著者
窪薗 晴夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、これまで体系的な研究に乏しかった複合語の音韻構造を対照言語学・一般言語学的な観点から考察し、日本語と英語の複合語音韻構造の中の普遍性と言語個別性を明らかにすることを目的としている。この研究から次の4点が明らかになった。1.日本語のアクセント現象の記述・説明のためには、従来から言われてきたモーラという単位に加え、音節という単位が不可欠であり、この単位を用いて分析することにより、日本語と英語のアクセント現象に見られる抽象的なレベルでの共通性を捉えることができる。2.複合語を構成する二つの要素のうち、どちらのアクセント(強勢)が複合語のアクセント(主強勢)として生き延びるかを対照言語学的観点から考察すると、多くの言語において複合語の修飾語(modifier)が主要部(head)を統率するという共通した特徴が観察される。ただし日本語の東京方言はこの例外となる。3.音声素性という概念を用いると、「蝶々」という反復複合語が「てふてふ」から「ちょうちょ」へと母音部分の発音を変えたという歴史的事実を、「痛い」が「いてえ」となるような共時的母音融合の現象と同一の音声過程として記述できる。4.複合語アクセント規則をはじめとするアクセント規則と、母音挿入や子音削除のような分節音変化との関係を多言語について考察した結果、分節音変化が生じる前の音節構造(つまり一昔前の表層構造)を入力としてアクセント規則が適用されるケースが観察された。
著者
永田 正義 福本 直之 菊池 祐介
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では磁化同軸プラズマガンを用いた磁気ヘリシティ入射法により、プラズマ中に駆動される高速イオン流の特性について各種流速計測法(マッハプローブやイオンドップラー分光法等)を用いて調べながら、電子流体だけでなく、イオンの流れが強く関与する高ベータ磁気流体プラズマの自律的磁場構造形成について解明を行い、2磁気流体緩和物理について理解を深めた
著者
平岡 公一 山井 理恵 斉藤 弥生 大坂 純 志水 田鶴子 菊池 いづみ 秋元 美世 新保 幸男 岡部 耕典
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、日本における多元的福祉ガバナンスのもとでの福祉サービスの質の確保策の現状と課題、および将来展望について、国際比較的な視点をふまえ総合的に検討した。地方自治体における実施状況、あるいは民間組織の先進的な取り組みの事例の分析に基づいて検討した結果、サービス実施アプローチに適合的な適切な質の確保策を選択すること、さまざまな質の確保策の間の機能分担関係を明確化することなどの課題が明らかになった。
著者
和田 倶典 FULGIONE Wal SAAVEDRA Osc GALEOTTI Pie 斎藤 勝彦 山下 敬彦 高橋 信介 中川 益生 山本 勲 井上 直也 岬 暁夫 WALTER Fulgi OSCAR Saaved PIERO Galeot
出版者
岡山大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は[LVD(Large Volume Detector)]実験と,[LMD(Large area Massive particlesDetector)]実験から成る。これらの実験の目的は大統一理論から予想される新しい粒子や物理学,また宇宙からのみ飛来することが期待される新粒子,天体物理学などである。これらの実現には人工加速器は無力であり,そのため非加速器物理が押し進められている。[1]LVD実験:特に,ニュートリノ反応や,新粒子の出現頻度はきわめて稀なため,大規模で極端に低いバックグウランド状態の実験所が必要となり,それらの条件を満たす実験所がイタリア,グランサッソ-に建設されイタリア国を中心にロシア,米国,日本,中国,ブラジル等の参加でLVD計画が始まり,日本は我々のグループが参加して,平成2年,3年,4年とLVD建設に協力してきた。LVDの第一期計画のタワー1が完成し,世界最大容積の液体シンチレータデータが取れるようになり,平成4年6月から測定に入った。これにより、LVD実験の目的である(a)星の重力崩壊からのニュートリノバーストの研究,(b)太陽ニュートリノの研究,(c)陽子崩壊の研究,(d)隠れたニュートリノ天体源の研究,(e)ニュートリノ振動の研究,などの成果が期待される。