著者
金子 純一 藤田 文行 本間 彰
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は前年度良い結果の出たリフトオフ法を北海道大学に導入することを第一目標として研究を行った。Ib型基板を使用して連携研究先である産業技術研究所と同一の合成条件でCVD単結晶の合成を行った。合成した試料をリフトオフ法により自立膜化した。さらに化学処理ならびに電極製作を行い、検出器とした。製作した検出器に対してI-V測定、α線応答測定を行った。十分な印加電圧がかかり、α線に対して16%程度ではあるがピークの立つ応答を示す検出器の製作に成功した。今後、高品質基板を使用し、合成条件の最適化を進め実用的な人工ダイヤモンド放射線検出器の実現を目指す。また合成した結晶中の電荷捕獲準位を同定するための積極的電荷捕獲を利用した光I-V測定法の改良をすすめ、ある程度信頼性のあるデータが取得できる状況に達した。
著者
福島 康記 菊間 満 有永 明人 加藤 衛拡 赤羽 武 永田 信
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

林野所有権の特徴は、耕地のそれのロ-マ法的な単一絶対的性格に対して、過渡的性格を広く残しているところにある。地租改正・林野官民有区分とその後の林野政策において大面積の入会地の国公有化を図り、そのことが、各地に複雑な過渡的所有を生んでいったのである。国有林野においても、様々な地元利用の制度化にみられるように、部分的な利用権を認めたうえではじめて成立する所有権でしかなかった。山梨県有林もその例であり、入会団体の保護義務の代償に産物・土地売り払い代金と土地利用代金の一部交付など、現代に至るまで地元関係を存続させている。最近の共有地の観光開発に関して、開発の形態や利益の地元保留など所有形態が一定の影響を与えている。現代経済体制は資本がすべてに優越し、林野的土地問題は一国の資源・土地問題の一環に組み込まれているのだが、林業内部の矛盾は林野的所有の資本に対する優位として現れ、小規模所有者にあっては林業放棄を、大規模所有者にあっては伐採規模縮小と伐採の間断化をもたらしたが、そのことが素析生産に重くのしかかり、業者数の著しい減少が見られる。農家の林業について、農山村畑作地帯の複合経営農家において、間伐期を迎えて間伐木の自家生産が収益を生むようになり林業への積極性が生まれ、林業が農林家の再生産の安定的契機になろうとしている地域がある。諸外国においても、環境保護対策やレクリエ-ション需要の高まりに対応するため、森林所有権に対する制限が課せられる趨勢にある。アメリカ合衆国のいくつかの州において林業施業に対する制限が強化され、ドイツにおいて連邦森林法が制定されて、森林を国民休養の場として利用する休養林と入林権の規定が設けられた。
著者
豊見山 和行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、2年間で近世琉球王国法制史料の基礎史料の収集・整備とそれに関連する論考の作成を目的とした。その結果、2つの論考(漂着処理をめぐる琉球の基本法=「宝永元年御条書」を新たに発掘した論考と市場における諸法令と女性の振り売り規制の論考)を作成した。さらに、以下の諸史料を収集し、翻刻しテキストデータとして処理した。(1)「職制秘覧」は、成立年は18世紀頃と目され、首里王府全体的の法制を規定し、官人への俸禄や諸制度等が列記されている。貿易資本の渡唐銀、海運関係、鹿児島の琉球館、黒糖等に関する多様な情報を含む史料である。(2)「首里王府評定所執務規定書」は、18世紀後半における王府の中枢機関である評定所の執務規定を規定したものであり、新出史料である。(3)「首里王府法制之部」は、明治初年に書写されたものであるが、法令の年代幅は1735年から1877年におよぶ。士族の禄制・家督相続の方法、道路・港湾・堤防・船改め・山林・家産・売買・医制・砂糖・鬱金・屠獣・墳墓・度量衡・祭典・葬儀・系図等に分類・編年された単行法令集である。(4)「仰渡写」は、最古の1713年から1826年までの年代幅をもち、全107文書からなる単行法令集である。内容は次のように多岐にわたる。諸物の買い占め禁止、櫨桐実の専売制化と脇売り禁令、八重山島への嬰児埋殺禁令、田舎間切から町方へ百姓の移住禁令、爬龍舟時のケンカ禁令、両先島での焼酎製造禁令、等々である。以上から近世琉球における法制史料の基礎的整備は、一定程度可能になったものと言えよう。
著者
