著者
山本 かよ
出版者
神戸市看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,人工呼吸器装着後の療養生活においてALS患者が体験している痛みを明らかにすることである。調査の結果,以下の内容が明らかとなった。1.対象者の概要:ALS患者4名(男2名 女2名)2.ALS患者が体験している痛みの様相:ALS患者は,からだ全体に及ぶズキズキした痛みと首や足の指、骨,カニューレが引っ張られるなど【からだ全体と局部の痛み】を体験していた。痛みはー日中じわじわと続いているが,一端寝てしまうと感じなかったり,天候や季節,午後から強くなるなど1年,1日を通して【強弱の波がある】ことがわかった。このような辛い痛みは同じ姿勢が長くなると特に強くなり,体位調整やマッサージ,ストレッチをして患者の【からだを動かすと楽になる】と3名が語っていた。しかしながら,1名の患者は何をしても痛みが【楽になることはない】と感じており,痛みによる例えようのない苦痛を体験していた。また,患者らは痛みのほかにも全身や痛みのない筋肉の痙攣,からだの位置が決まらないことに対する苦痛など【痛みだけではない】苦痛を体験していた。3.考察:ALS患者においては,痛みなどの感覚障害は陰性徴候に含まれる。しかし,本研究結果から耐え難い痛みをALS患者は体験していたことが明らかになった。がん患者においては、痛みをとることが最優先課題であるが,ALS患者の場合は,呼吸・栄養管理とコミュニケーション技術の工夫に注意が集中し,痛みに関してはいまだ重要視されていない。日常生活全般の援助を要するALS患者にとって看護師によるケアは必要不可欠であり,看護師は,患者の訴えを最も敏感に察知できる医療従事者である。看護師が痛みにもっと着目し,患者の体験している痛みを共感的態度で傾聴するとともに,痛みに対する緩和ケアを積極的に提供することの重要性が示唆された。また,痛みの原因はALS自体の症状,別の原因,四肢麻痺による不動に分類されるため,看護師が痛みの要因を的確にアセスメントし,適切なケアを提供することも重要である。本研究結果は,平成19年8月に開催された第12回日本難病看護学会学術集会にて発表した。また,月刊雑誌「難病と在宅ケア」へ投稿した(2008年6月号に掲載予定)。
著者
春日 純
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

カツラという樹木の木部組織には水の過冷却を促進するフラボノイドが存在する。本研究によって、このフラボノイドの木部組織における局在性と量的な季節変化が明らかになった。また、フラボノイドの過冷却促進効果はアグリコンと糖鎖の組み合わせにより大きく変化することを明らかにした。さらに、カツラ由来のcDNA ライブラリの調製など、フラボノイドの蓄積量を改変した形質転換樹木の作出の準備を進めた。
著者
秋葉 淳
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、19世紀オスマン帝国の改革を、中央政府と地方社会の相互作用の結果として生じたものとして捉え直すものである。その主たる成果として、地方評議会の機能、地方反乱の性格や背景、地方住民の官僚機構への進出などを分析し、地方住民が国家の政策に影響を及ぼす、あるいは、国家システムに参入する回路についてその具体的諸相を明らかにしたほか、中央政府が地方行政の問題に関する政策決定過程において地方官らに諮問する手続きがとられたことや、1845年の地方代表者会議に見られるように、地方有力者の協力を得るために周到な準備をしていたことなどを見いだした。
著者
浅香 あき
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究はボリビアの特別支援教育現職教員の持つ価値志向の検討を目指している。本年度は(1)ボリビアの教育制度および教員研修制度に関する情報・資料の収集(2)JICAの研修で来日した研修員が作成した資料の収集と分析、(3)本年度の研修員に対するインタビューによる情報収集と(4)アンケート調査を行った。(1)ボリビアの特別支援教育に関する情報は非常に少なく、JICAの協力隊や専門家の報告書とJICAの雑誌がそのほとんどであった。ボリビアの高等師範学校や教育大学では今まで障害児教育の専門家養成を行ったことがなく、障害児教育の位置づけは非常に低いことが分かった。