さらに,LVDとしてはタワー2,3の建設が始まっているところである。LVD実験は休みなく運転を続けており,現地グランサッソ-地下実験所にて装置の運転及び実験目的の解析を行うことが本研究の目的である。それらの目的を達成するため,平成6年以降,日本から現地(イタリア,グランサッソ-地下実験所)におもむき,装置の運転及び共同作業やデータ解析などを行ってきた。それらの成果は平成7年ローマで開催された第24回宇宙線国際会議で10編の報告を行った(10.研究発表の項目参照)。また,LVD装置の運転(シフト)業務は各国で分担しているが日本グループとしては年間,最低4週間(2シフト)従事することになっているので,この業務を最優先し,平成7年度は3シフト行った。また,日本グループ独自の解析を行うためのデータ転送,調整などの調査を行い,見とうしをつけた。[2]LMD実験:本実験の研究目的は(f)超低速・超重粒子の探索,(g)超高エネルギーミューオン物理学の研究である。LMD実験も平成6年9月に40平方メートルの改良型TLシートスタック[TLS]をイタリア,モンブラン地下実験所に設置したので,(f)超低速・超重粒子探索の可能性の検討が十分成しえるよう,(ア)現地モンブラン地下実験所及びトリノ大学にてTLSの回収と解析を行うことと,(イ)TLシートが超低速粒子に感度を持つか実験を行うことが本年度の計画であった。TLSはTLシートとX線フィルムを多数枚重ねたものからなるが,今回は改良型TLSで真空パックをした。(ア)は平成8年2月に回収を行い,40平方メートルX8枚のX線フィルムをすべて現象し,解析を行った結果,3例の超低速・超重粒子候補イヴェントを見い出した。ただちに,対応するTLシートの15箇所をTL読み取りシステムで読み取り,ビデオカセットに収録し,日本でも解析できるようすべてのテープをコピーした。現在,そのビデオテープから解析中である。(イ)の実験は低速アルゴン・イオンビームで行った結果光速度の一万分の一程度でもTLシートが感度を持つことが判明し,超低速・超重粒子がTLシートに入射した時の発光量も計算することが可能になった。計算から予想される粒子による発光がバックグラウンドによる発光よりも多くなれば検出がむつかしくなる。TL発光がそれほど多量ではないことが判ったので,モンブラン・トンネル内のバックグラウンドが大きく影響することになる。モンブラン・トンネルに比較してバックグラウンドが少ないと予想される(50%から10%)グランサッソ-地下実験所にTLSを設置すべく,準備を平成7年8月に始めた。バックグラウンド計測用TLシートをグランサッソ-・トンネル内のLVDタンク上に三箇所設置した。平成8年2月にTLシートの一部分を回収し,読み取りを行った。これらもテープをすべてコピーしたので,半年間でのグランサッソ-トンネル内のバックグラウンド量が計測でき,モンブラン・トンネルと比較できる。一年後のバックグラウンド計測と併せて、新しいTLSの設置場所を検討する予定である。
著者
紅野 謙介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、財団法人日本近代文学館に所蔵されている中里介山文庫1万点について書誌調査を行ない、データベースを作り上げた。調査の過程で、これまでかえりみられなかった介山文庫の重要性が再認識された。文庫には「近世綺聞」「大和名所図会」「歴史綱鑑」「農民蜂起譚」「本朝医人伝」「武道極意」「尺八通解」など、地誌、名所図会、史書、風俗、医学、剣術、音楽をめぐるさまざまな本、くわえて江戸末期から明治初期に出された合巻、黄表紙、漢籍などの和書、エンサイクロペディストらしい洋書の百科事典類など、文学ならざる書物であふれていた。しかも、かなり独自に手を加えていて、表紙や奥付の破損したものも、題簽の欠けた和本もある。何冊かを合本したものもある。これらの膨大な雑書の宇宙にとりまかれながら、介山は『大菩薩峠』を書き続けたのである。介山文庫自体は雑多なコレクションではあるが、それだけに在野の民間知識人の知のネットワークが浮かび上がってくる。また蔵書の一部に介山の直筆と推定される書き込みも多く発見され、『大菩薩峠』という大長編小説の創作の秘密に迫ることが出来た。また介山は『大菩薩峠』の出版に関しても、独自な私家版作りを行なった。印刷や出版に関する介山独特の哲学は、小説内でも挿話として盛り込まれ、介山文庫の書物研究が同時に介山自身の書物作りと重なり、ひとつのループをなしていることも明らかになった。平成15年4月に山梨県立図書館で開催された「中里介山『大菩薩峠』展」では、介山文庫から数十点が展示され、NHKハイビジョンで放映された『大菩薩峠 果てなき旅の物語』というドキュメンタリー番組でも、介山文庫への言及がなされた。