大田 一郎 西山 英治
出版者
熊本電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,高圧配電線の電流計測システム用のフローティング電源回路を開発する.電源回路の仕様は,3,810V/60Hzの配電線対接地電圧から直流±12Vのデュアル出力0.5Wを得るもので,キャパシタ分圧により配電線の対接地電圧からエネルギーを得る方式なので,重たい電源用コイルを用いずに回路を構成できる.前年度の研究開発で,hspiceによるシミュレーションと個別部品による回路試作によって,基本的な特性を明らかにした.平成19年度は,研究の最終年度で,過渡応答試験と温度試験およびノイズ試験について検証を行う.まず,過渡応答試験では(1)停電,復帰,(2)半周期欠落瞬時停電,および(3)n周期欠落停電の過渡応答を実測した.その結果,hspiceによるシミュレーションとほぼ同様の結果が得られ,停電から復帰したときは1.5秒後に出力電圧が±12Vに達することがわかった.配電線監視システムは通電時に正常測定ができればよく,停電復帰後の1.5秒はさほど問題はない.なお,半周期欠落や瞬時停電は時々生じるが,回路の時定数が576mと長いため100ms(6周期)の欠落停電が生じても出力電圧は10V以上を保持できることを確認した.次に,温度試験について,周囲温度を-15℃〜80℃変化した場合の諸特性を測定した結果,高耐圧セラミックキャパシタを容量が温度範囲内で25nF以上であれば問題ないことがわかった.また,出力電圧の温度依存性は使用するツェナーダイオードの温度特性で決まり,試作回路では±4%以内の出力電圧変動率であった.提案回路はスイッチング方式ではないので,問題となるようなノイズの発生はない.なお,落雷による擬似サージ電圧を印加した場合の諸特性については,試験設備がないため,実用化になるときに企業と共同で試験する予定である.
著者
入江 功 滝川 清 小島 治幸 吉田 明徳 浅野 敏之 渡辺 訓甫 富樫 宏由 後藤 智明 村上 啓介 佐藤 道郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本調査は、平成10年から12年の3年間をかけて、九州各県にある九州大学,佐賀大学,長崎大学,熊本大学,鹿児島大学,宮崎大学,大分日本文理大学,九州共立大学,東海大学(静岡),東和大学などの大学が協力体制をつくり、(1)各大学が所在する県の海岸を対象に、海岸の景観・利用・防災に関する共通のアンケート用紙でサーベイし、(2)既往最大級の津波・高潮による浸水域を求め、これをとりまとめるものである。本調査が計画検討されていた平成10年頃には、既に次年度発足へ向けての海岸法の改正が検討中であり、学識経験者の海岸の開発保全に対する意見が要請される趨勢にあった。このため、少なくとも各大学の所在する地域の海岸については、十分な知識と理解を持っておくことが重要であると認識され、まず海岸の「防災」「環境」「利用」について、九州全域の海岸のサーベイを行うことになった。同時に九州沿岸は、南西域の津波、内湾および北部域の高潮に脆弱な海岸が多いため、津波計算、高潮計算をベースに沿岸の自然力に対する危険度をハザードマップで認知する手法を検討した。まず、海岸環境のサーベイにおいては、多くの評価項目から厳選した55項目を用い、各大学所属県の海岸を現地踏査した。その際撮影した海岸の写真画像を用い、別途写真画像のみで同じ55項目の評価項目で評点をつけ、現地踏査と写真画像とで評価結果がどの程度異なるかを主成分分析により調べた。その結果、両者の違いはほとんどないことが分かったので、今度は九州全海岸127地点について、写真画像のみを用い、17名程度の学生・職員により海岸環境の相対評価を行った。また、ハザードマップの在り方に付いては、3年間を通して議論の対象となった。まず、防災担当部局(者)は人間宣言すべきであること、すなわち、その危険度に至る前提、不確定さを明示すること、危険度としては、可能最大の自然力を対象とすること、宮崎海岸のように津波警報等の住民伝達が間に合わない場合の避難システムをマップ表示すること等の意見が出された。結局数値計算結果に、これらの考え方をどう生かして行くかの議論が締めくくりにもなった。
著者
山本 博 渡邉 琢夫