非政府組織の障害児教育の専門養成の研修が存在するが、それを受けても専門家として政府に認可されないこともわかった。よって特別支援学校で働く90%以上の職員が何の資格も持たないで従事している。(2)2006年度から開始したJICAの課題劉地域研修障害児教育コースにおいてボリビアの研修員が作成した資料を収集した。特別支援教育現場に携わる研修員は研修後も、研修で立てたActinPlanの実行に意欲的に取り組んでいることが分かった。しかし、教員養成システムやカリキュラムの組織化に関する活動は難を示している。(3)(4)面接調査及びアンケート調査から、本年度の研修員は自主的に特別支援教育に携わることになったのは私立の専門学校を卒業した研修員一名だけであり、その他の研修員は上司の命令や、他に選択肢を与えられなかったことから携わることになったことがわかった。特別支援学校では通常学校の半分程度しか給料がでないため、他に仕事の選択肢がある場合には、やめる教員が多いこともわかった。しかし、JICAの研修に参加する現職教員は責任を持って特別支援教育の普及に今後も努め、学内での授業研究を通じて教員の質を上げていきたいという意欲を示していることと、帰国後も具体的な活動を進めていることがわかっている。
著者
岡村 美由規
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

初等教育の完全普及は、人権としても経済・社会発展の土台としても今日広くその意義が国際社会で認められている一方で、その道程はまだ険しい。そこで本研究は、開発途上国における教育政策の成否のメカニズムとその要因について、ボリビア・チリ・ペルーを対象に、教育関係当事者に注目して、彼らが持つ思想、それに基づく教育政策への活動関与、それを支える行動原理、そして当事者間の相互作用について、当事者の認識というミクロの視点から教育社会学的に明らかにした。
著者
庄司 俊明 岡田 聡一 伊山 修 伊師 英之 小森 靖 宮地 兵衛 長尾 健太郎 宮地 兵衛 筱田 健一 谷崎 俊之 兼田 正治 有木 進 和田 堅太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

Exoticベキ零錐の軌道分解から得られる交差cohomology とC型Weyl群の既約指標との間のSpringer対応を証明した。それを利用してこれらの交差cohomology のPoincare多項式に関するAchar-Henderson の予想を証明した。
著者
神保 敏弥 浅井 照明 菊池 徹平 河上 哲 南 春男
出版者
奈良教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

C^nのコンパクト部分集合KからC^nへの写像f=(f_1,・・・,f_m)によるグラフG={(z,f(z)):z∈K}の多項式凸性については、n=m=1のときの結果が多く見られるので、これらの拡張として、主にn=m>1のときにKを超球や多重円板の場合に取り、研究計画に従い、いくつかの例を構成することができた。これらを総合し、本質的な部分が解明されつつあるので、定理の形としまとめられるよう、現在鋭意検討中である。また、m=1,n>1,Ref,1mfが多重調和の時は、グラフGが多項式凸集合であるとのAlexanderの結果の関数環的な別証明を得たので、さらにこの拡張も考慮中である。超球Bで正則、Bで連続な関数族A(B)の2つの関数f,gによる零集合がBの境界に含まれるならば、A(B)の峯集合であるとの、Stoutの予想は、fに少し条件を付ければ、正しいことを示せた。以上の経過については、関数環研究集会で話した。得られた結果は次のとおりである。作用素環分野では、単純C^*-環の最小指数の乗法性の簡易な証明を与えた。これは、フォンノイマン因子環の最小指数の乗法性の証明としても有効である。後者の乗法性は、煩雑な手続きのもとで、その成立は確認されていたが、C^*-環の指数理論を適用することで、それが初等的に証明できることを示した。K-理論分野では、フレイムド多様体としての射影シムプレクティック群のコボルディズム類の非自明性を調べるため、そのフレイミングを考察する観点からその位相的実K群の環構造を決定した。
著者
飯野 裕明
