著者
白石 泰之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
Hospitalist (ISSN:21880409)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.793-805, 2018-12-01

近年の世界的な心不全患者の増加は「心不全パンデミック」とよばれ,医療だけでなく社会・経済面でも大きな問題となる可能性を孕んでいる。今後の心不全診療を考えるうえで,国内外における心不全の有病率や発症率,そして予後を把握することは重要である。 心不全にかかる経済的負担が膨らみ続けるなかで,前時代的な「均一の医療」から「テーラーメード医療」への転換が必要であり,予後予測(リスク評価)に基づいた効果的かつ効率的な医療の実践が望まれている。本稿では,複数の臨床的な予後因子を組み合わせた心不全リスクモデルと,その臨床使用についても合わせて概説する。
著者
斎藤 正男
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.129-131, 1988-02-01

サマリー 生体の電気物性は,受動的性質と能動的性質に分けられる.受動的性質は,導電率と誘電率によって表される.この二つの定数は,周波数が変化すると,決して一定ではなく,数十Hz,数MHz,約19GHzの付近で大きく変化する.これは,生体組織の構造の不均一性,イオン,水分子の運動などの影響のためである.生体の誘電率は,低周波において非常に大きい.これらの電気的性質を知ることは,多くの診療技術を理解するうえで重要である.
著者
田中 真 小山内 隆生 加藤 拓彦 小笠原 寿子 和田 一丸
出版者
三輪書店
雑誌
作業療法ジャーナル (ISSN:09151354)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1055-1062, 2015-09-15

Abstract:統合失調症患者61名と健常者54名を対象として,色彩に対して抱く感情およびイメージの特徴について分析を行った.色彩に対する感情語の選択割合が5割を超えた項目は,統合失調症群は一つもなかったのに対し,健常者群では青に対する平静,黄に対する愉快,緑に対する平静の3色が5割を超え,統合失調症群に比べ有意に選択割合が高かった.両群に対して色彩に対するイメージ課題を行った結果,青と緑において健常者群は冷たいととらえている者が多いのに対し,統合失調症群は熱いととらえている者が多かった.統合失調症群の中で,REHABにおける問題行動がある者および全般的行動得点が低い者は,そうでない者に比べ感情の適合割合が低かったことから,これらの者は通常経験すべき社会体験を十分に積む機会がなかったことに加え,色彩に対して感情を選択する際に何らかの混乱を生じている可能性が示唆された.
著者
北 博正
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.372, 1986-06-15

産業革命以降,人間が室内に長時間滞在する機会が多くなった.事務所,学校,劇場,交通機関等々.寒い季節には窓や扉が閉ざされ,密閉環境に長時間滞在する機会はさらに多くなった. このような場合,気分が悪くなり,頭痛,吐き気などの症状があらわれ,当時は群集中毒(crowd poisoning)と称し,この空間中の空気に毒物が存在するのではないかと考えた.ひどい口臭や腋臭などは,思わず呼吸が止まってしまうほどであるから,このように考えるのも無理はない.フランスの有名な生理学者ブラウン・セカール(Brown Séquard 1817〜1894)はこれに着眼し,大量の呼気を集め,化学操作を加え,ついに微量の物質を抽出し,これを動物に注射したところ死んでしまったというので,この物質を人毒(Anthropotoxin)と命名し,人々は大いに恐れたが,追試の結果だれも人毒を取り出すことができなかった.筆者の高校時代(大正末から昭和のひとけた時代),結核の大家として有名だった某大先輩の著書にはまだ人毒が登場し,その対策として換気をよくするよう教えていたのを思い出す.
著者
鮫島 輝美
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.487-493, 2002-05-01

ここ数十年の間に,医療の高度化,急速な高齢化など社会構造が大きく変化し,看護界を取り巻く内外の環境も変化している.特に大きなものとして,看護職不足が社会問題となり,平成4年6月の「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」をきっかけとして,全国各地に4年生の看護系大学が急速に増加した1).看護教育をめぐる環境が大きく変化している中,南は大学における看護教育を「大学教育は看護学の開智の場として,単に知識を伝授するのではなく,物事の本質を見抜き,知識を活用して判断する能力,新たな知識を開発する能力を学生が身につけること」「真の意味の知慧を学生が自ら育てる,人間形成の場」と位置づけている2). このような人間形成を求められる学生の多くは卒業後,社会に出て看護師,保健師,または助産師となって,チーム=組織の一員となって働く.だとすれば,看護学生にとって,「組織」について学ぶということは,今後の看護教育においても重要なことと言えるのではないだろうか.
著者
小川 正晃
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.1241-1250, 2017-11-01

