著者
鳥丸 猛
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

近年顕著に認められる急激な気候変動によって樹木個体群の死亡と加入パターンの間の不均衡(すなわち、非平衡状態)の程度は増大している。この現象により、これまで集団遺伝学が仮定してきた動的平衡にある個体群動態に基づく理論モデルでは樹木集団内の遺伝子動態を十分に予測できない可能性が考えられる。したがって、今後も急激な気候変動に曝されることが予想される森林群集の遺伝資源の保全のためには、自然現象の変動性を組み込んだより現実的な集団遺伝学モデルに基づく遺伝子動態の予測(すなわち、判断基準の提供)が課題となっている。本研究では、台風による撹乱を受けてきた鳥取県大山ブナ老齢林の森林群集を対象に個体群統計学的調査と遺伝分析から収集されるデータおよび気象データを用いて、非平衡状態にある個体群動態を基礎にした樹木集団の遺伝的構造の形成過程(遺伝子動態)を記述する集団遺伝学モデルを開発し、台風撹乱体制が森林群集の遺伝的多様性に及ぼす影響を予測する。本年度は、既設の固定調査区(面積4ha)内で0.5haサブプロットを設定し、ブナ林の主要構成樹種であるコミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹(樹高30cm以上、胸高直径5cm未満の幹)の毎木調査を行った。その結果、サブプロット内には、コミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹の幹密度(haあたり)は、それぞれ648本、1548本、3420本であった。また、マイクロサテライト遺伝マーカーによって遺伝子型を決定するために、毎木された稚樹から葉を採取した。以上のように、本年度は、個体群統計学と遺伝分析を実施するための研究基盤を確立した。
著者
羅 京佳 佐々木 亘 佐々木 亘 羅 京佳
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、高解像度大気海洋結合モデルの長期積分(25年)の結果の解析、および、ハインドキャスト実験による熱帯低気圧の予測可能性について検討を行った。まず、熱帯低気圧の発生に適した環境場が高解像度モデルで適切に再現されているかについて長期積分の結果と再解析データと比較を行った。その結果、海面水温、大気下層の相対渦度、大気の鉛直シア、大気中層の相対湿度は再解析データと同様の空間パターンを持つことが分かった。熱帯大西洋の海面水温の東西勾配のバイアスはやや改善されたが、大西洋東部の海面水温は依然高い。したがって、モデルの水平解像度を高くすることによって熱帯大西洋の海面水温バイアスはある程度解消されるが、さらに物理スキームの改善等の必要性が示唆された。次に高解像度結合モデルで発生した熱帯低気圧を抽出し、その発生頻度の時空間パターンと強度について観測値および低解像度結合モデルの結果と比較を行った。低解像度モデルは熱帯低気圧の発生頻度を特に北半球で過小評価する傾向が見られたが、高解像度モデルでは観測値に近い発生頻度が得られた。北インド洋ではモンスーン期の前後で熱帯低気圧が発生する傾向があるが、高解像度モデルはこの傾向を再現することができた。一方、西部北太平洋の熱帯低気圧発生頻度はピークシーズンでやや過小評価であった。次にハインドキャスト実験の結果を解析した。計算機資源の制約により、2004年の1年間についてモデルの海面水温を観測の海面水温に近づけながら積分を行った。2004年は西太平洋において32個の熱帯低気圧が発生したが、ハインドキャスト実験では29個の熱帯低気圧が発生した。モデルは観測に比較してやや過小評価の傾向があることを考慮するとモデルはよく再現していると言える。この結果は熱帯低気圧の季節予測に関して、発生頻度の予測が期待できることを示唆している。しかしながら、モデル熱帯低気圧発生位置は観測よりも北でずれる傾向が見られた。
著者
久保田 康裕 辻 瑞樹 唐沢 重考 榎木 勉 島谷 健一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

