著者
名木田 恵理子 田中 伸代 板谷 道信 小林 伸行 WATERBURY David H. 小林 香苗
出版者
川崎医療短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

川崎学園内の3大学においてESP(English for Special Purposes)の考え方に基づいて「医学用語(英語)」と「医療英文」のe-learning用教材を自主制作し、学園内サーバを利用してイントラネットで運用した。「医学用語(英語)」コースは、2002年の運用開始から2007年現在まで933名の学生が利用している。「医療英文」コースは、公開から2年を経て114名の利用があった。これらの実践において経年的に集めた学習データの分析から、さらに効果的な運用方法を考案、試行している。主なLMS(学習管理システム)はInternet Navigwareである。「医学用語(英語)」コースについては授業に導入してブレンディッド・ラーニングとした。講義のみの授業形態のときに比べ、学習到達度の向上は明らかであった。また実践していく過程で、意識調査、医学用語の基礎知識テスト、コンピュタリテラシ測定、到達度テストなどを実施し、教材改善に役立てると同時に、e-learning導入においてのデータとして蓄積している。これらの分析結果から学習者特性を考慮に入れて、新たにLMSとしてMoodleを利用したe-learningを構築し、協調学習も導入した。当該科目におけるe-learningの可能性はより広がっている。「医療英文」コースはセルフラーニングとして提供した。「基本単語」、「文法20」、「長文読解」をESPの観点から整えた。音声付教材の「基本単語」は医療に特化しているため、他の語彙学習サイトとリンクさせることによって充実を図った。「文法20」、「長文読解」も素材となる英文はすべて医療系であり、主に4年制大学への編入学を目指す短大学生に利用された。
著者
岡田 則子 土肥 名月 岡田 秀親
出版者
名古屋市立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1。ラットの種特異的補体制御膜因子である5I2抗原を発見し、そのcDNAもクローニングすることができたので、腫瘍細胞膜上への5I2抗原の発現を抑制し、自己(同種)補体の反応を許すようにさせる方法して、5I2抗原の遺伝子を特異的に攻撃するリボザイムの開発を試みた。5I2抗原のcDNAの塩基配列を解析し、ハンマーヘッド型のリボザイムの標的とするのに適当と考えられる塩基配列を探索した。それに基づきリボザイムの合成を行った。5I2抗原cDNAのin vitro transcriptを作り、このリボザイムを作用させたところtranscriptのmRNAを特異的に切断することが確かめられた。2。マウスのDAF (decay accelerating factor)のcDNAもクローニングすることができたので、発現組織についての検討を行ったが、精巣に強い発現が認められた。モルモットのMCP (membrane cofactor protein)のcDNAもクローニングし、その発現組織を検討したが、この場合には、より強い精巣への限局が認められた。一方、マウスの腫瘍細胞を用いて解析するため、マウスの強力な補体制御膜因子であるCnyに対するモノクローナル抗体を用いて腫瘍細胞膜上のCrryの機能をブロックしたときの補体反応性の解析を行った。その結果、Crryをブロックするだけでは不十分で、腫瘍細胞に対するIgM抗体などの反応を起こさせると強い補体反応を起こし、C3の沈着等を起こせることが分かった。3。5I2抗原リボザイムは、in vitroのtranscriptを特異的に切断するので腫瘍細胞の細胞内で作用させて、5I2抗原蛋白の細胞膜への発現をどの程度まで抑制するかを検討中である。
著者
田中 秋広 河野 昌仙
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多体系の低エネルギーの振る舞いを記述する有効作用に「ベリー位相項」が存在すると、統計力学的な平均操作を行う際には配位間の量子位相干渉効果が生じて、新奇な挙動、特に新しい量子臨界現象に導く可能性がある。このシナリオが実現するケースとして、磁場中の反強磁性体の磁化プラトー間転移、トポロジカル絶縁体の量子相転移などについて詳しく調べた。
著者
中村 真由美 三輪 哲 三輪 哲 朝岡 誠 麻生 奈央子 田中 規子 松田 松田
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