著者
吉田 雪子
出版者
(財)東京都医学総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

ユビキチン・プロテアソーム系による選択的タンパク質分解は、様々な生体反応に於いて重要な役割を担っているが、この系において最も重要な分子は、分解を受けるべく標的タンパク質を見分けるユビキチンリガーゼである。その中で最も良く研究されているファミリーのひとつSCF型ユビキチンリガーゼの基質認識サブユニットF-boxタンパク質はヒトでは約70種類存在するがこれらの機能がわかっているものは少ない。本研究は機能未知のF-boxタンパク質の標的分子を同定しその機能を解明することを目的とするものである。昨年度確立した定量的質量分析(SILAC)法により標的分子を効率よくスクリーニングする系を用いることで、本年度は第三の糖蛋白質認識Fbxo27、Fbs1と相同性の高いFbxo44, Fbxo17の基質を同定し解析を進めた。Fbs1, Fbs2とは結合せず、Fbxo27と特異的に結合するトランスフェリンレセプターを用いた解析から、Fbxo27は小胞体関連分解以外の局面、すなわちエンドサイトーシスで取り込まれた糖蛋白質が未知の経路で細胞質に出てきたもと結合することが明らかとなった。さらに本解析を進めることによって、糖蛋白質が細胞外から細胞質へ現れる新たな系が明らかになることが期待される。一方Fbxo44に関してはDNAダメージに関わる複数の分子との相互作用が見られ、リン酸化修飾が結合に必須であることが明らかになったため研究を継続している。
著者
竹中 治堅
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、金融危機のように長期的に顕在化しない政策問題がどのように解決される条件について比較政治における集合行為論や政官関係論を参考にしながら探ることを試みた。このため日本、アメリカ、スウェーデンにおける金融危機が発生した時の、政府の対応を比較分析した。政治状況について把握することにつとめた。各国を比較して明らかになったのは金融危機の解決される状況に共通の特徴があることである。それは政権交代がおきることが、金融危機の解決を促進するということである。1920年代の日本、80年代のアメリカ、80年代から90年代のスウェーデンの場合、いずれも長期化した金融危機は政権交代がおきた後に初めて解決されている。ただ、政権交代が短期間におわった90年代の日本では政権交代が金融危機の解決を促進することにはならなかった。政権交代が金融危機の解決につながることは集合行為論や政治家や官僚の選好によってこれを説明することができる。金融問題は長い間顕在化しないため、問題解決に取組もうとする場合、まず問題の存在を認めることから始めなくてはならない。問題の存在を認めることは過去の政策の失敗を認めることである。政権交代がおきていれば、政策の失敗を過去の政権政党に帰することができるのに対し、政権交代がおきていない場合には、与党や官僚機構に対する批判を招くことになる。このため、与党や官僚はなかなか問題解決に取組まず、問題が長期化するのである。金融システムの安定が公共財の性格を帯びており、他の政治アクターが問題解決することを期待し、自らは行動しようとしないただ乗りの問題が発生することも金融危機の長期化につながっている。
著者