地球温暖化に伴う生態系の応答を評価することは、地球環境科学の大きな研究テーマである。私達の研究グループは、過去10年間にわたる島嶼生態系の維持機構に関する基礎研究を行う過程で、生態系が最近の大型台風で壊滅的に撹乱され、そのインパクトが島嶼生態系の自律的な修復能力を凌駕している可能性を認識するようになった。本研究は、台風撹乱が島嶼亜熱帯林の生物多様性と機能に及ぼす影響を定量化することを目的とし、温暖化に伴う台風の巨大化や頻度変化によって島嶼生態系が転移するリスク及びそのシナリオを予測した。具体的な研究成果は以下の通り:1)台風攪乱の強度や頻度の変化は亜熱帯林の優占種の交代を促して群集の機能的構造を改変し、生産量・物質循環過程のような生態系機能に影響を及ぼす可能性がある;2)台風攪乱による森林構造の改変は、森林性の野生生物(大径木に依存した希少な着生植物やマングース等の外来種)の分布に影響を及ぼす可能性がある;3)亜熱帯林の適応的な森林管理(持続的な木材生産と生物多様性の保全)を考える場合、攪乱体制の変化は重要な要素になる。
著者
吉岡 真由美
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

地球の全表面が海で覆われた仮想的な「水惑星」で、台風発生と海面水温(SST)分布の関係を、計算機を用いた数値実験によって明らかにした。東西一様で、赤道で最大で両極へ向けて減少する南北対称なSST分布を持つ水惑星では、台風が発生しなかった。東西一様のままSSTを全体的に上昇させた(温暖化)実験でも、台風は発生しなかった。東西一様な赤道域の一部に暖かいSST領域(+3度の暖水塊)を重ねて与えた実験では、暖水塊の西側低緯度域で台風が発生しやすい環境が形成され、その領域に東へ伝播する強い西風が吹いた時に、赤道をはさんで双子台風が発生した。これは西太平洋でエルニーニョ期に見られる台風発生を説明する。
著者
和田 章義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

台風と海洋の相互作用を海洋大循環モデルに炭素平衡モデルを組み込んだ結合モデルと非静力学大気波浪海洋結合モデルを用いて研究した。数値シミュレーション結果から台風通過時に海面二酸化炭素フラックスが突発的に増加し、酸性化を引き起こすこと、高風速時において風速の増加に伴い抵抗係数が減少すること、クロロフィルaの増加に伴う海面水温変動は、海洋環境場に比べて台風強度に与える影響が小さいことが明らかとなった。
著者
平山 次清 高山 武彦 平川 嘉昭 庄司 るり 上野 道雄 塚田 吉昭 岩下 英嗣 土井 康明
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

海上が荒れた場合はバラストタンクと主翼および尾翼を制御することによって浅く潜航し波浪影響を避けるという新コンセプト船を提案し、その実現可能性について主として流体力学・運動制御工学の観点から実験・数値計算を実施して検討した結果、船長の半分程度まで潜水すれば波浪影響は数%以下に抑制可能であることやウェザールーチングの観点からは10%程度の燃費低減が可能といった結果を得た。
著者
吉野 純一 市村 洋 大杉 功 吉村 晋 米盛 弘信
出版者
サレジオ工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