法曹と医師のワーク・ライフ・バランスとキャリア形成のジェンダー問格差の状況を明らかにするために複数の調査を実施した。法曹に対しては、日本女性法律家協会と日本弁護士連合会からのご協力をいただき、男女法曹を対象とした郵送質問紙調査を実施し(回収率30%、回収数1874票)、計量的分析を行った。医師に対しては、複数の大学関係者にご協力をいただき、インタビュー調査(および、パイロット的な位置づけの小規模な質問紙調査)を実施し、質的分析を中心に行った。分析結果は、冊子体の成果報告書(『医療・法曹職女性の研究』)として出版されている。本報告書には、7つの論文が収められているが、そのうち6つの論文で、法曹に対する調査結果の計量的分析を行い、男女法曹のキャリア形成と家庭役割におけるジェンダー間格差について様々な角度から検証した。また、1つの論文では、医師に対するインタビュー調査の結果に某づき、女性医師のキャリア形成と家庭役割の状況について質的分析を行っている。法曹(主に弁護士)に関しては、キャリア移動パターン、入職経路と地位達成、専門分野選択、育児休業やその他支援策と出産経験、辞めたくなった経験と性差別体験、家事時間の規定要因などの多くの側面から、法曹がおかれている状況やジェンダー問格差の現況を明らかにした。法曹(弁護士)のジェンダー間格差については、以下のことが明らかになった。(1) 入職経路と地位達成の関係では、学校関係のネットワークによる入職が男性には有利に働くのに女性には有利に働かないこと、しかし、親や配偶者等の血縁を通じて入職した女性は例外的に有利な状況にあること(2) 専門分野では、女性は個人を対象とした、所得の比較的低い領域(親族問題など)に集まる傾向が、男性は企業を対象とした、所得の比較的高い領域(会社法など)に集まる傾向があるが、渉外や工業所有権という一部の企業関連領域では女性が多いこと、(3) 辞めたくなった経験では、女性弁護士の方が男性弁護士よりはるかに多く、それは業務内容や仕事の配分における性差別が関係していること、(4) 家事・育児については、男性弁護士より、女性弁護士の負担がはるかに大きく、男性弁護士の家事時間は、年齢や収入といった要因の影響をほとんど受けていないのに対し、女性弁護士の場合は、未既婚の別、子供の有無や人数など、ライフスタイルや家庭環境によって、家事時間の割合が変化することなどがわかった。また、事務所に育児支援策があることが、女性弁護士の出産にプラスに働く可能性があることや、女性の法曹三者のキャリア移動パターンは、弁護と検事・判事で大きく異なること等も明らかになった。医師に関しては、女性医師の専門分野や働き方を偏らせるのは、女性医師本人の性役割観による選好や、卜司・患者の偏見からの差別からというよりは、誘因の差異あるいは構造的・制度的要因が幸な原因となっている可能性が高く、適切な制度設計で問題は改善可能であることがわかった。なお、法曹と医師の計量比較分析に関しては、21年度以降に医師についての質問紙調査を実施予定であり、その結果とあわせて、比較計量分析を行っていく予定である。
著者
和田 修 喜多 隆
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

光通信の大容量化の要求に伴って100Gb/s超の超高速化が必要となってくるものと考えられる。この際に光信号再生機能(増幅+波形整形2R,時間同期も含めた3R)は極めて重要となるが、簡単かつ実用的なものはまだ実現されてない。本研究では、我々独自の原子層制御量子ドットにより、単一の素子で超高速光信号再生機能を有する垂直構造光信号再生デバイスを目指して、研究を行った。本年度は、量子ドット成長法に関しては、単一ドットの透過電子顕微鏡測定(HAADF-STEM測定)を行って量子ドット構成原子構造の正確な観測に初めて成功し、ドット形状制御における多元パラメータ制御の重要性が確かめられた。また、量子ドットの光学的特性に関しては、多層化量子ドット構造における量子ドット間の電子状態の結合効果を発光特性測定によって検討し、スペーサ層の厚さ(10〜40nm)の制御によって発光波長、強度、減衰時間など光学特性制御が可能であることを明らかにした。さらに、半導体多層膜反射鏡構造と量子ドットを集積化した基礎的な光変調デバイス構造を作製して光学特性を評価して基本的な反射特性を確かめ、この構造が変調特性等の高度な特性の評価に適用可能であることが分った。これらの結果を総合的に考慮し、我々独自の多元制御量子ドットが面型光信号処理デバイスに適用できるものと考える。
著者
陶安 あんど