われわれは常に,さまざまな外的・内的状況に対し過去の学習記憶をもとに適切に行動する必要がある。この種の意思決定に重要なのが大脳連合野の前頭眼窩野(OFC)である。本論は,不確実な報酬の情報処理に関するOFC機能を例に,現在想定されているOFCの役割について概説する。さらにOFCを含む神経回路が状況特異的,かつタイミング特異的な意思決定に果たす因果的役割を解明する重要性,およびそのために必要な方法論について論じる。
著者
原田 晋 森山 達哉 田中 裕
出版者
金原出版
雑誌
皮膚科の臨床 (ISSN:00181404)
巻号頁・発行日
vol.60, no.13, pp.1969-1974, 2018-12-01

35歳,男性。春季花粉症あり。ジョギング後に大豆プロテイン飲料を初めて摂取した直後より,呼吸困難・全身性膨疹などのアナフィラキシー症状をきたして,救急搬送された。プリックテストで大豆プロテインおよび原料の脱脂大豆蛋白で陽性をきたし,また血液検査・immunoblot・ELISAによる検索の結果,Gly m 3およびGly m 4の両者の感作が認められたため,自験例をクラス2大豆アレルギーと診断した。これまで豆乳アレルギー症例は数多く報告されているのに反して,大豆プロテイン飲料によるクラス2大豆アレルギーの報告は過去には存在していないが,今後大豆プロテイン飲料によるクラス2アレルギーの発症にも留意する必要がある。
著者
長谷川 夕希子 中神 朋子
出版者
医学書院
雑誌
糖尿病診療マスター (ISSN:13478176)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.78-79, 2015-01-15

Non-caloric artificial sweeteners(人工甘味料;NAS)は安価で,砂糖の何倍もの甘味をもつ成分で,天然には存在せず人工的に合成されたものです.サッカリン,スクラロース,アスパルテームなどがあり,カロリーを抑えて甘味を感じるため,耐糖能異常や2型糖尿病患者の嗜好品によく使われてきました.一方で,NASと体重増加や2型糖尿病の発症リスク上昇の関連も報告されており,NASの使用に関しては議論の余地があるところです.多くのNASは消化管で消化されず,そのまま通過するため,腸内細菌叢に影響を与えるのではないかといわれます.また,腸内細菌叢の変化がメタボリックシンドロームと関連することも多くの研究結果から明らかとなっています.そこで,本研究ではNASが腸内細菌叢や耐糖能にどのように影響するか検討しています. 方法としては,10週齢のC57BL/6マウスに,それぞれサッカリン,スクラロース,アスパルテーム,スクロース,グルコースを飲水中に混ぜて投与し,11週後に経口ブドウ糖負荷試験を行いました.するとサッカリン,スクラロース,アスパルテームを投与したマウスは耐糖能異常を示しました.
著者
櫻井 利康 山崎 宏 小林 勇矢 奥原 健史 三村 祐太
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.507-514, 2016-10-15

要旨:手の浮腫・腫脹の測定法であるリングゲージ法と掌囲(中手骨頭レベルでの手の周径)法の信頼性と妥当性を明らかにした.健常成人40例80手を対象に,2人の検者がリングゲージ法,掌囲法,Figure of Eight法を2回測定した.信頼性は級内相関係数,妥当性はFigure of Eight法との相関係数を用いた.検者内信頼性のICC(1,1)はリングゲージ法が0.99,掌囲法が0.99,検者間信頼性のICC(2,1)はリングゲージ法が0.98,掌囲法が0.98〜0.99であった.Figure of Eight法との相関係数はリングゲージ法がr=0.76〜0.84,掌囲法がr=0.91〜0.94だった.リングゲージ法と掌囲法は信頼性と妥当性が高く手の周径法として使用可能な方法と考えた.
著者
奥野 孝 宮本 昌彦 板倉 徹 上野 雅己 清水 美奈 南出 晃人 駒井 則彦
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.1137-1141, 1993-12-10

