著者
西田 晶子 竹下 誠 原田 敏直 藤崎 静男 梶返 昭二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.9, pp.945-948, 1990-09-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

9-(2-メチルフェニル)-9-フルオレノール1を出発原料として,数段階を経て9-(2-ジメチルアミノメチルフェニル)フルオレン4および9-(2一ジメチルアミノメチルフェニル)-9一フルオレノール5を合成した。これらは室温においてSP体が優勢配座であるごとが判明した,つぎに4のCDC13溶液にトリフルナロ酢酸を少量ずつ添加したところ4の塩が生成し,優勢配座がSPからapへと変化した。生成した4-ap塩はN-H… π 相互作用により安定化しているものと推定した。4のこの相互作用が9-(2一ジメチルアミノフェニル)フルオレン6のそれとくらべて強いことを,4のジメチルアミノメチル基の塩基性が6のジメチルアミノ基の塩基性より強いことから説明した。また酸としてトリフルオロ酢酸のほか酢酸を用いて,4塩の配座平衡におよぼす酸の強さの影響を調べたところ,弱酸の酢酸ではその平衡も ap/sp=7/3を限度とすることが判明した。
著者
石塚 孝宏 三浦 久男 野平 博之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.10, pp.1171-1177, 1990-10-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
13
被引用文献数
7

自発分極が大きく,電界応答性に優れた新規強誘電性液晶を合成することを目的として,光学活性1,1,1-トリフルオロ-2-オクタノール1を用いて,光学活性部位にトリフルオロメチル基をもつ液晶化合物を合成した。1とコア部分をエステル結合で連結した化合物は,Sc*相の温度範囲が狭く,自発分極も期待したほどには大きくなかった。一方,1とコア部分をエーテル結合で連結した化合物4'-alkoxy-4-biphenylyl 4-(1-trifluoromethylheptyloxymethyl)benzoate 6および 4-(5-alkoxy-2-pyri-midinyi)phenyl 4-(1-trifluoromethylheptyloxymethyl)benzoate 7は,いずれも広いSo*相をもち,自発分極も2000~3000μc/m2という大きな値をもつ優れた強誘電性液晶であることがわかった。また・これらはコア構造の違いにより応答時間の温度依存性にいちじるしい違いがみられた。さらに,これらをアキラルなホスト液晶に混合して評価した結果,6がキラルドーバントとしても優れていることがわかった。
著者
石川 雄一 一ノ瀬 泉 西見 大成 塚本 真司 国武 豊喜
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.10, pp.1065-1071, 1990-10-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
25

親水基として環状ポリアミン(cyclam)を有する不斉両親媒性化合物(2C16AspC11N4,2C12Glu.AzoC1014N4,C12AzoCn14N4)およびその金属錯体の二分子膜形成能と膜特性を,電子顕微鏡による形態観察,示差走査熱量計によるゲル-液晶相転移の測定,さらに円二色性スペクトルによる分子配向の評価から明らかにした。cyclam型二分子膜,その金属錯体膜,および対応するアンモニウム塩型.二分子膜の膜組織化能は親水基構造に依存し,Cu2+錯体≦Ni2+Zn2+錯体≦14N42H+<-N+(CH3)3の順で,より発達した二分子膜(高度な秩序性,相転移の大きな協同性,安定な会合形態)を与えた。錯体膜および配位子膜の自己組織性は疎水鎖の構造にも依存し,C12AlaAzoCn<2C12Glu.・AzoC102C16AspC11-の1頂に膜の組織性が向上した。また,一本鎖型化合物のcyclam金属錯体が二分子膜を形成するためには,C6以上のスペーサーの長さが必要であった。
著者
黒綺 富裕 矢野 真司 加藤 徹 若月 淳也
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.9, pp.955-961, 1990-09-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
36
被引用文献数
3

リン酸エステル堪型両親媒性モノマーである,phosphate (Cn-AHMP-Na)Sodium alkyl 2-hydroxy--3-thethacryloyloxypropylを,リン酸二水素アルキルの-ナトリウム塩(Cn-MAP-Na)とメタクリル酸2,3-エポキシプロピル(EPM)の反応により合成した。HPLC分析や31P-NMR分析の結果,C12-AHMP-NaはEPMのエポキシ基のβ開裂体であった。AHMP-Naモノマーの種々の物理化学的諸物姓(種々Cのn-溶荊への溶解性,臨界ミセル濃度(cmc),cmcにおける表面張力(γcmc),ミセル形成自由エネルギー(∠Gmic),分子占有面積(A))を測定した。さらにC12-AHMP-Na/水の2成分系の相図を作成した。36%以下の濃度では等方性のミセル溶液,39~62%ではミドル相,67~72%でラメラ相85%以上では結晶であった。水溶液中で重合したC12-AHMP-Naのホモポリマ-は,水,メタノ-ルを増粘した。また,ポリエチレングリコールジアクリラートで橋かけしたCn-AHMP-Naのポリマーは水,メタノールを吸液し零たが,エタノールはほとんど吸液しなかった。ミドル相の固定化を目的に,C12-AHMP-Na/水の2成分系相図のミドル相領域で重合を試みたが,重合物は等方性となり,ミドル相の固定化はできなかった。
著者
菊地 成朋 牛島 朗 天満 類子 赤田 心太
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.199-208, 2019