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、出土簡牘資料によって齎された秦代と漢代初期の二つの司法文書集成を整理・分析し且つ通常の行政文書と比較研究することを通じて、行政文書の書式、行政的な「裁き」の構造、文書行政による労働負担と資源の配分原理、及び文書集成による法的知の形成と伝承の解明に努めた。中国で中国籍以外の研究者が出土資料の整理を担当するのが史上初めての試みで、日本の法制史研究及び簡牘研究の成果を国際的に発信し、日中学術交流にも画期的な貢献をした。
著者
須永 修通
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

学校施設の環境配慮型転換を進めるには,環境配慮型施設としての目標値を設けること,また,その目標値を達成するような新たな設計基準・指針を策定することが必要である。本研究の目的は,その第一段階として,実態や効果が皆目不明なエコスクールモデル事業認定校の実態を把握し,エコスクール化のための各手法の効果や問題点を明らかにすることである。そこで,本研究では,省エネルギー型のエコスクール認定校を中心に,アンケート調査と実測調査を行い,建物の特徴やエネルギー消費量,夏期の室内環境を気候区分ごとに検討した。平成18年度までのエコスクール認定校609校のうち省エネルギー型を中心に246校にアンケート調査を行い,147校分のデータを得て解析した。また,全国の主要都市で実測調査も行った。以下に得られた知見の一部を示す。1)省エネ手法には,太陽光発電,省エネ型設備,雨水利用などが全地域において数多く採用されているが,エコスクール認定校であるにもかかわらず,校舎に断熱の無い学校が約2割あり,窓は一重ガラス,アルミサッシの学校がほとんどを占め,断熱性の向上が大きな課題であることが示された。2)エコスクールの方が一般小学校よりも,エネルギー消費が多い傾向がみられた。IV地域では,エコスクール27校の平均が540MJ/m^2,一般校3校の平均は390MJ/m^2であった。この原因として,一般校の施設水準が低いままであること,また,エコスクールはオープンスペース型であることから校舎の奥行きが深くなり照明などの設備が増加することなどが原因と考えられた。3)夏季の教室は35℃程度にもなるが,下校時に窓を閉め切ることが教室温度の高温安定を助長していることが明らかになった。また,暑さ削減対策として行われている植栽による日射遮蔽,夜間通風は効果のあることが示された。
著者
高嶺 豊 KHAN Imran Ahmed BALARAJU Kasupa DAS D.K.Lal REDDY Sudhakara MURTHY Krishina PRATAP Kumar Raja
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

南インドのアンドラプラデッシ州における障害者の自助グループとその連合体の構築の取り組みが、開発途上国の農村部における障害者のエンパワメントと貧困削減に効果的であることが検証された。この取り組みは、さらなる研究が必要であるが、今後、この取り組みが、他の開発途上国においても障害者の貧困削減のための重要な解決策となることが期待される。
著者
佐藤 哲彦
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、我が国における犯人特定技術、すなわち捜査技術の近代化過程において、どのような技術が適用されてきたのか、それによってどのようなことが行われてきたのかということを、実際の資料に即して、批判的アプローチの観点から検討することにある。昨年度に引き続き本年度も、主として明治・大正・昭和初期の捜査技術資料、捜査関係者の手記などを収集、またこれらに加えて特に捜査技術の基礎を構成した医学的・心理学的文献を収集、これらをディスコースの観点から分析した。それによると、まず当初の予測通り、捜査技術の近代化-それは一面では捜査技術の西洋化あるいはその輸入ともいえるものであるが-において、医学的・心理学的知識が重要な役割を果たしているということが挙げられる。それはたとえば、「性」という考え方の周辺に捜査対象者を位置づけようという努力に結実する。しかしながら昨年度の研究で示唆されたように、それは単なる技術の輸入あるいは翻訳ではない。それはむしろ、近代化(西洋化)に伴う社会変動と同調し、その表出として位置づけられる一方で(輸入・翻訳の側面)、過度な社会変動を抑制すべく配置された統治技術の一端として位置づけられるものである(統治性の側面)。この場合、過度な社会変動とは、常識カテゴリーの混乱を含意する。たとえば、放火や殺人において、犯罪者の語りは、いずれにしても、捜査員の語りの間接話法として位置づけられるべく捜査上の仮説が提起される。このような仮説は、捜査上合理的とされる価値に基づいて編成される。すなわち、「認知上の平常な価値」(H・ガーフィンケル)による合理性である。したがって、近代的捜査技術は、その「価値」に見合う形で西洋の科学的知識を目的論的に摂取したものと位置づけられる。すなわち、近代的捜査技術は従来の秩序の輪郭を自己言及的に再生産するための技術として位置づけられるのである。
