著者
廣野 喜幸 KIM SungKhum KIM SungKhun
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

19世紀以降、東アジア(中国・朝鮮・日本)に西洋近代医学が大規模に移植された。こうした移植に対する反応は各国様々であった。本研究では、そうした反応の差異を、特に日本と朝鮮に焦点を絞って検討した。西洋医学の大量移入に対して、当時、朝鮮の伝統医学者たちがとった態度は、大きく三つに分類できよう。(1)積極的導入派は、伝統医学の理論的な基盤であった陰陽説と五行説を厳しく批判した。(2)折衷派は、伝統医学の主な概念は西洋医学の言葉で翻訳できるし、二つの医学の間には疎通の可能性が残されていると考えた。(3)否定派は、身体に対する西洋近代医学の暴力性(侵襲性の高さ)に注目し、その限界を指摘した。近代朝鮮の医学システムの変化と比べると、日本の医学システムは遥かにドラスティックな形で転換した。近代日本は、江戸時代以来の伝統医学システムをほぼ廃止し、西洋近代医学に基づく新しい医学的システムを構築した。つまり、圧倒的大多数が積極的導入を支持した。また、その過程で近代日本は、朝鮮における医学システムの変化を促した直接的な介入者として機能することになる。われわれは、当時の朝鮮伝統医学がもっていた限界および可能性を、先の三つのグループに見出した。また、このような朝鮮の伝統医学者たちの理論は、日本による朝鮮植民地化以降、政治的な抵抗運動の理論と結合しながら、さらに精密化していくことになった。19世紀以降、東アジアの伝統科学はほとんど西洋近代科学に置き換えられた。しかし、そのなかでも伝統医学のみは、現在も現場の医療として臨床的成果を挙げている。東洋の伝統医学と西洋近代医学との衝突の中で起きた理論的境界に迫ることで、伝統医学のみならず、東アジア伝統科学の真相を再認識する手がかりを得ることができた。
著者
橋本 毅彦 廣野 喜幸 岡本 拓司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究においては、1960年代以降に通商産業省の主導によって設立された技術研究組合の活動内容の調査分析を目的とするものである。特に、戦後日本において不活発であったとされる産学連携、すなわち大学と企業との間の共同研究に関して、技術研究組合という場を通じて、直接的ないしは間接的な協力があったかどうかを調査することを目的とするものであった。平成17年度においては、そのような技術研究組合のいくつかを取り上げて、その研究活動を検討した。平成18年度においては、それらの技術研究組合に対して、過去における産学共同の有無、当時の史料の有無を問い合わせるアンケートを実施した。アンケートに対しては、10余りの技術研究組合から回答が寄せられた。また、『科学技術白書』などの政府の報告書に現れる記事を通じて、戦後の産学協同のあり方を概括した。それとともに、化学産業、コンピュータ開発などをめぐるいくつかの技術研究組合に関しては、関連する報告書等をより具体的に調査した。いずれの調査委においても、大学と企業とが直接共同研究するのではなく、本研究で取り上げた技術研究組合や科学技術の各分野において設立されている財団法人の研究機関などが、共同研究の場を提供することで両セクターの仲介役のような役割を果たしたものがあることが示された。
著者
植原 亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、研究課題である認識論(知識の哲学)に関わる学術論文一本が学会誌に掲載され、もう一本もまた雑誌に掲載予定であるという点で、目に見える成果を十分にあげることができた。具体的な内容に即して述べるならば、まず第一に、懐疑論的な議論を知識に関する一種の反実在論(あるいは認識論的ニヒリズム)として捉えたうえで、知識を自然種であるとする立場(知識の自然種論)からそうした反実在論を批判し、知識の自然種論という立場がさちに多くの認識論上の問題を解決しうる豊かなリサーチプログラムであるということを論じた。そして、第二に、直観の認識論的な身分に関わる問題に関して、反省的均衡の方法論的妥当性をめぐる議論においてそれがどのように位置づけられるのかを明確に示し、「認知的分業」の観点からこの問題を解決するという提案を行った。すなわち、直観や理論的枠組みは、おおよそ生得的・文化的バイアスによって個人や集団ごとに大きな偏倚を示すものであるが、にもかかわらず認知が個入に閉じるのではなく共同的営為である限りにおいて、認知ないしは探究は、全体としては十分と言えるような合理性を発揮することができるのだ、ということを明らかにしたわけである。上述の知識の自然種論からはまた、生物種や人工物に関する存在論的あるいは科学哲学的問題を引き出すことができたので、これに関する研究も進行中である。
著者
吉岡 基 鳥羽山 照夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