田中 愛治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本における政党システムの時系列の変化を1972年から1996年にかけての24年間にわたり、世論調査データを中心に分析した。それらのデータ分析の結果、1993年の衆議院選挙で自民党が政権の座から転落し「55年体制」が崩壊した時点以前に、日本の政党システムは1986〜87年頃にイデオロギー的な対立軸が弱くなっていたという知見を得た。また、「55年体制」崩壊後の1996年の時点になると、有権者の意識においては「55年体制」時代から存続する既成の政党が何らかの組織を通じて投票への動員をかけることが出来る有権者の比率は46.3%に低下しており、53.7%の有権者がそのような組織的な間接的絆を政党と持っていないことがわかった。その53.7%の「組織化されていない」有権者が、50%を越える無党派層と大きく重複することも判明し、無党派層の増大が政党の従来のあり方に変化を迫っていることが明らかになってきた。また、それと同時に、1990年代の日本の政党システムは政党再編成(partisan realignment)には至っておらず、1996年の時点ではまだ過渡期であると考えるか、もしくは政党編成崩壊(partisan dealignment)と呼ぶべき状態にあることが明らかになった。これらの研究成果は、1998年度のアメリカ政治学会において報告したほか、Waseda Political Studies, March 1999, とWaseda Political Studies, March 2000に論文として掲載した。あつかったデータは、財団法人・明るい選挙推進協会が国政選挙後に実施している全国世論調査データと、国内外の研究者が実施した学術的全国世論調査データである。後者としては、1976年の衆議院総選挙の前後に実施されたパネル形式のJABISS調査(研究者:綿貫譲治、三宅一郎、公平慎策、Bradley Richardson, Scott Flanagan)、1983年の参院選後と衆議院選挙の前後に実施されたパネル形式のJES調査(研究者:綿貫譲治、三宅一郎、猪口孝、蒲島郁夫)ならびに1996年の衆議院総選挙の前後にパネル方式で実施されたJEDS96調査(内田満、林文、谷藤悦史、田中愛治、池田謙一、西澤由隆、川上和久、Bradley Richardson, Susan Pharr, Dennis Patterson)の世論調査を対象とした。また、補足的に読売新聞社と朝日新聞社が定期的に実施している全国世論調査のデータも補足的に分析し、無党派層の増加が時系列にはどのように変化したのかをとらえた。
著者
石峯 康浩
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

画像解析技法の一つであるParticle Image Velocimetry法(以下、PIV法)を火山噴煙の映像に適用した。特に、2006年以降、噴火活動が活発になっている桜島火山の昭和火口で発生した噴火において、火山噴煙の速度を定量的かつ面的に抽出することに成功した。
著者
朝日 吉太郎 鈴木 啓之 上瀧 真生 金谷 義弘 西原 誠司 丹下 晴喜 八木 正
出版者
鹿児島県立短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,今日のグローバル化が日本とドイツの経済の変容をどのように促進しているかを様々な分野から比較研究することを目的とし,日独それぞれ2回づつの調査旅行,研究交流を行った。初年度は,日独それぞれの経済システムの基本的特徴と,その今日的制限,新たな対応戦略とその影響の基本的把握を目的に,2年目は,その成果にたって,より専門的,典型的な部門への調査をおこなった。以上の研究から,(1)経済のグローバル化に関する日本とドイツにおける共通性と民族的特殊性を.特に欧州通貨統合とドイツ金融・財政当局の主権の制限との関係を調査したこと,(2)ドイツの財界のグローバル化戦略が,従来型の実体経済の強化から金融的利得を求めるマネーゲーム的な蓄積方式へと進みつつあるが,同時にそれに対する社会システムがまだ十分対応できていないこと,(3)ドイツの経済界がこのグローバル化の中で目指す次代の経済構造として,ドイツ産業連盟の「オランダ型シナリオ」を提唱している理由を解明し,欧州大での労使関係の変容をとらえてきたこと。また,(4)ザクセン州の詳細な調査の中で,旧東ドイツ地域が国際的資本融資や新規技術利用,東中欧を含むあらたな産業地域として国際的インフラ整備の対象とされ,さらに従来の西ドイツとは異なる新たな労使関係形成の実験場として位置付けられ,ドイツ全体の将来戦略の柱として位置づけられていることを解明し,東西ドイツの統一や経済発展について独自の視点をもったこと。(5)日本のJITシステムにかわるJISシステムによる効率化が進められる中で,ドイツの産業資本の企業間ネットワークが変化しつつあること等を明らかにしてきた。