この研究は、災害時における安否確認方法としてセンサーを用いることを考えた。そのセンサーへ用いる電源に着目し、安定的な電源供給方法を検討した。センサーは、アクティブRFIDタグを用いた。一般にアクティブRFIDタグの電源は、ボタン電池を用いるが、今回は熱電変換素子を用いた温度差発電によって電源供給を行った。温度差発電は、外気温と人肌体温の温度差によって発電するものである。アクティブRFIDタグが、ボタン電池と比較して、同程度に駆動できることが確認できた。
著者
中野 春夫
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は平成9年度から11年度にかけて、ルネサンス文学における魔術主義的想像力の特筆を分析、考察した。本研究はまず英国ルネサンス文学における魔術の扱われ方を考察した。この考察を通じて、「魔術」に潜む秘めやかな欲望、願望、空想を突きとめることができ、その現象を具体的に指摘した。その成果は『エリザベス朝演劇の誕生』(水声社)における「ルネサンス魔術のメタモルフォシス」(平成9年)に発表された。ルネサンス期において通常魔術と呼ばれたもの(自然魔術、星界魔術、天空魔術)は、霊(スピリトゥス、オカルト、プロパティー)という謎の作用力を対象とする点で錬金術と同じである。ところが、錬金術において霊を物質と単一化(現代の用語なら融合)させることが最終目的である一方、その他の魔術のおいては霊を物質の中に貯えるか、支配することが目標となる。護符(タリスマン)や悪魔召還がその典型的な例である。以上の成果は、『逸脱の系譜』(研究社)における「ルネサンス錬金術の想像力」(平成11年)に発表された。ルネサンス魔術は発想の点で現代の応用科学とそう変わりはない。いずれも(電磁力、原子力など)目に見えない作用力を応用しようと試みる点である。一方、違いも大きい。現代であれば物質的な因果関係から理解することを、ルネサンス期には霊的な存在を原因と考えたことである。必然的にルネサンス期の物理学、化学、天文学は空想的な仮説を生み出したこれが同時代の文学にしばしば応用された魔術主義的想像力である。
著者
池田 紘一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

トーマス・マンは自ら『魔の山』を錬金術的と称し、主人公ハンス・カストルプの人間的成長を錬金術的「昇華」と呼んでいる。従来単なる比楡としてさほど真剣には受けとめられなかったこの発言の意義と射程をユングの錬金術心理学との関連において明らかにする。その要点は以下のごとくである。1)ハンス・カストルプは「原質料」としてマダム・ショーシャをはじめとする諸元素ないしは物質との「分離」と「融合」を繰り返しながら「賢者の石」への道を辿る。この「精神」と「肉体」の錬金術的・エロス的結合の試みは失敗に帰する。それは錬金術の場合と同様、ヨーロッパ近代合理主義の批判を意味し、同時にその克服による新たな人間愛の模索を意味する。2)物語のこのプロセスは、マンの「錬金術的物語術」と表裏一体をなしている。マンの語りは、諸元素を密封して火にかけ、昼夜を分かたず繰り返される錬金術の分離・融合の試みに等しい。諸々の偶然的出会いや偶然的出来事から必然の糸(真の結合の可能性)を紡ぎ出すその錬金術的物語技法の特質を明らかにした。3)以上の『魔の山』の特質は、その現代的装いにも拘らず、『ファウスト』と見事に照応している。『ファウスト』もいわば、現世では失敗に帰する錬金術的実験の試みである。マンの『ファウスト』の現代的パロディーの試みは、錬金術心理学的観点を導入してはじめて、より根源的な意味での「まねび」であることが判明する。
著者
福嶌 教隆 長谷川 信弥 浅香 武和 吉田 浩美
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

スペインでは,一般に「スペイン語」と呼ばれている「カスティーリャ語」以外に,カタロニア語,ガリシア語,バスク語などが用いられている。本研究では,これら4つの言語の統語的(文法的)特徴を23項目にわたって記述した一覧を作ってその比較を容易にし,またそれぞれの言語についての論文を発表して,多言語国家の言語使用状況の理解と語学教育に貢献した。
著者
柳井 道夫
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

