著者
正木 忠彦 石丸 悟正 富永 治 山形 誠一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

目的大腸癌に見られる遺伝子変化の中で18番長腕の染色体の欠失が大腸癌の進展の中で、どのような意義があり、また臨床上応用されうるかを検討しるものである。材料と方法手術より得られた大腸癌原発巣80例で検討した。標本は-80℃で保存し、proteinase-K及びフェノール/クロロフォルム症例によりDNAを抽出した。18番長腕の染色体の欠失は、DCC内のマイクロサテライトの多型性を利用し、polymerase chain reaction (PCR)法を用いLOHを判定した。結果遠隔転移による死亡はDCCのLOHが見られないものでは、3/15 (20%)、LOHのみられるものでは13/31(42%)であった。術後生存期間をDCCのLOHで検討してみると、単変量解析では、有意差が出なかったが、有意に生存に関与していたDukes分離と(p=0,019)組織型(p=0.002)を考慮に入れた多変量解析をおこなったところ、DCCのLOHのある症例は、術後生存期間が短いという傾向が出た。(p=0.056)結論ガン抑制遺伝子であるDCCの存在する第18番染色体長腕の欠失は、大腸がん患者において予後に相関し、有用な臨床マーカーとなりうる可能性が示唆された。
著者
橋本 伸哉 谷 幸則
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

微生物によるハロカーボンの生成量および生成機構に関する知見を得ることを目的とした。微生物の培養液等の粘性の高い試料中のハロカーボンを高感度に分析するために、ダイナミックヘッドスペース法(DHS法)による分析条件を検討した。標準溶液をDHS-ガスクロマトグラフ質量分析装置で測定した結果、pmol L^<-1>~nmol L^<-1>の間で直線性がみられ、再現性も良好であった。本分析法をバクテリア培養液の測定に適用し、バクテリアによるクロロメタン、ブロモメタンの生成を初めて明らかにした。
著者
菅野 長右エ門 元島 英雅 飴谷 美智子 東 徳洋 栗城 均
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ラクトフォリン(LP)は、牛乳のホエータンパク質の約10%を占め、主に27kDaと17kDaの糖ペプチドの分子間結合による糖タンパク質複合体(約150kDa)で、その一次構造における疎水性アミノ酸残基の含量と局在性から高い乳化機能をもつことが期待される機能性糖タンパク質である。本研究では、1)LPをチーズ製造における副産物であるホエーから分離するための簡易な方法をまず研究室レベルで試験し、これをパイロットプラントスケールで追試し、簡易に分離できる方法を開発すること、2)得られた分離品の乳化機能及びリポプロテインリパーゼに対する抑制効果の試験を行ってその機能を評価することを目的とし、次の結果が得られた。1.チーズ酸ホエーからLPに富む画分を分離精製する方法を研究室スケールでの研究成果を基盤にパイロットプラントスケールにおいて確立した。すなわち、363kgのチーズ製造で生じた酸性ホエーを限外濾過装置(分画分子量50万)で濃縮し、加水による膜透析、逆浸透膜装置での濃縮後、pHを4.0に調整し、95〜100℃で30分間加熱処理し、上清を凍結乾燥してLPに富む画分を54g得ることができた。本研究によって、ホエー中のLPを主要成分とする画分をpH調整用試薬等を用いただけで、物理的な方法のみで高度に精製できる実用的な方法を初めて開発した。2.より高い純度のLPは、分離したLPに富む濃縮画分をゲルろ過クロマトグラフィーによって分離精製することができた。3.LPに富む画分と乳脂肪からなるエマルションを、タンパク質濃度、乳脂肪濃度及びpHを変えて調製し、その乳化活性、粘度、粒子のメジアン径、比表面積、乳化安定性等の乳化特性を測定し、LPに富む画分の乳化能が高いことを確認した。4.LPに富む画分は、リポプロテインリパーゼによるリポリシスの52%の阻害効果を示したのに対して、高純度に精製したLPは約70%の阻害を示し、LP量を増大すと90%阻害した。
著者
宮原 哲浩 内田 智之 久保山 哲二 廣渡 栄寿
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

知識発見と情報融合を実現するため,半構造データからのデータマイニングと機械学習について研究した.厳密には定義されていない構造を持つデータを半構造データという.主に,半構造データとして木構造で表される糖鎖データを対象とし,その構造的特徴を表す木構造パターンを獲得する機械学習手法を提案した.手法として,木構造などの構造的表現を扱うことのできる進化的最適解探索手法である遺伝的プログラミングを用いた.
著者
高原 淳 戈 守仁
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

