著者
宮川 繁 ミヤガワ シゲル Shigeru Miyagawa
雑誌
メディア教育研究
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-8, 2004

高速通信をベースにした双方向メディアが普及するにしたがって、「パーソナル・メディア」の出現という現象が起こっている。「パーソナル・メディア」は、「マスメディア」とは対照的に、ユーザーが双方向な場に、まさに双方向参加することで形成されるものであり、メディアの生産者と消費者の間に引かれた境界線が曖昧になってゆくような視点をもたらしてくれる。本論では、私がMITで製作した「スターフェスティバル」(starfestival.com)というプログラムを通じて、「パーソナル・メディア」のいくつかの特徴を解説する。「スターフェスティバル」では、プログラム内に準備されたモデルをベースにして、ユーザーは自分自身の視点を見つけ、自分だけのストーリーを作り出してゆくことができる。また、それをするために、様々な他のメディアの流用をすることもできる。このような自分のストーリー作りや、流用といった視点は、「パーソナル・メディア」が持つ重要な特徴である。
著者
神吉 和夫
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.48-54, 1983-06-24 (Released:2010-06-15)
参考文献数
6

本研究は、わが国における近代水道以前の水道の一つである近江八幡水道の施設構造と水利用形態、創設年および管理運営などについて考察したものである。本水道は、滋賀県近江八幡市の旧市街にあり、井戸を水源として竹などの樋管で導水、各戸の井戸 (溜桝) に貯留利用する複数系統の水道 (地元では水道といわず取井戸あるいは単に井戸と呼ぶ) の総称で、各水道の利用者は仲間・組合を作り、規約を定めてその管理運営を行なってきた。本水道については「滋賀県八幡町史」(八幡町、1940年刊) にその概要が詳述されている。本稿は、「滋賀県八幡町史」を基礎に、現地で得た若干の関係文書・絵図などと本水道の利用者を対象に1982 (昭和57) 年10月実施したアンケート調査結果の一部にもとづいて考察を行なっている。施設構造は扇状地扇端部の砂礫層の浅層地下水を穴を開けた埋設樽で集水、竹などの樋管で導水し各戸の井戸に貯留利用するもので、幹線樋管は単純な樹枝状が多い。浅層地下水利用のため、渇水時には水位が低下し、梅雨期の大雨時には各戸の井戸でオーバーフローを生じる。本水道の基本構造は高野山水道に近い。創設年として「滋賀県八幡町史」では開町当初を強調しているが、ここではその論拠の一部を否定する資料を示し、創設年の再検討を行なう。管理運営では施設の改修、井戸替えおよび料金について触れる。料金で興味深いのは、水源地の村に涼料と呼ぶ源水料ともいえるものを払つていることで、地下水を私水とみる考えによると思われる。本水道は1953 (昭和28) 年近代的上水道の布設により利用が滅り、多くの組合は自然消滅している。しかし、一部の組合は現在も存続し、雑用水を主体とした水利用が行なわれている。
著者
大久保 智生 鈴木 公啓 井筒 芽衣
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.113-120, 2011

<p>本研究では,他者のピアッシングに対する許容や,青年のピアッシングの実態,また,ピアッシングを行った動機,そしてそれらの関係性について,質問紙調査により検討した.その結果,耳とへそ以外へのピアッシングについては大多数の者が許容していないことが明らかとなった.ピアッシングの経験については,女性のほうが多く,開穴数については,1から3個が多かった.そして,ピアッシングを行った動機については,「ストレスからの回避」,「手軽な自己変容」,「ファッション性の追及」の3つが抽出され,開穴数と開穴方法と関連していることが示された.最後に,青年のピアッシングに関する研究の今後の方向性について論じた.</p>

1 0 0 0 OA 避妊

著者
井上 真智子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.119-123, 2013 (Released:2013-07-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1

要 旨 避妊法の種類は日本ではやや限られるものの, 低用量ピルや子宮内避妊用具 (IUD/IUS) などの選択肢がある. 避妊効果, コスト, 侵襲や簡便さ, 副作用, 可逆性, 医学的条件等をふまえた上で, 女性 (とそのパートナー) が条件に合った適切な方法を選択することができるよう, 十分な情報提供と支援を行う.
巻号頁・発行日
1878-12-02
著者
福内 友子 岩崎 円香 山岡 法子 金子 希代子
出版者
一般社団法人 日本痛風・核酸代謝学会
雑誌
痛風と核酸代謝 (ISSN:13449796)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.165-172, 2018-12-20 (Released:2018-12-20)
被引用文献数
2