実験対象予定個体の飼育事情により,研究内容を変更して行い,以下の成果を得た.まず,シャチの精液採取訓練については用手法による精液採取を可能とするための訓練を続けたが,最終的に安定した精液採取には至らなかった.カマイルカ精子のストロー法による凍結保存を新たに試みたところ,従来のペレット法と同様な成果があげられることが明らかになった.シャチを含む10種の鯨類精子の外部形態を比較したところ,精子サイズには種間差が認められ,シャチの精子は平均頭幅が最も広く,かつ頭部は団扇型をしており,他鯨種とは大きく異なった形態をしていることが判明した.バンドイルカとカマイルカのペレット法による凍結融解精子を用いて,4℃と36℃で精子運動率,精子速度,精子直線性,精子頭部振幅を解凍直後から48時間後まで精液自動解析装置を用いて測定したところ,それらの値は新鮮精子を用いたヒト,ウサギ等の結果とよく一致していることがわかった.また,雌雄それぞれについて超音波画像診断装置を用いた生殖腺の観察を実施したところ,バンドウイルカ,カマイルカについて,黄白体や胎児の存在が確認できた他,季節による精巣の発達度合いの違いをみることができた.さらに,イルカ類における妊娠関連ホルモンに関し,黄体と胎盤がともに妊娠期間中のプロゲステロンの分泌源となり得ることが示唆された.また妊娠診断指標としての利用の可能性を探ることをふまえ,妊娠特異タンパクの存在を調べたところ,対象鯨種(パンドウイルカ他2種)の血中および胎盤組織中にはその存在を確認することはできなかった.また妊娠診断,胎盤機能の指標となり得るエストロンサルフェートについて調べたところ,妊娠イルカの血中にこのホルモンが検出され,妊娠期間中の,種による異なる変動パターンの存在が示唆された.
著者
青木 周司 菅原 敏 佐伯 田鶴 中澤 高清
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間活動によって大気に放出された二酸化炭素が陸上生物圏と海洋にどのくらい吸収されているかを定量的に評価するために、二酸化炭素濃度と炭素同位体を組み合わせて解析する方法と、酸素濃度と二酸化炭素濃度を組み合わせて解析する方法を実施した。まず二酸化炭素濃度と炭素同位体を組み合わせて解析することによって得られた人為起源二酸化炭素の陸上生物圏と海洋による吸収量を1984-2000年の期間について評価した。その結果二酸化炭素吸収は、陸上生物圏について1.21GtC/yr、海洋について1.59GtC/yrとなり、観測期間全体を平均すると陸上生物圏も海洋も二酸化炭素の吸収源となっていたことが明らかになった。これらの吸収源の強度は年々変動しており、特に陸上生物圏による吸収がエルニーニョ現象や火山噴火による異常気象の影響を強く受けて変化することが明らかになった。一方、酸素濃度と二酸化炭素濃度を組み合わせることによって評価した1999-2003年の二酸化炭素吸収は、陸上生物圏について1.1±1.0GtC/yr、海洋について2.0±0.6GtC/yrと見積ることができた。2つの独立した研究から得られた成果を観測期間がほぼ重なっている時期について比較した。陸上生物圏による二酸化炭素吸収量は、二酸化炭素濃度と炭素同位体から得られた1994-2000年の値が0.90GtC/yrであり、酸素濃度と二酸化炭素濃度から得られた値が1.1±1.0GtC/yrと評価された。また、海洋による二酸化炭素吸収量は、二酸化炭素濃度と炭素同位体から得られた1994-2000年の値が1.73GtC/yrであり、酸素濃度と二酸化炭素濃度から得られた値が2.0±0.6GtC/yrと評価された。2種類の全く異なった研究方法によって得られた結果が良く一致しているため、本研究によって信頼性の高い結果が得られたと考えられる。
著者
中澤 高清 森本 真司 塩原 匡貴 和田 誠 青木 周司 山内 恭 菅原 敏
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