「茅葺きの補修を自らの手で行い,地域システムとしての再生をめざす」 福岡県うきは市の新川田篭地区には茅葺き民家が数多く残っているが,それらの多くは持続の困難に直面している。そのような茅葺きの空家を使って,素人による茅屋根の補修を試みる活動を行なった。専門家に助言をもらいながら,茅葺きの道具づくり,茅材の調達,技術習得と実践,集落住民らとの茅葺きワークショップを実施し,その過程を記録することで,非専門家がどこまで茅葺き工事に参与できるのかを検証した。それによって,かなりの作業を担える可能性が確認できたが,同時に想定していなかった課題も見出された。今後は,地区内での茅場再生にも取り組み,地域循環的な営みとして茅葺きが行われることを目指し,活動を続ける予定である。
著者
鈴木 健介 中山 雅雄 浅井 武
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.67, pp.265_2-265_2, 2016

<p> 現在のサッカーは、プレーするのに十分な時間とスペースが確保されていた1970年頃のサッカーから変化し「Less Time、Less Space」と形容されるような、相手チームに時間とスペースを与えないコンパクトな守備組織の形成が主流となっている。試合に勝利するためにはこのようなハイプレッシャーの中でも正確で早い判断と技術を発揮しゴールに向かい、得点をあげる必要がある。特にディフェンスとミッドフィルダーとの間のエリアを指す「バイタルエリア」における技術発揮は多くの指導書等で重要視されている。しかし、バイタルエリアにおいてどのようなプレーが行われているかという分析・研究は報告されていない。そこで本研究は2014W杯優勝チームであるドイツ代表の選手が最も多く所属するドイツのトップリーグであるブンデスリーガと、日本のトップリーグであるJリーグのバイタルエリアでの攻撃プレーを対象に、記述的ゲームパフォーマンス分析を行うことで、バイタルエリアにおけるプレーの特徴及び、それぞれのリーグにおける同エリアでのプレーの特徴や違いを明らかにすることを目的とした。</p>
著者
平 由起 松尾 俊彦 中川 秀樹 松尾 信彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1581-1584, 1997-09-15

岡山県井原・湯原地区では1965年頃SMON患者が多発した。今回岡山大学眼科で岡山・井原SMON患者会の会員287人のうち検診を希望した来院可能な患者12人に対して,視力,ゴールドマン動的視野,眼圧,細隙灯顕微鏡,眼底,色覚,限界フリッカー検査を行った。SMONによる視野異常(中心暗点,求心性狭窄)は6例(50%)にみられたが,色覚障害は少なく,視神経障害程度も乳頭耳側の退色がみられるのみであった。SMONと視覚障害とに因果関係があると考えられたのは7例(58%)であったが,障害程度は軽い症例が多かった。SMONの全身症状と眼症状の重症度は比例する傾向にあるため,現在高齢者が多いSMON罹患者のうち,来院可能な患者は比較的全身症状が軽く,視覚障害の程度も軽かったと考えられる。
著者
久保 遼馬 藤田 拓也 宇津呂 武仁 小林 彰夫 西崎 博光 河田 容英
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.1B5GS601, 2020

<p>本論文では,テレビドラマ視聴者がドラマ視聴後にウェブ上で行うドラマ関連関心動向・感想・レビュー類の情報探索過程を支援することを目的として,ブログ・ドラマ関連サイト・ツイッター等のウェブページからの情報収集・集約を行うウェブマイニング技術を提案する.本論文では,特に,テレビドラマ視聴者がドラマ放送期間中に,ツイッター上で行うドラマ関連の関心・感想の情報探索支援を行うことを目的とし,ツイートの収集・集約を行う手法を提案する.具体的には,ドラマに出演する主要な俳優や登場人物名を表すキーワード,および,それらのキーワードに対する感想を表す形容詞が共起するツイートを収集し,BERTを用いて,それらのキーワードと形容詞の間の感想関係の有無の判定を行う.実際に数百事例を収集し,人手で感想関係の有無を判定した訓練・評価事例を作成し,BERTのfine-tuningおよび評価を行ったところ,約70-80%の精度で感想関係の有無を同定することができた.</p>
著者
渥美 義賢 大久保 義朗 松浦 雅人 小島 卓也
出版者
国立特殊教育総合研究所
巻号頁・発行日
1992

