著者
鬼頭 秀一 丸山 康司 佐藤 哲 井上 有一 池田 啓 桑子 敏雄 丸山 徳次 白水 士郎 森岡 正博 松田 裕之 森岡 正博 蔵田 伸雄 松田 裕之 瀬戸口 明久 立澤 史郎 福永 真弓 吉永 明弘 富田 涼都 安田 章人 二宮 咲子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

生物多様性保全と自然再生の理念は、地域社会の文化や社会のあり方と密接に結びついており、そのようなものを統合した「地域再生」の理念と深い関係がある。そのため、自然と社会や文化の入れ子状態の中で、「サステイナビリティ」などの自然にかかわる理念も社会や文化の理念から再定義されなければならない。そのようなことを実践的に可能にするための人材育成のあり方を実践的に提示するとともに、生物多様性保全や自然再生が、治水や災害などの問題も含めた包括的な環境や社会のあり方、さらには、エネルギーや脱炭素化社会の構築にも展開できる社会的な論理を提示した。『環境倫理学』(東京大学出版会)を出版してその成果の内容を提示した。
著者
薮下 史郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、これまで行ってきた『不完全情報と金融市場』に関わる研究の延長線上にあるもので、情報の不完全性や取引費用観点から貨幣金融制度の役割およびその発展過程を理論的に考察し、さらにそれらを日本とアメリカに関して歴史的に比較分析を行ったものであった。完全情報や完全競争市場を前提とした新古典派経済学においては「貨幣」、「金融機関」や「制度」は重要な役割を果たさないが、不完全情報や取引費用が存在し、市場が不完全な経済においては、貨幣制度や金融システムなどの制度のあり方によって、経済活動や経済発展が大きな影響を受けることになる。また、こうした問題を分析するためには経済と政治制度や政治過程との関連を重視した政治経済学的アプローチが不可欠になる。本研究で行った研究は大きく次のように分類することができる。(1)これまでの成長理論や内生的成長理論における貨幣の役割を整理するとともに、貨幣金融制度と経済成長との関連を理論的に分析した。(2)中小企業金融の問題点がどこにあるかを情報の不完全性から明らかにするとともに、それを経済発展と関連づけて考察した。(3)経済制度の意味を明らかにし、また、そうした制度の成立および変化をゲーム理論や新制度学派のアプローチなどを用いて理論的に考察した。(4)明治初期およびアメリカの19世紀における貨幣制度の成立過程を比較検討することにより、政治と経済の相互依存の重要性を明らかにし、理論的分析を補完した。こうした研究成果を『貨幣金融制度と経済発展:貨幣と制度の政治経済学』(有斐閣:2001年9月)としてまとめ刊行した。また、大学内外の研究会などで発表するとともに2002年3月末には上掲書の内容に基づき、『不完全情報下の金融システムと経済発展』と題して南開大学(中国天津)において集中講義を行った。本研究から導いた結果は、今後進める予定である中小企業金融や開発金融に関する研究の基礎となるものであった。
著者
立田 ルミ 富澤 儀一 大西 雅行 中西 家栄子
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、日本文化が若い世代にどのように捕らえられているかをインターネットを通じて知らせ、また、英語圏の外国人学生が日本文化に対してどのようなイメージを抱いているかの意見を載せ、ホームページを見た人達がこれらに対してどのように感じるかの意見交換の場を設けることにより、よりよく日本文化を理解してもらうことを目的としている。これらのホームページから、日本人学生は日本文化がどのように英語と日本語で紹介されているかを知り、英語圏の外国人学生は日本語と英語でどのように日本文化が紹介されているかを知ることにより、日本文化に対する理解を深めることの助けとなる。以前に開発した茶道のコースは教える側からの日本文化紹介が主であったが、本システムの開発に当たって研究会で何度も議論した結果、教える側からの日本文化の押し付けではないような形にすることに決定した。そこで、獨協大学学生と東京理科大学学生がもし日本文化を紹介するならどのような事を紹介したいかを調査し、それらの調査結果をまとめたものを土台としてシステム開発することにした。それと同時に、獨協大学に滞在中のエセックス大学学生に対して、自分の国に帰ったらどのように日本文化を紹介するかも日本語で書かせた。またイリノイ大学で日本文化を学んでいる学生に対しては、どのような日本文化をもっと知りたいかを調査した。イリノイ大学に留学中の日本人学生に対しても、どのような日本文化を外国人に知らせたいかを調査した。また、日本語をこれから教えようと思っている獨協大学学生に対して、どのような日本文化を通じて日本語を教えたいかを問うた。これらの学生の意見を土台にして、各日本文化の項目について日本語と英語の両方の言語で個々にホームページに載せるとともに、それと関連する写真も載せた。またこれらをデータベース化して、そのトップ3位について詳しく解説を載せた。またこれらのページを見た学生が、自分の意見を追加できるように設計した。この意見交換については文字情報だけでなく画像情報も載せ、ページを見た人はいつでも日本文化に対する意見を投票できるように工夫した。