1998年7月、1998年12月〜1999年3月にスバールバル諸島ニーオルスンにおいて、大気中の温室効果気体やエアロゾルなどの実態の把握を目指し、集中観測を行った。これらの観測から、北極域におけるCO_2、CH_4、O_3の変動が詳細に捉えられると同時に、CO_2データは海水表層でのCO_2交換の評価のための基礎データとなった。エアロゾルについては今回の集中観測で多くの基礎データの蓄積がなされ、冬から春にかけての極域におけるエアロゾルの特徴をとらえることができた。北極域における大気微量成分の広域3次元分布、特に極渦の形成・崩壊期に着目した輸送・循環・変質の過程を調べるため、1998年3月6日〜14日の期間、航空機にオゾンおよびCO_2の連続測定装置、大気サンプリング装置、エアロゾル計測装置、エアロゾルサンプリング装置等を搭載し、観測を実施した。観測は北極点を通過し北極海を横断する長距離高高度飛行(巡航高度12km)を基本とし、その他、スピッツベルゲン島近海上空およびアラスカ州バーロー沖合上空では海面付近から高度12kmまでの鉛直プロファイルの観測を行った。機器は概ね順調に動作し、良好なサンプルやデータを取得することができた。その結果、(1)CO_2やO_3濃度は圏界面高度で不連続に変化し、圏界面を挟んで鉛直混合が大きく妨げられる様子が確認された、(2)CH_4とN_2O濃度に見られた正の相関は前年度にスウェーデンで実施された大気球による北極成層圏大気の観測結果と良い一致を示した、(3)硫化カルボニル(COS)の高度分布測定から、COSが成層圏エアロゾルの硫黄供給源であることを示唆する結果が得られた、(4)北極ヘイズ層は多層構造をなし対流圏上部まで到達することがあった、(5)エアロゾルの直接サンプリングにより、成層圏・自由対流圏では主に硫酸粒子、下部混合層では海塩粒子の存在が確認された。
著者
松岡 譲
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

消費エネルギー(最終エネルギー)の需要量積み上げモデル構築のために先進国、途上国の民生、産業、交通各部門のエネルギー消費関連パラメーターの収集とそのデータベース化を行った。わが国、中国及びインドネシアを中心とする東・南アジア諸国を中心として、詳細なエネルギー消費機器に関する技術及び経済パラメーターを収集した。さらに、エネルギーが行うサービスの今後の推移に関するシナリオ策定を行った。一方、シナリオで外生的に与えられた各エネルギーサービスを満たすべく、エネルギー消費機器の選択を、固定費用、エネルギー費用及び税補助金交付下において費用最小化基準て行うとの仮定のもとで、機器選択モデルを構築した。機器選択及び補助金額の算定は、機器選択の最適化については、線形計画問題となり、補助金投下量はその最適空間内にて、二酸化炭素抑制量最大となる点を求めるという多段階最適化問題となっている。このモデルでは、前者に関してはシンプレックス法を用い後者に関しては、前者の問題の感度解析を拡張した逐次的線形計画法によって求解を行っている。国内でのエネルギーの部門分けは民生に関しては、家庭、業務の二部門、産業においては、鉄鋼、製紙、パルプ、セメント、化学工業などの部門、及び交通部門である。これらの各部門に関して、それぞれ5〜20のサービス量が発生していると設定されている。わが国での計算結果を例にとれば、産業各部門においては、現在市場化されている省エネルギー機器はほぼ完全に導入されるのに比べ、民生二部門においては、初期費用(機器費用)が高いために、省エネルギーあるいは二酸化炭素排出量が少ない機器の選択がなされないことがしばしば発生している。
著者
中澤 高清 青木 周司
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