表面自由エネルギーの低い末端基を有する高分子固体の表面には分子鎖末端が濃縮される。本研究では低表面自由エネルギー末端基を有するポリ(スチレン-b-4-ビニルビリジ)[P(St-b-4VP)]ブロック共重合体膜の表面ナノ構造に及ぼす末端基構造の影響について検討した。水素末端のP(St-b-4VP)-H及びフルオロメチル基末端のP(St-b-4VP)C_2C^Fをリビグアニオン重合で合成した。薄膜を調整し、表面組成はX線光電子分光(XPS)測定に基づき、また、薄膜の表面凝集構造及び力学特性を原子間力顕微鏡(AFM)及び水平力顕微鏡(LFM)測定に基づき評価した。423Kで90時間熱処理後のP(St-b-4VP)-HとP(St-b-4VP)-C_2C^Fの表面P4VP組成の膜厚依存性を評価した。P(St-b-4VP)-Hの場合、表面自由エネルギーの低いPS成分は熱処理より空気界面へ濃縮された。一方、P(St-b-4VP)-C_2C^Fの場合、P4VP側の低表面自由エネルギー末端基CF_3が空気界面に局在化ため、末端基に連接されるP4VPは高表面自由エネルギー成分であるにもかかわらず熱処理後も表面に配向している。またP(St-b-4VP)膜のLFM像は水平力の高い領域と低い領域を示した。高い水平力を示す相は表面自由エネルギーがカンチレバ-のSi_3N_4に近いP4VP相に対応すると考えられ、表面におけるP4VP相の存在が確認された。
著者
芦田 実 片平 克弘 吉田 俊久
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

教育学部および学外のサーバーからインターネットに公開したホームページを下記の様に充実させた.H15年度(2月下旬まで)に47件(29名),H14年度に21件(12名)の質問があった.必要に応じて日常生活に例えて,できる限り速やかに平易な言葉で回答(e-mail)し,質問の回答も公開した(ホームページ).質問内容としては,光の吸収と反射(色と光),溶解現象と溶解度(沈殿と溶解度積),電子殻・電子式(化学結合と分子の形),イオン化エネルギー(電子親和力),化学式(分子と結晶水),イオンと酸-塩基の中和(濃度とpHの計算),酸化・還元(電極電位と電池),気体,沸騰現象・沸騰石と蒸気,溶液の調製や再結晶などの小学校〜高校程度の素朴な疑問が多い.他に,局部電池など高校までの知識では説明できない現象,大学の講義や実験のレポートに関すると思われる質問もあった.質問箱とは別に,化学の考え方や現象を分かりやすく解説する目的で,クイズ形式の化学Q&A集を自作している.以前に制作したものを改良し,さらに項目を追加した.その他,水溶液の濃度計算と調製方法(食塩水,塩酸,酢酸水溶液,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液),Excel形式とJava Applet形式の計算・作図(直線の回帰分析,表形式,CSV形式),酸-塩基滴定のシミュレーションに関する自動サービスを試行的に開始した(ダウンロード可能).教育実習を含めた学校の授業(実験の準備,実験中のデータチェック,実験後の整理,予習・復習)や自由研究など種々の目的で使用できよう.なお,インターネット上の雑誌「化学教育ジャーナル(CEJ)」や日本コンピュータ化学会年会などで成果の一部を発表した.
著者
諸田 龍美
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国の中唐時代を代表する詩人白居易は、恋愛詩の傑作「長恨歌」によって広く知られており、平安朝を中心とする日本文学にも多大な影響を及ぼしたが、そうした本質的な影響関係が成り立ち得た背景には、「風流・多情・好色」の美意識を基軸とした、両国の<文化における共通性・同質性>が存在したことを、多様な資料および論拠によって明らかにした。
著者
寺尾 保
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、肥満者を対象に、低圧環境下の歩行運動に対する運動終了後のエネルギー消費量(実験1)、さらに、12週間のトレーニング期間で歩行運動を週3回の頻度で、1回が高地(低圧低酸素環境)、残り2回が平地(常圧環境、走者応答型トレッドミル使用)の併用によるトレーニングの有効性(実験2)等を検討した。その結果、実験1では、1.低圧環境下の運動終了30分、60分後のエネルギー消費量は、常圧環境後の値に比べて,有意な高値を示した(p<0.05)。2.翌朝の安静時代謝量は、低圧環境後の方が非運動時の値に比べて、有意な増加を示した(p<0.01)。安静時の脂肪からのエネルギー消費量は、低圧環境後の方が常圧環境後に比較して、有意な増加を示した(p<0.01)。実験2では、1.トレーニング前後の体重は、実験群と対照群(週3回、常圧環境下の歩行運動)とも、有意な低下を示した(p<0.01、p<0.05)。トレーニング前後の平均値の差では、実験群が対照群に比して、大きな傾向を示した。2.体脂肪量は、両群とも有意な低下を示した(p<0.05)が、平均値の差では実験群が対照群に比して、大きな傾向を示した。3.トレーニング前後の安静時代謝量は、実験群が有意な増加を示した(p<0.05)。4.安静時の脂肪からのエネルギー消費量は、両群とも有意な増加を示した(p<0.01、p<0.05)が平均値の差では、実験群が対照群に比べて、大きな傾向を示した。以上、本研究の成績から、低圧環境下の歩行運動は、運動後、長時間にわたって脂質代謝を亢進させ、エネルギー消費量を高める可能性のあること、さらに、トレーニング頻度を週3回とした場合、1回の高地と2回の平地による併用の歩行運動が単に平地の歩行運動に比べて、長期間、継続することで安静時代謝量の亢進と脂質代謝の改善が行われ、より効果的な減量ができる可能性のあることが示唆された。これらの観点からも本トレーニングシステムは、肥満の有効な運動療法の1つになると考えられる。
著者
水村 和枝 小崎 康子 片野坂 公明 本多 たかし
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