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、細胞膜上にヘム蛋白性酸素感受性イオンチャンネルを持つPC12細胞を用い、その細胞膜画分のヘム蛋白をプロファイリングすることにより、新規酸素感受性分子(酸素センサー)を同定することである。平成14年度中の研究により、Lithium Dodecyl Sulfate (LDS)を用いた低温下ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(LDS-PAGE)と、ヘム分子団のペルオキシダーゼ様活性に基づきヘム蛋白を特異的に検出するルミノール化学発光反応を組み合わせた、高感度ヘム蛋白検出法を確立した。平成15年度の研究は当初計画通りに遂行され、以下の成果を得た。1.PC12細胞の粗精製細胞膜画分蛋白を低温下LDS-PAGEにより分離後、ルミノール化学発光反応液中でインキュベートしフルオログラフィーをとることにより、粗精製細胞膜画分に含まれるヘム蛋白のバンドを同定した。さらに、同一試料を並行して泳動したレーンをクマジーブリリアントブルーで染色することによって得られた全蛋白の染色バンドと、フルオログラム上のヘム蛋白のバンドの位置を比較することにより、ヘム蛋白を含むと推定される蛋白のバンドを同定した。2.1.によって同定された蛋白のバンドを切り出し、そこに含まれる蛋白を、液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー法によって同定した。その結果、約50種の蛋白が同定された。3.現在、2.によって同定された蛋白の中から、構造や推定される機能などに基づいてヘム蛋白である可能性の高いものを抽出し、ヘムとの結合性を検討中である。すでに、ソーレーバンド(蛋白とヘムとの結合により見られる波長400nm付近の特異的吸収帯)などにより、ヘムとの安定した結合が確認されている蛋白もある。今後、これらの新規ヘム蛋白の機能の解析を進めていく予定である。
著者
六鹿 茂夫 廣瀬 陽子 黛 秋津 佐藤 真千子 小窪 千早 梅本 哲也 吉川 元 上垣 彰 大西 富士夫 西山 克典 小久保 康之 吉村 貴之 中島 崇文 末澤 恵美 服部 倫卓 木村 真
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

黒海地域の国際関係を歴史、経済、域内国際関係、域外国際関係の4次元から分析し、国際会議をボアジチ大学(イスタンブール)と静岡県立大学にて開催して学際的総合化に努めた。その結果、1.黒海としての地域性、2.地政学的重要性、3.黒海地域の特殊性と地域特有のイシュー(エネルギー、民主化、凍結された紛争)、4.黒海地域の構造とその変動、5.黒海地域と広域ヨーロッパおよび世界政治との相互連関性が明らかにされた。
著者
若尾 典子
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

男性あるいは女性加害者への介入プログラムは、ドメステック・バイオレンスの場合も児童虐待の場合も、ジェンダーに敏感な視点が必要である。なぜなら親密な暴力は、個人のジェンダー意識(ジェンダー・アイデンティティーと言い換えることもできる)に基づく行動の一つだからである。個人のジェンダー意識に基づく行動は多様であり、社会的に確立しているジェンダー意識を直接に反映することもあるが、反対の行動をとることもある。例えば、女性加害者は女性役割や母親役割に反して、暴力をふるう。それは、彼女の個人的ジェンダー意識が社会的ジェンダー意識にとらわれ、反発あるいは過剰な適応として、暴力行為にいたるからである。加害者への介入プログラムは、被害者支援の観点から、加害者の個人的ジェンダー意識を変化させることを重視して実行される必要がある。そのためには、家族支援の専門家としてソーシャル・ワーカーを児童虐待防止法に明確に位置付けることと、すべての関係者にジェンダーに敏感な視点から家族関係を把握する共通理解を確保することが、求められる。
著者
矢野 浩司
出版者
山梨大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

