著者
山本 晃士 山口 充 澤野 誠 松田 真輝 阿南 昌弘 井口 浩一 杉山 悟
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.135-139, 2017-04-20 (Released:2017-05-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

背景と目的:外傷患者の急性期には凝固障害を認めることが多く,その程度は患者の生命予後を左右する.当院の高度救命救急センターでは,外傷患者の凝固障害,特に高度な低フィブリノゲン血症をすみやかに改善させる目的で,積極的にフィブリノゲン製剤の投与を行ってきた.その治療の実際と,同製剤の投与群と非投与群間で行った輸血量および生命予後の比較検討(症例対照研究)結果を報告する.方法:フィブリノゲン製剤投与の有無および投与基準の違いによって症例を3群に分けた.A群,フィブリノゲン製剤未使用;B群,受診時のフィブリノゲン値と外傷重症度を見た上でフィブリノゲン製剤3gを投与;C群,患者搬送前の情報(外傷重症度,出血状況)から判断し,搬送時ただちにフィブリノゲン製剤3gを投与.外傷重症度スコア≧26の症例における輸血量および生命予後について3群間で比較検討を行った.結果:3群間の輸血量には有意差を認めなかった.受診30日後の総生存率(搬送時の心肺停止症例を除く)はC群で有意に高く(p<0.05),搬送後48時間以内の急性期死亡率はC群で有意に低かった(p=0.005).さらに,きわめて重篤とされる外傷重症度スコア≧41群での死亡率も,C群で有意に低かった(p=0.02).結論:重症外傷症例においては,フィブリノゲン製剤の先制投与が急性期死亡率の低下に貢献し,結果として高い生存退院率をもたらす可能性が示唆された.
著者
伊藤 雅剛 霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
一般社団法人 日本金融・証券計量・工学学会
雑誌
ジャフィー・ジャーナル (ISSN:24344702)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.76-99, 2019 (Released:2019-04-18)
被引用文献数
3

Ross (2015) は,リスク中立分布からforward lookingな実分布を推定する定理としてRecovery Theorem (RT)を導いた.近年,RTの状態推移に関する斉次マルコフ性の仮定を緩和したGeneralized Recovery Theorem (GRT) がJackwerth and Menner (2017)およびJensen et al. (2017)によって示された.GRTを用いることで,状態推移に関する仮定に起因するバイアスを解消し,原資産の価格変動をより現実的に表現できる.しかしながら,GRTを用いた推定の過程において非適切問題が出現するため,得られる推定値が不安定になることが先行研究において指摘されている.そこで本研究では,任意の先験情報を与えて解を安定化することで,実分布を推定する新たな方法を提案する.先験情報の設定方法としては様々な方法が考えられるが,オプション価格データに内包される情報を用いて設定する方法を提案する.さらに,仮想データを用いた数値分析の結果から,提案法では従来の方法と比較して,精度の高い推定値が得られることを示す.また,米国のS&P500オプションデータから実分布を推定し,推定される分布の特徴について示すとともに実現値に対する予測力について統計的な検定手法を用いて検証する.検証結果から,推定された実分布は(1)実現値に対して予測力があるという仮説を棄却できないこと,(2)リスク中立分布や従来の方法で推定した実分布よりも予測力が高くなること,が明らかになった.
著者
角田 圭雄 木本 慧 坂本 和賢 大橋 知彦 中出 幸臣 伊藤 清顕 豊田 秀徳 冨田 栄一 熊田 卓 米田 政志
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.496-503, 2020-10-01 (Released:2020-10-08)
参考文献数
60
被引用文献数
1 2

世界的パンデミックとなった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は特に重症例で肝酵素上昇を引き起こす.機序としてはウイルスによる直接的な障害よりも,投与薬剤やサイトカインストーム,低酸素などの関与が示唆される.COVID-19で肝酵素上昇を認めた際は他疾患の有無を評価し,厳重な肝酵素のフォローが必要である.慢性肝疾患に合併したCOVID-19例では,基礎疾患の治療が中断されることのないよう遠隔診療や電話診療を活用し,不要不急な外来受診を控え,感染拡大防止に努める.代謝性脂肪肝疾患では肥満,糖尿病,高血圧の合併が多く,重症化のリスク要因となる可能性が示唆されている.国際学会からはガイダンスも提言されており,COVID-19と肝障害,COVID-19パンデミック下での慢性肝疾患患者のマネジメントに関してこれまでのエビデンスを概説する.
著者
三浦 美佐 吉澤 亮 大和田 滋 平山 暁 伊藤 修 上月 正博 前波 輝彦
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.221-226, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
14