精神疾患を持つ子供は、障害児の中でも特に睡眠覚醒リズムの障害を合併していることが多く、そのことが種々の精神症状に影響を与えたり、生活上の支障となる場合が多く、詳細を研究によって解決すべき問題がある.そこで今回の研究では、54名の精神的疾患のある子供を対象とし、睡眠障害の種類を調査した。精神疾患の内訳は、ダウン症候群8名、自閉症もしくは自閉傾向のある子供20名、精神発達遅滞26名である.何らかの睡眠覚醒障害のある割合は全体で50%とかなり高った.特に自閉症では75%と高く、精神発達遅滞では46%であったが、ダウン症では0%と全くみられなかった.睡眠覚醒障害の種類に分けてみると次のようになる.入眠困難は自閉症で45%、精神発達遅滞では23%にみられ、早朝覚醒は自閉症のみにみられ10%であった.夜泣きを中心とする中途覚醒は自閉症の35%と精神発達遅滞の15%にみられた.睡眠覚醒の時間帯やその時間が不規則になる本態的な睡眠覚醒リズム障害はそのサブタイプの不規則型がすべてで、自閉症の40%、精神発達遅滞の8%にみられた.過眠症型の長時間睡眠者は自閉症では0%であったが、精神発達遅滞では19%にみられた.以上の結果からみると精神障害の種類により睡眠覚醒リズム障害にも特徴的なパターンがあることが分った。ダウン症では睡眠障害は稀であまり問題とならないのに対し、自閉症と精神発達では高率におこること、自閉症では入眠困難や中途覚醒が多いが精神発達遅滞では過眠症がかなりみられることなどが明らかとなった.次の段階ではこれらの睡眠覚醒障害について脳波等の客観的・生理学的特徴を明らかにすることが必要と考えられた.
著者
Yuto Yasuda
出版者
Japan Society of Physical Education, Health and Sport Sciences
雑誌
International Journal of Sport and Health Science (ISSN:13481509)
巻号頁・発行日
pp.202123, (Released:2022-03-03)
参考文献数
48

