNAi機構に関与する因子の変異株では、核分裂の際に正常に染色体が二分裂できずに取り残されてしまうlagging chromosomeが観察される事が知られている。そこで、prp13-1変異株においてもlagging chromosomeが観察されるか、微小管に対する抗体であるTAT1抗体を用いた免疫染色を行った。その結果、野生株ではlagging chromosomeは観察されないが、prp13-1変異株ではΔdcr1株と同様に分裂期の細胞の約19%でlagging chromosomeが観察された。さらに、ヘテロクロマチン領域に結合するSwi6pのセントロメア領域への結合がprp13-1では減少していることをChIP解析により明らかにした。これまでの2年間の研究成果をまとめ、学術雑誌(The Journal of Biological Chemistry, 285, 5630-5638, 2010)に発表した。また、このモデルを検証するためさらに実験を進めており、現在までに実験に必要な株やplasmidの作成を終了しており、ChIP解析などを用いてモデルの検証を行う予定である。この研究から、スプライシング因子が関与するクロマチン修飾機構という、これまで知られていなかった新しいスプライシング因子の役割が明らかになると期待される。
著者
井上 英孝 河野 泰治 岡田 知子
出版者
東和大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

H18年度の研究実績の概要1.研究の目的(1)京築地区における神楽舞台の実態及び建築的特徴を明らかにする-前年度までは舞台の調査を重点的に行ってきたが、未調査である楽屋の実態調査を京築地区全体について行う。また、旧豊前国内の京築地区周辺部に存在する舞台をランダムに抽出して調査を行い、それと比較することにより京築地区における特徴をより明確にする。(2)舞台の維持管理体制が集落住民の共同体意識に果たす役割-神楽奉納が盛んな京築地区の中部、及び南部について舞台の維持管理に関するヒヤリング調査を行い、前年度調査済の豊前市の調査結果(52)と併せて分析。(3)神楽の奉納空間-前年度までは、最も神楽奉納が盛んな南部の神楽奉納についての調査を行ってきたが、まだ未調査である北部の神楽奉納についての特徴を明確にする。2.平成18年度研究調査実績(1)神楽舞台の実態調査(イ)京築地区内のH17年度に未調査である以下の境内配置・舞台・楽屋の実態調査を実施。苅田町(19)、行橋市(26)、旧勝山町(9)、旧犀川町(7)、旧豊津町(3)、旧築城町(10)、旧椎田町(18)、豊前市(2)、吉富町(9)、計103舞台(ロ)京築地区周辺部の旧豊前国内に存在する舞台をランダムに抽出し実態調査を実施。北九州市小倉南区(7)、旧田川郡(9)、旧中津市(11)、旧宇佐市(18)、計45舞台実態調査は予定通り完了。分析の結果、周辺部に存在する舞台の特徴は京築地区の舞台の特徴の延長上にあることが判明(周辺部北部は京築地区北部の、周辺部南部は京築地区南部の特徴)。これにより京築地区の舞台の特徴を豊前神楽の里である旧豊前国という広域の中で検証し、より明解にすることができた。(2)舞台の維持管理体制に関して区長又は氏子総代に訪問ヒヤリング調査を実施。調査・分析は予定通り完了。・地区中部:旧豊津町(16)、・地区南部:吉富町(6)、旧新吉富村(6)、旧大平村(15)、・計43舞台(調査済み豊前市(52)と併せて、計95舞台)共同体意識醸成には多変量解析の結果、奉納の有無、氏子軒数、年間清掃回数、清掃参加率、等の項目の中で、清掃参加率の寄与率が最も高いという結果を得た。即ち、集落の共同体意識の程度は集落全住民の舞台の維持活動への参加の度合いに依存する。(3)神楽の奉納空間の調査行橋市の安浦神社(稲童神楽)と草野正八幡神社の観察調査を実施。稲童神楽は拝殿式舞台での奉納、楽屋は拝殿の一部を使用。草野正八幡神社は境内の仮設舞台での奉納。いずれも中部・南部の奉納形態に比べて差異はみられない。
著者
仲井 まどか 姜 媛瓊
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

バキュロウイルスは、昆虫のみに感染するDNAウイルスであり害虫防除資材として世界中で使用されている。また、タンパク質の発現ベクターとしても利用されている。これまで、約600種のバキュロウイルスが報告されているが、詳細な感染過程や遺伝子の機能が明らかにされているのは、タイプ種を含む一部のウイルス種に限られている。その主な理由は、特に顆粒病ウイルスなどバキュロウイルスの多くの種で感染可能な培養細胞がないため、組換えウイルスが作製できないからである。リバースジェネティクスによる遺伝子機能解析には、特定の遺伝子を破壊した組換えウイルスを用いるが、組換えウイルスの作製には感染可能な培養細胞が必要であり、これまで感染可能な培養細胞のないウイルス種の遺伝子の機能解析はできなかった。そこで本課題は、培養細胞を用いずに組換えバキュロウイルスの構築法を開発することを目的とした。主な成果は、バキュロウイルスのゲノムに大腸菌の複製起点を導入することにより大腸菌内で遺伝子組換えを可能にするバックミドDNAの作製法を確立したことである。
著者
斎藤 義則 帯刀 治 齋藤 典生 佐川 泰弘 中田 潤 原口 弥生 小原 規宏
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

