著者
加藤 正晴
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,画像注視時の乳児の視線パタンに着目し,顔認知の発達過程を検討した.視線パタンの類似度を定量化する手法を開発し,生後6ヵ月から13.5ヵ月までの乳児を対象として視線パタンを分析したところ (1)顔画像に対する視線パタンは発達と被験者間で共に互いに類似してくること,(2)家画像に対してはその変化がみられなかったことが示された.このことは,顔特有の認知的処理が発達と共に習熟化・効率化してくる様を捉えたと考えられる.また健常な成人及び自閉症スペクトラム障害者(ASD)に複数の顔画像を見せたところ,(3) ASDは顔特有の認知的処理が健常者ほど習熟化・効率化していないことが示唆された.
著者
佐川 馨
出版者
秋田大学教育文化学部総合教育実践センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.28, pp.33-43, 2006-04

本研究では,秋田県の学校音楽教育における「日本の音楽」の指導に関する教師の意識,授業での取り扱い,和楽器や指導資料の整備状況等についてアンケート調査を行った. その結果,秋田県においては「日本の音楽」の指導を好意的に捉えている教員が多く,「日本の音楽」に関する自分自身の知識・技能を高めたいと願っていることが分かった.また,授業での取り扱いは多いが,指導にあたっては自分の音楽経験に自身がもてず,苦手意識をもっていること,評価するための知識や音楽的感性などが充分ではなく,生徒の変容を的確に捉えられていない状況にあること,指導や教材研究に必要な和楽器や資料の整備が大きく遅れていること,などの問題点が明らかとなった.
著者
坂本 淳哉 後藤 響 近藤 康隆 本田 祐一郎 片岡 英樹 濱上 陽平 横山 真吾 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF2005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 先行研究によれば,関節包に由来した拘縮の発生メカニズムとして線維化の発生が指摘されている.ただ,この線維化の発生状況を詳細に検討した報告はなく,その発生メカニズムも明らかになっていない.一方,手掌腱膜の線維増生によって生じるDupuytren拘縮は,コラーゲン合成に関わるサイトカインを産生する筋線維芽細胞の著しい増加がその発生メカニズムに強く関与しているとされ,肺や肝臓などといった内蔵器の線維化にも筋線維芽細胞の増加が関与していることが近年報告されている.つまり,不動による関節包の線維化に対しても筋線維芽細胞の増加が関与しているのではないかと仮説できる.そこで,本研究では,膝関節不動モデルラットの関節包における線維化の発生状況と筋線維芽細胞の変化を組織学的・免疫組織化学的手法を用いて検討した.【方法】 実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット12匹を用い,無作為に無処置の対照群(n=5)と両側後肢を股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にてギプス包帯で4週間不動化する不動群(n=7)に振り分けた.実験開始時は,各群すべてのラットを麻酔し,0.3Nの張力で膝関節を伸展させた際の可動域(ROM)を測定した.そして,実験終了時は,不動群においては前述の方法でROMを測定した後,両側後肢後面の皮膚を縦切開し,膝関節屈筋群を切除した後に,再度,ROMを測定した.なお,対照群においては皮膚の切開や筋の切除は行わず,麻酔下でROMを測定した.その後は,両側膝関節を摘出し,最大伸展位の状態で組織固定を行い,脱灰処理の後,矢状断にて2分割し通法のパラフィン包埋処理を行った.そして,右膝関節の各試料から5μm厚の連続切片を作製し,105μm厚(連続切片21枚)につき1枚,のべ3枚の切片を抜粋し,コラーゲン線維の可視化のためにPicrosirius Red染色を施した.次に,各試料の染色像における後部関節包を40倍の拡大像でコンピューターに取り込み,画像処理ソフトを用いて画像上に縦,横50μm間隔に格子線を描いた.そして,後部関節包のコラーゲン線維束上に存在する格子線の交点の総数を計数し,対照群の平均値を基準に不動群のそれを百分率で算出した.また,筋線維芽細胞のマーカーとして使用されている抗alpha-smooth muscle actin(alpha-SMA)抗体を用いて免疫組織化学的染色を施した後,後部関節包におけるalpha-SMA陽性細胞の出現率を計測し,各群で比較した.なお,統計手法にはMann-WhitneyのU検定を適用し,5%未満をもって有意差を判定した.【説明と同意】 本実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】 実験終了時の不動群のROMは,対照群のそれに比べ有意に低値を示し,不動群のすべてのラットは皮膚の切開と筋の切除後もROM制限が残存していた.次に,Picrosirius Red染色像を検鏡すると,不動群では後部関節包の肥厚や線維増生が認められた.そして,前述の方法で画像解析を行った結果,対照群の平均値に対する不動群の百分率は有意に高値を示した.また,不動群におけるalpha-SMA陽性細胞の出現率は対照群のそれに比べ有意に高値を示した.【考察】 今回の結果,実験終了時の不動群のROMが対照群のそれに比べ有意に低値であったことから,拘縮の発生は明らかである.そして,不動群では皮膚の切開と筋の切除後もROM制限が残存しており,これは関節構成体にも拘縮の責任病巣が存在することを示唆している.先行研究によれば,正常関節の運動時の組織抵抗寄与率は関節構成体の中でも関節包が最も大きいといわれており,この残存したROM制限は関節包に由来するところが大きいと考えられる.そして,Picrosirius Red染色像の画像解析の結果は,不動群の後部関節包におけるコラーゲン増生を示しており,不動によって線維化が発生しているといえよう.そして,不動群に認められたalpha-SMA陽性細胞の出現率の増加は,筋線維芽細胞の増加を意味しており,これは不動によって惹起された後部関節包の線維化の発生に関与していると推察される.ただ,線維化の発生時期やその分子メカニズムは不明であり,今後の検討課題と考える.【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は,ラット膝関節を屈曲位で4週間不動化すると後部関節包に線維化が惹起され,この変化には筋線維芽細胞の増加が関与する可能性が見出された.つまり,これらの結果は,関節包由来の拘縮の発生メカニズムの解明の一助になる成果と考える.