著者
末吉 秀二 アブドゥルモネム メルカウィ
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヨルダン南ゴールにおいて1950年頃に定住した2つのクランを対象とした家系人口調査をもとに、本研究は、定住の初期(1950-69年)、中期(1970-89年)、後期(1990-2009年)における年平均人口増加率が、0.040、0.041、0.036、および0.039、0.042、0.036と定住初期から中期にかけて上昇し、中期から後期にかけて減少したことを明らかにした。しかし、両クランともに2030年には人口が2倍になることが予想されることから、生存適応を脅かす過剰人口に対する方策の必要性が示唆された。
著者
武田 裕子 大滝 純司 高橋 都 甲斐 一郎 稲福 徹夜 高屋敷 明由美 大滝 純司 高橋 都 甲斐 一郎 森尾 邦正 稲福 徹也 高屋敷 明由美 安井 浩樹 武村 克哉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本調査では、医師が専門とする診療科および勤務地選択の際の要因や関連する因子を探るべく、全国の医学部4年生・6年生ならびに研修医を対象に、アンケート調査を実施した。また、すでに専門診療科をもって診療している医師会会員(3県)にも同様の調査を実施した。回答者の属性や個人的な体験・考え方、生育地の規模が特定の診療科選択や最終的な勤務地の決定に影響することが見出された。回答した学生・研修医の2/3がへき地勤務を肯定的にとらえていることがわかった。また、勤務地の決定には生育地の規模が大きく影響していた。
著者
小川 家資
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、職場におけるペットの導入が作業者のストレス解消や緩和にどの程度貢献できるかについてオフィスを見立てた実験室での実験と実際の職場での実験から検証した。(1)オフィスを見立てた実験室での実験では、作業効率(作業パフォーマンス)、生理変化(心拍数、脳波)、心理変化(気分プロフィール検査)、人の行動解析を用いてペット以外の条件と比較して検証した。課題とする作業は「単純データ入力作業」、「連続加算作業」、および「パズルゲームによる創造作業」の3水準、休憩は、「ペットと遊ぶ」、「ペット型ロボットと遊ぶ」、および「雑誌を見る」の3水準の計9条件で実験を実施した。実験は被験者2〜3名がオフィスを見立てた実験室で同じ課題作業10分を3回繰り返し、それらの作業間に休憩5分を同じ条件で2回実施した。本学の健康な学生12名(男子6名、女子6名)が被験者として参加した。結論として作業による効果の違いはあるがペットの介在は職場ストレス緩和に貢献できる可能性が示された。(2)実際の職場での実験では、休憩時に犬と触れ合うことによってどのような気分変化が生じるかを検証した。職場ストレスの指標として気分プロフィール検査を使用した。対象者は男性職員4名と女性職員4名であった。測定は出勤時、昼の休憩前後、退勤時の1日4回で対象者にはこの実験へ最低3日の参加をお願いした。この結果から休憩時に犬と触れ合うことは午前中の仕事によって下がった職員の生き生き感を出勤時以上の状態まで増加させ、思考力低下を抑える効果がみられた。以上の2つの実験から職場ストレス解消にはペット導入が作業者の作業効率、生理的な効果、心理的な変化にプラスの効果があることがわかった。しかしながら、現実問題として犬嫌いの人への対応と対象課題作業以外への効果がこれからさらに検討を加えるべき課題として指摘した。
著者
山中 智行