患者の食事指導に役立てるため,これまで当研究室では日常的に食される多くの食品中のプリン体含量を測定し報告してきた.食品は生で食べるものを除き,多くの場合何らかの熱処理により調理され食されている.本研究ではプリン体(ヌクレオチド,ヌクレオシド,塩基)一斉分析法を用いて,食品に含まれるプリン体,特に旨味成分であるイノシン酸(IMP)・グアニル酸(GMP)の分解について,湯煎および電子レンジによる加熱温度・加熱時間・加熱方法の違いに着目し分析を試みた.食品試料として,IMPを多く含む鶏がらスープの素と鶏もも肉,GMPを多く含む乾燥しいたけを用いた.プリン体一斉分析の結果,鶏がらスープ中には,ヒポキサンチン(HX)類であるIMP,HX,イノシン(Ino)が多く含まれ,沸騰水(約100℃)の湯煎での加熱は,それ以下の温度と比較してほぼすべてのプリン体量が有意に上昇し,60分加熱し続けてもプリン体量に変化は認められなかった.電子レンジによる加熱との違いについて検討すると,鶏がらスープの素に含まれる核酸系旨味成分であるIMP,GMPは電子レンジより湯煎での加熱の方が分解しにくいことが示された.次に,鶏もも肉からの溶出を検討した結果,湯煎より電子レンジでの加熱の方がすべてのプリン体が多く溶出した.また,鶏もも肉を水にさらしたのみでも,アデニン類(ATP, ADP, AMP, アデノシン, アデニン)やグアニン類(GTP, GDP, GMP, グアノシン,グアニン)は溶出しなかったが,HX類は溶出した.さらに鶏もも肉中のプリン体と肉片から溶出したプリン体を塩基の量で比較すると,アデニン,グアニンは肉片中の1/10程度の溶出だったが,HXは湯煎で60%,電子レンジではほぼ100%溶出した.乾燥しいたけからは,どちらの方法も時間依存的に全てのプリン体が溶出液中で上昇したが,電子レンジの方が加熱後短時間で溶出し,また,分解しにくく,溶出液中に核酸系旨味成分であるGMPが多く残る結果であった.これらの実験より,食品の違いにより同じ加熱方法でもプリン体の溶出や分解に違いがあることが示された.高尿酸血症患者は,鶏肉を食べる時は湯煎や電子レンジで茹でて,尿酸値を上げやすい肉中のプリン体であるHX類を少なくすることを推奨する.
著者
福島 昭治 今井田 克己 萩原 昭裕 香川 雅孝 荒井 昌之
出版者
JAPANESE SOCIETY OF TOXICOLOGIC PATHOLOGY
雑誌
Journal of Toxicologic Pathology (ISSN:09149198)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-32, 1988-05-31 (Released:2009-01-22)
参考文献数
23

Dose-response studies on early lesions and carcinogenesis of urinary bladder were carried out in male rats treated with N-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN). In experiment 1, BBN was given in 6 different concentrations as solutions in drinking water to examine early lesions of the urinary bladder to F344, 6-week-old rats for up to 12 weeks. Doses of more than 0.01% BBN induced histologically simple hyperplasia and papillary or nodular hyperplasia, and scanning electron microscopically pleomorphic microvilli, short, uniform microvilli, and ropy or leafy microridges. 0.005% BBN treatment also induced ropy or leafy microridges. In experiment 2, BBN was given in 3 different doses to Wistar, 8-week-old rats for up to 82 weeks. The highest dose, 0.005% induced urinary bladder carcinoma and the lowest dose, 0.0005% did not develop any changes of the urinary bladder.
著者
深田 喜代志 板垣 省三 下山 泉
出版者
一般社団法人 日本エネルギー学会
雑誌
日本エネルギー学会誌 (ISSN:09168753)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.875-881, 2004
被引用文献数
1

An innovative cokemaking process named SCOPE21 has been developed from 1993 to 2003 by member companies of the Japan Iron and Steel Federation as a national project. The concept of this project is higher utilization of non-, slightly coking coals, improvement of productivity and environmental protection.<BR>In order to enhance coke productivity, coals are preheated rapidly, fine coals are agglomerated and coke is discharged at medium temperatures. The strength of coke carbonized at medium temperatures will be lower than that of coke carbonized at a temperature over 1000&deg;C so that coke discharged at medium tempera-ture is further heated in an upper part of CDQ pre-chamber to obtain the conventional coke strength.<BR>In this study, the quality of cokes discharged at medium temperatures was analyzed and the upgrading effect of them was investigated by three different reheating methods. As a result, it was confirmed that coke discharged at medium temperature could be improved by reheating treatment and upgrading effect was affected by reheating method.
著者
布施未恵子
出版者
地域農林経済学会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.237-242, 2011-09-25 (Released:2013-04-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