南極及びグリーンランドで掘削された氷床コアを分析することによって過去の温室効果気体の変動を推定するために、コアから効率よく空気を抽出する装置と試料気気中に含まれるCO_2,CH_4,N_2C,CO_2のδ^<13>Cを高精度で定量する装置を開発した。総合分析精度はそれぞれ、1ppmv,10ppbv,2ppbv,0.05%以内であった。これらの装置を用いて南極みずほコア,南やまとコア,グリーンランドSiteJコアを分析した結果、以下のことが明らかとなった。1.9000-250年前の後氷期におけるCO_2,CH_4,N_2O濃度は280.9±4.6ppmv,729±30ppbv,265±8ppbvとほぼ一定であった。しかし、何れの気体の濃度も、人間活動の影響によってこの250年の間に急速に増加し、現在のレベるに達した。2.南やまとコアを分析することによって得られたCO_2,CH_4,N_2O濃度は213.3±4.6ppmv,484±44ppbv,243±10ppbvであり、後氷期の値よりかなり低く、このコアは氷河期のものであることが示唆された。また、δ13CはCO_2濃度の変動とほぼ逆相関となっており、このことから、氷河期の大気中のCO_2濃度の変動は海洋生物活動に帰依されると考えられる。3.みずほコア及びSite Jコアから得られた250年以前のCH_4濃度はそれぞれ701±10ppbv,756±10ppbvであり、工業化以前でも自然的発生源の強度の違いを反映して、南半球高緯度よりも北半球高緯度において濃度が高かったことを意味している。また、現在の南北両半球の濃度差は本研究で得られた値の役3倍であり、CH_4の濃度増加の原因は北半球における人間活動による発生源の強まり、あるいは消滅源の弱まりによるものと考えられる。
著者
茅 陽一 手塚 哲夫 森 俊介 辻 毅一郎 小宮山 宏 鈴木 胖
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

1)統合型エネルギーシステムに関する研究 近年の地球環境、中でも温室効果問題の関心増大を考慮して、現在はCO_2(二酸化炭素)の発生抑制を基本目標として作業を行なった。a)LPモデルによるCO_2の発生抑制シナリオの検討、b)化石燃料の2次エネルギー転換時のCO_2の除去のためのプロセスの化学工学的概念設計、c)エネルギーシステムの個別機器及びシステムの規模の経済性の検討。a)従来システムと異なる化石燃料の二次エネルギー(CO、H_2等)への転換設備を含むLP型システムモデルを開発し、CO_2の抑制量を変化させた時、そのシステム構成・総コストの変化を検討した。この結果CO_2の数十%迄の抑制は、海洋投棄がエコロジカルに可能ならば、さほどの不経済を伴わないが、それ以上の抑制は電力の熱需要充当を必要とし、システム効率の大幅な低下をもたらす、との結果を得た。また、従来型システムに比して原料価格変動に遙かに強いことを立証した。b)化石燃料からメタノールに至る変換の過程で、かなり工業的に可能性の高いCO_2除去プロセスが可能であるとの示唆が得られた。c)電力系統中心の分析の結果、個別の機器については、送配電部門でデメリットが現れている可能性が高い。2)都市を中心とするエネルギーシステムの研究近畿地域を対象とし、研究基盤であるエネルギー需要モデルの改善とデータの更新した。そして太陽光発電及び都市ガスコージェネレーションを想定し、モデルによりそれが従来システムに代替するポテンシアルを推定した。更にコージェネレーションシステムについては、民生用を対象とし、建物用途・規模・運転時間帯を入力可能とするモデルを作成し、建物用途毎に(事務所・デパート・ホテル)適したシステム構成・運転方式・建物規模を検討すると共に、システムの運転時間帯の影響も検討した。また、蓄熱諸方式の経済的・技術的特性の予備調査も行った。
著者
山元 龍三郎 住 明正 田中 正之 鳥羽 良明 武田 喬男 松野 太郎
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