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ハンチントン病等のポリグルタミン病は、優性遺伝性の神経変性疾患であり、原因遺伝子内の翻訳領域のCAGリピートが正常型に比べ約2〜3倍に異常に伸長することによって生じる。結果、遺伝子産物のポリグルタミン鎖が伸長され、この伸長ポリグルタミン含有タンパク質が毒性を獲得することにより、神経細胞の機能障害、変性をきたすと考えられている。病態機序としては、伸長ポリグルタミン含有タンパク質が核内に凝集体(核内封入体)を形成すること、また、核移行を人為的に阻害すると神経変性効果が劇的に減少することから、核内が主要な作用部位であると考えられている。さらに、モデルマウス等を用いた遺伝子プロファイル解析から、特定の遺伝子の発現異常が作用点の1つであると考えられている。私は、ハンチントン病モデル細胞から精製した核内凝集体の網羅的質量分析より、変異ハンチンチン(伸長ポリグルタミン含有ハンチンチン)に相互作用する新規タンパク質として、転写因子であるNF-Yを同定した。さらに、ハンチントン病モデルマウス脳において、変異ハンチンチンの凝集体はNF-Yを取り込むことにより、NF-Yを介したHSP70シャペロンタンパク質の転写活性を低下させることを見出した。このHSP70は変異ハンチンチンによる神経変性に抑制的に働いていることがすでに報告されている。よって、本研究より見出された変異ハンチンチンによるHSP70の発現抑制機構は、ハンチントン病の病態進行に深く関わっていることが示唆される。
著者
金子 勝一 小田部 明 山下 洋史 上原 衛 松田 健
出版者
山梨学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

若年者の離職・転職および失業の問題が深刻化している。これらの問題を大卒者に限定した場合、入社後3年以内の離職率は3割を超えている。また、若年者が仕事に対する理想と現実のギャップに悩んでいるという指摘がなされている。一方、情報技術(ICT)の急速な進展やグローバル化の流れの中で、多くの日本企業は、これまでのジェネラリスト重視の単線的な採用活動から脱却し、スペシャリストを含めた複線的な採用を進めようとする動きである。このような状況をふまえて、大学や企業・行政が学生の就業意識や職業能力の向上を図るための取り組みの一つとしてインターンシップに注目し、その導入を進めている。本研究では、インターンシップに着目し、大学と企業・行政・地域との関係におけるインターンシップの位置づけについて、人的資源管理論・組織論・情報管理論といった経営学的立場からその理論的枠組みの構築を試みている。研究期間の3年間に、インターンシップ導入大学の増加要因フレームワーク,インターンシップ導入による相互準アウトソーシング・モデル,'インターンシップの準インハウスソーシング・フレームワーク,低賃金アルバイト的インターンシップ・フレームワーク等、多くの研究成果を生み出し、それらの成果を学会発表や学術雑誌の論文として、公表してきた。これらの研究成果は、インターンシップに焦点を当て、学生、大学および企業間のコラボレーションの関係の議論を展開し、インターンシップに関する新たな視点を提示したものである。今後も、研究メンバーと共同で継続的に研究を進め、研究成果を公表するとともに、積極的に教育へ還元していく予定である。
著者
張 浦華 原田 昭 柿山 浩一郎
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

形態に対しての感性的総合評価は、"形態"からの"感性的連想"に大きく影響されている。本研究は、第一印象である"情緒的連想"、他の形態への連想を想起させる"比喩的連想"、働きを連想する"機能的連想"に注目し、(1)総合評価とイメージ連想の関係。(2)総合評価と脳波(前頭葉α波)の関係。(3)総合評価とアイトラッカーを用いた視線遷移、の3つの計測システムの連動により、形態に対する快・不快についての感性的総合評価との関連を探るシステムを構築することができた。
著者
天野 恵美子
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海外市場において広く受け入れられ、各国固有の食文化との相互作用の中で独自の変容を遂げてきた日本食の「普及と現地食文化との融合過程」を明らかにするため、1980年代から北米および中国市場で事業を行ってきた複数の食品企業のマーケティングについて文献調査および現地ヒアリング調査を行った。市場参入に際して、現地市場(生活習慣や商慣習等)に精通している事業者と共同でマ十ケティング活動を行い、製品開発・販売段階においては現地の食嗜好や食習慣を調査し、現地消費者に受容されるよう適応化(マーケティング戦略の変更・修正)努力を行っていた。また市場開拓・普及期においては、「異文化・外来食」として知られていない食品そのものの認知度を高める地道なプロモーション活動や調理方法などについての啓蒙活動など、新規市場参入ゆえに必要となるマーケティング努力もあった。