一方,日本のグローバル化の進展については,(1)日本の従来的な産業政策とその変容について,一国的レベルを超えた分析方法を提起し,(2)従来の日本のプロフィット形成システムの実態とその制限について,産業構造,企業間関係,技術的特徴,労使関係等の側面から調査・分析し,生産主義的に日本の企業社会を評価しがちなドイツでの,研究に対して論点を提起してきた。この成果は,ドイツ・日本での独日グループの3回にわたる講演会を通じ社会還元されており,また,今後平成14年と平成15年に予定している両国での出版によって公表される。以上の研究はかなり徹底した調査を行いつつも,一定の限界を持つ。第一に,調査研究の対象が今のところドイツ・日本に限定されているという点にある。上掲のオランダ型シナリオの様に,欧州にはアメリカ型とは異なる独自のグローバル化に対する戦略があある。さらに,グローバル化の中で,ドイツ経済界は,中東欧の将来の発展可能性を持つ地域に隣接する地歩の優位性を利用しようとしてる。この点での認識はこの研究を通じて始まったばかりであり,今後の調査・研究が不可欠である。こうした地域を視野に入れて,広域の地域市場圏と企業間関系の形成をハイテク産業分野等を事例に把握しようとするのが,次の国際共同研究の課題である。
著者
濱本 正太郎
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度も、引き続き、基本的資料の収集・読解に重点を置いた。初年度の報告書でも述べたように、この作業については、短期聞で明確な成果を生むことを期待するよりも、精密にテキストを読み進む作業を続けるほかないと考えられる。また、初年度からの継続的作業として、国際政治学・国際関係論、さらには哲学・政治思想の観点から「世界帝国」を扱った文献の読解も試みた。「事実上の国際政府」概念は、ヨーロッパ協調に起源を持ち、ウィーン会議(1814-1815)、パリ会議(1856)、ベルリン会議(1878)などの会議外交を経て、第一次世界大戦・第二次世界大戦の戦後処理過程においてより明確に現れることとなった。とりわけ、このような実行についてある程度の理論化が図られたのは第一次世界大戦・第二次世界大戦の戦後処理の過程においてであるため、第二次世界大戦の戦後処理過程の分析は重要である。この点、本年度は、2ヵ月の短期在外研究の機会を得たため、フランス外務省外交史料館において、第二次世界大戦の戦後処理過程において「大国」が果たした役割について、大量の一次史料を渉猟する機会を得ることができた。これら研究の成果は、残念ながら最終年度である今年度内に発表することはできなかった。しかし、来年度の前半にはある程度まとまった形でフランス語で発表する論考に本研究の成果を示すことにしており、現在、フランス語の校閲と校正の過程にある。
著者
平井 正志 久保 中央 寺林 敏 松元 哲 鈴木 徹
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

アブラナ科野菜の根こぶ病は病原菌(Plasmodiophora brassicae)が長年土壌中に生存し、野菜産地が壊滅的な打撃を受けるほど重要な問題である。抵抗性ハクサイ品種はいくつか発表され、利用されているが、近年これら抵抗性品種の罹病化が問題になっており、新たな抵抗性品種育成のために、抵抗性の遺伝解析が望まれている。本研究ではBrassica rapaにおける、根こぶ病抵抗性遺伝子座の比較解析を行った。ヨーロッパ原産カブSilogaに由来する抵抗性遺伝子座Crr1及びCrr2を同定した。またMilan Whiteに由来する抵抗性遺伝子座Crr3を同定し、これらが互いに独立した座であることを明らかにした。さらにGelria Rに由来する抵抗性遺伝子座を解析した。その結果、最近韓国のグループより発表された抵抗性遺伝子座、CRbとほぼ同一の座であることが明らかになった。以上より少なくとも4座の根こぶ病抵抗性遺伝子座がB.rapaにあることが明らかになった。またマイクロサテライトマーカーに基づいたBrassica rapaの詳細な連鎖地図を作製し、シロイヌナズナゲノムとのシンテニーを明らかにした。それによるとCrr1,Crr2およびCRb座の近傍はシロイヌナズナ第4染色体長腕部と相同性のある部分であり、これらの3つの抵抗性遺伝子座が祖先ゲノムの同一部分に由来するものであることが明らかになった。しかし、Crr3座近傍はシロイヌナズナ第3染色体と相同性があり、他の抵抗性遺伝子座と由来を異にすることが明らかになった。Crr3座近傍を詳しくマッピングするためにシロイヌナズナのゲノム情報をもとにBrassica rapaで利用できるDNAマーカーを多数作成した。これらのマーカーを用いてF2集団(n=800)からCrr3近傍で組み換えを起こしている約80個体を選抜し、マーカーのみによるマッピングを行った。またCrr1付近についても詳細なマッピングを行った