1.大気中の二酸化炭素などの温室効果気体の増加により,地球の気候が著しい影響を受けることが懸念されている。気候変動のメカニズムが充分に解明されていないので,国際学術連合会議(ICSU)と世界気象機関(WMO)が気候変動国際共同研究計画(WCRP)を提案した。わが国では,このWCRPに参加することが文部省測地学審議会から関係大臣に建議され,昭和62年度から大学・気象庁などの機物において4年計画の研究が進られてきた。この計画の調整は測地学審議会のWCRP特別委員会が行ってきたが,主な研究者をメンバ-とするWCRP研究協議会がその研究連絡に当たってきた。平成2年度は建議された計画の最終年度に当たる。2.3年計画のこの総合研究(A)では,昭和63年度以降WCRP研究協議会が中心となって,全国のWCRP参加の大学などの研究機関の連絡を密にしWCRPを円滑かつ効果的に実施するために,毎年WCRPニュ-スを刊行して,各研究の進捗状況などを広く関係者に衆知させた。また,毎年1回11月〜12月の3日間に約150名のWCRP参加研究者が出席するWCRPシンポジュ-ムを開催し,その内容を250〜380頁のプロシ-ディングスとして,その都度刊行してきた。平成2年度では11月26日〜28日に名古屋市において,第4回WCRPシンポジュ-ムを開催した。出席者は約150名にのぼり,53件の研究発表があった。最新の研究成果の発表や大規模観測計画の予備観測結果の報告があり,活発な討論がなされて,WCRPの4年計画の最終年度として予期以上の成果が挙がった。これらの内容は,約380頁のプロシ-ディングスとして印刷・刊行し関係方顔に配付したが,その内容はわが国のWCRPの著しい進展状況を示している。
著者
若濱 五郎 成瀬 廉二 庄子 仁 藤井 理行 中澤 高清 高橋 修平 前 晋爾
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、南極クィ-ンモ-ドランド氷床、グリ-ンランド氷床、北極氷冠、およびアジア内陸地域の氷河等にて堀削し採取された氷コアの解析を行い、諸特性を相互に比較検討することを目的として進められた。特に、最終氷期以降の大気環境変動の過程ならびに氷床・氷河の変動におよぼす氷の動力学的特性を明らかにすることに重点をおいた。研究成果の概要を、以下の1〜4の大項目に分けて述べる。1,氷の物理的性質の解析:氷床氷中の氷板、気泡、クラスレ-ト水和物の生成過程、ならびに多結晶氷の変形機構や再結晶について新しい知見が得られるとともに、氷コアの構造解析の新手法が開発された。2,氷の含有化学物質の分析:氷床氷中の酸素同位体、トリチウム、二酸化炭素、メタン、固体微粒子、主要化学成分、火山灰等の分析結果から、最終氷期以降あるいは近年500年間の大気環境変動過程について多くの情報が集積された。特に、両極地の比較検討も行われた。3,雪の堆積環境に関する解析と数値実験:南極地域にて観測された気象・雪氷デ-タ等の解析、および数値シミュレ-ションを行うことにより、中・低緯度から極地氷床への物質・水蒸気の輸送過程ならびに雪の堆積・削はく現象と分布について研究された。4,氷河・氷床の流動と変動機構に関する解析と数値実験:南極東クィ-ンモ-ドランド氷床の平衡性、白瀬氷河の変動、山脈周辺の氷床の動力学的特性、深層氷の年令推定法などについて考察された。1990年9月、札幌において本総合研究の全体研究集会を開催し、各研究結果の総合的討論を行った。この成果は、総合報告書(B5版、312ペ-ジ)として1991年3月に出版された。同報告書では、将来の氷床コア研究の展望と諸課題も論じられている。
著者
住 明正 新田 勍 岸保 勘三郎
出版者
東京大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1986