著者
黒澤 香
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.英国および米国を視察し、両国における目撃者による人物同一性確認手続きについて、最新の情報を入手し、帰国後にそれを学会や研究会などで発表した。とくに、英国におけるビデオを用いた確認手続きについて、手続きが行われるところを傍聴し、その利点や問題点などを担当者から聞いた。そして弁護士からも、この手続きに関する意見や感想を聞き取りした。また従来の、実物による同一性確認手続きについても視察した。さらに、米国においては、独自のガイドラインを導入したニュージャージー州の司法省を訪問して担当者と面談し、この改革についての解説と、経過やその後の進展について、聞き取りを実施した。カリフォルニア州における、写真を用いた同一性確認手続きについても、作成の実際を見学し、地方検察庁の担当検事から意見を聴取した。2.ビデオを用いた確認手続きを実施するための、基礎的研究を実施した。具体的には、画像の形態を検討し、映像となる対象者の動きを決定した。また、服装の影響をなくすため、同一の衣装などを検討し、対策を決定した。以上の準備をふまえて、200人弱のビデオ画像を収録した。この作業に際して、どのような形で映像対象者の同意を得るかを検討し、研究者の誓約書と協力対象者の同意書の様式を決定し、十分な同意手続きを実施した。収録された画像については、今後に継続される研究において、ビデオ確認手続きの構築のため、活用される。具体的には、記録保存されている画像をデータベース化して、キーワードを用いて検索するシステムを構築するための研究が継続される。3.以上の研究をもとに、法と心理学会における目撃供述ガイドライン案作成に参画し、とくに人物同一性確認手続きに関する部分の主要部を担当執筆した。
著者
山口 直也
出版者
山梨学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、普遍的に採択されて国際人権基準として重要な意味を持っている「国連子どもの権利条約」(=子どもの人権論)の観点から少年司法手続におけるデュー・プロセスの保障を明らかにした。まず、デュー・プロセスの保障を検討する前提作業として、子どもの人権が、憲法上および国際人権法上、どのような意味を有しているのかを分析した。その結果、子どもは大人とは違って精神的にも肉体的にも成長発達の途上にあるということは誰もが認める疑いのない事実であり、その子どもが、人間として、個人として尊重されるということを当然の前提として、子どもが未成熟な子どもとして尊重され、成長発達していく権利(=子どもの成長発達権)を固有に保障されていることを明らかにした。そのうえで、そのような子どもの成長発達権を根拠にした少年司法におけるデュー・プロセスの保障の目的は、権利条約が成立した今日的状況に鑑みると、人間としてかつ子どもとしての尊厳を認める形で扱われることで、自己の人間としての成長を成し遂げて、将来、社会の中で建設的な役割を担うことができるようにすることにある。そしてその方式は、あらゆる段階での子どもの主体的な手続参加を確保して、自由に意見を述べることができる環境を提供すると同時に、流山最高裁決定で団藤補足意見が指摘したように、子ども自身が手続に参加したことで納得できるものでなければならないということを明らかにした。最終的に本研究では、子どもの成長発達権の観点から見た少年司法手続における適正手続の保障が重要であると結論づけている。特に、少年が、自分のために援助をしてくれる弁護人(=付添人)および親・保護者との健全な人間関係(=成長発達権を否定しない人間関係)の中においてこそ、少年自らの司法手続参加および意見表明が可能になると主張した。そしてその手続参加(=意見表明)は、権利保障および権利放棄における自己決定を認める「小さな大人」論を認めるものではなく、関係論的子どもの成長発達権に支えられたものであることを明らかにした。
著者
森際 康友