I.はじめに 分娩,娩出時の骨盤胎児不均衡,遷延分娩の際に用いられる吸引分娩は,1957年にMalmstrom14,15)により導入されて以来その有用性ならびに安全性が報告されてきた11,19,20).しかしながら頭血腫等の分娩時頭部外傷の合併症が少なからず報告されている1,2,8,12,20,23,24).今回われわれは,頭血腫に頭蓋骨骨折を伴わない硬膜外血腫を合併した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.
著者
本田 武司
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1780-1781, 1990-12-15

レクチンは,オリゴ糖と特異的に結合して糖含有物質自体あるいは細胞を凝集させる(糖)蛋白1)で,最初植物の種子に見いだされた.その後,微生物もレクチン(様物質)を産生していることがしだいに明らかになってきた2).表1にこれまでに報告された主要な微生物由来レクチンとそれらに結合する糖の種類をまとめた.レクチンが結合する糖の特異性は,①各種の糖による赤血球凝集反応の阻害,②細胞表面の糖分子を酵素で変化させレクチン結合性への影響を調べる,③レクチンを固定化したカラムを用いた結合物質の解析,などによって決定されている. 微生物由来レクチンは,形態学的に線毛と非線毛に大別できる.非線毛性レクチンの実体にはまだ不明な点が多いが,線毛性レクチンについては,P線毛,S線毛,タイプ1型線毛などでしだいに明らかになっているように,線毛構成成分とは別にその先端にアドヘジンとよばれる真のレクチン蛋白が存在する2).
著者
奈良 勲
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1042-1045, 2012-11-15

はじめに 2011年8月31日に,神戸市立王子動物園の園長から,当時勤務していた神戸学院大学の筆者のもとに電話があった.「動物園で生まれた4歳のインド子象(体重:600kg)が3年余り寝たりきり状態ですが,理学療法を開始したいので,園内の動物病院の獣医と飼育員に理学療法を指導して欲しい」との依頼である.筆者は「日本動物理学療法研究会」(現在の会員数約100人)に,2010年11月発足当時から顧問として協力しており,動物の理学療法が獣医との連携のもと欧米やオーストラリアなどで発展していることは認識していたし,日本における理学療法士の職域拡大という点からも,こうした動きは大変喜ばしいと感じていた.そのような動向もあり,2011年6月の世界理学療法連盟(WCPT)の総会(アムステルダム)では,動物の理学療法がサブグループの一つとして認められた. ちなみに筆者が大会長を務めた第13回世界理学療法連盟国際学術大会(1999年,横浜)では,セミナーの演題の一つに「動物の理学療法」を入れた.これは,日本における理学療法士の職域拡大を視野に入れてのことであった.現在,日本で動物の理学療法の臨床に従事している理学療法士は5~6人ほどと聞いている.しかし,この領域に関心を抱いている理学療法士や学生も存在しているため,日本理学療法士協会もこの領域に注目し,専門研究会を立ち上げると理解している. さて,電話で依頼を受けた筆者は,電話を受けた翌日の2011年9月1日にTシャツと短パン姿で動物園を訪問した.本稿は,今後この領域を展開するうえで少しでも役立てばと考え,王子動物園長の許可を得て論文にしたものである.
著者
山本 向三 飯塚 万利子 赤坂 江美子 馬渕 智生 梅澤 慶紀 太田 幸則 松山 孝 小澤 明 藤井 光子 川端 寛樹 渡邉 治雄 古屋 由美子 黒木 俊郎 谷 重和
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.1161-1164, 2005-11-01