大気中の二酸化炭素の増加は、温室効果により、大気中の気温を上昇させ、大規模な気候変化を引き起こすとされている。しかしながら、従来のモデルの計算では、海面水温を気候値に固定して行なって来た。しかしながら、最近の大気ー海洋結合モデルの結果によれば、同時に、海面水温も増加するという結果が得られている。しかし、海面水温が上昇すると、当然、積雲活動が変化する。それ故に、【CO_2】の気候変化に対する影響を見積るためには、この積雲活動のふるまいを正しく理解する必要がある。このためには、積雲活動の振舞を充分に表現出来るような大気ー海洋結合モデルを用いれば良いのであるが、現在の計算機の能力では時期尚早である。そこで、本研究では、高分解能の東大大気大循環モデル(T4-2全球スペクトルモデル)を用い、海面水温上昇を既知として、その後の、積雲活動の分布の変化を計算し、【CO_2】の増加に伴う、気候の変化の予測を行うことを目標とした。その結果、熱帯域では、海面水温が東西に一様であっても、積雲群は特長的な分布をすることが分かった。つまり、海洋の西半分に、二本のITCZ(熱帯収束帯)が、そして、赤道上では、海洋中央から東に積雲群が分布する。この傾向は、初期値、海面水温の絶対値には、依らなかった。【CO_2】による海面水温の上昇は、東西に一様になるという結果が得られているので、そのような温度アノマリーを与えると、当然の様に、海洋西半分のITCZの積雲活動が強化される。その結果は、亜熱帯ジェットの強化、そして、低気圧活動の強化と一連の現象をへて、中緯度に伝わっていく。しかしながら、それは、東西一様ではなく、大陸の西半分で顕著であった。日本のように、大陸の東端には、それ程顕著な影響は見られなかった。この結果を確証するには、更なる実験が要る。
著者
大谷 元
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

筆者はまず,牛乳αs1-カゼインのトリプシン消化物を対象にリンパ球の増殖調節ペプチドの探索を行い、59〜79域に相当するホスホセリン集中域を念むペプチドがリンパ球の増殖を促進することや免疫グロブリンの生産を促進することを明らかにした。ホスホセリン集中域を有するカゼイン由来のペプチドは一般にカゼインホスホペプチド(CPP)と呼ばれており,CPPは牛乳β-カゼインからも調製できる。そこで筆者は,牛乳β-カゼインのトリプシン消化物からβ-カゼインの1〜25域に相当するCPPを調製し,そのペプチドにも牛乳αs1-カゼインの59〜79域と同様の免疫促進活性があることを確認した。CPPはカルシウムの吸収促進を目的として市販されている。そこで筆者は,市販のCPP標品を購入し,その標品にも細胞培養系において牛乳αs1-カゼインの59〜79域やβ-カゼインの1〜25域のCPPと同様の免疫促進活性があることを示した。また,市販CPP標品をマウスや仔豚の飼料に添加して与えると,それら動物の腸管の抗原特異的および総IgAレベルが有意に高くなり、妊娠豚に与えると分娩後の初乳中のIgAレベルとIgGレベルがCPP無添加の場合よりも高くなることを見出した。一方、各種合成ペプチドを用いることにより,CPPがマイトージェン活性,リンパ球増殖促進活性およびIgA生産促進活性を発現するためには,SerP-X-SerPという構造が必要であり,遊離のホスホセリンやSerP-SerPにはそれら免疫促進活性はないことを明らかにした。さらに、CPPはTh2細胞に作用して,インターロイキン-5やインターロイキン-6の生産を有意に高めることを観察した。
著者
井上 英史
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

結果1. Aspergillus niger var.macrosporusが分泌する非ペプシン型酸性プロテアーゼであるプロクターゼAの活性中心残基を検索するために化学修飾を行った。プロクターゼAはpH6以上で不可逆的に失活するので用いることのできる反応は限定される。本研究ではカルボキシル基、トリプトファン、ヒスチジンに対する化学修飾を行った。その結果、カルボキシル基の収縮により活性の低下が見られ、トリプトファンやヒスチジンは修飾されなかった。結果2. アスパラギン酸残基・グルタミン酸残基を標的に部位特異的変異を行った。プロクターゼAはScytalidium lignicolumのプロテアーゼBとアミノ酸配列が50%一致することから、活性中心は両者の間で保存されていると考えられる。そこで保存されている16個のアスパラギン酸及びグルタミン酸残基をそれぞれアスパラギンまたはグルタミンに変換した変異体を作製し、活性を測定した。その結果、Asp123とAsp220を変異した場合のみに活性が消失した。結論 この2つの残基は近傍に分子内ジスルフィド結合が存在することから、高次構造上で近くに位置すると考えられ、プロクターゼAはペプシン型アスパラギン酸プロテアーゼと同様に2つのアスパラギン酸残基が活性中心を形成していると考えられる。プロクターゼAはペプシン型アスパラギン酸プロテアーゼと一次構造の共通性が全く見られないことから、収斂進化により触媒機構の類似した2つのアスパラギン酸ファミリーが存在すると予想される。
著者
外池 昇
出版者
調布学園女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