戦後の衆議院議員選挙(いわゆる中選挙区制の場合)を中心に、新聞の選挙予測報道の仕方と実際の選挙結果とを照合する作業を行なってきた。選挙予測報道には、大きく分けて3種類のものがある。第1は投票率であり、第2は政党別議席獲得数の予測であり、第3は個々の候補者の当落予測である。第1のものは予測報道をすることにあまり異論は出ていない。第2のものは政党から苦情が出、あるいは圧力がかかる。第3のものは候補者の陣営から苦情がでる。第2のものについて言うと、確率論からすればかなりよく当たっている。しかし大きな争点がある時、または特定の政党が非常に多くの議席を獲得しそうな時は、確かに予測報道とは異なる結果がでることがある。(こうした場合、概して新聞社の見出しは獲得議席について控えめな表現がなされる。そして記事の内容とは異なることがある。)この獲得議席数についての予測と実際とが異なってくる理由を分析してみると、中選挙区制のもと、最下位当選者と次点との差が僅かであって、この僅かな差が全国各地の選挙区で生じ、全体として特定政党の獲得議席数予測に、大きなくるいが出てくる。個々の候補者の当落予測も確率論からすれば非常によく当たっている。時に大きな予測違いが出て注目されることがあるが、はずれる場合は、ある候補者が断然トップで当選すると報道され、有権者が安心して投票にいかなかったり、もう一人の他の候補者を当選させようとして、票が他に流れた場合ということが多いようである。こうした選挙予測報道のためのデータは、各新聞社ともかなり科学的に収集しており、そのデータを経験則によって加工する方法を考えており、かなり精度の高い予測がなされている。しかし時に、故意にデータを加工していると思われるものもある。
著者
綿貫 譲治
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

第1年度(平成2年度)には、まず、各種のサーベイ・データの時系列的再分析を行い、有権者の政治関与(政治関心などの心理的関わり)と政治参加(投票参加、選挙運動への参加)の変化を見た。その結果明らかになったことは、女性有権者の政治関与の増大であり、とくに、60歳以上の実年後期と老年グループの女性における政治関与の増加が顕著であることである。さくに、平成元年7月の第15回参議院議員通常では、女性立候補の増加が刺激となり、女性の政治関与も顕著に増加し、中年や実年前期では男女差が消滅し、また、実年後期や老年でも、男女差が縮少したことがはっきり見られた。第2年度(平成3年度)では、衆議院議員公設祕書にたいするアンケート調査を行い、選挙区の変動の筆頭として、女性有権者の活発化が筆頭に挙げられているというデータを得た。現代日本社会における社会構造の変動として、最大のものは、性役割の規定や規範の変化であることが、ここから結論された。現在行われている政治改革論議では、この点への対応が全く欠落しているのである。衆議院議員公設祕書にたいするアンケート調査では、私設祕書を含めた祕書総数推定についてのデータ、公設祕書の職務配分についてのデータなども得ることができ、アメリカ連邦議会の議員のパーソナル・スタッフの職務との比較も行った。平成5年度予算に具体化した「政策祕書」設置についても、それが「政治改革」の一環であるとはいえるとの判断を引出した。「社会構造と政治改革」というテーマでの残された問題は、マス・メディアの発達のインパクトの分析であり、それは今後の課題としたい。
著者
櫻井 良樹
出版者
麗沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究での基礎データとなる、関東地方7府県における、(1)1899年から1939年までに11回行われた府県会議員総選挙データの収集、および(2)1902年から1942年までに15回行われた衆議院総選挙データの収集は、95パーセント程度完了した。残りの5パーセントはデータの基礎となる公文書・新聞などが失われてしまったため、あらたな史料が発見されない限り収集は不可能と思われる。県別に述べると、群馬・埼玉・東京・神奈川については、当落選者の各郡単位ごとの得票数をほとんどを把握することができた。栃木については1904年衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明、千葉は明治時代における県会議員総選挙での落選者データおよび1912年衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明であり、茨城は明治時代の県会議員選者での落選者データおよび6回分の衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明である。各候補者の所属政党についても、異説は存在するが、ほぼつかむことができた。以上の作業は、各県の公文書館や県立図書館での調査によった。データのパソコンへの入力を現在続行中であり、これは収集したデータのほぼ半分まで進んでいる(茨城・栃木・群馬・千葉が完了)。しかし、まだ確認作業などにしばらく手間取ることと思われる。したがってデータを使用した分析については、これからの課題となる。ただし作業の過程で、県単位の分析よりも郡単位の分析が有効と思われること、所属政派については政友派・憲政民政派・第三勢力・中立その他の4カテゴリーに分けて行うのが適当であることに気がついた。また県会議員の所属政派が時代を下るにしたがって明瞭になっていく傾向があることを実感することができた。なお東京について、収集したデータをもとに4月1日に首都圏形成史研究会で報告する予定である。これから数年かけてデータベースの整理と分析を続ける予定である。
著者
坪井 昌人 浮田 信治 半田 利弘
出版者
茨城大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