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究の目的は、法科大学院における授業科目としての「法曹倫理」を支える理論的な基盤を打ち固めることにあった。法曹養成機関における法曹倫理教育についてのイギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・中国などの取り組みを調査し、それぞれの特徴をその背景にある歴史と法理論との関係で明確にした。すなわち、立法府中心の法体制と思想によって運営されているフランスと司法府を重視したアメリカとを両極におき、ドイツ、イギリスなどをその中間に属するものと位置づけ、司法府を担う法曹に要請されるエートスとその実現を促進・担保する諸制度を取り上げ、それらを運用するためのいわばソフトウェアとして、そこでの倫理規定や原理を解釈した。研究期間の3年で上記5カ国とわが国の法曹倫理教育の現状把握を行った。とくに、司法府の役割が国際的にますます注目されつつ現在、公的イデオロギーとは別に、法曹倫理教育現場では実質的にどのようなエートスが法曹に要請されているかを、日本に焦点を当てつつ見極めるよう努めた。ここ得られた成果を、実践面そして理論の面で活用した。まず実践面では、法科大学院におけるカリキュラム策定作業の中で成果を活かした。配当年次の決定について、各国の比較を行うことなどにより長短を検討し、名古屋大学法科大学院では第三年次後期とした。第2に、私が主催する、地域の法科大学院での法曹倫理担当者および法曹倫理に関心を持つ実務家・研究者からなる愛知法曹倫理研究会での研究活動を軸にして、わが国法科大学院における標準的法曹倫理教育のモデル教育内容を提示すべく、教科書編纂に励んだ。その成果は、名古屋大学出版会より『法曹の倫理』として近刊の予定である。また、法科大学院における法曹倫理の教育方法の開発にも力を注ぎ、その成果は、16年12月、「法曹倫理教育の理念と課題」シンポジウムにおいて発表した。その理念として、実務の場で尊敬を呼ぶ法曹像の確立とその教育的実現、その課題として、理論的基礎の充実、国際的視野の確立、そして現場の葛藤が伝わる教育手法の開発、が提起された。また、実務家と研究者の協働がなければ、法曹倫理学の樹立とそれに基づく教育方法の確立は困難であることが強調され、地域およびインターネットを利用した全国的ネットワークの確立の必要性が浮彫となった。理論面では、弁護士倫理について、多面的な考察ができ、その成果は教科書に盛り込まれた。また、裁判官倫理研究の面で大きな進展があった。同じ16年12月、ドイツの裁判官アカデミーでの講演が好意的に受け入れられた。法曹倫理の要は、よい法解釈が提供できる法曹が持続的に社会に供給されること、という観点からドイツの法曹史と日本のそれとの比較などを行い、「法の欠缺は存在しない、あるのは法律の欠缺だけである」とのテーゼを展開したものである。こういった研究成果のわが国への還元に取り組みたい。
著者
赤池 紀生 賀数 康弘 鍋倉 淳一 ANDRESEN Michaelc 李 禎そぶ ANDRESSE M.C 野田 百美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

延髄孤束核(NTS)において,染色された上行性大動脈弓由来降圧神経(ADN)は孤束を介してmedial NTSの樹状突起と細胞体に投射していた.ADNからの入力を受ける細胞は,ADNから単シナプス性入力を受けない細胞よりもカイニン酸応答が約2倍に増強していた.また,ADNからの神経伝達物質はグルタミン酸であり,後シナプスNTS細胞におけるグルタミン酸受容体はnon-NMDA受容体であった.また,後根神経節などの感覚器受容細胞にはVR-1(バニロイド配糖体)受容体が高密度に発現しているが,ADN神経終末にもVR-1受容体が存在しグルタミン酸放出が増強することが明らかとなった.しかしVR-1受容体のアゴニストのカブサイシン頻回投与ではむしろグルタミン酸放出量が減少したことから,後シナプスNTSニューロン上のnon-NMDA受容体が脱感作するか,もしくはグルタミン酸放出が枯渇する可能性が考えられた.さらに,VR-1受容体が高密度に発現している部位にはATP受容体の一つであるP2X3受容体が共存していることが1997年にCaterinaらによってNature誌に報告されており,medial NTSより得たシナプスブートン標本においても,P2X1,3,2/3受容体アゴニストのαβ-met ATPならびにカプサイシンともに,後シナプス細胞に影響することなくグルタミン酸の放出のみを増強した.以上の結果から,VR-1受容体とP2X受容体はグルタミン酸作動性興奮性神経終末部に共存してグルタミン酸の放出を促進し,その結果NTSニューロンの興奮を惹起して降圧効果を示すことが初めて明らかとなった.