注目すべきは、食品企業が市場拡大を見据えて、「外来食」に対して先入観のない子ども世代の味覚形成にはたらきかけ、「次世代の顧客獲得」を目指すマーケティング活動を積極的に展開してきたことであり、日本食を提供する従来型の飲食店だけではなく、海外出店を加速させてきたコンビニエンスストア(CVS)が、日本の食(おにぎり、弁当、寿司、おでん等)を紹介する有力なチャネルとして現地に定着し、日本食普及の1大拠点となってきているということである。こうしたマーケティング手法やCVSの動向については、今後も継続的に検証・分析していく必要がある。以上、文化伝播・交流経路としての食品企業のマーケティング研究を通じて、食の異文化接触と受容、普及にともなって生ずる現地食文化との融合、現地食文化の変容という国際化時代の食の今日的位相を検証した。
著者
高橋 恵子
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:親しい人間関係の発達を理解する代表的な理論である「愛着理論」と「ソーシャル・ネットワーク理論」を理論的・実証的に吟味した上で,両者を統合する理論として筆者が構築してきた「愛情の関係モデル」を提案し,妥当性を実証的に検討することをねらいとしたものである。研究の内容:ステップ1は2理論の基本的な相違を明らかにした上で,先行研究を概観し,人間関係は愛着をその一部として含むソーシャル・ネットワークとして捉えることが有効であるという立場から,筆者の「愛情の関係モデル」を提案した。「愛情の関係モデル」は,個人が持つ複数の重要な他者からなる親しい関係の性質を正確に記述し,さらに,個々人の複雑な関係のネットワークを類型化して個別の特徴をとらえて見ようというものである。ステップ2では「愛着理論」の測定具(Strange Situation Procedure,Doll Play,Attachment Interview,Attachment style)をわが国で使用する場合の問題を検討し,「愛情の関係モデル」の測定具(愛情の関係スケール,ARSと絵画愛情の関係検査,PART)を提案した。ステップ3では幼児から高齢者までの研究協力者から得た実証的な資料について4つの研究をした。最後に,愛着の機能を認めたうえで,それをソーシャル・ネットワークの中に位置づけることの大切さ,しかも,ソーシャル・ネットワークの個人差を記述することを可能にした「愛情の関係モデル」の重要さ,について論じた。
著者
中川 淳司 福永 有夏 ORTINO Federico LENG Lim Chin LALLAS Peter FELICIANO Florentino MAGRAW Daniel PLAGAKIS Sofia
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、近年利用件数が急増しているWTO(世界貿易機関)の紛争解決手続および投資紛争の仲裁による解決手続における透明性の確保をめぐる理論的問題点を整理するとともに、実務上の課題となっている透明性確保・向上のための諸方策の導入可能性について、内外の国際経済法研究者・市民団体の代表者が共同で検討し、これらの紛争解決手続における透明性の確保に関する将来の方向性を明らかにすることを目指すものである。平成20年度と平成21年度には、2度の国際研究集会(Society of International Economic Law設立大会(平成20年7月、ジュネーブ大学)、アジア国際法学会第2回研究大会(平成21年8月、東京大学))において「国際貿易紛争・国際投資紛争の解決における透明性」をテーマとするパネル・セッションを開催し、本研究のメンバー全員が各々の担当する研究テーマについて報告を行った。平成22年度は前年度および前々年度の研究成果を踏まえ、メンバー間でさらに意見交換を行ったうえで各メンバーが研究の最終成果を英文の論文として取りまとめる作業を行った。本報告書執筆時点でFlorentino Feliciano氏を除くすべてのメンバーおよびDaniel Magraw氏が主催する国際環境法センター(ワシントンDC)の研究員であるSofia Pragakis 氏から論文の原稿が提出されている。Feliciano氏の原稿提出を待って研究代表者とDaniel Magraw氏が共著でIntroductionを執筆し、Transparency in International Trade and Investment Dispute Settlementという表題の英文の編著として刊行する予定であり、現在ケンブリッジ大学出版会との間で刊行に関する交渉を進めている。