With the increasing agricultural damage caused by monkeys, certain countermeasures have been adopted on the basis of existing knowledge. However, the local people’s reaction to how these reactions affect the continuation of the measures is not clear.Through interviews of 19 local people, this study provides an example of victim consciousness in Sasayama city, Hyogo, where measures are taken to control the damage caused by monkeys. In this example, the factors influencing victim consciousness include the ownership of the crops, the amountof crops eaten, and whether the damage is indirect or direct. Mere recognition that monkeys cause damage does not lead to damage-control measures; these measures are adopted when there is direct damage. However, it is possible that these measures continue to be applied because the farmers enjoy interacting with the monkeys. Therefore, providing such ideas as enjoying the interaction with monkeys is needed, and to find regional values as leading model town for monkey damage measures.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.135, pp.1-21, 2017-03

北海道庁が2015 年に公表した「科学的手法に基づくヒグマ生息数」はヒグマ生息数が爆発的に増加しているという結果となっている.この計算機実験に基づく推定結果について検討を加えたところ,断片的情報を基にしたシミュレーションであり,生息数の水準の根拠が希薄であること,生息数が安定する環境収容力が考慮されていないといった問題点があること,推定値の幅が広く信頼性の低い推定値であるということが判明した.ここで公表された生息数を基にヒグマの保護管理政策を推進した場合,北海道のヒグマは絶滅への道を辿ることが予想される.北海道のヒグマ保護管理計画は目標と手段の関係が調和していない政策であり,総捕獲数管理は個体数管理と本質的に変わらない補殺一方の政策である.北海道は政策の基本思想を根本から改める必要性がある.
著者
村濱 稔
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.487-490, 2007 (Released:2007-07-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

塩化ベンザルコニウム処理がストック切り花の水揚げに及ぼす効果を検討した.100 ppm以上の濃度で水揚げに大きな効果があった.その際の水深は1 cmあればよく,水道水おいて水揚げに必要な水深4 cmよりはるかに浅くても十分であった.また,塩化ベンザルコニウム溶液で4時間水揚げを行い,箱詰めし,室温で18時間放置し(輸送シミュレーション),その後生けた場合,切り戻しなしでも水が揚がることが明らかとなった.
著者
田辺 敦
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2016-03-15