この科研費による成果は以下のとおりである。1.野辺山45m鏡用40GHz帯偏波計の開発我々はファラデー回転測度が2000-10000rad/m^2以上と大きくこれまでは偏波を測定できなかった銀河系中心領域をミリ波で観測するため野辺山45m鏡用に40GHz帯ミリ波偏波計を開発したが、今年は較正を精密に行った。到達された精度は機械偏波率にして0.5%で、偏波の角度で5゜である。今までは独ボン100m鏡用の32GHz偏波計が最も高周波数高精度であったが我々のものがこれにとってかわった。2.銀河中心電波アークの43GHz全電波強度/偏波観測銀河系中心の電波アーク=偏波ローブ系をふくむ銀緯方向2゜銀経方向0.2゜の領域の観測を解析して世界初の43GHzの偏波マップと高感度な全電波強度マップを得た。電波アーク=偏波ローブ系の磁場の方向は銀河面に垂直であった。また、10GHzの以前の観測で磁場は視線方向に折れ曲がっていることがわかっていたが、この観測よりその原因が電離領域が衝突したためとわかった。また、スペクトル指数がこの周辺ではフラットで、ここから離れるとスティーブになっていくことが観測された。これは電子の加速がこの周辺でおこり他にはドリフトしていくという仮説を強く支持する。OrionIRc2のSiOv=0、J=1-0輝線の高偏波率の発見^<28>SiO(v=O,J=1-0)輝線がメーザーか否かはまだ決着がついていないと考えられるが、われわれはこの^<28>SiO(v=0,J=1-0)の野辺山45m鏡を用いて直線偏波を測定してこの問題にせまった。80%の高偏波率が観測されてこの輝線がメーザーである強力な証拠を得た。また、このような高い偏波率はこのメーザーの発振している領域の磁場が6mGaussよりもはるかに大きいことをしめしている。加えてv=0輝線の偏波角は青方変位側から赤方変位側に移るにしたがい、180゜逆転していることが発見された。
著者
植野 優
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