著者
石井 慶造 松山 成男 山崎 浩道
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、超微量元素分析法であるPIXE法を教材にした理科教育、および「裁判形式」を通した理科教育を検討した。IT理科教育を目指して、これらの研究成果に基づいたホームページを作成し、公開した。中・高校生に対して以下の教育効果が得られた。平成14年7月30日、31日に開催された「東北大学工学部オープンキャンパス」に参加した中・高生および一般人を対象に、PIXE公開実験を行なった(参加者総数は39名)。実験後アンケートを採り、放射線の利用については約50%は不安を感じていたが、PIXE分析公開実験に参加した後は、70%が「放射線は役立つのでその利用をもっと進めるべきだ」の意見に変わった。PIXE法は一般に良く受け入れられる放射線理解のための教材であることが示された。放射線科学を大学生による演劇を通して、その理解を試みた。演劇の中では、放射線を被告人にしたてあげ、裁判を行い、検事と弁護士および被告人とのやり取りから、放射線を理解する方法を考えた。演劇授業は、平成14年7月〜平成15年1月の間に計4回(総人数309名)行い、それぞれ、終了後にアンケート調査し、その効果を調べた。アンケート調査結果は、参加者の94%が「楽しかった」、92%がPIXEに興味を持った、78%がこの劇を通して放射線についての理解が得られた、98%が放射線に興味を持った、と回答した。このように、裁判形式の演劇授業による放射線理科教育の有効性が見られた。また、どの中学校も、大学生とのふれあう機会が欲しいとの要望が90%以上あり、今後は、下記のIT理科教育とともに、この学生の要望を視点にした出前演劇授業による理科教育も行うことにした。上記、催しの収録をもとにホームページを作成した。講義内容は、「ピクシー先生による理科教育」と題し、「放射線裁判」の劇を通して、放射線およびPIXE法について理解するとともに、実際にPIXE実験に参加も受け付けるものである。(http://pixe.qse.tohoku.ac.jp/pixe-geki/index)
著者
西田 育弘
出版者
香川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

プロジェクト1.神経一体液中枢性統合機構による長期調節 脳室周囲機関の一つであるArea Postrema(最後野)が持つ神経一体液統合機構により、長期に血圧調節を行う機能があるかどうかを調べるために、Area Postrema除去ウサギ群(APX群、n=8)およびシャム手術ウサギ群(INT群、n=7)にバゾプレッシン(0.25ng/kg/min)を5日間投与した。投与前5日間から投与後3日間までの13日間、代謝ケージにて水分およびナトリュウム(Na)バランスや、体重、血漿Na濃度、血漿浸透圧、ヘマトクリット、血圧、心拍敷を測定した。結果1.代謝ケージによるバランス実験では、INT群に水分貯留が観られ、APX群ではそれが観られなかった。血漿Na濃度、血漿浸透圧、ヘマトクリットは、INT群で水血症を、APX群で正常を示した。結果2.平均血圧は、両群間に差はみられなかった。心拍数は、INT群では低下し、APX群では変化しなかった。結果3血中バゾプレッシン濃度は、AVP投与前、投与中、投与後のいずれも両群間に差がなかった。結果4.脳幹部の形態学的検討により、APX群では最後野のみが破壊されており、周囲の破壊は最小限度であった。<結論> Area Postremaを介する、バゾプレッシンによる神経ホルモン統合機能は、長期的にも、水分代謝、Na嗜好性に影響を及ぼしており、さらに循環系でも心拍数に影響を与えている。しかし、血圧にはその影響力は少なく、他の血圧調節機構により代償されてしまう程度である。プロジェクト2.動脈圧受容器反射系による中枢性統長期調節 動脈圧受容器反射系は長期血圧調節に関与しないという概念に挑戦するために、24時間血圧測定システムを確立し、動脈庄受容器除神経群(SAD群)と動脈圧受容器正常群(lNT群)の24時間血圧を比較した。結果1.24時間血圧測定システムが確立した。結果2.安静時血圧の最頻値は両群間に差はみられなかったが、体動時血圧の最頻値はlNT群の方がSAD群より高値を示した。<結論>体動時は、中枢性神経が動脈圧受容器反射系を介して、血圧調節を行っている可能性が示された。