茨城県の中山間地域大子町を対象として、農林業の生産力ではなくライフスタイルの観点から研究した。その結果、中山間地域では「水・エネルギー・食料」の一部を自給し、自然環境と共生するライフスタイルが営まれていることがわかった。このことは、現代の重要な課題の一つである環境共生を先取りした先進的なライフスタイルであると考えられる。また、中山間地域における農林業政策やEUの条件不利地域の農家への直接補助、さらには大子町の黒沢地区における集落構造などを分析した。
著者
深澤 まどか
出版者
京都府立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

THP-1細胞、及びマウス単球-マクロファージを用いて、グレリン受容体(GHS-R),レプチン受容体(Leptin-R)の遺伝子ノックダウンにてグレリン、レプチン各々の作用が抑制され、また細胞内シグナリングにおいて、ERK1 のノックダウンで炎症-凝固に関するシグナリングが抑制され、AKTのノックダウンで炎症-凝固系のシグナリング(具体的にはトロンビン刺激に対して組織因子の発現)の活性化が抑制された。また、薬剤及び抗体によりマウス血中の単球と好中球数を抑制後、Vitroで遺伝子ノックダウンした単球及び好中球をマウスに静注後の実験的肺梗塞の生存率、塞栓率の変化を観察したところTissue Factorの発現が抑制されることで、生存率、塞栓率の改善を見た。詳細に関しては、更なる検討を予定している。
著者
森泉 陽子 TIWARI Dr. Piyush 行武 憲史
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

信用割当が住宅取得行動へ及ぼす影響には、大きく2つある。購入する住宅の質の低下させることと購入時期を遅らせることである。後者は景気浮揚と関連する。これらの効果はともに著しく大きいと推定された。また信用割当の存在は、現存の住宅の質にも維持・修繕行動を通して影響を及ぼす。家計は景気が悪いとき、所得低下に伴う消費減少をバッファーするために、これらの支出を抑制するが、このバッファー効果が強いと質を保持することができない。日本においても、この効果は無視できなかった。信用割当による住宅質の悪化、住宅による景気浮揚効果の低下が懸念される。
著者
長沼 正樹
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究は、フィールド調査を継続しつつ昨年の博士論文の内容をもとに、地域間の比較検討に着手しながら、研究成果の一部を国内外の学会に公表した。昨年までのアムール下流域でのフィールド調査の成果の一部を『北海道旧石器文化研究』10号および世界考古学会議(WAC)中間会議で公表した。本年度のフィールド調査は、同じ地域で新石器より下層に包含されると予測した旧石器の検出を目的として、アシノーヴァヤ・レーチカ地区で実施した。しかし調査地点では旧石器遺物を確認できなかった。そこで極東の内陸部や極北地域も含めた後期旧石器に相当する遺跡を、ロシア側で調査された文献資料上で検討して、アムール下流域には、両面調整石器を中心とする旧石器文化が更新世に展開した可能性を見出し、『考古学ジャーナル』誌No.540号に公表した。また博士論文の一部に、新たな情報を加えて書き直し、日本列島の更新世終末期の学説史として『論集忍路子』第1号に公表した。同じく博士論文の一部、両面調整石器のリダクションモデルに関する部分は、国際誌Current Research in the Pleistoceneに投稿した。比較地域の一つとして昨年度着目していた北海道島について、更新世終末期石器群として忍路子石器群と落合モサンル石器群を対象に、先行研究の検討と新資料の実地観察を実施した。忍路子石器群が石刃運搬型リダクション戦略で環境に適応していたことに対し、落合モサンル石器群は、両面調整石器リダクション戦略を中心とした石材利用であり、両者の行動形態は大きく異なるとの見通しを得た。しかし年代学的情報と古環境復元の検討が不十分であることから、まとまった成果として公表してはいない。なお本年度公表した実績の他にも、今後の作業と展開次第で公表可能な状態にもっていける蓄積内容はある。これらについても、国内・外に随時公表する予定である。
著者
阿部 幸一郎 今井 賢治
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