著者
米田 剛
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

Babin-Mahalov-Nicolaenkoは1997年に「初期値が周期関数におけるNavier-Stokes方程式の時間大域解の存在」を示した.この問題に対して著者は初期値が概周期関数の場合の大域解の存在,より具体的には任意の時間区間内における滑らかな解の一意存在を示した.コリオリカとは地球の自転によって引き起こされる力のことをいい,台風などの発生原理を追求する際にはこの力は無視できない.現在,気象変動などの地球規模の流体を解析するときには,コリオリカ付きの流体方程式を扱うのが主流である.最近はコンピュータを用いたシミュレーションによる気象変動などの研究が盛んにおこなわれており,工学的な技術としても重要な方程式である.コリオリカ付きNavier-Stokes程式の非線形項は,周波数集合の相互作用を分析することでコリオリカに依存する部分と依存しない部分に分けることが出来る.Babin-Mahalov-Nicolaenkoで行われているこの分解法に対して,私は2進数に基づく作用素族を導入して計算がより見やすくなるようにした.コリオリカに依存する部分を取り除いた非線形項をもつ方程式は2次元的なので,ここではextended2D-NSという(E2DNS).その方程式の解はコリオリカに依存しない.このE2DNSが滑らかな大域解を持つということを示すのが,証明の鍵となる.そこでGiga-Inui-Mahalov-Matsuiが2005年に初めてNavier-Stokes方程式へと応用したFMO空間を使った.FMO空間とは,原点に点質量(デルタ測度)を持だない有限ラドン測度のフーリエ逆変換像全体である.私はそのFMO加空間上のmild solutionを使ってE2DNSの大域解の存在を導いた.
著者
覧具 博義 合田 正毅 新田 英雄 三沢 和彦 箕田 弘喜 平島 由美子
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

初中等から大学にわたる20名ほどの教員からなる研究グループで,「物理教育の研究」についての調査と検討を進めた。調査研究を進める上での主要なリファレンスとしてE. F. Redishの著書"Physics Education with the Physics Suite"を選択した。特に注目したのは,認知科学などの急速に発展している関連領域の成果も取り入れながら,「物理教育」を科学的な研究の対象としてとらえるそのアプローチで,教育の改善や改革の方向をカンや信念からではなく,科学的な裏付けをもとに導き出すものである。この「物理教育の研究」は初中等から大学にわたる様々な段階の物理教育に関わる教員達が交流し議論する上で共通の視点と言語を提供し,この研究課題が目的とした教員連携の形成に非常に有効であった。特に,active-learningや,学習者自身の活動をうながす実習教材,CADAA(computer-assisted data acquisition and analysis)などの日本の教育現場への導入について検討し,その有効性を,複数の高校および小学校の授業場面で試行により検証した。小学校から大学にわたる広いスペクトルにわたる教員がこれらの試行を見学しその内容について討議に参加した。さらに,京都・和歌山地域で物理教育研究を続けているアドバンシング物理研究会メンバーや,認知心理学をベースにした教育学の研究を推進している東京大学大学院の市川伸一教授を講演会(2007年12月に開催)に招聘して交流した。現実の教育現場での状況は多様な側面を持っており,著作や講演による紹介だけではうかがいきれないところが多々ある。そこで,研究グループの中から2名が2007年10月に米国出張を行い,メリーランド大学のRedish教授およびディケンソン・カレッジのLaws教授を訪問して,物理教育の世界的な指導者である彼らが開発し実施している物理授業を複数日にわたって実地に見学し、その調査結果を2008年春物理学会春季講演会等で発表した。