1 0 0 0 OA 北米踏査大観

著者
柏村桂谷 (一介) 著
出版者
竜文堂
巻号頁・発行日
vol.上巻(加州日本人発展地之部), 1911
著者
住野 幾哉 山口 香 小林 好信 橋本 佐由理
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.67, pp.285_2, 2016

<p> 近年、水泳の萩野公介が北島康介の、「ありのままでいいんだ」との言葉で蘇生し、リオオリンピック出場を決めた。言葉によるエンパワーメントの重要性が再確認された出来事である。スポーツ選手に対する言葉掛けには大きな意味がある。キックボクシングは相手と対峙し打撃を主とする競技であり、心理面へのアプローチが競技パフォーマンスに及ぼす影響は非常に大きいと推察される。本研究は、キックボクシング選手がエンパワーメントされる言葉についての知見を得ることを目的に、選手が励まされた言葉は何であったのかに着目してインタビュー調査を行った。対象は学生キックボクシング選手10名である。分析方法は、ジョナサン・スミス(Smith J. 1997)の解釈学的現象学的分析を参考にスーパーバイザーの指示の下で分析を行った。その結果、彼らが励まされたと感じた言葉は大きく「賞賛」「教示」「励まし」「受容」というカテゴリーに分類された。なかでも「励まし」「受容」に分類されたものが多かった。また、指導者が与える言葉だけではなく、家族、先輩、チームメイトなどといった重要他者から発せられる言葉が選手に与える影響が大きいこともわかった。</p>
著者
林 徹
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.345-349, 2012-05-01 (Released:2013-05-01)
参考文献数
15

食品照射は食品にガンマ線や電子線を照射することにより食品の貯蔵期間の延長,衛生化などを図るための技術である.馬鈴薯,タマネギ,ニンニクの発芽抑制は20~150 Gy(グレイ),穀物や果実の殺虫は0.1~1 kGy,肉類などの殺菌は1~7 kGy,香辛料やハーブなどの殺菌は10 kGyでその目的を達成できる.放射線照射した食品は照射食品といい,原発事故で問題となっている放射能汚染食品とはまったく別物である.食品照射および照射食品を正しく理解していただくことを目的に,食品照射について解説する.
著者
河野 龍也
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.162-177, 2018