パルスパワー発生装置への応用にむけて、静電誘導型半導体素子の動作究明を半導体デバイスシミュレーションにより行った。まず現在の半導体シミュレー夕をパルスパワー応答解析用にバージョンアップした。そしてこのシミュレータを用い、静電誘導デバイスのターンオン過程を検討した。パルスパワー応用で半導体素子を用いる場合、100nsec以下の高速ターンオン性能が必要である。シミュレーションの結果、静電誘導半導体素子のターンオン動作は、空乏層幅の急速な減少によるチャネル形成により行われ、このチャネル開放時間は1nsec以下であることがシミュレーションから明らかになった。この時間はMOS構造素子のMOSゲート充電時間やGTOサイリスタにおけるベース層キャリア蓄積時間よりも2桁以上も小さい。実際静電誘導素子がオンする為に要する時間は、チャネル開放時間に素子活性領域にキャリアを蓄積させる為の時間を加算した時間となるが、この時間を比較しても静電誘導素子は従来のGTOサイリスタよりも1桁以上速いことがわかった。即ち静電誘導半導体素子は、パルスパワー用半導体スイッチとして有用であることが予測できた。今後は、静電誘導半導体素子のトータルのターンオン時間を改善する設計手法を明らかにしていく予定である。具体的には主にゲート構造の改良、キャリア寿命制御の最適化に着眼し研究を行っていく。また、周辺回路要素の静電誘導半導体素子のターンオン動作への影響の検討にも対処出来るように、半導体シミュレータをヴァージョンアップしていく。
著者
前田 雄一郎 成田 哲博 甲斐荘 正恒 渡邊 信久
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

蛋白質アクチンは高等生物の細胞に最も多量に含まれ多くの重要な細胞機能を担う。筋細胞中では数珠のように連結した重合体として筋収縮とその調節に関与し、他方一般細胞では他の蛋白質の助けを借りて重合と脱重合を繰り返す循環的分子運動によって細胞を動かす。本研究でははじめてアクチン重合体の原子構造を解明し、またアクチンと他の蛋白質の複合体構造を解明した。それら構造情報を基に機能発現メカニズムの理解を進めた。
著者
半那 純一 飯野 裕明
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

棒状液晶物質をモデルとして、ポリアニリンによるドーピングによる電子伝導、及び、イオン液体によるいイオン伝導のバルクキャリア濃度の制御、及び、それを利用した液晶物質を半導体層とするTFT特性の改善について検討した。ポリアニリンを所定量ドープした8-TTP-8の低電界下での電流特性は、その濃度に依存して増加し、増大し、最大4桁(1wt%時)増大が見られた。一方、ポリアニリンのHOMO準位よりもホールに対してエネルギー的に高いHOMO準位を持つNaphthalene系液晶8-PNP-012ではこの現象は観測できなかった。さらに、ドープされた試料のtime-of-flight法による過渡光電流の測定から、濃度によらず移動度は未ドープの試料と変わらないことから、ポリアニリンは液晶中では液晶分子が形成するスメクティック層の層間に存在しているものと考えられた。8-TTP-8の多結晶薄膜を有機半導体層として作製したボトムゲートFETの素子特性は未ドープのFETの特性に比べ、on電流、及び、ゲート電圧に対する電流の立ち上がりの改善が見られ、移動度は約2倍の0.2cm^2/Vsまで改善された。イオン液体によってドープした8-TTP-8の液晶相ではイオン液体の種類による伝導度の違いはあるものの、いずれの場合も濃度に依存して伝導度の上昇が観測され、結晶相では高濃度ドープした試料を除いてその濃度に係わらず、未ドープ試料の示す伝導度との違いが見られなかった。この特性は、8-PNP-012の場合も基本的に同じ結果を与えた。これらの結果は、ドープされたイオン液体が液晶物質の中で解離し、イオンとして伝導に寄与していることを示している。イオン液体の種類による伝導度の違いは液晶物質中におけるイオン液体の解離の違いによると考えられた。
著者
青木 哲夫 山本 唯人
出版者
公益財団法人政治経済研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

東京都公園緑地課作成「都内殉難者霊名簿」のデータベース化を完了した(31,318件)。東京空襲の犠牲者についての氏名・年齢・住所・遭難地・仮埋葬地などをふくむ本データベースは、今後の東京空襲の被害の実態、被災者の行動などの研究にとって貴重な資料となる。関連して、同名簿の用紙・書式・加除訂正など態様の特徴を洗い出した。これらは同名簿の作成のもととなった空襲犠牲者の改葬および慰霊事業の研究の基礎資料となる。
著者
冨田 佳宏 中井 善一 長谷部 忠司 屋代 如月 徳田 正孝