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は(1)加熱スピンコートによる多結晶薄膜作製の詳細な検討(2)平成18年度に検討した棒状液晶系(チオフェン系)、円盤状液晶(フタロシアニン系)の多結晶薄膜を用いた有機トランジスタの作製および評価(3)新規な液晶材料(チオフェン、ペリレン系)の多結晶薄膜の電荷輸送評価および有機トランジスタの作製および評価を行った。(1)液晶相を示す温度における加熱スピンコートを行った際のみ、均一な薄膜作製が可能であった。従って、液晶相においてスピンコートをすることが均一な薄膜作製には重要であることが示唆された。(2)棒状液晶においては良好なトランジスタ特性を示し、移動度(>10^<-2>cm^2/Vs)が過渡光電流測定法で求まる移動度(粒界の影響を受けていない移動度)と一致したのに対し、円盤状液晶においては良好なトランジスタ特性は示さなかった(移動度<10^<-5>cm^2/Vs)。これは配向制御が容易な棒状液晶においては粒界方向を制御でき粒界の影響を受けない電荷輸送特性になったのに対し、円盤状液晶は分子配向制御ができず、粒界の影響を強く受けたためと示唆された。(3)過渡光電流測定法により高移動度(>0.1cm^2/Vs)を示すターチオフェン液晶、およびペリレン液晶を上記と同様な方法でトランジスタを作製したところ、それぞれ、pチャネル、nチャネルで動作し、移動度が0.1cm^2/Vsを超えることを見出した。このように液晶性物質の多結晶薄膜は、(1)液晶相を用いることで通常では困難なウエットプロセスによる均一な多結晶薄膜の作製が可能、(2)液晶相を経由することで分子配向制御させた多結晶薄膜作製が可能、(3)粒界方向を制御でき電荷輸送方向には粒界の影響が少ない、といった特徴を有することが明らかになった。その結果、通常の多結晶材料の真空蒸着法で示されるような高移動度(>0.1cm^2/Vs)を示すpチャネル、nチャネルのトランジスタをウエットプロセスで実現させることに成功した。
著者
小山 徹平
出版者
公立大学法人福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

○ 研究目的と方法福島医大版服薬自己管理モジュール施行患者(以下「参加群」)と、非施行(以下「非参加群」)患者に対して、服薬アドピアランスと治療転帰について調査し、心理社会的教育の効果を検討することを目的として、2001年7月からの病棟服薬教室参加者60名と、2000年から2001年の服薬教室施行前に入院していた不参加患者の中で、統合失調症圏・感情障害圏の患者211名を対象として選び、追跡調査をおこなった。彼らの退院後の社会適応状態、再入院の有無、その原因等についてのアンケートを施行し、可能な限り面接調査も施行した。またカルテから退院後の臨床経過を調査した。本研究は、福島県立医科大学倫理委員会の承認を受けて行われた。○ 研究成果・ アンケート調査で、回収され有効回答であったのは、参加群23名、非参加群40名であった。彼らの退院から6ヵ月後、1年後、2年後の社会適応状態・再入院・その原因について差は認められなかったが、入院前の状況による補正を行い精密に検討することが必要である。・ 面接調査でのSAI-J(病識・薬識尺度)の結果は、服薬アドピアランス・自分の病識ついては参加群(11名)の方が良好な結果であった。しかし、自分の入院時の病識についてや精神症状(主に妄想)の理解の問いでは、非参加群(28名)の方が良い部分もあった。・ カルテ検索については、2年後まで経過を追う事ができた参加群39名、非参加群90名(アンケート群を含む)を対象とした。参加群は江熊の社会適応尺度で6ヵ月後、1年後、2年後の結果が3.23→3.28→3.21と良くなっているのに対し、非参加群では2.62→2.62→2.72と若干ではあるが悪化している事が分かった。ただし、今回の結果は、入院前の状態が不揃いであるため、その情報も含め、さらに検討を進める計画である。
著者
今井 康貴 永田 修一 豊田 和隆
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,高い精度を有する,渦法による浮体構造物の非線形波浪中挙動解析法の開発を目的に,自由表面下で振動する2次元没水平板の問題に,Random-Wal k法およびCore-Spreading法に基づく渦法計算を適用し,平板に作用する流体力について検討を行った.その結果,Core-Spreading法および物体近傍での渦層モデルを用いることで,これまでの波浪問題に適用されてきたRandom-Walk法に基づく手法より実験結果と近い結果が得られた.