研究成果の詳細は上記近著に盛り込まれたとおりであるが、以下で簡単にその概要を述べる。(1)WTO紛争解決手続および投資紛争仲裁手続における透明性とは、(i)紛争解決手続の公開、(ii)紛争解決に関連する文書(当事者の提出書面および解決結果(WTO小委員会報告及び上級委員会報告、投資紛争仲裁判断)の公開、の2点によって判断される。(2) これらの紛争解決手続における透明性は、国内裁判所や他の国際裁判(例えば国際司法裁判所)に比べると低いが、いわゆる国際商事仲裁よりは高い。この点は、(i)紛争の当事者の性格(前者はWTO加盟国同士、後者は投資受入国政府と外国投資家)、(ii)扱われる争点の性質(ともに貿易・投資に関する国家の規制の合法性が争われる一方、紛争の真の争点は私企業の利害に直接関連する事項であること)、(iii)紛争の最終解決に至る過程で紛争当事者の妥協による法廷外解決の可能性が排除されていないこと、などの特性にその根拠が求められる。(3)他方で、いずれの紛争においても国家の規制の合法性が争われ、その結果は当該国の経済社会生活に大きな影響を及ぼすことから、紛争当事国国民や市民団体の紛争に対する関心が高く、この点からこれらの紛争解決手続きの透明性を一層高めるよう求める要求が出てくる。(4)(2)で挙げた諸特性と(3)で指摘した要求を勘案し、両者の均衡点を求めることが必要であり、WTO紛争解決手続、投資紛争仲裁の各々について、扱われる争点の性質や当事者の特性の考慮(特に、投資紛争仲裁における外国投資家の営業秘密保持への配慮)を行いながら、透明性の一層の向上策を提案する。ただし、研究メンバーの中には、WTO紛争解決手続について、争点によってはむしろ輸入国の国内裁判所による解決(そこでは高度の透明性が保証されている)を優先させるべきであり、WTO紛争解決手続の透明性を高めることには消極的な見解を述べた者もいる。
著者
松浦 健二
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

WEB上のコミュニティ空間に、実世界での動作を伴う身体スキルの情報を蓄積し、それを活用する支援環境を設計および構築した。本研究を通じて、個人の身体スキルがコミュニティ空間を媒体として他者に伝播し、コミュニティに属する個人のスキル学習につながる様子が観測された。この中で、身体スキルを表現するには、各種のセンサを用いたメディア処理を適正に実装する必要があり、技術開発も実施した。
著者
玉野 和志
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

資本主義世界経済の転換の下で,各国の都市政策には,グローバル・シティ・リージョンズなどの議論にみられるように,国境を越えて結びつき,成長地域を形成していくことが求められている.本研究では,日本の都市と都市政策において,そのような動きがどの程度具体的に進んでいるかを検証した.検討の結果,1970年代以降そのような必要に駆られた欧米と比べると,日本においてそのような戦略が求められるのは90年代後半以降の比較的最近のことであって,そのためかそのような成長戦略の必要性がまだ十分には認識されていないことが明らかになった.この点は現在の日本経済を考える上でも,興味深い点であり,さらなる検討が求められる.
著者
多田 學 天野 宏紀 神田 秀幸 金 博哲
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

近年、本態性(老人性)痴呆症の発症や病態のメカニズムが明らかにされるにつれ、脳機能低下を予防させるために、より早期に精神機能の低下の兆候を特定することに注目が集まってきている。従来我が国において実施されてきた痴呆症対策は、痴呆がある程度のレベル以上に進行してしまっているため、改善が極めて困難な状態の痴呆症に対する医療・リハビリテーションによるケアであった。そこで、我々は島根県H町在住の初老期以降(50歳以上)の地域住民について、二段階方式診断法を用いた軽症痴呆症の評価法及び脳活性化対策の有効性を検討し、次のような結果が得られた。1)性・年代別かなひろいテスト得点では、女性において加齢による得点の低下が見られた。2)本研究では二段階方式診断法を用いて参加者58名のうち前痴呆8名、軽症痴呆4名であった。3)かなひろいテストの得点とMMSの得点との相関係数は0.6868で、正の相関が認められた。4)脳活性化対策実施後で60歳代男性を除いて全ての性・年代別で教室前のかなひろいテスト得点を上回った。5)脳活性化対策の継続実施は教室前の状態に比べ痴呆状態を改善しうることが明らかになった。特に、対策開始後2年間継続によって、かなひろいテスト平均得点の上昇がピークに達することが分かった。6)ライフスタイル調査では、重点対策前と対策開始1年後で参加者の日常生活に、ADLや対外的な行動に大きな割合の変化は無かった。7)参加者の痴呆に関する意識では、対策開始後1年でアンケートに14名全てが「自分は痴呆にならないと思う」と回答した。