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では,一般熱力学的負荷条件下の金属ガラスの超塑性,変形・破壊の実験的検討とその評価,比例・非比例ひずみ履歴を伴う高ひずみ速度負荷試験による実験的検討と構成式の定式化,電子顕微鏡(SEM)・原子間力顕微鏡(AFM)・ナノインデンテーション法による金属ガラスの破壊機構の観察と局所領域の応力および強度の評価を行う.平成19年度は金属ガラスの環境強度について検討した. 3.5%食塩水中・室温において,一定試験力のもとで疲労き裂伝ぱ試験を行った結果,水溶液に浸漬した直後には過渡的なき裂伝ぱ挙動が観察されたが,定常状態においては,時間基準のき裂伝ぱ速度da/Dnは,応力拡大係数Kこよらずほぼ一定となった.3.5%食塩水中・室温において,繰返し試験力を負荷してき裂伝ぱ試験を行った結果,繰返し速度および応力比によらず,時間基準のき裂伝ぱ速度心da/dtが,最大応力拡大係数K_<max>によって規定されており,その関係は,前述の一定試験力におけるda/dt-K関係とほぽ一致していた.また, 0.05%, 0.01%食塩水中においてもき裂伝ぱ挙動を調べた結果,いずれの食塩濃度においても,1サイクル当たりのき裂伝ぱ速度da/Dnは大気中よりも大きく加速したが,超純水中におけるda/Dn-ΔKは大気中とほぼ一致していた.また,食塩水中の繰返し試験力下の破面形態は,一定試験力下の破面形態と同様であったが,超純水中の破面は,大気中における破面と同様であった.また,環境強度と直接結びつくものではないが,分子動力学による検討では,原子弾性剛性係数Bij^αの正値性(局所格子不安定性)により,構造のないアモルファスに欠陥の中の欠陥というべき不安定原子が存在すること,0.2%ひずみ以降,不安定原子が増加しており,塑性変形の担い手として新たな欠陥が導入されていること,などを明らかにした.
著者
冨田 佳宏 長谷部 忠司 屋代 如月 高木 知弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

分子動力学, 離散転位動力学, 連続転位理論, フェーズフィールド法, 結晶塑性理論, 均質化法, 有限要素法を駆使し, ナノからマクロに至る材料の複数の階層の組織形成と応答をシームレスに結合するモデルを構築し, 変形, 相変態等によって創生する微視組織の予測と対応する材料の力学特性の評価も可能とする。加えて、材料組織形成制御による所望の力学的特性を具備した材料の創生への途を開く。
著者
冨田 佳宏 中井 善一 屋代 如月 安達 泰治 岩本 剛 比嘉 吉一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

変形誘起変態が変形,応力,温度,ひずみ速度によって影響され易い性質を最大限活用して,変形誘起相変態の発生に伴う微視組織の創生ならびに成長を制御し,使用目的に応じた,材料の強度,延性,靭性等の機械的特性を発現させることを目指し,実験によりマイクロからマクロスケールに至る変形誘起相変態現象を詳細に検討し,以下に示す各スケールにおける変態のメカニカルモデルを構築し,その応用の可能性を示した.1.分子動力学的手法を用いて,結晶格子構造の安定性を評価することにより,マイクロスケールの相変態発生過程を検討し,対応した相変態のマイクロメカニカルモデルを構築した.2.結晶方位に依存したマルテンサイト構造を考慮しつつ,メゾスコピックなマルテンサイトエンブリオの発生とその成長を表現可能なメゾメカニカルモデルを構築した.3.近い2つの階層のモデルに均質化法を適用することによりこれらを連結し,マイクロ・メゾとメゾ・マクロメカニカルモデルを構築し,マルチスケールメカニカルモデルを提案した.4.相変態のマルチスケールメカニカルモデルにより,材料に発生するひずみ,応力,ひずみ速度,温度等のマクロスケールの物理量を操作することにより変形誘起変態を誘導することによって所定の特性を具備する材料の創生方法を提案した.5.磁気力顕微鏡によって得られたマルテンサイト相の分布形態ならびにそれを平滑化して得られた体積含有率と提案したモデルによるシミュレーションによって得られた結果を比較することで提案したメカニカルモデルの妥当性を検討した.本研究によって得られた変態のメカニカルモデルをシミュレーション過程に導入することにより,メゾスケールの材料構造を制御した機能性材料の新しい創生法の提案の可能性に加えて,従来困難とされてきた,材料の機械的特性の自由な設計に対して途が開かれると同時に,形態設計と融合することで新しい設計あるいは製造技術の開発に貢献する.