Different cultures have different societal structures and different communication style. Additionally, how sports are organized vary from country to country in terms of structure. These factors make athletes across the world demonstrate different psychological characteristics. Despite these differences, these cultural impacts have been paid little attention to, and psychological universality has been explored in the field of sport psychology even though the importance of cultural differences is remained. This review article explores the consideration of cultural psychology within the domain of sport psychology. Specifically, this article compares East Asian culture and North American culture from an achievement motivation perspective. Self-construal, regulatory focus theory, self-determination theory, and achievement goal theory are investigated in order to compare the two cultures. It is recommended that future researchers in the domain of sport psychology refer to both cultural differences as well as psychological universality to deepen insight into the sport psychology field. Practitioners in sport psychology such as mental performance consultants and coaches, are also suggested to consider cultural differences in order to effectively communicate with players and implement more effective interventions.
著者
佐々木 宏樹
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,行動経済学の知見に基づく新たな政策手法である「ナッジ(Nudge)」が,野菜の消費拡大に与える効果を「ランダム化比較実験(RCT)」により検証する。個人の野菜への支出額を把握する際は,日本が世界に先行するレシート買い取りアプリを用いた個人レベルの日々の購買データを利用する。レシートデータは店舗横断的に把握が可能である。このため,購買場所,時間帯などのより詳細なデータを把握できるうえ,モバイルアプリを通じて個人に対するナッジが可能となる。今回の実験を通じて,消費者の野菜の購買パターンを精細に分析しかつ健康な食の選択を促すために有効なフード・ナッジを検証することが可能となる。
著者
根本 亜矢子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【目的】<br> 中学校家庭科の「食領域」においては、生涯にわたって健康で安全な食生活を送るための基礎知識を身につけること、食事の役割について理解を深め、基礎的な調理ができることをねらいとしている。「日常食の調理と地域の食文化」項目では、食事には文化を伝える役割があることを理解し、地域の食材を生かした調理、地域の食文化にも関心をもつことが取り上げられている。しかし、内閣府による食育に関する意識調査報告書(2014年3月)によると、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味について知っている者は46.9%であり、半数を満たしていなかった。そこで、地域の伝統的な行事食や郷土料理について、どの程度理解しているのか、食生活・生活習慣も含めて調査を行った。<br><br> 【方法】<br> 北海道F大学に在籍する女子学生のうち、同意が得られた156名を対象に2014年10月に実施した。調査項目は、食育に関する意識調査を参考にし、食育への関心4項目、地域の食文化(行事食・郷土料理)に関すること6項目のほか、日ごろの食生活・生活習慣に関すること6項目について無記名自記式質問紙法により実施した。行事食、郷土料理については、知っていると回答した者に対し、料理3つまで記述してもらった。回答に不備があるものを除き、132名を解析対象とした。<br><br>【結果および考察】<br>1.食育への関心 食育の言葉も意味も知っていた者は99名(75.0%)、言葉は知っていたが意味は知らなかった者は33名(25.0%)であり、食育に関心があると回答した者は、128名(97.0%)であった。食育の日および食育月間を知っている者は、それぞれ44名(33.3%)、54名(40.9%)であり、食育の日の認知度が低かった。<br><br>2.地域の食文化 行事食を知っていると回答した者は106名(80.3%)であり、おせち料理が最も多く、次いで桃の節句、端午の節句の行事食であった。回答した中には、料理名ではなく行事名での回答がみられた。節分については、炒り大豆、福豆の回答はみられず、恵方巻が多かった。行事食の料理として土用の丑の日、ハロウィン、クリスマスという回答も見られた。中学校家庭科教書の中では、受け継がれる食文化として、雑煮・おせち料理(正月)、おしるこ(鏡開き)、七草粥、炒り大豆、福豆(節分)、ちらしずし、ひなあられ(桃の節句)、かしわもち、ちまき(端午の節句)、そうめん(七夕)、月見だんご(中秋の名月)、おはぎ(彼岸)、かぼちゃ(冬至)、年越しそば(大晦日)が行事食として取り上げられていた。北海道の郷土料理について尋ねたところ、知っていると回答した者は110名(83.3%)であった。中でも鮭を使用した料理(石狩鍋、チャンチャン焼き)の回答が多く、全体の76.3%であった。行事食や郷土料理を次世代に伝えたいと回答した者は116名(87.9%)であり、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味を大切にしたいという意識が高いことがわかった。<br><br>3.食生活・生活習慣 朝食を欠食する者は32名(24.2%)であった。日々の生活に時間的なゆとりを感じている者は44名(33.3%)、感じない者は51名(38.4%)であり、朝食を欠食する者の方が、日々の生活に時間的なゆとりを感じていない者が多かった。自分の健康状態について、とても良い、まあまあ良いと回答した者は96名(72.7%)であったが、どちらともいえない20名(15.2%)、あまり良くない、良くないと回答した者は16名(12.1%)であった。<br><br> 以上のことから、食育への関心は高く、地域の食文化について認知度は高かった。しかし、伝統として長く受け継がれてきた行事食の意味、生活の節目の行事に用意する特別な食事であることを正しく伝える必要性が確認できた。
著者
山田 賢次 福井 祐一
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.S31-S32, 2018-07-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
7

近年、技術が進歩して遺伝子解析等の手法が用いられる時代になってきたが、未だ、 猫における嗜好性に関する研究・報告は少なく、明らかにされていない。そこで今回、嗜好性において香りの成分で重要であるメイラード反応物質(フラノン、ピラジン等)、味覚の部分で重要であるアミノ酸、核酸系調味料・ピロリン酸について特許・文献検索から解析した。 これらの項目は複数企業で嗜好性向上項目として特許申請、論文発表をしているので、この手法を用いた解析は有用であることが示唆された。
著者
徳岡 大 解良 優基
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.186-198, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
23