著者
小泉 尚嗣 渋谷 拓郎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究対象である鳥取県の湯谷温泉は,少なくとも3つの温度の異なる帯水層(上から中温・低温・高温の帯水層)から供給される水で形成されていることがわかっている.地球潮汐や気圧変化によって地殻の体積が縮むとき,湧水量が増大し水温が低下することから,低温の帯水層から供給される水の量が,地殻の体積歪変化に対して最も敏感に対応して変化していることが判明した.平成8年8月から湯谷温泉において,水温2チャンネル(深さ2.1mと低温の帯水層直上の深さ24m)と湧水量2チャンネル(低感度と高感度)の計4チャンネルのデータを,5Hzのサンプリングレートで(科学研究費で購入した)ディジタルデータレコーダに収録し始めた.収録チャンネルが増えたので,当初予定していた10Hzのサンプリングレートを5Hzに落として収録している.1996年10月19日の23時44分48秒頃に発生した日向灘の地震(M6.6)の際,従来の1時間値で見る限りでは,深さ2.1mと24mの所の水温が地震後に50〜70m℃上昇したということが分かるにすぎなかった.しかし,5Hzサンプリング値で見ると,深さ2.1mの水温で23時47分7秒頃から23時47分22秒頃から23時47分48秒頃の間に3m℃の低下、深さ24mの水温で23時47分29秒頃の間に5〜6m℃の低下があり,その後上昇に転じていることが判明した.他方,京都大学鳥取観測所の超高性能地震計の記録によれば,P波立ち上がりが23時45分50秒前後、表面波の立ち上がりは23時46分45秒前後、表面波の大きなピークは23時47分前後である.現状では変化の全体を説明することはできないが,変化の開始時間のみに着目すると,表面波によって低温の帯水層の湧水量が変化し,それが水温の変化となって井戸上部に伝わっているように見える.これが事実とすれば,地震時の水温の変化が,地震の表面波によってもたらされるケースがあることを観測によって示した最初の事例となる.
著者
生塩 研一
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

脳の前頭前野や大脳基底核は時間計測に関与すると考えられていますが、具体的な役割は未解明です。我々は引き続いて呈示された図形の表示時間の違いを弁別する課題をサルに与えて、その課題遂行中に個々の神経細胞の活動を調べました(大脳基底核では世界初)。前頭前野が時間の長短を大まかに分ける標準時間によってフィルタリングすること、また、大脳基底核が遅延期間で時間長を発火頻度で符号化していることを見出しました。
著者
曽我 亨
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

東アフリカ牧畜社会では、近年、民族紛争が増加している。報道や学術的言説は、こうした紛争を家畜や牧草や水などの稀少な資源をめぐる競合と説明する傾向がある。しかし、こうした紛争は、民族エリートたちによる扇動の結果と思われる。本研究は東アフリカ牧畜社会において民族主義が興隆する以前の時代に焦点をあて、異民族による生態資源の共同利用の諸相を分析した。その結果、異民族間には生態資源と労働力の交換や、生態資源をめぐる棲み分けが行われていたことが明らかになった。
著者
門田 安弘
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、平成元年度と2年度の2年間にわたるもので、日本の自動車産業における原価計算と原価管理のシステムを、個々の自動車企業を訪問調査して究明するものである。具体的には、トヨタ、日産、マツダ、ダイハツ、鈴木、クボタ(トラクタ-工場)などを取材した。得られた研究成果(知見)は、次のとおりである。1、原価計算については、各社とも標準原価計算を採用しているが、製造原価に占める各原価要素の構成比率で材料費が大きなものになっているなどのことから、原価管理の重点の移動がみられる。標準原価計算が財務会計目的のみに用いられ、原価管理上の意義が小さくなっている。2、原価管理では、新製品の開発段階における原価企画のシステムが重要になっており、このシステムの全容を解明することができた。これは日本独特のオリジナルなもので、利益計画から出発する点が特徴である。次に、原価改善という製造段階の原価低減のシステムも解明できた。