要約 62歳,女性.神奈川県宮ヶ瀬の山林にハイキング後,右膝に吸血したヒルに気付いた.その14日後より吸血部に紅斑と,同部の疼痛が出現し,38℃台の発熱も認め,さらに2日後には,吸血部を中心に環状に紅斑が拡大した.また,全身に発疹が出現し,頭痛,関節痛,全身倦怠感などの全身症状も伴っていた.セフェム系抗生剤点滴を行い,これらの症状は改善した.なお,Lyme病抗体価は陰性であった.皮膚症状としての環状紅斑,また全身症状を呈したヒル咬傷は稀と思われた.
著者
新村 秀人
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.671-681, 2019-06-15

抄録 マインドフルネス療法におけるマインドフルネスと森田療法におけるマインドフルネスである「あるがまま」とを比較した。マインドフルネス療法では,瞑想を通じて注意制御・情動調整・身体知覚に努め,自己意識をメタ認知に引き上げることにより症状へのとらわれから脱しようとする。一方,森田療法では,目の前の必要なことをするという身体の動きにより,症状をそのまま感じる心の流動性の獲得を目指し,生の欲望が動因となる。両者の大きな違いは,第一に,マインドフルネス療法は,主体と客体を分けて考える二元論で,有心を前提とするのに対し,森田療法は,主体と客体,心身を分けない一元論であり,無心を目指すこと,第二に,マインドフルネス療法は,言葉を用いて意識化することを目指すのに対し,森田療法は,言葉にせずに意識化を離れるようにすること,第三に,森田療法は症状の受容のみならず,日々の生活活動への積極的参与を促すことである。
著者
稲垣 貴彦 森田 幸代 大川 匡子 辻川 知之 山田 尚登
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.27-32, 2010-01-15

抄録 潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症性疾患であるが,粘膜障害の重症度と臨床症状の重症度との間にかい離がみられる場合があり,心理社会的ストレスへの曝露や人格の偏りが臨床症状の重症度や再燃に関与すると考えられている。 我々は,潰瘍性大腸炎の緩解と再燃を繰り返した後に大うつ病性障害を合併し,認知療法を試みたところ,潰瘍性大腸炎の消化器症状の緩解期間の延長が得られた症例を経験した。粘膜病変には変化がないにもかかわらず,それまで再燃を繰り返していた潰瘍性大腸炎が緩解状態を維持していたことから,認知療法的かかわりが潰瘍性大腸炎の消化器症状に対し軽減効果を示したと考えられる。 潰瘍性大腸炎は,併存する精神疾患に対してだけではなく,その身体症状に対しても精神科医が多分に治療的関与するべき疾患であると考えられたので報告する。
著者
青島 周一
出版者
医学書院
雑誌
総合診療 (ISSN:21888051)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.954-958, 2018-07-15

処方カスケードとは 薬物有害反応によりもたらされた身体症状が「新たな医学的プロブレム」と誤認されてしまい、その治療のために他の薬剤が追加で処方されることがあります1)。 たとえば、アムロジピンの薬物有害反応として下肢浮腫があげられますが、この浮腫がアムロジピンによるものと認識されずに、利尿薬が追加投与されてしまう、というような状況です。また、追加投与された利尿薬が頻尿症状をもたらし、さらに抗コリン薬の追加投与につながってしまうこともあるでしょう。
著者
西川 武二 稲田 めぐみ 高 理佳 赤尾 信明
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.14-17, 2000-01-01

46歳,女性.初診の2週間前から躯幹に軽度の痒みと違和感を伴う爬行性線状皮疹が出現した.好酸球数,IgE値は正常.8種類の寄生虫抗原(宮崎肺吸虫,ウエステルマン肺吸虫,アニサキス1型幼虫,ブタ蛔虫,イヌ糸状虫,イヌ蛔虫,ネコ蛔虫,マンソン裂頭条虫プレロセルコイド)を用いたELISAはいずれも陰性,ドロレス顎口虫抗原を用いたELISA,寒天ゲル内二重免疫拡散法も陰性であった.線状皮疹の終点とその遠方を含めて外科的に切除後,皮疹と自覚症状は消失した.脂肪組織内に虫体断片があり,腸管断面の形態より有棘顎口虫の幼虫と同定した.摂食歴とあわせ,自験例はウナギの肝吸いから感染した可能性が高いと考えられた.今後creeping-diseaseの感染源としてウナギの生食あるいは肝吸いも念頭におく必要があると思われる.