<p>佐藤春夫がデビュー前に油絵制作に励んでいたことは、その後の文学活動にどのような影響を残したのか。春夫が好んだ「後期印象派」は、本来客観的であるべき写実の概念を、主観の領域にまで拡大したもので、それによって生じた混乱をテーマに春夫は最初の小説「円光」を書いた。また「田園の憂鬱」にも、対象の〈意志〉を描くという「後期印象派」理論の過剰な視覚表現が見られ、それが文学的感性との間に葛藤を生み出す構造を指摘することができる。芸術ジャンルごとに異なる感性の相違は、その後の春夫が創作で追求する一貫したテーマであり、その由来はデビュー期の絵画体験にあったと考えられる。</p>
著者
庄司 一平
出版者
印度学宗教学会
雑誌
論集 = RONSHU (ISSN:09162658)
巻号頁・発行日
no.38, 2011-12-31
著者
佐々木 良江 仁平 昇 坂野 雄二
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.p13-21, 1982-12

本研究は, フィードバックが完全になされている状況における, 自己強化(SR)手続き顕在化の動機づけ効果を, 発達段階や達成動機の側面から検討することを目的として行われた。2×2×2の実験計画が用いられた。第1の要因は, 学年(2年・6年)であり, 第2の要因は達成動機である。予め実施された達成動機の調査から得点の高低により, それの高い群と低い群が設けられた。第3の要因はSR手続きである。すなわち, 自ら遂行量を記入し, それに対してよくできたと思ったら○を, あまりよくできなかったと思ったら×をつけるというSR手続きをする自己強化群(SR群)と, 遂行量のみを記入しSR手続きをとらないフィードバック群(FB群)から構成された。課題はWISC知能検査の符号問課(8歳以上用)が用いられた。主な結果は次の通りである。(a)2年生・6年生ともに, 達成動機の高低はSRの動機づけ効果に影響を及ぼさない。(b)2年生ではSR手続きを顕在化させた方がフィードバックのみよりも動機づけの効果は大きいが, 6年生では逆の関係になっている。(c)SR群において, 2年生・6年生ともに, 達成動機の高い群では負のSRの方が動機づけ効果が大きいが, 低い群では, 2年生児童において正のSRの方が動機づけ効果が大きいという傾向がみられた。(d)SR群における, 正か負のSRの決定に関して, 2年生の達成動機の高い群以外は, 正のSR前の方が負のSR前よりも遂行量の上昇量が多く, その傾向は6年生の方がより安定している傾向にある。しかし, (c), (d)においては被験者数が少なく, 有意な差は得られなかった。以上のことから, 6年生ではSR手続きを顕在化しなくても, covertなSR, つまり内潜的自己強化が行われていることを示唆している。しかし, これは
著者
北村 裕美 矢野 博己
出版者
流通科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は肥満の予防改善に対する運動の分子メカニズム的効果をオートファジーに着目して検討することであった。KO5マウスでは,20週間の自発運動により副睾丸周囲脂肪量や肝脂肪滴が顕著に減少した。脂肪組織中mRNA発現は,Atg5, Atg7が自発運動により増強し,LC3bが減弱した。脂肪組織中LC3-Ⅱ/LC3-Ⅰ比は自発運動によりWTマウスでは減弱し,KO5マウスでは増強した。KO5マウスでは,自発運動により腸内細菌多様性が低下し,Firmicutes門が減少した。オートファジー関連因子とFirmicutes門やBacteroidetes門との間に有意な関係は確認されなかった。
著者
Miwa Ono Satoshi Nakatani Keiji Hirooka Masakazu Yamagishi Kunio Miyatake
出版者
Japanese Society of Echocardiography
雑誌
Journal of Echocardiography (ISSN:13490222)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.8-14, 2003 (Released:2005-07-08)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