私は銀河系内宇宙線の起源として殻型の超新星残骸に注目している。シンクロトロンX線が超新星残骸で宇宙線が加速されている証拠となっている。しかし、知られている220個の超新星残骸のうち、10天体程度からしかシンクロトロンX線が受かっていないため、宇宙線加速が超新星残骸で普遍的に行われているかどうかがわかっていない。そこで、本研究ではシンクロトロンX線を示す超新星残骸を新たに発見することで、他の超新星残骸と何が異なるのかを明らかにし、また、シンクロトロンX線を示す超新星残骸が銀河系内に何天体程度存在するのかを推定することを行った。透過力に優れた硬X線による銀河面のサーベイであるASCA銀河面サーベイのデータを詳細に解析したところ、超新星残骸の候補を新たに、10天体発見した。この結果は、初年度や2年度目のG28.6-0.2やG32.45+0.1の発見と合わせると、電波のサーベイで見つからなかったような超新星残骸がまだ銀河面に数多く存在することを示している。さらに、これらの超新星残骸のスペクトルはX線がシンクロトロンである可能性が高いことを示している。つまり、今後のX線サーベイによってシンクロトロンX線を示す超新星残骸が数多く見つかるであろうことが分かった。また、これらの超新星残骸が電波で暗いのは、物質密度の低いところに存在していることを示唆し、そのような超新星残骸からシンクロトロンX線が検出される可能性が高いといえる。これら、超新星残骸の研究と平衡して、X線偏光測定装置を開発している。本年度は読み出し回路の完全2次元化を行った。その結果の性能評価のため、偏光度の高い放射光を用いて実験を行った。ネオンやアルゴンの検出ガスを用い、8keVや15keVのX線に対して偏光測定に成功した。今後は、増幅率の一様性の改善などを行う必要がある。
著者
松本 淳
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の知見や結論として主に4点挙げられる。第1に、選挙における候補者の政策公約について、多くの政党では同じ政党の候補者同士でも各争点に対する主張に概ねばらつきがあり、また二大政党の候補者間にみられる主張の違いの程度が選挙区によって大きく異なっている。よって、候補者の主張は選挙制度改革以降も明確に政党ごとにまとまっておらず、各選挙区での二大政党間の対立は横断的にみれば一様ではなく、政策的には二大政党化が選挙区レベルにまで浸透していないといえる。第2に、多くの選挙区では候補者間で主張の違いがありながらも、それが投票参加に影響していない。先行研究として、有権者は支持候補の当落がもたらす利益の得失差をより大きく認知するほど投票に行くとの議論や、そうした認知上の差がわが国では小さくなっているとの指摘があるが、これらを踏まえれば、候補者の議論が有権者に正確に届かず、認知上の差を生まないことが、上記結果に至る一因と考えられる。第3に、衆議院の委員会でみられる議員の主張は自らの立場を明確に示すものばかりではなく、また委員会採決の際、議員は概ね政党単位で結束して行動するため、選挙では政党内でばらつきのあった主張がこの時点で収斂をみることになる。よって、その是非は別にして、委員会審議では、選挙での候補者の主張や有権者認知の内容とは異なる事態が生じることがある。第4に、有権者が公約を認知する際に誤解が生じていること、また公約に対する有権者の信頼や関心の低下が指摘され、有権者の多数は自らの意思が国の決定に反映されていないと考えている。この背景には、上述の通り、選挙で多くの候補者の主張が曖昧か、政党ごとに収斂していないために有権者にわかりにくく、そもそも必ずしも有権者の関心に即す内容等ではないこと、また議会での上記のような行動や選挙時との主張のギャップが上記有権者意識に影響していると考えられる。
著者
曵地 康史 木場 章範 大西 浩平
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

Ralstonia solanacearumは傷口等の根の開口部から宿主植物に侵入し、まず、細胞間隙にコロニー化する。コロニー化後、細胞間隙で著しい増殖を行う。細胞間隙での増殖の有無が、宿主植物に対する病原性の質的な決定因子であり、この増殖は、hrp遺伝子群にコードされるタイプIII分泌系から菌体外へ分泌するタイプIIIエフェクターを介した宿主植物との侵入直後の相互作用により決定されていた。細胞間隙での増殖が可能となったR.solanacearumは、タイプIIIエフェクターの働きにより宿主植物の遺伝子発現の変化を誘導し、病徴である青枯症状の誘導の有無を決定した。その後、R.solanacearumは、タイプIII分泌系を介して分泌する植物細胞壁分解酵素(CWDE)の働きにより、導管壁を分解し、その結果、導管へ侵入することが可能となった。R.solanacearumは、導管を通じて全身移行し、導管内に病原力因子である菌体外多糖類(EPS)を分泌し、導管閉塞をまねくことで植物の水分通道能を阻害した結果、感染植物は青枯症状を呈すると考えられた。hrp遺伝子群の発現制御タンパク質HrpBによって、CWDEであるPhcBの発現は部分的に正に制御されており、タイプII分泌系とタイプIII分泌系の分泌能は相互に制御しあうことが明らかとなった。さらに、hrp遺伝子群やPhcAなどの一部のCWDEの発現は、EPS合成の正の制御タンパク質であり、クオラムセンシングにより活性化されるPhcAによって、負に制御されていた。これらの結果から、R.solanacearumの病原性に関わる遺伝子は、宿主植物への侵入過程に応じて制御されており、R.solanacearumの増殖を介した一連の制御系に存在することが明らかとなった。
著者
佐藤 幸生 高松 進
出版者
富山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