著者
屋代 如月
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,整合界面を構成する種々の格子構造について「第一原理格子不安定解析」を行うことにより,界面転位発生の臨界ミスフイットの評価や第三元素添加による界面安定化など,2相整合耐熱超合金の界面原子構造設計につながる重要な知見を,電子レベルから精密に評価することを目的とする.昨年度は,基本となるNiおよびNi_3Al単結晶の格子不安定性を詳細に評価した上で,W, Cr, Bの添加の効果について検討した.本年度は,界面原子構造設計の指針となる格子不安定クライテリアマップをより多くの元素について検討するために,Ni以外の10族元素Pd, Ptならびに11族元素Cu, Ag, Auについて,[001]方向単軸引張下の格子不安定性を評価した.本研究の動機にあるように,小数の原子しか扱えない第一原理計算では,強い周期性を仮定した上で変形させるため,系が不安定となっても転位等の局所変形を生じることなく,引張方向の原子面はく離に相当する点まで応力は単調に増加した後,ピーク応力を示して低下する.このピークを「理想引張強度」として評価すると,臨界ひずみは0.23〜0.34の範囲内に分布し,そのときの応力の大小関係はほぼヤング率に応じたものとなった.一方,引張下の格子不安定性を調べると,これまでの報告同様いずれの元素も上述のピークひずみより遙かに小さいひずみで格子不安定条件に達していた.ここで,Pd, Cu, AgはNi, Ni_3Alと同じく横方向変形の等方性がくずれるBorn不安定を示していたのに対し,Pt, Auはせん断に対するB_<44>不安定となっていた.臨界ひずみ-臨界応力上に各元素の理想引張強度ならびに格子不安定となる点をプロットすると,前者は広く分布して相関が見られなかったのに対し,後者は低ひずみ側で,原点を通る同一直線上に乗るような分布を示した.
著者
屋代 如月
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

第一原理計算による格子不安定性解析により,FeマトリックスにY,O,Ti,Alを添加した系の,安定添加サイト・自由エネルギーの大小,酸素の溶解熱,そして力学特性として弾性係数の行列式の正値性(格子安定性)を評価した.モンテカルロシミュレーションでは,酸化イットリウムや酸化チタンを平均化粒子として近似したシミュレータを用いて,原子空孔や結晶粒界などの複雑な条件下での析出形態について検討した.