OBJECTIVES: Mitral valve closure produces a flow which propagates through the left atrium (LA) to the pulmonary vein (PV) and forms a small flow reversal (C wave) on the PV flow pattern. We examined whether propagation of mitral closure flow into LA might reflect LA compliance in patients with atrial fibrillation (AF).METHODS: We recorded PV flow velocity pattern using transesophageal echocardiography in 73 patients with AF. They were divided into 3 groups according to the estimated severity of LA damage; almost normal (Group I, 16 patients with lone AF), mildly damaged (Group II, 23 patients), and severely damaged LA function (Group III, 34 patients). C wave peak velocity (CV), the time from Q wave on ECG to the C wave peak (QC) and QC divided by LA long-axis diameter (QC/LAD) were obtained. Of the study population, in 18 patients with mitral stenosis who underwent percutaneous mitral valvotomy, mean LA compliance was calculated by dividing cardiac stroke volume by systolic rise in LA pressure.RESULTS: QC and QC/LAD proportionally prolonged as the disease severity increased (QC; 84±23 vs. 93±21 vs. 107±27 ms, p<0.01, QC/LAD; 1.44±0.32 vs. 1.47±0.32 vs. 1.79±0.55ms/mm, p<0.05 for Group I, II and III, respectively). QC and QC/LAD showed significant negative correlations with mean LA compliance (p<0.05).CONCLUSION: Propagation of a flow into LA produced by mitral closure may provide new noninvasive indexes to assess LA compliance in patients with AF.
著者
森畑 敏昭 木村 捨雄
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.333-334, 1996
参考文献数
4

文学的感動は, 現実認識を深め, 美的情操を高める教育的機能の側面から, 文学教育においてその重要性はかねてより指摘されてきた.しかし, その構造とプロセスの不明確さから, 直接的な指導の方針が得にくい現状がある.文学的感性を意味把握と生成感情を下位コンポーネントを持つものとしてとらえ, そのレベルとさらに下位のコンポーネントを探りながら, 子どもたちの文学的感動体験による自我の変用の実態に迫り, 文学教育における指導の指針を得る.
著者
多田 敦子 杉本 直樹 古庄 紀子 石附 京子 佐藤 恭子 山崎 壮 棚元 憲一
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-96, 2009-08-24 (Released:2017-01-27)
参考文献数
8

Ozokerite, a natural gum base used as a food additive, is described as a purified wax substance found in veins of wax shale and is composed mainly of C29-C53 hydrocarbons, in the Notice (1996) relating to existing food additives in Japan. In order to evaluate the quality of commercially available ozokerite, we have analyzed the constituents. GC/MS analysis of ozokerite showed that the main components were saturated C22-C38 hydrocarbons, while the minor components were saturated C39-C58 hydrocarbons. The range of carbon numbers observed in the main saturated hydrocarbons was lower than those referred to in the Notice. The total concentration of the main saturated C22-C38 hydrocarbons was found, by GC/FID analysis, to be 81%.
著者
黒田 顕 木島 綾希 金 美蘭 松下 幸平 高須 伸二 石井 雄二 小川 久美子 西川 秋佳 梅村 隆志
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-115, 2012 (Released:2012-11-24)

【目的】鉱物由来ワックスであるオゾケライトは、主にC29~C53の炭化水素から構成される高分子化合物であり、既存添加物としてチューインガムのガムベースに使用されているが、その毒性に関する報告は少ない。そこで今回、オゾケライトの長期投与の影響を検討するため、 ラットにおける慢性毒性・発がん性併合試験を実施した。【方法】6週齢の雌雄F344ラット各190匹を7群に分け、慢性毒性試験では0、0.05、0.1および0.2%(各群雌雄10匹)の用量で1年間、発がん性試験では0、0.1および0.2%(各群雌雄50匹)の用量で2年間、混餌投与した。実験期間中の一般状態観察、体重および摂餌量測定、剖検後の病理組織学的検査、慢性毒性試験ではさらに血液学検査、血液生化学検査、肝臓のGST-P陽性巣の定量解析を行った。【結果】慢性毒性試験では、雄0.1%以上で体重増加抑制、雌雄0.05%以上で貧血所見、AST・ALTの増加、TP・Albuminの減少、雄0.2%および雌0.1%以上で白血球数の増加、雌0.2%でBUNの増加が認められた。また雌雄0.05%以上で肺重量の増加、雌雄0.1%以上で肝臓および脾臓重量の増加、雄0.2%で腎臓重量の増加が認められた。病理組織学的には、雌雄0.05%以上で肝臓の泡沫細胞集簇、雄0.2%および雌0.05%以上で肝臓およびリンパ節の異物肉芽腫が認められた。肝臓のGST-P陽性細胞巣は、雌雄0.05%以上で数あるいは面積が増加した。発がん性試験では、雌雄0.1%以上で体重増加抑制、雌雄0.1%以上で肺、脾臓、肝臓および腎臓重量の増加が認められた。また、雄の0.1%以上で肝細胞腺腫の発生率および肝臓における総腫瘍発生率の増加が認められた。【考察】リンパ節ならびに肝臓で認められた泡沫細胞集簇および異物肉芽腫は、難吸収性高分子化合物の大量投与により惹起される病変と考えられた。また、GST-P陽性細胞の定量解析ならびに発がん性試験結果からオゾケライトは雄ラットの肝臓に弱い発がん性を有すると考えられた。
著者
KAKEGAWA Tomiyasu Tomiyasu KAKEGAWA
出版者
茨城キリスト教大学
雑誌
茨城キリスト教大学紀要. 1, 人文科学 (ISSN:13426362)
巻号頁・発行日
no.53, pp.107-127, 2019