筋機械痛覚過敏の末梢性機構を明らかにするため、持続が数日の伸張性収縮(LC)負荷による筋性疼痛のラットモデル(遅発性筋痛、DOMS)を作成し、1.筋圧迫・収縮に伴って遊離・放出される感作性物質の量的変化、それによる筋C線維受容器の感作,2.筋C線維受容器のイオンチャネル、受容体の発現変化,3.筋浮腫に伴う受容器終末の物理的(機械的)環境の変化、の3点について調べ,以下の点を明らかにした。1.取り出し筋標本の灌流液中のATP量は筋圧迫によって増大し、運動後2日目にもその量に変化は無かった。しかし、ATPは100μMまで筋細径線維受容器の機械感受性をむしろ抑制した。B2受容体拮抗薬、COX阻害薬、抗NGF抗体投与の遅発性筋痛に対する影響を調べたところ、遅発性筋痛の始発にはB2受容体を介しブラジキニンが、またCOX2が関わり、維持にはNGFが関わっていることが明らかになった。これに対応して、COX2のmRNA及び蛋白質はLC直後から12時間後まで増大し、NGFのmRNAは12時間後から2日後まで増大していた。NGFの筋注によって筋細径線維受容器の機械感受性は投与30分後から増大し、運動後の筋機械痛覚過敏における役割を支持する結果となった。2.suppression subtractive hybridizationによりLC2日後の後根神経節で増大するRNAを調べたところ、65種が見出された。そのうち痛みと関係があるannexinA2とcalbindin1の発現をRT-PCRで調べたところ、LC2日目の後根神経節で有意に増大していた。3.運動後の筋は対側と比べ約5%重く、浮腫状態であることがわかった。筋におけるアクアポリン1,4の免疫組織化学を行ったところ、その発現には一定の傾向が見られなかった。
著者
田中 寛 佐藤 直樹 野崎 久義 河村 富士夫
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

真核細胞の基本的な作動原理を、その成立に深く関わったミトコンドリア・葉緑体の進化や機能に注目して研究した。動物・菌類を除く多くの真核細胞系統が一旦は葉緑体を持っていたとする'超植物界仮説'を提唱すると共に、共生由来オルガネラである葉緑体からのシグナルが、植物細胞周期の開始に必須であることを示した。さらに、細胞内に共存する3種ゲノムにおける遺伝情報の発現協調機構の解析などを通じ、原始的な真核細胞シゾンをモデル系とした細胞生物学の新分野を切拓いた。
著者
豊倉 賢
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