【背景と目的】 近年、筆者らはC型肝炎ウイルスのゲノム複製に寄与する新規のRNAヘリカーゼ遺伝子として、YTH domain containing 2 (YTHDC2)を同定した。ヒトの正常組織および様々な癌細胞株を用いてYTHDC2遺伝子の発現を調べた結果、正常組織では発現が低いが、一方で多くの癌細胞株では発現が高いことが明らかになった[参考論文(B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011]。また、これまでの研究で、様々なRNAヘリカーゼが癌遺伝子の翻訳を促進することで癌細胞の悪性化に寄与していることが報告されている。そこで本研究では、癌化に伴って発現が亢進するYTHDC2の転写制御機構および癌細胞の主要な悪性形質の一つである癌転移におけるYTHDC2の役割について解析した。第1章:YTHDC2の転写制御機構解析 はじめに、YTHDC2の転写開始に重要なプロモーター領域を同定するために、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。ヒト肝癌細胞株Huh-7を用いて実験した結果、転写開始点より−261から+159塩基の領域が重要であることが示唆された。データベースによる解析により、その領域内にはcAMP Response Element(CRE)、GATA、AP-1の3種類の転写因子結合サイトが含まれていることがわかった。そこで、それぞれの結合サイトに変異を導入して、再度ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った結果、CREサイトに変異を導入したときのみプロモーターの活性が低下したため、このCREサイトがYTHDC2遺伝子の転写に重要であることが示唆された。次にこのCREサイトに結合する転写因子を同定するためにクロマチン免疫沈降法(ChIP)を行った。Huh-7細胞を用いて実験した結果、このCREサイトには転写因子c-Jun, ATF2が結合することが明らかになった。また、これらの転写因子は炎症性サイトカインTNFαで刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し、YTHDC2の転写に寄与していることが示唆された(参考論文(A), 1; Tanabe et al., Gene, 535, 24-32, 2014)。第2章:YTHDC2の転移促進効果についての解析 YTHDC2における癌化形質、特に癌細胞転移への役割を調べるために、ヒト大腸癌細胞株HCT116においてRNA干渉法によるYTHDC2遺伝子発現が持続的抑制された細胞株の作出を試みた。まずは既知のヒト遺伝子を標的としていないshRNA (non-target shRNA)とYTHDC2を標的とするshRNA (YTHDC2-shRNA)をそれぞれ形質導入した。その結果、YTHDC2のmRNA発現量が野生型のHCT116細胞とほとんど変わらないコントロールHCT116細胞株(sh-cont細胞)とYTHDC2のmRNA発現量が野生型のHCT116細胞に比べて約80%低下したYTHDC2ノックダウン細胞株(Y2-KD細胞)を樹立した。樹立した細胞株の運動能力をWound HealingアッセイとTranswellアッセイによって解析した。Wound Healingアッセイは、高密度で培養されている細胞が人工的に作った新しいスペース(Wound)に移動する量を調べることで二次元的な細胞運動能力を測定する方法である。Transwellアッセイは、細胞がTranswellのメンブレンに開いている8μmの穴を通り抜けて反対側に移動した量を調べることで三次元的な運動能力を測定する方法である。in vitroにおける2種類の運動能力測定法により、Y2-KD細胞の運動能力がsh-cont細胞に比べて大きく低下していることがわかった。また、Y2-KD細胞にYTHDC2遺伝子を再発現させることで細胞の運動能力が回復するか否かをTranswellアッセイによって解析した。その結果、YTHDC2遺伝子を再発現させたY2-KD細胞の運動能力は、sh-cont細胞と同程度まで回復した。 さらに、in vivoにおけるY2-KD細胞の転移能力を調べるために、ヌードマウスの脾臓にY2-KD細胞を移植し、肝臓に転移するか否かを調べた。その結果、sh-cont細胞の移植を移植したマウスでは全例で肝臓への転移が見られたが、Y2-KD細胞を移植したマウスでは、5例中2例だけにしか肝臓への転移が見られなかった。以上の結果から、YTHDC2は大腸癌細胞の転移に寄与していることが示唆された。 サイクロスポリンA(CsA)にはYTHDC2の分子機能を阻害する効果が認められている[参考論文(B), 3 ; Morohashi, Tanabe (9th author) et al., PLoS one, 6, e18285, 2011]。そこで、先の野生型HCT116細胞を移植した肝転移モデルマウスにCsAを投与すると、やはり転移が抑制された。以上の結果からCsAがYTHDC2の分子機能を阻害し、大腸癌細胞の転移を抑制したことが示唆された。 次に、YTHDC2の作用が実際にヒト大腸癌の進行度に関連しているのか否かを外科病理学的に調べた。ヒト大腸癌患者由来の72例の病理組織標本(札幌医科大学医学部・消化器外科講座との共同研究)を当研究室で作製した抗YTHDC2モノクローナル抗体を用い、免疫組織化学染色を行った。その結果、YTHDC2の発現レベルと癌の進行度(Stage)およびリンパ節転移の間に有意な正の相関が認められ、臨床的にもYTHDC2が転移を伴う大腸癌の進行に重要な役割を持つことが示唆された。(参考論文(A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press)第3章:YTHDC2によるHIF-1αの翻訳促進機構の解析 固形癌における癌細胞転移では、固形癌内部の低酸素環境が引き金となって、上皮間葉系転換が誘導されて癌細胞が転移能力を獲得することが知られている。そこで筆者は、低酸素環境下において重要な役割を果たしている低酸素誘導因子1α (Hypoxia Inducible Factor-1α:HIF-1α)とYTHDC2との相互作用について解析した。HIF-1αは正常酸素環境では、ユビキチン-プロテアソーム経路を介してタンパク質分解されるため、タンパク質の発現量が減少しているが、低酸素環境では、ユビキチン化が阻害されるのでタンパク質の発現量が増加する。そこでまず始めにsh-cont細胞とY2-KD細胞を酸素濃度1%の低酸素環境で培養し、HIF-1αの発現量を調べた。その結果、低酸素環境におけるHIF-1αのmRNA発現量にはsh-cont細胞とY2-KD細胞の間で有意な差がなかった。しかしながら、HIF-1αタンパク質発現量はsh-cont細胞では大きく増加しているが、Y2-KD細胞では増加していなかった。これらの結果から、低酸素環境においてYTHDC2はHIF-1αの翻訳を促進していることが示唆された。 RNAヘリカーゼは遺伝子mRNAの5末端非翻訳領域(5’UTR)の二次構造を解くことで翻訳を促進することが知られている。データベースによる解析により、HIF-1α mRNAの5’UTR は平均的なmRNAの5’UTRに比べて、複雑な二次構造を形成しやすいことが示された。そこで、YTHDC2がHIF-1α mRNAの5’UTRの二次構造を解くことで翻訳を促進しているか否かを解析するため、ルシフェラーゼレポーターアッセイを応用して次の実験を行った。まず、ホタルルシフェラーゼ発現ベクターのプロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子領域の間にHIF-1α mRNAの5’UTRを挿入した。このベクターからホタルルシフェラーゼ遺伝子のmRNAが転写されると、HIF-1α mRNAの5’UTRと同じ二次構造が形成される。したがって、YTHDC2が5’UTRの二次構造を解くことで翻訳を促進するならば、Y2-KD細胞ではこの二次構造が解けないので、sh-cont細胞と比べてホタルルシフェラーゼ活性が低下すると予想される。ルシフェラーゼレポーターアッセイの結果、Y2-KD細胞ではsh-cont細胞と比べてホタルルシフェラーゼの活性が有意に低下した。この結果からHIF-1αの翻訳にはYTHDC2が必要とされていることが示唆された。 HIF-1αは低酸素環境で、上皮間葉系転換形質に関わる遺伝子群の転写に必要であるとされ、転移に重要な働きを持つ遺伝子である。YTHDC2がそれを標的としていることは、YTHDC2の転移促進作用の結果を強く支持するものであった。これらの結果から、RNAヘリカーゼYTHDC2がHIF-1αの翻訳を促進することで大腸癌細胞の転移に寄与すること、そしてYTHDC2が癌治療の予後予測因子や治療標的遺伝子になり得ることが示唆された。(参考論文(A), 2; Tanabe et al., Cancer Letters, in press)
著者
大平 明範 村田 尚子 星 秀樹 杉山 芳樹 関山 三郎 武田 泰典
出版者
日本小児口腔外科学会
雑誌
小児口腔外科 (ISSN:09175261)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.33-37, 2000-06-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
21