著者
河崎 哲嗣
出版者
京都府立嵯峨野高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

現在,青少年の「理数・科学技術離れ」が巌然と存在し,青少年の学力低下や理数系進学者数の減少も深刻な社会問題になっている。日本の数学教育研究においては,後期中等教育及び高等教育分野での研究が盛んでないこともあり,高等学校と大学との連携や科学・技術分野との融合を意識した研究はほとんどなされていない。このような現状認識に鑑み本研究は,理系分野への進学を目指した中学・高校生を対象にし,大学との連携も意識した新しい高等学校(中等教育学校)数学単元の開発を将来の最終課題としている。今回の取り組みでは,大学・企業団体を中心にして催されているソーラーボートコンテストへの出艇を目指し,中学・高校生の科学・技術への興味・関心を高める活動に焦点を充てた。2007年5月26日東京大学工学部キャビテーションタンク棟にて,流体力学の考えとソーラーボート製作のノウハウを享受された。また,8月25日には第11回クルーレスソーラーボート大会先端技術部門に参加し,船体の模擬実験として工夫を試みた。新たな船体製作は,京都教育大学木工室を拠点とし現在も改良工夫中である。また,京都教育大学安東茂樹教授から中学・高校レベルにおけるボート製作資料及び指導を受け,今後も生徒自身が制作でアイデアを加味できるように改良を続けていく。次に,数学からのアプローチとして,位置や距離の把握を地球規模で捉える内容を扱ったテキストや船体構造に向けての空間把握の簡単な認識調査を行った。前半のテキストについては,京都府立嵯峨野高等学校第1学年自然科学系統20名対象に「シンガポール〜学校までの距離測定」として冬休みの課題とした。また後半の認識調査の結果は,数学Iの空間図形への応用の中で行い2面角の理解が育成されていない問題点が明確になった。これらの内容は,http://www2.hamajima.co.jp/~mathenet/wiki/index.php?NetaTaneMenuでも公開しており,また12月7日キャンパスプラザ京都において,京都高大連携研究協議会主催の第2分科会「高大数学教育の接続の可能性を具体的実践から探る」,続いて3月24日近畿大学理工学部において数学教育学会春季年会Organized Session Bの両会で一部発表を行った。さて先進技術であるGPS機能を取り入れたマイコン制御を駆使したプログラミング教材は,京都教育大学附属高等学校山田公成氏から援助を受け模擬実験を重ね概ね完成している。京都教育大学附属高校の情報の授業の中で基礎実験として取り入れる方向として発展拡大していく。今後生徒の数学への興味・関心を高め,数学の学習内容の理解の増進を図ることを基本としつつも,大学数学(工学系及び技術)を意識した教材を提供し,更に広めたいと考える。従って今回は1年で区切りをつける研究ではあったが,次年度以降も研究開発を続け成果報告を行う計画である。
著者
宇都宮 京子 稲木 哲郎 竹内 郁郎
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

3年間の研究期間のうち、1年間は、「呪術」という概念の意味を確認するために、それぞれの研究者が分担して、購入した民俗学、宗教学、社会心理学、哲学の領域の書籍を検討し、また、必要に応じて地方にも情報集めに行った。2年目は、1年目で得た情報に基づいて調査を行った。3年目は、それらの結果を整理しつつ分析を行い、総合的見解と今後の課題とをまとめた。2年目の調査においては、1)宗教的伝統に基づいた行為、儀礼、儀式、2)民俗学などの著書に記されている言い伝え等、3)真偽が疑われつつもマスコミなどで時々取り上げられる超常現象、4)いわゆる慣習に基づいた諸行為、5)意志決定に際して、示唆を得るための呪術的行為などの様々な項目について、学歴や職種や地域によって見解の相違が見られるかどうかを調らべることにし、その対象地域は杉並区と荒川区とした。そして、調査結果の単純集計をとり、さらに、呪術的要素と説明変数(地域性・性別・年齢層・学歴・職種・危機体験の有無・科学観など)とのクロス集計をとった。以上のような調査結果の検討を通して、人々の生活の中には、現在も伝統、慣習、宗教などさまざまな要因と結びついて、非合理的と思われる要素が多様なかたちをとって深く染み込んでいるということがわかった。そして、科学的に説明されていなくても、社会的に通用している呪術的要素は多々あり、生活の中における「合理性」の意味をあらためて問う必要性を感じた。同時に、今回の調査を通して、初めは外すつもりであった地域に根ざす文化的要素が意外と重要な意味をもっていることに気づいた。今回は、杉並区と荒川区という東京都の2区でしか調査をおこなえなかったため、地域差についての一般的な結論を出すことはできなかったが、今後、より広い地域で調査をおこない、地域にもとづく文化的要素と呪術的要素との関係の考察を進めていきたいと考えている。