著者
影浦 光義 仁平 信 工藤 恵子 寺田 賢 権守 邦夫
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

我々は,1)連合王国(イギリス),アメリカ合衆国およびカナダの法中毒学研究室の実務の調査・研究および資料の収集;2)法中毒学研究室ガイドラインなどの収集した欧米の参考資料の翻訳;3)各研究室に必須の標準操作手順(Standard Operating Procedures)マニュアルの作成など;を行い,試料の採取・取扱いおよび検査のQuality Control/Quality Assuranceに必須の事項を整理するとともに,薬毒物鑑定を始めとする我が国の法中毒学実務を改革する方策を研究した.結論として,我々は,1)検査研究室は法中毒学研究室ガイドラインに沿った標準操作手順マニュアルの整備,研究室が履行したすべての文書化,分析法および各検査のバリデーション,および容認基準を逸脱した結果に対する修正作業(Corrective Action)を行うこと;2)他機関に検査を委託する研究室は,委託先の研究室の使命/目的が当該研究室のそれと合致しているか確認するとともに,委託する研究室に検査試料を手渡すまでは,検査試料に関する全責任を負うこと;関係政府機関は,薬毒物鑑定(検査)に不可欠の薬毒物標準品の入手を容易にする施策を講じるとともに,薬毒物検査(鑑定)を含む司法/行政解剖に関わる鑑定に対して,その必要経費および鑑定料を相当の代価として,当該名目で支払うこと;4)法医学教室(組織)は教室が縮小傾向にある現在,組織の変革は必至であり,英知を集めて将来を真剣に議論すること:を強く勧告する.
著者
佐藤 実
出版者
大妻女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では近世における中国ムスリムの人生儀礼研究の具体的な分析として、劉智が著した『天方典礼』の婚姻篇、喪葬篇を検討した。まず『天方典礼』は朱熹『家礼』の構成にならって書かれていることがわかった。劉智は儒教儀礼について真っ向から否定することはなく、逆に儀礼にたいする考え方はイスラームと儒教とでは共通していると主張している。そしてそうした人生儀礼を実践することによって、中国ムスリムじしんが中華の秩序をになっていると認識していたことを明らかにした。
著者
岡部 繭子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

マウスオーバル細胞の細胞表面抗原分子の探索を行った。オーバル細胞を誘導した肝臓で発現する膜・分泌タンパク質を、シグナルシークエンストラップ法でスクリーニングし、正常時に比較してオーバル細胞誘導時に発現が上昇する膜タンパク質遺伝子として、Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)を同定した。そして、マウスEpCAMに対する抗体を作製した。作製した抗マウスEpCAM抗体を用いた免疫染色により、EpCAMがオーバル細胞に発現していることが示唆された。また、抗EpCAM抗体とセルソーターを用いてオーバル細胞を誘導した肝臓から分離したEpCAM陽性細胞は、既知のオーバル細胞マーカーであるサイトケラチン19やA6に陽性であり、オーバル細胞マーカー遺伝子を発現していた。分離したEpCAM陽性細胞は、in vitroでの培養で旺盛な増殖能を示し、継代培養も可能であった。また、培養したEpCAM陽性細胞では、オーバル細胞マーカー遺伝子の発現が確認された。培養したEpCAM陽性細胞をサブクローニングし、10コの独立したクローンを得た。これらのクローン化した細胞株においても、オーバル細胞マーカー遺伝子の発現が確認された。クローン化した細胞株を用いて、肝細胞および胆管上皮細胞への分化誘導を行った。その結果、いくつかの細胞株が肝細胞と胆管上皮細胞の二種類の細胞への分化能をあわせもつことが明らかとなった。以上の結果から、EpCAMはオーバル細胞のマーカーであり、抗EpCAM抗体を用いてセルソーターによりオーバル細胞を分離できることを明らかにした。