これは、標準原価計算のように原価維持を目的とするものではなく、トヨタ生産方式ないしジャストインタイム生産方式や目標管理と結びついて、やはり利益計画を出発点とした毎期の原価低減活動である。3、自動車産業におけるCIM(コンピュ-タ-統合生産)とJIT(ジャストインタイム生産方式)の実態を究明した。CIMに関する投資の経済計算や導入プロセスの調査も行った。また、CIMの中の生産計画についてMRP(資源所要量計画)のデ-タベ-スがあり、これと原価計算の関連についても調査した。4、さらに、この実態調査を通じて、自動車企業の販売管理システム、財務管理システム、国際生産戦略、組織と人事管理システムなどについても解明した。以上の4つについて、次ペ-ジに示す研究発表も行った。
著者
宇都 由美子 村永 文学 大野 佳子 熊本 一朗
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

わが国においても、医療費適正化を目的として徐々に包括評価が導入、拡大されている。出来高払い方式から包括払い方式へと移行し、収入の上限が決められた中で、いかに効率よく医療や看護を提供するかということが重要な課題となり、人件費などを含め医療資源の適切な投入とコストコントロールのためのツール作成が急がれている。医療や看護の質を確保し、同時に医療費の適正化を達成するためには、病院のIT化は不可欠な要素である。鹿児島大学医学部・歯学部附属病院においては、すでに医療情報・遠隔診断システムとしてセキュリティ機能を強化した病院ATMネットワークが設置されている。したがって、病院データウェアハウス用データベースサーバを病院ATMネットワーク内に設置し、病院情報システム(THINK)のデータベースとリンクを図ることが比較的容易に実現でき、病院DWHの中に看護師人件費の算出及び評価システムの開発を行った。具体的な成果として、1)THINK内の看護師基本情報、看護データ、勤務実績、超過勤務時間データの抽出、ならびに給与データを解析し、DWHのDBの構造を構築する。2)入院(病棟勤務)の看護師のマンパワーと人件費の解析システムの開発を行った。(1)患者ごと、1入院期間ごとの看護度データを抽出し、病院DWHに転送して看護師ごとにまとめ、看護マンパワーと人件費の関係を評価できる解析システムを開発した。(2)患者に提供された看護マンパワーの需要と供給バランスにどのような差異があるのか分析、評価した。3)入院に関する病棟(含むICU)ごとの看護師のマンパワーと人件費の差異に関する分析を行った。(1)病棟、看護師ごとに分析を行い、看護マンパワーの需要と供給バランスにどのような差異があるのか分析、評価した。(2)その差異がどのような原因(患者の疾患、手術の有無、合併症、補助的療法)によって生じるのか分析した。
著者
牧野 崇司
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

傾斜がマルハナバチの訪問頻度に与える影響背景と目的:花数や蜜量といった、送粉者の訪問頻度に影響する要因の解明は、送粉生態分野のもっとも基本的なテーマのひとつである。植物が生える地面の「傾斜」も、訪問頻度に影響するかもしれない。鳥では、水平方向よりも、斜め上や斜め下への移動に時間がかかる例が報告されている(Irschick&Garland 2001)。このことが送粉者にも当てはまるとすると、斜面では時間あたりに訪問できる花の数が減少し、獲得できる餌の量(採餌速度)が減少することになる。結果として、斜面に咲く花は避けられてしまうかもしれない。これらの予測を検証するため、ふたつの実験を行った。実験内容:両実験とも、網製ケージ内にて人工花とクロマルハナバチの農業用コロニーを持ち込んで行った。人工花は斜面上のどの方向から見ても同じ形に見えるように球形とし、1花を1株として、1.8m四方の板の上に、32cm間隔の格子状に並べた。ひとつめの実験では、クロマルハナバチを巣から1個体ずつ放し、人工花を並べた板の上で採餌させた。途中、人工花を並べた板を水平から垂直まで、5段階の傾斜角(0,22.5,45,67.5,90度)に傾け、ハチの行動をビデオで撮影し、移動速度と採餌速度の測定を行った。ふたつめの実験では、人工花を並べた板を二つ用意し、片方を平面に、片方を斜面(45度もしくは67.5度)にして、同時にハチに提示した。ハチを巣から1個体ずつ放し、それぞれの面での訪花回数を記録し、どちらの花を好んで訪れるのかを調べた。