陵墓が社会の中にどのように位置づけられるかという問題は、知識人や政治家にとってでなく、陵墓に指定された古墳の周辺に生活する人々にとってこそ重要な問題であった。この研究では、このような視点から陵墓について考えた。つまり、民衆と古墳との繋がりについて考察したのである。江戸時代が終わって、天皇が国家の頂点に立つ明治時代になると、天皇の祖先の墳墓である陵墓が俄然脚光を浴びるようになた。中央政府も、また地方行政府も、それぞれの立場から、さまざまな古墳を陵墓として指定しようとした。そして、中央政府と地方行政府との思惑は、必ずしも一致してばかりではなかったのである。そのような一致しなかった例の一つが、群馬県にある総社二子山古墳と前二子山古墳の事例である。これらの古墳は、当時の県知事楫取素彦によって、崇神天皇の皇子である豊城入彦命の墓として指定されるように中央政府に強力に推薦されたのである。県知事楫取素彦は、恐らくは自らの信ずる歴史観に従って、自分が統治する群馬県の中に、一つくらいは陵墓がほしかったのであろう。ところが、総社二子山古墳の場合はその指定が長く続かず、前二子山古墳の場合は指定を受けることすら失敗したのである。いずれの古墳の場合をとってみても、古墳の周辺に生活する民衆によって、古墳は生活の糧を得るために利用されていたのである。陵墓という概念は、そのような民衆と古墳との繋がりを断ち切るものであったのである。明治時代においては、民衆が表立って地方行政府の指導に抗うことは大変困難であった。その中でどのように民衆が行動したかという問題は、歴史学が、陵墓が社会の中にどのように位置づけられたかということを取り扱うに際して、大変重要な課題なのである。
著者
北川 進 水谷 義 遠藤 一央 藤戸 輝明 張 浩徹 近藤 満
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

電場印加下観測用にワイドボア個体NMRプローブを新規設計、作製をした。観測用高出力アンプは米国AMT社製のM3200を使用した。サンプルセルは、0.5mm〜2.0mm厚のダイフロン製板の両側から二枚の厚さ1.0mmのITOガラス板を挟むことによって作製した。検出器部のゴニオヘッド内にあるサンプルセル挿入部(ダイフロン製)は回転可能とし、NMRマグネットの磁場に対して-90°〜+90°配向した電場を印加することが可能であるように作製した。^1Hデカップルの際発生する熱を下げるため、NMR本体からチューブで冷却風を強く送り、サンプルセル周りの熱上昇を防ぐ処置を取った。高電圧発生装置として、高電圧高速電力増幅器を用い、直流電圧を0V〜500Vに渡って印加することができるようにした。電場応答性を示すサンプルとして室温でネマチック相である液晶分子4-Cyano-4'-n-pentylbiphenyl(5CB)を用い、25℃下で段階的に電場を磁場に対して垂直に印加しながら^13C CPNMRを測定した。その結果、電場を段階的に印加した状態で測定することにより、電場に依存する分子の局所的運動や電子状態などの様々な情報が得られることが分かった。別途、双極子を有する配位子を組み込んだ多数の配位高分子結晶の合成に成功した。
著者
宮本 賢一 桑波田 雅士 瀬川 博子
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