回分式攪拌槽内で硝酸鉛水溶液と硫酸水溶液を反応させることにより硫酸鉛微結晶を生成させる実験において、種晶存在下での溶液中の鉛イオン濃度低下速度と成長させた結晶の粒径分布との関連について以下の知見を得た。均一粒径の種晶を粒径分布を保ったまま成長させるためには、種晶の成長に伴う溶液中の鉛イオン濃度低下速度が過飽和度の一乗で相関できるような過飽和範囲で成長させることが望ましいという成果を得ている。この実験の操作では原料の全てを一気に混合したが、この方法では反応初期の混合状態が悪く得られる結晶の粒径分布幅は広くなった。また再現性についても問題があった。そこで新たに、反応液を制御して供給されるように考案したダブル・ジェット装置を用いて、硫酸鉛微結晶の生成実験を行った。(この操作法は、Controlled Double-Jet法と呼ばれている。以下CDJ法)本実験では、反応溶液である硝酸鉛および硫酸ナトリウム両水溶液を別々の供給管を通して、攪拌されているゼラチン溶液中に供給し反応晶析を行った。均一粒子を得るために、核発生を短時間で終了させ、その後に供給される原料は結晶成長のみに使われるように操作した。まず均一微粒子の生成に適した反応条件について検討を行った。反応溶液濃度、槽内の操作濃度(pPbまたはpSO_4)、酢酸添加量を変化させて実験を行ったところ、反応溶液濃度0.1mol/l、供給速度10ml/min、酢酸濃度1.74*10^<-1>mol/lの場合で、操作濃度pPb=2,3、pSO_4=2,3において長径15μm以下のひし形板状晶が得られた。pPb=3、pSO_4=2では、時間が経つにつれて新たな核の発生により槽内結晶総個数は著しく増加したが、pPb=2では結晶数は一定であり相対分布幅が約15%の長径6μm以下の均一な単分散微粒子が得られた。以上よりCDJ反応晶析法は硫酸鉛の均一微結晶生成プロセスとして、有効であると考えられる。
著者
藤本 強 小林 達雄 西本 豊弘 松井 章 佐川 正敏 吉田 邦夫
出版者
国学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は世界各地の土器の出現について、土器を発明・受容していく社会背景を解明することにその主眼を置いている。これまでの土器出現の問題は最古の土器の存在を突き止める研究に集約されていたが、本研究では地域ごとに異なる、生活の中に土器を取り入れていく人間活動の解明に努める。土器の用途は容器だけでなく、調理具・食器として、また鑑賞用や死者への副葬品、棺として使われてきた。ほかの素材に比べ土器が優れる点は、素材の粘土が入手しやすいこと、可塑性に富み自由な成形ができること、焼成後は硬く、耐火性を持つことである。衝撃を与えると粉々にでき、都合がよい素材である。これらの特性は、同じ形の土器が2つとない一方で、モチーフが特定の人間関係内で共有されることに繋がるのである。個性的な形は用途に応じてある程度のカタチを保たれながらも、様々に変化する。これらの共通性と独自性を時間軸に沿って整理し、地域毎の土器との向き合い方を研究していくことが中心となる。また、その土器保有していた集団の残した遺跡から検出された諸属性の分析から、当時の環境やそれに基づく生業活動を整理し、土器の受容形態を解明する。既存資料のデータの集成、整理分析を行ない各地域の土器出現の様相を解明してきた。世界的なデータベースの構築は困難なため東アジアを重点とした。また特定地域に絞って、土器を生活に組み込むシステムのモデル構築を試みた。一は土器自体に含まれる属性を分解し整理することにより、人間の製作物としての土器を徹底して分析し、製作モデルであり、他方は土器に付随するその他の遺物類や土器が検出された遺構・遺跡についても土器の使用痕跡と併せて解釈から土器の使用モデルの構築である。研究終了後の現在は、土器の出土状況の把握に重点をおいた発掘調査に継続的に取り組み、モデルの検証を図り、研究の位置づけを進めている。
著者
森 祐一
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.遺伝性TBG増多症の7家系(日本人3家系、白人4家系)と、男児のみにTBG増多症を認めた日本人1家系において、TBG遺伝子量をDuplex PCR・HPLC法により定量した。TBG増多を示した患者全てに、TBG遺伝子の増幅を認めた。3倍増幅を5家系に、2倍増幅をde novoの症例を含め3家系に認めた。患者の血中TBG値は遺伝子量に対応していた。解析した8家系全てに遺伝子増幅を認めたことから、これが家族性TBG増多症の主要な機序であることが判明した。2.染色体のFISHを日本人4家系と白人1家系で行い、それぞれ1家系でDuplex PCR・HPLC法と合致するTBG遺伝子の3倍増幅が確認された。残りの3家系で確認できなかったが、これらにおいて増幅単位が小さいためと考えられた。3.家族性TBG増多症の日本人4家系で、12種類の制限酵素を用いてサザンブロット解析を行った。全てでRFLPを認めず、制限酵素によるDNA断片がカバーする52Kbp内に増幅の段端点の存在しないことが示された。4.日本人のTBG完全欠損症(CD)あるいは減少症(PD)を呈する50家系で、Allele Specific Amplification法による遺伝子スクリーニングを施行した。44家系がCDJの変異(コドン352の1塩基欠失)、残りの6家系がPDJ(コドン363の1塩基置換)であり、両遺伝子変異が日本人の祖先に生じ広く浸透したものと考えられた。5.CDJ10家系、PDJI家系で、X染色体の不活化パターンを解析し、CDJ、PDJのヘテロ女性各1名が選択的不活化を呈していた。両患者では、正常のTBG遺伝子が不活化されCDJ、PDJのみ発現したため、男性患者と同じTBG値を示たものと解釈された。
著者
立石 潤 北本 哲之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略す)の感染因子として、プリオンが提唱されている。プリオンを構成する主な蛋白としてプリオン蛋白の存在が知られ、single copy geneによりコードされた蛋白であることが報告されている。プリオン蛋白遺伝子のノックアウトにてスクレピーに感染しなくなるという事実より異常プリオン蛋白そのものが感染因子である可能性が高くなった。我々は、この異常プリオン蛋白が感染初期から、マウスの脾臓やリンパ操置の濾胞樹状細胞(FDC)に沈着することを世界で初めて証明し、このFDCへの蓄積機序を検討した。まず感染因子の投与ルートによるるリンパ操置のFDCへの蓄積を検討すると、腹腔内または脳内投与とも、投与後100%FDCに異常プリオン蛋白が沈着し脳内にプリオン蛋白が蓄積する以前から検出可能であり、発症前にCJDが診断可能であることを明らかとした。また、ヒトからマウスへの初代接種実験ではFDCへの沈着がおこらず、また腹腔内投与のみではいまだ発症したマウスがなく、中枢神経組織外での種間バリヤー形成の一役をFDCがになっている可能性を指摘した。初年度でのSCIDマウスの結果と考えあわせると、末梢ルートによるCJDの感染には、まずFDCに異常プリオン蛋白が蓄積することが必要条件であり、もしFDCへの蓄積がみられないなら、CJDの発症もみられないという結論となった。一方、直接中枢神経系へ投与を行なうと、FDCに沈着がみられてもみられなくてもCJDは発症することが明らかとなった。
著者
北川 雅敏 北川 恭子 内田 千晴 小田 敏明
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