維持透析 (HD)患者は時間的制約,体調不良,易疲労性などにより不活動下に置かれ,合併症の増悪,サルコペニア・フレイルという悪循環に陥りやすい.本邦の多くの透析施設において,患者に軽負担で実施可能な電動エルゴメーターが採用されているが,その身体機能に与える影響を負荷量可変型エルゴメーターと比較検討した報告は少ない.そこで,本研究の目的を,外来透析患者に対する透析中の12週間の運動を,電動エルゴメーターと負荷量可変型エルゴメーターで比較検討することとした.週3回HDを行っている歩行可能な平均年齢71.5±1.6歳の患者15名を,負荷量可変型エルゴメーター (Tex)群8名と電動式エルゴメーター (Elex)群7名に振り分け,透析中の運動を各人の身体能力に応じ,週3回,12週間実施した.介入後にTex群のみが,下肢筋力,運動耐容能が有意に増加した.よって,運動様式により異なる影響があることが示唆された.
著者
沈国威著
出版者
関西大学出版部
巻号頁・発行日
2023
著者
坂上 務
出版者
The Society of Agricultural Meteorology of Japan
雑誌
農業気象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.59-63, 1959-09-15 (Released:2010-02-25)
被引用文献数
1 1

The author investigated the microclimate on the waste heap from the forest point of view. That is, the slopes were favourable to the sliding down of cold air and the rising of warm air, on the slopes, the layer of air near the ground had the peculiar meteorological properties.Like a skin of air it clothes and determined the climatic habitate of the plants growing thereon. There were 10 observation points located on the slopes of different direction and high degree.The sketch map (Fig. 1) shows by the configuration of the contours how regular the cone is on all sides, and it lies at an average inclination of 30°. All the points of maximum and minimum temperature readings were taken at a height of 30cm in winter, and vertical distribution of temperature and humidity readings were taken at o-150cm height in spring & summer. Fig. 6-9.Fig. 1-Fig. 4 show the distribution of maximum and minimum temperature on the waste heap on average for winter days.It was to be found that the lowest temperature and maximum temperature range would be found on the south slope, and results of humidity measurement on the south slope, had dry air layer, so the plants did not easy grow there.
著者
香川 和子 森 糸子 丸山 博 福山 幸夫
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.53-64, 1976 (Released:2011-05-24)
参考文献数
20

熱性痙攣患児307例について,単純型と複合型に分類し,各々の臨床的および脳波学的検討を行なった.男188例,女119例で,男女比は約1.6:1であった.単純型は131例,複合型は176例でやや複合型が多かった.脳波所見では,単純型の10.6%,複合型の19.8%に異常を認めた・熱性痙攣の家族歴は35.8%に,てんかんの家族歴は4.8%に認められた.脳障害の原因となり得る疾患の既往歴は16.6%に,また精神発達遅延の症例は4.8%に認められた.発作再発率に関し初発年齢0~11ヵ月,12~35ヵ月,36ヵ月以上の3群で有意差を認めた.臨床的諸項と脳波所見の相関関係について次の結果を得た.
著者
井倉 一政 牛塲 裕治 長谷川 真子 齋藤 希望 児玉 豊彦
出版者
東海公衆衛生学会
雑誌
東海公衆衛生雑誌 (ISSN:2187736X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.98-102, 2020-07-11 (Released:2020-07-30)
参考文献数
20