2×2達成目標モデルにおいて,課題要求の達成を目指す習得接近目標と,課題要求の達成失敗の回避を目指す習得回避目標は,行動指標のどのような側面に影響がみられるか明確でなかった。本研究の目的は,ウィスコンシンカード分類課題を用いて,習得回避目標の影響が,誤答後試行にのみ反応時間の遅延がみられるか明らかにすることであった。大学生および大学院生140名を対象に実験が実施された。達成目標は,教示によって習得回避目標,習得接近目標,遂行回避目標,統制の4条件が操作された。反応時間を従属変数とし,ex-Gaussian分布を仮定した一般化線形混合モデルによって,操作された達成目標と1試行前の正誤反応の及ぼす影響を検討した。その結果,習得回避目標条件においてのみ,1試行前が誤答だった場合に反応時間の遅れがみられ,習得接近目標条件,遂行目標条件および統制条件においてはこのような反応時間の遅れはみられなかった。
著者
古河 佳子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.はじめに<br><br>近年,日本における地域振興の手法の一つとして,観光産業が注目されている.そうした観光による地域振興手法は,今日,多くの地域で試みられる傾向にある.<br><br>1970年代から,観光キャンペーンや文化財保護法の施行を背景に,国内観光は日本らしさや伝統文化を新たな素材とするようになってきた.この結果,都市化の波から取り残された地域で,自地域の資源を活用して観光を誘致する取り組みがなされるようになった.<br><br>観光による地域振興については,住民意識や活動の影響など,地域内での展開に着目した研究が数多くあるが,本稿では,個別地域内での展開ではなく,実施地域間の関係に着目する.この関係を解明することは,類似の地域振興手法が広がっていく現象を理解し,その趨勢を把握する一つの糸口になると考える.本稿では,全国的に活用されている観光素材として,観光ひな祭りを取り上げ,地域同士の情報の伝播や広域的な関係が全国的展開をもたらした過程と,全国的展開へ向かう動きが収束した後における広域的な関係に焦点を当てる.<br><br>ここでは,観光ひな祭りの概要と地域間の関係を広く把握するために,全国的展開の核となった徳島県勝浦町,大分県日田市を中心とした12か所のひな祭り関係者に対する聞き取り調査(2017年3月~11月実施)に加え,69か所のひな祭り関係者に対するアンケート調査(同年10月実施,回収数40,回収率58.0%)を行った.<br><br><br><br>2.観光ひな祭りの概要<br><br>観光ひな祭りとは,家庭の習俗であったひな祭り・ひな人形を素材として,2~3月の特定の時期に,町内の軒先や公共施設に飾りつけをする観光イベントのことである.観光ひな祭りは,1990年代から2000年代にかけて全国的に広まり,筆者が把握しているだけでも130以上の地域で実施されている.特徴としては,2月の観光オフシーズンに合わせて開催される傾向にあるほか,ひな人形が地域内で調達可能であるため,必要な資金が少額で済むことや,住民を巻き込み,なかばボランティア的に開催できることが挙げられる.これらの特徴が,各地で類似のイベントが急速に広まることを後押ししたと考えられる.また,直接的には採算性に乏しいこともあり,観光振興だけでなく,地域内のコミュニティや住民のアイデンティティに対する効果も含めた目的をもって実施されている.<br><br><br><br>3.観光ひな祭りの全国的展開と交流形成<br><br>観光ひな祭りの広域的展開には,①形式の伝播,②開催手法の伝承,の二種類の過程が存在する.①形式の伝播は,他地域から「ひな人形を町に飾る」というアイデアを取り入れるが,自地域で開催する過程は手探りで行うというものである.②開催手法の伝承は,開催地域が先進地域とのネットワークやイベント成功への強い意識を持っている場合に,先進地域からイベントや組織の運営に関する助言を得た上で観光ひな祭りを始めるというものである.<br><br>これに加えて,送り手による働きかけが,観光ひな祭りの全国的展開に大きな役割を果たしたという面も見られる.九州のひなまつり広域振興協議会では,九州各地で,貴重なひな人形の一般公開を呼びかけるとともに,人形の鑑定やコーディネートを行っている.徳島県勝浦町では,ひな人形里親制度を通じて他地域にひな人形を提供することで,ひな祭りと強く結びついた背景を持たない地域での観光ひな祭りを実現させている.<br><br>全国的展開に向かう動きは,2010年以降飽和状態に達しており,その結果,地域間に競争が見られるようになっているが,観光ひな祭りを実施する各地域は,他地域を競合相手とは捉えておらず,ひな祭りサミットを開く等の手段を通じて,広域的な情報交換を行い,自らの独自性を出そうとしている.しかし,観光客のルートに即して連携しようとする動きはほとんどなく,年間のうちの同じ時期に行われている利点を活かしきれていないのが現状である.また,ひな祭りが同じ時期に行われることは,広域的連携の一つの障害となっており,これらの連携が持続的に深まっているとは言えない.<br><br> こうした結果を踏まえると,地域振興手法の全国的展開には,形式の伝播によるアイデアの入手と,開催手法の伝承があり,加えて送り手の働きかけが大きな役割を果たしていると言える.また,全国的展開が収束した後も,地域間関係は友好的であり,地域の独自性を出すために,さらなる情報交換が行われることになる.各イベントが地域の手探りで行われ,地域の特徴と深く結びついているために,他地域の模倣と認識されにくいことや,情報の送り手となる地域が,先進地域として認識されることを肯定的に捉える傾向にあることが背景にある.