[研究目的]本研究では、癌抑制遺伝子産物の分解亢進による細胞悪性化機構の解明を目指す。特にRB経路を制御する癌抑制遺伝子産物RBタンパク質とCDK阻害タンパク質p27^<Kip1>の細胞内での分解機構を明らかにする。さらに、これらの癌抑制遺伝子産物の分解実行因子の発現亢進や、分解亢進に伴い発現が変化する細胞悪性化や予後不良のキー遺伝子を解明することを目指す。[方法と結果](1)RBタンパク質のユビキチン依存的分解機構:p53のユビキチンリガーゼであるMdm2がRBタンパク質に結合し、ユビキチン化することを見出した。興味深いことにMdm2はRBファミリーの中でRBタンパク質だけを特異的にユビキチン化しp107やp130はしなかった。また、癌抑制遺伝子産物ARFはRBタンパク質のユビキチン化を抑制した。細胞にMdm2を過剰発現するとRBタンパク質の分解速度が亢進し、プロテアソーム阻害剤やドミナントネガティブMdm2、Mdm2のsiRNAで分解が阻害されることがわかった。さらにヒトのMdm2が高発現している癌検体において、RBの発現量が低く、Mdm2によりRBの分解亢進が細胞癌化に寄与していることが判明した。(2)p27^<Kip1>の分解制御機構:予後不良の癌ではCDK阻害タンパクp27^<Kip1>の分解が亢進している。我々は肺癌でp27^<Kip1>のユビキチンリガーゼSkp2とCks1の発現が有意に高いことを見いだした。さらにCks1の細胞内存在量はユビキチン-プロテアソーム系によって制御されていることを証明した。Cks1の分解低下が癌におけるCks1の高発現の原因のひとつとなっている可能性が示唆された。
著者
金 尚均
出版者
西南学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