中世末期の文学的リアリズムは,すでに長期にわたって様式混合に支配されながらも,そこからの解放を志向する様式分化の傾向にも刻印されており,両者の緊張関係の中に置かれていた。このような中世末期のリアリズムを継受した,初期近世のリアリズム(ラブレー,モンテーニュ,シェイクスピア,セルヴァンテス,モリエール等々)の特質は,(1)ヴィヨン,ユスタシュ・デシャン以来の生物的リアリズムを一層の進展させ,様式混合を駆逐していったこと,また(2)従来の様式混合においては,悲劇の根拠が,個人を超えた客観的次元に求められていたのとは異なり,悲劇の主体の中へと内在化された次元に求められるようになった,という二点に要約される。*ラブレーの文学描写のなかには,中世の説教文学から多くの素材が取り入れられている。その特徴ある文学描写の本質は,中世の宗教的・倫理的制約からの解放という点に求められるべきではなく,新しい,ものの見方,感じ方,考え方といった文学的感性に求められるべきであり,これを根底にした新しい文学的現実描写にある。そしてまたこのような文学的描写は,中世以来の様式混合によって可能とされたのである。他方,ラブレー自身は,作品の文体水準は,様式混合に対応した,ソクラテスという最初のイロニーの自覚者の存在に対応するものであるとしている。*モンテーニュの自己観察とこれをもとにした環境や日常性の叙述は,その文体の動的性格からも理解できるように,様式混合の性格をもっており,それは個人の存在が近代的な意味で問題的な存在になったことの現われでもある。従来の人間や事物を新たに問題視する観察的視線は,近代のジャーナリズムの精神に連なっていくとも分析される。哲学者デカルトの批判的知性よりも,文学描写のレベルでの新しい感覚とこれに対応した文体こそ近代的だとされている。*シェイクスピアにおいては,アリストクラティーというその社会的姿勢を保持した枠内で,様式混合に基づいた,悲劇中心の文学描写の可能性が様々に追求されている。崇高なものと日常的なものとを峻別する,当時再生しつつあった様式分化の文体感覚には,距離をとっている。また様式分化の法則に対して中世以来の様式混合における,個人を超越した悲劇の根拠は個人の運命や性格などの内在化された次元に定位されるようになった。このような傾向は当時のヨーロッパ文学の一般的傾向であったとされる。*スペイン黄金期のセルヴァンテスにおいては,ボヤルドやアリオストという先行者のリアリズムが慣習的であり,目的に制約され,限界づけられていたのに比して,真の日常的現実が,当時の変転する文化社会的現実に立ち向かう姿勢のうちに,描写されることになった。セルヴァンテスは,ヨーロッパ文学史の中で,日常的現実についての広く,多層な,批判的態度からは自由な,そしてまた問題から解放された,明朗さをもった文学者として際立っている。*モリエールは,古典古代において完成していた様式分化の原理が,全面的に再度支配的になった古典主義の時代の代表的作家である。モリエールも,庶民を笑劇の対象としか認知せず,日常性とリアリズムの様式混合的結びつきには遠い。タルチュフの描写には,様式混合的要素も見られるが,それは,ボワローの文体論やこれと同類のラ・ブリュイエールの,悲劇と崇高性と高雅な文体の結合という様式分化の原理による現実描写の中に包摂されてしまう。フランス古典主義文学は,オネトムという人間像,理性中心の自然概念,肉体的均整への志向等々において,様式混合の志向した現実描写には対立する。フランス古典主義は,中世以来の様式混合の可能性を,遮断した,様式分化の再生であると性格づけられる。