得られた知見:実験の結果、i)傾斜が急なほど花間の移動に時間がかかること、ii)そのために採餌速度が落ちること、iii)ハチは斜面よりも平面の花を好んで訪花することの3点が明らかになった。これらの結果は、斜面に生える植物が、送粉者の誘引において不利な状況にあることを示している。また、こうした植物が、花弁などの誘引器官への投資をふやすような選択をうけている可能性を示す新たな知見である。なお、以上の結果をまとめた論文は、Functional Ecology誌に受理された。また、2008年8月に米国ミルウォーキーで開催されるアメリカ生態学会でも発表した。
著者
大友 智 岡出 美則 中井 隆司
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,大学・大学院における実践的指導力量形成のための体育科教員養成プログラムの開発であった.この目的を達成するために,以下の課題を設定し,検討した.第一に,体育科教員養成の課題について検討した.具体的には,近年,諸外国から体育科教育学研究者が招聘され体育教師教育に関する情報交換が行われているが,そこで論議されていることは何か,体育科の専門性と教師教育の課題は何か,教師の力量を高めるためにどのような授業研究が求められるのか,そして,教員養成段階にある学生は,体育をどのように捉えているのかを検討した.第二に,新任教師の能力基準を打ち出し,教師教育改革がすでに実行されているアメリカを対象に,体育教師教育カリキュラムとそのアセスメントを分析した.特に,JTPEにおいて,体育教師教育の取り組みが特集で紹介されているジョージア州立大学に焦点を絞り,その考え方やシステムを分析した.第三に,体育教師教育で利用することのできる期間記録に関するデジタルコンテンツ及び相互作用行動に関するデジタルコンテンツを作成し,それらの有効性を検討した.これらのデジタルコンテンツは,近年の体育授業研究成果を参照し,どの教師にとっても必要とされ,獲得できる可能性の高いものを設定するように試みた.また,それらのデジタルコンテンツを実際の大学の授業に適用し,学生の指導力量がどのように変化したかを分析した.第四に,体育授業の研究方法論を検討した.体育授業研究の研究成果は,体育教師教育の内容を豊かにしていくが,新たな知見は,新たな研究方法によって産出される.そのような意味から,質的研究と認知に関する体育授業研究方法論に検討を加えた.
著者
笠原 正治 高橋 豊 増山 博之 橘 拓至
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

P2Pネットワークに代表されるオーバレイネットワークにおいては,トランスポート層より上位のオーバレイレベルでの制御によってデータ転送が行われるため,オーバレイネットワークにおけるファイル転送遅延は論理ネットワークと物理ネットワークの双方のトポロジーに大きく依存すると考えられる.研究期間においては,まず最初の検討として,物理ネットワークとして4ノード・4ルータで構成される代表的な4種類のトポロジーを考え,論理ネットワークと物理ネットワークのトポロジー構成がファイル転送遅延に与える影響について,2層型待ち行列網モデルを用いて評価を行った.数値例において,物理トポロジーと論理トポロジーが一致する場合に遅延が小さくなる傾向にあること,また論理トポロジーの形状によっては物理トポロジーに依らず負荷に対して遅延が急激に増大することが観察された.次にP2P上の実時間サービスとしてSkypeに着目し,呼設定処理に対する動的負荷分散機構の有効性を解析的に検証した.具体的には,一般ユーザの参加を非斉時ポアソン過程でモデル化し,ノード数とスーパーノード数で規定される2変数確率過程が満たす微分方程式を導出した.数値例より,P2P型のユーザ管理方式を用いたサービスではクライアント・サーバ型方式よりも安定したサービス品質を保障できることが示された.最後に,フラッディング検索機構を有するファイル共有型P2Pネットワークに対し,4端末・4ルータ物理網より構成されるP2P網を二層型待ち行列網でモデル化し,論理レベルと物理レベルのトポロジー不一致性とフラッディング検索機構がファイル取得時間に与える影響を定量的に評価した.数値実験より,高いノード次数を持つネットワークトポロジは低負荷時において性能が高い一方,高負荷時には急激に性能が劣化することが判明した.