目的 本研究では中学3年生のストレスコーピング特性とソーシャルキャピタルの関連を明らかにすることを目的とした。方法 A市の公立B中学校の3年生を対象として、無記名自記式質問紙調査を実施した。調査項目は、性別、ストレスコーピング特性簡易評価尺度ジュニア版(以下BSCP-J)、ソーシャルキャピタル尺度(以下SC)を用いた。下位尺度の関連の検討は、Spearmanの相関係数を算出した。すべての検定において、p<0.05を統計学的に有意差ありとした。調査期間は2016年10月であった。結果 質問紙は85人に配付し、76人から回答を得た(回収率89.4%)。BSCP-Jの下位尺度の得点は、「気分転換」がもっとも高く、次いで「積極的な問題解決」であった。SCの下位尺度の得点は、「社会的信頼」がもっとも高かった。「積極的な問題解決」、「解決のための相談」、「気分転換」、「発想の転換」の4項目は互いに有意な正の相関を示した(相関係数0.400~0.627)。また、残りの2項目である「他人に感情をぶつける」と「がまんと先送り」が有意な正の相関を示した(相関係数0.286)。また、「積極的な問題解決」と「発想の転換」は、「互恵性」、「社会的信頼」、「身近な社会規範の遵守」と正の相関が認められ、「解決のための相談」は「互恵性」、「社会的信頼」と正の相関が認められた。また、「気分転換」は「社会的信頼」、「身近な社会規範の遵守」と正の相関が認められた。結論 ストレスコーピング特性とソーシャルキャピタルは多くの項目で正の相関が認められた。また、ソーシャルキャピタルを醸成することは、中学生がストレスに対処する力を養成することにつながる可能性が考えられた。
著者
中本 謙
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.1-14, 2011-10-01 (Released:2017-07-28)

琉球方言のハ行子音p音は,日本語の文献時代以前に遡る古い音であるとの見方がほぽ一般化されている。このp音についてΦ>pによって新たに生じた可能性があるということを現代琉球方言の資料を用いて明らかにする。基本的に五母音の三母音化という母音の体系的推移に伴って,摩擦音Φが北琉球方言ではp,p^?へと変化し,南琉球方言では,p,fへと変化して現在の姿が形成されたと考える。従来の研究に従い,五母音時代を起点にするのであれば,ハ行子音においても起点としてΦを設定しても問題はないと考える。そして,この体系的変化と連動してワ行子音においてもw>b,の変化が起こったとみる。また,ハ行転呼音化現象や語の移入時期という側面からもp音の新しさについて考察する。内的変化としてΦ>pが起こり得る傍証としてkw>Φ>pの変化傾向がみられる語も示した。
著者
佐野 友彦 和田 浩史
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.822-829, 2019-12-05 (Released:2020-05-15)
参考文献数
35

われわれの身のまわりには,大小さまざまな棒(rod)や板(plate)状のものがあふれている.これらは薄い構造または細長い構造と総称される.ロープ,植物のつる,パスタ,海底ケーブル,リボン,ピンポン球,卵の殻などはその一例である.薄い構造の特徴は,その「しなやかさ」にある.薄い板は小さな力によって容易に大きく曲がりねじれる.ここでは,幾何学と力学が密接に結びついている.力学分野はG. Galileiの材料力学の研究にはじまり,今日では完成された学問分野という印象がある.しかし,デジタル加工技術の急速な発展と普及によって,力学は魅力的な最先端分野として現代に甦った.今日,力学の研究では,負のポアソン比をもつメタマテリアルをはじめとして,新しい概念が次々に生み出されている.とくに,座屈不安定性のように,構造のもつ対称性が破れる過程を「機能の発現」とみなす考え方が浸透しつつある.薄い構造はお互いに力を及ぼしあうことで新たな機能を生み出す.植物のつるは風に飛ばされないように棒に巻きつき,外科医は糸を結んで傷を縫合する.これらの過程では摩擦が重要な役割を果たすため,従来の境界値問題とは異なる趣きがある.曲がった板のかたちは境界条件によって決まるが,摩擦の作用のもとでの安定性を考えるには,かたちをあらかじめ決めておく必要がある.つまり,通常の境界値問題とは異なり,「かたちと境界条件が同時に決まる」問題を扱わねばならない.われわれは理論,実験,数値計算を総合的に駆使してこの問題にアプローチし,摩擦によるかたちの安定性を議論する枠組みを提案している.薄い構造が示す動力学の代表例は「飛び移り座屈」(スナップ座屈)とよばれる転移現象である.飛び移り座屈は,食虫植物であるハエトリグサがすばやく虫を捕らえるときのような,植物が俊敏に動くための仕組みとしても注目を集めている.スナップは,薄板を両手でたわませ,そのたわんだ方向を逆転させることで容易に再現することができる.われわれは,板やリボンをあらかじめ幾何学的に拘束し,境界条件を変化させることで起こる飛び移り座屈の性質を明らかにした.細長いリボンを手にとり,これをその長軸が半円を描くように拘束する.両端を同じ向きにねじると,あるねじり角度でリボンの表と裏が反転しスナップする.さまざまな硬さや厚さのリボンを使ってこの現象を再現してみると,操作の単純さに反して,じつに豊かな現象が内在していることがわかる.薄い構造が示すしなやかなふるまいは,フックの法則(線形弾性論)と剛体回転(幾何学)によって記述される.しかし,同じ材質と寸法でも境界条件によってとりうる形は全く異なる.さらに,棒状のものは結んだり編んだりすることで,板状のものは折ったり切ったりすることで,それらの単純な構造に驚くべき多彩な機能をもたせることができる.身近なかたちのしなやかさについて考察することは,いっけん複雑にみえる生物力学現象をよりよく理解したり,それらにインスパイアされた生体規範材料をデザインすることにも繋がる.手元にあるケーブルや紙切れを曲げたりねじったりしてみると,まだ見ぬ構造のしなやかさに出会うことができるかもしれない.
著者
加納 隆
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.159-187, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
46