著者
清川 清
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、3次元仮想空聞において、手が届かないあるいは見えない位置にある物体の移動や、そのような地点へのユーザ自身の移動を効率的に行うために、本来の描画領域(メインビューポート)とは別に、仮想空間内に枠を作成してその枠内を新たなビューポート(サブビューポート)として利用する新しいインタフェースについて研究する。平成19年度は以下の項目を実施した。1)マルチビューポートインタフェースの操作に関する検討ユーザに追従していた窓枠をある地点でユーザ座標系から切り離してプライマリシーンに従属するよう切り替える、といった操作を可能とするために、状況に応じてユーザが従属関係を対話的に変更可能な操作手法について検討した。具体的には、窓枠に関与する従属関係の適切な視覚化手法および操作手法について検討した。従属関係の視覚化手法に関して、従属関係自体は仮想空間を構成する物体の見かけと無関係であり本来形を持たないため、違和感の少ない視覚化手法を検討した。一方、従属関係を変更するための操作手法に関しては、全体把握と詳細把握を両立できる視覚化手法および操作手法を考案し、実装した。2)マルチビューポートインターフェースの有効性の検証前項で検討する視覚化手法および操作手法をプロトタイプシステム上に実装し、前年度に検討した様々なインタフェース構成をユーザが対話的に選択できるシステムを構築した。この環境を用いて、より実際的なアプリケーションを開発しての定性評価、被験者実験を実施しての定量評価などを通じて提案手法の有効性を検証した。具体的には、ア)前年度に座標系の相関関係ごとに検討した有用性の検証、イ)平成19年度に検討した相関関係の対話的変更手法の有効性の検証、のそれぞれを実施した。
著者
細谷 幸子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、西洋近代医療の一端を担う看護職をめぐる諸状況の分析から、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の関係性の理解を促すことにある。西洋近代医療においては、治療・看護を目的として、患者身体への直接的介入がおこなわれる。しかし、イスラームが異性身体への関わりを禁止行為とし、人間の排泄物等に触れることを不浄をしているがゆえに、イスラーム社会に住む人々は、西洋近代医療を受容しながらも、身体をめぐるさまざまな倫理的問題に直面せざるを得ない状況に置かれている。本研究では、イラン・イスラーム共和国をフィールドとし、患者身体への直接的な接触(ボディ・ケア)を主業務とする看護職に注目する。民族誌的手法による総合的アプローチをとることで、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の動態的関係性を捉えようとする。平成15年度の研究実績は、以下の通りである。平成15年4月から6月までは、日本国内で、これまでの現地調査で得た資料の整理・分析と、文献研究をおこなった。その後、平成15年7月には、ロンドンにおいて、イギリス在住イラン人慈善家たちの活動と、イラン国内の病院や介護施設における看護・介護実践との関連性について調査をおこなった。平成15年10月から12月には、イラン・イスラーム共和国、テヘランを拠点として、これまでの調査・研究で不足していた情報の収集と、インタビューのテープ起こしをおこなった。平成16年1月から3月には、日本国内で文献研究をおこなうと同時に、イランの看護、介護と医療をテーマとして、看護専門雑誌で連載を受け持ち、小論を発表した。(研究発表の欄を参照)
著者
堀田 昌英
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,国際インフラストラクチャ整備におけるコンフリクト管理手法の構築を目的としている.本年度は,前年度に開発した集団支援システムを国際援助機関が直面している被援助国の利害調整に応用するため,本システムのプロトタイプの機能拡張を行った.実際に国際的なインフラストラクチャ整備をめぐるコンフリクト管理を担っている機関との協力関係を構築した.はじめに,本研究で開発した集団支援システムの適用可能性を検討するにあたり,前年度行った事例調査の結果を踏まえ,資源配分の利害調整に特化した情報共有システムの作成を行った.具体的には,スマトラ沖地震による津波で被災したタイ南部を対象に,救援物資・生活支援物資の配分の最適化モデルを構築した.現地の救済機関にこのシステムを実際に使用してもらい,実際の資源配分問題における有用性に対する評価が得られたとともに,汎用化に向けて改善すべき点が提示された.この結果を基に,社会基盤整備事業における交渉の関係国及び仲裁・調停機関が情報共有媒体として本システムを活用することを考慮し,前年度に作成した集団支援システムのプロトタイプの改良及び機能拡張を行った.具体的には,ジオコーディング精度の向上,議論内容に含まれる地点情報に基づき論点を地図上の該当位置に対応させる機能の付与である.今回のシステム改良により,主要な論点の空間的な分布と相互関係が視覚的に把握できるようになり,地理的文脈の強い国際コンフリクトへの活用に適したシステムとなった.また次年度より,本研究で開発した集団支援システムは国際協力機構と協力の上,バングラデシュ国パドマ橋建設事業及びインド国幹線貨物鉄道事業において環境社会配慮施策の策定支援に実際に用いられることが決定した.本研究を通じて,多国間の利害調整に貢献し得る問題構造化技術を提示し,新たなコンフリクト管理手法の枠組みを構築することができた.