「環境保護刑法の研究」の二年目にあたる本年度は、現代社会における刑法の機能・機能化との関連から、また、企業の通常の生産活動から生じる環境汚染との関連から、環境保護のための刑法のあり方や可能性について検討した。科学技術の発展による文明生活の発展と近代化の過程において、未知の危険とこれが人に与える脅威の潜在的可能性が高まっている。ここで焦点を当てられる「危険」とは、個人的法益ないし社会的法益としての「危険」を越えて、社会問題としての、常在する危険のことである。これは、危険のグローバル化とか、危険の社会化とも呼ばれることがありますこれに対処するため、刑法を機能的に理解する見解が有力化している。その現れの一つとして、法益保護のために処罰段階の前段階化・早期化の傾向がある。危険犯、とりわけ抽象的危険犯が多用化されている。ドイツにおいて環境汚染に対して刑法をもって規制されているが、その効果や執行状況が思わしくないということは、衆目の一致するところである。この原因の一つとして、近代刑法の処罰客体が「個人」であったことにある。これに対して、企業による大規模な環境汚染については、実務上また理論上も根本的な対策が執られてこなかった。近年では、企業を一つの有機的なシステムとして捉え、これに対して刑事的に問責する主張が行われている。これに加えて、企業に対する刑罰的制裁として企業に対する後見制度が提唱されている。処罰段階の前段階化の問題と関連させながら、これらの試みが、環境保護にとって有効なのか、また従来の刑法理論に抵触することなく、理論構成することができるのかなどについて、できる限り早期にまとめていきたいと考えている。
著者
菱田 雅晴 毛里 和子 天児 慧 加藤 弘之 唐 亮 高原 明生 小嶋 華津子 朱 建榮 趙 宏偉 諏訪 一幸 阿古 智子 南 裕子 中岡 まり 加茂 具樹 中居 良文 呉 茂松 白 智立 鄭 永年 景 躍進 趙 秀梅
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

1978年末以来の中国の改革が"私利"を核とした社会システム全体の転型であることに呼応して、中国共産党自身にも"私化"傾向が著しく、組織としての私人性に加えての"私利性"は"領導核心作用"なるレトリックの正統性に深刻な影を落としている。最終的には、この党組織は、内外の環境変化から危機的様相を強め、存続そのものが危殆に瀕しているかの如く見えるものの、これら変化を所与の好機として、この世界最大の政党にして最大規模の利害集団はその存在基盤を再鋳造し、新たな存在根拠を強固なものとしつつあるものとの暫定的結論を得た。
著者
東郷 秀雄
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

研究の目的は、イミダゾール型及びアンモニウム型イオン液体反応場の中で、中性の活性種である炭素ラジカルを発生させ、イオン液体という高極性・高粘性反応場の中での中性炭素ラジカルの化学的挙動を精査し、一般的な有機溶剤との反応性の相違を比較するとともに、その特性を合成化学的に反映させることにあります。そこで、金属亜鉛を用いた1,3-ジハロプロパン類のシクロプロパン環への変換反応を種々のイオン液体反応場で検討した結果、イミダゾリウムNTf_2塩、イミダゾリウムPF_6塩、及びイミダゾリウムOT_S塩では殆ど反応しないが、イミダゾリウムCI塩及びイミダゾリウムBr塩のイオン液体を用いると、シクロプロパン化反応が1,3-ジヨード、1,3-ジブロモ、及び1,3-ジクロロプロパン何れの基質においても効率的に進行することが分かった。つまり、イオン液体を用いることにより、金属亜鉛から1,3-ジハロプロパンへの電子移動が促進され、不活性な1,3-ジクロロプロパンでも効率的に反応することが分かった。これらの知見をもとに種々の2,2-ジ置換及び2-モノ置換1,3-ジハロプロパン類のジ置換及びモノ置換シクロプロパンへの効率的3-exo-tet環化反応を確立した。また、イオン液体固定型ヨードベンゼンを触媒とし、イオン液体中でケトンのmCPBAによるα-トシロキシケトンへの変換反応、及び続くチアオミドとの反応によるチアゾールへの直接変換反応を確立した。イオン液体固定型ヨードベンゼンを含むイオン液体反応場は再生再利用が可能である。