The patient was an 8-year-old boy, who consulted our department on May 25, 1999, because of a black spot in the maxillary gingiva. He had under-gone application of saforide® in CB_??_ in a dental clinic 5 years previously. Thereafter, he noted a black spot in the surrounding gingiva, but because of no pain, it was left untreated. Recently, the patient consulted a dental clinic due to an increase in the size of the spot. He was then referred to our department. Intraoral examination revealed a flat dark brown spot (11×6mm) in the buccal gingiva around 2_??_, showing infiltration into the surrounding tissue. There was also a localized flat black spot (1×1mm) besides the dark brown spot. Based upon these clinical findings pigmented nevus or malignant melanoma was suspected. As a result of biopsy performed on May 25 using cryosurgery, histopathologically they were diagnosed as cellular blue nevi. On June 25, the spots were removed together with the surrounding gingiva and periosteum. The course has been uneventful these 8 months after the surgery without a sign of recurrence.
著者
後藤 将史
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-25, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
38

組織論における制度理論では、「同じ制度的圧力を受けても、個別の組織でなぜ反応が異なるか」を主要論点の一つとするが、先行研究では組織外との関係性や組織の外形要因に関心が集中し、組織内のプロセス要因の検討が不足している。本稿の目的は、制度がもたらす同型化圧力に対する組織の反応の決定要因について、意思決定プロセスの観点で探索することである。特に、「そもそも組織内部の意思決定プロセスも同型化に何らかの影響を及ぼすのか」、そして「もしそうであれば何がどのように影響因子となるのか」を検討する。この目的から、近年普及が進むグローバル人事制度の導入検討を題材に、B2B 事業で海外展開する中堅規模日系上場企業 7 社の、2000 年以後の本社における過程につき、インタビューを中心とした比較事例分析を行った。事例分析の結果、検討着手の早さ遅さは、「外的正当性に対する感度」の高さ低さとも呼ぶべき、意思決定プロセスに内在する要因に大きく影響されたことが明らかとなった。着手が早い組織は、意思決定において、外部規範こそ目指すべき道を示すものとして高く評価し探し求め、合理的必要性と関係なく自ら進んで同型化を目指した。着手が遅い組織は、正当性を最初から最後まで自組織内の合理的判断に求め、合理的必要性を認めるまで同型化を拒んだ。本研究の貢献は、第一に制度の影響下での組織行動の説明要素として、外的正当性に対する感度をはじめとする組織内プロセス要因の影響を確認したこと、第二にそれに伴って Tolbert & Zucker (1983) が提示した制度採用のモチベーションに関するいわゆる 2-stage model の反例を提示したことである。さらに、本研究の観察は、変革への着手のされ方 (「外的正当性に対する感度」の結果) によるその後の組織変革への影響等の、研究課題の広がりの可能性を示す。