著者
光田 由里
出版者
渋谷区立松濤美術館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

戦後の日本で使われてきた「現代美術」という語は、時代区分、様式、手法によって確定されるものではないが漠然とした価値概念を含んでいる。「現代美術」は、普通名詞ではなく、敗戦後10年ほどして生まれ、展開し、そして消えつつあるひとつの領域を指す、固有名詞なのではないだろうか。各公募団体が内部審査を行ない、ヒエラルキーを再生産する制度が画壇だとしたら、1950年代初めにそこから脱して自由な活動を行おうとする動きが生まれた。ふたつの日本アンデパンダン展(1947年〜、日本美術会主催)・(1949年〜63、読売新聞社主催)と、タケミヤ画廊(1951年〜57年に瀧口修造がキュレーター役を務める)に代表される、画廊での発表が、反画壇運動の場だった。これらが「現代美術」領域の揺藍である。一方「現代美術」草創期に重要な役割を果たしたメディアとして、『美術批評』誌を挙げねばならない。同誌は、美術批評の刷新と反画壇・美術界変革を意図した編集方針を持ち、数々の論争を仕掛けると同時に、美術批評の新人たちを輩出した。彼らは同誌上で画壇外の新人作家たちを対象に、同時代的なリアリティを見い出し、評価を与えるて「現代美術批評」とも呼ぶべきものを生み出した。画壇外での発表の場所が確保され、それが美術ジャーナリズムの批評対象になって公認されたことで、「現代美術」領域が成立したと言える。それはいわば、作家と批評の新人たちの共同作業だった。『美術批評』誌でデビューした針生一郎、東野芳明、中原佑介、大岡信、ヨシダヨシエらは、その後の現代美術批評を半世紀にわたって担う中軸となった。彼らが評価した作家たちが「現代美術作家」なのだともいえる。「現代美術作家」は市場および画壇の外側にある作家たちだったが、「現代美術批評」が評価を支えた。この背景には、国際展に出品できるようになり、同時代の海外作品と同等に認められねばならないという、戦後初めて出現した状況があった。世界標準の「近代」性が前提になると、新潮流を輸入し学習する、戦前的な批評スタンスの無効さがあらわになり、画壇的内部審査では作品選定の機能が果たせないことがはっきりする。こうして内部的審査に内向する画壇と海外動向に敏感な「現代美術」は並存するようになった。「現代美術」を生み出したのは、反画壇意識をもち、海外美術との同時代意識を持とうとした美術関係者の、言説空間の共有であったと考えられる。
著者
山崎 淳
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的:物性研究所の研究室が要求する実験装置の開発を通して、工作室と研究室の設計・加工技術の共有化をはかり、独創的な実験装置開発環境の場を整備することにある。今年度主要なテーマは、非球面ミラー光学系を利用したテラヘルツ(THz)領域の光学実験装置用(反射型)の放物面ミラーの製作である。最重要課題は、サブμmの面精度を出すための切削・研磨技術の開発である。研究概要:日立精機のNC旋盤TS15を使い切削・研磨を行った。ミラーの材料は、アルミ合金A5056,ANB79を使った。切削バイトは、仕上げ用にダイヤモンドバイトを使用した。研磨用として、ローターをNC旋盤に取り付けた。研磨用バフは、アルミナの研磨剤を配合したものを使用した。放物面ミラーの半径は100mmである(軸上焦点距離101.6mm)。切削時にバイト先端部の振動、キリコが原因でスジ目を形成した。これが面精度に影響したため、切削条件の最適化を行ったところ、周速300mm/min(1μm/rev)、切り込み量50μm未満であった。また、振動を最小限に抑えるため、フォルダの突き出し部分を45mm以下(太さは25mm×25mm)とした。研磨時にヤケによりミラー面が黒くにごったので、洗油にて冷却しながら行ったところ鏡面研磨が可能となった。研磨条件は、周速100mm/min(12.5μm/rev)、ローター回転数14400回転であった。研究結果:仕上げ加工を数回行った後、半導体レーザー(550nm〜670nm)にてミラー面に照射したところ回折現象が確認された。研磨を数百回行った後同様に確認したところ回折現象は見られなかった。ビームエキスパンダーにて拡大したHe-Neレーザー光をミラーに入射、集光させたところ、ビームスポットサイズは、THz領域に十分利用可能な大きさであった。本研究でサブμmの面精度の切削・研磨技術を確立した。