2002年、神奈川県で、従来とは異なる菌(Oidium属Reticuloidium亜属菌;OR菌)によるキュウリうどんこ病の新発生が確認された(内田・宋、2003)。一方でOR菌による種々の植物のうどんこ病の新発生が相次いで報告されている。本研究は、1)キュウリ上のOR菌の発生実態調査と、2)キュウリと種々の植物上のOR菌との関係などを明らかにすることを目的に実施した。1発生実態:富山県、東京都および秋田県南部、新潟県で調査した結果、いずれの調査地でもOR菌によるうどんこ病が発生し、従来からのOidium属Fibroidium亜属菌(OF菌)によるうどんこ病に劣らず発生が広がっていることから、OR菌によるうどんこ病は、本邦ではすでに広く発生していることが示唆された。従来からのOF菌によると同程度に激発する例も認められ、防除を要することが明らかになった。発生品種は、湧泉、アンコール10、金星、インパクト、南極2号、京涼み、夏涼み、プロジェクトX、シルフィー、金沢太キュウリと節成千両の11品種に及んでいた。2種々の植物でのOR菌によるうどんこ病の新発生:2004年以降、従来とは異なるOR菌によるうどんこ病の新発生は、ヒマワリ、キクイモ、オミナエシ、ジニア、トレニア、スコパリア、カボチャ、カラスウリなど、4科8種の植物で確認した。3種々の植物上のOR菌の宿主範囲および遺伝子解析:トレニア以外のキュウリ、カボチャを含む9種類の植物(ヒマワリ、キクイモ、オミナエシ、ジニア、スコパリア、パンジー、メランポジュウム)上の菌は、いずれもキュウリに病原性を認めたが、キュウリとカボチャ上の菌は、キュウリ以外には病原性を認めなかった。東京都、新潟県、富山県で採集したキュウリ上のOR菌は、遺伝子解析の結果1つのクラスター属し、OR菌のグループ分け(Takamatsuら、2006)におけるIX群に属した。キク科植物上の菌は、III群に属した。パンジー、オミナエシ、トレニア、クジャクアスター上の菌はキュウリ上の菌と同じIX群に属した。
著者
大方 潤一郎 BOONTHARM Davisi
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では平成19年度に以下の4つの活動(成果)があった。1つめとして、文献レビューを実施し、既往文献の整理および要約をおこなった。2つめとして、平成19年6月に原宿において「春期・夏期」調査(フィールドリサーチ)をおこなった。具体的には、建物形態の状況調査(描写およびスケッチ)と来街者の行動観察調査を実施し、さらに東京のまちづくり専門家へのインタビュー調査も並行して実施した。3つめとして、展覧会「Made in Harajuku」を原宿現地にて平成19年6月26日〜7月2日に実施した。当展覧会への来場者とのコミュニケーションを通じて、原宿地区(特に「裏原」地区)についての解釈を深めることができた。4つめは、研究成果の公表である。学術雑誌記事「Shophouse and Thai Urbanism:Towards a software approach」において、バンコクのファッション最先端地である「Siam Square」を対象として、タイの都市様式(アーバニティ)の原理として、既成市街地の物的環境と「shophouse」(東南アジアの都市に存在する商業機能を合わせ持つ「長屋」)とについて論じた。本論ではシンガポールを比較対象とし、shophouseを主として物的環境として考慮しているシンガポールに対して、タイ・アーバニティの中では、よりソフトウェア的な存在として位置づけられている点が明らかとなった。また、書籍「Harajuku Urban Stage-Set Q&A」では、東京のファッション最先端地の1つである原宿は、物的・地理的・社会的複雑さが特徴であり、地区自身が「劇場の舞台装置」にメタファーできると捉えて「Urban Stage-Set」と名付けている。
著者
田沼 幸子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究調査は、キューバ国内外の主に30代のキューバ人男女のインタビュー映像を通じて、グローバルな世界システムと革命、労働と生きることの意義とがどのように絡み合っているのかを普遍的な問題として提示することを目的とする。個人的なインタビュー調査を通じて、世界システムが各人の生を強く規程していると同時に、その制約を越えようとした各人の決断が大きく異なる現在をもたらしたことも示された。本研究を通じて、現実を見据えたうえで可能な理想を実現するために行動することの意義をより多くのオーディエンスに示すことができるようになった。