本稿では,動学的確率的一般均衡モデルのマクロ計量経済分析における役割を,Geweke (2010)による強解釈と弱解釈および最小解釈の3分類に従って批判的に略説する.最小解釈の応用例として,Kano and Nason (2014)による消費の習慣形成の金融政策ショック伝播メカニズムとしての役割に関する実証分析を紹介する.最後に将来研究への展望を議論する.
著者
小元 敬男 青野 靖之
出版者
The Society of Agricultural Meteorology of Japan
雑誌
農業気象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.25-31, 1989-06-10 (Released:2010-02-25)
参考文献数
21
被引用文献数
22 15

An attempt is made to estimate blooming dates of Prunus yedoensis for 21 meteorological stations in Japan by using DTS (the number of days transformed to standard temperature). The starting date for computation at each station is determined by correlation analysis. At many stations the date lies between 40 and 55th day from January 1st.The number of days transformed to a standard temperature (in this study 25°C is used) at each station is computed by adding characteristic temperature of each day from a starting date to blooming date for various temperature characteristic (Ea). The estimated blooming date is the date when accumulated value of DTS reached at that of mean observed blooming date for the site.It is found that 17kcal mol-1 for Ea gives minimum error when averaged over all sites. Using this Ea and D2 which is the starting date determined from error analysis, computations are made to estimate blooming dates at each station between 1961 and 1985. It is shown that at stations in Hokkaido and Tohoku districts, RMS errors between the observed and the calculated blooming dates fall between 1 and 2 days. At stations in other areas, the errors range between 2 and 3, except for Hachijo where it becomes 6.7 days. The large error at this southernmost station seemed to be attributed to year to year change of degrees of rest completion of Prunus yedoensis, which affect effectiveness of temperature just before blooming.
著者
小林 智美 篠田 一馬 石川 智治 長谷川 まどか 加藤 茂夫
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 39.31 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.5-8, 2015-08-24 (Released:2017-09-22)

輪郭形状を定量的に評価する際に,フーリエ記述子を用いたいくつかの方法がある.その中でも,特に輪郭形状の解析に適した手法のひとつとして,楕円フーリエ記述子がある.楕円フーリエ記述子は,物体の輪郭などの二次元閉曲線を解析する手法であり,これまで生物の形態学的解析などに用いられている.本稿では,楕円フーリエ記述子を衣服の輪郭形状に対して行い,形状による衣服の分類を行う手法を提案する.2値化した衣服画像に対して楕円フーリエ記述子を適用し,フーリエ係数に主成分分析を行うことで,係数に含まれている情報をより少ない次元の情報に縮約する.そして,得られた主成分スコアを特徴量として,Support Vector Machine (SVM)で衣服画像の分類を行った.衣服を3種類の形状に分類を行い,Scale-Invariant Feature Transform (SIFT)のBag of Feature (BoF)特徴ベクトルと分類精度を比較した結果,楕円フーリエ記述子のほうが正解率が高く,楕円フーリエ記述子の有効性を確認した.また,楕円フーリエ記述子で得られた多変量のフーリエ係数を用いて輪郭を構成することで,衣服の輪郭形状を視覚的に表現することができた.