Klothoマウスはヒトの老化症状によく似た変異表現型を有するマウスである。Klotho蛋白の動物個体における真の役割については未だ明らかではないが、生体のカルシウム・リン代謝調節に深く関与していることが考えられている。とくに、Klothoマウスに見られるカルシウム・リンの代謝異常は、寿命決定の最も重要な要因であり、事実、低リン食でKlothoマウスを飼育し、高リン血症を是正すると、表現型の回復と、寿命の延長が観察される。Klotho蛋白とリンセンサー(type IIc Na/Pi cotransporter)は、脳脊髄液のリン濃度維持に関与しており、リンセンサーからのシグナルは脳脊髄液関門から分泌される未同定のリン調節因子の量を調節して末梢組織(腎臓など)に作用させるリン代謝ホルモン(寿命ホルモン)分泌を支配する統合性受容体(センサー)である。本研究ではリンセンサーノックアウト動物を作製し、リン代謝ホルモンの分泌を検討した結果、脳脊髄液関門においてこれらのホルモンの分泌過剰が予想された。そこで、リンセンサーノックアウトマウスおよび野生型マウスより分離した初代培養系脳脊髄液関門細胞を用いて、分泌亢進が見られる蛋白を分離し、質量分析計を用いて同定を試みた。さらに、DNAチップにより発現亢進の見られる分泌型遺伝子について解析した。これらの結果、4種類の機能不明蛋白(PKOS1, PKOS2, PKOS8, PKOS12)の発現亢進が確認された。現在、これらの機能についてノックアウトマウスを作製し検討している。さらに、klotho蛋白とPKOS12について発現部位が一致しているため、現在、蛋白相互を検討している。
著者
山田 作衛 徳宿 克夫 石井 孝信 浜津 良輔 二宮 正夫 奥野 英城 今西 章
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1987

電子・陽子衝突装置による素粒子実験は、いわばレプトン・クォーク衝突実験であり、レプトンやクォークの内部構造、近距離における両者の相互作用を探る上で新しい情報をもたらす。従来試みられた例はなくHERAが最初の装置であり、加速器技術とともに、実験遂行上も測定器とデータ取得用エレクトロニクスに新しい課題がある。例えば、荷電流弱反応に際して終状態では電子がニュートリノになるため、現象再構成のために高精度のハドロンカロリーメーターが必要になる。また、ビーム電流を大きくするために、パンチ数が多く、間隔が96ナノ秒しかない。このためトリガーやデータ取得に並列処理の手法が取られた。本研究は電子・陽子衝突の研究を進めるためZEUS測定器の設計に伴う開発研究、量産試験と建設を主目的とした。具体的研究テーマは次のとおりである。1)ハドロンカロリーメーター用シンチレーター材料の対放射線試験2)吸収材によるe/h比のコンペンセーションの検討3)直流変換タイプの高電圧電源の開発による省エネルギー化4)新しい磁場遮蔽用材の試験と量産5)多数の光電子増倍管の性能試験と較正6)半導体検出器による電子識別系開発と製作7)並列処理型初段トリガー回路の開発と製作、同ソフトウェアの開発以上の研究に基づき建設された測定器は予定通り完成した。HERAがビーム衝突を開始して以来正常に稼動し、予想された性能を示している順次物理結果が得られている。
著者
赤江 雄一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

説教受容に対する説教執筆者の意識の問題に関連して、平成22年6月に名古屋大学で開催された第2回西洋中世学会大会の大会シンポジウム報告を行った。同報告は、査読を経て、論文として『西洋中世研究』誌上で刊行された。また、平成22年7月にスペイン・サラマンカで開催されたInternational Medieval Sermon Studies Society Symposium において本プロジェクトについて発表を行なった。
著者
新倉 真矢子 菅原 勉 小島 慶一 平坂 文男 井上 美穂 菅原 勉 小島 慶一 平坂 文男 井上 美穂
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は英語、ドイツ語、フランス語の「らしさ」が「リズム」に関係するとの前提から日本人学習者を初級者と中・上級者のグループに分けてコーパスを構築し、外国語発話における「リズム」の分析を行った。リズムを構成する音響パラメータのうちアクセント表示機能と境界表示機能そして韻質の特徴において日本語話者が的確に制御できずに母語の影響が大きく関与していることが結論づけられた。また、自立学習用のオンライン学習ソフトの開発を行った。