著者
飯高 茂 水谷 明 藤原 大輔 中島 匠一 岡部 恒治 川崎 徹郎
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては主に高校数学の数学教育のあり方を様々な面から研究した。平成13年度から15年度まで9月と1月に数学教育の研究会「数学教育の会-夏の集会、冬の集会」を開催し、大学、高校、教育行政、学会など幅広い数学教育関係者が70名前後集まり、論文の発表と討論を行った。具体的事項を挙げる。1 新しい学習指導要領での新科目「数学基礎」について、その構成、具体的な素材の展開などが研究会でくり返し発表され議論された。その結果は「数学教育研究数学教育の会編集」に詳しく発表され実際の教育現場で活用された。2 研究代表者は、高等学校数学の科目「数学C」で学習される「いろいろな曲線」の内容をさらに研究し、専門的な数学の立場に立った研究書「平面曲線の幾何」他を出版し研究成果を公表した。3 高校から大学の数学教育の中心は微積分であるが、その社会での有用性の研究を行った。4 学力向上のためには数学的活動の活発化が大切で、そのための様々な素材や方法が研究された。また、簡単な内容でも数学的に深い研究ができる例が発表された。5 数学の勉強を日常化するのに有効な方法として、携帯型ゲーム機にグラフ電卓の機能を付加して生徒がゲーム感覚の延長で数学を視覚的に捉えるここを可能にするソフトを開発した。これを用いて関数のグラフを身近なものとし、数学力を確かにつけることが期待できる。6 これらの研究成果を「数学教育研究数学教育の会編集」にまとめ2002年1月、2003年1月、2004年1月に出版し、各方面に配布した。また、数学的活動の例示集「数学教育研究番外編コンピュータを用いた数学的活動数学教育の会編集」を2002年2月に出版した。
著者
樹下 文隆 渡邉 守邦 渡邉 守邦 竹下 義人 樹下 文隆
出版者
国文学研究資料館
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.実施計画にそって、以下のごとく調査研究を行った。(1)稀本零葉集の種類と所在についてリストアップを行ない、稀本零葉集25種の所在リストを作成した。(2)上記のリストにもとづいて、各地の文庫・図書館等に所蔵される稀本零葉集の零葉一葉ごとの書誌調査を実施した。(3)調査した稀本零葉集のうち収集可能なものについては、これを複写によって収集し、内容についての書誌的研究を行なった。現在までに18種の稀本零葉集について書誌調査を終えたが、零葉ごとの書名の同定作業に手間取り、計画年度中に終了できず、次年度に見送ったものもある。(4)調査・研究を終えた稀本零葉集について、零葉一葉ごとの細目一覧、および書名綜合索引を作成した。2.以上の調査の結果、稀本零葉集のうち、安田善之助(安田文庫主)、加賀豊三郎(加賀文庫主)、三村竹清らの蔵書家によって明治末年頃に作られた『玉屑集』について、その実態をほぼ明らかにできた。他に、『紙魚玉屑集』、堀田葦男氏編『反故草子』についてもその内容が明らかになった。3.石田元季氏編『もとがしわ』、禿氏祐祥氏編『古経群玉』・『玉果屑帳』等、研究期間内に新たに知り得た稀本零葉集もあり、それぞれの内容を確認できた。また、古書店主による新編の『古活字版史料』については、事前にその内容を知ることができ、そのため解体される運命にあった。新出古活字版『大坂物語』零本を、現態のまま撮影収録しておくことができた。4.以上の成果を、『調査研究報告』(国文学研究資料館文献資料部)において随時公表した。