著者
山中 大学 荻野 慎也 森 修一 はしもと じょーじ 岩山 隆寛
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシア「海大陸」域における観測的研究から,既知の海陸風など局地的な循環とも全球規模の大気潮汐とも異なる1000kmスケールの大規模な組織的日変化を見出した.類似のものは,チベット・ヒマラヤ域や北米大陸上にもほぼ同時に見つかっている.また,地球型惑星(金星・地球・火星)における日変化の出現の様相は様々である.このような大気中の日周期変動の形成メカニズムを大気力学・雲物理学の一般理論に基いて検討・解明するとともに,季節内・季節(年周期)・経年変動に及ぼす影響や,一般に地球型惑星大気の振舞を決めるにおいて自転や公転などが果たす役割を考えるため,観測データ解析と理論・モデリングの双方から研究を進めた.海大陸域においては,これまでの海陸風理論で取り扱われた晴天日あるいは乾季におけるものよりもむしろ顕著な,雨季における日変化について新たな仮説が得られた.日変化により午後〜夜間に発生する活発な対流性降水雲と降水により,翌朝までに大気はリセットされ(熱的不安定成層は解消して大気透明度も上がり),翌日正午前に最大限の(太陽定数に近い)日射陸面加熱が直後の午後に再び活発な対流雲を発生させる.日変化の生じ方の季節内・季節・経年変動に伴う差異,数1000kmにわたる組織的な日周期強制や領域により異なる日周期の強制があるときの全球大気のレスポンス,海大陸域とその東西の大洋(太平洋・印度洋)上とでの日変化の違いによる季節内変動の励起や変質・減衰,さらに他の地球型惑星(金星・火星)まで含めた日射不均一が起こす大気運動(水平対流)の一般論とその物質輸送や気候維持・変動への意義,太陽系内には存在しないが他の惑星系でなら存在する可能性があるようなケース,などについても考察を行なった.
著者
小河 勉
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

工業用磁気センサーとして用いられている磁気インピーダンス(MI)センサーを、地磁気測定用高感度ベクトル磁力計へ応用すべくその開発を試みた。思索した磁力計から得られた結果は、地磁気の主磁場に対しては感度を持った出力が得られたものの、日変化や地磁気擾乱などの微小な地磁気変化の検出には至らなかった。ただしMIセンサーの地磁気測定用磁力計への活用方法にはなおも追求すべき課題が複数存在することが具体的に判明した。
著者
永田 憲史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

財産的制裁をどのような場面で利用していくべきか、どのように使い分けていくべきかを明らかにする一助とするため、個々の財産的制裁の目的について探究を行なった。第一に、アメリカ合衆国の被害弁償命令に関する立法、判例、運用及び改革提案について、前年度に引き続いて研究を行ない、犯罪者が惹起した結果を犯罪者に認識させつつ、損害の回復を行なう目的を有していることを確認した。第二に、アメリカ合衆国で利用が拡大している、刑事司法で生じる費用・手数料の犯罪者への賦課に関する立法、判例、運用及び今後の動向について研究を行ない、犯罪により生じる負担を犯罪者に認識させつつ、国庫収入の増大を図る目的が存在することを考察した。第三に、没収に関するアメリカ合衆国及びドイツの立法、判例、運用及び議論を参考にすることにより、(1)財産に関連する場面では、犯罪収益を剥奪する目的があること、(2)犯罪収益を罰金により剥奪することもあり、没収と罰金の境界線がしばしば不明確であることを確認した。第四に、罰金刑に関するアメリカ合衆国及びドイツの立法、判例、運用及び議論について研究を行ない、その日的が多岐にわたり、それゆえ、罰金額の量定の理由が分かり難くなっていることを確認した。以上から、犯罪により被害者に直接生じる被害を被害弁償命令で、刑事司法に及ぼされる負担を費用・手数料で、犯罪収益を没収でそれぞれ取り扱うこととし、それ以外の要素、すなわち犯罪態様や法秩序の侵害などだけを罰金で取り扱うことにより、どのような負担を誰に与えたのかを犯罪者にも被害者にも一般国民にも明確にすることができ、有用であると考えるに至った。