著者
久保 啓太郎 金久 博昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(研究1)長距離選手および短距離選手における筋腱の力学的特性と跳躍能の比較 陸上長距離選手15名、陸上短距離選手15名を対象にして、下肢筋群(膝伸筋群、足底屈筋群)の筋厚、等尺性最大筋力、筋活動水準およびtwitch特性、腱の力学的特性、跳躍能(SJ,CMJ,DJ,連続ジャンプなど)を測定した。筋厚、最大筋力、活動水準は、長距離選手群が短距離選手群よりも有意に低い値を示した。電気刺激中の最大張力までの到達時間(筋の収縮速度を示す)は、速筋線維を多く有すると思われる短距離選手は短く、逆に遅筋線維を多く有すると思われる長距離選手は長かった。腱の力学的特性については、膝伸筋群において短距離選手が伸びやす<、足底屈筋群において長距離選手が伸びにくい傾向を示した。跳躍能についてはいずれにおいても長距離選手が短距離選手よりも有意に低い値を示した。現在は、上記の結果をもとにして投稿論文を作成中である。(研究2)陸上長距離選手における筋腱の力学的特性と跳躍能のシーズン毎の変化 陸上競技長距離選手15名(箱根駅伝常連校のメンバー)を対象にして、休養期(2月)、トラック(スピード)練習期(5月)、鍛錬期(9月)の3回にわたり、下肢筋群(膝伸筋群、足底屈筋群)の筋厚、等尺性最大筋力、筋活動水準およびtwitch特性、腱の力学的特性、跳躍能(SJ,CMJ,DJ,連続ジャンプなど)、規定速度における走行中の酸素摂取量を測定した。最大筋力、活動水準、跳躍能には、有意な変化は観察されなかったが、9月における走行中の酸素摂取量が低<なる傾向を示した。その他の項目については、現在分析をすすめている。
著者
横田 一正 劉 渤江
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

実空間を歩行するとき、仮想空間の情報を付加することにより、より豊かな体験をすることができる。本研究では、2つの空間の融合モデルを提案し、電子ペーパー等を考慮した携帯機器を使用したプロトタイプシステムを開発し、その有効性を確かめた。
著者
上野 耕平
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,運動部活動への参加を通じて形成されたライフスキルに対する信念を基に,生徒が時間的展望を獲得できるプログラムを開発し実践することであった。その内本年度は,1)これまでの研究期間内に明らかにしてきた成果をまとめ,国内外に広く公表する,2)諸外国におけるスポーツ活動への参加とライフスキルの獲得に関する先行研究の検討する,ことが活動の中心となった。昨年度は,研究初年度に行った調査研究の結果構築された仮説モデルに基づき,実際に運動部活動場面に介入した実践研究を行った。そこで研究成果については,研究初年度からの成果を体系的にまとめた上で,ヨーロッパスポーツ心理学会及び日本スポーツ心理学会で発表を行った。また,日本スポーツ心理学会では,アスリートを対象としたライフスキル研究に関するシンポジウムに指定討論者として参加し,今後の研究の方向性について言及した。さらに,運動部活動を対象とした実践研究の成果については,研究紀要において紹介した。他方,北米を中心に実施されている,スポーツ活動への参加を通じたライフスキル獲得に関する研究成果についてもまとめた。その結果,1)理論的背景を有する介入実践を伴う実証的研究,2)スポーツ経験の実質的な内容を扱う研究,3)ライフスキルの獲得と関係する心理的側面を変数として扱う研究,が求められていることが明らかになった。本年度までの研究により,運動部活動への参加を通じた時間的展望の獲得は,1)実体験や部活動経験の振り返りを通じたライフスキルに対する信念の形成,2)ライフスキルに対する信念に基づいた運動部活動経験の肯定的解釈,を通じて行われることが明らかにされた。今後はライフスキルの獲得も含め,運動部活動の指導現場で実施可能な方法について,より具体的な事例の提供が求められよう。