マウスでランダムに突然変異を誘発させることで、炎症性関節炎を引き起こすAli18系統が確立された。Ali18変異を同定するために、遺伝的解析及び候補遺伝子のDNA配列の決定を行った。その結果、第4番染色体に位置するリン酸化酵素のコード領域に突然変異が検出された。リン酸化は細胞のシグナル伝達に関係があり、Ali18変異による増殖シグナルの増幅が関節炎発症に関与すると考えられた。また、Ali18シグナルを阻害すれば炎症を抑制できる効果が期待された。
著者
岡田 弘 上山 裕 武藤 智 堀江 重郎 守殿 貞夫 荒川 創一 藤澤 正人
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1-(1)in vitroで培養した場合の、尿中細菌数定量測定装置を用いた。樹立細菌株の菌数の変化の定量測定には、12時間以上培養を行うことが理想である。1-(2)in vitroで培養した場合の、尿中細菌数定量測定装置を用いた、樹立細菌株の菌数の変化の定量測定は、最短4時間でも、細菌数の変化(10^4/mlから10^5/ml)は検出可能である。以上の結果から、尿中細菌数定量測定装置を用いた尿中細菌の薬剤感受性試験を行う場合の、培養時間は4時間とすることに決定した。この時間設定は、中央検査施設を保有する中等以上の規模の病院で、外来患者が午前中に尿検体を提出し、薬剤感受性試験を行い。この結果を元に治療薬を決定し治療開始するために、待つことのできる妥当な時間設定であると考えられた。2-(1)樹立細菌株の、尿中細菌数定量測定装置を用いた抗菌剤感受性試験結果と従来法(微量液体希釈法)による感受性結果を比較した結果、一致率は約90%と良好であった。2-(2)尿路感染症患者(急性単純性膀胱炎)から分離された細菌を検体として、抗菌剤感受性試験を、尿中細菌数定量測定装置を用いた結果と従来法(微量液体希釈法)を用いた結果を比較検討すると、両者の一致率は約85%であり、良好であった。以上の結果から、尿中細菌数定量測定装置を用いた迅速(4時間)な抗菌剤感受性試験は、臨床応用可能と考えられた。Evidence Based Chemotherapy実現へ向けて、今後は複数菌感染症や増殖時間の遅い菌種の取り扱いに関する検討が必要であると考えられた。
著者
坪井 泰住 谷川 正幸
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

単一ドーパント発光材料による有機EL白色発光化のために、複合配位子分子、蛍光材料の燐光強度増大化、ホストの発光との共存、エキサイプレックス(EX)発光、青色発光用高効率ホスト材料、の研究を行った。複合配位子材料から緑色と赤色の発光、蛍光体の燐光体増感による緑色蛍光と赤色燐光の発光、赤色発光燐光材料を微量添加した青色蛍光体薄膜から白色発光、4つの蛍光分子材料の混合層で形成された4種類のEXによる超ブロードな白色光、を得た。
著者
足立 俊明 山岸 正和 前田 定廣 江尻 典雄
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ケーラー多様体の部分多様体の性質を調べるために、概接触構造から誘導される自然な閉2形式を考え、その定数倍である佐々木磁場の下での荷電粒子の等速運動について考察した。佐々木磁場は一様な力が働く磁場ではないため、軌道が古典的なフレネ・セレーの公式に関して単純である2次の曲線になっているかという観点に着目した。複素空間形といわれる対称性の高いケーラー多様体内の測地球面をはじめとするA型実超曲面上にはこのような軌道が存在し、しかもこのような軌道の量により複素空間形内の部分多様体族の中でA型実超曲面は特徴付けられることがわかった。更に、閉じた2次の曲線になる軌道の長さが数直線上にどのように分布するかを明らかにした。一方、ケーラー多様体の離散モデルの提案にも取り組み、辺が2色に彩色されたグラフがその候補であることを、グラフ上の閉じた道と磁場の下での閉軌道とを対応させ、両者の長さの分布状況に類似点があることを裏付け証拠として示した。
著者
覚知 亮平
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年は昨年の研究成果を存分に活用し、引き続きDNAセンサーの開発を行った。昨年の経過より、DNAやRNAがポリアニオンであることに着目した分子設計を試みた。具体的には、ポリフェニルアセチレンの側鎖にアニオンレセプターとして働くスルホンアミド基の導入を行った。その結果、得られたポリアセチレン類にアニオンセンシング能を付与できることが分かった(PPA-Sulfonamide)。また、側鎖官能団に電気吸引性基を導入することで、ポリマーのアニオンセンシング能を自在に調節可能であった。重要なことに、強力な電気吸引性基であるp-ニトロフェニル基を用いることで、DNAの構成要素であるリン酸アニオンを目視により判別可能であった。さらに、得られたポリマーの水/ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶液に、ゲストアニオンを添加することで、ポリマー溶液の明らかな色調変化が観測された。この結果は、現在でも困難を極める、水中におけるアニオンセンシングを達成した点で意義深い。従って、以上の結果より、ポリフェニルアセチレンを応答部位として用いるDNAセンサーの実現に向けた礎を築けたと考えている。