著者
城下 裕二 岡田 久美子
出版者
札幌学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究においては、近年刑事司法におけるパラダイム転換を図る理論として注目されている「回復的司法」(修復的司法)モデルの、わが国での可能性について検討した。もっとも、「応報的司法」モデルが支配的である(と解される)わが国の現況を前提とするならば、「回復的司法」モデル急な導入は、却ってこのモデルを「変質」させるおそれも危惧される。その意味で、現行司法制度の枠組みを維持しつつ、「回復的司法モデル」の段階的に導入する方向が考慮に値するように思われる。「回復的司法」モデルの内容自体、多岐にわたるものであるが、特に注目すべき点は、犯罪への対応の中心に「被害者」を位置づけようとしたことにあるといってよい。そこで、本研究では、被害者との関係修復という要因を、刑事司法過程においていかに捉えていくべきかを検討することとし、その主眼は、「量的段階」におくこととした。同モデルをめぐる議論の焦点の1つは、「刑罰の意義・目的」との関係であり、それが最も先鋭化した形で現れるのが量刑段階であると解されるからである。量刑においてこの問題を検討する際に重要となるのは、刑種・刑量の決定に際して「被害者関係的事情」をどこまで、どのように考慮していくかである。本研究では、すでに実体刑法理論との関係で、従来の量刑基準に「被害感情の充足」を代置し、あるいは付加することには多くの疑問があることが明らかにされた。また、処断形成過程における減免事由、特に中止未遂規定の本質に「被害者関係的」な要因を見出そうとする(わが国およびドイツで主張されている)見解にも問題があることが判明した。もとより、現行の刑法体系と「訣別」して、量刑においても「被害者関係的事情」を全面的に考慮することが、将にわたって否定されるものではない。しかし、同モデルの実証研究が十分ではなく、内容自体も論者による多様性が認められる現時点においては、慎重な対応が求められよう。
著者
石井 和之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、光機能性錯体フタロシアニン(Pc)の示す大きな電子吸収・発光・磁気円偏光二色性(MCD)に着目し、(1)シリカ微粒子へPc 錯体を担持した有機-無機複合微粒子の科学の開拓と(2)無機磁性材料へPc 錯体を担持した有機-無機複合型磁性材料における新規磁気光学物性の発現を目的とする。本研究の成果は以下の通りである。
著者
佐藤 亮一 篠木 れい子
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

この調査研究は、これまで断片的にしか分かっていない東京語アクセントの古層について詳細な調査・分析を行い、標準語アクセントの基盤としての東京語アクセントの成立のプロセスを明らかにすることを目的とする。まず、代表的な数地点を選定し、高年層を対象に数千語についてアクセント調査を行い、東京の多摩地域を含む関東各地には、東京で滅びてしまった、あるいは消えかけている古いアクセント型を有する単語がどの程度残存しているのか、また、都区内に見られない独特の型をもつ単語がどの程度存在するかを明らかにする。具体的には、柴田武監修、馬瀬良雄・佐藤亮一編『東京語アクセント資料』(1985)で明らかにされている、都区内でアクセント型の世代差の認められる数千語の中から日常的に多用する語、および、都区内と異なるアクセント型の予想される語を抜き出し、さらに、上記以外の単語の中から東京周辺地域に独特の型の存在が予想される語を加え、これらの調査語彙について、群馬県藤岡市、埼玉県秩父市、東京都あきるの市において、高年層および若年層を対象として調査を実施した。調査結果を録音したテープは聴取・記号化し、その一部をコンピュータに入力した。最終年度には、これらの調査結果を整理・分析し、研究成果報告書を作成した。報告書の内容は、これまでの調査結果を、「資料1」(『東京語アクセント資料』の中から選んだ語)および「資料2」(その他東京アクセントの古層を反映していると予想される語、ならびに東京アクセントとは異なるアクセント型の予想される語)として記載し、さらに東京周辺地域のアクセントの古態性について考察を加えたものである。